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腓骨神経麻痺と難聴の回復 [診療雑話]

この記事は、肩こりで当院を受診された患者さんの話です。肩こりは初回の治療でほぼ軽快したのですが、2診時点で、以前より左側に腓骨神経麻痺があると告げられました。平成20年にくも膜下出血にて入院し、その入院中に腓骨神経麻痺を発症しましたが、脳に原因は無く、整形外科の診察では腰椎椎間板ヘルニアによるものと診断されました。MRIでは、ヘルニアは小さく、直ちに手術を必要とするものではないと言われ、特に治療はされなかったようです。その後、麻痺が回復しないため、「靴べら式装具」を処方されました。

その後の7年間、麻痺の程度など症状に変化はありませんでした。装具は邪魔なので使用しておらず、階段昇降の際にはスリッパが抜けるとのことでした。

1つ目の疾患:
診察内容の詳細は省略しますが、私の診察では、麻痺の原因はヘルニアによるものではなく、梨状筋症候群と腓骨管症候群の合併症と判断しました。年数が大分経っているため、回復するかは不明でしたが、麻痺の程度は重くなかったので可能性はあると考え治療しました。
(それぞれの疾患の病態と治療法は、拙著「絞扼性神経障害の鍼治療」または「全日本鍼灸学会誌:総腓骨神経の絞扼性神経障害について1991.6.1.筆者による」を参照)。

当初、長母趾伸筋および前脛骨筋の筋力はMMT2+。2診後にスリッパはほぼ抜けなくなり、7診後にMMT5- 。現在、全く正常。但し、この患者さんの場合には、左3/4趾間のMorton病も併発していたため、その後、足趾間の治療も併用。

2つ目の疾患:
足の麻痺が軽快してきたところで、実は、10年以上前から左難聴があり、耳鼻科の医師からは回復することは無いと言われ、補聴器を勧められているとのこと。職業性の難聴で原因は機械音。現在は定年退職して家事のみ。

私が、耳鳴りや突発性難聴の主な治療点としても使用している部位(AAFC:拙著「絞扼性神経障害の鍼治療」に記載)に反応がみられたので、これまでの治療に難聴の治療も併用。初回の治療中、耳に温感が有り気持ち良いとのこと。終了直後に耳鳴りが軽減。4診後、携帯電話で相手の声が左右差無く聞こえるとのことで、聴力も改善していると判断。その後、一時的に耳鳴りが大きくなったため、不安になり耳鼻科を受診したところ、検査の結果では聴力は改善していないと言われたとのこと。

その後、5ヶ月ほど来院しなかったのですが、右耳の耳鳴りが発症して続いていたため来院。ところが、耳鼻科へも受診していたのですが、その際に、前回の検査では、左耳の聴力が回復していたと聞かされたのです。「治る筈はないのにおかしい」とも言われたようです。

しかし、突発性難聴で回復が悪かった患者やその他の原因によるもので数年が経過した場合でも、先述した[AAFC]への刺鍼で多くが改善します。

1つ目は、脳神経外科と整形外科の医師双方が局所の診察を十分にしていないことによる誤診です。さらに、治療に関しても責任を果たしているとは言えません。

2つ目は、聴力が回復したことを患者さんに告げていません。

患者さんには医学知識はありませんので、その話を全て鵜呑みにすることは危険です。それでも、腓骨神経麻痺に関して真摯に対応しているとは感じられませんし、耳鼻科の説明にも大きな問題を感じます。

追伸
梨状筋症候群と腓骨管症候群は「絞扼性神経障害」です。拙著「絞扼性神経障害の鍼治療:2015年3月22日初版」で解説しています。また、難聴の治療法についても、本書の中で解説している「Acupuncture of Anssa 1st cervicalis ; AAFC」が効果的です。本書中では、適応疾患例としては記してはいませんが極めて効果的です。

市販はしていませんが、個人的に販売しています。希望される方は、カテゴリーの「出版のお知らせ」に購入方法を記していますのでご覧ください。
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