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健康な高齢者の高HDL- C レベルは骨折リスクを増加させる [善玉・悪玉概念の否定]

一般的に善玉コレステロールと言われている、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL- C)ですが、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが報告されています。

HDL-Cレベルの上昇は骨粗鬆症と関連しています。 前臨床研究では、HDL-C が骨芽細胞の数と機能を低下させることによって骨密度を低下させることが報告されています。但し、これらの調査結果の臨床的意義は不明です。

このコホート研究は、Aspirin in Reduceing Events in the Elderly (ASPREE) 臨床試験および ASPREE-Fracture サブスタディからのデータの事後分析。

ASPREEは、アスピリンの二重盲検無作為化プラシーボ対照一次予防試験。参加者は、2010 年から 2014年までに募集。参加者は、明らかな心血管疾患、認知症、身体障害、および生命を制限する慢性疾患のないコミュニティベースの高齢者(70歳以上のオーストラリア人16703人、65歳以上の米国参加者2411人)で構成。 ASPREE-Fracture サブスタディでは、オーストラリアの参加者から無作為化後に報告された骨折に関するデータを収集し、Cox 回帰分析によってハザード比 (HR)を計算。この研究のデータ分析は、2022 年 4 月から 8 月にかけて実施。

ベースラインで血漿 HDL-C 測定を行った 16262 人の参加者 (8945 人の女性参加者 [55%] および 7319 人の男性 [45%]) のうち、1659 人が4.0 年 (0.02 ~ 7.0 年) の中央値 (IQR) で少なくとも 1 回の骨折を経験。完全に調整されたモデルでは、HDL-C レベルが 1 SD 増加するごとに、骨折のリスクが 14% 増加(HR, 1.14; 95% CI, 1.08-1.20)。HDL-C レベルをカテゴリ別に分析すると、最も高い五分位の個人は骨折のリスクが 33% 増加。

これらの分析が性別で層別化された場合、結果は同様のままでした。 感度分析と層別分析は、(1) 最小限の外傷骨折、(2) 骨粗鬆症薬を非服用者、(3) 非喫煙者、非飲酒者を含むように分析した場合にもこれらの関連性が持続した。(4) 1 日 30 分未満外の歩行、中等度ないし激しい身体活動に参加していないと報告し、(5) スタチンの使用者では、HDL-C レベルと骨折の間に関連性は観察されなかった。

結論として、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが示唆された。

今回の調査結果は、高 HDL-C レベルに関する別の潜在的な懸念と、血漿 HDL-C レベルを大幅に上昇させる薬物による副作用の可能性を浮き彫りにしていると、著者らは記しています。


これらの所見の病態生理学的説明を決定するには、さらなる研究が必要ですが、最近のいくつかの研究でも、高レベルHDLコレステロールの有害性が報告されています(引用文献)。

HDL-Cが原因特異的心疾患(CVD)死亡率に及ぼす影響を調べた研究の結果、高レベルでは、冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と有意に関連しました。

研究は、40-89歳の43,407人の参加者を対象とする、9つの日本人コホートの分析。参加者をHDL-Cレベルで5群に分類。最高レベルをHDL-C≥2.33mmol/ L以上(≧ 90mg / dL)とし、コホート層別Cox比例ハザードモデルによって、全死因死亡および原因別死亡を1.04~1.55mmol/L(40~59mg/dL)の群と比較して、各群の調整ハザード比を推定。

アテローム性CVDによる死亡リスクのハザード比は2.37(hazard ratio = 2.37, 95% confidence interval: 1.37-4.09 for total)で、2.37倍。

12.1年の追跡期間中に、全死因死亡が4,995人、CVDによる死亡が1,280人確認されています。

Association of extremely high levels of high-density lipoprotein cholesterol with cardiovascular mortality in a pooled analysis of 9 cohort studies including 43,407 individuals: The EPOCH-JAPAN study.
Aya Hirata, Daisuke Sugiyama, Makoto Watanabe, Akiko Tamakoshi, et al.,
Journal of clinical lipidology. 2018 Feb 08; pii: S1933-2874(18)30034-5.

ホルモンの変化、特にエストラジオールの減少は、更年期移行(MT)中のHDLの質を潜在的に損なう可能性のある危険因子の蓄積に影響する。女性が閉経期に移行するにつれて、HDL-Cレベルの上昇は独立してより大きな頸動脈内膜厚(cIMT)進行と関連することが報告されており、期待される心臓保護効果を示さない可能性があります。

ncrease HDL-C Level over The Menopausal Transition is Associated with Greater Atherosclerotic Progression
Samar R. El Khoudary, Lin Wang, Ms,a Maria M. Brooks, Rebecca C. Thurston, et al.,
J Clin Lipidol. 2016 Jul-Aug; 10(4): 962–969.
Published online 2016 Apr 26. doi: 10.1016/j.jacl.2016.04.008

また、高HDL-Cレベルが、進行性腎機能障害を有するループス腎炎(Lupus nephritis、LN)患者において、末期腎疾患(ESRD)リスクの増加と関連していることも報告されています。同時に、低HDL-CレベルもLN患者の全死因死亡のリスク増加と関連しました。

Effect of low and high HDL-C levels on the prognosis of lupus nephritis patients: a prospective cohort study
Peiran Yin, Ying Zhou, Bin Li, Lingyao Hong, et al.,
Lipids Health Dis. 2017; 16: 232.
Published online 2017 Dec 6. doi: 10.1186/s12944-017-0622-3

この他にも、老年性痴呆症の人はHDLコレステロールが高く、乳癌のリスクも高い。

「悪玉・善玉コレステロール」という、単純な分類には意味がなく、認識を改める必要がある(尚、上記引用文献は当ブログで紹介)。

出典文献
Association of Plasma High-Density Lipoprotein Cholesterol Level With Risk of Fractures in Healthy Older Adults,
Sultana Monira Hussain et al,
JAMA Cardiology (2023). DOI: 10.1001/jamacardio.2022.5124

感染症入院患者における低LDL-C値と敗血症リスクとの関連性 [善玉・悪玉概念の否定]

感染症で入院する1年以上前に測定された低LDLコレステロール(LDL-C)レベルは敗血症リスクの増加と関連していたが、交絡因子を調整するとこの関連性は併存症によるものであり、LDL-Cの遺伝的危険因子は敗血症またはその結果に関連しないと報告されている。

低密度リポタンパク質(LDL)を含むリポタンパク質は、血管拡張、毛細血管透過性の増加、末梢血管抵抗の減少など、多くの敗血症の徴候を媒介する有毒なリポ多糖(LPS)を結合するが、LDLはLPS誘発性の死亡リスクから保護することが示唆されている。

低レベルのLDL-Cを有する患者は敗血症のリスクが高く、転帰が悪化する。地域在住の成人を対象とした研究では、コホートに入る時点での低LDL-Cレベルが将来の敗血症リスクの増加と関連していることが示され、LDL-Cレベルが直接敗血症リスクに影響を与える可能性がある。

しかし、これらの研究は、LDL-Cが敗血症のリスクと予後不良のリスクを直接改善するのか、それとも併存疾患の影響を介してのものかという疑問には答えられてはいない。

アメリカでは、敗血症は集中治療室(ICU)への入院の一般的な原因であり、院内死亡の2〜3人に1人の割合となっている。敗血症は感染症の合併症であり、制御不能な全身性炎症反応、および臓器不全などにによって死亡率が高く、有効な治療法はない。 したがって、敗血症を予防し患者を治療するための新しいアプローチが必要であり、敗血症およびその結果に対するリポタンパク質の影響は関心のある分野の1つ。

より低い脂質レベルへの新しい薬(プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型[PCSK9]阻害剤)はLDL-C濃度を非常に低いレベルまで下げるため、低LDL-Cレベルが敗血症のリスク増加とより悪い転帰に直接関連するかを検証することは重要である。

血清LDL-Cの低下療法は、心血管系の罹患率および死亡率を低下させるのに有益であることが証明されている。しかし最近、非常に危険度の高い患者において、推奨される目標LDL-Cレベルは<70 mg / dlに減少しているが、そのような低レベルへの危惧もある。

例えば、203名の患者を対象にした、低レベルLDL-C(グループ1n=79:<70mg/dl, グループ2n=124:>70mg/dl)と発熱、敗血症、および悪性腫瘍の発生率との関連を調べた研究では(後ろ向き分析)、第1のグループは血液癌のオッズ比が15倍以上増加したことを示した(OR 15.7、95%CI 1.78-138.4、p = 0.01)(1)。

また、LDLの各1 mg / dlの増加は、血液癌のオッズ比の2.4%の相対的な減少と関連していた(OR 0.976、95%CI 0.956-0.997、p = 0.026)。さらに、低LDL-Cレベルは群間の発熱および敗血症の可能性を増大させた(OR5.3,95%CI;1.8-15.7, p=0.02)。

要約すると、低血清LDL-C値レベルは、血液癌、発熱、および敗血症のリスク増加と関連していた。但し、後ろ向き観察研究であり、因果関係は不明。

LDL-Cに限定されていないが、心肺バイパス患者177名を対象にした、前向き観察研究の例(フランスの大学病院の外科ICU)では(2)。

この研究では、麻酔導入前(ベースライン)、心肺バイパス開始時、心肺バイパス終了時、心臓手術後3および24時間の血漿血中脂質および炎症マーカーを測定。転帰は、敗血症を伴う全身性炎症反応症候群患者(n = 15)、敗血症を伴わない全身性炎症反応症候群患者(n = 95)、および非全身性炎症反応症候群患者(n = 107)で比較。

血漿コレステロール濃度の漸進的な減少は、心肺バイパス手術中に発生したが、血液希釈の補正後にはもはや存在しなかった。敗血症患者の補正コレステロール値は他のサブグループよりも敗血症患者のベースラインで有意に低く、心肺バイパス術中および術後に敗血症グループの方が低かった。敗血症に関して、ベースラインコレステロールの識別力は、受信者動作特性曲線分析によって示されるように良好であった(曲線下面積、0.78;95%CI, 0.72-0.84)。

ベースラインコレステロールレベルの五分位数が増加するにつれて、敗血症の頻度は漸進的に減少した(底部および上部五分位数でそれぞれ18.6%および0%, p=0.005)。多変量解析では、ベースラインコレステロール値と心肺バイパス期間は、プロカルシトニンとインターロイキン-8の濃度における3時間の心肺後バイパス増加の有意で独立した決定要因であったが、インターロイキン-6の濃度ではなかった。

結論として、心肺バイパスによる選択的心臓手術前の低コレステロール値は、敗血症のリスクが高い患者を早期に特定するためのバイオマーカーとなる可能性があると述べられている。

出典文献
Association Between Low-Density Lipoprotein Cholesterol Levels and Risk for Sepsis Among Patients Admitted to the Hospital With Infection
QiPing Feng, Wei-Qi Wei, Sandip Chaugai, et. al,
JAMA Netw Open. 2019;2(1):e187223. doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.7223

1.
Low serum LDL cholesterol levels and the risk of fever, sepsis, and malignancy.
Ann Clin Lab Sci. 2007 Autumn;37(4):343-8.
Shor R1, Wainstein J, Oz D, Boaz M, Matas Z, Fux A, Halabe A.

2.
Low preoperative cholesterol level is a risk factor of sepsis and poor clinical outcome in patients undergoing cardiac surgery with cardiopulmonary bypass.
Crit Care Med. 2014 May;42(5):1065-73. doi: 10.1097/CCM.0000000000000165.
Lagrost L1, Girard C, Grosjean S, Masson D, Deckert V, Gautier T, Debomy F, Vinault S, Jeannin A, Labbé J, Bonithon-Kopp C.

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一酸化炭素放出分子-3は虚血再灌流誘発脳損傷を軽減する [善玉・悪玉概念の否定]

一酸化炭素放出分子(CORM)-3は、神経炎症を抑制して血液脳関門の破壊を緩和することにより、虚血再灌流誘発脳損傷を軽減して神経回復を促進することが示唆されている。

一酸化炭素中毒でお馴染みの外因性COは、ヘモグロビンに対する高い親和性(ヘモグロビンに対する親和性はO2の210倍)によってカルボキシヘモグロビン(COHb)となる。その結果、酸素がヘモグロビンに結びつけなくなることで組織への酸素の送達が損なわれるため、一般的には有毒性ガスとして認識されているが、毒性の有無や必要性は濃度によって異なってくる。

COは、体内においても、ビリベルジンからヘムオキシゲナーゼによって産生されている。神経伝達物質としての機能や平滑筋弛緩作用などもある。

COは低レベルでは、その潜在的な抗炎症性、抗アポトーシス性および抗増殖性によって複数の組織に対して有益性を有している。本研究は、一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)マウスモデルを使用してCORM-3の役割を明らかにしている。

tMCAOを受けたマウスのうち、CORM-3を投与されたマウスは生理食塩水処置マウスよりも梗塞容積が有意に少なく、ニューロン核抗原(NeuN)および微小管関連タンパク質2のより大きな発現が示された。 CORM-3処置マウスは、対照マウスよりも梗塞周囲領域において活性化ミクログリアが優位に少なく、イオン化カルシウム結合アダプター分子(Iba)-1、腫瘍壊死因子-α、およびインターロイキン1βの発現が抑制された。

CORM-3処置マウスは、tMCAO後3,7と14日目に有意に低い脳含水量および神経学的転帰を示した。また、CORM-3処理はエバンスブルー漏出を減少させた。血小板由来増殖因子受容体-β、タイトジャンクションタンパク質ZO-1、およびマトリックスタンパク質ラミニンの発現増加、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9のタンパク質レベルを低下させた。

低濃度の吸入COがNrf2経路を活性化することによって神経保護効果をもたらすことが示されている(1)。しかしながら、COガスの適用は、低酸素による毒性、CO吸入施設の必要性、および血中酸素レベルのモニタリングなどの制限がある。これに対して、遷移金属カルボニルはCOを送達するための良好な候補である。

水溶性CORM-3は、制御された量のCOを運搬および放出することができる一群の化合物であり、COHbを毒性レベルに変化させることなく外因性COを送達する。 CORM由来COによる効果のメカニズムは未解明だが、腎虚血再灌流傷害、外傷性脳損傷、移植、敗血症、高血圧および心臓血管障害を含む、多数の損傷モデルにおける組織損傷に対する保護的効果を実証する多くの研究が報告されている(2.3.4.5.6.7.8.)。

CORM-3治療は、BBB破壊を軽減して脳梗塞および浮腫を軽減し、神経機能を改善することによって脳損傷後の良好な転帰に寄与し得る。

出典文献
Carbon monoxide-releasing molecule-3 protects against ischemic stroke by suppressing neuroinflammation and alleviating blood-brain barrier disruption
Jianping Wang, Di Zhang, Xiaojie Fu, Lie Yu, Zhengfang Lu, et al.,
Journal of Neuroinflammation201815:188
https://doi.org/10.1186/s12974-018-1226-1

1.
Wang B, Cao W, Biswal S, Dore S. Carbon monoxide-activated Nrf2 pathway leads to protection against permanent focal cerebral ischemia. Stroke. 2011;42:2605–10.

2.
Yoon YE, Lee KS, Lee YJ, Lee HH, Han WK. Renoprotective effects of carbon monoxide-releasing molecule 3 in ischemia-reperfusion injury and cisplatin-induced toxicity. Transplant Proc. 2017;49:1175–82.Google Scholar

3.
Yabluchanskiy A, Sawle P, Homer-Vanniasinkam S, Green CJ, Foresti R, Motterlini R. CORM-3, a carbon monoxide-releasing molecule, alters the inflammatory response and reduces brain damage in a rat model of hemorrhagic stroke. Crit Care Med. 2012;40:544–52.

4.
Ruan Y, Wang L, Zhao Y, Yao Y, Chen S, Li J, Guo H, Ming C, Chen S, Gong F, Chen G. Carbon monoxide potently prevents ischemia-induced high-mobility group box 1 translocation and release and protects against lethal renal ischemia-reperfusion injury. Kidney Int. 2014;86:525–37.

5.
Choi YK, Maki T, Mandeville ET, Koh SH. Dual effects of carbon monoxide on pericytes and neurogenesis in traumatic brain injury. Nat Med. 2016;22:1335–41.

6
Jamal Uddin M, Joe Y, Kim SK, Oh Jeong S, Ryter SW, Pae HO, Chung HT. IRG1 induced by heme oxygenase-1/carbon monoxide inhibits LPS-mediated sepsis and pro-inflammatory cytokine production. Cell Mol Immunol. 2016;13:170–9.

7.
Chatterjee PK. Water-soluble carbon monoxide-releasing molecules: helping to elucidate the vascular activity of the ‘silent killer’. Br J Pharmacol. 2004;142:391–3.

8.
Zhang W, Tao A, Lan T, Cepinskas G, Kao R, Martin CM, Rui T. Carbon monoxide releasing molecule-3 improves myocardial function in mice with sepsis by inhibiting NLRP3 inflammasome activation in cardiac fibroblasts. Basic Res Cardiol. 2017;112:16.

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尿酸は抗酸化作用によってニューロンを保護する [善玉・悪玉概念の否定]

細胞内尿酸値を上昇させることにより、LPS誘発パーキンソン病(PD)モデルにおいて、活性化ミクログリアによって誘導される炎症から保護したと報告されている。

尿酸は、炎症促進性サイトカイン産生、誘導性シクロオキシゲナーゼ2および酸化窒素シンターゼ発現を抑制して、活性化ミクログリアの毒性作用からドーパミン作動性ニューロンを保護した。

また、尿酸の神経保護効果は、インターロイキン10およびトランスフォーミング成長因子β1などの、抗炎症因子の刺激と関連している可能性がある。

神経保護効果は、腎臓において尿酸を再吸収する、グルコーストランスポーター9および尿酸トランスポーター1(URAT1)の両方の阻害剤であるプロベネシド(PBN)の前処理によって無効となった。PBNはまた、尿酸の抗炎症作用を消滅させた。

尿酸投与によって、リポ多糖(LPS)誘発PDモデルラットにおける運動協調の損失が逆転した。さらに、血漿尿酸値の上昇は、URAT1発現の減少、インターロイキン-1βの発現増加、およびイオン化カルシウム結合アダプター分子1-陽性ミクログリア数をそれらの形態変化と共に削減した。

高尿酸血症が心血管疾患や腎障害を悪化させる可能性があると考えられている。

一方、痛風がパーキンソン病やアルツハイマー型認知症、および血管性・非血管性認知症の減少に関連するとの報告が増えている(Lancet 2016; 388: 2039-2052)。

高尿酸値とPD発症リスクが低いこには相関があり、疾患の進行速度の低下も報告されている(Arch Neurol. 2008;65:716–23.Schwarzschild MA, Constantinescu R, Drugs Today. 2011;47:369–80. )

尿酸は通風の原因として、とかく悪玉とみられているが、単なる老廃物ではない。糸球体で濾過された尿酸は、尿細管上皮細胞の管腔側に発現するURAT1/SLC22A12と、血管側に発現するGLUT9/SLC2A9(URATv1)の2つのトランスポーターによって90%が再吸収され、尿中に排泄されるのは残りの10%に過ぎない。つまり、必要性があるからこそ、腎臓は一所懸命尿酸を再吸収しているのである。

尿酸の生理学的役割として抗酸化作用が重要である。その認識は、1970年のNatureの論文(Nature 1970; 228: 868)が発端となった。活性酸素やフリーラジカルによる過剰な酸化作用は、細胞膜の脂質の酸化といった様々な組織障害を引き起こす。その主なものとして、例えば、海馬の神経細胞の酸化による障害によってアルツハイマー型認知症、黒質ではパーキンソン病などの、炎症反応に関与する。

日本における「高尿酸血症・痛風診療ガイドライン」では、無症候性高尿酸血症への薬物治療の導入は血清尿酸値8.0mg/dL以上を一応の目安としている。しかし、米国リウマチ学会の痛風ガイドラインでは、無症候性高尿酸血症の治療を推奨していない(Arthritis Care Res2012; 64: 1431-1446)。適応はより慎重にすべきである。


痛風は周知のように、尿酸が過剰になることで尿酸ナトリウム塩が関節などに蓄積して発症します。尿酸はプリン体の代謝産物ですが、ヒトには尿酸分解酵素の遺伝子活性がないことがその要因です。ほとんどの生物は尿酸を尿素やアンモニアに分解して排泄しますが、ヒトとゴリラ、およびチンパンジーなどは進化の過程で尿酸分解酵素を失いました。しかし、それは単に喪失したのではなく、前述した、尿酸の抗酸化作用が生存に有利だったことが大きな要因として考えられています。

出典文献
Urate inhibits microglia activation to protect neurons in an LPS-induced model of Parkinson’s disease
Li-Hui Bao, Ya-Nan Zhang, Jian-Nan Zhang, et al.,
Journal of Neuroinflammation201815:131
https://doi.org/10.1186/s12974-018-1175-8

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高レベルHDLコレステロールは心疾患による死亡リスクを増加させる [善玉・悪玉概念の否定]

一般的に善玉と言われている、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)が原因特異的心疾患(CVD)死亡率に及ぼす影響を調べた研究(日本)によって、高レベルでは、冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と有意に関連したと報告されている。

研究は、40-89歳の43,407人の参加者を対象とする、9つの日本人コホートの分析。参加者をHDL-Cレベルで5群に分類。最高レベルをHDL-C≥2.33mmol/ L以上(≧ 90mg / dL)とし、コホート層別Cox比例ハザードモデルによって、全死因死亡および原因別死亡を1.04~1.55mmol/L(40~59mg/dL)の群と比較して、各群の調整ハザード比を推定。

アテローム性CVDによる死亡リスクのハザード比は2.37(hazard ratio = 2.37, 95% confidence interval: 1.37-4.09 for total)。

12.1年の追跡期間中に、全死因死亡が4,995人、CVDによる死亡が1,280人確認されている。

Association of extremely high levels of high-density lipoprotein cholesterol with cardiovascular mortality in a pooled analysis of 9 cohort studies including 43,407 individuals: The EPOCH-JAPAN study.
Aya Hirata, Daisuke Sugiyama, Makoto Watanabe, Akiko Tamakoshi, et al.,
Journal of clinical lipidology. 2018 Feb 08; pii: S1933-2874(18)30034-5.

最近のいくつかの研究でも、CVD事象に対する高レベルのHDL-Cによる有害作用が報告されている。

実験的および観察的研究によって、HDL-Cが特定の状態においてアテローム保護機能を失い、炎症性の性質をもつことが示されている。

ホルモンの変化、特にエストラジオールの減少は、更年期移行(MT)中のHDLの質を潜在的に損なう可能性のある危険因子の蓄積に影響する。女性が閉経期に移行するにつれて、HDL-Cレベルの上昇は独立してより大きな頸動脈内膜厚(cIMT)進行と関連することが報告されており、期待される心臓保護効果を示さない可能性がある。

ncrease HDL-C Level over The Menopausal Transition is Associated with Greater Atherosclerotic Progression
Samar R. El Khoudary, Lin Wang, Ms,a Maria M. Brooks, Rebecca C. Thurston, et al.,
J Clin Lipidol. 2016 Jul-Aug; 10(4): 962–969.
Published online 2016 Apr 26. doi: 10.1016/j.jacl.2016.04.008

また、高HDL-Cレベルが、進行性腎機能障害を有するループス腎炎(Lupus nephritis、LN)患者において、末期腎疾患(ESRD)リスクの増加と関連していることも報告されている。同時に、低HDL-CレベルもLN患者の全死因死亡のリスク増加と関連していた。

Effect of low and high HDL-C levels on the prognosis of lupus nephritis patients: a prospective cohort study
Peiran Yin, Ying Zhou, Bin Li, Lingyao Hong, et al.,
Lipids Health Dis. 2017; 16: 232.
Published online 2017 Dec 6. doi: 10.1186/s12944-017-0622-3

この他にも、老年性痴呆症の人はHDLコレステロールが高く、乳癌のリスクも高い。「悪玉・善玉コレステロール」という、単純な分類には意味がない。


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ニコチンの使い道 [善玉・悪玉概念の否定]

喫煙は、口腔咽頭癌、肺癌、循環器系疾患、COPDや歯周病の発症と悪化に関与します。しかし一方では、骨髄由来樹状細胞へのニコチン刺激でCD80, CD86, MHC classⅠ, classⅡの発現上昇と、T細胞増殖活性の増強および抗癌作用があるとの報告1)があります。

臨床的な知見では、喫煙者におけるニコチンの摂取は腸疾患を有意に改善することも示唆されています。また、喫煙者はパーキンソン病発症リスクが低いことも30年以上前から知られていました。これは、ニコチンが神経保護作用を有することによります。例えば、Aβ増強グルタミン酸誘発細胞死に対する保護作用やイオノマイシン誘発神経毒性への保護作用も示します。

ニコチンは神経伝達物質であり、イオンチャネル型のレセプターであるニコチン様アセチルコリンレセプター(nAChR)に結合します。 nAChRは主に神経筋接合部におけるシグナル伝達に働きます。アルツハイマー病、パーキンソン病、およびレビー小体病においてnAChRの減少が見られることから、認知症を引き起こす神経変性疾患の病態に関与すると考えれています。また、最近では、nAChRを介する刺激が免疫担当細胞に対して様々な影響を与えることが示唆されています。

1例として、α7サブユニットを介したシグナルにより、LPS刺激マクロファージからの炎症性サイトカイン産生が抑制されることが報告2)されています。喫煙歴がある歯周病の患者で非喫煙者よりも病態がより重篤となる要因には、喫煙による免疫抑制が関与することも報告3) されています。

簡単にまとめますと、ニコチンの存在下でGM-CSFとIL-4で分化させた樹状細胞(DC:最も強力な抗原提示細胞)をNiDCとしてLPS刺激すると、DCのサイトカイン産生は抑制されます。これ以外にも、ナイーブCD4陽性T細胞の増殖の抑制、IFN-γ産生の減少、IL-5/IL-10産生の増強が認められています。

また、タバコ煙抽出物(cigarett smoke extracts ; CSE)の存在下でニコチンを作用させますと、IL-12の産生量減少とIL-10産生量の増加4)(IL-10は一般的には抗炎症性のサイトカインですが、状況によっては炎症促進性にも働くことに注意)、CD40, CD80, CD86, 発現およびT細胞増殖活性の減弱とT細胞からのIL-4産生の増強が報告1)されています。

ニコチンは、免疫応答をTH2型にシフトさせるようです。

免疫の暴走による、難治性の多くの疾患が存在します。ニコチンによる免疫抑制作用はこれらの疾患の治療薬の開発に繋がることが期待されます。

1)Guo FG, Li HT, Li ZJ, Gu JR. Nicotine stimulated dendritic cell could achieve anti-tumor effects in mouse lung and liver cancer. J Clin Immunol 2011 ; 31: 80.

2)Wang H, Yu M, Ochani M, et al. Nicotinic acetylcholine receptor alpha7 snbunit is an essntial regulator of inflammation. Nature 2003. ; 421: 384.

3)柳田学他 ニコチンによる樹状細胞の機能修飾 臨床免疫・アレルギー科, 2012 , 57(3): 249-253.

4)Nouri-Shirazi M, Tinajero R, Guinet E. Nicotine alters the biological activities of developing mouse bone marrow-derived dendritic cells (DCs), Immunol Lett 2007, ; 109: 155.

また、経皮ニコチン治療によって、注意力や記憶などの軽度認知機能障害の改善がみられたとする報告もあります。その内容は、注意力、記憶力、精神運動機能などのセカンダリ・アウトカムの改善が認められたとするものです。但し、プライマリーアウトカムの改善は認められていません。

P. Newhouse, MD, K. Kellar, et al.
Nicotine treatment of mild cognitive impairment A 6-month double-blind pilot clinical trial
Neurology January 10, 2012 vol. 78 no. 2 91-101

余談になりますが、ニコチンは、毒性をコントロールできれば、その強力な鎮痛作用を有効に利用して新しい鎮痛剤ができることは70年程前から分かっているのです。毒性と薬効は裏表の関係にあります。

ニコチンの様々な機能について述べましたが、喫煙を推奨するものではありません。タバコの煙に含まれる約4500種の化学物質の内、200種類ほどが有害であると言われています。


臭い硫化水素の以外な話 [善玉・悪玉概念の否定]

 温泉や腐った卵の臭いで知られる硫化水素(H2S)は、一般には毒ガスとして知られています。しかしながら近年、硫化水素は、脳、肝臓、腎臓、血管、膵臓などで産生され、神経細胞や心筋を酸化ストレスから保護することや、平滑筋弛緩作用、海馬機能の長期増強促進作用、抗炎症作用、インスリン分泌調節、血管新生など、多様な機能をもっていることが分かってきました。

 パーキンソン病モデル動物による実験では、L-dopaよりも優れています。これは、モノアミンオキシダーゼ(MAO)を抑制する作用や、ミクログリアからのサイトカイン放出を抑制する作用によるものです。

 硫化水素の濃度が0.003ppmで、ヒトの嗅覚は察知しますが、100ppmでは麻痺し、これ以上の濃度では臭いを感じなくなります。そして、頭痛、めまい、呼吸困難となり死に至ります。その毒性が報告されたのは1713年ですが、1989年に、ほ乳類の脳に硫化水素が存在することが報告され、何らかの生理活性をもつことが予想されました。

 硫化水素に限らず、ガス状分子は細胞の脂質二重膜を容易に通過し、アクアポリンを通過する必要が無いことなどの優れた機能があります。以前は、代謝経路の末席に位置する排泄物として扱われていた、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO古くから有名)、硫化水素などのガス状分子が、神経伝達物質としてだけではなく、様々な生理活性を発揮することが明らかになってきています。

 例えば、中毒死で有名な一酸化炭素も、生体内ではビリベルジンからヘムオキシゲナーゼによって産生され、平滑筋弛緩作用があり、脳内でも機能しています。

 アメリカでは、細胞保護作用の利用として、心臓のバイパス手術の際の虚血再還流障害から心筋を保護する目的で、硫化水素を適用する第Ⅱ相試験が進められているようです。
 
 また、炎症性腸疾患(ATB-429メラミン製剤)、慢性関節炎(ATB-346)、過敏性腸疾患( ATB-284)などの治療薬が開発され、心筋障害、泌尿器疾患、リウマチ、神経変性疾患などへの応用を目的に、硫化水素を少しずつ放出するシルデナフィル、アスピリン、ジクロフェナクなども開発中のようです。

 “Gas biology”は、非侵襲的検査法、治療薬の開発など、今後の発展が期待されます。

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