肩インピンジメント症候群への関節鏡除圧の効果は検査のみと同等 [医学・医療への疑問]

肩インピンジメント症候群の患者210名を対象に、関節鏡除圧術(ASD)と診断的関節鏡検査のみ、および運動療法の3グループの効果を比較した、無作為化二重盲検プラシーボ対照試験の結果、関節鏡とASDに差はなく、運動療法とは有意差はあったもののその違いは僅か。

介入群は、診断的関節鏡検査の後、滑液包の摘除術(bursectomy)、骨棘の切除、および突出した肩甲骨の前側下面のASD処置。

関節鏡検査によって、ASD以外の介入を必要とする病理が示された場合には、患者を試験から除外した。適格となった参加者は、ASDまたは診断的関節鏡検査のいずれかにランダムに割り当てられた。診断用関節鏡検査グループに割り当てられた患者は、検査後に手術を中止した。割り当てを確実に隠すために、診断用関節鏡検査の参加者は減圧治療を行うのに必要な時間手術室に待機させた。

メインアウトカムは、24ヶ月後における、安静時の肩の痛み、および運動痛のVAS(0〜100のスケール、0は痛みを示さない)。臨床的に重要な差異の最小値は15とした。

各群におけるVASの平均差について、ASDから診断的関節鏡検査を差し引くと、安静時痛は-4.6点 (95% confidence interval −11.3 to 2.1)(P = 0.18)、運動痛は-9.0点(-18.1~0.2)(P=0.054)で、何れも有意差無し。

二次的転帰または有害事象も、ASD群と診断的関節鏡検査群との間に差は認められなかった。

ASD対運動療法では、安静時のVASの差は-7.5点(-14.0〜-1.0、; P = 0.023)。運動痛では-12.0(-20.9〜-3.2、ポイント; P = 0.008)で有意差はあったが、あらかじめ定められた最小値を超えていなかった。

鎮痛効果そのものは両群ともに高く、安静時痛のVASは、ASDでベースライン41.3から24ヶ月後5.3、運動痛は71.2から15.8。関節鏡のみでは、安静時痛41.6から9.9、運動痛72.3から24.8。

ASDと運動療法の比較では、それぞれ、安静時5.3vs 12.8、運動痛16.0vs28.1。しかし、このASD対運動療法の比較では盲検化が欠如しており、ASDに有利にバイアスされた可能性がある。

ASD群と診断的関節鏡検査群との間に治療効果の差が認められなかったことには重大な意味がある。「肩インピンジメント症候群」という、肩峰下と腱板との衝突を原因とする疾患概念に大きな疑問が生じたことになる。何故、関節鏡のみで軽快したのか、痛みのメカニズムと病態の本質を、改めて検証すべきと言いたい。
私見を言えば、「肩インピンジメント症候群」という疾患概念そのものが疑わしい。

Subacromial Impingement Syndrome(SIS)は、肩のプライマリヘルスケアにおける最も一般的な障害(診断上)であるが、その病因論は不明。肩関節形成術は整形外科手術のトップ10にもかかわらず、適応症の合意はなく、報告された結果も様々である(48〜90%で成功)(1.-5.)。

さらに、肩峰下面を3次元的に遡及的および定量的に分析し、インピンジメント症候群および回旋腱板裂傷(rotator cuff tears.)との関連性を調べた研究では、肩峰による骨のインピンジメントは、肩インピンジメント症候群または回旋腱板裂傷の主原因ではないと結論づけられている(6.)。

出典文献
Subacromial decompression versus diagnostic arthroscopy for shoulder impingement: randomised, placebo surgery controlled clinical trial
BMJ 2018; 362 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k2860 (Published 19 July 2018)
Cite this as: BMJ 2018;362:k2860

1.
Altchek DW, Warren RF, Wickiewicz TL, Skyhar MJ, Ortiz G, Schwartz E. Arthroscopic acromioplasty. Technique and results. J Bone Joint Surg Am. 1990;72:1198–1207. [PubMed]

2.
Beaufils P. the Cuff. Paris: Elzevier; 1997. Introduction to nonruptured and noncalcifying rotator cuff tendinopathies; pp. 187–191.

3.
Ellman H, Kay SP. Arthroscopic subacromial decompression for chronic impingement. Two- to five-year results. J Bone Joint Surg Br. 1991;73:395–398. [PubMed]

4.
Sachs RA, Stone ML, Devine S. Open vs. arthroscopic acromioplasty: a prospective, randomized study. Arthroscopy. 1994;10:248–254. doi: 10.1016/S0749-8063(05)80106-9. [PubMed] [Cross Ref]

5.
Van Holsbeeck E, DeRycke J, Declercq G, Martens M, Verstreken J, Fabry G. Subacromial impingement: open versus arthroscopic decompression. Arthroscopy. 1992;8:173–178. doi: 10.1016/0749-8063(92)90032-7. [PubMed]

6.
Shoulder impingement: objective 3D shape analysis of acromial morphologic features.
Chang EY, Moses DA, Babb JS, Schweitzer ME.
Radiology. 2006 May;239(2):497-505. Epub 2006 Mar 16.

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