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高齢者5年間の指導付き高強度トレーニングで死亡率減少せず [医学・医療への疑問]

高齢者に対する、指導者付の高強度トレーニングが死亡率を減少させると思い込んでの研究のようだが、期待は外れた。

ピーク時心拍数の約90%(HIIT、n =400)と、ピーク心拍数の約70%で中程度の強度連続トレーニング(MICT、n=387)を介入群、身体活動に関する国家ガイドライン(n=780;制御群)に従う高強度インターバルトレーニングの週2回のセッションを対照群として、5年間実施された無作為化無作為化比較試験の結果、有意差は認められなかった。

1567人の参加者(女性790人)の平均年齢は72.8歳(SD 2.1)。参加者の87.5%が健康であったと報告され、80%がベースラインで高い身体活動レベルが報告されている。

どうやら、元気な老人に、指導者が付いて強いトレーニングをやらせたらもっと元気になるだろうと考えたようだ。

若干の効果として、MICTとHIITを別々に分析し、対照群を基準に(観測死亡率4.7%)を用いた場合、HIIT後の絶対リスク低下率は1.7ポイント(ハザード比0.63、95%信頼区間0.33~1.20)、MICT後の絶対リスクは1.2ポイント(1.24、0.73~2.10)。HIITを基準群としてMICTと比較した場合、全ての原因死亡に対して絶対リスクは2.9ポイント(0.51,0.25~1.02)減少したとしている。

しかし、この研究の大きな問題点は、対照群の参加者も研究全体を通じて高レベルの活動を行い、多くはHIITと同等の運動を行ったこと、逆に、HIITグループの50%だけがHIITプロトコルを満たす厳格な基準に従ったこと、さらに、参加者が一般的高齢者に比べて健康で活動的であったことにより、選択バイアスが働いていること。

当初から、元気な老人を対象としていることや、3群間に分類したはずがないようが入り乱れている。結果に意味を感じられない。そもそも、研究として成り立つのだろうか。

出典文献
Effect of exercise training for five years on all cause mortality in older adults—the Generation 100 study: randomised controlled trial
Dorthe Stensvold, Hallgeir Viken, Sigurd L Steinshamn, et al,
BMJ 2020; 371 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3485 (Published 07 October 2020)
Cite this as: BMJ 2020;371:m3485

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HPVワクチンは男子全員に接種すべき [医学・医療への疑問]

集団ベースのコホート研究で、4価HPVワクチン接種が高悪性度の子宮頸癌リスクを大幅に減少させたと報告されている。スウェーデンの人口統計と健康登録を使用した、2006年から2017年の10歳から30歳までの1,672,983人の女性を対象とした研究。

感染経路が明白なのに、いつまで、この様な無益な研究を続けるのか。

女性同性愛者をのぞくすべての女性は、男性から子宮頸癌の原因となるHPV(ヒトパピロマーウイルス)をうつされる。本来、うつされる側の女子ではなく、うつす側の男子にこそ全員接種するのが道理というもの。男なら、女性を守るためにすべきこと。

現在、女子と男子の両方に子宮頸癌ワクチンを定期接種している国は20か国以上。

男性に接種することで、社会に循環するHPVの量を減らすことができる(集団効果)。

さらに男にとってもメリットがある。男子にも接種するもうひとつのメリットは、中咽頭癌、口腔癌、肛門癌、陰茎癌など、男性がなりやすいこれらの癌もHPVの感染がリスクとなっているから。

男子へのワクチン接種は、女性に無用な負担をかけず、自らにとっても一石二鳥となる。

出典文献
Jiayao Lei, Alexander Ploner, K. Miriam Elfström, et al,
HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer
N Engl J Med 2020; 383:1340-1348
DOI: 10.1056/NEJMoa1917338

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小児虫垂炎の治療に手術はほぼ無用 [医学・医療への疑問]

小児虫垂炎における治療で、非手術(抗生物質)と手術について、成功率、治療関連障害、満足度、健康関連の生活の質、および合併症の違いを比較した研究の結果、双方に有意差は認められなかった。但し、小児虫垂炎の治療において、抗生物質だけによる非術的な管理は手術よりも障害日数が少なく、合併症が無い可能性がある(統計的に有意)。

2015年5月から2018年10月までに、米国7州10カ所の第三次小児病院で治療を受けた7歳から17歳までの1068人の小児を対象とした多制度非無作為化制御介入研究。フォローアップは、2019年10月までの1年間、1209人の患者のうち、1068人が研究に登録した。

抗生物質単独(n =370)または緊急(12時間の入院)腹腔鏡下虫垂切除術(n=698)。家族の選択によって決定。

子供が虫垂炎関連ケアによって、通常の活動に参加できなかった日数の合計日数 (予想差、5 日間) と、非手術管理は、最初の1年で虫垂切除を受けていない患者の割合を成功率として定義。結果評価のための、治療群間の差を調整するために、治療重みの逆確率(IPTW)を使用。

1年間の非手術管理の成功率は67.1%(96%CI、61.5%-72.31%)(P = 0..86)。非手術管理は、手術よりも1年で患者障害日数が有意に少ない(調整後平均、6.6対10.9日、平均差、-4.3日(99%CI、-6.17〜-2.43;P .001)。他の16個の事前指定された二次終点のうち、10は有意差を示さなかった。

完全にフォローアップされたのは、全体で75%、非手術群で77%、手術群では75%。

しかし、気になるのは、この要約には手術群の成功率が記されていない(?)。
さらに驚いたのは、今頃、こんな基本的なことを調査するのだろうか。これまでに臨床試験が行われないまま、手術が漫然と行われていたのだろうか。さすが、外科の歴史そのものだ。

そもそも、虫垂に存在するリンパ組織は、粘膜免疫で重要な役割を果たすIgAの産生に重要な場であり、腸内細菌叢の制御に関与している。IgAは、腸内細菌叢の維持に重要な抗体であり、虫垂は腸内細菌叢のバランス異常によって発症する炎症性腸疾患の制御に関わる重要な組織であると考えられている。「虫垂は必要無いから取ってしまった方が良い」などは、昔の考えにすぎない。

出典文献
Peter C. Minneci, Erinn M. Hade, Amy E. Lawrence, et al.
Association of Nonoperative Management Using Antibiotic Therapy vs Laparoscopic Appendectomy With Treatment Success and Disability Days in Children With Uncomplicated Appendicitis.
JAMA. 2020;324(6):581-593. doi:10.1001/jama.2020.10888

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術前オピオイド療法は術後の様々なリスク因子となる [医学・医療への疑問]

術前慢性オピオイド療法(COT)は、急性術後疼痛を制御するために一般的に行われている方法だが、術後の様々なリスク増大への影響が懸念されている。本報告による、頚椎固定術患者の後ろ向き観察研究の結果、COTは、創傷合併症を含む有害事象、再手術、および術後の麻薬使用を増大させた。

対象は、2007年から2015年にかけて、原発性頸椎固定術を受けた患者20,730名のうちの基準を満たした10,539名。COTは、手術前3ヶ月以内のオピオイド処方の既往と定義。

COTによる90日間のED受診リスクのオッズ比は1.25 [odds ratio (OR): 1.25; P < 0.001]、創傷合併症のOR1.24 ( P = 0.036)。

COTの1年間の再手術リスクのOR1.17 (P = 0.043)、 ED受診のOR1.31 (1.31; P < 0.001)、創傷合併症などの有害事象はOR1.32 (P < 0.001)、感染症OR1.34 (P = 0.042)、便秘OR1.11 (P = 0.032)、神経学的合併症OR1.44(P = 0.01)、急性腎不全OR1.24(P = 0.004)、および静脈血栓塞栓症OR1.20 (P = 0.008)

2年間では、COTは、隣接するセグメントの椎体疾患を含む再手術など(OR:1.21; P = 0.005)、ED受診(OR: 1.32; P < 0.001)、および他の有害事象などの長期的リスク因子となっていた。

また、術前COTは頸部固定術後3ヶ月で、長時間の術後麻薬使用は30%増加に関連し(OR: 1.30;P < 0.001)、さらに、1 年で5倍(OR: 5.17;P < 0.001)、2 年では6倍弱 (OR: 5.75;P < 0.001)に関連していた。

本研究が後ろ向き観察研究であり、因果関係を問えないことを考慮しても、術前COTは、長期の術後オピオイド使用に強く関連する危険因子であり、頸椎融合後の短期的および長期的な有害事象にも関連していると考えられることから、この処置は有害でしかないと思われる。

出典文献
Preoperative Chronic Opioid Therapy Negatively Impacts Long-term Outcomes Following Cervical Fusion Surgery
Kalakoti, Piyush Volkmar, Alexander J. Bedard, Nicholas A. Eisenberg, et al.,
Spine: September 2019 - Volume 44 - Issue 18 - p 1279-1286
doi: 10.1097/BRS.0000000000003064

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肩インピンジメント症候群への関節鏡除圧の効果は検査のみと同等 [医学・医療への疑問]

肩インピンジメント症候群の患者210名を対象に、関節鏡除圧術(ASD)と診断的関節鏡検査のみ、および運動療法の3グループの効果を比較した、無作為化二重盲検プラシーボ対照試験の結果、関節鏡とASDに差はなく、運動療法とは有意差はあったもののその違いは僅か。

介入群は、診断的関節鏡検査の後、滑液包の摘除術(bursectomy)、骨棘の切除、および突出した肩甲骨の前側下面のASD処置。

関節鏡検査によって、ASD以外の介入を必要とする病理が示された場合には、患者を試験から除外した。適格となった参加者は、ASDまたは診断的関節鏡検査のいずれかにランダムに割り当てられた。診断用関節鏡検査グループに割り当てられた患者は、検査後に手術を中止した。割り当てを確実に隠すために、診断用関節鏡検査の参加者は減圧治療を行うのに必要な時間手術室に待機させた。

メインアウトカムは、24ヶ月後における、安静時の肩の痛み、および運動痛のVAS(0〜100のスケール、0は痛みを示さない)。臨床的に重要な差異の最小値は15とした。

各群におけるVASの平均差について、ASDから診断的関節鏡検査を差し引くと、安静時痛は-4.6点 (95% confidence interval −11.3 to 2.1)(P = 0.18)、運動痛は-9.0点(-18.1~0.2)(P=0.054)で、何れも有意差無し。

二次的転帰または有害事象も、ASD群と診断的関節鏡検査群との間に差は認められなかった。

ASD対運動療法では、安静時のVASの差は-7.5点(-14.0〜-1.0、; P = 0.023)。運動痛では-12.0(-20.9〜-3.2、ポイント; P = 0.008)で有意差はあったが、あらかじめ定められた最小値を超えていなかった。

鎮痛効果そのものは両群ともに高く、安静時痛のVASは、ASDでベースライン41.3から24ヶ月後5.3、運動痛は71.2から15.8。関節鏡のみでは、安静時痛41.6から9.9、運動痛72.3から24.8。

ASDと運動療法の比較では、それぞれ、安静時5.3vs 12.8、運動痛16.0vs28.1。しかし、このASD対運動療法の比較では盲検化が欠如しており、ASDに有利にバイアスされた可能性がある。

ASD群と診断的関節鏡検査群との間に治療効果の差が認められなかったことには重大な意味がある。「肩インピンジメント症候群」という、肩峰下と腱板との衝突を原因とする疾患概念に大きな疑問が生じたことになる。何故、関節鏡のみで軽快したのか、痛みのメカニズムと病態の本質を、改めて検証すべきと言いたい。
私見を言えば、「肩インピンジメント症候群」という疾患概念そのものが疑わしい。

Subacromial Impingement Syndrome(SIS)は、肩のプライマリヘルスケアにおける最も一般的な障害(診断上)であるが、その病因論は不明。肩関節形成術は整形外科手術のトップ10にもかかわらず、適応症の合意はなく、報告された結果も様々である(48〜90%で成功)(1.-5.)。

さらに、肩峰下面を3次元的に遡及的および定量的に分析し、インピンジメント症候群および回旋腱板裂傷(rotator cuff tears.)との関連性を調べた研究では、肩峰による骨のインピンジメントは、肩インピンジメント症候群または回旋腱板裂傷の主原因ではないと結論づけられている(6.)。

出典文献
Subacromial decompression versus diagnostic arthroscopy for shoulder impingement: randomised, placebo surgery controlled clinical trial
BMJ 2018; 362 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k2860 (Published 19 July 2018)
Cite this as: BMJ 2018;362:k2860

1.
Altchek DW, Warren RF, Wickiewicz TL, Skyhar MJ, Ortiz G, Schwartz E. Arthroscopic acromioplasty. Technique and results. J Bone Joint Surg Am. 1990;72:1198–1207. [PubMed]

2.
Beaufils P. the Cuff. Paris: Elzevier; 1997. Introduction to nonruptured and noncalcifying rotator cuff tendinopathies; pp. 187–191.

3.
Ellman H, Kay SP. Arthroscopic subacromial decompression for chronic impingement. Two- to five-year results. J Bone Joint Surg Br. 1991;73:395–398. [PubMed]

4.
Sachs RA, Stone ML, Devine S. Open vs. arthroscopic acromioplasty: a prospective, randomized study. Arthroscopy. 1994;10:248–254. doi: 10.1016/S0749-8063(05)80106-9. [PubMed] [Cross Ref]

5.
Van Holsbeeck E, DeRycke J, Declercq G, Martens M, Verstreken J, Fabry G. Subacromial impingement: open versus arthroscopic decompression. Arthroscopy. 1992;8:173–178. doi: 10.1016/0749-8063(92)90032-7. [PubMed]

6.
Shoulder impingement: objective 3D shape analysis of acromial morphologic features.
Chang EY, Moses DA, Babb JS, Schweitzer ME.
Radiology. 2006 May;239(2):497-505. Epub 2006 Mar 16.

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糖尿病患者における血圧目標値の問題 [医学・医療への疑問]

糖尿病患者の血圧は、ガイドラインでは130/80mmHg未満が推奨されている。しかし、過去10年間にわたって議論が続いており、システマティックレビューではこれらの勧告の証拠を疑問視している(1.2.)。

73,738名の参加者を含む49件の、無作為化対照試験の系統的レビューとメタアナリシス研究によれば、降圧剤治療の効果はベースラインの血圧値によって違いが出ている(BMJ 2016)。

ベースラインの収縮期血圧が150mmHg より高い場合、降圧剤治療によって、すべての原因死亡率の相対リスクは0.89(relative risk 0.89, 95% confidence interval 0.80 to 0.99)で11%低下。同様に、心血管死亡率0.75 (0.57 to 0.99)、心筋梗塞0.74 (0.63 to 0.87)、脳卒中0.77(0.65 to 0.91)、末期腎疾患 0.82(0.71 to 0.94)と、それぞれ低下した。

140-150 mm Hg の場合も同様に、すべての原因死亡率0.87(0.78 to 0.98)、心筋梗塞 0.84(0.76 to 0.93)、心不全 0.80(0.66 to 0.97)で、リスクを減少させた。

しかし。
ベースラインの収縮期血圧が140mmHg 未満の患者への降圧剤治療は、すべての原因死亡率(1.05, 0.95 to 1.16)のリスク増加と、心血管の死亡率 (1.15, 1.00 to 1.32)のリスクを増加させた。

メタ回帰分析でも、ベースラインにおける各10 mmHgの低下によって、心血管死1.15(1.03 to 1.29)、心筋梗塞1.12(1.03 to 1.22)と、同様の傾向。

何れも、若干の上昇ではあるが、140mmHg未満ではリスクは高くなっており、これでは治療は有害と言える。したがって、130/80mmHg未満を目標値とすることには問題がある。

血圧の正常値は下げられ続けており、現在の基準値には疑問を感じている。また、一度、高血圧と診断されたなら、一生降圧剤を飲めまなければならないとする考にも疑問を感じている。

降圧薬には、交感神経のβ1を選択的に遮断する薬(メインテート)、アンジオテンシン遮断薬(ロサルタン)、カルシウム拮抗剤(カルブロック)などがあるが、何れも副作用はある。また、長期的に服用することによる、交換神経の反応、心臓そのものへの影響、および他の臓器・組織への影響も懸念される。そもそも何故血圧が上昇する事態になったのかの原因よりも、降圧の機序のみが注視されている。

出典文献
Effect of antihypertensive treatment at different blood pressure levels in patients with diabetes mellitus: systematic review and meta-analyses
Mattias Brunström, Bo Carlberg,
BMJ 2016; 352 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.i717 (Published 25 February 2016)

1.
Reboldi G, Gentile G, Angeli F, Ambrosio G, Mancia G, Verdecchia P. Effects of intensive blood pressure reduction on myocardial infarction and stroke in diabetes: a meta-analysis in 73,913 patients. J Hypertens 2011;29:1253-69. doi:10.1097/HJH.0b013e3283469976. 21505352.

2.
Bangalore S, Kumar S, Lobach I, Messerli FH. Blood pressure targets in subjects with type 2 diabetes mellitus/impaired fasting glucose: observations from traditional and bayesian random-effects meta-analyses of randomized trials. Circulation 2011;123:2799-810, 9, 810. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.110.016337. 21632497.

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糖尿病患者は心血管疾患による死亡が大幅に少ない [医学・医療への疑問]

糖尿病患者の心血管疾患による死亡率は健康者と比べて大幅に低く、特に、1型糖尿病では顕著に減少することが報告されている。
(The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE;世界4大医学雑誌の1つ)

この報告は、1998から2012年までと2014年までフォローされた、スウェーデン国立糖尿病登録患者を対象にした研究結果によるもの。

心血管イベントの傾向は、cox 回帰と標準化された発生率で推計。コントロールは、一般から無作為に選出し、患者ごとに、年齢、性別、住居地域によってマッチング。

結果

1型の糖尿病患者とコントロールとの比較(sentinel outcomes per 10,000 person-years)

・全原因死亡率: −31.4 /1万人/年(95% confidence interval [CI], −56.1 to −6.7)
・心血管疾患による死亡:−26.0 (95% CI, −42.6 to −9.4)
・冠状動脈性心臓疾患による死亡: −21.7 (95% CI, −37.1 to −6.4)
・心血管疾患のための入院:−45.7 (95% CI, −71.4 to −20.1)

2型糖尿病患者の絶対変化

・全原因死亡率:−69.6 (95% CI, −95.9 to −43.2)
・心血管疾患死亡率: −110.0 (95% CI, −128.9 to −91.1)
・冠状動脈性心臓疾患による死亡:−91.9 (95% CI, −108.9 to −75.0)
・心血管疾患による入院:−203.6 (95% CI, −230.9 to −176.3)

糖尿病患者はコントロールよりも致死的心臓血管の転帰が少なく、特に、2型では約 40%と大きく減少している。逆に、疾患としては重症である1型糖尿病患者の減少は約26%で、減少率は2型よりも少なかった。

日本の医学界は、この結果をどのように受け止めるだろうか。

出典文献
Mortality and Cardiovascular Disease in Type 1 and Type 2 Diabetes
Aidin Rawshani, Araz Rawshani, Stefan Franzén, Björn Eliasson, Ann-Marie Svensson, et al.,
N Engl J Med 2017; 376:1407-1418April 13, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1608664

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急性腰痛に対する整体療法の効果に関するレビューに一言 [医学・医療への疑問]

急性腰痛症に対する脊椎整体療法は、統計的に僅かに有意な効果と、逆に、痛みの増加、筋肉のこわばり、および頭痛などの有害事象が50% から 67%に認められたと報告されている。

この研究は、コクランデータベースより抽出した、26の無作為化臨床試験(RCT)の、系統的レビューとメタアナリシス。

メインアウトカムは、治療後6週間以内における、痛みのビジュアルアナログスケール(VAS)、およびその他の数値疼痛尺度(measured by either the 100-mm visual analog scale, 11-point numeric rating scale, or other numeric pain scale)。機能評価は、24 点ローランドモリス障害者アンケート、またはオスウェストリー障害指数(range, 0-100)、およびその他の有害事象を評価。対象となった26件より15件のRCTを特定 (患者1711名)。

VASは−9.95 (95% CI, −15.6 to −4.3)で、統計的に有意な改善を示した。機能についても、“pooled mean effect size”は −0.39 (95% CI, −0.71 to −0.07)で有意。一方、有害事象については前述したとおり。

要約のみを読んでおりFull Textではないので、残念ながら、有害事例についての考察は不明。尚、結論では、研究結果の不均一性が大きかったと述べられている。この点にこそ、元の研究の問題点が有る。

痛みが軽快した者と悪化した者の違いは如何なる理由によるものかは考察されていない。、「急性腰痛」という病名のみで十把一絡げにまとめ、患者を単純に分類してしまう。結果を推測統計学的手法で解析しさえすれば質の高い研究ができたと思い込んでいる。

相変わらず、RCTとメタアナリシスを行えば質が高い研究だと言いたいのであろうが、元の研究もこのレビューも臨床的には無意味。

結果の違いの原因は、痛みの原因となっている病態の違いによるところが大きいはず。個々の患者の病態を考えずに単純に無作為化することで、治療効果や適応性を的確に判断できなくなっていると言いたい。

つまり、「集団と個人のギャップ」を考えていない。

無作為化の効用として、試験結果に与える因子が平均的に分布する。また、未知の錯乱因子を人工的に確率的誤差に転化できるなどが考えられる。

しかしながらそれでは、集団に対する治療効果の「平均値」、つまり、「平均的特性」に関する推測であって、個々の患者に対する効果は調べられない。したがって、臨床的に重要な、患者個人に対する治療法の選択や効果の予測には使えない。

個々の患者に求められるのは平均値ではない。要するに、このような研究は臨床には役に立たないのである。

急性腰痛の原因を正確に診断できない事情はあるだろう。しかし、臨床的必要性から言えることは、発症の経緯や痛みの程度と性状の違いは重要な要素であり、病態の違いと治療法の判断、さらに、効果の違いに結びつく。

尚、個人的な意見として、急性腰痛に対して整体治療が有効となるのはごく一部ではないだろうか。

出典文献
Association of Spinal Manipulative Therapy With Clinical Benefit and Harm for Acute Low Back Pain.
Systematic Review and Meta-analysis
Neil M. Paige, Isomi M. Miake-Lye, Marika Suttorp Booth, et al ,
JAMA. 2017;317(14):1451-1460. doi:10.1001/jama.2017.3086

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限局性前立腺癌治療は自己監視が最も優れていた [医学・医療への疑問]

限局性前立腺癌と診断された1141名の男性を対象とした、地域住民ベースの前向きコホート研究(ノースカロライナ州)で、前立腺全摘、放射線外部照射、小線源治療、および自己監視後のQOL (Quality of life;生活の質)の違いを比較。

傾向加重平均スコア(Propensity-weighted mean domain scores)によって、自己監視グループと他のグループをベースラインと治療後 3、12、24ヶ月時点で比較。

QOLは、性的機能不全、尿路閉塞・刺激、尿失禁、腸の問題の4つのドメインに分け、前立腺癌の症状指数によって評価{0 (機能不全なし) から 100 (最大不全)}。

自己監視314名 (27.5%)、前立腺全摘除469名(41.1%), 外部ビーム放射線療法249名(21.8%)、小線源治療109名(9.6%)、年齢の中央値66~67歳。

ベースラインの性的機能不全のスコアは 41.8 to 46.4、尿路閉塞・刺激 20.8 to 22.8 、尿失禁9.7 to 10.5、腸の問題5.7 to 6.1。

3ヶ月後の自己監視と他のグループとのスコア比較

性的機能不全の悪化
前立腺全摘除(36.2 [95% CI, 30.4-42.0])
外部ビーム放射線療法(13.9 [95% CI, 6.7-21.2])
小線源治療(17.1 [95% CI, 7.8-26.6])

尿失禁の悪化
前立腺全摘除 (33.6 [95% CI, 27.8-39.2])

尿路閉塞・刺激の急性悪化
外部ビーム放射線療法(11.7 [95% CI, 8.7-14.8])
小線源治療(20.5 [95% CI, 15.1-25.9])

腸の問題の悪化
外部ビーム放射線療法(4.9 [95% CI, 2.4-7.4])

結論として、前立腺全摘除は自己監視と比較して、性的機能不全と尿失禁の悪化に関連していた。

外部ビーム放射線療法と小線源治療は、短期的には尿路閉塞や刺激の悪化に関連し、外部ビーム放射線療法は腸の問題の悪化に関連していた。

但し、24ヶ月の時点では各ドメインと自己監視で大きな差は認められない。

限局性前立腺癌の治療法は、自己監視が、手術や放射線を含めたその他の積極的な治療法よりも短期間のQOLが高く、さらに2年後でも差が無いことからより優れていると言える(結論では、そのようには述べられていないが)。

出典文献
Association Between Choice of Radical Prostatectomy, External Beam Radiotherapy, Brachytherapy, or Active Surveillance and Patient-Reported Quality of Life Among Men With Localized Prostate Cancer
Ronald C. Chen, Ramsankar Basak, Anne-Marie Meyer, Tzy-Mey Kuo, William R. Carpenter, et.al.,
JAMA. 2017;317(11):1141-1150. doi:10.1001/jama.2017.1652

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クランベリーは高齢女性の抗菌剤使用率・多剤耐性グラム陰性桿菌・入院を減少させる [医学・医療への疑問]

特別養護老人ホームに居住する女性を対象にした、二重盲検無作為化プラシーボ対照試験の結果、膿尿・細菌尿への効果に有意差無しとする結論が報告されている。しかし、抗菌剤投与日数・使用率、入院日数、および多剤耐性グラム陰性桿菌のエピソードは大きく減少しており、その効果は十分に意義があるものと考えられる。

しかし、この結果については結論では述べられておらず(要約中では)、極めて恣意的な結論に感じられる。

参加者は、英語を話す65 歳以上の女性185名。

介入群(治療群)の92名には、有効成分のプロアントシアニジン 36 mg を含む経口クランベリー 剤2カプセル(ie, 72 mg total, equivalent to 20 ounces of cranberry juice)を投与。対照群は93 名。

主要評価項目は、細菌尿の存在(ie, at least 105 colony-forming units [CFUs] per milliliter of 1 or 2 microorganisms in urine culture)と、膿尿(ie, any number of white blood cells on urinalysis)。2 ヵ月ごとに評価して、1 年間監視。

二次的評価は、症候性尿路感染症 (UTI)、全死亡、全入院、すべて多剤耐性生物、尿路感染症の疑いによる抗菌剤投与入院と、全ての抗菌剤投与を目的とする入院。

膿尿、細菌尿の存在は、未調整の結果では、治療群 25.5% (95% CI 18.6%- 33.9%) 、対照群 29.5% (95 %ci、22.2% -37.9%) 。調整後では、29.1% 対 29.0%(OR, 1.01; 95% CI, 0.61-1.66; P =0 .98)で、差は無し。

症候性 Utiのエピソードは、治療群10、対照群12。

死亡は17対16名(20.4 vs 19.1 deaths/100 person-years; rate ratio [RR], 1.07; 95% CI, 0.54-2.12)。
と、ここまでは差は無し。

しかし。

入院は33 対50 (39.7 vs 59.6 hospitalizations/100 person-years; RR, 0.67; 95% CI, 0.32-1.40)で、入院/100 人年では治療群が33%減少。

多剤耐性グラム陰性桿菌は9 対 24episodes/100 person-years(RR, 0.38; 95% CI, 0.10-1.46)と、62%減少。

細菌尿・膿尿は特別養護老人ホームに入所中の高齢女性に多く発生する。予防法の1つとしてクランベリー カプセルが投与される(この研究では、代替医療としての位置付け)。

この研究は、経口クランベリー カプセルによる細菌尿・膿尿、UTIおよび死亡数への効果を調査したものであり、この結果に有意差が無かったことは事実。しかし、多剤耐性グラム陰性桿菌感染が62%減少したことは画期的であり、さらに、抗菌剤の投与や入院日数が減少していることは大きな成果と言えるはず。

このような興味深い結果も出ていることを無視せず、クランベリーの有用性を真摯に認めてさらなる研究が必要なことを述べるべき(要約を読んでいるので、全文に記述が有るかは不明)。

いつもながら、医学論文の結論は恣意的なもの(この文献は、世界4大医学雑誌の1つに報告されたもの)。

追伸
注意すべき点は、クランベリーは、薬物が吸収される際に代謝する酵素の1つである、CYP2C9の活性を阻害するため、CYP2C9によって代謝される薬の血中濃度を高めてしまい、薬効を増強する可能性がある(代謝される量を計算して、成分量は調整されている)。主な薬品は、イブプロフェン、ワルファリン、ロサルタン、アミトリプチリンなど。

出典文献
Manisha Juthani-Mehta, Peter H., Luann Bianco, et al.
Effect of Cranberry Capsules on Bacteriuria Plus Pyuria Among Older Women in Nursing Homes
: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2016;316(18):1879-1887. doi:10.1001/jama.2016.16141.

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変性半月板裂傷への関節鏡視下部分半月板切除に優位性無し [医学・医療への疑問]

運動療法が、中年の変性半月板断裂への関節鏡視下部分半月板切除よりも優れているかを調査した結果、膝の外傷および変形性関節症アウトカムスコア(knee injury and osteoarthritis outcome score ; KOOS)の評価に差はありませんでした。

ノルウェーの2公立病院整形外科と2理学療法クリニックにおいて研究。対象者は140名(平均年齢49.5歳;range 35.7-59.9)、研究デザインは、“Randomised controlled superiority trial.”。

96%の患者は、X線撮影による変形性関節症の明らかな証拠はありませんでした。

2年間のフォローアップで、平均改善は運動群でKOOSは25.3ポイント(21.6 to 29.0)、半月板切除群は24.4ポイント (20.7 to 28.0)で2群間に差は認められませんでした。

しかしながら、グラフで見ますと。12ヶ月の時点では鏡視下部分半月板切除のスコアが僅かに優位ですが、その後はプラトーとなります。一方、運動療法は3ヶ月から24ヶ月にかけて、1ヶ月当たり平均2ポイント上昇しています。さらに長期的に観察を続けたならばどうなるでしょうか。

なお、この研究は“intention to treat analysis”で評価しており、運動療法群の患者の19%が、2年間のフォローアップ中に手術治療に移行しました。

欧米では、300/100,000人が関節鏡視下部分半月板切除を受けており、デンマークでは2000から2011の間に倍増しています。

しかし、これまでにも長期的なフォローアップ研究で、運動療法が手術に関係なく、変性半月板裂傷患者の機能および生活レベルを向上させることが示されています(*)。「切り取れば解決する」と考えることを改めるべきではないでしょうか。

これは、今月末に出版予定の、「附着部障害の鍼治療」においても指摘していますが、変性した腱を切離することの意義を問い直すべきではないでしょうか。

出典文献
Nina Jullum Kise, May Arna Risberg, Silje Stensrud, Jonas Ranstam, et al.,
Exercise therapy versus arthroscopic partial meniscectomy for degenerative meniscal tear in middle aged patients: randomised controlled trial with two year follow-up,
BMJ 2016; 354 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.i3740 (Published 20 July 2016)
Cite this as: BMJ 2016;354:i3740



Herrlin S, Hallander M, Wange P, Weidenhielm L, Werner S. Arthroscopic or conservative treatment of degenerative medial meniscal tears: a prospective randomised trial. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc2007;15:393-401. doi:10.1007/s00167-006-0243-2 pmid:17216272.CrossRefMedlineWeb of Science

Herrlin SV, Wange PO, Lapidus G, Hallander M, Werner S, Weidenhielm L. Is arthroscopic surgery beneficial in treating non-traumatic, degenerative medial meniscal tears? A five year follow-up. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc2013;21:358-64. doi:10.1007/s00167-012-1960-3 pmid:22437659.CrossRefMedline

Katz JN, Brophy RH, Chaisson CE, et al. Surgery versus physical therapy for a meniscal tear and osteoarthritis. N Engl J Med2013;368:1675-84. doi:10.1056/NEJMoa1301408 pmid:23506518.CrossRefMedlineWeb of Science

Yim JH, Seon JK, Song EK, et al. A comparative study of meniscectomy and nonoperative treatment for degenerative horizontal tears of the medial meniscus. Am J Sports Med2013;41:1565-70. doi:10.1177/0363546513488518 pmid:23703915.Abstract/FREE Full Text

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重度肺気腫に対する気管支内コイル治療への疑問 [医学・医療への疑問]

気管支内コイルによって気腫性肺組織を圧縮することで、通常ケアと比べて12ヶ月では6分間歩行距離の変化は+10.3 m vs -7.6 mと、その差は14.6m (Hodges-Lehmann 97.5% CI, 0.4 m to ∞; 1-sided P=0.02)であり、コイル治療は有効であると報告されています。

コイル治療群では、6分間の歩行距離が10.3 m伸びました(その意義とは?)。

FEV1の変化では、群間差は中央値で7.0%(97.5% CI, 3.4% to ∞; 1-sided P<0.001)でした。

セントジョージ呼吸アンケートのスコア(St George’s Respiratory Questionnaire score)のグループ間の差ではコイル群が-8.9 points改善 (97.5% CI, -∞ to -6.3 points; 1-sided P<0.001)しました。

主要な合併症が、コイル治療群34.8%、通常ケア19.1%(P = 0.002)発生しました。この主要な合併症には、入院を必要とする肺炎や、その他の重度の疾患または致命的なイベントが含まれていますが、要約には、死亡例の有無は記されていません。

これまでに、予備的な臨床試験によって、気管支内コイルが気腫性肺組織を圧縮することで、肺気腫および重度の肺の過膨張を有する患者の肺機能、運動耐容能、および症状を改善すると報告されていました。この研究は、無作為化臨床試験によってこのことを実証しようと行われました。

同様の研究報告の記事を、2016年1月14日に投稿しています。(ニチノールコイル治療が肺気腫患者の運動機能を改善したと報告:この記事は、しばらくの間下書きに設定していましたが、本日公開に戻しました。)

この記事の中で、私は「組織破壊による呼吸細気管支の拡大を、形状記憶合金性のコイルを使って縮めるという発想は単純で乱暴にしか思えません。」と述べています。この考えは、この研究に対しても同様です。

コイル治療は、著者らが述べているような有益性があるでしょうか。この研究に見られる数値の差に、はたして意味があるでしょうか。しかも短期間の結果に過ぎず、長期的には、気管支組織に対して有害となる気がします。さらに、合併症が多いことは、致命的に思えますが、、、。(「ブログ休止中の独り言」にしては、少々長いのですが。)

出典文献
Frank C. Sciurba, Gerard J. Criner, Charlie Strange, et al.,
Effect of Endobronchial Coils vs Usual Care on Exercise Tolerance in Patients With Severe Emphysema
The RENEW Randomized Clinical Trial
JAMA. 2016;315(20):2178-2189. doi:10.1001/jama.2016.6261.

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迷走神経刺激療法の疑問点 [医学・医療への疑問]

迷走神経刺激療法(VNS)の1例として、慢性心不全(CHF)の治療に使用されています。この治療では、副交感神経活動を増加させることによって自律神経の不均衡を改善すると考えられています(1.2.3.4.)。動物実験においても、急性心筋梗塞(MI)によって誘発される心室細動を防止して、心臓の症状を改善することが示されています(5.6.)。

ラットにおいて、C 線維の刺激で抗てんかん効果が報告(7.)されていますが、別の報告では、効果は無かったとも報告(8.)されており、一定しません。ヒトでは、遠心性のA線維刺激で活性化し、求心性神経線維では変化が無かったと報告(9.)されています。

一般的に、迷走神経遠心路の刺激は、サイトカイン産生細胞のα7 ニコチン様アセチルコリン受容体(α7nAChR)を介して炎症性サイトカイン産生を抑制するため、抗炎症性効果を示すと言われています。

しかし一方では、頚部迷走神経を求心性に電気刺激(10Hz, 0.5msec, 1mA)すると、1L-1βmRNAが視床下部と海馬で有意に増加し、迷走神経の細胞体が存在するnodose ganglion(迷走神経節神経節)においてToll -like Recepter4が発現するなど、炎症に関与することも報告されています。

疑問なのです。

先ず、臨床で使用される20 ~30 Hz の周波数範囲で脳波の応答が異なっているなど、解剖学的および生理学的な VNSのメカニズムが明らかにされていません。

さらに、迷走神経には頚部および胸部の交感神経線維の成分が一貫して含まれています。この交感神経線維の混在は可変的であり、総断面積の0.00から21.63%を占めていたと報告されています(10.)。

また、迷走神経は、約80%の求心性感覚線維と20%の遠心性線維が含まれ(10.)、遠心性線維にはα-運動ニューロンと副交感神経の線維が含まれます。求心性線維は、感覚繊維であるA線維、B線維、およびC線維を含み、A線維は内臓の求心性情報とモーターの入力、B 線維は副交感神経入力、C 線維は内臓の求心性情報を伝えます。形態学的には、A線維と B線維は有髄で、C 線維は無髄です。

頚部において、迷走神経を電気刺激すると一口に言っても、求心性線維と遠心性線維が混在しているため選択的に刺激できるでしょうか。さらに、交感神経線維も混在しており、どちらの神経線維を刺激しているのか、どれ位の割合で各線維を刺激できるかは不明な筈なのです。

動物実験では、頚部迷走神経切断( bilateral cervical vagotomy)を行いますが、てんかんやうつに対する治療では、通常左側の迷走神経に対して挿入されたワイヤーを通じて電気刺激します(私の知識では)。

私の知識不足によるのか、良く解りません。

引用文献
1.
Schwartz PJ, De Ferrari GM. Vagal stimulation for heart failure: background and first in-man study.
Heart Rhythm. 2009 Nov;6:S76?S81. [PubMed]

2
Schwartz PJ. Vagal stimulation for the treatment of heart failure: a translational success story.
Heart. 2012 Dec;98:1687?1689. [PubMed]

3
De Ferrari GM, Crijns HJ, Borggrefe M, et al. Chronic vagus nerve stimulation: a new and promising therapeutic approach for chronic heart failure.
Eur Heart J. 2011 Apr;32:847?855. [PubMed]

4.
Zhang Y, Mazgalev TN. Arrhythmias and vagus nerve stimulation.
Heart Fail Rev. 2011 Mar;16:147?161. [PubMed]

5
Anholt TA, Ayal S, Goldberg JA.Recruitment and blocking properties of the CardioFit stimulation lead.
Journal of neural engineering. 2011 Jun;8:034004. [PubMed]

6.
Schwartz PJ, De Ferrari GM, Sanzo A, Landolina M, et al.,A. Long term vagal stimulation in patients with advanced heart failure: first experience in man.
European journal of heart failure. 2008 Sep;10:884?891. [PubMed] 

7.
Woodbury DM, Woodbury JW. Effects of vagal stimulation on experimentally induced seizures in rats.
Epilepsia. 1990;31:S7?S19. [PubMed]

8.
Krahl SE, Senanayake SS, Handforth A. Destruction of Peripheral C-Fibers Does Not Alter Subsequent Vagus Nerve Stimulation-Induced Seizure Suppression in Rats.
Epilepsia. 2001;42:586?589. [PubMed]

9.
Binks AP, Paydarfar D, Schachter SC, Guz A, Banzett RB. High strength stimulation of the vagus nerve in awake humans: a lack of cardiorespiratory effects.
Respiration physiology. 2001 Sep;127:125?133. [PubMed]

10
Atsuko Seki, Hunter R. Green, Thomas D. Lee, et al., Sympathetic Nerve Fibers in Human Cervical and Thoracic Vagus Nerves.
Heart Rhythm. 2014 Aug; 11(8): 1411-1417.
Published online 2014 Apr 24. doi: 10.1016/j.hrthm.2014.04.032

11.
Ruffoli R, Giorgi FS, Pizzanelli C, et al., The chemical neuroanatomy of vagus nerve stimulation.
Journal of chemical neuroanatomy. 2011 Dec;42:288?296. [PubMed]

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ニチノールコイル治療が肺気腫患者の運動機能を改善したと報告 [医学・医療への疑問]

肺気腫の肺容量減少を目的とする、ニチノールコイルによる気管支鏡治療によって、患者の6分間歩行距離が改善したと報告されています。

しかし、組織破壊による呼吸細気管支の拡大を、形状記憶合金性のコイルを使って縮めるという発想は単純で乱暴にしか思えません。

100名の患者を、無作為に50名ずつコイル治療グループと通常ケアグループに割付。通常ケアグループの患者は、国際的なガイドラインに準拠し、医師の裁量で処理。その内容は、重症度と増悪率の程度に応じて、吸入ステロイド、酸素、呼吸リハビリテーション、吸入気管支拡張薬、およびインフルエンザと肺炎球菌ワクチン接種。

コイルグループの患者は、通常ケアと同じ治療を受け、無作為化後15日以内にコイル治療を受け、1~3ヶ月以内に反対側も実施。また、処置前に、アモキシシリン/クラブラン酸、2g(アモキシシリンへのアレルギーに対して、クリンダマイシン600mg、およびゲンタマイシン5mg/Kg)を受けました。コイルの本数は、対象となる小葉あたり約10本。

メインアウトカムである6分間の歩行距離の改善は、6ヶ月の時点では、コイル群18m、通常ケア-3mで、その差は21m。また、54mの改善は18名(36%)vs 9名(18%)と記されています。しかし、12ヶ月では、 -2m vs -23m で、その差は21mとコイル治療が優っているものの、何れも悪化しています。

セカンダリアウトカムは、FEV1, FVC, RV, RV/TLC, modified Medical Research Council dyspnea scale, Transition Dyspnea Index, and St George’s Respiratory Questionnaire (all P<0.05)。

結果の一部を示しますと。

FEV1差は、6ヶ月で、コイル治療は9%改善し通常ケアでは3%減少。その差は11%(95 %ci、∞; 6%P =.001)。12 ヶ月では、9%vs -3%で、その差は同じく11%(95 %ci、∞; 5.2%P =.002)でした。

「St George’s Respiratory Questionnaire」によるQOL(0-100最悪)では、コイル治療は-9.1、通常ケアでは1.5で、その差は10.6ポイント。

「Transition Dyspnea Index」による肺気腫のスコアは、12ヶ月で、-0.2 vs -1.3で、その差は1.1ポイント(95% CI, -0.5 points to ∞; P=0.08)。しかし、その差は6ヶ月時点の、0.8 vs -0.8の1.6ポイントよりも減少しています。

12ヶ月内での死亡は、コイル治療4例、 通常ケア3例。1年間の総コストは、コイル治療53,821ドル、通常ケアでは 5,912ドル。

重度の肺気腫に対する有効な治療法は無く、治療選択肢は限られています。とは言え、ニチノールコイルは有効な治療と言えるでしょうか。

因みに、ニチノールコイルは、チタン45%ニッケル55%の合金で、医療用だけではなく、筋トレなどの器具にも使用されています。

出典文献
Gaetan Deslee, Herve Mal, Herve Dutau, et al.,
Lung Volume Reduction Coil Treatment vs Usual Care in Patients With Severe Emphysema
The REVOLENS Randomized Clinical Trial
JAMA. 2016;315(2):175-184. doi:10.1001/jama.2015.17821.

高用量ビタミンD投与で転倒リスクは増加した [医学・医療への疑問]

高用量のビタミンDによって下肢機能低下リスクが減少するかを調べた、二重盲検無作為化臨床試験の結果、転倒の発生率が増加しました。

以前にも同様の研究をいくつか見ましたが、何故、このような無意味な研究が繰り返されるのか、さらに、JAMAが採用するのか、理解できません。馬鹿馬鹿しいので、紹介します。

参加者は70歳以上の男女200名。

介入は、ビタミンD3 60000 IU、ビタミンD3 24000 IUプラスcalcifediol 300 μg、および24 000 IUの低用量コントロールの、3グループに分けて実施。

プライマリエンドポイントは、下肢機能の改善と、6ヶ月および12ヶ月で、少なくとも30 ng/ mLの25-ヒドロキシビタミンDレベルの達成。セカンダリエンドポイントは毎月の転倒。年齢、性別、BMIを調整して分析。

25-ヒドロキシビタミンDレベル、および下肢機能に全てのグループで差は認められず。

さらに転倒発生率では、12ヶ月のフォローにおいて、60000 IUグループは66.9%(95% CI, 54.4% to 77.5%)、24000 プラスグループ66.1%(95% CI, 53.5%-76.8%)、およびコントロールでは47.9%(95% CI, 35.8%-60.3%)(P=0.048)で、高用量で発生率は高くなりました。

出典文献
Heike A. Bischoff-Ferrari, Bess Dawson-Hughes, E. John Orav, et al.,
Monthly High-Dose Vitamin D Treatment for the Prevention of Functional Decline
A Randomized Clinical Trial ONLINE FIRST
JAMA Intern Med. Published online January 04, 2016. doi:10.1001/jamainternmed.2015.7148

股関節痛とX線的変形性股関節症は一致しない [医学・医療への疑問]

股関節痛を有する患者へのX線検査では、その多くが変形性股関節症の所見を示しませんでした。しかし、この論文のコンテキストでは、「診断が股関節レントゲン写真のみに依存する場合には(では、何を根拠とするのか?)、多くのケースで変形性股関節症が見逃される可能性があることを示唆する」と、述べられています。

素人ながら、著者らの結論は理解できません。

参加者のコホートは、フラミンガム変形性関節症研究(フラミンガム、マサチューセッツ州のコミュニティ)、および変形性関節症イニシアティブ(米国における変形性関節症の多施設長期コホート研究)。

フラミンガム研究(N = 946)では、頻繁に股関節痛を訴える患者の15.6%にX線検査で変形性股関節症が示され、X線的変形性股関節症の20.7%が頻繁に股関節痛を訴えていました。鼠径部に局在する股関節痛のX線的変形性股関節症の感度は36.7%、特異度90.5%、陽性予測値6.0%、陰性予測値98.9%。

変形性関節症イニシアティブ(N = 4366)でも、股関節痛患者の9.1%のみがX線的変形性股関節症で、X線的変形性股関節症の23.8%が頻繁な股関節痛を有していました。

鼠径部に局在する股関節痛のX線的変形性股関節症の感度は16.5%、特異度94.0%、陽性予測値7.1%、陰性予測値97.6%。

X線的変形性股関節症の感度が極端に低いと言いますが、著者は、股関節周辺の症状が変形性股関節症であると決めつけているように感じられます。X線的に変化が無いものをです。

変形性膝関節症においても、放射線検査による骨の変化と実際の症状が関連しないことは常識です。さらに、股関節痛の場合には、膝や足首などとは異なり、骨盤疾患の関連痛や脊椎疾患による放散痛などでも生じるため、確定診断のためのゴールドスタンダードが欠如しています。

さらに、陽性予測値(的中率)の6~7%とは、検査によって陽性となっても実際に疾患である可能性は6~7%でしかないということです。

要するに、X線的所見と症状は関連せず、痛みの本当の原因を追及するべきなのです。

出典文献
Chan Kim, instructor, Michael C Nevitt, Jingbo Niu, et al.,
Association of hip pain with radiographic evidence of hip osteoarthritis: diagnostic test study
BMJ 2015; 351 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h5983 (Published 02 December 2015)
Cite this as: BMJ 2015;351:h5983

蜂巣炎の誤診による無駄は年間10億ドル以上 [医学・医療への疑問]

2 つの独立した機関の救急部門において、蜂窩織炎(蜂巣炎)と診断されて入院した患者145 例中の 41 例 (28%)が誤診であったと報告されています。

アメリカでは、蜂巣炎による入院は年間50万人以上であり、患者1人の平均コストは 12,000ドル(現在のレートで約146万円)、全体では10億ドル(1220億円)以上におよびます。因みに、誤診の37% はうっ血性湿疹でした。

1救急センターのケースでは、視覚に基づく診断決定支援システム (visually-based computerized diagnostic decision support system ; VCDDSS, VisualDx とも呼ばれます)では、正しい診断は4/28 cases (14%)に対して18/28 cases (64%)(p=0.0003)であったと報告されています。

結論として、診断ワークフローの早い段階において、意思決定支援ツールを含めることで誤診を削減してより効率的な医療管理が行えると述べられています。しかし、それにしても、正診率が低すぎると思うのですが。

出典文献
Consuelo V David1, Sandy Chira1, Samantha J Eells, et al.,
Diagnostic accuracy in patients admitted to hospitals with cellulitis
Dermatology Online Journal 17 (3): 1

急性虚血性脳卒中への血管内血栓切除の効果への疑問 [医学・医療への疑問]

急性虚血性脳卒中患者に対する血管内機械的血栓除去後の臨床転帰を、静脈内組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の使用を含む標準的治療と比較したメタアナリシス研究の結果、機能的転帰と血管造影血管再生率は若干高くなりました。

データは、MEDLINE、EMBASE、CINAHL、 Google Scholar、およびCochrane Libraryにて、無作為化臨床試験の研究を検索して収集。

機能の改善は、90日目の修正ランキンスケール(modified Rankin Scale;mRS)で、スコアが0-2、および24時間後の血管造影による血行再建。

8件の試験から計2423名の患者を同定(平均年齢67.4歳 [SD14.4]女性46.7%)。 1313名 [46.7%]が血管内血栓除去術、1110名が標準治療。

血管内治療の全体的ベネフィットのオッズ比は1.56(OR,1.56;95% CI, 1.14-2.13; P=0.005)。

90日後の機能の独立性 (mRS score, 0-2)は、血管内治療で557/1293名(44.6%; 95% CI, 36.6%-52.8%)、標準治療では351/1094名(31.8%; 95% CI, 24.6%-40.0%)。リスク差は12%(95% CI, 3.8%-20.3%; OR, 1.71; 95% CI, 1.18-2.49; P=0.005)。

尚、mRS score, 0-2とは、全く症状なし(0)から、これまでの活動の全てはできないが身のまわりのことは援助なしでできる、軽微な障害(2)までを指します。

24時間後の血管造影による血管再生の血管内治療と標準治療の比較は75.8% vs 34.1%( OR, 6.49; 95% CI, 4.79-8.79; P<0.001)で、6倍以上改善しました。

しかし、症候性頭蓋内出血では70 events(5.7%)vs 53 events(5.1%)、OR, 1.12(95% CI, 0.77-1.63; P=0.56)で有意差はありません。

また、90日の全原因死亡率でも、218 deaths(15.8%)vs 201(17.8%)、OR, 0.87(95% CI, 0.68-1.12; P=0.27)で有意差はありませんでした。

血管内治療による有害事象の有無は、要約には記されていませんので不明です。また、費用対効果も分かりません。しかし、日常生活動作(ADL)が自立可能レベルまでの患者が1割多かった点は評価できると思います。また、評価は90日時点ですので、その後機能はさらに回復する可能性も考えられます。しかし、長期的にはどうでしょうか。

現在、日本で使用されている機械的血栓除去デバイスは2種類あるようです。2007年より使用が認められた Merci Clot Retriever は、コルクスクリューのような形状をした金属製ワイヤーです。マイクロカテーテルを鼠径部より挿入して頚動脈に留置し、閉塞部位によって最適な血管を選択してデバイスを挿入し、血栓を除去して閉塞血管の再開通を行います。

比較的大型の主幹動脈の閉塞のように血栓溶解療法の効果が期待できない場合や、血栓溶解療法が禁忌である患者さんに対して、脳血管内治療による血栓除去術が行われるようです。処置後、約半数に再開通が認められ、血栓溶解療法と併用することで約75%で再開通が認められるとのことです。

素人目には、排水管の詰まりを掃除する、先端がコイル状のワイヤーを思い浮かべます。どーも乱暴な処置にしか思えないのですが。さらに、素朴な疑問としましては、このワイヤーで掻き回された後、血栓は完全に消失するのでしょうか。血栓溶解療法と併用しているとは言え、細かな粒となって抹消の細動脈を閉塞させるリスクは無いのでしょうか。その場合、多発的なマイクロエンボリズムを起こし、高齢者では認知症を進行させないでしょうか。

あくまでも、素人の素朴な疑問ですが。

出典文献
Jetan H. Badhiwala, Farshad Nassiri, Waleed Alhazzani, et al.,
Endovascular Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke
A Meta-analysis
JAMA. 2015;314(17):1832-1843. doi:10.1001/jama.2015.13767.

変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術と非外科的治療の比較 [医学・医療への疑問]

変形性膝関節症に対する、人工膝関節全置換術(TKR)と非外科的治療の効果を比較した無作為化対照試験の結果、TKR群でより大きな痛みの軽減と機能改善が得られたと報告されています。しかし。

アメリカだけで、2012年度に行われたTKRは67万件以上におよびます。しかし、その有効性を検討した高品質な無作為化対照試験が認められないことから、この研究は計画されました。

オールボー大学病院を含む、デンマークの公共の2クリニックにおいて、2011年9月12日から2013年12月6日までに、TKRを対象とした中等度から重度の明確な変形性膝関節症患者100名(チェルグレン・ローレンス・スケール; 0 to 4 and a score of >2)を登録し、TKRと非外科的治療群を1:1の比率に無作為に割付けて実施。

非外科的治療プログラムは、運動、教育、食事のアドバイス、インソールの使用、および鎮痛薬の5種類を12週間の介入で構成。適切な標準化を確保してクロスオーバー数を減らすために、特別な訓練を受けた理学療法士や栄養士によって同施設内で実施。

プライマリアウトカムは、4膝外傷スコアおよび“Osteoarthritis Outcome Score (KOOS); レンジは0 (worst) to 100 (best)”

セカンダリアウトカムは、椅子から立ち上がり 3.1 m歩行後再び座るまでの時間(Time on the time up-and-go test ;sec. )、および20メートル歩行時間テスト(2回の平均, Time on the 20-m walk test; sec.)。EuroQol グループ 5 次元自己申告アンケート (EQ-5 D scores )による全身状態の評価(ranging from -0.59 to 1.00;;高スコアほど生活の質は向上)。1日の同じ時刻で測定した体重。前の週の鎮痛薬の量。以上5項目。

KOOS4スコアの12ヶ月後の増加は、非外科的治療群で 16.0 (95% CI, 10.1 to 21.9)。一方、TKR群では 32.5 (95% CI, 26.6 to 38.3)セカンダリアウトカムでは、非外科群-1.2、TKR-2.4、Time on the time up-and-go testは、同様に-1.0 vs -2.9、EQ-5 D scoresは0.115 vs 0.206で、手術群がより改善しました。

しかし、TKR対非外科群の膝の重篤なイベントは 8 vs. 1(P=0.05)、全身の重篤なイベントでは24 vs. 6 (P=0.005)と、TKRで著しく高くなりました。

尚、非外科的治療群のうちの13名(26%)は、12ヶ月のフォローアップ期間前にTKRを受けました。TKR予定の患者の1名(2%)が非外科的治療を受けました。この研究は、“Intention-to-treat analysis(治療の意図による分析)によって行っています。これは、対象者が実際に割り付けられた治療を完結したか否かにかかわらず、当初割り付けた群によって分析評価する方法です。患者が、無作為に割り付けた治療方針に従わなかったことには何らかの理由があったはずです。intention-to-treatに従う分析とは、治療そのものよりは、そのマイナスの治療効果も含めて「治療方針」を比較することになるため、「実践的な治療効果」とも呼ばれています。

TKRで、KOOS4スコアは改善しましたが、非外科的治療との差は100点満点中の16.5点に過ぎません。保存的治療でも改善はしており、侵襲の大きさを考えますと手術によるベネフィットはいかがなものでしょうか。今後は長期的なフォローアップによる評価が必要ですし、さらに言えば、著者らも認めているように、偽の手術も含めた比較試験が必要です。実際には困難でしょうが。

出典文献
Soren T. Skou, Ewa M. Roos, Mogens B. Laursen, et al.,
A Randomized, Controlled Trial of Total Knee Replacement.
N Engl J Med 2015; 373:1597-1606October 22, 2015DOI: 10.1056/NEJMoa1505467

変形性疾患への自己コンディショニング血清注射は効果的か [医学・医療への疑問]

頚椎症性神経根症に対する、自己コンディショニング血清autologous conditioned serum (ACS)とメチルプレドニゾン(MPS)の硬膜外神経周囲注射の有効性を比較評価した前向き無作為化パイロット研究で、効果的であったと報告されています。しかし、要約では、ACSとMPSの併用がより効果的でACS単独の効果は穏やかであった(?)としか記されていません。全文読めない上、数値が全く記されていないため詳細は不明ですので、他の文献と比較して考えてみます。


ACS注射が最初に報告されたのは20年ほど前です。

最近では、コンディショニング済みの血液組成物が製造され、臨床で使用されているようです。血清中には、インスリン、エリスロポエチン、インターフェロン、およびサイトカインなど、様々なタンパク質や各種の因子が含まれています。動物やヒトの体から採取した全血をインキュベーションすることによってこれらの因子を増加させ、目的とするサイトカインなどを単離して誘発することで、コンディショニング済み血清組成物が得られます。

このようにして、ヒトの静脈全血から抗炎症性のサイトカインである、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-Ra)、インターロイキン-4(Il-4)、およびインターロイキン-10(Il-10)を増加させた血清を作り、ヒトに投与する治療法です。現在、変形性膝関節症や股関節症などの変形性関節疾患や、様々な炎症性疾患、自己免疫疾患の治療に使用され初めています。

*参考文献の抜粋

*in vitro におけるACS注射によるサイトカインプロフィールを調べた報告

増加したサイトカインは、 IL-1ra, TGF-β, IL-10 as well as of pro-inflammatory cytokines IL-1β, IL-6, TNF-α and OSM。IL-4, IL-13 および IFN-γレベルは同程度、 しかし、osteoprotegerin (OPG)濃度は減少。TNF α 阻害コンディショニング血清存在下で培養した軟骨 PG( proteoglycan;PG) 代謝に影響しませんでした。滑液(synovial fluid;SF)レベルに比べると、OPG 濃度が高かく、TGF-βレベルは低値でした。

しかし重要なのは、OA患者に対するACSの関節内投与では、これらのサイトカインレベルにおおきな変化は認められなかったことです。著者らも、ACSの関節内投与は関節内の代謝に影響を与えないと思われ、この結果は、これまでの効果が認められないとする報告例とも一致すると述べています。

Marijn Rutgers, Daniel BF Saris, Wouter JA Dhert, et al.,
Cytokine profile of autologous conditioned serum for treatment of osteoarthritis, in vitro effects on cartilage metabolism and intra-articular levels after injection.
Arthritis Res Ther. 2010; 12(3): R114. Published online 2010 Jun 10. doi: 10.1186/ar3050


*変形性膝関節症へのACS注射の効果はプラシーボと同等と報告

Marijn Rutgers, Laura B Creemers, Kiem Gie Auw Yang, et al.,
Osteoarthritis treatment using autologous conditioned serum after placebo
Acta Orthop. 2015 Feb; 86(1): 114-118.
Published online 2015 Jan 22. doi: 10.3109/17453674.2014.950467

*ACSを選択した、20名の変形性膝関節症患者の痛みのビジュアルアナログスケール (VAS)による評価では、12 ヶ月後の臨床結果はプラシーボと同等。

Marijn Rutgers, Laura B Creemers, Kiem Gie Auw Yang, et al.,
Osteoarthritis treatment using autologous conditioned serum after placebo
Acta Orthop. 2015 Feb; 86(1): 114-118.
Published online 2015 Jan 22. doi: 10.3109/17453674.2014.950467


*変形性股関節症に対するACS注射とコーチゾン併用の効果

著者らは効果的と述べていますが、P値が高すぎて統計的には無意味です。

Axel W.A. Baltzer, Martin S. Ostapczuk, Daniel Stosch, et al.,
A New Treatment for Hip Osteoarthritis: Clinical Evidence for the Efficacy of Autologous Conditioned Serum.
Orthop Rev (Pavia). 2013 Jun 7; 5(2): e13.
Published online 2013 Jun 14. doi: 10.4081/or.2013.e13

ACSによる治療の報告は未だ少なく、その効果は判然としませんがその多くは効果が認められず、また、有効とする結論にも恣意的なものが多い印象を受けます。そもそも、人為的に抗炎症性のサイトカインを増やし、これを体内に戻せば期待通りの効果が得られると考えることは短絡的に思われます。例えば、抗炎症性のサイトカインであるIL-10は、状況によっては炎症促進的にも作用します。

出典文献
Goni, Vijay G. , Singh Jhala, Sampat., et al.,
Efficacy of Epidural Perineural Injection of Autologous Conditioned Serum in Unilateral Cervical Radiculopathy: A Pilot Study. Randomized Trial
Spine, 15 August 2015, Volume 40; Issue 16: p E915-E921.
doi: 10.1097/BRS.0000000000000924

S状結腸鏡によるスクリーニングテストにメリットはあるか [医学・医療への疑問]

大腸内視鏡検査は結腸直腸癌のスクリーニング法として一般的に使用されていますが、生存時間の延長効果を調査したメタ分析の結果では少々疑問で、結腸直腸癌関連死亡の減少は、1000 人に対する検査で、5 年間に 0.3、10 年間では1.2と報告されています。

4.3 年間 (95% confidence interval 2.8 to 5.8)、1人の結腸直腸癌関連死を防ぐためには5000人へのスクリーニングテストが必要で、9.4年(95% confidence interval 7.6 to 11.3)では1000人が必要でした。

大腸癌の死亡率曲線では、コントロールと比較した、1000人当たりの大腸癌による死亡の絶対リスク減少は、5年で0.3、10年で1.2、13年で1.9と増加しています。

研究データは、2013年に公開されたコクラン共同計画系統的レビュー、メドライン、およびコクラン・ライブラリーから、4つのランダム化比較試験(合計n = 459, 814, 年齢50-74歳)を基にしています。

結腸直腸癌スクリーニングによるメリットとは、1000人に対するテストによって、10年後にようやく1人の大腸癌による死亡を防げるというものでした。

便潜血検査または軟性S状結腸鏡検査によるスクリーニングテストは、大腸癌関連死亡率を減少させることが示されています。しかし、ごく僅かな寿命延長メリットと供に、痛み、テスト後の不安、結腸穿孔、および心臓、腎臓、認知症などの合併症の有害性も存在します。

多数の人への検査分析から導かれた統計的データと、1人の個人の思いは別ですが、スクリーニングテストの有益性には疑問が残ります。

出典文献
Victoria Tang, W John Boscardin, Irena Stijacic-Cenzer, Sei J Lee,
Time to benefit for colorectal cancer screening: survival meta-analysis of flexible sigmoidoscopy trials.
BMJ 2015; 350 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h1662 (Published 16 April 2015)
Cite this as: BMJ 2015;350:h1662

MRIでは無症状でも9割弱が頚椎異常を示してしまう [医学・医療への疑問]

頚椎症状が無い健康なボランティア1211名を対象にしたMRI検査で、椎間板の異常(膨らみ)が87.6%に認められました。

椎間板の膨らみは20歳代で、男性73.3%、女性78.0%に認められています (Figure 2A)。

脊髄の圧迫(SCC)は64名 (5.3%)、後縦靱帯骨化症(OPLL)が5名(0.4%)に認められています (Figure 3A)

SCCは男性に多く、37名が1 level、24名が 2 levelsでした。また、そのレベルはC5,6間が多く、C5/C6 (41%)、C6/C7 (27%)(Figure 3B)でした。

MRI画像だけを根拠にして、頚椎疾患と断定することの危険性を示しています(腰椎でも、ほぼ同様の結果が既に示されており、このブログでも、再三述べています。)。

つまり、MRI画像≠症状ということです。

出典文献
Nakashima, Hiroaki ,Yukawa, Yasutsugu, ET AL.,
Abnormal Findings on Magnetic Resonance Images of the Cervical Spines in 1211 Asymptomatic Subjects,
Spine, 15 March 2015; Volume 40 - Issue 6: 392-398.

新生児低酸素性虚血性脳症に対する32.0℃120時間の冷却で死亡率増加 [医学・医療への疑問]

中等度または重度の低酸素性虚血性脳症の新生児に対し、72時間、33.5℃の低体温療法で死亡または身体障害を44~55%軽減できるとされています。さらに、長時間のより低い冷却は、動物モデルにおいては神経保護的です。

この研究では、32.0℃120時間の、より低い温度による長時間の冷却効果を比較検討しました。結論では、効果は無しと述べられていますが、むしろ死亡率は増加しています。

研究デザインは、無作為化、2×2要因デザイン臨床試験。小児保健のユーニス・ケネディ・シュライバー国立研究所と人間開発 (NICHD)の新生児研究ネットワークの18センターにおいて、2010年10月から2013年11月にかけて実施。

33.5℃72時間、32.0℃72時間、33.5℃120時間、および32.0℃120時間の4群に割り当てて介入。

新生児集中治療室(NICU)における死亡

・33.5℃72時間: 7/ 95 (7%)
・32.0℃72時間: 13/90 (14%)
・33.5℃120時間:15/96 (16%)
・32.0℃120時間:14/83 (17%)

*より長くより低い体温で、死亡率は増加しています。

120時間と72時間群を比較した 調整リスク比は、1.37 (95% CI, 0.92-2.04)で、より長時間で37%増加。

32.0℃と33.5℃の比較でも、リスク比は1.24 (95% CI, 0.69-2.25)と、より低温で24%増加。

出典文献
Seetha Shankaran, Abbot R. Laptook, et al.,
Effect of Depth and Duration of Cooling on Deaths in the NICU Among Neonates With Hypoxic Ischemic Encephalopathy
JAMA. 2014;312(24):2629-2639. doi:10.1001/jama.2014.16058.

免疫調節経腸栄養でICU患者の死亡率が上昇したと報告  [医学・医療への疑問]

免疫調節栄養素(グルタミン、オメガ-3脂肪酸、セレン、および抗酸化剤)で強化された高タンパク経腸栄養は、感染症を低減して重大な病気からの回復を改善することが示唆されています。しかし、ガイドラインにおけるコンセンサスの欠如によって論争が存在します。

集中治療室(ICU)において人口呼吸器で管理されている重症患者を対象に、免疫調節栄養素(IMHP)で強化された高タンパク経腸栄養が、標準的な高タンパク経腸栄養(HP)と比較して感染症の発生率を減少させるかを調査した研究の結果、発症率に差はなく、死亡率は上昇しました。

オランダ、ドイツ、フランス、ベルギーを含む、14の集中治療室(ICU)における多施設無作為化二重盲検試験。6ヶ月のフォローアップ期間を含む、2010年2月~2012年4月まで実施。

対象は、72 時間以上の換気を必要とする経腸栄養の成人患者 301名を、IMHP 152名、HP 149名に無作為に割り付けて実施。

メインアウトカムは新規感染症の発生率。セカンドアウトカムは、死亡、シーケンシャル臓器不全評価(SOFA)スコア、人工呼吸期間、ICU滞在期間、入院期間、およびCDC定義に従う感染症のサブタイプ。

IMHPグループの感染症発生率は53% (95% CI, 44%-61%)、HPグループでは 52% (95% CI, 44%-61%) (P=0.96)で、両群に差はなし。

しかし、サブグループにおける死亡率は、IMHP54% (95% CI, 40%-67%)に対し、HP35% (95% CI, 22%-49%)(P=0.04)で、ハザード比は1.57 (95% CI, 1.03-2.39; P=0.04)で、IMHPグループのリスクは57%高くなり統計的にも有意でした。

結論として、ICUにおける人工呼吸器を使用する重症成人患者に対する免疫調節栄養素(IMHP)は、感染性合併症または他の臨床エンドポイントを改善せず、6ヶ月間の調整死亡率を増加させるなど、有害である可能性があると記されています。

この死亡率上昇の原因は何でしょうか、投与された特定の物質によるものでしょうか、それとも併用による作用でしょうか。

無作為化試験は治療効果を正確に判断する上で必須の試験法であることは理解できます。しかし、納得の上とは言え、くじ引きで治療法を選択された結果介入群ではより多くの患者さんが死亡したのです。これらの患者さんに対する反省と謝罪の言葉が必要であると思うのですが、要約には記されていませんので不明です。

出典文献
Arthur R. H. van Zanten, Francois Sztark, et al.
High-Protein Enteral Nutrition Enriched With Immune-Modulating Nutrients vs Standard High-Protein Enteral Nutrition and Nosocomial Infections in the ICU: A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2014;312(5):514-524. doi:10.1001/jama.2014.7698.

高齢者への中等度身体活動プログラムの利点とは何か [医学・医療への疑問]

活動性障害のリスクがある高齢者を対象にした研究で、中等度の身体活動プログラムは健康教育プログラムと比較して、主要な移動性の障害を減少させたと報告されています。しかし、結果の解釈は、仮説に沿った恣意的なものに感じます。

先ず、身体制限の定義に疑問があります。1635名の座りがちな高齢者(70~89歳)を対象にしています。その定義は、 400m歩行が可能であるものの、“ Short Physical Performance Battery”9点以下の者とのこと。

多施設無作為化試験(2010年2月~2011年12月)、シングルブラインド。平均フォローアップ期間は2.6年。介入群は、好気性、耐性、および柔軟性運動の研修と、センター(2回/週)と自宅で( 3-4回/週)運動(n = 818 )。対照群はストレッチ体操などの健康教育プログラム( n = 817 )。

メインアウトカムは、400m歩行に関して定義された重篤な運動機能障害。

高齢者の運動機能低下は、疾病や障害の罹患率、入院、および死亡の独立した危険因子であると言われています。しかし、身体活動によってモビリティ障害を防止または遅延できるとする決定的な臨床試験はありません。

この研究は、長期的構造化された身体活動プログラムは、主要な移動性障害のリスクを減らすうえで健康教育プログラムよりも効果的であるという仮説を設定し、これを検証したものです。その究極的な目的は、死亡リスクの減少にあるはずです。

400m歩行不能インシデントは、身体活動プログラム群は246名(30.1%)、健康教育群では290名(35.5%) 。ハザード比は0.82 (HR, 0.82 [95% CI, 0.69-0.98]; P=0.03; Figure 3)で、その差は18%。

持続的運動機能障害の発生は、同様に、120 名 (14.7%)vs教育群162名(19.8%)、HR, 0.72(95% CI, 0.57 - 0.91; P=0.006)で、その差は28%。

しかし、「歩行器の助けを借りずに15分以内で400メートルを歩くことができる」、というような能力によってQOLが大きく改善するでしょうか。

さらに、歩行能力の改善と同時に、死亡などの重篤な副事象が増加しています。これでは、本末転倒ではないでしょうか。

重篤な有害事象は、身体活動プログラム群の404名( 49.4% )に対し、健康教育群では360名(44.1%)373名( 45.7% ) (risk ratio [RR], 1.08 [95% CI, 0.98-1.20])。リスク比で、僅か8 %の増加ではありますが、身体活動プログラム群で高くなっています。
.
入院も、身体活動プログラム群で818名中396名( 48.4% )、健康教育群では817名中360名( 44.1% )(RR, 1.10 [95% CI, 0.99-1.22])と、身体活動プログラム群で多くなっています。。同様に、身体活動プログラム群でリスク比は10%高くなりました。著者は、入院の理由のほとんどは介入とは無関係と述べていますが、その根拠はあるのでしょうか。

44名への効果を生むために、31名に死亡、障害持続、入院などの重篤な副事象が生じても有効と結論ずける神経が理解できません。

結論では、これらの有害事象が無視されています。本来の目的がです。世界4大医学雑誌の1つ 、“JAMA;アメリカ医師会雑誌”もこの程度でしょうか。

「何が何でも、歩行能力を改善したい」というのは、整形外科医の本能でしょうか。そう言えば、世界が相手をしない、日本整形外科学会独自の「運動器症候群:ロコモティブ・シンドローム;locomotive syndrome」という、ナンセンスな名称がありました(最近、テレビなどでも宣伝)。

「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしい」との思いから提唱したようですが、「症候群」の医学的な意味に合致するでしょうか。

そして、この「ロコモ」が、メーカーによって、商品の宣伝に使われています。

出典文献
Marco Pahor, Jack M. Guralnik, Walter T. Ambrosius,et al.
Effect of Structured Physical Activity on Prevention of Major Mobility Disability in Older Adults:
The LIFE Study Randomized Clinical Trial
JAMA. Published online May 27, 2014. doi:10.1001/jama.2014.5616

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