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アキレス腱周囲の障害の見方と鍼治療法  [鍼灸治療法の実際]

 鍼灸治療を行っていますと、アキレス腱の不思議を良く感じます。アキレス腱とその周辺の炎症性障害のみならず、全身性の炎症性疾患(ライター症候群,強直性脊椎炎など)の際もこの部位の炎症は多く発症しますし、風邪症候群の1症状としてもアキレス腱痛は発症します。
 また、家族性高脂血症ではアキレス腱黄色腫は特徴的な所見であり、診断には必須です(軟線撮影で9mm以上は異常と判断)。
 さらに、腰痛や頚部の疾患、特に、項部筋群のspasmと関連し、アキレス腱部の緊張が緩和されないと頚部の症状も残ることや、項部への施鍼と同時に、ふくらはぎから足趾へ響くことをしばしば経験します。また、目の疲労や痛みに対してもアキレス腱周辺を使いますが、この私穴(後述)は最も効果的なポイントであるとの印象を持っています。

 足の疾患も多くの種類がありますが、当院の傾向としては、アキレス腱周囲の障害が圧倒的に多く見られます。また最近は、整形外科では局所の診察を手抜きしてX線のみに頼る傾向があるため、見逃されるか誤診されている患者さんが少なくありません。

 足の疾患の場合、圧痛や疼痛の部位が比較的明瞭であるため、局所の触診を行えば診断に苦慮することは少なく、適切な治療により早期に軽快します。
 以前に、私が考案した付着部症(enthesopathy)の鍼治療法の中で、アキレス腱付着部症について少し触れました。本稿では、もう少し詳しく説明し、周辺に見られる他の疾患についての説明と、鑑別法についても述べます。(周知の方にはお節介かとは思いますが、一般の鍼灸書では十分説明したものを見かけませんでしたので…。)

 アキレス腱炎(tenosynovitis paratenonitis)・アキレス腱周囲炎(peritendinitis)・アキレス腱付着部症(inssertinal tendinosis)・踵骨後部滑液包炎(retrocalcaneal bursitis)などが多く見られます。また、少し下になりますが、踵の下では足底腱膜の付着部症が多く見られます。この疾患は以外に多く、整形外科では、踵骨隆起にX線で変化がない場合には足底腱膜炎と診断され、治らずに来院する方が少なくありません。

 これらの疾患の症状はほぼ同様に、歩行時痛、局所および周辺の痛み、足関節の運動痛、局所の圧痛、腫脹などです。重要なことは、症状発症の誘引となった動作や外傷を正確に聴くこと。痛みを誘発する動作とその運動方向、局所の圧痛の確認と腫脹の有無などです。最終的には、圧痛部位が診断の決め手になります。
 従いまして、各疾患の症状などは省き、圧痛の部位を示して、簡単に注意点や治療法を述べます。

アキレス腱炎
 アキレス腱上に圧痛を認めますので診断は容易です。しかし私の経験では、整形外科学書に記されている程には見かけません。むしろ腱周囲炎の方がはるかに多く認められます。

アキレス腱周囲炎
 症状はアキレス腱炎と同じですが、圧痛は腱の内側または外側に限局していますので鑑別は容易です。アキレス腱は腱鞘をもたず、パラテノンと呼ばれる腱上膜で覆われており、この多数の弾力線維を有する疎性結合組織に起きた炎症がアキレス腱周囲炎です。

アキレス腱滑液包炎
 この滑液包は、図では横方向からは示していませんので解りにくいかも知れませんが、アキレス腱の付着部付近で、腱を挟んで前(踵骨後部滑液包)と後方(アキレス腱皮下滑液包)に2ヶ所有ります。付着部症とは部位が近接しているため、鑑別が問題となります。滑液包炎は外見からも分かる程度に腫脹し、圧痛の範囲は付着部症より広いことが特徴です。

アキレス腱付着部症
 アキレス腱の踵骨付着部は2相性になっていて、中央部の繊維は踵骨隆起中央部に、側方部の線維は踵骨の内外側に扇形に開いて付着しています。経験的には、圧痛を示すのは骨隆起の先端の内側または外側であり、この局所が“ET鍼(以前に紹介)”の目標となります。

足底腱膜付着部症
 アキレス腱からは少し離れますが、誘引としての足への負荷が共通しており、中には合併例もありますので説明します。また、X線検査にて骨病変が認められない場合には足底腱膜炎と診断され、冷湿布や温熱療法が行われるためなかなか治らず、当院へ来られる患者さんを良く診ます。
 足底筋膜は足の縦のアーチの保持と荷重時の衝撃吸収に重要な機能をもっているため、過大なストレスが集中します。ランニングやジャンプ動作が多いスポーツや、長時間歩行する職業の人(警察官:policeman's heel)に多くみられますが、極軽微な普段しない動作・仕事をした後でも発症します。踵部痛が主で、起床時の最初の一歩目の疼痛は特徴的で、つま先立ちで増悪します。但し、足根管症候群でも同様な症状であるため、足根管部のentrapment point と足底の知覚障害の有無で鑑別します。
 圧痛点は足底腱膜の内側で、位置的には、腱膜の下にある母趾外転筋と短趾屈筋の境辺りになります。印象では、これらの筋の付着部症ではないと考えています。

鍼治療法
1)基本的処置
 先ず始めに行う、全ての障害に共通する基本的方法は、腓腹筋とひらめ筋の緊張緩和です。
整形外科医は局所の炎症などの病変のみを見ますが、障害に至る契機として、筋への過剰な負荷があり、何れの疾患もこれらの筋の異常な緊張が認められます。軽症例では、この処置だけでも軽快します。後は、個々の障害に対する局所治療法が決め手となります。
2)局所への処置法
 アキレス腱炎・腱周囲炎・滑液包炎は、何れも局所へは通常の鍼治療はせず、刺絡抜罐法(BLTと略)のみとします(この処置を加えることで即効的となり1~2回で治癒します)。 
 付着部症に対しては、以前に紹介した“ET鍼”が極めて効果的です。場合によって、BLTを併用します。但しET鍼は、正確に患部へヒットさせることで治療効果が左右されます。最も効果的な圧痛点の選択と、正確な刺法が求められます。効果は即効的です。
(*図はクリックした後、もう一度すると拡大します)

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