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膝OAへのヒアルロン酸注射は効果無く有害 [ヒアルロン酸]

世界中で5億6000万人以上が膝の変形性関節症(膝OA)に罹患しており、高齢者の障害の主な原因となっている。関節内ヒアルロン酸注射(粘液補充として)は、膝OAの治療に頻繁に使用されますが、その有効性と安全性については1970年代初頭の最初の臨床試験以来問題のままとなっている。

そもそも、最新の国内および国際的なガイドラインでは、関節内へのヒアルロン酸誘導体の使用はほとんど推奨されていません。

にもかかわらず、例えばアメリカでは、メディケアおよび営利保険会社が粘液補充の使用をカバーしており、2012年から2018年にかけて大幅に増加し、膝骨関節炎の患者の7人に1人が一次治療としてヒアルロン酸誘導体の注射を受けています

メディケアのデータに基づくと、粘液補充治療への支出は2012年には2億8,700万ドル、2018年には3億2500万ドル。しかしながら、その出費のうちの28%は、粘液補充注射後の大きな関節感染症の治療に費やされたものです。

本論文では、膝OAの痛みと機能に対する粘液補充の有効性と安全性について、ランダム化試験の系統的レビューとメタアナリシスを行って評価しています。

データソース検索は、開始から2021年9月11日までの、Medline、Embase、およびCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)データベースで実施。未発表の試験は、grey literature and trial registries特定。研究選択の適格性の基準は、粘液補充とプラシーボまたは介入なしを比較したランダム化試験。

主な結果は、痛みの強さで、二次的結果は、機能と重篤な有害事象。痛みと機能は、標準化された平均差(SMD)として分析。グループ間の違いにおける臨床的に事前に指定された最小値は-0.37SMDで、重篤な有害事象は相対リスクとして分析。

169件のランダム化試験から、21163人の参加者に関するデータが提供され、痛みと機能についての小さな効果と出版バイアスの証拠が観察された(P <0.001および非対称ファンネルプロットを使用したEggerのテスト)。

疼痛の主な分析に含まれる24件の大規模なプラシーボ対照試験(8997件のランダム化参加者)は、粘液補充はプラシーボと比較して疼痛強度のわずかな低下と関連していた(SMD -0.08、95%信頼区間-0.15〜-0.02)。しかしこの効果は、100mmの視覚的アナログ尺度で-2.0mm(95%信頼区間-3.8〜-0.5 mm)の疼痛スコアの違い、つまり100mm中のわずか2mmの差に過ぎない。また、機能についても同様の結論が得られた。

6462件のランダム化参加者を対象とした15件の大規模なプラシーボ対照試験に基づくと、粘液補充はプラシーボよりも統計的に有意に高い重篤な有害事象のリスクと関連していた(相対リスク1.49、95%信頼区間1.12〜1.98)。

レビューは、粘液補充と潜在的な深刻な有害作用との関連、および臨床的に関連する利益の欠如に関するランダム化試験からの決定的な高品質のエビデンスを示しています。

試験の逐次分析に基づくと、2009年から2021年の間だけで、12,000人以上の患者が粘液補充試験で関節内注射を受けました。しかしこれは倫理的な懸念を引き起こします。ヒアルロン酸注射(粘液補充)は効果がないだけではなく、深刻な有害性(炎症の増悪、発がん性など)があります。

整形外科医はヒアルロン酸注射の有害性を認め、倫理に基づいて、診療利益だけを求めるような行為は慎むべきと言いたい。

出典文献
Viscosupplementation for knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis
Tiago V Pereira, Peter Jüni, Pakeezah Saadat, Dan Xing, et al.
BMJ 2022; 378 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-069722 (Published 06 July 2022)
Cite this as: BMJ 2022;378:e069722

血清ヒアルロン酸は肝障害の重症度と共に上昇する [ヒアルロン酸]

肝硬変の重症度(Child-Pughスケール)と血清ヒアルロン酸(HA)濃度との間には相関関係が認められ(R = 0.679、P = 0.000)、肝臓損傷の最も重篤な段階においてHA濃度がより高いことが示されている。
(Monika Gudowska, et al., 2016)

前回に続き、ヒアルロン酸について考えてみたい。

この研究は、20人の健康なボランティア、およびアルコール性肝硬変(AC)患者57名、非アルコール性肝硬変(NAC)30名、および中毒性肝炎(HT)22名の血清サンプルについて、スピアマンの順位相関試験によって比較している。肝硬変患者はChild-Pughスコアに従って分類。ヒアルロン酸濃度は免疫化学的方法により測定。肝線維化の非侵襲的マーカーであるAPRI、GAPRI、HAPRI、FIB-4、およびForn's indexと比較。

ANOVA rank Kruskal-Wallis検定により、肝硬変の重症度が最も高いChild-PughクラスCとクラスBの比較では平均HAレベルは約2.5倍を示し、クラスAとの比較では7倍高いことが示された。

肝線維化および肝硬変に至る共通の経路は、細胞外マトリックス(ECM)の沈着が増加することである。これは、コラーゲン、糖タンパク質およびヒアルロナンの分子および組織学的再構成による。 ヒアルロン酸(HA)は体内のあらゆる組織に存在する高分子グリコサミノグリカン(多糖類)であり、ヒアルロン酸合成酵素と呼ばれる酵素によって滑膜細胞と肝星状細胞(HSC)で合成されている。肝臓では、類洞内皮細胞によって分解されるため、肝臓細胞傷害および炎症反応によって血清HAレベルは影響され得る。血液中の半減期が短いため(2-5分)、血清HAレベルは肝線維症段階を反映する。

肝疾患におけるヒアルロン酸濃度の増加は、肝線維形成および線維化の増加に起因する可能性があることはこれまでにも知られていた(1)。ヒアルロン酸の血清レベルは、ECMの血清レベルが変化する慢性肝疾患において上昇することが見出されおり、これらには、アルコール性および非アルコール性脂肪性肝炎、B型肝炎、C型およびその他が含まれる(2.3.)。

これらの臨床状態において、HAは、単独で、またはHAを主要な構成要素とするアルゴリズムモデルにおいて使用することが期待される。

本来、肝障害後に生成されたヒアルロン酸を含む過剰なECMは、修復プロセスが完了した時点で取り除かれる。進行性の肝硬変とは、長期におよぶ修復プロセスの欠陥による、慢性的な傷害および線維化の結果であることを考慮することが重要。

肝疾患におけるヒアルロン酸、APRI、GAPRI、HAPRI、FIB-4およびForn's指標の診断有用性について。

ヒアルロン酸およびGAPRIは、アルコール性肝硬変(両者100%の特異性を有する)を除外して、最高および同等の検出能力(両者の感度98.2%)を有する。さらに、Fornの指数およびGAPRIが、非アルコール性肝硬変を有する全ての患者を正しく同定することが示された(感度100%)。非アルコール性肝硬変を除外する能力では、Forn’s index, APRI, FIB-4 and HAPRI (in order dependent on the NPV)の4つの指標は100%の特異性を示した。中毒性肝炎の検出において、 GAPRI. GAPRI, APRI, HA およびHAPRIは、最も高い感度と100%の特異性を有しており、中毒性肝炎のないすべての患者を正しく同定する。

出典文献
Hyaluronic acid concentration in liver diseases
Monika Gudowska, Ewa Gruszewska, Anatol Panasiuk, et al.,
Clin Exp Med. 2016; 16(4): 523–528.
Published online 2015 Sep 9. doi: 10.1007/s10238-015-0388-8

1.
Rockey DC, Montgomery B. Noninvasive measures of liver fibrosis. Hepatology. 2006;43:S113–S120. [PubMed]

2.
Rossi E, Adams LA, Bulsara M, Jeffrey GP. Assessing liver fibrosis with serum marker models. Clin Biochem Rev. 2007;28:3–10. [PMC free article] [PubMed]

3.
McHutchison JG, Blatt LM, de Medina M, et al. Measurement of serum hyaluronic acid in patients with chronic hepatitis C and its relationship to liver histology. Consensus interferon study group. J Gastroenterol Hepatol. 2000;15:945–951. [PubMed]

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血清ヒアルロン酸濃度は膝OA進行の予測因子となる [ヒアルロン酸]

血清ヒアルロン酸(sHA)は、変形性膝関節症(OA)の血清バイオマーカーであり、患者ではsHA濃度は上昇する。さらに、sHA濃度と病態の進行には正の相関が認められ、膝OA進行の有用な予測因子になる可能性があると報告されている(Eiji Sasakiら, 2015年)。

膝OAは、伝統的に臨床的および放射線学的所見に基づいて診断されている。しかし、臨床的な診断が行われる頃には関節組織の変性が進行しているため、治療によって治癒することはほぼ無いと言える。従って、早期に診断するためのバイオマーカーが求められている。

444人を登録し、ベースライン時のsHA濃度を測定して前向きに調査。膝OAの変化はKellgren-Lawrence(KL)グレードに従って分類し、関節腔狭窄(JSN)は変形性関節症コンピュータ診断支援(KOACAD)システムを用いて測定。 sHA濃度、KLグレードの進行、およびJSNとの相関は潜在的交絡因子を考慮して回帰モデルを用いて評価。

放射線学的評価では、KLグレード0または1が323人、グレード2は91人、グレード3は28人、およびグレード4は2人。 5年後のエンドポイントでは、ベースライン時にKLグレード0,1,2または3の443人の参加者中、190人(42.1%)が進行し、膝OA は14膝で発症。

より高いsHA濃度はKL等級進行に相関し(p = 0.004)、JSNの進行と正の相関を示した。SpearmanのsHA濃度とJSNの相関係数は0.404(p <0.001)。本研究によって、sHAカットオフ値は51.9ng / mlと推定され、JSNリスクは約5倍増加した(KL grades 2 or 3からのodds ratio は4.89)。

調整ロジスティック回帰分析によって、より高いsHA濃度がKLグレード2または3からの進行と相関(p = 0.004)したが、0または1からの進行とは相関しなかった(p = 0.196)。女性とKLグレード0または1のOA発症とは正に相関し、老化とより高いBMIはOAの発症および進行と相関した。

従来の縦断研究でも、ベースライン時のsHA濃度がKL等級の進行と正に相関することが示されていた(1.2.)。さらに、ベースラインのsHA濃度は正常および重度の膝OAの両方においてJSNと相関し、重症度だけでなく進行の可能性も反映しており、JSNを予測するための予後マーカーとして有用であり得る。

OAは長期的な慢性疾患であるため、5年間の観察ではsHAとOAの発生率との関係を完全に証明することは困難だが、sHA51.9ng / mlのカットオフ値がROC分析に基づくOA進行を予測できることを示す、最初の報告である。

OAは、耐荷重領域を中心とした関節軟骨の局所的損傷、関節縁における骨棘形成、軟骨下骨変化、および滑膜炎を特徴とする。滑膜炎はOAの発症時に存在し、ヒアルロン酸(HA)および炎症性サイトカインの産生をもたらす。

さらに、滑膜炎は線維芽細胞を活性化し、腫瘍壊死因子-αおよびインターロイキン-1βなどの他の炎症性サイトカインの産生を促進する。また、これらのサイトカインは、関節軟骨基質を分解する線維芽細胞によるマトリックスメタロプロテイナーゼ産生を促進する。従って、滑膜炎の存在は、膝OAの進行に寄与すると考えられている。

sHAは膝OAのバイオマーカーの中でも特に有望であり、以前のいくつかの横断的研究では、診断だけでなく、病気の持続時間、重症度、OA関連膝痛の程度を特定するためにも有用であることが報告されていた(3.4.)。sHA濃度は、OA発症時に存在する滑膜炎の程度を反映すると考えられ、プロテアーゼおよびサイトカインを産生することによって疾患の進行を促進する。したがって、sHAは進行性膝OAの予後指標となる可能性があるが、これまでは、膝OAとの関係はいくつかの縦断研究のみであった(5.6.)。

出典文献
Serum hyaluronic acid concentration predicts the progression of joint space narrowing in normal knees and established knee osteoarthritis – a five-year prospective cohort study
Eiji Sasaki, Eiichi Tsuda, Yuji Yamamoto, Shugo Maeda, Ryo Inoue, Daisuke Chiba, et al.,
Arthritis Res Ther. 2015; 17: 283.
Published online 2015 Oct 10. doi: 10.1186/s13075-015-0793-0

1.
Inoue R, Ishibashi Y, Tsuda E, Yamamoto Y, Matsuzaka M, Takahashi I, et al. Knee osteoarthritis, knee joint pain and aging in relation to increasing serum hyaluronan level in the Japanese population. Osteoarthritis Cartilage. 2011;19:51–57. doi: 10.1016/j.joca.2010.10.021. [PubMed] [Cross Ref]

2.
Turan Y, Bal S, Gurgan A, Topac H, Koseoglu M. Serum hyaluronan levels in patients with knee osteoarthritis. Clin Rheumatol. 2007;26:1293–1298. doi: 10.1007/s10067-006-0499-4. [PubMed] [Cross Ref]

3.
Elliott AL, Kraus VB, Luta G, Stabler T, Renner JB, Woodard J, et al. Serum hyaluronan levels and radiographic knee and hip osteoarthritis in African Americans and Caucasians in the Johnston County Osteoarthritis Project. Arthritis Rheum. 2005;52:105–111. doi: 10.1002/art.20724. [PubMed] [Cross Ref]

4.
Turan Y, Bal S, Gurgan A, Topac H, Koseoglu M. Serum hyaluronan levels in patients with knee osteoarthritis. Clin Rheumatol. 2007;26:1293–1298. doi: 10.1007/s10067-006-0499-4. [PubMed] [Cross Ref]

5.
Pavelka K, Forejtová S, Olejárová M, Gatterová J, Senolt L, Spacek P, et al. Hyaluronic acid levels may have predictive value for the progression of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2004;12:277–283. doi: 10.1016/j.joca.2004.01.001. [PubMed] [Cross Ref]

6.
Sharif M, George E, Shepstone L, Knudson W, Thonar EJ, Cushnaghan J, et al. Serum hyaluronic acid level as a predictor of disease progression in osteoarthritis of the knee. Arthritis Rheum. 1995;38:760–767. doi: 10.1002/art.1780380608. [PubMed] [Cross Ref]

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ヒアルロン酸は悪性腫瘍の転移を促進する [ヒアルロン酸]

最近の研究で、ヒアルロン酸(または、ヒアルロナン)はあらゆる種類の悪性腫瘍の転移を促進することが明らかになっている。

また、これまで胆汁排泄促進剤として使用されていた、蛍光物質の4-methyl-umbelliferone(MU)がヒアルロン酸合成を特異的に阻害することが判明している。さらに、このMUを経口投与すると、悪性腫瘍の転移・再発を抑制できることも明らかになっている。

悪性腫瘍の転移には、悪性腫瘍自身が生合成するヒアルロン酸と、転移する組織・器官が生合成するヒアルロン酸の両方が関与している。MUの経口投与によって、悪性腫瘍および腫瘍が転移する組織・器官の両者で、ヒアルロン酸の合成が抑制されて転移も抑制される。これは、マウス由来悪性黒色腫細胞(B16F10細胞)および培養ヒト皮膚線維芽細胞を使った転移実験で確認されている。

ヒアルロン酸は、ウロン酸であるグルクロン酸とN-アセチルグルコサミンがグリコシド結合によって繰り返し結合したもので、生体内のあらゆる組織・器官の細胞外マトリックスに普遍的に存在しているもの。

最近の分子生物学や糖鎖生物学的研究の進歩によって、このヒアルロン酸は細胞の発生、分化、増殖、再生などの様々な生理機能を制御することが明らかになっており、同時に、老化、創傷治癒、炎症、さらに、悪性腫瘍の転移にも関わっていることも分かってきた。

ヒアルロン酸は強い抱水性(水を巻き込む力)を有して粘性が高いため、関節液などの組織・器官の湿潤を保持することが知られている。加齢によって、ヒアルロン酸が低下した皮膚は乾燥するが、ヒアルロン酸を注入することで瑞々しくなるため、皮膚のアンチエイジングとして皮膚への注入が一般的に行われている。

しかしながら、炎症の悪化や悪性腫瘍・癌の摘出手術後の再発・転移を促進させることも知っておくべき。

引用文献

1)Kosakai R. Watanabe K, Yamaguchi Y : Overproduction Hof hyaluronan by expression of the hyaluronan synthase Has2enhances anchorage-independent growth and tumorigenicity. Cancer Res, 59: 1141-1145, 1999.

2)Sohara Y.Ishiguro N, et al. : Hyaluronan activates cell motility of v-Src-trnsformed cells via Ras-mitogen -activated protein kinase and phosphoinositide 3-kinase-Akt in a tumor -specific manner . Mol Biol Cell, 12 : 1859-1868, 2001.

3)Yoshihara S, Kon A, Kudo et al.A hyaluronan synthase suppressor , 4-methylumbelliferone, inhibits liver metastasis of melanoma cells. FEBS Lett, 579: 2722-2726, 2005.

4)Morohashi H, et al. Inhibitory effect of 4-methyl-esculetin on hyaluronan synthesis slows the devlopment of human pancreatic cancer in vitro and in nudemice. Int J Cancer, in press.
 
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