1日に8000 歩以上歩く日数と死亡率との関係はJ字型 [医学・医療への疑問]

これまでの研究では、1 日 8000 歩以上歩く人は死亡率が低いことが示されていますが、歩く日数と死亡率との間の用量反応関係を評価した研究の結果、死亡率の底は1日~2日で、3日以後増加して6日~7日では逆に高くなった。

結果の中で、全原因死亡リスクと心血管死亡リスクの用量反応関係は曲線的で、保護効果は週 3 日で頭打ちになったと述べている。

さらに、“Discussion”では、8000 歩以上を週に 1 日か 2 日だけしか歩かなかった参加者でさえ、より定期的に活動していた参加者 (つまり、8000 歩以上を週に 3 日から 7 日歩いた参加者) と比較して、全原因および心血管死亡率の大幅な減少を示したと、紛らわしい表現をしている。

「8000 歩以上を週に 1 日か 2 日だけしか歩かなかった参加者でさえ」ではなく、3日以上では死亡率は増加していくのである。

さらに結論で、このコホート研究では、1 週間に 8000 歩以上歩く日数は全原因および心血管死亡のリスク低下と曲線的に関連しており、週に数日歩くだけでかなりの健康上の利益を得る可能性があることを示唆している、と述べている。しかし、死亡率は日数の増加とともに上昇するJ字型の曲線を描くのであり、歩数を増やせばさらに死亡率が増加する可能性もあり得る。

このコホート研究では、2005 年から 2006 年の国民健康栄養調査で 1 週間加速度計を装着した 20 歳以上の参加者の代表的なサンプルと、2019 年 12 月 31 日までの死亡率データを評価した。 2022 年 4 月 1 日から 2023 年 1 月 31 日までの分析。

3,101 人の参加者 (平均 [SD] 年齢、50.5 [18.4] 歳; 1583 [51.0%] 女性および 1518 [49.0%] 男性; 666 [21.5%] 黒人、734 [23.7%] ヒスパニック系、1579 [50.9%] 白人、および 122 [3.9%] のその他の人種および民族性)、632人 (20.4%) はどの曜日でも 8000 歩以上歩かず、532人 (17.2%) は 8000 歩以上を週に 1 ~ 2 日、 1937 人 (62.5%) は 8000 歩以上を週に 3 日から 7 日歩いた。

10 年間の追跡調査で、全原因死亡数は439 人 (14.2%)、148 人 (5.3%) が心血管疾患で死亡。 潜在的な交絡因子を調整した後、8000 歩以上が週に0 日であった参加者と比較して、8000 歩以上を週に 1 ~ 2 日行った参加者の 10 年間の全死因死亡リスクは 14.9% 低かった (aRD, − 14.9%; 95% CI、-18.8%~-10.9%)。週に 3~7 日 8000 歩以上歩く人では 16.5% 低い (aRD、-16.5%; 95% CI、-20.4%~-12.5) %)と記されている。しかし、これは3~7 日間の平均値に過ぎない。

この表記はいかにも恣意的で、読者を欺こうとしているとしか思われない。 死亡率の底は1 ~ 2 日で、3日以後はJ字を描いて上昇し、6日~7日では逆に0日よりも増加していることには何も説明がない(原著のグラフを参照すれば一目瞭然です)。

さらに、この研究の問題点として、毎日の歩数はベースラインで 1週間しか測定されなかったことや、身体活動の変化が死亡リスクにどのように寄与するかについての情報が欠如している。

参加者の病歴が自己申告であり、ベースラインにおける身体の状態が正しく評価されていないことに大きな問題がある。身体活動の少ない健康な人が測定期間中に身体活動レベルを高めた可能性や、元々、健康状態の悪い参加者では活動が制限されており、さらに死亡率が高くなるのは必然である。

つまり、歩いたから死亡率が下がるのではなく、元気な人が歩けたに過ぎない。さらに、日数の増加によって死亡率は上昇したが、その点を何も分析せずにごまかそうとしている。このような論文が、“JAMA”に掲載されている。

出典文献
Association of Daily Step Patterns With Mortality in US Adults
Kosuke Inoue, Yusuke Tsugawa, Elizabeth Rose Mayeda, et al.
JAMA Netw Open. 2023;6(3):e235174. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.5174

急性の非特異的腰痛に対する鎮痛薬の有効性と安全性は不明 [腰痛関連]

急性の非特異的腰痛に対する鎮痛薬の効果を確認するために実施されたシステマティックレビューとネットワークメタ分析の結果、有効性と安全性についての信頼度が低く、プラシーボと比較して有害事象のリスク増加と関連することが示された。

データソースは、Medline、PubMed、Embase、CINAHL、CENTRAL、ClinicalTrials.gov、clinicaltrialsregister.eu、およびデータベースの開始から 2022 年 2 月 20 日までの世界保健機関の国際臨床試験登録プラットフォーム。

研究選択の適格基準は、鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬、パラセタモール、オピオイド、抗けいれん薬、骨格筋弛緩薬、コルチコステロイドなど)を別の鎮痛薬、プラシーボ、または無治療と比較したランダム化比較試験。対象は、急性の非特異的腰痛(6週間未満)を報告した成人(18 歳以上)。

98 のランダム化比較試験 (参加者 15,134 人、女性 49%) には、69 の異なる医薬品または組み合わせが含まれていた。 トルペリゾン(平均差-26.1(95%信頼区間-34.0~-18.2))、アセクロフェナク+チザニジン(-26.1(-38.5~-13.6))、 プレガバリン (-24.7 (-34.6 ~ -14.7))、およびプラシーボと比較した他の 14 の医薬品。 これらの薬の効果には違いがなく、信頼度が低いかまたは非常に低いことが指摘されている。

リスク比は、トラマドール risk ratio 2.6 (95% confidence interval 1.5 to 4.5)、パラセタモール + 徐放性トラマドール2.4 (1.5 to 3.8)、バクロフェン2.3 (1.5 to 3.4)、 およびプラシーボと比較したパラセタモール + トラマドール 2.1 (1.3 to 3.4)。 これらの医薬品は、信頼度が中程度から低い他の医薬品と比較して有害事象のリスクを高める可能性がある。

臨床家は、高品質のランダム化比較試験が発表されるまで、急性の非特異的腰痛に対する鎮痛薬の処方には慎重なアプローチが必要と述べられている。

出典文献
Comparative effectiveness and safety of analgesic medicines for adults with acute non-specific low back pain: systematic review and network meta-analysis
BMJ 2023; 380 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-072962 (Published 22 March 2023)
Cite this as: BMJ 2023;380:e072962
Michael A Wewege, Matthew K Bagg, Matthew D Jones, et al.


サッカー選手は神経変性疾患のリスクが高い [医学一般の話題]

このコホート研究では、スウェーデンのトップのサッカー選手は、集団対照と比較して神経変性疾患のリスクが増加したと報告されている。

1924 年 8 月 1 日から 2019 年 12 月 31 日までの間に、スウェーデンの top Swedish divisionで少なくとも 1 試合をプレーした 7,386 人のサッカー選手のうち、適格となった6,007 人の選手 (510 人のゴールキーパー)を対象として、56,168 人のマッチしたコントロールと比較。

評価したのは、サッカー選手と対照群の神経変性疾患のリスクで、死亡診断書に記録された診断、入院および外来受診、または認知症の処方薬の使用であった。

2020 年 12 月 31 日までの追跡調査中に、6007 人のサッカー選手のうち 537 人 (8.9%) と 56,168 人のコントロールのうち 3,485 人 (6.2%) が神経変性疾患と診断された。神経変性疾患のリスクはサッカー選手の方が高く (ハザード比 [HR] 1.46 [95% CI 1.33–1.60])、アルツハイマー病やその他の認知症もサッカー選手が高かった(HR 1.62 [95% CI 1.47–1.78])。

神経変性疾患のリスクはoutfield playersがコントロールよりも高く (HR 1.50 [95% CI 1.36–1.65])、ゴールキーパーよりも高かった (HR 1.43 [1.03–1.99])。また、ゴールキーパーとコントロールでは差はなかった (HR 1.07 [0.78–1.47]) 。尚、サッカー選手の全死因死亡率は、コントロールよりもわずかに低かった(HR 0.95 [95% CI 0.91–0.99])。

サッカー選手は神経変性疾患のリスクが高く、サッカー協会がヘディングを減らすために導入した最近の対策の安全性に対して疑問が生じている、と記されている。

出典文献
Neurodegenerative disease among male elite football (soccer) players in Sweden: a cohort study
Peter Ueda, Björn Pasternak, Carl-Emil Lim, Martin Neovius, Manzur Kader, et al.
THE LANCET, Open AccessPublished:March 16, 2023
DOI:https://doi.org/10.1016/S2468-2667(23)00027-0

ヘリコバクター・ピロリが産生する外膜小胞は神経細胞損傷を引き起こす [医学一般の話題]

ヘリコバクターピロリ(Hp)は世界人口の50%に感染しており、特に、発展途上国でより一般的です。小児期に感染し、抗生物質治療をしない場合には一生胃に残ります。この慢性感染症のほとんどは無症候性ですが、時折、重度の胃炎および十二指腸の病状を引き起こして胃癌の発症を助長します。

また、最近の研究では、Hp感染と神経変性疾患を含むいくつかの胃外病状との間に直接的な関係が存在することが示されています(1.2.3.)。症例対照研究では、HPとアルツハイマー病およびパーキンソン病の重症度との関係性が明らかになっています(4.5.)。

細菌またはそれらが産生するナノサイズの外膜小胞(OMV)が脳に到達し、ニューロン/星状細胞に影響を与えるかは不明でした。本研究では、マウスへの全身(尾静脈注射)および経口投与後、HP OMVが脳にアクセスし、星状細胞を反応性へと変化させて神経損傷を促進することが確認されました。

また、アストロサイトに対するOMVの効果はインビトロでも確認され、NF-κB依存性であることが示されました。本研究は、HpOMVがニューロンと星状細胞など、胃外の疾患を引き起こすことを明らかにした最初の報告であると著者らは述べています。

OMVは、直径20〜450 nmの球形の二層膜由来のナノサイズの小胞で、正常な成長の一部として分泌されますが、この侵襲性の低い細菌の病原性を増幅する要因として機能する可能性があります。


NF-κB(核内因子κB、nuclear factor-kappa B)はタンパク質複合体であり、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、動物のほとんど全ての細胞に発現している。NF-κBはストレスやサイトカイン、紫外線などの刺激により活性化され、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなど多くの生理現象に関与している。NF-κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められる。さらにNF-κBはサイトメガロウイルス (CMV) やヒト免疫不全ウイルス (HIV) の増殖にも関与している。


インターフェロンγ(IFN γ)は、II型インターフェロンとして知られるサイトカインで、抗原や炎症のトリガー後に、種々の免疫細胞(ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、エフェクターリンパ球T細胞等)によって産生され、細菌、ウイルス、原虫感染症に対する免疫機構に関連して炎症反応に関与する。

出典文献
Helicobacter pylori outer membrane vesicles induce astrocyte reactivity through nuclear factor-κappa B activation and cause neuronal damage in vivo in a murine model
Esteban Palacios, Lorena Lobos-González, Simón Guerrero, Marcelo J. Kogan, et al.
Journal of Neuroinflammation volume 20, Article number: 66 (2023)

1.
Bravo D, Hoare A, Soto C, Valenzuela MA, Quest AF. Helicobacter pylori in human health and disease: mechanisms for local gastric and systemic effects. World J Gastroenterol. 2018;24(28):3071–89.

2.
Doulberis M, Kotronis G, Thomann R, Polyzos SA, Boziki M, Gialamprinou D, et al. Review: impact of Helicobacter pylori on Alzheimer’s disease: what do we know so far? Helicobacter. 2018;23(1):e12451.

3.
Franceschi F, Gasbarrini A, Polyzos SA, Kountouras J. Extragastric diseases and Helicobacter pylori. Helicobacter. 2015;20(Suppl 1):40–6.

4..
Dardiotis E, Tsouris Z, Mentis AA, Siokas V, Michalopoulou A, Sokratous M, et al. H. pylori and Parkinson’s disease: meta-analyses including clinical severity. Clin Neurol Neurosurg. 2018;175:16–24.

5.
Fu P, Gao M, Yung KKL. Association of intestinal disorders with Parkinson’s disease and Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. ACS Chem Neurosci. 2020;11(3):395–405.

幼児のオピオイド中毒死が増加するアメリカ [薬とサプリメントの問題]

National Fatality Review-Case Reporting System (NFR-CRSopens in a new tab or window) に報告された(2005年~2018年)幼児 731 人の中毒関連死の調査で、346 人 (47.3%)がオピオイドによることが示されています。

2005 年には、オピオイドは致命的な中毒の 24.1% に関与していましたが、2018 年には 52.2% に増加し、研究期間にわたって上昇傾向にあるとフィラデルフィア小児病院のクリストファー・ガウ医学博士らは述べています。

過去 10 年間で、子供たちはヘロイン、フェンタニル、投薬支援治療で使用されるオピオイド (メタドン、ブプレノルフィンなど) などの新しいオピオイド源に曝されており、これまでの公衆衛生の改善を逆転させました。

これまでもアメリカでは、オピオイドの過剰摂取による死亡例の増加が問題となっていましたが、驚くことに、近年では、5歳以下の子供の致命的な中毒に寄与する最も一般的な物質となっています。

致命的な小児中毒の予防には、特に、社会経済的格差に直面しているコミュニティにおいて、介護者の教育と介入の多面的なアプローチが必要であることを研究者らは強調しています。

臨床医は、精神状態の変化または呼吸抑制を伴う子供たちのオピオイド中毒について、高レベルの疑いを持って対応し、また、ナロキソンの適応症と使用について地域社会の理解を深めることが求められると述べています。

出典文献
Opioids Most Common Substance in Young Children's Fatal Poisonings
— Present in nearly one half of all reported cases, study found
by Jennifer Henderson, Enterprise & Investigative Writer, MedPage Today March 8, 2023