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妊娠中の喫煙者がVCを摂取すると子供の喘鳴が減少する [医学一般の話題]

妊娠中に母親が喫煙と同時にバイタミンC(VC)を摂取すると、その子供は喘鳴の発生が減少する。

*因みに、この国では、科学者や医師でさえ「ビタミン」と言っていますが、そのような言葉は存在しないのであって、正しくは「バイタミン」と発音します。

妊娠中に喫煙した女性を無作為にVC 500 mg/日またはプラシーボ投与群に割り付け、乳児肺機能に対する妊娠中の喫煙とVC摂取の影響について調査。

VCコホートとプラシーボコホートの両方で、母親は登録前1週間に1日あたり約8本のタバコを吸い、その後、子供が1歳になるまでに1日あたり約10本のタバコを吸った。

研究者らは、子孫が生後3か月、12か月、60か月のときに採取されたFEF測定値を分析。喘鳴は、四半期ごとに標準化された呼吸器アンケートを通じて評価。

生後3ヵ月、12ヵ月、および60ヵ月における呼気量25%〜75%(FEF25%〜75%)の強制呼気流量の縦断的分析では、母親がVCを摂取した子供は、プラシーボを受けた母親の子供と比較して有意に高い値が示された( P<0.001)。さらに、生後はサプリメントを摂取していないにもかかわらず、年齢が上がるにつれてFEF25%〜75%がより大きく増加した。

重要なのは、この研究結果によって、妊娠中の母親の喫煙と子供の喘鳴の発生との間に直接的な関連性があるという証拠が示されたことにある。

因みに、Forced expiratory flow (FEFx, VmqxX);努力性呼気流量とは、努力性呼出曲線のある特定部分の流量を表すもので、FEF25-75%はFVCの25%から75%までの平均呼気流量(MMF)を示す。

少々疑問なのは、電子スパイロメーターの検査は大人でもなかなかうまくできないのであり、まして、生後3ヵ月や12ヵ月の子供に強制呼気流量など測定できるとは思えないのですが。

出典文献
Vitamin C supplementation among pregnant smokers and airway function trajectory in offspring: a secondary analysis of a randomized clinical trial.
McEvoy CT, et al.
JAMA Pediatr 2024; DOI:10.1001/jamapediatrics.2024.0430.

引用文献
Why Do Kids of Smokers Wheeze Less When Mom Took Vitamin C During Pregnancy?
— Outcomes appear to be mediated by vitamin C's effect on improved airway function
by Elizabeth Short, Staff Writer, MedPage Today April 8, 2024

急性虚血性脳卒中患者の血栓除去術前に頭を水平に保つと神経学的悪化が減少する [医学一般の話題]

機械的血栓除去術を予定している大血管閉塞(LVO)急性虚血性脳卒中患者において、CT スキャン後にキャスター検査を待つ間に頭を0度の角度で平らに保つと、通常の30度の角度と比較して、初期の神経学的悪化の症例が50分の1に減少することがZODIAC試験で示された。90日死亡率も30度体位群の方が高かった(21.74% vs 4.44%、P = 0.03)。

脳卒中スケール(NIHSS)スコアの少なくとも2ポイントの増加率は、頭位0度ではわずか2.22%であったのに対し、ヘッズアップ群では55.32%であった(P<0.001)と、アン・アレクサンドロフ氏(テネシー大学健康科学センター)は報告した。

体位性脳虚血は長い間注目されており、アレクサンドロフのグループは以前、平らな体位で超急性LVOの脳血流が20%増加することを報告している。

血栓除去術を行う能力がないため、搬送しなければならない患者が病院に到着した場合、その影響はさらに重大であると述べている。0度ポジショニングの使用は、大きな血管を管理する上で最も重要な最初のステップの 1 つである可能性があると主張しており、CT 血管造影の確認が取れたらベッドの頭を下ろして下さいと述べている。

出典文献
Before Stroke Thrombectomy, Keep the Bed Flat, Trial Says
— Tilting the head of the bed up during early window in large vessel occlusion hurts outcomes
by Crystal Phend, Contributing Editor, MedPage Today February 7, 2024

Primary Source
Zero degree head positioning in acute large vessel ischemic stroke,
Alexandrov A, International Stroke Conference, 2024; Abstract LB 1.

乳癌術後に放射線照射を受けた患者に対する高圧酸素療法による遅発性局所毒性影響 [医学一般の話題]

乳癌の術後補助放射線療法における、晩期局所毒性影響に対する高圧酸素療法(HBOT)の有効性を評価することを目的としたランダム化床試験の結果、痛みの軽減には効果がなかったが、線維症の軽減には効果があったと報告されています。

この試験では、2019 年 11 月から 2022 年 8 月まで、晩期局所毒性のある女性 125 人(年齢中央値 56 歳)に HBOT が提供され、61 人(年齢中央値 60 歳)が通常のフォローアップケアを受けました。 HBOTを申し出た女性のうち、受け入れて治療を完了したのはわずか31人(25%)でした。

HBOT では、絶対気圧2.0 ~2.5で100% の酸素を呼吸します。 その理論的根拠は、高圧と100% 酸素吸入の組み合わせにより、血液および組織内の酸素分圧が上昇して血管新生と照射組織の再生が誘発されると考えられています。

介入グループの患者は、2時間のセッションで20分ずつの間隔を4回、6~8週間にわたって30~40セッション、100%酸素を呼吸する必要がありました。この時間的な拘束性と治療負担は患者に多大な負担を強いることになり、HBOT を受け入れない理由となりました。

主要エンドポイントは、欧州癌研究治療機構 QLQ-BR23のアンケートによる、無作為化後6か月後の乳房、胸壁、および肩の痛み。二次エンドポイントは、患者が報告した線維症、浮腫、運動制限、および全体的な生活の質。データは、治療意図 (ITT) およびコンパイラー平均因果効果 (CACE) の原則に従って分析。

HONEY 試験では、2019 年 11 月から 2022 年 8 月まで、晩期局所毒性のある女性 125 人(年齢中央値 56 歳)に HBOT が提供され、61 人(年齢中央値 60 歳)が通常のフォローアップケアを受けました。 しかし、HBOTを申し出た女性のうち治療を完了したのはわずか31人でした。

HBOT受容率の低さと「その結果生じるHBOT効果の希薄化」を補うため、HBOTを受けた女性と対照群の推定サブグループ間の転帰を比較する、コンパイラー平均因果効果(CACE)分析を実施。 CACEでは、HBOTは痛みの軽減と関連していた(32% vs 75%、OR 0.34、95% CI 0.15-0.80、P = 0.01)。

CACE 分析では、線維症の報告頻度は低く、HBOT を完了した女性の17% が中等度または重度の線維症を報告したのに対し、HBOTが提案されていれば完了したであろう女性の86% が発症(OR 0.14、95% CI 0.04-0.48、P = 0.001)。

治療意図分析またはCACE分析のいずれにおいても、乳房浮腫、運動制限、および生活の質に群間で有意差は認められませんでした。

放射線照射に対する生体の防御機能として、組織、臓器に炎症および線維化が生じる。放射線誘発肺線維症は、肺癌や乳癌などの胸部の悪性腫瘍に対する放射線治療の際に、最も重要視される有害事象であり、,正常組織の線維化による障害の程度を可能な限り軽減することが求められる。
.
高圧酸素療法によって肺の線維化が軽減できるのは、血液および組織内の酸素分圧の上昇による血管新生と照射組織の再生が誘発されるためなのか、興味深いですが、痛みには効果ないとのことでした。

追伸
余談ですが、昔(40年以上前)勤めていた東京の某病院でのことです。麻酔医のミスで挿管に手こずり、その間の酸欠によって虚血性の脳梗塞になった患者の麻痺の回復が思わしくないため、「高圧酸素療法」を受けたのですが麻痺は改善しませんでした。仕事への復帰は絶望的で、私が行く以前は看護師などに当たり散らしていました。リハビリ開始後徐々に落ち着かれ、その患者曰く、唯一良かったのは頭の毛が再び生えてきた事だと笑いながら話されていました。恐らく、この研究報告と同様のメカニズムで、「高圧酸素療法」は禿げにも効果があるようです。

出典文献
Hyperbaric Oxygen Therapy and Late Local Toxic Effects in Patients With Irradiated Breast Cancer
A Randomized Clinical Trial
Dieuwke R. Mink van der Molen, Marilot C. T. Batenburg, Wiesje Maarse, et al.
JAMA Oncol. Published online February 8, 2024. doi:10.1001/jamaoncol.2023.6776

引用文献
Hyperbaric Oxygen Therapy Shows Some Benefit After Breast Cancer Irradiation
— However, most women declined the therapy in this study
by Mike Bassett, Staff Writer, MedPage Today February 8, 2024

腰部脊柱管狭窄症に対する減圧手術後の硬膜嚢断面積は臨床転帰に関連しない [医学一般の話題]

腰部脊柱管狭窄症に対する減圧手術後の術後硬膜嚢断面積(DSCA)と臨床転帰との関連性を調査した研究の結果、減圧の程度と、2年後における “the patient-reported outcome measures :PROMs”との間に関連性は見出されませんでした。

一般に、下部脊椎の変性変化によって、腰部レベルの1カ所または複数で硬膜嚢断面積 (DSCA)が減少して狭窄を引き起こします。したがって、後方減圧術を実行する理論的根拠は狭窄の軽減です。しかし、臨床的改善を達成するためにはどの程度の後部減圧を行う必要があるか、DSCAをどの程度増加させる必要があるか、または、そもそも減圧術に効果があるのかについての確かな証拠はありません。

研究デザインは、「前向きコホート研究」。すべての患者は、ノルウェー変性脊椎すべり症および脊椎狭窄症(NORDSTEN)研究の脊椎狭窄症試験に参加。 患者は 3つの異なる方法に従って減圧を受けた。

合計 393 人の患者について、ベースラインおよび 3 か月の追跡調査時にMRIで測定された DSCA、および2年の追跡調査時に患者が報告した転帰が登録されました。 平均年齢は68歳(SD:8.3)、男性の割合は204/393人(52%)、喫煙者の割合は80/393人(20%)、平均BMIは27.8(SD:4.2)。

コホートは、術後に達成されたDSCA、DSCAの数値的および相対的な増加に基づいて五分位に分割され、DSCAの増加と臨床転帰との関連性を評価。

ベースラインでは、コホート全体の平均 DSCA は 51.1 mm2 (SD: 21.1)。 術後、面積は平均 120.6 mm2 (SD: 46.9) に増加。 最大の DSCA を持つ五分位におけるオスウェストリー障害指数の変化は -22.0 (95% CI: -25.6 ~ -18) であり、最も低い DSCA を持つ五分位におけるオスウェストリー障害指数の変化は -18.9 (95% CI: - 22.4から-15.3)。異なる DSCA 五分位の患者の臨床改善には差は認められなかった。

LSSの手術を受けた患者の間では、術後早期のDSCAおよび3か月のDSCA変化によって測定された減圧の程度と、2年の時点での “the patient-reported outcome measures :PROMs”との間に関連性は見出されなかった。 これは、術後 DSCA が最も低い五分位の患者でも十分な減圧を達成していたこと、および観察された臨床結果のばらつきのより重要な決定要因は他にあることを示している可能性があります。また、適切な臨床的改善をもたらすDSCAの増加の閾値または最小値を検出できませんでした。

DSCAが最も低い患者の五分位では、臨床結果は最も広範な減圧を行った五分位の結果と同等でした。 これは、術後少なくとも 2 年までは、それほど包括的でない減圧法が効果的である可能性があることを示唆しています。

出典文献
Postoperative Dural Sac Cross-Sectional Area as an Association for Outcome After Surgery for Lumbar Spinal Stenosis
Clinical and Radiological Results From the NORDSTEN-Spinal Stenosis Trial
Hermansen, Erland Myklebust, Tor, Weber, Clemens, et al.
Spine 48(10):p 688-694, May 15, 2023. | DOI: 10.1097/BRS.0000000000004565

消毒手順を遵守していても病院設備の表面では様々な細菌が繁殖している [医学一般の話題]

日常的な消毒を遵守しているにもかかわらず、病院施設の表面には微生物汚染が依然として残っており、回収されたすべての細菌の病原性が実証されています。

セントラル・テキサス退役軍人医療システムのピヤリ・チャタジー博士らの研究の結果、2022年6月から7月にかけて、人の接触が多いエリアから採取した400のサンプルから18の有名なヒト病原体を含む60種類の細菌を特定したと報告されています。

分離された病院表面細菌の約半数(60 個中 29 個)は、施設の患者から収集された臨床サンプルからも検出されました。 これらの細菌の中で最も一般的な感染源は尿で、次に皮膚と軟組織、血液が続きました。

グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方が分離されましたが、グラム陽性菌の方が一般的でした (12 対 6)。 病原性グラム陽性菌の最も一般的な種類には、セレウス菌群、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、ミクロコッカス・ルテウス、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、および連鎖球菌が含まれます。 表面から分離された一般的なグラム陰性病原体には、Citrobacter freundii、Enterobacter hormaechei、Escherichia coli、Klebsiella aerogenes、Pseudomonas aeraginosa、および Stenotrophomonas maltophilia が含まれます。

あまり知られていない病原体には、アクチノミセス グラベニツィイ、エンテロコッカス サッカロリティカス、アシネトバクター属などが含まれ、その一部は免疫不全の人に髄膜炎、心内膜炎、中心線関連血流感染症などの重篤な感染症を引き起こす可能性があります。

ミネアポリスのミネソタ大学医学部のスーザン・クライン医学博士は、MedPage Todayに対し、この研究結果を、医師、看護師、そしてすべての補助労働者は認識する必要があると述べています。

しかし、ノースカロライナ州チャペルヒルのUNCメディカルセンターのデビッド・ウェーバー医師、MPH、そしてアメリカ医療疫学協会の次期会長は、この研究結果は驚くべきことではなく、私たちは無菌の世界に住んでいるわけではないと指摘しています。

私も全く同感です。

ついでに言えば、例え、念入りに消毒したとしても細菌を全て死滅させることは不可能であり、数十分もすれば細菌群は元通り復活します。微生物はたくましく、その世界は深淵で複雑でありヒトごときがコントロールできることではありません。ウイルスだけでも、人体の総細胞数の10倍以上が共生しています。体内、皮膚表面、さらに、周囲の環境中には途方もない数の微生物たちが生息しており、我々と共生しています。

出典文献
Understanding the significance of microbiota recovered from health care surfaces
Chetan Jinadatha, Thanuri Navarathna, Juan Negron-Diaz, et al.
American Journal of Infection Control
Am J Infect Control 2024; DOI: 10.1016/j.ajic.2023.11.006.

引用文献
Despite Disinfection, Bugs Thrive on High-Touch Hospital Surfaces
— Unusual pathogens may pose threat to immunocompromised patients, researchers say
by Katherine Kahn, Staff Writer, MedPage Today January 11, 2024

毎日の歯磨きがICUにおける肺炎発生率を減少させた [医学一般の話題]

院内肺炎 (Hospital-acquired pneumonia :HAP) は最も一般的で病的な医療関連感染症ですが、効果的な予防戦略に関するデータは限られています。

本研究では、毎日の歯磨きによってHAP率の低下、ICU死亡率の低下、人工呼吸器の使用期間の短縮、およびICU滞在期間の短縮に関連している可能性が示され、特に、人工呼吸器を受けている患者ではHAP発生率が大幅に低下したと報告されている。

研究デザインは、体系的レビューとメタ分析。

データソース PubMed、Embase、Cumulative Index to Nursing and Allied Health、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、Scopus、および 3 つの試験レジストリの検索は、開始から 2023 年 3 月 9 日まで実行。

研究の選択 入院中の成人を対象としたランダム化臨床試験で、歯磨きを伴う毎日の口腔ケアと歯磨きをしないレジメンを比較。

データの抽出、合成 データの抽出とバイアスのリスク評価は 2回実行。 メタ分析は変量効果モデルを使用。

主要アウトカムはHAPの発症。 副次アウトカムは、病院および集中治療室(ICU)における死亡率、人工呼吸器の使用期間、ICUおよび入院期間、抗生物質の使用など。サブグループには、侵襲的人工呼吸器を受けた患者と受けなかった患者、1日2回の歯磨きとそれ以上の頻度、歯科専門家による歯磨きと一般看護スタッフ、電動歯ブラシと手動歯磨き、およびバイアスのリスクが低い場合と高い場合の研究が含まれた。

肺炎発生率の減少は、侵襲的人工呼吸器を受けている患者はRR:0.68(95% CI、0.57-0.82)で大きかったが、侵襲的人工呼吸を受けていない患者ではRR:0.32(95% CI、0.05-2.02)と小さかった。

ICU にいる患者の歯磨きは、人工呼吸器の日数が減少し(平均差、-1.24 [95% CI、-2.42 ~ -0.06] 日) 、ICU 滞在期間の短縮 に関連していた(mean difference, −1.78 [95% CI, −2.85 to −0.70] days)。 1日2回のブラッシングとそれ以上の頻度のブラッシングでは、同様の効果推定値が得られた。

結果は、バイアスリスクが低い7件の研究(患者1,367人)に限定した感度分析で一貫していた。但し、 ICU 以外での入院期間と抗生物質の使用は歯磨きとは関連していなかった。

出典文献
Association Between Daily Toothbrushing and Hospital-Acquired Pneumonia
A Systematic Review and Meta-Analysis
Selina Ehrenzeller, Michael Klompas,
JAMA Intern Med. Published online December 18, 2023. doi:10.1001/jamainternmed.2023.6638

僧帽筋の炎症と浮腫が緊張型頭痛および片頭痛に関連すると報告 [医学一般の話題]

研究結果から、一次性頭痛の病態生理学における首の筋肉の役割が裏付けられたとし、首の筋肉をターゲットにした治療は、頭痛だけでなく首の痛みも同時に軽減できる可能性があると述べられている。

これは、ドイツのウルム大学病院の Nico Sollmann 医師による、北米放射線学会の年次総会でのプレゼンテーションにおける報告。

しかし。

今頃、この様なことに気づいたのだろうか。一般的な頭痛の場合、鍼治療によって容易に即効的に消失する。通常はC2レベル付近の筋緊張を緩和させるが、頭痛が側頭部や目の周囲の場合には、乳様突起直下(詳細は営業秘密)へ深く刺して患部へ響かせると数分で消失する。「ズキズキと痛む」血管性の痛みであれば、頚の前方、胸鎖乳突筋の内側の硬結を緩めることで数分で軽快する。

訴えが多い患者や認知症など、脳に何らかの問題がある患者では、僧帽筋の附着部周辺に異様な浮腫や斑点状の赤い充血が見られ、患者によっては堅く膨張している。これらの異常も刺鍼することで軽減し、頭痛も緩和される。いずれも容易いことである。

医師には鍼治療の経験は無く、その有益性が理解できないことはやむを得ないことだが。


研究チームは予備研究に50人を登録した。 参加者の年齢は20歳から31歳までで、82%が女性。合計32% が緊張型頭痛、24% が緊張型と片頭痛の混合型頭痛、および44% が頭痛のない対照者。

1か月あたりの平均頭痛日数は、対照群と比較して頭痛群の方が有意に長く、それぞれ10.1日、10.3日、1.9日でした。 首の痛みも頭痛群で顕著に多くみられ、緊張型頭痛単独群では63%、混合型頭痛群では83%だったのに対し、健康な対照群では0。

緊張型頭痛と片頭痛の混合型頭痛を持つ患者は、筋肉の T2MRI値が最も高く (右側と左側で 31.4 ミリ秒)、平均値は緊張型頭痛のみの患者 (30.8 ~ 30.9 ミリ秒) および健康な対照と比較して有意に高かった。 (30.0 ~ 30.2 ミリ秒; 各比較で P<0.001)

僧帽筋の T2 信号が高いほど、頭痛の日数が長くなり (β 係数 = 2.04、95% CI 0.05 ~
4.03、P = 0.04)、首の痛みの可能性が 2 倍となった (OR 2.26、95% CI 1.04 ~ 4.90、P =0.04)。

定量化された首の筋肉の炎症性変化は、頭痛を抱えた日数や主観的に認識される首の痛みの有無と有意に相関しており、これらの変化により、健康な人と一次性頭痛に苦しむ患者を区別できるようになると述べられている。

但し、著者も指摘しているように、脳と身体の間には相互関係があるため、この予備データに見られる関連性は、首の筋肉が頭痛の一因である可能性もあればその逆の可能性もあることに留意する必要がある。

米国の成人3人に2人が緊張型頭痛に悩まされており、片頭痛は3,700万人ものアメリカ人に影響を与えていると指摘している。これらの頭痛は通常、ストレスや筋肉の緊張に関連しているが、その正確な原因は完全には不明と記されている。

現段階では診断研究であり、健康な被験者の緊張型頭痛と片頭痛を区別するために、画像に基づいた客観的なバイオマーカーを確立しようとしている。また、治療の方向性として、首の筋肉に磁気刺激を与えることを予定しているとのことで、首レベルと脳レベルの両方で痛みを軽減する効果的な治療法となる可能性があると述べているが、無意味だと思う。

出典文献
Common Headaches May Be Pains in the Neck
— Imaging links inflammation to migraine and tension headaches
by Ed Susman, Contributing Writer, MedPage Today November 29, 2023

Primary Source
Radiological Society of North America
Sollmann N, et al "Neck pain and headache frequency are associated with trapezius muscle T2 from MRI in young adults with tension-type headache" RSNA 2023.

帯状疱疹生ワクチン接種後10 年間の有効性: [医学一般の話題]

帯状疱疹生ワクチン接種後10 年間の有効性を評価した調査では、有効性は初年度の 67% (95% 信頼区間 65% ~ 69%) から 10 年後には 15% (5% ~ 24%) に低下しました。また、帯状疱疹後神経痛に対するワクチンの有効性は、当初の83%(78%から87%)から10年後には 41% (17% から 59%) に低下しました。

2007 年 1 月 1 日から 2018 年 12 月 31 日まで、米国の統合医療提供システムである Kaiser Permanente 北カリフォルニアの電子医療記録を使用した現実世界のコホート研究。

1,505,647人のうち、507,444人(34%)が帯状疱疹生ワクチンを接種。75,135件の帯状疱疹発生例のうち、4,982人(7%)が帯状疱疹後神経痛を発症し、4,439人(6%)が眼性帯状疱疹を患い、556人(0.7%)が帯状疱疹で入院。

ワクチンの有効性は接種後 1 年目に最も高く、時間の経過とともに大幅に減少。

帯状疱疹に対するワクチンの有効性は、初年度の 67% (95% 信頼区間 65% ~ 69%) から 10 年後には 15% (5% ~ 24%) に低下。帯状疱疹後神経痛に対するワクチンの有効性は、83% (78% から 87%)から10 年後には41% (17% から 59%) に低下。 眼性帯状疱疹に対するワクチンの有効性は、5 年から 8 年未満の間に 71% (63% から 76%) から 29% (18% から 39%) に低下。

帯状疱疹による入院に対するワクチンの有効性は、5 年から 8 年未満の間に 90% (67% から 97%) から 53% (25% から 70%) に低下。

すべての追跡期間を通じて、ワクチンの全体的な有効性は帯状疱疹に対して 46% (45% ~ 47%)、帯状疱疹後神経痛に対して 62% (59% ~ 65%)、帯状疱疹眼科に対して 45% (40% ~ 49%) 。
尚、帯状疱疹による入院には66%(55%~74%)が反対しました。

帯状疱疹生ワクチンは摂取当初は効果的で、その後は大幅に低下しましたが、接種後 10 年たってもある程度の予防効果は残っていました。10年後の帯状疱疹に対する防御力は低いものの、症状として重要な、帯状疱疹後神経痛に対する防御力は41%と比較的高かったと著者らは記しています。半分以下ではありますが。

出典文献
Nicola P Klein, Joan Bartlett, Bruce Fireman, Morgan A Marks, John Hansen, et al.
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-076321 (Published 08 November 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:e076321

中性脂肪が高い高齢者ほど認知症リスクが低い [医学一般の話題]

中性脂肪レベルが高い高齢者ほど、アルツハイマー病のリスクが低いことが示唆されています。この研究では地域在住の高齢者を対象として、中性脂肪と認知症との関連を調査。

調査は、前向き縦断研究で、登録時に認知症や以前の心血管イベントのない65歳以上の成人を対象としたASPREEランダム化試験のデータを使用。

主要アウトカムは認知症の発症。その他には、複合的認知および領域固有の認知(全体的な認知、記憶、言語および実行機能、精神運動速度)の変化が含まれていた。 ベースラインの中性脂肪と認知症リスクとの関連性は、関連する危険因子を調整した Cox 比例ハザード モデルを使用して推定し、線形混合モデルを使用して認知変化を調査。

分析は、APOE-ε4 キャリア状態をさらに調整した利用可能な APOE-ε4 遺伝データを持つ参加者のサブコホートと、同様の選択基準が適用された外部コホート (UK Biobank)で繰り返された。

この研究の対象は、18,294人のASPREE参加者と68,200人のイギリスバイオバンク参加者が含まれた(平均年齢:75.1歳と女性66.9歳:56.3%と52.7%、 [IQR]トリグリセリド中央値:106[80-142]mg/dlと139[101- 193]mg/dl)。

追跡期間中央値6.4年と12.5年で、それぞれ823人および2,778人が認知症を発症。 ASPREEコホート全体において、トリグリセリド値が高いほど認知症リスクが低いことが示された(HR with doubling of TG: 0.82, 95% CI 0.72-0.94).。

所見は、APOE-ε4 遺伝データを持つ参加者のサブコホート (n=13,976) と UK Biobank コホートでも同様(HR was 0.82 and 0.83, respectively, all p≤0.01)。トリグリセリドが高いほど、時間の経過に伴う全体的、複合的な認知、および記憶の低下が遅いことにも関連(p≤0.05)。

より高いトリグリセリドレベルは認知症の発症を防ぐ、全体的な健康状態およびライフスタイル行動の改善を反映している可能性があります。 今後の研究では、血漿トリグリセリドの全循環プール内の特定の成分が認知機能の向上を促進する可能性があるかどうかを調査することで、新しい予防戦略の開発に繋がることが期待されます。

出典文献
Association Between Triglycerides and Risk of Dementia in Community-Dwelling Older Adults: A Prospective Cohort Study.
Zhen Zhou, Joanne Ryan, Andrew M Tonkin, Sophia Zoungas, Lacaze, et al.
Neurology,
First published October 25, 2023, DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000207923

石灰性腱板障害へのコルチコステロイド注射による洗浄に効果は無かった [医学一般の話題]

肩の石灰性腱板障害患者において、コルチコステロイド注射による超音波ガイド下洗浄やコルチコステロイド注射による偽洗浄は、偽治療と比較して利点が認められなかった。

この研究の主な発見は、4ヶ月および24ヶ月の追跡調査の結果、石灰性腱板障害の治療において、洗浄+ステロイドも偽洗浄+ステロイドも偽治療よりも優れていなかったということである。 積極的な治療による利益が得られず、さらに、追跡調査期間 4 ~ 24 か月の間に補足治療を必要とした患者が多数いることによって裏付けられた。

この研究の結果は既存の文献とは対照的であり、石灰性腱板障害の治療手段としての超音波ガイド下洗浄の効果に疑問を投げかけた。

ここ数年、ステロイド注射と併用した超音波ガイド下洗浄の人気が高まり、多くの整形外科医、放射線科医、理学療法士にとって好まれる方法となっている。この治療は、周囲の炎症と沈着物自体の両方を対象とする外来での処置であるという利点がある。いくつかのコホート研究では、この技術による良好な結果が報告されているが、適切な対照群を用いた研究は不足している。偽群または無治療群と比較せず、プラシーボ効果は不明で、報告された改善が治療自体によるものであるか、疾患の自然経過によるものであるか不明。、

本研究は、石灰性腱障害患者に対するステロイド注射による超音波ガイド下洗浄の真の効果を評価するために計画された。

研究の対象者は、少なくとも3か月間持続する肩の石灰性腱板障害を持つ成人220名。

介入は、超音波ガイド下沈着物洗浄とトリアムシノロンアセトニド20mg および 1% リドカイン塩酸塩 9 mL の肩峰下注射 (洗浄 + ステロイド)。 偽洗浄と20 mgのトリアムシノロンアセトニドおよび9mLの1%リドカイン塩酸塩の肩峰下注射(偽洗浄+ステロイド)。 または、偽洗浄と10 mL の1% リドカイン塩酸塩の肩峰下注射 (偽)。 すべての患者は、4つの自宅エクササイズからなる理学療法を受けた。

主要なアウトカムは、4か月の追跡調査における、オックスフォード ショルダー スコア (OSS) の 48 ポイント スケール (0=最悪、48=最高)の結果。 二次アウトカムには、腕、肩、手の障害に関する質問票(QuickDASH)と、最大 24 か月までの痛みの強度の測定値、およびベースラインにおける堆積物のサイズと、持続または消失の影響。

218 人 (99%) の参加者からのデータが一次分析に含まれ、4 か月後の OSS に関するグループ間に差は認められなかった。洗浄 + ステロイド vs 偽 0.2 (95% confidence interval −2.3 to 2.8; P = 1.0)。 偽洗浄+ステロイド対偽2.0 (−0.5 to 4.6; P = 0.35)。洗浄+ステロイド 対 偽洗浄+ステロイド−1.8 (−4.3 to 0.7; P = 0.47)。 4カ月後、治療効果が不十分だった143人の患者が追加治療を受けた。 24 か月の時点で、どの研究手順も偽より優れたものはなかった。尚、重篤な有害事象は報告されなかった。

石灰性腱板障害は、肩の激しい痛みを伴う疾患であり、腱板部分におけるカルシウムヒドロキシアパタイト結晶の沈着を特徴としている。 無症候性肩では最大 7.8%、症候性肩では最大 42.5% の有病率が報告されている。現在の理論によれば、痛みは沈着物周囲の腱の炎症、腱内圧の上昇、または、肩峰下沈着物の衝突が考えられているが、正確な原因は不明。 過剰使用、局所虚血、腱細胞化生、幹細胞の誤分化、遺伝的素因など、さまざまな理論が提案されている。

疾患の経過は周期的であり、このサイクルは長さと症状の強さが異なる4つの段階 (形成期、休止期、吸収期、修復期)で構成されている。多くの場合、数か月後に沈着物が自然吸収され、痛みが軽減する。しかし、個々の経過は予測不可能であり、経過が遅れることも珍しくない。症状が現れる期間が限られていることが多いことを考慮すると、主な治療アプローチは、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、鎮痛薬、および理学療法を主として手術は行わないことが推奨される。

3 つの研究グループの全てにおいて見られた、4 か月時点の主要アウトカムスコアの統計的に有意な改善は、症状の自然経過、平均値への回帰、および医師と患者の関係を含むプラシーボ効果によって説明される可能性が最も高い。偽を超える治療効果は、2週間後と6週間後の早期追跡調査でのみ発生し、ステロイド投与を受けた両グループで認められた。研究者らは、この初期の効果は沈着物の洗浄によってではなく、コルチコステロイド注射によって引き起こされたものと推測している。4 か月後と最長 24 か月の追跡調査までに、両群でさらなる改善が見られ、治療スイッチャーを使用して分析した場合も、治療を続けた患者について個別に分析した場合も、偽治療による改善を超えることはなかった。

この研究から、症状の自然な経過がより重要な役割を果たした可能性があることを整形外科医は真摯に受け止めるべきである。

出典文献
Ultrasound guided lavage with corticosteroid injection versus sham lavage with and without corticosteroid injection for calcific tendinopathy of shoulder: randomised double blinded multi-arm study
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-076447 (Published 11 October 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:e076447
Stefan Moosmayer, Ole Marius Ekeberg, Hanna Björnsson Hallgren, Ingar Heier, et al.

1つのスポーツに特化した子供たちは怪我や燃え尽き症候群のリスクが高い [医学一般の話題]

全米アスレティックトレーナーズ協会(NATA)が主催したディスカッションで、専門家のパネリストらは、幼い頃から1つのスポーツに特化すると、怪我や燃え尽き症候群など、子どもの健康に長期にわたる悪影響をもたらす可能性があると述べました。

早期から専門化をせず、幼少期に複数のスポーツをプレイすることは、ほとんどのスポーツにおいて成績の向上と怪我のリスクの低下につながることが研究で示されています。これは昔から言われていたことです。その昔、東ドイツやソ連では、幼少期には運動神経の向上を目的とする遊びを中心とした複合的な運動をさせていました。幼少期から特定の種目に特化することはせず、筋力強化を目的とする訓練もしませんでした。

子供たちが特定のスポーツのスキルを身につける前に総合的な運動能力の基礎を構築することが重要で、その結果、様々なスポーツのスキルをより簡単に習得できるようになります。さらに、筋や骨への負担をかけないことで、未だ完成前の関節(関節の骨が完成するのは15歳)を保護して傷害のない健全な成長が得られます。

特に、小学生に勝利を目的とする試合をさせることは危険な行為であり、子供の将来を潰す可能性があります。例えば、サッカーにおけるシュートは脊椎分離症を引き起こすため、小学生にさせるべきではありません。

子供たちを危険なスポーツから守ることを目的とした参加制限に関する具体的な推奨事項が医療従事者の間で認識されていないため、これらの基準を維持することが困難になる可能性があると指摘されています。全米小児看護実践者協会を含むいくつかの専門組織のメンバーを調査したところ、子どもがスポーツに参加するための年間最大月数の推奨事項を知っていた看護師はわずか17.9%だったとのことです。

引用文献
Kids Specializing in One Sport More at Risk for Injury and Burnout, Experts Say
— Expert panelists want to increase awareness among healthcare providers
by Michael DePeau-Wilson, Enterprise & Investigative Writer, MedPage Today October 20, 2023

Social Mediaは子供の脳に深刻な悪影響を与える [医学一般の話題]

Social Mediaを頻繁にチェックする子供たちは、仲間からのフィードバックに過敏になり、ポジティブな電子的強化を渇望して画面に映る不承認を恐れ、喜びから恐怖に揺れ動いて病的な心理状態に陥る可能性がある。

機能的MRIの結果、Social Mediaを常習的に利用する人々は、Snapchatなどのプラットフォームにあまり注意を払わない人々と比べて脳活動が大きく異なることが示された。観察された違いは、扁桃体(感情を調節する大脳辺縁系の一部)、背外側前頭前皮質(注意の集中や意思決定などの実行機能に関連)、島皮質(感覚処理、自己認識、 社会的行動の感情的誘導)、および腹側線条体(脳の報酬系の一部)など、広範囲に及んでいた。

TikTokは、10代の脳にとって最も懸念される犯罪者かもしれない。 TikTokは、特定の感受性の高い十代の若者における心因性の疑似トゥレット症候群の一因となる可能性さえある。 トゥレット症候群は、不随意の異常な動き (運動チック) と不随意の言葉の爆発を特徴とする神経障害。

2021年、いくつかの名門小児病院の医師らは、精神的に脆弱な10代の少女の間でトゥレット病の感染が蔓延していることを確認した。 医師らは当初当惑していたが、調査の結果、ミュンヒハウゼン型の関連性が明らかになった。罹患した十代の若者のトゥレット病とTikTokの一気見(特にハッシュタグ#Tourettesが付いた動画で、数十億回視聴された)との間に高い関連性が見られた。

十代の若者たちがインスタグラムのフィードを見ると、脳内の報酬システムが活性化したと報告された。電子機器は、渇望や欲望に関係する脳内化学物質であるドーパミンの放出を刺激する可能性があります。 それは、砂糖ハイのような状態。また、夜間に電子メディアを使用する十代の若者は睡眠障害やうつ病の症状のリスクが高いと報告されている。

Facebookに依存している28人の若者(平均年齢20歳)の研究では、Social Mediaの使用に関して衝動的で自制心ができないとされ、MRI検査では、感情と記憶の形成に関与する領域である扁桃体の灰白質量の減少(萎縮)が明らかなった。

スマートフォン中毒は島皮質(心理的葛藤の際に活動する領域)と下側頭葉皮質(パターン、顔、物体の認識に関与する領域)の脳萎縮と関連していることが確認された。スマートフォン中毒は、共感、衝動制御、感情、意思決定に関連する領域である前帯状皮質の萎縮と脳活動の低下の両方と相関していた。

週に20時間以上ビデオゲームをプレイした十代の子供たちの脳のMRIスキャンによれば、薬物やアルコール中毒の人々の脳スキャンと類似していた。研究者たちは、過剰なスクリーン時間によって引き起こされる脳の変化は解剖学的なものであり、単なる心理的なものではなく、細胞レベルで起こっていると結論付けている。

動物実験は、特に新しい内容を学習する能力を損なうという点で、10代の脳が電子中毒の有害な影響を特に受けやすいという証拠を裏付けており、ペースの速い媒体に曝露された青年マウスは、曝露されていない若いマウスに比べて迷路の移動方法を学習するのに3倍の時間を要した。

良いニュースとしては、損傷が永続的ではない可能性があるということで、スクリーンタイムを減らすとこれらの症状の一部が軽減される場合もあうとのこと。ペンシルベニア大学の研究者らは、大学生の電子中毒によって引き起こされる心理的変化を調査したところ、わずか 3 週間、画面を見る時間を1日あたり30 分未満に制限した学生は孤独感や憂うつ感が少なくなったと報告されている。

追伸
「Social Media」をカタカナ表記しなかったのは、日本人のほとんどが「メディア」と言っていますが、これは間違いで、カタカナで書けば「ミーディア」だからです。しかし、その様に記しても意味が伝わるかどうかいつも迷っているため、英字表記にしました。

出典文献
I'm a Neurosurgeon. Social Media May Change Your Kid's Brain.
— TikTok and Instagram are among the worst
by Marc Arginteanu, MD October 21, 2023

関節形成術における感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加は無効 [医学一般の話題]

関節形成術において、手術部位の感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加はプラシ-ボより優れておらず、膝の手術では手術部位の感染が増加した。

研究デザインは、多施設二重盲検優越性プラシーボ対照試験。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の定着が確認されていない成人患者を対象として、セファゾリンにバンコマイシン1.5gを加えた群または生理食塩水を加えたプラシーボ群に無作為に割り付けて調査。主要アウトカムは、手術後90日以内の手術部位の感染。

合計4,239人の患者から4,113人を対象として、“the modified intention-to-treat population:治療意図分析”によって解析。その内訳は、膝関節形成術 2,233 人、股関節形成術1,850 人、肩関節形成術30 人。バンコマイシン群の患者 2,044 人中 91 人(4.5%)が手術部位感染を発症し、プラシーボ群では2,069人中72人(3.5%)。プラシーボ群に対する相対リスクは1.28(relative risk, 1.28; 95% confidence interval [CI], 0.94 to 1.73; P = 0.11)で、有意差は無し。

膝関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で1,109人中63人(5.7%)、プラシーボ群では1,124人中42人(3.7%)で、相対リスクは 1.52(relative risk, 1.52; 95% CI, 1.04 to 2.23)(p値は不明)。

股関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で 920 人中 28 人 (3.0%)、プラシーボ群では930 人中29人(3.1%)で、相対リスクは0.98 (relative risk, 0.98; 95% CI, 0.59 to 1.63)(p値は不明)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生し、2010人中24人(1.2%)と2030人中11人(0.5%)で過敏反応が発生。 それぞれ、2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)で急性腎障害が発生(相対リスク、2.20; 95% CI、1.08~4.49)(相対リスク、0.57; 95 % CI、0.39 ~ 0.83)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生。同様に、2010人中24人(1.2%)と、2030人中11人(0.5%)が過敏反応(relative risk, 2.20; 95% CI, 1.08 to 4.49)。2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)が急性腎障害を発症(relative risk, 0.57; 95% CI, 0.39 to 0.83).

セファゾリンによるベータラクタム予防薬にバンコマイシンを追加しても、主に膝や股関節の関節形成術を受ける患者の手術部位の感染予防には役立たないことが示された。

より多くの抗生物質を投与すれば、より感染症を防ぐことができると考えるのは一見論理的と考えがちです。しかし、手術時に皮膚にMRSAが存在していなかった場合、全員にバンコマイシンを投与する意味が無いことが明確となりました。セファゾリンは感染症を予防するものであり、バンコマイシンを使用しても追加の利点はありません。

膝と股関節の手術はどちらもアメリカでは一般的であり、術後の高い感染症罹患率と死亡の原因となっています。現在の抗生物質ガイドラインでは、手術時にセファゾリンなどの第1世代または第2世代のセファロスポリン系抗菌剤を推奨しています。 しかし、この抗生物質はMRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌感染症の症例を予防できない可能性があるため、バンコマイシンのような糖ペプチド抗菌剤を追加することでより広範囲の予防を提供できると考えられていますが、このアプローチの利点はまだ明確とはなっていません。

補足:
“intention-to-treat;治療意図分析”とは、前向き無作為化研究の結果を分析する方法であり、無作為化された全ての参加者が統計分析に含まれ、実際に受けた治療に関係なく、最初に割り当てられたグループに従って分析される。この方法により、介入の有効性に関して公平な結論を引き出すことができると言われている。

尚、この研究はオーストラリア国民健康医学研究評議会によって資金提供されています。オーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録番号 ACTRN12618000642280。

出典文献
Trial of Vancomycin and Cefazolin as Surgical Prophylaxis in Arthroplasty
List of authors.
Trisha N. Peel, Sarah Astbury, Sarah Astbury, B.Nurs., Allen C. Cheng, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1488-1498
DOI: 10.1056/NEJMoa2301401

周産期心筋症に関する20年間の集団研究 [医学一般の話題]

1998年から2017年までに、スコットランドで検証された周産期心筋症(PPCM)を対象とした遡及的観察的集団レベル研究の結果、発生率は 4,950件の出産に1件でした。 PPCM を患う 225 人の女性のうち、肥満、妊娠高血圧症候群、多胎妊娠がこの症状の発症と関連していることが判明しました。

PPCMを患う女性の8%が死亡し、75%が何らかの原因で少なくとも1回は再入院した。PPCM 患者の女性の死亡率約 12 倍、再入院率は約3倍でした。 全死因死、機械的循環補助、または心臓移植の複合が14%で発生。LVの回復は 76%で、回復した人の13%は初期回復にもかかわらず LV 収縮機能の低下を続けました。 PPCM を持つ女性から生まれた子供の死亡率は、対照から生まれた子供の死亡率の約 5 倍であり、中央値 8.8 年間で心血管疾患の発生率は約3 倍でした。

母子ともに、見かけの回復だけではなく、長期的な追跡調査を考慮する必要があるようです。

「難病情報センター」によれば。

1. 概要
周産期心筋症とは、心疾患の既往のなかった女性が、妊娠・産褥期に心不全を発症し、拡張型心筋症に類似した病態を示す特異な心筋症であり、WHOの心筋症の定義と分類では、二次性心筋症に分類されている。最重症例は致死的であり、欧米では妊産褥婦間接死亡原因の上位にある疾患と認識されている。

2. 疫学
新規発症例約50症例/年、慢性化症例を含めるとおそらく500~1,000人

3. 原因
未だ原因不明である。病態が拡張型心筋症に類似していることから、診断基準の項で述べたように、妊娠・出産の心負荷により潜在して いた拡張型心筋症が顕在化したものや心筋炎であるという説もあるが、アメリカNIHのwork shop groupにおいても、特発性拡張型心筋症や心筋炎の発症率よりも高率で妊産褥婦に発症することから、妊娠自体が発症に関与している別な病態と結論付けら れている。2007年に、異型プロラクチンが発症に関与しているとの報告が出され、注目されている。

4. 症状
発症時は急性心不全症状(呼吸困難、咳、浮腫、全身倦怠感、動悸、ショック、意識障害など)を呈する。急性期治療後、約半数は、心 機能が回復して無症状となる。残りの半数においては心機能低下が残存して、その心機能の低下度に応じた慢性心不全症状(労作時息切れ、浮腫、動悸など)の 訴えを認める。

出典文献
A 20-year population study of peripartum cardiomyopathy
Alice M Jackson, Mark Macartney, Katriona Brooksbank, Carolyn Brown, et al.
European Heart Journal, ehad626, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehad626

心房細動を伴う末期心不全に対するキャスターアブレーションの効果 [医学一般の話題]

心房細動と末期心不全の患者に対する、キャスターアブレーションとガイドラインに基づいた薬物療法の組み合わせは、死亡率、左心室補助装置の植え込み、または緊急心臓移植の組み合わせの可能性が低いことに関連していた。

研究は、心臓移植の評価のために紹介された症候性心房細動および末期心不全の患者を対象とした、ドイツにおける単施設非盲検試験。

患者は、キャスターアブレーションとガイドラインに基づいた薬物療法を受けるか、薬物療法のみを受けるように割り当てられた。 主要評価項目は、何らかの原因による死亡、左心室補助装置の埋め込み、または緊急心臓移植の組み合わせ。

キャスターアブレーションは、アブレーショングループでは患者 97 人中 81 人 (84%)、薬物療法グループでは患者 97 人中 16 人 (16%) に実施された。追跡期間中央値18.0ヶ月(四分位範囲14.6~22.6)後、アブレーション群では8人(8%)、薬物療法群では29人(30%)に主要評価項目イベントが発生した(hazard ratio, 0.24; 95% confidence interval [CI], 0.11 to 0.52; P<0.001)。

何らかの原因による死亡は、アブレーション群では6人 (6%)、薬物療法群では19人 (20%) (ハザード比、0.29; 95% CI、0.12 ~ 0.72)(hazard ratio, 0.29; 95% CI, 0.12 to 0.72).。

手術関連の合併症は、アブレーション群3 名、薬物療法群 1 名に発生。

薬物療法にキャスターアブレーションを組み合わせることの有効性が確認されましたが、この試験は、無作為化が完了してから 1年後に、データおよび安全性監視委員会によって有効性を理由に中止されました(効果が確認された事が理由でしょうか。それとも他にも理由があるのでしょうか?。

尚、このブログでは、一般的にこの国の医師達が呼んでいる「カテーテル」ではなく、正しく、「キャスター」と敢えて記しています。「カテーテル」と言う言葉は存在しません。ポルトガル語ですと「Kateter:カテーテ」と、「ル」が聞こえそうですが、英語で記しているのですから、英語で統一すべきです。因みに、ドイツ語では、「Katheter:カテイター」です。この国では、優秀なはずの医師もデタラメ言葉を平気で使っています?。

出典文献
Catheter Ablation in End-Stage Heart Failure with Atrial Fibrillation
List of authors.
Christian Sohns, Henrik Fox, Nassir F. Marrouche, Harry J.G.M. Crijns, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1380-1389
DOI: 10.1056/NEJMoa2306037

心筋梗塞関連ショックに対する体外生命維持療法に効果はあるか [医学一般の話題]

体外生命維持装置(ECLS)は、死亡率への影響に関する証拠が不足しているにもかかわらず、梗塞関連心原性ショックの治療に使用されることが増えています。

本研究では、心原性ショックを合併し、早期の血行再建が計画された急性心筋梗塞患者において、30日間の追跡調査の結果、ECLS療法を受けた患者と薬物療法のみを受けた患者の死亡率に差は無く、さらに、ECLS療法は出血患者が多かった。

この多施設共同試験では、早期ECLSと通常の治療を加えた治療(ECLS群)または通常の治療のみ(対照群)を受ける群に無作為に割り付けた。主要アウトカムは、30日時点における全原因による死亡で、出血、脳卒中、および末梢血管合併症が含まれた。

合計420人の患者が無作為化され、その内の417人が最終解析に含まれた。 30日時点における全原因死亡はECLS群で209人中100人(47.8%)、対照群では患者208人中102人(49.0%)で発生(relative risk, 0.98; 95% confidence interval [CI], 0.80 to 1.19; P= 0.81) 。

機械換気の継続期間の中央値は、ECLS グループで 7 日 (四分位範囲、4 ~ 12)、対照グループで 5 日 (四分位範囲、3 ~ 9) (中央値差、1 日、95% CI、0 ~ 2) )。

中等度または重度の出血からなる安全性転帰は、ECLS 群の患者で 23.4%、対照群では 9.6% で発生 (相対リスク、2.44、95% CI、1.50 ~ 3.95)。末梢血管の合併症は、それぞれ11.0%と3.8%に発生した(相対リスク、2.86、95%CI、1.31~6.25)。

結論として、心原性ショックを合併し、早期の血行再建が計画された急性心筋梗塞患者に対するECLS療法は薬物療法のみと比較して効果に差はなかった。

それにしても、ほぼ半数が死亡することを改善できないものか。

出典文献
Extracorporeal Life Support in Infarct-Related Cardiogenic Shock
List of authors.
Holger Thiele, Uwe Zeymer, Ibrahim Akin, Michael Behnes, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1286-1297, DOI: 10.1056/NEJMoa2307227

RA患者はBMI の増加ごとにX 線検査によるRauスコアが減少する [医学一般の話題]

インフリキシマブ(レミケード:体重調整療法)で治療された関節リウマチ(RA)患者では、長期にわたる肥満指数(BMI)の増加は、疾患活動性スコア (DAS28-esr)の増加やX線撮影による進行の速さ(Rauスコア)とは関連しませんでした。

DAS28-ESR評価のために、1997年から2020年までにインフリキシマブを受け、平均4.5年間追跡された412人のRA患者の記録を分析しました。 このグループは平均 6.4回 (範囲 2 ~ 27) の検査を受け、その間に BMI および DAS28-ESR値が記録されました。 X線撮影による進行は、平均4.4年間に平均6.0回(範囲2~20)の検査を受けた187人の患者からなる別のセットで評価されました。 両方のコホートはスイスの関節リウマチ患者登録から抽出されたものです。

どちらのコホートも、そのメンバーは典型的な関節リウマチ患者であり、ほとんどが40 代と50代の女性でした。 疾患活動性を追跡したコホートでは、最初の評価時の平均DAS28-ESRスコアは約4.0、BMIは平均25でした。

びらん性関節損傷を定量化するいわゆる“ Rau スコア”は、平均 4.4 年間追跡した 187 人の RA 患者のコホートにおいて BMI の増加と負の相関があり、BMI が 1 ポイント増加するごとに 平均Rauスコアは-1.05に相関し、減少しました。

実際、スイスのチューリッヒ大学のテリーザ・ブルカード博士とその同僚は、BMIが上昇している人のびらんはそれほど深刻ではなかったと述べています。

この結果は驚くべきことではなく、これまでの研究では、標準体重の患者と比較して過体重および肥満の患者ではX線による進行が遅いことがわかっています。 しかし、DAS28 などの疾患活動性の定量的測定では、通常、BMI が高いほど悪化するように見えます。

しかし、これらの研究のほとんどは横断的なものであり、単一の時点で患者を調査しています。 Burkardらは、時間の経過に伴う体重変化が同様のパターンを示すかどうかを確認しています。

この研究の限界としては、管理記録に依存していることや対象患者数が少ないこと。また、分析対象がインフリキシマブ治療患者に限定されていることから、一般化できるか問題があります。研究者らは、体重と関節リウマチの経過および治療反応との関係をさらに調査するために、今後はより大きなコホートで研究を行うよう求めています。

出典文献
Rheumatoid arthritis
Original research
Longitudinal associations between body mass index and changes in disease activity and radiographic progression in rheumatoid arthritis patients treated with infliximab
Theresa Burkard, Enriqueta Vallejo-Yagüe, et al.
http://orcid.org/0000-0002-4315-9009Kim Lauper3, http://orcid.org/0000-0002-1210-4347Axel Finckh3, http://orcid.org/0000-0002-3276-9581

引用文献
Surprising Link Between Weight Gain and RA Activity
— Hint: it's not the worsening you probably expected
by John Gever, Contributing Writer, MedPage Today October 9, 2023

HDL-C の低および高レベルの両方がわずかに認知症リスク上昇と関連? [医学一般の話題]

高密度および低密度リポタンパク質コレステロール (HDL-C、LDL-C)と認知症発症との関連性を調査した結果、HDL-Cの低および高レベルの両方がわずかに認知症リスクの上昇と関連したと報告されています。

55歳以上のカイザー・パーマネンテ北カリフォルニア医療計画会員を対象に、2002年から2007年の間に健康行動調査を実施。調査完了後2年以内にコレステロールを測定。EHR の ICD9 または ICD10 コードに基づく認知症 (アルツハイマー病関連認知症 [ADRD]、アルツハイマー病、血管性認知症、および/または非特異的認知症)の発症について分析。

研究は、調査データと電子健康記録(EHR)データを使用したコホートにおける、17年間にわたる追跡調査。参加者は184,367 人 [調査時の平均年齢 69.5 歳、平均 HDL-C=53.7 mg/dL (SD = 15.0)、LDL-C=108 mg/dL (SD = 30.6)]。

しかし、最低の五分位の HDL-C ハザード比(HR)は 1.07 (95% CI: 1.03-1.11)で、最高の五分位の HDL-CではHRは1.15(95%CI:1.11-1.20)であり、リスクの差はわずか7%と15%に過ぎません。統計的に有意であったとしても、この結果に意義があるとは思えません。一方、LDL-Cとの関連性はほとんど認めれませんでした。

大規模なコホート研究と胸をはっていますが、この研究結果に意味があるのでしょうか。

“Abstract”だけ読んでいますので詳細は不明ですが、認知症をタイプ別に分析したとは記されていません。アルツハイマー型とレビー小体型、および血管性認知症を分けずに十把一絡げに分析したのであれば意味を成さないと言えます。特に、血管性認知症ではコレステロール値の影響もあり得るでしょうし、、。

出典文献
Low- and High-Density Lipoprotein Cholesterol and Dementia Risk Over 17 Years of Follow-up Among Members of a Large Health Care Plan
Erin L Ferguson, Scott C Zimmerman, Chen Jiang, et al.
First published October 4, 2023, DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000207876

NSAIDsと高リスクのホルモン避妊薬の併用は静脈血栓塞栓症のリスクを増加する [医学一般の話題]

全国の生殖年齢の女性コホートにおいて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用が静脈血栓塞栓症の発症と正の関連性を示し、リスク増加の大きさはホルモン避妊薬の使用状況に依存することが判明。

併用使用のほとんどは、ホルモン避妊薬の普及者における偶発的な NSAID 使用として発生していた。ホルモン避妊薬を使用していない場合と比較して、NSAID使用と静脈血栓塞栓症との関連性は、高リスクのホルモン避妊薬を使用している女性でより強く、低リスクまたは無リスクのホルモン避妊薬を使用している女性ではより低かった。

参加者は、1996 年から 2017 年の間にデンマークに在住し、静脈または動脈の血栓イベント、癌、血栓増加症、子宮摘出術、両側卵巣摘出術、不妊手術、または不妊治療の病歴がない 15 ~ 49 歳の女性 (n=2, 029, 065)。

主な評価項目は 下肢深部静脈血栓症または肺塞栓症の初回退院診断。200 万人の女性を 2,100 万人年にわたって追跡調査したところ、8,710 件の静脈血栓塞栓症が発生。

NSAIDsの使用は非使用と比較して、ホルモン避妊薬非使用女性の静脈血栓塞栓症の調整後発生率比7.2(95%信頼区間6.0~8.5)、ホルモン避妊薬の使用女性は11.0(9.6~12.6)と関連。中リスクのホルモン避妊薬を使用している場合は 7.9 (5.9 ~ 10.6)、低リスクまたは無リスクのホルモン避妊薬を使用している場合は 4.5 (2.6 ~ 8.1) 。

NSAID 治療の最初の 1 週間における女性 100, 000 人あたりの静脈外血栓塞栓イベントの発生数を、NSAIDの非使用者と比較した場合、ホルモン避妊薬を非使用の女性では 4件(3 ~ 5 件)、ホルモン避妊薬使用女性では 23 件(19 ~ 27 件)。
中リスクのホルモン避妊薬を使用している人では11人(7〜15)、低リスクまたは無リスクのホルモン避妊薬を使用している人では3人(0〜5)。

エストロジェンとプロジェスチンを含むホルモン避妊薬の併用は、下肢深部静脈血栓症および肺塞栓症の危険因子であり、リスク増加の大きさはエストロジェンの用量とプロジェスチンの種類に依存することが示されています。プロジェスチンは、複数の凝固因子の遺伝子の転写を促進することによって凝固亢進を引き起こすことが知られています。凝固系に対するプロジェスチンの影響は複雑で、高用量で強力なプロジェスのみを避妊注射すると静脈血栓塞栓症のリスクは増加し、レボノルゲストレル放出子宮内デバイスを使用すると、検出可能な凝固低下と静脈血栓塞栓症リスクの低下が報告されています。

出典文献
Venous thromboembolism with use of hormonal contraception and non-steroidal anti-inflammatory drugs: nationwide cohort study.
Amani Meaidi, Annamaria Mascolo, Maurizio Sessa, Anne Pernille Toft-Petersen, et al.
BMJ 2023; 382 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-074450 (Published 06 September 2023)
Cite this as: BMJ 2023;382:e074450

ヒトの脳内から生きた回虫オフィダスカリスを摘出 [医学一般の話題]

オーストラリアのカーペットニシキヘビが終宿主である、回虫Ophidascaris robertsiによって引き起こされた、世界初のヒト神経幼虫の移動の症例が報告されている。

12か月前に好酸球増加症候群と診断され、免疫抑制状態にあった64歳の女性の脳から生きた回虫Ophidascaris robertsiが摘出された。

オーストラリアのニューサウスウェールズ州南東部出身の女性(64歳)は、3週間にわたる腹痛と下痢、さらに空咳と寝汗を訴えて2021年1月下旬に地元の病院に入院。

CT検査により、周囲のスリガラス状の変化を伴う多病巣性肺混濁と、肝臓および脾臓の病変が明らかになった。気管支肺胞洗浄では、悪性腫瘍や蠕虫を含む病原性微生物の証拠のない好酸球が30%。血清学的検査では線虫菌は陰性。自己免疫疾患のスクリーニング結果は陰性。原因不明の好酸球性肺炎と診断し、プレドニゾロン (25 mg/日) の服用を開始し部分的な症状の改善が見られた。

顕著な好酸球増加症は過敏性肺炎とは一致せず、血管壁損傷がないことから多発血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症ではなかった。

3週間後、彼女はプレドニゾロンの投与中に再発する発熱と咳が続くため、三次病院に転院。 PBEC は 3.4 × 109 細胞/L、CRP は 68.2 mg/L。CT スキャンにより、持続性の肝臓および脾臓病変および移動性肺混濁が明らかになった。肺および肝臓の病変は、ポジティブエミッション断層撮影スキャンにて、18F-フルオロデオキシグルコースが多量に存在。 肺生検標本は好酸球性肺炎と一致したが、多発血管炎を伴う好酸球性肉芽腫症(EGPA)とは一致しなかった。細菌、真菌、マイコバクテリアの培養は陰性で、エキノコックス、ファシオラ、住血吸虫の抗体も検出されなかった。また、濃縮固定染色法では、糞便標本上の寄生虫は検出されなかった。

モノクローナル T 細胞受容体遺伝子の再構成を検出し、T 細胞による好酸球増加症候群 (HES) を示唆されたため、プレドニゾロン (50 mg/日) およびミコフェノール酸 (1 g 2x/日) による治療を始めた。さらに、彼女の渡航歴、偽陰性の線虫血清学的検査の可能性、および免疫抑制の増加のため、イベルメクチン(200 μg/kg 経口)を 2 日間連続で投与し、14 日後に再投与。

患者は3か月間、プレドニゾロン(7.5mg/日)と同じ用量のミコフェノール酸とメポリズマブの投与を続けていたところ、物忘れとうつ病が悪化した。脳磁気共鳴イメージングでは、右前頭葉の末梢に増強された 13 × 10 mm の病変が確認された。2022年6月に切開生検が行われ、病変内に紐状の構造物を発見して除去。それは生きた運動性の蠕虫 (長さ 80 mm、直径 1 mm) で、全周硬膜切開術と皮質切開術を実施したが他の蠕虫は発見されなかった。硬膜組織の組織病理学により、顕著な好酸球増加を伴う良性の組織化された炎症腔が明らかになった。医師達は、その特徴的な赤い色や生殖器系の欠如に基づいて、この蠕虫を暫定的にOphidascaris robertsiの第3期幼虫と特定した。

CTスキャンにより、肺および肝臓の病変は消失したが、脾臓の病変は変化していないことが明らかになった。 患者はイベルメクチン(200μg/kg/日)を2日間、アルベンダゾール(400mg 2×/日)を4週間投与された。 彼女は、10 週間にわたるデキサメタゾンの離脱コース (4 mg 2 回/日から開始) を受けましたが、他のすべての免疫抑制は中止された。 手術後 6 か月後 (デキサメタゾン中止後 3 か月後)、精神神経症状は改善したが依然として残っている。

オフィダスカリス種は間接的なライフサイクルを示す線虫で、旧世界と新世界のさまざまな属のヘビを終宿主としている。O. robertsi 線虫はオーストラリア原産で、終宿主はカーペットニシキヘビ (Morelia spilota)。 成虫の線虫はニシキヘビの食道と胃に生息して糞便中に卵を産む。卵はさまざまな小型哺乳類によって摂取され、幼虫が中間宿主として定着しし、幼虫は胸部および腹部の器官に移動する。ライフサイクルは、Python が感染した中間ホストを消費すると終了する。

O. robertsi 幼虫に感染したヒトは偶発的宿主であると考えらるが、Ophidascaris 種によるヒトへの感染はこれまでに報告されていない。この報告は、O. robertsi 感染によって引き起こされたヒト神経幼虫移動の初めての症例とのこと。

この症例の患者は、カーペットニシキヘビが生息する湖地域の近くに住んでいたが、ヘビとの直接の接触はなかった。しかし、料理に使用するために湖の周りから自生植物であるワリガルグリーン (Tetragonia tetragonioides) をよく集めていた。研究者達は、彼女が植物から直接、または手や厨房機器の汚染によって間接的に、O. robertsi の卵を誤って摂取したのではないかと推測している。

この事例は、人間と動物が密接に相互作用するにつれて人獣共通感染症のリスクが継続的に存在することを強調している。O. robertsi 線虫はオーストラリアの固有種ですが、他のオフィダスカリス種は他の場所でもヘビに感染しており、世界中で、ヒトへの感染例がさらに発生する可能性があることを示しています。気づいていないだけかも知れません。

出典文献
Human Neural Larva Migrans Caused by Ophidascaris robertsi Ascarid
Hossain ME, et al.
Emerging Infectious Diseases, 2023; DOI: 10.3201/eid2909.230351.

症候性動脈閉塞患者における頭蓋外-頭蓋内バイパス手術の追加は転帰を改善しない [医学一般の話題]

内頚動脈(ICA)または中大脳動脈(MCA)のアテローム性動脈硬化性閉塞を有する患者において、薬物療法に頭蓋外-頭蓋内(EC-IC)バイパス手術を追加しても、30日以内の脳卒中または死亡、および2年間の同側虚血性脳卒中という複合転帰のリスクは有意に変化しなかった。

これまでの試験では、内頚動脈(ICA)または中大脳動脈(MCA)のアテローム性動脈硬化性閉塞を有する患者の脳卒中予防に利点は示されていませんでしたが、その後、手術技術が改善したため、改めてEC-IC バイパス手術の効果を調査したようです。

研究は、中国の13施設で実施された無作為化、非盲検、結果評価者盲検試験。 2013年6月から2018年3月までに、一過性脳虚血発作を伴うICAまたはMCA閉塞、またはCTによる灌流画像診断に基づく血行力学的不全に起因する非障害性虚血性脳卒中を患う患者を募集。合計324人が適格者と確認され、(年齢中央値52.7歳、男性257人[79.3%])、309人(95.4%)が試験を完了した。

介入は、EC-IC バイパス手術と薬物療法 (n = 161) または薬物療法単独 グループ( n = 163)。 薬物療法には、抗血小板療法と脳卒中危険因子の管理が含まれた。

主要アウトカムは、無作為化後 30 日以内の脳卒中または死亡、および30 日を超えてから 2年間の同側虚血性脳卒中を組み合わせた。 副次転帰は9件で、2年以内の脳卒中または死亡、2年以内の致死的な脳卒中が含まれた。

外科手術群と薬物療法単独群と複合主要アウトカムは、それぞれ8.6% [13/151] vs 12.3% [19/155]で、 発生率の差は-3.6% [95% CI、-10.1% ~ 2.9%]; ハザード比 [HR]、0.71 [95% CI、0.33-1.54]でしたが、P = 0.39と有意差は認められなかった。

30日間の脳卒中または死亡リスクは外科手術群の6.2%(10/161)に対して、内科治療群1.8%(3/163)。

30日を超えて2年までの同側虚血性脳卒中のリスクは、それぞれ 2.0%(3/151) vs 10.3% (16/155)。

事前に指定された9つの二次エンドポイントのうち、2年以内の脳卒中または死亡は、それぞれ9.9% [15/152] vs 15.3% [24/157]、発生率の差は-5.4% [95% CI、- 12.5% ~ 1.7%]、HR;0.69 [95% CI、0.34-1.39]、P = 0 .30で、有意差は無し。

2 年以内の致死性脳卒中は2.0% [3/150] vs 0% [0/153]で、発生率の差は、1.9% (95% CI、-0.2% ~ 4.0% ; P = 0 .08)と、有意差無し。

結論として、症候性ICAまたはMCA閉塞および血行力学的不全を有する患者において、薬物療法にバイパス手術を追加しても、30日以内の脳卒中または死亡、および30日を超えて2年にわたる同側虚血性脳卒中のリスクは有意に改善しなかった。

しかし、私には「2 年以内の致死性脳卒中が外科グループで2.0% [3/150]であり、一方の薬物単独群では0% [0/153]であったことが気になる。150人中の3人に過ぎないとは言えない。有効性を評価する上で、「死亡」を他の有効性や悪化などと同様の尺度で点数化している研究を見かけるが、死亡は単なる症状の悪化などとは全く次元の違うことであり、点数化して評価できることではない。

出典文献
Extracranial-Intracranial Bypass and Risk of Stroke and Death in Patients With Symptomatic Artery Occlusion The CMOSS Randomized Clinical Trial
Yan Ma, Tao Wang, Haibo Wang, et al.
JAMA. 2023;330(8):704-714. doi:10.1001/jama.2023.13390

SARS-CoV-2感染に続発する「青い足」 [医学一般の話題]

長期にわたる、新型コロナウイルス(ウイルス名SARS-CoV-2)感染症に関連した、自律神経失調症(静脈不全と先端チアノーゼ)による「青い足」が報告されています。

33 歳の男性は、6 か月前から約10分間立っていると脚が急速に紫色に変色する症状が現れ、足が徐々に重く、チクチクしてかゆみを感じ、その後色が「くすんだ」ようになり、足に点状の発疹が時々現れることもあったと述べていました。尚、彼の足は横になると症状は消えて通常の色に戻りました。

検査の結果、横になっているときの患者の脈拍は 68 bpm、血圧は 138/85 mmHg で、8分間立っていると脈拍は最大127bpmまで上昇しましたが、血圧は125/97mmHgで安定していました。

付随する症状としては、足のうずき、かゆみ、重さに加えて、霧がかかってふらふらすると訴えていました。

免疫グロブリン、C反応性タンパク質、赤血球沈降速度は正常レベルであり、抗核抗体、抗好中球細胞質自己抗体、抗環状シトルリン化ペプチド抗体は陰性でした。

診察した、イフテカール氏とシヴァン氏は「長期にわたる新型コロナウイルス感染症に関連した自律神経失調症」と診断。

彼らは、脚の変色は先端チアノーゼ、つまり静脈貯留と皮膚虚血であると説明し、水分と塩分の摂取量を増やし、筋肉を強化する運動をするよう提案しました。

理由はわかりませんが、新型コロナウイルス感染症に長く罹患している人の中には、自律神経系が完全に乱れ、正常な状態に保てない人もいます。

最近では、長期にわたる新型コロナウイルス感染症とPOTS [postural orthostatic tachycardia syndrome体位起立性頻脈症候群] 自律神経失調症との関連性を示す証拠が増えていると指摘されています。自律神経失調症は、中枢神経系、末梢神経系、またはその両方に影響を与える様々な疾患群ですが、POTS は、心拍数の大幅な上昇と、立ちくらみ、めまい、動悸などの症状を伴う起立性不耐症を患う自律神経失調症症候群です。血圧は維持していますが、エネルギー低下、頭痛、認知障害、筋肉疲労、胸痛、脱力感、または胃腸症状が見られる場合もあります。

長引く新型コロナウイルス感染症の影響で自律神経失調症に対する認識がさらに高まり、臨床医が患者を適切に管理するために必要なツールを手に入れることができるようにする必要があると述べています。

出典文献
Venous insufficiency and acrocyanosis in long COVID: dysautonomia
Nafi Iftekhar, Manoj Sivan, FRCP Edin
The Lancet. doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01461-7.

'Blue Legs' Yet Another Long COVID Symptom?
— Researchers call for more awareness of all types of dysautonomia in long COVID
by Kristina Fiore, Director of Enterprise & Investigative Reporting, MedPage Today August 15, 2023

腸内マイクロバイオームは炎症状態の病理への新たな手がかりとなる [医学一般の話題]

脊椎関節炎 (SpA) は、急性前ブドウ膜炎 (AAU) やクローン病 (CD) などの非筋骨格系炎症性疾患を高度に併発する免疫介在性疾患のグループです。腸内細菌叢( 腸内マイクロバイオーム)は、共通かつ異なる根本的な病態生理学を解明するための有望な手段となることが示唆されている。

本調査では、ドイツ脊椎関節炎開始コホート(GESPIC)に含まれる患者277名(CD 72名、AAU 103名、SpA 102名)、および炎症性疾患のない腰痛対照者62名の便サンプルに対して16S rRNAシーケンスを実施。

患者は生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬の治療歴がないか、登録前 3か月以上受けていなかった。

腸内微生物叢の多様性の変化が3つの異なる炎症状態の患者で発生し、共通の病態を示唆していることが、患者の便サンプルの前向きrRNA配列決定によって示された。

軸性脊椎関節炎(SpA)、急性前ブドウ膜炎(AAU)、およびクローン病の患者は腰痛があり、炎症性疾患のない対照群の患者と比較してラクノスピラ科分類群の濃度が低く、共通の免疫介在性疾患シグナルが特定された。

最も顕著なのはフシカテニバクターであり、これはNSAID単剤療法を受けている対照に最も多く存在し、血清CRPの上昇を部分的に媒介することが示唆された。この分析により、マイクロバイオームの多様性における疾患特有の違いも明らかになった。

SpA 患者はコリンセラ菌の濃縮を示したが、HLA-B27+ 患者はフェカリバクテリウムの濃縮を示した。 CD 患者はルミノコッカス分類群の存在量が高く、以前の csDMARD 療法はアッカーマンシアの増加と関連していた。

AAUとクローン病の患者のかなりの割合が SpA を併発しており、これは共通の炎症性病理の概念を裏付けるものであると、ベルリンのマックス デルブリュック分子医学センターの Sofia K. Forslund 博士と共著者らは報告している。

総合すると、最終的にマイクロバイオームの診断および治療の可能性を活用するために、疫学的に関連する病態における特定の細菌の免疫調節特性について、分子レベルでさらに解明するべきと著者らは述べている。

出典文献
Spondyloarthritis, acute anterior uveitis, and Crohn's disease have both shared and distinct gut microbiota,
Morgan Essex , Valeria Rios Rodriguez , Judith Rademacher, Fabian Proft, et al.
Arthritis Rheumatol 2023; DOI: 10.1002/art.42658.

引用文献
Microbiome Study Provides New Clues to Common Pathology of Inflammatory Conditions
— Microbiota similarities, differences in patients with spondyloarthritis, Crohn's disease, uveitis
by Charles Bankhead, Senior Editor, MedPage Today August 8, 2023

直接作用型抗ウイルス薬によるC 型肝炎治療に成功した患者のその後の死亡率は高い [医学一般の話題]

インターフェロンフリーの直接作用型抗ウイルス薬レジメンは、C型肝炎ウイルス (HCV)感染の臨床管理と疫学を変革しました。このウイルス薬は短期間で忍容性があり、2014年にこれらの新しい治療法が利用可能になって以来HCV の治療に成功した人の数は劇的に増加しました。

この増加は、肝硬変患者で最も顕著であり、例えば、スコットランドでは、HCV治療を受けて成功した肝硬変患者の数は、2014 年から 2019 年の間に 6 倍に増加しました (約 300 人から 1,800 人に)。この上昇軌道は、今後も続くでしょう。

但し、HCV の治療が成功した人の全体的な予後を理解することが重要です。 ほとんどの観察研究は、HCV 治癒の相対的な利点を定量化することに焦点を当てています。 これらの研究には、未治療の慢性 HCV 感染症患者や治療が失敗した患者と比較して死亡リスクが低いことが含まれます。

しかし、HCVの治療に成功した人の予後について、信頼できる全体像を形成するには広範囲の肝疾患重症度を持つ患者を包含するコホートが必要です。したがって、この研究では、インターフェロンフリーの抗ウイルス薬(2014 年以降)によて、HCV の治療に成功した人々で構成される 3つの集団ベースのコホートからデータを取得して分析。その方法として、死亡率を定量化してその死亡率が一般集団の死亡率とどのように比較されるかを評価。

研究デザインは、集団ベースのコホート研究。ブリティッシュコロンビア州、スコットランド、イングランドを設定(イングランドのコホートは肝硬変患者のみで構成)。

参加者は、インターフェロンフリー抗ウイルス薬の時代(2014~19年)にC型肝炎の治療に成功した21,790人を、肝硬変のない人(前肝硬変)、代償性肝硬変のある人、末期肝疾患のある人の3つの肝疾患重症度グループに分類。 追跡調査は抗ウイルス治療完了の12週間後に開始され、死亡日または2019年12月31日に終了。

主な評価は、年齢性別の標準化死亡率、および年齢、性別、年を調整し死亡数を一般人口と比較した標準化死亡率。 ポアソン回帰を使用して、すべての原因による死亡率に関連する要因を特定。

1,572 人 (7%) の参加者が追跡調査中に死亡。 主な死因は薬物関連(n=383、24%)、肝不全(n=286、18%)、肝がん(n=250、16%)。 粗全死因死亡率(1000人年当たりの死亡数)は、ブリティッシュコロンビア州、スコットランド、イングランドのコホートでそれぞれ31.4(95%信頼区間29.3~33.7)、22.7(20.7~25.0)、39.6(35.4~44.3)。

全原因死亡率は、すべての疾患重症度グループおよび環境において一般集団の死亡率よりもかなり高かった。 例えば、ブリティッシュコロンビア州では肝硬変のない人の全死因死亡率が3倍高く(標準化死亡率2.96、95%信頼区間2.71~3.23、P<0.001)、イギリスでは、末期肝疾患患者で10倍以上高かった。回帰分析では、高齢、最近の薬物乱用、アルコール乱用、併存疾患が死亡率の上昇と関連していた。

調査結果では、HCVの治療に成功した人々は薬剤および肝臓関連の死亡率が高く、治療成功時に肝硬変がなかった患者であっても、全体としての死亡率が一般集団よりもかなり高いことを示しています。標準化された死亡率は、地域ベースを調整した場合でも高いままであり、観察された高い死亡率は、一般的な健康上の不平等では説明できません。より高い死亡率を予測する要因として、アルコールや薬物乱用による最近の入院、および併存疾患の負担の増加が含まれる。高齢になると死亡率が高くなりますが、標準化された死亡率は若い患者で最大でした。

インターフェロンフリーの直接作用型抗ウイルス薬によるC型肝炎の治療に成功した人の死亡率は、一般集団と比較して高くなっています。 薬物および肝臓関連の死因が超過死亡の主な要因でした。 これらの発見は、C型肝炎の治療が成功した後の継続的なサポートとフォローアップの必要性を強調しています。

但し、研究の限界として著者らが記していることを簡単に列挙しますと、アルコールや薬物の誤用、喫煙などのより詳細な臨床変数に対して標準化された死亡率を調整できなかったこと。地域ベースの追加調整を組み込んだ感度分析が実行できたのはスコットランド人コホートの人々のみでした。 さらに、インターフェロンフリー治療が最初に利用可能になったとき、患者数の多さと初期費用の高さにより進行した線維症の患者の治療を優先しました。

もう1つの限界は、HCV治療が成功する前のアルコールと薬物の誤用が入院によって推測されていることです。このアプローチでは、入院には至らないものの、予後に関連する可能性があるより軽度のアルコールまたは薬物乱用は捕捉できません。

また、情報ガバナンス要件に準拠するために、3 つのコホートは別の信頼できる研究環境を通じてアクセスされていたため、個々の患者データのメタ分析も実現できませんでした。したがって、個々の患者データのメタ分析の前提条件である、一元的な場所からデータを分析することはできませんでした。

この研究は、注射による薬物使用によってHCV感染が促進されている高所得国の患者で構成されており、疫学が異なる環境には一般化できない可能性があります。

出典文献
Mortality rates among patients successfully treated for hepatitis C in the era of interferon-free antivirals: population based cohort study.
Victoria Hamill, Stanley Wong, Jennifer Benselin, Mel Krajden, Peter C Hayes, et al.
BMJ 2023; 382 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-074001 (Published 02 August 2023)
Cite this as: BMJ 2023;382:e074001

胸腺摘出術を受けた患者は全死因死亡率と癌リスクおよび自己免疫疾患のリスクが高い [医学一般の話題]

人間の成人における胸腺の機能は不明であり、この小さな臓器が無関係なものとして様々な外科手術において切除が行われています。 しかし、この研究によってその認識が大きな間違いであることが示されました。

本研究では、成人の胸腺は免疫能力と全体的な健康を維持するために必要であるという仮説を基に調査。

胸腺切除を受けずに同様の心臓胸部手術を受けた人口統計学的に一致する対照と、胸腺切除を受けた成人患者の死亡、癌、および自己免疫疾患のリスクを比較。また、T細胞産生と血漿サイトカインレベルも患者のサブグループで比較した。

この研究では、マス・ジェネラル・ブリガム・リサーチ患者データ登録を使用して、1993年1月から2020年3月までにマサチューセッツ総合病院で胸腺摘出術を受けた成人1,420人全員を特定した。手術後90日以内に死亡した患者、または手術後5年以内に非腹腔鏡下心臓手術を受けた患者は除外された。

2000年1月から12月までに同センターで非腹腔鏡心臓手術を受け、胸腺摘出術の既往のない成人6,021人全員を性別、人種、術前状態(感染症、がん、自己免疫疾患)、年齢(5歳以内)でマッチングした。死亡率や心臓手術の繰り返しを除外し、対照群は術前に心不全が存在する可能性はなかった。

手術後5年時点で、全死因死亡率は胸腺摘出群の方が対照群より約2倍高かった(8.1%対2.8%、相対リスク2.9、95%信頼区間[CI]1.7~4.8)。

癌のリスク (7.4% vs. 3.7%; 相対リスク、2.0; 95% CI、1.3 ~ 3.2)。 自己免疫疾患のリスクは、一次コホート全体では両群間で実質的な差はなかったが(相対リスク、1.1、95%CI、0.8~1.4)、術前感染症、癌、または自己免疫疾患の罹患者を除外すると差が見出された(12.3% vs. 7.9%; 相対リスク、1.5; 95% CI、1.02 ~ 2.2)。

全死因死亡率は 8.1% vs 2.8% (相対リスク [RR] 2.9、95% CI 1.7-4.8)で、約3倍。

5年以上の追跡調査(対応する対照の有無にかかわらず)を行った全患者を対象とした分析では、胸腺摘出群の全死因死亡率が米国一般人口よりも高かく(9.0%対5.2%)、癌による死亡率(2.3%対1.5%)も高かった。

T細胞産生と血漿サイトカインレベルが測定された患者のサブグループ(胸腺摘出群22名、対照群19名、平均追跡調査、術後14.2年)において、胸腺摘出を受けた患者は新たなT細胞産生が減少した。 対照と比較した CD4+ および CD8+ リンパ球 (平均 CD4+ シグナル結合 T 細胞受容体切除円 [sjTREC] 数、DNA 1 マイクログラムあたり 1451 対 526 [P=0.009]; CD8+ sjTREC 数の平均、DNA 1 マイクログラムあたり 1466 対 447 [ P<0.001])、血液中の炎症誘発性サイトカインレベルが高くなった。

この研究には、メカニズムの解明のためにいくつかの血液検査も行われている。術後平均14.2年の追跡調査を受けた22人の胸腺摘出群患者と19人の対照群患者のサブセットで、T細胞産生と血漿サイトカインレベルが測定された。

胸腺摘出群と対照群では15の異なるサイトカインのレベルが大きく変化したが、そのうちインターロイキン23、インターロイキン33、トロンボポエチン、胸腺間質リンホポエチンは対照レベルの10倍以上高かく、新たに形成される T 細胞の産生が減少していた。

メリーランド州ベセスダにある国立がん研究所小児腫瘍部門のナオミ・テイラー医学博士は、この研究を「心胸部疾患を受けている患者のケアに重要な影響を与える画期的な研究である」と評価し、避けられるのであれば胸腺全摘に強く反対している。

これまでの研究では、成人の胸腺が病理学的条件下でも生理学的条件下でもTリンパ球を産生し続けることが示されており、今回の研究はその機能の重要な役割を裏付けていると同氏は指摘した。

胸腺摘出術を受けた患者の免疫環境は、免疫調節異常や炎症を引き起こすことが知られているサイトカイン環境に偏っており、この微小環境に寄与するメカニズムは明らかではないが、胸腺がこの器官への成熟T細胞の生理学的再循環を通じてT細胞機能を調節しているのではないかと推測している。

出典文献
Health Consequences of Thymus Removal in Adults
List of authors.
Kameron A. Kooshesh, Brody H. Foy, David B. Sykes, et al.
N Engl J Med 2023; 389:406-417 DOI: 10.1056/NEJMoa2302892

引用文献
Routinely Removed Organ Linked to Increased Mortality, Cancer Risk
— Cardiothoracic surgery often cuts out this little organ as irrelevant. Big mistake, study says
by Crystal Phend, Contributing Editor, MedPage Today August 2, 2023

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