IBDに対するTNF阻害薬は免疫介在性疾患のリスク増加と関連 [免疫・炎症]

デンマーク(2005~2018年)とフランス(2008~2018年)における、炎症性腸疾患;inflammatory bowel disease (IBD)患者を対象とした2つの全国コホート研究の結果、腫瘍壊死因子阻害剤 (抗 TNF)療法は関節リウマチ、乾癬、化膿性汗腺炎のリスク増加と関連していた。

抗 TNF療法は、いくつかの免疫介在性炎症性疾患immune-mediated inflammatory diseases (IMIDs)患者に対する効果的な治療法ですが、抗TNF薬で治療された患者においてIMIDの発生が確認されている。本研究は、IBDに対する抗TNF療法による関節リウマチ、乾癬、化膿性汗腺炎発症リスクを研究。

デンマークとフランスのコホートは、それぞれ IBD 患者 18,258 名と 88,786 名で構成され、合計 516,055 人年の追跡調査を実施。 抗TNF療法は、デンマーク人コホート(HR 1.66、95%CI 1.34-2.07)とフランス人コホート(HR 1.78、95%CI 1.63-1.94)の両方において、関節リウマチ、乾癬、化膿性汗腺炎のリスクが増加し、総合HRは1.76(95%CI 1.63-1)。

分析は、性別、IBDのサブタイプと重症度、IBD関連の処置、さまざまな併存疾患や薬剤など、複数の潜在的な交絡因子に合わせて調整された。

さらに、TNF阻害剤単独療法とアザチオプリン単独療法のアクティブ・コンパレータ分析を実施することにより、研究結果の強さを評価した。 TNF 阻害剤の使用は、アザチオプリンの使用と比較した場合、IMID のリスクは約3倍増加した (HR 2.94、95% CI 2.33-3.70)。

この研究は、抗TNF薬とIMIDとの真の因果関係を示しているわけではなく、抗TNF薬の摂取とIMID発症との関連性を示していることに注意が必要。

しかし、他の研究で、TNF阻害剤の抗炎症作用にもかかわらず、パラクリンシグナル伝達の変化を通じて免疫系の調節不全を引き起こす可能性があることが示唆されている。さらに、以前の研究で、IBD患者における抗TNF曝露と中枢神経系の脱髄疾患との関連性が報告されており、TNF阻害剤が感受性のある個人の免疫系の制御を変化させる可能性があることも示唆されている。

本研究による知見は予想外であり、通常は抗TNF療法の適応となる疾患におけるIMID発症の背後にあるメカニズムをさらに研究する必要がある。本研究の結果が正しければ、抗TNF薬の逆説的な効果は臨床的に重大な影響を与える可能性がある。

出典文献
Tumour necrosis factor inhibitors in inflammatory bowel disease and risk of immune mediated inflammatory diseases.
Daniel Ward, Nynne Nyboe Andersen, Sanne Gortz, et al.
Clinical Gastroenterology and Hepatology,
Published:July 10, 2023DOI:https://doi.org/10.1016/j.cgh.2023.06.025

引用文献
TNF Blockers for IBD Tied to Risk for Immune-Mediated Diseases
— "Paradoxical" finding puzzles researchers
by Jeff Minerd, Contributing Writer, MedPage Today July 22, 2023

VD の補給が心血管イベントの発生率を減らす可能性があると言いますが [医学・医療への疑問]

高齢者に対し、毎月バイタミンD(VD)サプリメントを摂取させて主要な心血管イベントの発生率の変化を調査した研究の結果、VD の補給は発生率を減らす可能性があると記されている。しかし、、。

研究デザインは、ランダム化二重盲検プラシーボ対照試験 (D-Health 試験)。

参加者は、登録時の年齢が 60 ~ 84 歳の21, 315 人。 除外基準は、自己申告による高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、腎臓結石、骨軟化症、サルコイドーシス、1日あたり500 IUを超えるVDサプリメントの摂取、および言語または認知障害のために同意が得られない者。

介入 60, 000 IU/月のVD3 (n = 10, 662) またはプラシ-ボ(n = 10, 653) を最長 5 年間経口摂取。 16, 882 人の参加者が介入期間を完了(プラシ-ボ 8,270 (77.6%)。VD 8,552 (80.2%)。

メインアウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠状動脈血行再建術などの主要な心血管イベントの発生。

最終的に21, 302 人が分析に含まれ、介入期間の中央値は5年。 1,336 人の参加者が重大な心血管イベントを経験)。

主要な心血管イベントの発生率は、プラシ-ボ 699 人 (6.6%)、VD 637 人 (6.0%)de,プラシーボ群よりもVD群の方が低かった (hazard ratio 0.91, 95% confidence interval 0.81 to 1.01).特に,ベースラインで心血管薬を服用していた患者の間で顕著だった(0.84, 0.74 to 0.97; P for interaction=0.12).。但し、P 値により有意性はみとめられなかった。

全体として、5年時点での標準化された原因別累積発生率の差は、参加者1000人あたり-5.8イベント(95% confidence interval −12.2 to 0.5 per 1000 participants)であり、その結果、重大な心血管イベントを1件回避するために治療が必要な件数は172件(number needed to treat)となった。

心筋梗塞の発生率(hazard ratio 0.81, 95% confidence interval 0.67 to 0.98)と、冠動脈血行再建術(0.89, 0.78 to 1.01)(0.89、0.78~1.01)はVD群の方が低かったが、脳卒中の発生率(0.99、0.80)には差がなかった (0.99, 0.80 to 1.23)。

結論では、{絶対リスクの差は小さいが、VD の補給は主要な心血管イベントの発生率を減らす可能性があり、心血管疾患の予防または治療のために薬を服用している人々におけるVD補給の役割についてさらなる評価を促す可能性がある。」と記されている。

しかし、その差は僅かであり、臨床的に意味を持つとは考えにくい。さらに、NTTが172とは、1件のイベントを回避するために必要な治療件数は172件であり、1人を救うために171人への治療が無駄となる。NTTは一桁が望ましい。

医師達は余程VDが好きらしく、様々な疾患に対して何の根拠もなくVDを投与する似たような研究が後を絶たない。

出典文献
Vitamin D supplementation and major cardiovascular events: D-Health randomised controlled trial
BMJ 2023; 381 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-075230 (Published 28 June 2023)
Cite this as: BMJ 2023;381:e075230

長いテロメアが有利とは限らない [医学一般の話題]

長いテロメアに関連する遺伝子のPOT1にヘテロ接合性機能喪失型変異を保有する人は、一連の良性および悪性固形新生物に関連する家族性クローン性造血症候群の素因を有し、B 細胞リンパ腫や T 細胞リンパ腫、骨髄癌、上皮組織、間葉組織、神経組織を含む様々な良性および悪性新生物に罹患していた。これらの表現型は、細胞寿命の延長とテロメアを長期にわたって維持する能力によって媒介されていた。

テロメアの短縮は細胞の老化メカニズムの要因として考えられており、テロメア短縮症候群は加齢に関連した疾患を引き起こす。 しかし、長いテロメアが有利であるかはよく解っていない。

本研究では、テロメア関連遺伝子 POT1 にヘテロ接合性機能喪失型変異を保有する人と、非保有者の血縁者における老化と癌の臨床的および分子的特徴を調べた。

コホートは、17人のPOT1変異保有者と21人の非保有者親族、その後変異保有者6人。
が追加された。

POT1 変異保有者の大多数 (13 人中 9 人) は長いテロメア (99 パーセンタイル以上) を有していた。 POT1 変異保有者は、B 細胞リンパ腫や T 細胞リンパ腫、骨髄癌に加え、上皮組織、間葉組織、神経組織を含むさまざまな良性および悪性新生物に罹患していた。

POT1 変異保有者 18 人中 5 人 (28%) は T 細胞クローン性を有し、12 人中 8 人 (67%)は潜在的なクローン性造血を有していた。クローン造血の素因には常染色体優性の遺伝パターンがあり、また年齢とともに浸透度も増加した。体細胞DNMT3AおよびJAK2ホットスポット変異が一般的であり、これら、およびその他の体細胞ドライバー変異は恐らく人生の最初の数十年間に生じ、それらの系統は二次的により高い変異負荷を蓄積した。

さらに、続く世代では、遺伝的予期(つまり、病気の発症がますます早期になる)が示された。典型的な加齢に伴うテロメア短縮を示した非キャリアの親族とは対照的に、POT1 変異キャリアは 2 年間テロメア長を維持した。

結論として、長いテロメアに関連する POT1変異は一連の良性および悪性固形新生物に関連する家族性クローン性造血症候群の素因となり、これらの表現型のリスクは、細胞の寿命の延長と、テロメアを長期にわたって維持する能力によって媒介されていた。

出典文献
Familial Clonal Hematopoiesis in a Long Telomere Syndrome
List of authors.
Emily A. DeBoy, Michael G. Tassia, Kristen E. Schratz, et al.
N Engl J Med 2023; 388:2422-2433 DOI: 10.1056/NEJMoa2300503