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脳卒中後の亜急性期における有酸素運動は有害 [運動健康法という妄想]

日常生活に障害を持つ脳卒中の生存者が増加し、同時に、リハビリテーション介入に依存する人が増えている。トレッドミルベースの体力トレーニングは、脱コンディショニングを防ぎ、歩行や階段昇降などの日常生活関連動作の改善に寄与すると考えられている。

しかし、脳卒中後の亜急性期における有酸素運動の安全性と有効性を調査した研究の結果、歩行速度、バーセルインデックス指数に差は無く、逆に、重篤な有害事象の発生率が高かった(発生率1.81、95%信頼区間0.97~3.36)。

ドイツにおける7カ所のリハビリテーションセンター。対象者は亜急性脳卒中(脳卒中後5~45日目)を有する200名。その内訳は、National Institutes of Health stroke scale (NIHSS, range 0-42 points, より厳しい脳卒中を示す値) score of 8 (interquartile range 5-12)を、標準的なケアに加えて、トレッドミルベースの体力トレーニングまたはリラクゼーションセッションのいずれかにランダムに割り当てた。

メインアウトカムは、10m歩行試験における最大歩行速度(m/s)の変化とバーセル指数スコア(範囲0〜100点)を、ベースラインと3ヶ月後で比較。安全上の評価は、脳卒中、入院、脳卒中後3ヶ月以内の死亡を含む再発性心血管イベント。有効性は、分析セットにおける各一次結果に対する共分散の分析で評価。

バーセルインデックスとは、ADLを評価する世界共通の評価法で、身辺動作と移動動作の2つの観点で全10項目について、自立度に従って各項目0〜15点で点数化して、合計100点満点で評価する方法。

バーセルインデックスの評価はともかくとして、速く歩行できることが「改善」だろうか。

亜急性脳卒中の患者に対し、日常生活動作の質や歩行速度を高めることを目的とする、有酸素フィットネストレーニングに有益生は無く、むしろ重篤な有害事象を増加させた。この結果から、ガイドラインの再検討を考慮すべき。

そもそも、この様な運動が機能回復に役立つだろうか。私には、運動への妄想としか思えない。例えば、世間の言葉として、「運動していい汗をかく」は根本的に間違い。寧ろ、多量の汗は体の悲鳴と認識すべき。

出典文献
Physical Fitness Training in Patients with Subacute Stroke (PHYS-STROKE): multicentre, randomised controlled, endpoint blinded trial
Alexander H Nave, Torsten Rackoll, Ulrike Grittner,
BMJ 2019; 366 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l5101 (Published 18 September 2019)
Cite this as: BMJ 2019;366:l5101

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ICU患者への早期リハビリテーションは筋力を改善しなかった [運動健康法という妄想]

ICUへ入所中の重篤な患者に対し、早期のベッド内サイクリングと大腿四頭筋電気的刺激を組み合わせる、早期リハビリテーションによって、退院時の筋力などが通常ケアと比較して向上するかという研究。

当然ながら、筋力を含むその他の評価が通常ケアよりも改善することは無かった。鍼灸師ごときが言うのもなんですが、この研究は二重に馬鹿げていると思う。

先ず、機械的換気を必要とするようなICUの患者では、長期間におよぶベッドレストによって、“Intensive Care Unit-Acquired Weakness;ICUAW”が生じ、それは手足の筋力低下と呼吸機能に関連付けられている。しかしながら、重篤な患者の体力に訓練に耐える余力があるとは思えず、筋力の維持・回復が望めるとは考えられない。ICUAWを防ぐために利用できる運動は患者の一般状態によって制限されるはずである。一様に、早期に開始するのは乱暴であり、意義があるのか疑問。

そもそも、このようなトレーニングが可能な患者であれば、ICUに留め置く必要があるとは考えにくい。

第二点は、大腿四頭筋への電気刺激で筋力が増強すると考える発想。

別の研究で、マクマスター大学のミシェル・コー博士率いる CIHR の研究チームによる報告のように、退院時に速く歩行できたとして、効果的であったとする意見もあるが、、?。

本研究は、フランスの1100病院内のICUにおける無作為化臨床試験で、2014年7月から2016年6月まで登録して6か月間フォローアップしている。

介入群は、早期のベッド内サイクリングと大腿四頭筋の電気刺激(n = 159)。対照群は通常のケア (n = 155)。

メインアウトカムは、ICU退所時の筋力で、盲検された理学療法士によって評価。サブアウトカムは、人工呼吸器を使用しなかった日数、およびICUモビリティスケールスコア(0-10;高スコアほどより高い歩行能力)など。機能的自律と健康関連QOLは6ヶ月で評価。

314名の患者のうち、312名(平均年齢、66歳、女性、36%)が研究を完了し、78%が人工呼吸を受けた。

ICU退所時の世界平均メディカルリサーチ評議会スコア(The median global Medical Research Council score)は、介入群で48(四分位範囲[IQR]、29〜58)、通常ケア群51(IQR、37〜58) (中央値の差 −3.0 [95% CI, −7.0 to 2.8]; P = 0.28)で差は無し。

ICU退所時のICU移動度尺度は、両群で6(IQR、3〜9)(中央値差、0 [95%CI、-1〜2]; P = 0.52)。 28日間の人工呼吸器無しの日数の中央値は、介入群で21(IQR、6~25)、通常ケア群で22(IQR、10~25)(中央値差、1 [95%CI、-2 〜3]; P =0 .24)で、全く差は無し。

臨床的に重要なイベントの発生は、介入群で7名(4.4%)、通常ケア群で9名(5.8%)。6カ月後の評価では、群間に有意差はなかった。

私には、患者の状態・状況を考慮せずに「運動・筋力増強」と叫ぶ、「筋トレ妄想」に思われる。

追伸

うっかり書き忘れたが、肝心な、メインアウトカムの筋力評価の結果がこの文献の要約には記されていない。結論で、大腿四頭筋の筋力が改善しなかったとだけ述べられている。

出典文献
Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults, A Randomized Clinical Trial.
Guillaume Fossat, Florian Baudin, Léa Courtes, et al.,
JAMA. 2018;320(4):368-378. doi:10.1001/jama.2018.9592

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ランニングは本当に健康を改善するのか? [運動健康法という妄想]

ランニングなどの定期的な運動は、多くの一般的な慢性疾患の予防および治療に非常に有効であり、特に、心臓血管の健康を改善して寿命を延長すると言われている。

しかし、薬理作用物質と同様に、物理的身体活動の副作用(筋骨格系外傷、代謝性障害、心血管系ストレスなど)がその恩恵を上回る可能性がある。

安全な上限線量限界が潜在的に存在するはずだが、適切な運動量について、依然として満足のいく答えが得られているとは言いがたい。 そもそも、一般の大部分の人たちは特別な運動はせずとも普通に生きている。

座っていることが多い人では、1日当たり15分というわずかな運動で実質的な健康上の利益が得られ、これらの利益は用量依存的に1日当たり約1時間まで同様である。52,000人の成人を対象とした15年間の観察研究では、ランナーは非ランナーと比較して全死因死亡率が19%低かった。主に高齢者では、30分間の運動セッションで酸化ストレスが軽減して動脈弾力性が改善されたが、60分間のセッションでは酸化ストレスが増悪し、脈波伝播速度が増加した。

マラソンや他の極端な耐久イベントのトレーニングや競技の際には、感受性の高い個体において有害な心血管効果を生じる。心筋トロポニン、クレアチンキナーゼMB、およびB型ナトリウム利尿ペプチドを含む心臓損傷の血清学的マーカーは、マラソン実行中およびその後において、参加者の50%まで増加することが報告されている。

極端な身体活動後のトロポニンを含む心臓バイオマーカーのレベルの増加は心筋細胞の損傷を反映している可能性がある。

長期間にわたる過度の持久運動は、心臓および大動脈の病的なリモデリングを誘発し得る。マラソン、ウルトラマラソン、トライアスロン、および長距離自転車競技など、極端な持久力イベントにおける継続的訓練および競技は、心房および右心室の一時的急激な容積過負荷を引き起こし、1週間以内に正常に戻る心臓バイオマーカーの増加を招く。

一般的には、身体活動への長期的な適応から生じる一時的良性的な増加である可能性があると主張されている。しかし、バイオマーカーの上昇の意義の真実は不明である。

数ヶ月から何年もの間繰り返す傷害のために、個人によっては、特に心房、心室中隔および右心室において斑状の心筋線維症をもたらし、心房および心室性不整脈の基質を生成する。さらに、長期間にわたる持続的な運動は、冠動脈石灰化、拡張機能不全、および大動脈壁の硬化に関連し得る。蓄積された証拠は、短期間の強い身体活動と累積持久運動の両方の副作用が右心室で最も顕著であることを示唆している。

休息時の心拍出量は約5リットル/分であるが、激しい身体活動中には約25リットル/分まで増加する。長期間に続けられるセッションによって、再発性の腔の伸張およびチャンバーの幾何学的形状の再構築により、RVおよびRAの慢性的な拡張を含む構造変化の発生が起こる可能性がある。このような、再発性の容積過負荷および過剰な心臓の緊張に応答して瘢痕化する。これらの異常はしばしば無症候性であり、おそらく長年月におよんで、心房細動や心室性不整脈(VAs)のような深刻な不整脈を発症する可能性がある。

引用文献
Potential Adverse Cardiovascular Effects From Excessive Endurance Exercise
James H. O'Keefe, Harshal R. Patil, Carl J. Lavie, Anthony Magalski, et al.,
Mayo Clin Proc. 2012 Jun; 87(6): 587–595.
doi: 10.1016/j.mayocp.2012.04.005

Lee J., Patte R., Lavie C.J., Blair S.N. Running and all-cause mortality risk: is more better? Med Sci Sports Exerc. 2012;44(6):990–994.

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Sheppard M.N. The fittest person in the morgue? Histopathology. 2012;60(3):381–396. [PubMed]

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運動介入は軽~中等度認知障害に対する進行遅延効果無し [運動健康法という妄想]

軽度から中等度の認知症患者の認知障害および他の転帰に対し、中程度〜高強度の好気性および筋力トレーニングによって体力は改善したが、その他の臨床的アウトカムを改善させる効果は認められなかった。さらに、差はわずかだが、運動介入群のほうが認知障害が進行した。
この知見は、オックスフォード大学Sarah E. Lamb氏らによる、無作為化臨床試験「Dementia And Physical Activity:DAPA試験, BMJ誌2018年5月16日号)の結果によるもの。

すなわち、運動が日常生活の活動、行動成果、および健康関連の生活の質を改善させることはなく、むしろ認知機能を悪化させる可能性すらあるということ。

私にとっては、納得のいく結果である。何か楽しいことをする。その目的のために体を動かして頭も使う。このような活動は認知機能にとっても有益であろうが、運動そのものに効果があるとは考られない。

因みに、私は、中学・高校の体育の授業や部活以来これといった運動もスポーツも一切していないし、「健康法」など考えたことも無いが、全く問題は無い。昨年の5月に、たまたま、ある植物の毒で軽く死にかけたのだが、その際、病院退職後30数年ぶりに血液検査を受け、その他に、心電図、心エコー、胸部レントゲン、および頭部CT検査も行った。恐らく、オレアンドリンなどの強心配糖体による心筋へのダメージによると思われる、LDH(261)の若干の増加と、V1~V3誘導にSTの逆転が見られたが、それ以外は全て正常であった。

従来、一般世間のみならず医師たちでさえ、運動によって認知機能の低下を予防、あるいは改善できるなどとする、勝手な思い込みや希望的予測がある。しかしこれまでに、無作為化試験に基づくような十分なエビデンスは存在しなかった。

この研究の対象者は、イングランドの15地域から、NHSプライマリケアの患者、大学のコミュニティ&メモリサービス利用者、認知症研究登録者、およびボランティアの494名。参加者の平均年齢は77歳(SD 7.9歳)で、301/494(61%)は男性。

2対1の割合で、329名を運動介入群、165名を通常ケア群に無作為に割り付けた。運動介入群は、通常ケアに加えて、監督下で行う運動を地域のジム施設およびNHSの施設において4ヵ月間実施し、その後、継続的に運動に関するサポートを受けた。

メインアウトカムは、アルツハイマー病評価スケール下位項目(ADAS-cog)の12ヵ月時点のスコアであった。セカンドアウトカムは、ADL、神経学的症状、健康関連QOL、要介護度など。運動介入群の体力測定として、6分間歩行テストなどが行われた。

12ヵ月で、平均ADAS-cogスコアは介入群で25.2(SD 12.3)、通常ケア群で23.8(SD 10.4)(グループ差-1.4,95%信頼区間-2.6〜-0.2、 P = 0.03)。平均差が小さく、臨床的関連性は不確実だが、運動群において認知障害が大きい。認知症タイプ(アルツハイマー病またはその他)、認知障害の重症度、性別、および運動性によって、セカンドアウトカムおよびサブグループ分析に差異は認められなかった。参加者のうち65%以上(214/329人)が予定されたセッションの4分の3以上に参加。 6分間歩行距離が改善した(平均変化18.1m、95%信頼区間11.6m〜24.6m)。

「運動によって痴呆症が進行する可能性がある」、とすると、そのメカニズムは如何なるものか。

私なりの推測を述べると、2つの要因が思い浮かぶ。第1は、筋への血液の集中による他臓器の虚血と、その後の再環流にともなう活性酸素の多量発生による傷害。第2は、運動の継続によるHDLコレステロールの増加。運動をしている人は、しない人に比べてHDLコレステロールが30~40%高い。一般には善玉と言われているHDLコレステロールだが、老年性痴呆症の患者ではHDLは高く、その意味合いは時と場合によって異なる。

また、この研究では、認知症のタイプでセカンドアウトカムやサブグループ分析に差は認められなかったと記されているが、ADAS-cogについては判然としない。

別の研究(*)では、認知症タイプによって運動プログラムに対する応答に差異があることが報告されている。非アルツハイマー型認知症の参加者は、アルツハイマー型認知症よりも運動による効果が大きく良好な認知機能を有していた。非アルツハイマー型痴呆の参加者の82%が血管起源の痴呆または脈管成分を伴う痴呆を有すると考えると、運動介入は血管リスク因子に影響をおよぼす可能性がある。

個人的には、認知機能の評価法に疑問がある。また、人の脳機能は複雑であり、単純な尺度で評価できるとは考えにくい。認知症の実体は単一の病態で構成されているとみなすべきではなく、症状管理を最適化するためには異なる戦略を必要とするのではないだろうか。

出典文献
Dementia And Physical Activity (DAPA) trial of moderate to high intensity exercise training for people with dementia: randomised controlled trial
BMJ 2018; 361 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k1675 (Published 16 May 2018)
Cite this as: BMJ 2018;361:k1675


Effects of a High-Intensity Functional Exercise Program on Dependence in Activities of Daily Living and Balance in Older Adults with Dementia
Annika Toots, Håkan Littbrand, Nina Lindelöf, Robert Wiklund, Henrik Holmberg,et al.,
J Am Geriatr Soc. 2016 Jan; 64(1): 55–64.
Published online 2016 Jan 19. doi: 10.1111/jgs.13880
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高血圧症では運動昇圧反射が過剰となる [運動健康法という妄想]

運動は自立神経障害患者の機能的能力を改善し、心血管系疾患やⅡ型糖尿病を予防すると言われている。運動に伴う“運動昇圧反射exercise pressor reflex”は、骨格筋から発生した機械性および代謝性信号が脳の心血管中枢にフィードバックするもので、筋への灌流量を増加させ、心拍出量も酸素摂取量に比例して増加する。これは、迷走神経活動の低下によるもので、運動強度が最大平衡状態に達するまでは全身の交感神経活動増加の証拠は無いと自律神経学の本(例えば、ロバートソン自律神経学)には記されている。

このような根拠によって、抗高血圧症治療法として運動療法が処方されているが、事はそう単純ではない。高血圧症患者では、運動時に骨格筋からの刺激が過剰となり、交感神経活動を反射性に増加させて血圧を上昇させることが多くの研究で報告されており、この過剰な運動昇圧反射の生成には筋の mechanoreflexが関与している(Leal et al., 2008)。

残念なことに、身体活動中の血行動態の異常な変化は、運動中または直後に心臓血管や脳血管イベントのリスクを増加させる(Hoberg et al., 1990; Mittleman et al., 1993; Mittleman et al., 1996; Kokkinos et al., 2002)。それは、高血圧の非薬理学的治療としての運動処方の安全性を問うものとなる。

高血圧症における Mechanoreflex 機能障害は動物モデルによって実証されている。例えば、高血圧ラット (人間の本態性高血圧のモデル)の骨格筋を受動的に伸ばすと、心拍数と腎交感神経活動、および血圧が著しく上昇することが報告されている(Leal et al., 2008; Mizuno et al., 2011a)。

現時点では、高血圧症における mechanoreflex 機能不全の病態の末梢メカニズムを示す証拠はほとんど存在しない。一方、最近のデータでは、孤束核(nucleus tractus solitarius)内の一酸化窒素経路 (脳幹内の mechanoreflex 体性感覚の入力の初期処理のためのプライマリセンター)の異常が示唆されている(Kalia et al., 1981; Person, 1989; Toney et al., 1994; Toney et al., 1995)。

孤束核内のNO前駆体 L-アルギニンの低用量 (1 μ m) の透析によって、正常と高血圧ラットの両方において、受動的な筋の伸張によって誘発される昇圧応答が減少した。

高血圧ではアンジオテンシンII (Ang II) が増加する。このペプチドはnicotinamide-adenine dinucleotide phosphate(NADPH)酸化酵素を刺激することで、スーパーオキシドや他の活性酸素の産生を誘発して活動筋反射の賦活に貢献する(Koba, S., Gao, Z. & Sinoway, L. I.2009)。高血圧症ではAng II が活性酸素を増加させることで活動筋反射を過剰にすると報告されている

これらの知見から、高血圧症患者への鍼治療において、筋の緊張を緩和することによって血圧を低下させようとする方法には注意が必要となる。但し、高血圧で活動筋反射を過剰にする機構は正確には明らかになっていない。

引用文献
.Kalia M, Mei SS, Kao FF. Central projections from ergoreceptors (c fibers) in muscle involved in cardiopulmonary responses to static exercise. Circ Res. 1981;48:I48–I62. [PubMed]

Person RJ. Somatic and vagal afferent convergence on solitary tract neurons in cat: electrophysiological characteristics. Neurosci. 1989;30:283–295. [PubMed]

Toney GM, Mifflin SW. Time-dependent inhibition of hindlimb somatic afferent inputs to nucleus tractus solitarius. Journal of Neurophysiology. 1994;72:63–71. [PubMed]

Toney GM, Mifflin SW. Time-dependent inhibition of hindlimb somatic afferent transmission within nucleus tractus solitarius: an in vivo intracellular recording study. Neuroscience. 1995;68:445–453. [PubMed]

Anna K. Leal, Jere H. Mitchell, A. Smith,TREATMENT OF MUSCLE MECHANOREFLEX DYSFUNCTION IN HYPERTENSION: EFFECTS OF L-ARGININE DIALYSIS IN THE NUCLEUS TRACTUS SOLITARII, Exp Physiol. Author manuscript; available in PMC 2014 Sep 1.

Koba, S., Gao, Z. & Sinoway, L. I.:Oxidative stress and the muscle reflex in heart failure. J.
Physiol., 587:5227-5237, 2009.

アンジオテンシンII が運動時の交感神経賦活に与える影響,木場智史, 上原記念生命科学財団研究報告集, 25 (2011)

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持久力運動と筋のテロメア長は相関したと報告 [運動健康法という妄想]

 持久力トレーニングに従事する高齢選手は平均的活動レベルの高齢者と比較してより長いテロメア長をもっており、最大酸素摂取量がテロメア長と正に相関していたと報告されています。

 テロメアは細胞年齢の潜在的なマーカーであり、物理的な老化プロセスに関連付けられています。また、長期的な持久力トレーニングと高い有酸素運動能力(VO2max)は生存率の改善と関連しており、運動の動的効果は加齢とともに明らかであるされています。しかし、運動トレーニングと最大酸素摂取量とテロメアの長さとの関連性は一貫していませんでした。この研究は、若者と高齢者の筋のテロメア長が、持久性運動トレーニングと最大酸素摂取量に関連付けられているかを評価したものです。

 持久力訓練を受けた高齢選手は、平均的活動レベルの高齢者と比較してより長いテロメアを有していました(T/S ratio 1.12±0.1 vs. 0.92±0.2, p = 0.04)。しかし、若い持久力訓練を受けた選手のテロメア長と若い非競技者で差はありませんでした(1.47±0.2 vs. 1.33±0.1, p = 0.12)。

 全体的に、T / S比と最大酸素摂取量(VO2max) との間に強い相関が認められました(r = 0.70, p = 0.001)。また、持久力訓練を受けた選手では、最大酸素摂取量とT / S比との間に強い相関が認められました(r = 0.78, p = 0.02)。しかし、非アスリートの参加者では、対応するアソシエーションは弱い相関性を示しました(r = 0.58、P = 0.09)。

 この結果にて、「持久性運動トレーニングはテロメア長を維持することによって、老化プロセスの減速を調節できることを示唆している」と、著者はPLoS ONEのオンラインに記しています。

 しかし、事はそう単純ではありません。テロメア長イコ-ル寿命ではありませんので、この結果によって老化を抑制できるとは言えません。

 またこの研究の限界として、サンプルサイズが小さく男性のみであること。テロメアの長さは同じ個体の中でも臓器によって違うこと(最近の研究では、筋肉のテロメアは積極的に白血球のテロメアと相関していると述べられていますが)。ビタミンや抗酸化物質の摂取の情報や酸化ストレスの測定など、不明または未測定要因の残留交絡因子が除外されていないことなどが挙げられます。

 これらの問題以前に、人間の老化は複雑かつ漸進的なプロセスであり、これを分析するのに適した分子マーカーは未だ存在していません。年表の直接の関数としての個人の健康状態の判定は、非常に高感度で特異的なバイオマーカーを必要とします。生物学的年齢は、細胞、組織、臓器や器官のレベルで構成されています。ベイカーとスプロット基準の条件を満たすことができるような、生物学的年齢を検証できるマーカーが必要となります。

 バイオマーカーのホストがテストされていますが、2つのマーカーがこの基準を満たす候補となる可能性があります。それは、このテロメアとCDKN2Aです。但し、テロメア長はかなり弱いバイオマーカー(*1)であることが証明されています。 CDKN2Aはテロメア長と時系列の年齢の両方に優れていると証明されています(*2.3)。

 テロメア長の個人間の変動は数多くの社会経済やライフスタイル、およびエピジェネティックな交絡因子の影響に加え、数多くの方法論的問題を含んでいます。

 このような観点から、テロメアは、老化病の研究として大規模臨床あるいは実験室での研究には非常に適していますが、個人の健康状態を判断するなどとして商業的に利用することは時期尚早です。この点にくれぐれも留意してほしいのです。

Osthus I, et al.
Telomere length and long-term endurance exercise: Does exercise training affect biological age? A pilot study
PLOS ONE 2012; DOI: 10.1371/journal.pone.0052769.

*1. Koppelstaetter C, et al. Aging Cell. 2008; 7:491-7.
*2. McGlynn LM, et al Shiels PG. Aging Cell 2009; 8:45-51
*3. Shiels PG. J Gerontol. 2010 65(8):789-91

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