食事性サイアミン摂取量と認知機能低下はJ 字型に関係する [栄養の話題]

食事によるサイアミン(VB1)摂取量と、全体認知スコアおよび複合認知スコアの5年間低下率との間にはJ字型の関係があり、変曲点は0.68mg/日(95%信頼区間(CI):0.56~0.80)であり、食事によるサイアミン摂取量は0.60~1.00 mg/日で最小リスクとなることが報告されています。

変曲点以前では、サイアミン摂取は認知機能低下と有意な関連はありませんでした。 変曲点を超えると、サイアミン摂取量 (mg/日) の単位増加ごとに、全体スコアが 4.24 (95% CI: 2.22 ~ 6.27) ポイント、基準値が 0.49 (95% CI: 0.23 ~ 0.76) ポイントの大幅な減少と関連していました。

変曲点以降、特に肥満、高血圧、非喫煙者において、認知機能低下との有意かつ正の関連性が明らかになりました。

この研究の参加者は、認知機能テストを繰り返し完了できる合計3,106人。食事の栄養素摂取情報は、3日間の食事のリコールと、食用油と調味料の消費量を評価するために3日間の食品重量測定方法を使用。 認知機能の低下は、認知状態に関する電話面接からの項目のサブセットに基づいて修正され、全体的な認知スコアまたは複合認知スコアの 5年間の低下率として定義。追跡期間の中央値は 5.9 年

サンプルサイズが小さい以前のいくつかの臨床試験では、サイアミン治療(5~600 mg/日)が認知障害または軽度認知症患者(n=70)の認知機能を改善し、認知障害のある血液透析患者(n=50)では認知機能を改善できることが報告されています。 但し、サンプル数が少なく、高リスクの参加者が含まれているため、これらの臨床試験論は、食事によるサイアミン摂取による患者の認知機能に及ぼす影響を推測することはできません。 また、高齢者の食事によるサイアミン摂取と認知力との関係を調査した、これまでの横断研究および症例対照研究はわずか数件しかなく、結果には一貫性がありませんでした。

周知のように、サイアミン (バイタミン B1) は、エネルギー代謝、神経伝達物質の合成および分泌に関与する必須の水溶性バイタミンで、欠乏症は、腱反射消失、心悸亢進、脚気、多発性神経炎などがあります。その昔江戸では、精米技術の進歩によって白米の多食が普及して脚気患者が多発し、「江戸病」と言われました。また、日清戦争の際には、森鴎外の誤策によって脚気で数万人の兵士が命を落としました。その人数は鉄砲による死亡よりも遥に多くその多くが戦地へ着く前の船中で亡くなりました。しかし、現代においても、インスタント食品や酒、加糖飲料の飲み過ぎによって発症しています。

サイアミン欠乏症は、脳のニューロンへのエネルギー供給不足と脳内のアセチルコリンシグナル伝達の減少を引き起こす可能性があり、これにより認知機能が損なわれる可能性があります。従って、高齢者の認知機能には最適なサイアミン摂取量を維持することが必要です。

食事によるサイアミン摂取量が変曲点を超えると、認知機能低下と有意に正の関連性を示しました。この発見は、長期にわたるサイアミンの過剰摂取が一般集団における新規発症糖尿病および新規高血圧発症リスクんの増加と関連しており、この研究と一致しています。さらに、糖尿病と高血圧はどちらも認知機能低下や認知症の危険因子です。サイアミンはコリンエステラーゼの活性を阻害することでアセチルコリンレベルを調節します。脳内のアセチルコリンレベルが高いと、認知に悪影響を与える可能性があります。したがって、著者たちは、食物からのサイアミンの高レベルの摂取は、脳内のアセチルコリンレベルの上昇を誘発して認知機能の低下を引き起こす可能性があると推測しており、根底にあるメカニズムのさらなる研究が必要であると記しています。

尚、この研究の限界の1つとして、観察分析であるために未測定または未知の因子による残留交絡の可能性を完全に排除することはできません。

補足:
この国では、一般的に「チアミン」、「ビタミン」と呼ばれており、この様な「デタラメ言葉」は医師や科学者でも平気で使用しています。しかし、発音に近いカタカナで表記するならば、「サイアミン」「バイタミン」が正しい。このようなデタラメ言葉は数限りなく氾濫しています。私自身、英語は得意ではありませんが、今後は気がつく限りなるべく正しく記したいと考えています。

出典文献
J-shaped association between dietary thiamine intake and the risk of cognitive decline in cognitively healthy, older Chinese individuals
Chengzhang Liu, Qiguo Meng, Yuanxiu Wei,
Gen Psychiatr 2024; DOI: 10.1136/gpsych-2023-101311.
http://orcid.org/0000-0001-7812-7982