変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術と非外科的治療の比較 [医学・医療への疑問]

変形性膝関節症に対する、人工膝関節全置換術(TKR)と非外科的治療の効果を比較した無作為化対照試験の結果、TKR群でより大きな痛みの軽減と機能改善が得られたと報告されています。しかし。

アメリカだけで、2012年度に行われたTKRは67万件以上におよびます。しかし、その有効性を検討した高品質な無作為化対照試験が認められないことから、この研究は計画されました。

オールボー大学病院を含む、デンマークの公共の2クリニックにおいて、2011年9月12日から2013年12月6日までに、TKRを対象とした中等度から重度の明確な変形性膝関節症患者100名(チェルグレン・ローレンス・スケール; 0 to 4 and a score of >2)を登録し、TKRと非外科的治療群を1:1の比率に無作為に割付けて実施。

非外科的治療プログラムは、運動、教育、食事のアドバイス、インソールの使用、および鎮痛薬の5種類を12週間の介入で構成。適切な標準化を確保してクロスオーバー数を減らすために、特別な訓練を受けた理学療法士や栄養士によって同施設内で実施。

プライマリアウトカムは、4膝外傷スコアおよび“Osteoarthritis Outcome Score (KOOS); レンジは0 (worst) to 100 (best)”

セカンダリアウトカムは、椅子から立ち上がり 3.1 m歩行後再び座るまでの時間(Time on the time up-and-go test ;sec. )、および20メートル歩行時間テスト(2回の平均, Time on the 20-m walk test; sec.)。EuroQol グループ 5 次元自己申告アンケート (EQ-5 D scores )による全身状態の評価(ranging from -0.59 to 1.00;;高スコアほど生活の質は向上)。1日の同じ時刻で測定した体重。前の週の鎮痛薬の量。以上5項目。

KOOS4スコアの12ヶ月後の増加は、非外科的治療群で 16.0 (95% CI, 10.1 to 21.9)。一方、TKR群では 32.5 (95% CI, 26.6 to 38.3)セカンダリアウトカムでは、非外科群-1.2、TKR-2.4、Time on the time up-and-go testは、同様に-1.0 vs -2.9、EQ-5 D scoresは0.115 vs 0.206で、手術群がより改善しました。

しかし、TKR対非外科群の膝の重篤なイベントは 8 vs. 1(P=0.05)、全身の重篤なイベントでは24 vs. 6 (P=0.005)と、TKRで著しく高くなりました。

尚、非外科的治療群のうちの13名(26%)は、12ヶ月のフォローアップ期間前にTKRを受けました。TKR予定の患者の1名(2%)が非外科的治療を受けました。この研究は、“Intention-to-treat analysis(治療の意図による分析)によって行っています。これは、対象者が実際に割り付けられた治療を完結したか否かにかかわらず、当初割り付けた群によって分析評価する方法です。患者が、無作為に割り付けた治療方針に従わなかったことには何らかの理由があったはずです。intention-to-treatに従う分析とは、治療そのものよりは、そのマイナスの治療効果も含めて「治療方針」を比較することになるため、「実践的な治療効果」とも呼ばれています。

TKRで、KOOS4スコアは改善しましたが、非外科的治療との差は100点満点中の16.5点に過ぎません。保存的治療でも改善はしており、侵襲の大きさを考えますと手術によるベネフィットはいかがなものでしょうか。今後は長期的なフォローアップによる評価が必要ですし、さらに言えば、著者らも認めているように、偽の手術も含めた比較試験が必要です。実際には困難でしょうが。

出典文献
Soren T. Skou, Ewa M. Roos, Mogens B. Laursen, et al.,
A Randomized, Controlled Trial of Total Knee Replacement.
N Engl J Med 2015; 373:1597-1606October 22, 2015DOI: 10.1056/NEJMoa1505467

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