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慢性腎疾患に対するガイドラインに基ずく治療法に優位性は無かった [医学・医療への疑問]

プライマリケア診療所で治療を受けている腎機能障害の3徴候を有するの患者を対象とした、非盲検クラスター無作為化試験の結果、プライマリケアクリニックに組み込まれたEHRベースのアルゴリズムと実践ファシリテーターの利用は、1年の時点で入院の減少にはつながらなかった。

141のプライマリケア診療所で治療を受けている、腎機能障害の3徴候を有する 11,182 人の患者(患者の電子健康記録に基づく)に対する、個別化されたアルゴリズムを使用した介入を受ける群と通常治療群のいずれかに割り当てた。

主要転帰は、何らかの原因による1年時点での入院で、副次アウトカムには、救急外来受診、再入院、心血管イベント、透析、死亡が含まれた。

5,690人の患者をを介入グループに、5,492人の患者を通常ケアグループに割り当てた。1年後の入院率は介入群で20.7%(95%信頼区間[CI]、19.7~21.8)、通常治療群では21.1%(95%信頼区間[CI]、20.1~22.2)(群間差、 0.4 パーセント ポイント; P = 0.58)で、同等。

救急外来の受診、再入院、心血管イベント、透析、または何らかの原因による死亡リスクも、両グループで同様。 有害事象のリスクも12.7%対11.3%で同様。

但し、急性腎損傷は介入群でより多く観察された。

「BACKGROUND」に、「慢性腎臓病、2型糖尿病、および高血圧(腎機能不全の3徴候)患者にとって効果的な治療法が利用可能であるにもかかわらず、この集団における死亡と合併症のリスクを軽減するためのガイドラインに基づいた治療の実施を検討した大規模試験は不足している。」と記されている。しかし、「効果的な治療法」とは何か。慢性腎疾患が回復することはあり得ない。

様々な疾患で、何処かの学会による「治療法のガイドライン」なるものが提唱されており、それぞれの治療法には「エビデンス」や「尤度比」などが示されている。しかしながら、個人的には、ガイドラインが役に立つとは思わない(鍼灸師ごときが言うことではないが)。

さらに、介入群において急性腎損傷がより多く観察されたことは、今後追求すべき問題だと言える。

出典文献
Pragmatic Trial of Hospitalization Rate in Chronic Kidney Disease
Miguel A. Vazquez, George Oliver, Ruben Amarasingham, et al.
N Engl J Med 2024;390:1196-1206 DOI: 10.1056/NEJMoa2311708 VOL. 390 NO. 13

四肢骨折に対する外科的固定前の皮膚消毒剤の効果比較 [医学・医療への疑問]

四肢の骨折の修復手術前の、皮膚消毒剤としてのポバククリレックスヨウ素またはグルコン酸クロルヘキシジンを含むアルコール溶液の感染予防効果について、これまでの報告では矛盾した結果が得られていたため、本研究はこれを検証したもの。

今頃比較するのかと、驚きですが。

研究は、アメリカとカナダの 25 の病院で行われたクラスター無作為化クロスオーバー試験。

74% イソプロピルアルコール (ヨウ素基) に溶解した 0.7% ヨウ素ポバククリレックスまたは 70% イソプロピルアルコールに溶解した 2% グルコン酸クロルヘキシジンの溶液を使用するように病院をランダムに割り当てた。

四肢の骨折を修復する外科手術の術前消毒剤として。 2か月ごとに、病院は交互に介入を行った。 開放性骨折または閉鎖性骨折のいずれかを患う患者を別々に登録して分析。 主要アウトカムは手術部位感染で、これには30日以内の表在切開感染、または90日以内の深切開または臓器腔感染が含まれる。 二次転帰は、骨折治癒合併症に対する計画外の再手術。

合計6,785人の閉鎖骨折患者と1,700人の開放骨折患者が試験に参加。 閉鎖骨折集団では、ヨード群では 77 人の患者 (2.4%)、クロルヘキシジン群では 108 人の患者 (3.3%) で手術部位の感染が発生 (オッズ比、0.74; 95% 信頼区間 [CI]、0.55) 1.00まで;P=0.049)。

開放骨折集団では、ヨード群では 54 人の患者 (6.5%)、クロルヘキシジン群では 60 人の患者 (7.3%) で手術部位の感染が発生 (奇数比、0.86; 95% CI、0.58 ~ 1.27; P =0.45)。 計画外の再手術の頻度、1 年間の転帰、重篤な有害事象は 2 つのグループで同様。

四肢閉鎖骨折患者では、アルコール中のポバククリレックスヨウ素による皮膚消毒の方が、グルコン酸クロルヘキシジンによるアルコール消毒よりも手術部位の感染が少なかった。 開放骨折の患者では、結果は 2 つのグループで同様。

結論を言えば、ほとんど差は無いでしょう。それよりも、手術部位の皮膚表面を無菌状態にするという重要な消毒の効果が、2つの消毒法の優位性の比較とは言え明確でないまま長い間行われていたことにはあきれます。

出典文献
Skin Antisepsis before Surgical Fixation of Extremity Fractures
Sheila Sprague, Gerard Slobogean, Jeffrey L. Wells, Nathan N. O’Hara, et al.
N Engl J Med 2024; 390:409-420 DOI: 10.1056/NEJMoa2307679

TKA後の慢性術後疼痛の発症に関連する炎症性バイオマーカーの探索? [医学・医療への疑問]

膝関節全置換術 (TKA) は変形性膝関節症 (OA) の最終段階の治療法ですが、それらの患者の約 20%が慢性的な術後疼痛を経験します。その原因として、炎症性バイオマーカーが、TKA後の慢性術後疼痛の発症に潜在的に関連している可能性があると示されています。しかし、この研究に意味があるとは思えません。

この研究の目的は
(1) OA 患者と健常対照被験者における炎症性バイオマーカーの術前血清レベルを評価する。
(2) 患者のサブグループにおける炎症性バイオマーカー プロファイルの術前の違いを調査する。
(3) 術後の患者のサブグループを比較する。

研究者らは、TKA後に残る膝痛の原因として、炎症誘発性サイトカイン、ケモカイン、成長因子の上昇であるとの仮説を立てている。これらの分子を包括的に分析すれば、術後疼痛を発症しやすい患者を特定できる可能性があり、患者の疼痛管理を調整するのに役立つと考えた。つまり、標的を絞った予防治療の研究と開発を目的として、TKA後に慢性術後疼痛を発症するリスクがある患者を特定するために、術前ツールを特定する必要があると述べている。

TKA手術前および手術後12か月後に患者が報告した臨床疼痛スコアに関連付けることにより、変形性膝関節症患者と痛みのない健康な対照被験者を比較した血清炎症マーカーの差異を評価した。

結果として、変形性膝関節症患者と健常対照被験者の間で12のマーカーが大幅に変化しており、CASP-8、AXIN1、IL6が最も大きな差異を示していることが判明した。

現在の探索的研究では、CD244、STAMPB、CASP-8、および CD40)の4つの炎症マーカーがOAの痛みにとって重要であり、TKA後の痛みに関連している可能性がある。

著者らは、「TKA手術前および手術後12か月後に評価された患者が報告した、臨床疼痛スコアに関連付けることにより、変形性膝関節症患者と痛みのない健康な対照被験者の血清炎症マーカーの差異を評価した最初の研究である。」と、誇らしげに述べている。

しかし、私には無意味な研究に思える。正に、「本末転倒」と言える。

変形性とは言え、炎症が関与していることは周知の常識である。「術後疼痛を発症しやすい患者を特定できる可能性があり、患者の疼痛管理を調整するのに役立つ」と述べているが役に立つはずはない。

何故ならば、あらゆる保存的治療を試みても痛みが軽減しなかった故にTKAを行ったのである。そのTKAによっても軽減されなかった20%の患者を術前に特定したところで、別の効果的手段があるはずも無い。万一、その様な方法があるのであれば、その効果はTKA以上であるはずであり、TKAなど必要は無いことになる。その様な方法がないからこそ、TKAは「最終段階の治療法」と位置づけられている訳で、あまりにも矛盾しているのである。

出典文献
Inflammatory biomarkers in patients with painful knee osteoarthritis: exploring the potential link to chronic postoperative pain after total knee arthroplasty—a secondary analysis
Giordano, Roccoa,b; Ghafouri, Bijarc; Arendt-Nielsen, Larsa,d,e,f; Petersen, Kristian Kjær-Staala,d,*
Author Information
PAIN 165(2):p 337-346, February 2024. | DOI: 10.1097/j.pain.0000000000003042

糖尿病専門医は血糖値を下げることのみに執着する [医学・医療への疑問]

音声ベースの会話型人工知能 (AI) アプリケーションが、2 型糖尿病患者が自宅で基礎インスリンを漸増して迅速な血糖コントロールを達成するのに役立つかどうかを検討したランダム化臨床試験の結果、AIグループの参加者は最適なインスリン投与量、インスリンアドヒアランス、血糖コントロール、およびインスリン投与までの時間が大幅に改善されたと報告されている。

会話型 AI グループの参加者は、標準治療グループと比較して、最適なインスリン投与量をより迅速に達成(median, 15 days [IQR, 6-27 days] vs >56 days [IQR, >29.5 to >56 days])。

また、音声ベースの会話型 AI グループの参加者は、標準治療グループの参加者よりも血糖コントロールを達成する可能性が高かった(13 of 16 [81.3%; 95% CI, 53.7%-95.0%] vs 4 of 16 [25.0%; 95% CI, 8.3%-52.6%]; difference, 56.3% [95% CI, 21.4%-91.1%]; P = .005)。

この研究では、2 型糖尿病患者が自宅で基礎インスリン滴定を管理できるようにするために、音声ベースの会話型人工知能 (VBAI) アプリケーションを開発して調査している。
研究者らは、彼らが知る限り、この研究は薬剤滴定に VBAI が使用された初めてのケースであると記している。

2 型糖尿病のアメリカ成人3,300 万人のうちのほぼ4 分の 1 が血糖コントロールが悪く、ヘモグロビンA1c (HbA1c) レベルが 8% を超えているとのこと。糖尿病患者に対してインスリン療法が不可欠だが、効果的に使用するには頻繁な投与が必要となるため、実際に達成するのは困難で、ほとんどの患者は最適量以下の用量を投与している。

患者によるインスリンの自己滴定は、これらの障壁を克服するための潜在的な解決策であり、いくつかの研究では、自己漸増が安全で効果的であることが示されている。



血糖値が速やかに下がって良かった良かったと言いたいところだが、この研究には大いに疑問を感じる。


そもそも、抗高血糖療法が2型糖尿病患者にとって有益であるという証拠には矛盾がある。
さらに、血糖値を下げた結果の長期的な転帰や予後が厳格に調査されたこともない。


何らかの原因による死亡、糖尿病関連合併症、健康関連の生活の質、社会経済的影響などの患者関連の転帰に関する情報について、対象となった試験のほとんど全てにおいて不十分または欠如している。


イギリスにおける前向き糖尿病研究(UKPDS)では、より厳格な血糖コントロールが好ましいとされていたが、糖尿病における心血管リスクを制御するためのアクション(ACCORD)試験などの他の研究では、血糖値を正常レベル近くまで下げるための集中治療の効果は有益であるよりも有害であることが判明している。

研究結果では、達成された血糖値に関係なく、異なる血糖降下薬の異なる効果も示されており、結果として、患者関連のアウトカムに対する介入の効果について、血糖濃度に対する介入の効果のみからは確かな結論を導き出すことはできてない。

つまり、血糖値を何が何でも下げるという行為には有益性についての根拠が示されていないのである。

昔の話で、当院の患者がしばらくぶりに来られたのだが、娘2人に両腕を支えられないと歩けない状態であった。訳を聞くと、血糖コントロールのため入院させられていたとのこと。強行な食餌制限の結果やせ衰えて体力も無くなり自力では歩けない状態であった。しかしそれでも、医師達は未だ食餌制限を続けるつもりだったので、家族が見かねて退院させたとのこと。


これは大げさな話では無く、糖尿病専門医を名乗る医師達の頭の中には「血糖値」のことしかなく、極論を言えば、「血糖値さえ下がれば死んでも良い」のである。


もう何年か前のことだが、私の息子が会社の健康診断の結果血糖値が異常に高かったので病院を受診した。記憶は定かでは無いが、確か血糖値は600mg程で、HbA1cは12~13位だったと思う。医師からすぐに入院するように言われたので、息子は私に電話をかけてきた。確かに血糖値は恐ろしく高い。しかし、血液検査の結果では、全ての電解質は正常で、脱水の徴候も認められなかった。つまり、血糖値以外は全て正常であり、糖尿病性ケトアシド-スも高血糖高浸透圧症候群もあり得なかったのである。私は、緊急に入院する必要性はなく、自宅におけるカロリー制限で十分対応できると考えた。医師は激怒し、もう当院では診ないからと、近くの糖尿病専門のクリニックを紹介した。

そのクリニックでも考えは同様であったが、本人の希望もあって、血糖降下薬を処方して外来治療することになった。しかし、薬を何種類か変えてはみたがどれを飲んでも気分が悪くなるので、医師を説得して薬を中止し、食餌を減らし、息子が毎日大量に飲んでいたジュース類を全て禁止した。その結果、予想どおり血糖値は下がり、2~3ヶ月でHbA1cも正常化して現在も全く正常である。


これらの、専門医を名乗る医師達の頭の中は血糖値のことしか無く、患者の生活習慣の問題点や身体の全体像を推測する洞察能力が欠落しているのである。他科の医師においても、専門医を自称する医師は専門外の患者は一切診ないし、そもそも診られないのだ。これが現在の医療の実体なのである。

出典文献
Use of Voice-Based Conversational Artificial Intelligence for Basal Insulin Prescription Management Among Patients With Type 2 Diabetes
A Randomized Clinical Trial
Ashwin Nayak, Sharif Vakili, Kristen Nayak, et al.
JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2340232. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.40232

引用文献
The Effects of Type 2 Diabetes Mellitus on Organ Metabolism and the Immune System
Gholamreza Daryabor, Mohamad Reza Atashzar, et al.
Front Immunol. 2020; 11: 1582.Published online 2020 Jul 22. doi: 10.3389/fimmu.2020.01582

VD の補給が心血管イベントの発生率を減らす可能性があると言いますが [医学・医療への疑問]

高齢者に対し、毎月バイタミンD(VD)サプリメントを摂取させて主要な心血管イベントの発生率の変化を調査した研究の結果、VD の補給は発生率を減らす可能性があると記されている。しかし、、。

研究デザインは、ランダム化二重盲検プラシーボ対照試験 (D-Health 試験)。

参加者は、登録時の年齢が 60 ~ 84 歳の21, 315 人。 除外基準は、自己申告による高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、腎臓結石、骨軟化症、サルコイドーシス、1日あたり500 IUを超えるVDサプリメントの摂取、および言語または認知障害のために同意が得られない者。

介入 60, 000 IU/月のVD3 (n = 10, 662) またはプラシ-ボ(n = 10, 653) を最長 5 年間経口摂取。 16, 882 人の参加者が介入期間を完了(プラシ-ボ 8,270 (77.6%)。VD 8,552 (80.2%)。

メインアウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠状動脈血行再建術などの主要な心血管イベントの発生。

最終的に21, 302 人が分析に含まれ、介入期間の中央値は5年。 1,336 人の参加者が重大な心血管イベントを経験)。

主要な心血管イベントの発生率は、プラシ-ボ 699 人 (6.6%)、VD 637 人 (6.0%)de,プラシーボ群よりもVD群の方が低かった (hazard ratio 0.91, 95% confidence interval 0.81 to 1.01).特に,ベースラインで心血管薬を服用していた患者の間で顕著だった(0.84, 0.74 to 0.97; P for interaction=0.12).。但し、P 値により有意性はみとめられなかった。

全体として、5年時点での標準化された原因別累積発生率の差は、参加者1000人あたり-5.8イベント(95% confidence interval −12.2 to 0.5 per 1000 participants)であり、その結果、重大な心血管イベントを1件回避するために治療が必要な件数は172件(number needed to treat)となった。

心筋梗塞の発生率(hazard ratio 0.81, 95% confidence interval 0.67 to 0.98)と、冠動脈血行再建術(0.89, 0.78 to 1.01)(0.89、0.78~1.01)はVD群の方が低かったが、脳卒中の発生率(0.99、0.80)には差がなかった (0.99, 0.80 to 1.23)。

結論では、{絶対リスクの差は小さいが、VD の補給は主要な心血管イベントの発生率を減らす可能性があり、心血管疾患の予防または治療のために薬を服用している人々におけるVD補給の役割についてさらなる評価を促す可能性がある。」と記されている。

しかし、その差は僅かであり、臨床的に意味を持つとは考えにくい。さらに、NTTが172とは、1件のイベントを回避するために必要な治療件数は172件であり、1人を救うために171人への治療が無駄となる。NTTは一桁が望ましい。

医師達は余程VDが好きらしく、様々な疾患に対して何の根拠もなくVDを投与する似たような研究が後を絶たない。

出典文献
Vitamin D supplementation and major cardiovascular events: D-Health randomised controlled trial
BMJ 2023; 381 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-075230 (Published 28 June 2023)
Cite this as: BMJ 2023;381:e075230

2型糖尿病における飲料別消費量と死亡率との関係とは [医学・医療への疑問]

アメリカにおける、2型糖尿病患者の前向きコホート研究の結果、加糖飲料 (SSB) と 全脂肪乳の摂取量が多いほど全死因死亡率と心血管疾患 (CVD)の発生率が高く、コーヒー、お茶および普通の水の摂取では低くなりました。

参加者は、ベースライン時およびフォローアップ中に 2 型糖尿病と診断された 15,486 人(看護師の健康調査: 1980-2018; 医療専門家のフォローアップ調査: 1986-2018)。 飲料の消費量は、検証済みの食物摂取頻度アンケートを使用して評価し、2 ~ 4 年毎に更新。主な評価項目は全死因死亡で、副次評価項目はCVD の発生率と死亡率。

平均 18.5 年間の追跡期間中に、3,447 人 (22.3%) CVDをが発生し、7,638 人 (49.3%) が死亡。 多変量調整後、飲料の最低摂取量のカテゴリーと最高摂取量のカテゴリーを比較すると。

全原因死亡率のハザード比は、加糖飲料 (SSB) で 1.20 (95% confidence interval 1.04 to 1.37)、人工甘味料 (ASB) 0.96 (0.86 to 1.07)、フルーツ ジュース 0.98 (0.90 to 1.06)、コーヒー0.74 (0.63 to 0.86)、お茶 0.79 (0.71 to 0.89)、普通の水の場合は0.77 (0.70 to 0.85)、低脂肪乳 0.88 (0.80 to 0.96)、0.96 まで、全脂肪乳の場合は1.20 (0.99 to 1.44) 。

個々の飲料と CVDの発生率および死亡率との間に同様の関連性が観察されました。 特に、SSB の摂取は、心血管疾患の発生リスク(hazard ratio 1.25, 95% confidence interval 1.03 to 1.51) 、および心血管死亡率の増加と関連(1.29, 1.02 to 1.63)。

全脂肪乳と加糖飲料 (SSB)は、全原因および心血管死亡率を約2~3割増加させる。

20021 年度において、世界中で約5億 3,700 万人の成人が糖尿病に罹患しており、2045 年までに 7 億 8,300 万人に増加すると予測されていると記されています。

また、別の報告では、糖尿病予備群としての糖尿病前症(正常なグルコース調節と糖尿病の中間段階)が、アメリカでは成人の3 人に1 人、世界中では約7億2000万人が罹患していると記されています(1)。糖尿病前症は、空腹時血糖値 100 ~ 125 mg/dL、75 g の経口ブドウ糖負荷 2時間後の血糖値 140~199mg/dL、またはHbA1Cが5.7% ~ 6.4 % または 6.0% ~ 6.4%によって定義されます。

さらに、 アメリカでは、糖尿病前症者の約10%が毎年糖尿病に進行しているとのこと。メタアナリシスでは、ベースラインでの糖尿病前症は死亡率の増加と心血管イベント発生率の増加に関連 (6.6 年間の死亡率については 10,000 人年あたり 7.36、心血管疾患については 10,000 人年あたり 8.75 の超過絶対リスク)。

しかし、私には疑問なのです。

以前に投稿した記事、「糖尿病患者は心血管疾患による死亡が大幅に少ない」で述べましたが、糖尿病患者の心血管疾患による死亡率は健康者と比べて大幅に低く、特に、2型糖尿病では顕著に減少することが報告されています(2.)。

抜粋しますと、この報告は、1998から2012年までと2014年までフォローされた、スウェーデン国立糖尿病登録患者を対象にした研究結果によるもの。

心血管イベントの傾向は、cox 回帰と標準化された発生率で推計。コントロールは、一般から無作為に選出し、患者ごとに、年齢、性別、住居地域によってマッチング。

1型の糖尿病患者とコントロールとの比較(sentinel outcomes per 10,000 person-years)

・全原因死亡率: −31.4 /1万人/年(95% confidence interval [CI], −56.1 to −6.7)
・心血管疾患による死亡:−26.0 (95% CI, −42.6 to −9.4)
・冠状動脈性心臓疾患による死亡: −21.7 (95% CI, −37.1 to −6.4)
・心血管疾患のための入院:−45.7 (95% CI, −71.4 to −20.1)

2型糖尿病患者の絶対変化

・全原因死亡率:−69.6 (95% CI, −95.9 to −43.2)
・心血管疾患死亡率: −110.0 (95% CI, −128.9 to −91.1)
・冠状動脈性心臓疾患による死亡:−91.9 (95% CI, −108.9 to −75.0)
・心血管疾患による入院:−203.6 (95% CI, −230.9 to −176.3)

糖尿病患者はコントロールよりも致死的心臓血管の転帰が少なく、特に、2型では約 40%と大きく減少しています。逆に、疾患としては重症である1型糖尿病患者の減少は約26%で、減少率は2型よりも少なかった。

さらにつまらないことを言わせてもらえば、現時点で糖尿病と糖尿病前症を合計すると、世界全体では12億5,700万人(人口は約80億人)と推測されます。仮に、このまま増加して半数以上となった場合でも、少数者が正常だと言えるのでしょうか。

出典文献
Beverage consumption and mortality among adults with type 2 diabetes: prospective cohort study
BMJ 2023; 381 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-073406 (Published 19 April 2023)
Cite this as: BMJ 2023;381:e073406
Le Ma, Yang Hu, Derrick J Alperet, Gang Liu, et al.

1.
Diagnosis and Management of Prediabetes
A Review
Justin B. Echouffo-Tcheugui, Leigh Perreault, Linong Ji, Sam Dagogo-Jack,
JAMA. 2023;329(14):1206-1216. doi:10.1001/jama.2023.4063

2.
Mortality and Cardiovascular Disease in Type 1 and Type 2 Diabetes
Aidin Rawshani, Araz Rawshani, Stefan Franzén, Björn Eliasson, Ann-Marie Svensson, et al.,
N Engl J Med 2017; 376:1407-1418April 13, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1608664

1日に8000 歩以上歩く日数と死亡率との関係はJ字型 [医学・医療への疑問]

これまでの研究では、1 日 8000 歩以上歩く人は死亡率が低いことが示されていますが、歩く日数と死亡率との間の用量反応関係を評価した研究の結果、死亡率の底は1日~2日で、3日以後増加して6日~7日では逆に高くなった。

結果の中で、全原因死亡リスクと心血管死亡リスクの用量反応関係は曲線的で、保護効果は週 3 日で頭打ちになったと述べている。

さらに、“Discussion”では、8000 歩以上を週に 1 日か 2 日だけしか歩かなかった参加者でさえ、より定期的に活動していた参加者 (つまり、8000 歩以上を週に 3 日から 7 日歩いた参加者) と比較して、全原因および心血管死亡率の大幅な減少を示したと、紛らわしい表現をしている。

「8000 歩以上を週に 1 日か 2 日だけしか歩かなかった参加者でさえ」ではなく、3日以上では死亡率は増加していくのである。

さらに結論で、このコホート研究では、1 週間に 8000 歩以上歩く日数は全原因および心血管死亡のリスク低下と曲線的に関連しており、週に数日歩くだけでかなりの健康上の利益を得る可能性があることを示唆している、と述べている。しかし、死亡率は日数の増加とともに上昇するJ字型の曲線を描くのであり、歩数を増やせばさらに死亡率が増加する可能性もあり得る。

このコホート研究では、2005 年から 2006 年の国民健康栄養調査で 1 週間加速度計を装着した 20 歳以上の参加者の代表的なサンプルと、2019 年 12 月 31 日までの死亡率データを評価した。 2022 年 4 月 1 日から 2023 年 1 月 31 日までの分析。

3,101 人の参加者 (平均 [SD] 年齢、50.5 [18.4] 歳; 1583 [51.0%] 女性および 1518 [49.0%] 男性; 666 [21.5%] 黒人、734 [23.7%] ヒスパニック系、1579 [50.9%] 白人、および 122 [3.9%] のその他の人種および民族性)、632人 (20.4%) はどの曜日でも 8000 歩以上歩かず、532人 (17.2%) は 8000 歩以上を週に 1 ~ 2 日、 1937 人 (62.5%) は 8000 歩以上を週に 3 日から 7 日歩いた。

10 年間の追跡調査で、全原因死亡数は439 人 (14.2%)、148 人 (5.3%) が心血管疾患で死亡。 潜在的な交絡因子を調整した後、8000 歩以上が週に0 日であった参加者と比較して、8000 歩以上を週に 1 ~ 2 日行った参加者の 10 年間の全死因死亡リスクは 14.9% 低かった (aRD, − 14.9%; 95% CI、-18.8%~-10.9%)。週に 3~7 日 8000 歩以上歩く人では 16.5% 低い (aRD、-16.5%; 95% CI、-20.4%~-12.5) %)と記されている。しかし、これは3~7 日間の平均値に過ぎない。

この表記はいかにも恣意的で、読者を欺こうとしているとしか思われない。 死亡率の底は1 ~ 2 日で、3日以後はJ字を描いて上昇し、6日~7日では逆に0日よりも増加していることには何も説明がない(原著のグラフを参照すれば一目瞭然です)。

さらに、この研究の問題点として、毎日の歩数はベースラインで 1週間しか測定されなかったことや、身体活動の変化が死亡リスクにどのように寄与するかについての情報が欠如している。

参加者の病歴が自己申告であり、ベースラインにおける身体の状態が正しく評価されていないことに大きな問題がある。身体活動の少ない健康な人が測定期間中に身体活動レベルを高めた可能性や、元々、健康状態の悪い参加者では活動が制限されており、さらに死亡率が高くなるのは必然である。

つまり、歩いたから死亡率が下がるのではなく、元気な人が歩けたに過ぎない。さらに、日数の増加によって死亡率は上昇したが、その点を何も分析せずにごまかそうとしている。このような論文が、“JAMA”に掲載されている。

出典文献
Association of Daily Step Patterns With Mortality in US Adults
Kosuke Inoue, Yusuke Tsugawa, Elizabeth Rose Mayeda, et al.
JAMA Netw Open. 2023;6(3):e235174. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.5174

虚血性左心室機能不全に対する経皮的血行再建術の追加に効果は無し [医学・医療への疑問]

重度の虚血性左心室収縮機能不全患者に対する経皮的冠動脈インターベンション (PCI) による血行再建術が、PCIと最適な薬物療法および薬物療法単独と比べてイベントフリー生存率と左心室機能を改善できるかを調査した研究の結果、効果は全く同等であった。

左心室駆出率が 35% 以下で冠動脈疾患が拡大し、PCI が適用可能で心筋生存率が明らかな患者を、PCI と最適な薬物療法 (PCI グループ) または最適な薬物療法のみの戦略 (PCI グループ) に無作為に割り当てた。

主要な複合転帰は、全原因死亡または心不全による入院。 主な副次評価項目は、6か月および 12 か月の左室駆出率と生活の質のスコア(QOL)。

合計 700 人の患者が無作為化され、347 人が PCI グループ、353 人が最適な薬物療法グループに割り当てられた。 中央値 41 か月で、PCI グループの患者 129 人 (37.2%) と最適な薬物療法グループの患者 134 人 (38.0%)が主要転帰イベント発生 (ハザード比 0.99; 95% 信頼区間 [CI]、0.78 ~ 1.27; P = 0.96)。

左心室駆出率は、6 か月で平均差、-1.6 パーセント ポイント(95% CI、-3.7 ~ 0.5)、および 12 か月で平均差0.9 パーセント ポイント(95% CI、-1.7)。6 か月および 12 か月の QOL スコアは PCI グループに有利に見えたものの、24 か月ではその効果は類似。

最適な内科療法を受けた重度の虚血性左心室収縮不全患者では、PCI による血行再建術を行っても、全原因死亡や心不全による入院の発生率は低下しなかった。

要約のみ見ているので、主要転帰イベントである全原因死亡または心不全による入院患者の人数が不明。医学文献では多く見られるのであるが、死亡と単なる入院ではその重大性には天と地ほどの開きがあるのであって、比較評価することは不可能であり、数値化することや、一括して人数だけ記すことは無意味である。

また、「最適な薬物療法」の中身も不明。未だ心不全の段階ではないので、恐らく、ACE阻害薬やβ遮断薬、利尿剤、ARBなどが想像される。しかし、何れも心臓の負担を軽減するための対症療法であり、根本的に心臓を回復させるものではない。

いつも疑問に感じていることだが、臓器の慢性疾患に対して、21世紀になっても医学は何らなす術がなく進歩しないのはどうゆうことであろうか。慢性疾患の臓器において、これらの臓器の細胞には何も異常は無く、病気の本体は細胞間のマトリックスにある。それは、コラーゲンの過形成であることは分かっている。ならば何故、その根本的な問題を解決できないのであろうか。製薬メーカーは病気を治そうとするのではなく、対症療法によって、客である患者を永久に囲い込もうと企てているのではないかとさえ思われるが、猜疑的過ぎるだろうか。

出典文献
Percutaneous Revascularization for Ischemic Left Ventricular Dysfunction
List of authors.
Divaka Perera, Tim Clayton, Peter D. O’Kane, John P. Greenwood, et al.
N Engl J Med 2022; 387:1351-1360 DOI: 10.1056/NEJMoa2206606

変形性関節症は重症者ほどプラシ-ボが効くという矛盾 [医学・医療への疑問]

変形性関節症 (OA) の患者では、重度の痛みを引き起こすほどの関節症状があるにも関わらず、プラシーボ(偽薬:この研究では砂糖の丸薬)で楽になるという、医師にとっては医学上の謎として認識されている。

OAの臨床試験では、試験薬の有効性を評価するための対照として使用されるプラシーボが効果的であり、平均 75% の疼痛緩和、71% の機能改善、および 83% のこわばりが改善されと報告されています。このように、プラシーボの有効性が高いため、臨床試験で目的となる薬の有効性を実証する余地が少ないため判断することが困難となっているとのこと。

あきれたことに、本研究の12,673 人の OA 患者を対象とした 130 の試験からのデータの分析によると、ベースラインで最も重度の症状を持つ患者ほどプラシーボに対する反応が強く有効性が高かった。

この研究は、PubMed、EMBASE、およびコクラン ライブラリのデータベースから、1991 年 1 月 1 日から 2022 年 7 月 2 日までを体系的に検索している。

2019 年に公開されたレビューでは、OA 試験で驚くほど強いプラシーボ反応が見られ、痛み、こわばり、障害のスコアがベースラインから 70 ~ 80% 減少したことが報告された。

症状緩和の絶対的な大きさはベースライン スコアと強く関連しており、痛み、こわばり、および身体障害が多い患者ほどより大きな改善を示した。マクマスター大学 OA インデックス (WOMAC) システムによる評価で、レベル15は痛みが11%減少し、スコアが35の患者では22%減少した。

また、WOMACサブスケールで有効性プラトーに到達するまでの時間 (最大有効性の 90% に到達するまでに必要な時間) は、疼痛スケールで 5.39週間、フィットネス スケールで 7.04 週間、機能スケールで 7.08 週間であることから、プラシ-ボ反応が安定するために治療期間は 8 週間以上必要であることを示唆。現在、Osteoarthritis Research Society International は、重要な二重盲検無作為化臨床試験を股関節 OA に対して少なくとも 12 週間継続することを推奨している。

興味深いことに、NSAIDを使用している患者の割合が低い試験ではプラシーボ反応がより明白であり、以前のNSAID使用がプラシーボ反応を低下させる可能性がある。

そもそも、この研究の目的はOAの経口プラシーボ反応モデルを開発することであった。その結果、開発されたモデルが様々なベースラインレベルの症状における評価のためのツールとして、臨床試験の設計および臨床現場での意思決定に使用できること述べられている。

OAは関節痛と身体障害の主な原因の 1 つであり、近年、世界中で有病率が増加しています。現在、50 を超える治療法によって有効性が研究されている。 しかし、これらの治療は症状の緩和のみを提供し、構造的損傷と疾患の進行を回復させることはできない。現在においても、有効性が確認されたOA治療は開発されておらず、私が病院に就職した半世紀昔からほとんど進歩していない。

出典文献
Placebo Response to Oral Administration in Osteoarthritis Clinical Trials and Its Associated Factors. A Model-Based Meta-analysis
Xin Wen, Jieren Luo, Yiying Mai, et al.
JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2235060. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.35060

気管支拡張剤の吸入療法は肺機能が保たれている喫煙者の呼吸器症状を軽減しない [医学・医療への疑問]

喫煙歴のある多くの人は、スパイロメトリーによる評価で障害がないにもかかわらず、臨床的に重大な呼吸器症状を示します。これらの患者は、しばしば慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の薬で治療されますがこの治療法を裏付ける証拠はありません。

対象者として、少なくとも10 pack-yearsの喫煙歴があり、COPD アセスメントスコアが少なくとも 10 以上 (スコアの範囲は 0 から 40, スコアが高いほど症状が悪化)の人を無作為に割り当てた。また、スパイロメトリーでの肺機能の維持 (1 秒間の努力呼気量 [FEV1] と、努力肺活量 [FVC] の比 ≥0.70 および 気管支拡張薬使用後のFVCが予測値の70%以上とした。介入は、インダカテロール (27.5 μg) とグリコピロレート ( 15.6 μg) またはプラシーボを 1 日 2 回、12 週間投与。

主要アウトカムは、セントジョージ呼吸器アンケート (SGRQ)スコア (スコアの範囲は 0 から 100 で、スコアが高いほど健康状態が悪いことを示す) が少なくとも 4 ポイント減少 (すなわち、改善) すること (長時間作用型吸入気管支拡張剤、グルココルチコイド、または抗生物質で治療された下気道症状の増加として定義されます)。また、この期間において症状が悪化しないことを条件とした(長時間作用型吸入気管支拡張薬、グルココルチコイド、または抗生物質で治療された下気道症状の増加として定義)。

合計 535 人の参加者が無作為化され、修正された参加者 471 人において、治療群の227 人中 128 人(56.4%)、プラシーボ群の 244 人中 144 人(59.0%)が、SGRQ スコアが少なくとも 4 ポイント減少。 (差、-2.6 パーセント ポイント; 95% 信頼区間 [CI]、-11.6 ~ 6.3; 調整オッズ比、0.91; 95% CI、0.60 ~ 1.37; P=0.65)。

予測 FEV1 の割合の平均変化は、治療群で 2.48 パーセント ポイント (95% CI、1.49 ~ 3.47)、プラシーボ群で -0.09 パーセント ポイント (95% CI、-1.06 ~ 0.89) であり、吸気容量の差は、治療群で 0.12L (95% CI、0.07 ~ 0.18)、プラシーボ群で 0.02 L (95% CI、-0.03 ~ 0.08)。 重篤な有害事象が治療群で4 件発生し、プラシーボ群で11 件発生。

結論として、呼吸器症状のある喫煙者において、スパイロメトリーによる評価で肺機能が保たれている人に対して気管支拡張剤の吸入療法は症状を軽減しない。

そもそも、スパイロメトリーで肺機能の維持が確認されている人に対して、気管支拡張剤を処方する意味が全く理解できない。しかも証拠が何もないまま漫然と治療されていたことに恐怖すら感じる。これが、医学の現状なのだろう。

追伸
私のブログでは「プラシーボ」と表記しているため、疑問を感じている人も多いかと思われるので、ひと言。この国では、世間一般はともかくとして、医師でさえ、また、機械訳においても「プラセボ」と記されている。しかし、「プラセボ」という言葉は存在しないのであって、「プラシーボ」が正しい。

出典文献
Bronchodilators in Tobacco-Exposed Persons with Symptoms and Preserved Lung Function
List of authors.
MeiLan K. Han, Wen Ye, Di Wang, M.S., Emily White, et al.
N Engl J Med 2022; 387:1173-1184 DOI: 10.1056/NEJMoa2204752

ラテンアメリカの都市における死亡率に与える気温の変化 [医学・医療への疑問]

ラテンアメリカの326都市における、年齢および原因特異的死亡率に対する周囲温度の寄与を調べた研究において、周囲温度への曝露による影響は熱関連よりも寒冷関連の方が大きかったが(私の解釈では)、何故か、論文の結論では熱関連が重視されていた。

本研究では、2002年から2015年の間にラテンアメリカの326都市で毎日の周囲温度と死亡率の非線形分布ラグ縦断分析を実施。約29億人年のリスクで15,431,532人の死亡が観察され、全原因死亡の内、熱による超過死亡率(EDF)(最適値を超えるすべての温度の累積効果)は0.67%(95%信頼区間(CI)0.58–0.74%)、寒冷関連で5.09%(95%CI 4.64–5.47%)。

全年齢の熱関連による超過死亡の割合0.42%(95%CI 0.38–0.45%)よりも、寒冷によるEDFが大幅に高く、すべての寒冷で5.09%(95%CI 4.66–5.42%)、極寒(≤5パーセンタイル、都市固有の観測温度)で1.03%(95%CI 0.99–1.06%)。

心血管疾患では、全年齢の合計で超過死亡率は9.12% (8.48, 9.70)、全熱関連0.69% (0.64, 0.74)、過剰熱0.38% (0.36, 0.40)、全寒冷8.43% (7.79, 9.01)、過剰寒冷1.52% (1.48, 1.55)。

呼吸器疾患の全年齢では、同様に、合計10.73% (9.78, 11.50)、全熱関連1.10% (1.02, 1.18)、過剰熱0.54% (0.50, 0.57)、全寒冷 9.62% (8.55, 10.39)、過剰寒冷1.58% (1.51, 1.63)。 (65歳以上では若干異なっている。詳細は文献の表2を参照されたい)

Zhaoらによる、メタ予測変数を使用する研究では、全年齢のEDFが寒さで8.52%、熱で0.91%の全年齢における超過全死因死亡率が報告されている。この世界の寒冷EDF(8.52%)は、ラテンアメリカの都市における寒冷地EDF推定値(4.71%)のほぼ2倍。.Zhaoらによる2021年の分析は、43カ国、750カ所(ラテンアメリカとカリブ海の66カ所を含む)で気温と死亡率の関連を推定し、これらの推定値を0.5°×0.5°のグリッドサイズ(約55×55 km)で世界的に外挿した。

死亡リスクは最適温度以下および最適温度以上の両方で線量反応的に増加したが、過剰な気温変化による死亡リスクの増加は、1℃上昇当たりで5.7%(RR = 1.057)、1℃の低下では3.4%(RR = 1.034)で、気温上昇の方が急峻であった。これらの知見は、極端な暑さがより頻繁になるにつれて、少なくとも最初は死亡リスクが顕著に増加する可能性があることを示唆している。

極端に暑い気温における1℃の上昇に伴う死亡率の増加は、例えば、メキシコ沿岸部、アルゼンチン北部、およびブラジル南部の都市などで見られ、地理的変動を有することが観察された。これらの地域の住民は、現在および短期的にはわずかな気温の上昇の下でも暑さに対して特に脆弱である可能性がある。

.気温関連の死亡率の不均一性を説明する都市レベルの要因(物理的、社会的、または政策的特性)をより深く理解することは、気候変化の将来の影響を緩和するための効果的な行動を特定するのに役立つかもしれない。例えば、温度関連の罹患率に対する医療へのアクセス、建物の設計の改善、公共の暖房/冷房センター、緊急警報システムなど。

しかし、全体として、死亡者の割合は周囲熱よりも周囲の寒さに起因しており、これは他の設定での同様の分析からの知見を裏付けている(1.2.3.4.)が、本論文では、暑さのみを強調していることが不可解だ。

出典文献
City-level impact of extreme temperatures and mortality in Latin America
Josiah L. Kephart, Brisa N. Sánchez, Jeffrey Moore, Leah H. Schinasi, et al.
Nature Medicine (2022)https://doi.org/10.1038/s41591-022-01872-6

二次文献
1.
Burkart, K. G. et al. Estimating the cause-specific relative risks of non-optimal temperature on daily mortality: a two-part modelling approach applied to the Global Burden of Disease Study. Lancet 398, 685–697 (2021).

2.
Zhao, Q. et al. Global, regional, and national burden of mortality associated with non-optimal ambient temperatures from 2000 to 2019: a three-stage modelling study. Lancet Planet Health 5, e415–e425 (2021).

3.
Guo, Y. et al. Global variation in the effects of ambient temperature on mortality: a systematic evaluation. Epidemiology 25, 781–789 (2014).

4.
Gasparrini, A. et al. Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: a multicountry observational study. Lancet 386, 369–375 (2015).

変形性股関節症に対する関節内コルチコステロイドおよび局所麻酔注射の有効性とは [医学・医療への疑問]

変形性股関節症に対する指導および最良の現行治療(BCT)と、コルチコステロイド(トリアムシノロン)および局所麻酔薬(リドカイン)の超音波誘導関節内注射を加えることによる有効性を比較した試験によって、「変形性股関節症に対し、トリアムシノロン-リドカインを併用した関節内注射はBCTに追加する治療選択肢である。」と述べられている。

しかし、、。

研究デザインは、単一盲検、平行群、3腕、ランダム化比較試験。参加者(平均年齢は62.8歳)は、変形性股関節症および少なくとも中等度の疼痛を有する40歳以上の成人199名。無作為に、67名が指導およびBCTを受け、66名がBCTにトリアムシノロンとリドカインの超音波誘導注射、66名がBCTにリドカインの超音波誘導注射を受けた。尚、参加者は、彼らが受けた注射についてマスクされた。

主な転帰は、6ヶ月後の、自己報告による股関節痛の強度(0-10数値評価尺度)。

BCTと比較してBCTと超音波-トリアムシノロン-リドカインを併用した場合、6か月間の股関節痛強度が改善し、平均差は-1.43(95%信頼区間-2.15から-0.72、P <0.001)、標準化平均差は-0.55(-0.82から-0.27)。

BCT+超音波-トリアムシノロン-リドカインとBCT+超音波-リドカイン(-0.52(-1.21-0.18))との間では、6ヶ月間にわたる股関節痛強度の差は報告されなかった。超音波確認された滑膜炎または滲出液の存在は、BCT+超音波 - トリアムシノロン - リドカイン(−1.70(−3.10〜−0.30))で有意な効果と関連。

有害事象として、生体人工大動脈弁を有するBCT+超音波 - トリアムシノロン - リドカイン群の1人の参加者が、介入の4ヶ月後に亜急性細菌性心内膜炎で死亡した。恐らく、試験治療に関連していると考えられた。

例え、P値が低く有意であったとしても、痛みの差は10点満点中の1.43に過ぎず、標準化平均差は-0.55である。この程度の差を以て、「関節内注射はBCTに追加する治療選択肢である。」と、結論づけるのであろうか。さらに、基礎疾患の影響はあるだろうが、死亡者の存在は重大だと言える。死亡は、点数
の差などで比べられる事ではない。

出典文献
Clinical effectiveness of one ultrasound guided intra-articular corticosteroid and local anaesthetic injection in addition to advice and education for hip osteoarthritis (HIT trial): single blind, parallel group, three arm, randomised controlled trial
Zoe Paskins, Kieran Bromley, Martyn Lewis, Gemma Hughes, et al.
BMJ 2022; 377 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2021-068446 (Published 06 April 2022)
Cite this as: BMJ 2022;377:e068446

オミクロンに対する4回目のワクチン投与による保護効果とは [医学・医療への疑問]

10万人/日当たりの重症Covid-19の症例数(未調整率)は、ワクチン4回投与群で1.5例、3回投与群で3.9例、内部統制群で4.2例。

イスラエルでは、2022年1月2日以後、60歳以上の人に4回目のBNT162b2ワクチンの投与を開始しました。

この報告は、イスラエル保健省のデータベースを使用して、SARS-CoV-2のB.1.1.529(オミクロン)、2022年1月10日から3月2日までに確認された感染と重度のCovid-19の割合を、3回の投与のみを受けた人(3回投与群)と比較して、4回目の投与を受けてから8日後から始まる時間の関数として推定。

10万人/日当たりの感染確認件数(未調整率)は、4回投与群で177例、3回投与群で361例、内部統制群で388例。準ポアソン分析では、4回目の投与を受けてから4週間目に確認された感染率の調整率は、3回投与群よりも2.0倍低く(95%CI、1.9〜2.1)、内部対照群より1.8倍低い(95%CI、1.7から1.9)。但し、この保護効果は数週間後に減弱。

有効であると結論づけていますが、3回投与群との比較で、重症化例が10万人当たりで1.5例と3.9例の違いです。数値的には統計的な優位性があっても、現実的には意味があるでしょうか。まるで、「鬼の首を取った」ように、4回投与が有効であると言うことでしょうか。

既に医師の間でも、「通常の風邪扱い」にすべきとする意見は多いのですが。

出典文献
Protection by a fourth dose of BNT162b2 against Omicron in Israel
Yinon M. Bar-On, Yair Goldberg, Micha Mandel, Omri Bodenheimer, et al.
New England Journal of Medicine, DOI: 10.1056/NEJMoa2201570.

高齢者の股関節骨折手術のための脊髄くも膜下麻酔に優位性はなかった [医学・医療への疑問]

高齢者の股関節骨折手術における脊髄くも膜下麻酔は、全身麻酔と比較して60日後の歩行、生存、および機能回復は優れていなかった。術後せん妄の発生率も、2種類の麻酔で同様であった。

これまで、股関節骨折の手術において、高齢者の歩行能力に対する全身麻酔と比較した脊髄くも膜下麻酔の効果は十分に研究されていなかったとのことだが、今頃臨床試験をするのかとあきれてしまう。くじ引きで、術式や手術を受けるか否かを割り付けることへの倫理的問題はあると思うが。

対象となった患者は、脊髄くも膜下麻酔または全身麻酔に1:1の比率でランダムに割り付けられた。主要転帰は、60日後に歩行器または杖を使用して独立して約10フィート(3 m)歩行不能の複合。二次転帰は、60日以内の死亡、せん妄、60日後における歩行、退院までの期間。

アメリカとカナダにおける46の病院で、術前に歩行可能であった50歳以上の患者を対象に、合計1600人の患者が登録され、795人が脊髄くも膜下麻酔)の患者、805人が全身麻酔に割り当てられた。脊髄くも膜下麻酔に割り当てられた患者のうちの666人(83.8%)、および全身麻酔に割り当てられた患者のうちの769人(95.5%)が割り当てられた麻酔を受けた。

データが入手可能な修正ITT集団の患者の中で、複合一次転帰は、脊髄くも膜下麻酔群の患者712人中132人(18.5%)、および全身麻酔群の患者733人中132人(18.0%)で発生した(relative risk, 1.03; 95% confidence interval [CI], 0.84 to 1.27; P=0.83)。

60日で独立して歩行不能な患者は、それぞれ104/684人(15.2%)と101/702人(14.4%) (relative risk, 1.06; 95% CI, 0.82 to 1.36)。

60日以内の死亡は、それぞれ768人中30人(3.9%)および784人中32人(4.1%)に発生した(relative risk, 0.97; 95% CI, 0.59 to 1.57)。

せん妄は、脊髄くも膜下麻酔群の患者633人中130人(20.5%)、全身麻酔群の患者629人中124人(19.7%)で発生した(relative risk, 1.04; 95% CI, 0.84 to 1.30)。

何れも、両群に差は認められなかった。

手術については、先述したように倫理的な問題もあり、ランダム化試験をやりにくい事情は理解できる。しかしそれでも、この様な評価は半世紀以上前に済んでいなくてはならないと思う。

この文献は要約のみで全文が読めないので、患者の骨折部位や術式が不明。恐らく、「股関節骨折」は、主に大腿骨頸部骨折と思われる。髄内釘、プレート固定など、固定法の違い、さらに、人工骨頭であれば術後の固定が必要なく、高齢者であることから免荷よりも早期に動かすことを優先し、極端な話、翌日から歩行させることも可能である。したがって、骨折の種類や術式を一致させた上てのランダム化をすべきと考える。私としては、2群に分けた患者の中身の偏りが気になる。

さらに疑問に感じたことは、骨折前に歩行できていたにもかかわらず、手術の60日後に独立して歩行できない患者が、それぞれ15.2%と14.4%もいたこと。私が病院に勤務していた頃の経験では、通常、術前に歩行可能であった患者が術後自力歩行できなくなることはなかった。骨折の重症度や余程の事情が無い限り、ほぼ全ての患者が自立歩行と階段昇降、床からの立ち上がり動作などを完了して退院した。これは麻酔方法の問題などではなく、手術がヘタなのか、リハビリに問題があるのか、不明。

引用文献
Spinal Anesthesia or General Anesthesia for Hip Surgery in Older Adults
List of authors.Mark D. Neuman, M.D.,
Rui Feng, Jeffrey L. Carson, Lakisha J. Gaskins, Derek Dillane, et al.
N Engl J Med 2021; 385:2025-2035 DOI: 10.1056/NEJMoa2113514

変形性膝関節症患者に対する関節内多血小板血漿体注射の効果は生食と同等 [医学・医療への疑問]

そもそも、ほとんどの臨床ガイドラインでは、膝変形性関節症(膝OA)に対する多血小板血漿関節内注射(PRP)は、症状と関節構造の有効性に関する高品質のエビデンスがないため推奨していない。それにもかかわらず、膝OAへのPRPの使用は増加している。手術の効果もさることながら、整形外科医が行う保存的治療には確実に有効な方法がないことを承知の上で、患者の手前、ヒアルロン酸注射などと同様に何らかの処置をおこなう必要があるのだろう、が、、。

この研究の目的は、症候性およびX線撮影による、軽度から中等度の内側膝OA患者の症状と関節構造に対する関節内PRP注射の効果を検証すること。研究デザインは、無作為化プラシーボ対照二重盲検試験。

症候性内側膝OA(Kellgren and Lawrence grade 2 or 3)患者。オーストラリアのシドニーとメルボルン、2017年8月24日から2019年7月5日まで、フォローアップは2020年7月22日までに完了。

介入は、市販のPRP(n = 144)または生理食塩水(プラシーボ:n = 144)。主要な結果は、全体的な膝痛スコアの12か月の変化(ポイントスケール範囲;0-10、スコアが高いほど痛みが強い、臨床的に重要な最小差は1.8)、機能、生活の質、全体的な変化、および関節構造を評価。

無作為化された288人の患者(平均年齢61.9 [SD、6.5]歳; 169 [59%]女性)のうち、269人(93%)が試験を完了。両グループの140人の参加者(97%)が3回の注射すべてを受けた。 12か月後の膝痛の平均スコアは、PRP-2.1ポイント、プラシーボ注射-1.8ポイント(difference, −0.4 [95% CI, −0.9 to 0.2] points; P = 0.17)で、差は無し。

内側脛骨軟骨量の平均変化は、それぞれ-1.4%対-1.2% (difference, −0.2% [95% CI, −1.9% to 1.5%]; P = 0 .81)で、差は無し。

症候性の軽度から中等度の膝OA患者に対し、PRPの関節内注射の効果は生理食塩水と同等であり、効果は全く認められない。したがって、PRPの使用は推奨されない。私が病院に勤務していた頃から数えて半世紀近くが過ぎたが、膝OAの治療は全く進歩していない。整形外科医は、この事実を真摯に受け止めるべきだと思う。 

それにしても、痛みの減少が2ポイント程度とはおそまつ。さらに、軟骨と症状に関連性が無いことは周知のこと。評価することに意味があるとは考えられない。

PRPの効果については、先日投稿した、「足首の変形性関節症患者に対する多血小板血漿注射に効果は認められず;2021.10.27」でも同様であった。これが、整形外科における保存的治療効果の実体と言えるのではないか。拙著「膝痛の鍼治療」でも述べたが、病態の本質にもっと目を向けるべきだ。鍼灸師の立場で言わせてもらえば、鍼治療の方が効果は高い。

出典文献
Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Pain and Medial Tibial Cartilage Volume in Patients With Knee Osteoarthritis
The RESTORE Randomized Clinical Trial
Kim L. Bennell, L. Paterson, Ben R. Metcalf, BSc1, et al.
JAMA. 2021;326(20):2021-2030. doi:10.1001/jama.2021.19415

栄養素強化の乳児用調製粉乳は認知的利益を促進しなかった [医学・医療への疑問]

認知発達を促進するために提案されている3種類の修正乳児用調製粉乳は、標準的な乳児用調製粉乳と比較して長期的な認知的利益を促進しなかった、という馬鹿げた話。

母乳育児は乳児の栄養に最適であり、乳児と母親に複数の健康上の利点がある。しかし、母乳育児を6週間を超えて続ける割合は多くの高中所得国では低い。したがって、人工乳の組成を最適化して栄養要件を満たし、人工乳で育てられた乳児の健康上の不利益を減らすことが公衆衛生上の問題と言われている、らしい。

欧州連合では、乳児用調製粉乳の組成基準がランダム化された対照試験からの証拠に基づいて規制され、CodexAlimentarius2によって指定されているとのこと。最近、長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の1つのタイプである、ドコサヘキサエン酸(DHE)の追加が義務付けられているらしい。また、乳児が正常な成長と発達に対する高い要件を持っている期間における、認知発達に対する鉄欠乏の悪影響を回避することも目的としている(それぞれの乳児において、鉄欠乏性貧血を評価してのことだと思うが、、)。

本研究の目的は、乳児期に処方された、修正乳児用調製粉乳と標準的な乳児用調製粉乳との学業成績の違いを比較することであった。

対象は、7つのランダム化比較試験の1つに参加した1763人の青年(早産425人、満期産299人、低出生体重児1039人)。イギリスの5病院、1993年8月11日から2001年10月29日まで、2002年9月から2016年8月まで。

介入は、栄養素強化処方と標準処方(2回の試行)、長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の補給と非補給(2回のトライアル)、高鉄と低鉄(1回のトライアル)、高と低のパルミチン酸sn-2フォーミュラ(1回の試行)、およびヌクレオチド補充と非補充(1回の試行)。

最終的に、1607名(91.2%)の参加者が学校の記録にリンクされた。その結果、16歳における、数学検査のパフォーマンスに利点は認められなかった。高鉄、sn-2パルミテート、またはヌクレオチドを補給した処方でも違いは認められず、11年で、LCPUFAを補充した処方群で、早産および満期の参加者の英語と数学のスコアが低くなった。

LCPUFA補足式にランダム化された子供では、11歳での二次学業成績測定で成績が低下したという弱い証拠が見つかった。 LCPUFAを補給した乳児用調製粉乳が学業成績に悪影響を与える可能性がある理由は不明。

母乳中のドコサヘキサエン酸の含有量は変動するため、乳児用調製粉乳中のドコサヘキサエン酸の最適用量が不確実になる。さらに、母乳に存在する他の成分から分離されたLCPUFAは、人間の母乳に自然に存在するLCPUFAとは異なる生物学的特性を持っている可能性があると述べられている。

この研究は、1種類のLCPUFAであるドコサヘキサエン酸をすべての乳児用および後続の調合乳に追加するという、最近の欧州連合の義務のために特に重要である。以前の証拠と組み合わせると、本研究の調査結果は、そのような馬鹿げた法律の再評価を促すはずである(EU本部は、毎日のように、馬鹿げた法律を作って加盟国へと送りつけている)。

但し、最近では、栄養シグナルが遺伝子までも改変することが認められており、栄養素の重要性は認識されている。例えば、ごくありふれたアミノ酸にも未だ未知の機能が多い。血清と比較すると、骨髄に含まれる遊離アミノ酸は100倍以上も多く、割合も異なっており、骨髄と末梢血とでは全く異なる。つまり、骨髄に特有のアミノ酸の環境が存在している。例えば、バリンを含まない培養液では、造血幹細胞は速やかに未分化性を消失する。マウスを、バリンを含まない飼料で長期間飼育すると体内の造血幹細胞は減少し、放射線を照射することなく造血幹細胞の移植が成立する。これらの知見は、アミノ酸の制御が新しい造血幹細胞の移植法となりうる可能性を示唆している(アミノ酸の制御は移植の前処置やがんの新しい治療法となる可能性:本ブログ;2016.12.10.)。アミノ酸の組成は、各臓器や組織で違いがあり、そのことが重要な意味を持っていると予想される。

さらに、量子科学技術研究開発機構(量研)は2021年10月23日、特定のアミノ酸の摂取が認知症の病態を抑止することを発見したと発表した。7種の必須アミノ酸を特定の割合で組み合わせて摂取することで、脳の炎症性変化を防ぎ、神経細胞死による脳萎縮を抑制する可能性が示された。味の素との共同研究による成果だ。  

研究に使用したのは、ロイシン、フェニルアラニン、リジン、イソロイシン、ヒスチジン、バリン、トリプトファンの7種の必須アミノ酸だ。これらを味の素が独自配合で組み合わせ、「Amino LP7」と名付けられた。

この様に、栄養シグナルの重要性が認識されてきてはいる。しかし、それ以前に、学業の成績のみを以て人の能力を評価することはあまりにナンセンスだ。

出典文献
Effect of nutritionally modified infant formula on academic performance: linkage of seven dormant randomised controlled trials to national education data
Maximiliane L Verfürden, Ruth Gilbert, Alan Lucas, John Jerrim, Mary Fewtrell,
BMJ 2021; 375 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2021-065805 (Published 11 November 2021)
Cite this as: BMJ 2021;375:e065805

呼吸器症状を呈するcovid-19患者への吸入および鼻腔内シクレソニド投与に効果は無し [医学・医療への疑問]

顕著な呼吸器症状を呈するcovid-19(新型コロナ感染症)の若年成人患者に対する、吸入および鼻腔内シクレソニドの組み合わせは、プラシーボと比較して症状の改善に有意な差を示さなかった。

本研究の目的は、covid-19成人外来患者の呼吸器症状の軽減において、吸入および鼻腔内シクレソニドがプラシーボより優れているかを判断すること。研究デザインは、ランダム化二重盲検プラシーボオ対照試験。対象者は、ポリメラーゼ連鎖反応によってcovid-19が確認され、発熱、咳、または呼吸困難を呈した18歳以上の成人203人。

介入は、無作為に、吸入シクレソニド(600μgを1日2回)および鼻腔内シクレソニド(1日200μg ;105人)、またはプラシーボ(定量吸入器および経鼻食塩水;98人)のいずれかを14日間投与。

主なアウトカムは7日目の症状の解消。分析は、修正された治療意図集団(少なくとも1回の治験薬を服用し、1回の追跡調査を完了した参加者)で実施された。

発熱と呼吸器症状は7日目までに参加者の37%(n = 76)が解消。その割合は、介入群40%(42 / 105、)と対照群35%(34 / 98、)で有意差は無し。絶対調整済みリスク差5.5%(95%信頼区間-7.8%から18.8%)。

14日目に症状が解消した参加者の割合も2つのグループ間で有意差はなく、シクレソニド群は14日目までに症状の解消が66%(69/105)、プラシーボ群では58%(57/98)。調整済みリスク差7.5%(95%信頼区間-5.9%から20.8%)。

シクレソニド群の6人とプラシーボ群の3人が入院。死亡は0人。全体的な順守は高く、シクレソニド群の参加者の94%(99/105)およびプラシーボ群の93%(91/98)が、ほとんどの調査日、または少なくとも症状が解消するまで治験薬を服用した。副作用は、シクレソニド群の参加者の22%(23/105)およびプラシーボ群の15%(15/98)で報告され、最も一般的な副作用は頭痛と吐き気であり、これらは治療群でより一般的であった。全体的に、盲検化は十分に維持されていた。

2020年、SARS-CoV-2(covid-19のウイルス名)は世界的大流行を引き起こした。covid-19の合併症は軽度から重度まで様々で、比較的無症候性のままの人もいれば救命救急を必要とする患者もいる。

入院したcovid-19患者に対しては、デキサメタゾン、ヘパリン、トシリズマブなどによる治療の成功例は確認されているが、外来患者の治療は遅れている。モノクローナル抗体の併用療法は高リスク患者に有効であるが、薬価が高いため普遍的に使用できず、また、経口および吸入治療とは異なり煩雑となる。したがって、外来治療の基準は依然として支援策と検疫であるが、感染した患者は咳や呼吸困難による症状を負う可能性がある。自宅投与が可能で、症状の負担や入院を減らせるような安全で安価な治療法が緊急に必要とされている。

2020年2月、感染したVero細胞でのウイルススパイクタンパク質の発現を測定することにより、2069の米国食品医薬品局承認薬を含む5406の化合物がSARS-CoV-2に対する抗体としてテストされた。 喘息治療の吸入型、アレルギー性鼻炎の治療に鼻腔内で使用されるコルチコステロイドのシクレソニドは、これらの薬剤の1つとして特定された。シクレソニドは、その固有の抗炎症機能に加え、SARS-CoV-2.に対する活性を特異的にスクリーニングした場合に、強力な抗ウイルス効果を示していた。

著者らは、結果は主に併存疾患のない若年成人を含む集団に限定される可能性がある。また、早期に中止されたため評価は力不足であった可能性があると述べている。さらに、covid-19の治療における吸入および鼻腔内コルチコステロイドの利点を決定するには証拠が不十分であるため、さらなる研究が必要だとも記されている。

往生際が悪い。期待した結果が得られないと、「本当は効果があるはずだと」言い訳を並べる。医学論文に多い結論づけだ。

生理食塩水と同等の改善率ということは、薬剤としての効果は何も無く、自然緩解であったに過ぎないと判断することが妥当だろう。この研究は、第II相ランダム化比較試験が含まれていたが、もはや第Ⅲ相試験に進むことはあり得ないと思うが。

出典文献
Inhaled and intranasal ciclesonide for the treatment of covid-19 in adult outpatients: CONTAIN phase II randomised controlled trial
Nicole Ezer, Sara Belga, Nick Daneman, et al.
BMJ 2021; 375 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2021-068060 (Published 02 November 2021)
Cite this as: BMJ 2021;375:e068060

新型コロナワクチンへの幻想を捨てる時 [医学・医療への疑問]

新型コロナウイルスはRNA型ウイルス。一方、DNA型ウイルスのDNAは、増殖の過程で生じた複製ミスなどを修正する機構が備わっていることや、分子構造が安定していることから生物の設計図を担うようになったと考えられている。RNAの場合には、僅か一原子の違いによって極めて不安定になっている。したがって設計図としては使用されず、その変異性と多機能性によってメッセンジャーRNAやリボソームRNAとして働いている。この不安定さこそが、ワクチン製造や保存を困難にする要因となっている。

突然変異そのものはランダムに生じるが、ワクチン接種が進めば進むほどウイルスに対する変異圧も高くなり、ワクチンに対する抵抗性のある変異が「選択」されることになる。この変異圧によって収斂進化が起こり、短期間のうちに世界中で同じような変異が生じる。

仮に、変異株を追いかけるように変更したワクチンを投与したとしてもいたちごっこになることは必定。さらに、経過とともに感染力のより高い変異型が選択され、ワクチン接種が拡大する程に回避効果の高い変異株が出現する。 RNA型ウイルスで起きたパンデミックをワクチンで収束させることは不可能であり、今後も減少と増加が繰り返される。期待とは裏腹に、ワクチン接種の拡大が誘因となってパンデミックの収束が遠のくことになる。この様な認識は、感染症やウイルスの専門家でなくとも、生物学のごく簡単な知識が有れば誰にでも予想できること。

収束させる手立ては、実際の(生の)ウイルスの感染が拡大して集団免疫に到達する(インドの例)か、ウイルス自身の自然消滅を待つ以外にはない。一方、特効薬の登場への期待であるが、特効薬などは未だかつて作られたことは無く望みは薄い。収束は、自然に委ねるしか方法はない。

また、新型コロナウイルスワクチンには副反応が強いという問題がある。従来のワクチンは毒性を排除した抗原を使用してきたが、新型コロナワクチンで抗原として用いているスパイクタンパク質そのものに毒性があるとする報告もある。さらに、聞くところによると、動物による実験では、同一の抗原で繰り返し免疫化を行った場合、5回目から死亡する例が激増し、7~8回繰り返すと半分近くが死亡したとする研究結果もあるとのこと(私はこの論文を見ていないので明確なことは言えないが)。

さらに、ワクチン接種者の中には抗体依存的感染増強(ADE)により重症化する可能性がある。過去には、フィリピンにおいて、RNA型ウイルスの「デング熱」のケースで、200人以上の子供がワクチン接種後にADEで死亡するという悲劇が起きている。我が国でも、新型コロナワクチン接種後に1093名(8月25日現在9月3日時点で1155名)が死亡している。このうちの、32例は大動脈解離でその中の18例は接種後3日以内に突然発症している。因果関係は不明か無しとしているが、タイミングとそれ以前に健康であったことから、ワクチンが関与したと考えることが自然だ。通常ならば、とっくに中止されているだろう。

イスラエルを始めとする、ワクチン接種を繰り返す国は壮大な人体実験を行っているのに等しい。

新型コロナ感染症(COVID-19)は、現時点においてSARSやMERSと同等の2類に分類されているが、その致死率は格段に低く季節性インフルと同程度であり、早急に5類に変更すべきだ。今後は、治療プロトコールの進歩によってり致死率はさらに低下するものと予想される。我が国では高齢者の接種や基礎疾患を持つ人への接種はほぼ完了し、50代以下の基礎疾患を持つ人への接種も近く完了する。このような段階にある現在において、3回目のブースター接種、さらに5、6回の接種などは狂気の沙汰と言える。

WHOが推奨する鉄介入に効果は無かった [医学・医療への疑問]

バングラデシュの乳児を対象としたランダム化二重盲検プラシーボ対照試験の結果、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を3か月間毎日補給しても、プラシーボと比較して、子どもの発達やその他の機能的転帰に影響は認められなかった。むしろ、鉄介入は下痢を引き起こすような感染リスクを高める可能性が見られた。
(オーストラリア国立健康医学研究カウンシルの資金提供, BRISCオーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ番号: ACTRN12617000660381.)

世界中の5歳未満の子供のうち、40%近くが貧血であり、そのほとんどが低中所得国に住んでいる。これらの地域では、幼児の貧血が深刻な公衆衛生上の問題として考えられている。WHOは、生後6〜23か月のすべての子供に、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末(他の微量栄養素を含む脂質カプセル化鉄のパケット)による補完食品の在宅強化を通じて鉄を摂取する(3か月間毎日補給)ことを推奨している。

幼児への予防的鉄介入の主な理論的根拠は、機能的健康の結果による子供の発達と成長に関する利益。この推定は、貧血を不適切な子供の認知発達に関連付けられる観察研究に基づいている。しかし、これまでの研究においても、鉄補給を評価するランダム化比較試験のメタアナリシスでは、機能的転帰に関して決定的なデータは明らかにされておらず、 鉄の介入はヘモグロビンレベルと鉄の貯蔵に持続的な改善をもたらしたが、短期的または中期的に発達、行動、または成長の結果を改善しなかった。

また、前述したように、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を投与されている期間に、非貧血または非鉄欠乏の子供が下痢のために計画外の診療所を訪れるリスクの増加を示した。但し、事後分析であったためこれらの調査結果は決定的では無く、サブグループ間に有意差は認められなかった。

結論として、生後8か月の子供に鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を3か月間毎日補給すると貧血の有病率は低下した。しかし、レジメンの完了直後または9か月後の認知発達やその他の機能的健康転帰は改善されなかった。

つまり、貧血の改善には意味が無い。正常値という単なる平均値で人を評価することの危険性が問われるべきだ。さらに言えば、そもそも、WHOなど存在することに意味があるのか疑問(かつて、天然痘の撲滅に成功したという業績だけはあるが)。

出典文献
Benefits and Risks of Iron Interventions in Infants in Rural Bangladesh
Sant-Rayn Pasricha, M. Imrul Hasan, Sabine Braat, Leila M. Larson, et al.
N Engl J Med 2021; 385:982-995 DOI: 10.1056/NEJMoa2034187

Covid-19の高リスク外来患者への早期回復期血漿は効果がなかった [医学・医療への疑問]

Covid-19の急性疾患の高リスク患者に対する、新型コロナ病(2019年のコロナウイルス病:Covid-19)から回復した患者から献血された回復期血漿の早期投与の効果を調査した研究の結果、病気の進行を防ぐ効果も二次転帰への影響も認められなかった。

この研究は、第3相、多施設、ランダム化、プラシーボ対照試験で、国立心肺血液研究所、国立衛生研究所の国立神経障害脳卒中研究所、および生物医学先端研究開発機関の支援を受けている。

対象となったのは、Covid-19症状発症後7日以内に救急科に来院した患者。患者は1:1の比率で無作為化され、1ユニットのABO適合Covid-19回復期血漿、または血漿に似た非経口マルチビタミン濃縮物で着色された250mlの生理食塩水(プラシーボ)を投与された。

合計511人の患者が試験に登録された(回復期血漿群257人、プラシーボ群254人、患者の年齢の中央値は54歳)。症状の持続期間の中央値は4日。ドナー血漿サンプルでは、​​SARS-CoV-2中和抗体の力価の中央値は1:641。

疾患進行の複合転帰は、回復期血漿群の77/257例(30.0%)、およびプラシーボ群の81/254(31.9%)で、無作為化後15日以内に発生した(risk difference, 1.9 percentage points; 95% credible interval, −6.0 to 9.8; posterior probability of superiority, 0.68)。

血漿群の5人とプラシーボ群の1人の患者が死亡。25人の患者(回復期血漿グループで19人、プラシーボ群で6人)が最終的にインデックス訪問中に入院。

死亡者、入院ともに、生理食塩水群よりも血漿群で多かった?。

輸血された回復期血漿のユニットのうち、96.4%が1:250以上のSARS-CoV-2中和ID50を持っており、ID50の中央値は641(四分位範囲、468から1702)。

抗体価と疾患の進行との間に関連性は認められなかった。

著者らは、この試験ではウイルスの遺伝子型に関するデータは収集されておらず、登録期間中に新しい亜種が出現した。将来の研究では、パンデミック時に様々な時期と地理的場所から収集された回復期血漿の効果を検討する必要があると述べている。また、この研究における回復期血漿の有効性の欠如は、血漿の不十分な用量または中和抗体の力価、投与のタイミング、患者の選択、および投与された回復期血漿中の潜在的な有害成分の存在に起因する可能性も考えられる述べている。

FDAは、死亡の絶対リスクが、回復性血漿の高力価注入を受けた患者が低力価注入を受けた患者よりも7パーセントポイント低下したことから、高力価Covid-19回復性血漿の治療への使用を承認した。

しかし、このランダム化比較試験では、症状の発症後7日以内に高力価のCovid-19回復期血漿を注入しても重篤な疾患リスクが高い患者の進行を防ぐことはできなかった。

本当は効果が有るはずだが、試験の方法に問題があったと言い訳をするのでは無く(医学研究に多い)、結果は謙虚に受け止め、何よりも、抗体についてさらに深い知識が求められと受け止めるべきだ、と思う。

因みに、この研究報告を見て、「抗体カクテル療法」は本当に効果があるのか疑問となる。

Early Convalescent Plasma for High-Risk Outpatients with Covid-19
Frederick K. Korley, Valerie Durkalski-Mauldin, Sharon D. Yeatts, Kevin Schulman, et, al.
NEJM, August 18, 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2103784

CDCの方針転換が示す新型コロナワクチンの本当の効果 [医学・医療への疑問]

7月3日~17日にかけて、マサチューセッツ州バーンスタブル郡で開催された幾つかの催しにアメリカ全域から数千人が訪れた。それらの催しの最中に、同郡に居合わせた同州住民469人の新型コロナウイルス感染(COVID-19)が7月26日までに確認された。必要な回数のワクチン投与後2週間以上経過した、接種完了状態(fully vaccinated)の人が感染者の74%(346人)を占めていた。

7月3日時点における、マサチューセッツ州のCOVID-19ワクチン接種完了者の割合は69%であり、感染者469人のワクチン接種完了者の割合74%とほぼ同程度。配列解析から示唆されるように、469人の感染のほとんどがデルタ変異株であり、催しに接した人々が同州の人口統計と一致すると仮定すると接種完了者と未摂取者とのデルタ変異株への感染しやすさはほぼ同程度となる。

つまり、従来のワクチンには、少なくともデルタ株に対して感染を防御する効果はないと言える。

また、感染者469人のうち、先月27日時点で死亡例はなく、入院したのは5人。そのうちの4人はワクチン接種を完了した者で、残り1人は非接種。非摂取者の方が入院も少なかったが、接種有無の比率を考慮すればほぼ同程度と言える。さらに、ワクチン接種完了者とそうでない人のウイルス量にも差はなかった。つまり、感染率および重症化の可能性も両群に差は認められない。

これで、重症化の減少がCOVID-19ワクチン接種による恩恵などと言えるのか、大いに疑問だ。

アメリカでは、今年1月からの4か月間で約1億100万人の接種が完了したが、1万262人がブレークスルー感染をした。そのうちの995人(10%)が入院し、160人(2%)が死亡した。一方、4月1日時点の新規未接種者の死亡率は0.94%だった。つまり、ワクチンを2回接種した人の方が、未接種者より死亡率が高い結果となる。

また、7月23日にイングランド公衆衛生局が発表した調査では、2月1日から7月19日までにデルタ株に感染した約23万人をワクチンの接種回数などで分類した。その結果、ワクチンを2回接種して感染した人の死亡率は0.78%で、未接種の感染者の死亡率は0.14%で5倍以上ワクチン接種者が高くなった。

この結果に対し、「死に近い高齢者」がワクチンを2回接種した可能性があるため単純には判断できないと言うのは詭弁だ。イングランドの調査では、死亡者の大半を占める高齢者層(50代以上)において、2回接種者の死亡率は1.64%で、未接種感染者の死亡率5.6%よりも大幅に低い。先述した言い訳のような、「死に近い高齢者」にもワクチンは有効であり矛盾する。その他の要因が関与する可能性は否定できないが、結果の数字は謙虚に受け止めるべきだ。  

但し、CDCはデルタ株においても、ワクチン未接種者はワクチン完了者よりも重症化もしくは死亡するリスクが10倍以上高いと報告しており、意見が錯綜しているのも事実だが。

イスラエル保健省は、デルタ株の感染拡大によって、ファイザー製ワクチンの予防効果が94%から39%まで激減したことを明らかにしている。そもそも、2週間ほどで作成される抗体は、一定期間を過ぎると予防効果が落ちる。特に、ファイザー製やモデルナ製のような「mRNAワクチン」は、従来の予測よりも速く効果が落ちるとする報告が出始めている。そもそも、「mRNAワクチン」は不安定なものであり、製造段階から保管まで目的どおりの品質が得られることは保証できない。

米国疾病予防管理センター(CDC)はこれまで、ワクチン接種完了者のマスク着用はおよそ不要との見解を示していたが、MMWR掲載の上記の解析を含む情報を受け、COVID-19が相当またはかなり多発している郡(areas of substantial and high transmission)の公の場の室内ではワクチン接種が済んでいようといまいと誰もがマスク着用を要すると方針を転換した(27日)。

この理由は、MMWRの報告が示すように、デルタ変異株感染者のウイルス量はワクチン接種が完了していても非接種と同様に多く、接種完了者であっても不顕性感染によって他の人を感染させる危険性がある。したがって、知らぬ間にウイルスを他人に広めてしまわないようにするため新たなマスク着用方針を決めた。

個人的には疑問だ。

既に、市中感染の段階である、と同時に病原性は低下しており、むしろ感染者の広がりによって「免疫の壁」を形成することの方が賢明だ。自然免疫の方がより優れていることは明らかなのだから。RNA型のウイルスに対しては、変異の速さからワクチンの効果は期待できない。単に陽性者を問題視するような建前論ではなく、真実を告げて、国民に対して自然の摂理を真摯に説明すべきと思うが、、。

デルタ変異株が騒がれているが、現時点において、世界的には、感染者数は減少傾向にある。これも、ワクチンのおかげだと言うのは無理がある。いや寧ろ、詭弁と言える。

医師たちですら、免疫に対する作用など、多くの未知数にもかかわらずCOVID19ワクチンの3回目接種に期待しており、既に、イスラエルやドイツなどでは実施されると聞く。私には、狂気に感じられる。

引用文献
Outbreak of SARS-CoV-2 Infections, Including COVID-19 Vaccine Breakthrough Infections, Associated with Large Public Gatherings - Barnstable County, Massachusetts, July 2021. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR). July 30, 2021.

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ワクチン承認の闇 [医学・医療への疑問]

イギリスとアメリカにおいて、新型コロナウイルス感染症のワクチンが急速に認可された。公衆衛生当局は、ワクチンを認可する専門家とワクチンに関するアドバイスを行う専門家の独立性を強調している。しかし、BMJの調査によると、これらの専門家の中には、政府機関が常に開示していない、重要な業界との関係を持っている人がいることが判明している。

アメリカのジャーナリスト、ポール・サッカー(Paul D Thacker)によるBMJの調査では、専門家が出版物の結びつき、助成金の領収書、特許などの潜在的な対立をそれぞれの委員会に開示した例が見つかっている。しかし、この記事は、FDA ワクチンおよび関連生物製品諮問委員会 (VRBPAC) および英国のワクチン接種および予防接種に関する合同委員会 (JCVI) の会議の議事録によると、ほとんどの委員会の専門家が最近の時点で利益相反を登録していないと述べている。

FDAおよびJCVI 委員会のほとんどの専門家は利益相反を登録していない。2020年12 月22 日の JCVI の12 月の会議で、議事録は19 人のメンバーのうち 18 人が「登録された利益相反がない」と報告している。業界または消費者の代表ではないFDAの専門家の間で、当局は、21人の投票メンバーのうち20人が12月10日の諮問委員会で対立がなく、他のcovidワクチン会議でも同じか類似の割合であったと報告している。

FDAと英国政府はどちらも、パネリストに過去 12 か月の紛争のみを開示するよう求めている。これにより、近年発生した多額の金銭的支払いを見逃す可能性がある。また、パネリストが出版物で助成金や特許、その他の業界との関係を委員会に開示した例も見つかったが、委員会はこれらの事項を公表する価値がないと判断したようで、現在に至るまで公表されていなかった。

イギリスのブリストル大学のアダム・フィン教授の場合、JCVIは、ワクチンの製造業者からの個人的な支払いはないと報告しているが、彼はオックスフォード・アストラゼネカのコビッドワクチンの地元の主任研究者である。2020 年の New England Journal of Medicine の開示と、BMJ への同じ年の開示の中で、Finn は GlaxoSmithKline (GSK) からの研究助成金を報告した。そして 2019 年には、彼の機関がさまざまな製薬会社から資金提供を受けていること、および年次総会がワクチン メーカーからのスポンサーを得ている医療学会の会長を務めていることを明らかにしている。

イギリスJCVIの場合、covid-19会議の議長は、ノッティンガム生物医学研究センターの教授であるウェイ・シェン・リムであり、彼の研究所は、リム教授が主任研究者となっている肺炎の研究のために、ファイザーから無制限の研究者主導の研究資金を受け取っていると述べている。

オランダのフローニンゲン大学のマールテン ポストマの問題は複雑だ。JCVI は、covid-19 ガイダンスに関する彼の作業について矛盾がないことを報告してる。しかし、彼はWeb サイトで、2 つの科学コンサルタントの理事会メンバーであることを開示しており、JAMA Oncology Postma に掲載された 2018 年の論文で、AstraZeneca、Pfizer、GSK を含む 12 社以上の製薬会社からの助成金を受けていることを明らかにしている。彼はまた、さまざまな製薬業界からの助成金と個人費用、およびインフルエンザワクチン会社の Seqirus からの財政支援についても明らかにしている。

FDAの広報担当者は、潜在的な候補者はすべて、利益相反の可能性を評価するために詳細な財務問題を報告する必要があると説明している。諮問委員会のアドバイスの信頼性と完全性を保護するために、FDAは定期的にすべての諮問委員会のメンバーを慎重に審査し、潜在的な利益または関係を無効にし、必要に応じて委員会の名簿を変更しているとしている。

しかし、業界ニュースレターのピンク シートによる最近の分析によると、FDA は、臨床転帰の研究に失敗した後、3 種類のがん治療薬を撤回すべきかどうかについて当局に助言した専門家に対して、6件の利益相反の免除を発行した。JAMA に掲載された報告書は、利益相反の開示が FDA 諮問会議で一般的であったが、反論につながることはめったにないことを発見した。

イギリスMHRA は、政府閣僚に対する独立した専門家の科学諮問機関であるヒト医薬品委員会に助言を求めた後、ワクチンの認可に関する透明性の問題が大きくなっている。 委員会は助言を公表せず、議事録の記録もわずかしか公開しておらず、2018 年以降、メンバーの金銭的利益に関する宣言を公表していない。

全国のワクチン諮問委員会に参加している専門家は、業界との関係やその他の利益相反について開示するよう求められている。しかし、開示基準が大きく異なり、COVID-19 ワクチンの承認に関しては、FDA の諮問委員会のメンバーと英国のカウンターパートが、公表されていない利益相反を抱えていることがよくある。それは、多くの場合闇に閉ざされているが、一般市民に知らされることはない。

出典文献
Covid-19: How independent were the US and British vaccine advisory committees?
BMJ 2021; 373 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.n1283 (Published 26 May 2021)
Cite this as: BMJ 2021;373:n1283

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世界的大規模急速なワクチン接種が変移株の増産と感染拡大を誘発する可能性(個人的意見) [医学・医療への疑問]

現在、ワクチン接種が進む米国では急速に新型コロナウイルスの変異株が拡大している。
2月23日付けで査読前の論文を投稿するサイト「bioRxiv」に発表された、米カリフォルニア工科大学の研究チームの論文によると、2月にニューヨーク地域で収集され、ゲノム配列が決定された新型コロナウイルスのおよそ4分の1がこの変異株であった。

また、カリフォルニアでは現在、CAL.20C(B.1.429)という変異株が流行している。この変異株は感染力が強い可能性があり、今年1月のカリフォルニア州における新型コロナ感染症の35%を占めていた。

さらに、昨年12月には、英国からB.1.1.7(VOC-202012/01)という変異株が報告された。その後、南アフリカで最初に見つかった変異株B.1.351(501Y.V2)がワクチンにあまり反応しないことが明らかになった。また、ブラジルで出現したP.1(501Y.V3)については、従来株による感染症から回復した人が再感染する恐れがあることを示す研究結果が出ている。
 
3種類の変異株は、いずれも米国に上陸している。米国疾病対策センター(CDC)の3月9日付けの集計によると、米国内のB.1.1.7は3701例、B.1.351は108例、P.1は17例記録されている

また、「BMJ3月10日」に発表された論文によると、英国における調査では致死リスクが従来株より64%高かった。この見解は、遺伝子配列の報告だけでなく、病院のカルテや濃厚接触者の追跡調査などから導かれたものだ。

米ジョンズ・ホプキンス大学医学部でRNAウイルスの進化を研究しているスチュアート・C・レイ氏によると、パンデミックの初期よりも新型コロナウイルスの変異が蓄積するペースが速まり、感染力が増しているのは明らかだという。
 
危惧すべきは、英国、南アフリカ、ブラジルで報告された変異株のすべてが、ウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞に侵入するのに用いる部位)の性質を変える変異をもっていることだ。さらに、その変移はわずか数カ月のうちに3つの大陸で起きている。

この要因として、あくまでも私見ではあるが、原因はワクチンにあると考えている。世界のあちらこちらで同時に起きているのは、生物に見られる、『収斂(しゅうれん)進化』と呼ばれる現象による(ウイルスを生物と呼ぶかは問題だが)」。急速大規模なワクチン接種による、ウイルスの生存に対する驚異が進化を加速させていると考えられる(細菌では同様に、耐性が拡大する)。 その驚異がワクチンというほぼ同様の圧力であれば、対抗手段も似たような変化が世界中で起こると予想される。

世界同時的大規模なワクチン接種は、これまで以上に危険な第4波を誘発させるような気がしてならない。

参考:ナショナルジオグラフィック日本版
2021.03.1

もう一つの問題点:

ワクチンによる抗体依存性免疫増強(ADE)

ワクチンにおける議論のいくつかに、潜在的に致命的な免疫現象である、抗体依存性免疫増強(ADE)がある。

これまでのところ、COVID-19ワクチンを使用したADEの報告はないとのこと。 しかし、COVID-19ワクチンによるADEに関する懸念は、ウイルス変異体の緊急事態とともに再浮上している。

ADEの原因は、ウイルスを中和しない抗体を持っていることで、抗体の受容体を持っている細胞がウイルスを飲み込む。ADEは、中和抗体(ウイルスに結合して感染の原因となるのを防ぐ)が感染を防ぐのに十分なレベルで存在しない場合にも発生する。それらは、ウイルス粒子と免疫複合体を形成する可能性があり、結果として、より重篤な症状を引き起こす。

mRNAとアデノウイルスベクターワクチンは、古いタイプのワクチンよりもADEに関して優れた安全性プロファイルを持っている。開発の初期段階で、SARS-CoV-2の核タンパク質を標的にすることがADEを引き起こす可能性があることを発見し、最も安全な方法として、スパイクタンパク質のS2サブユニットをターゲットにしたようである。

しかし、唯一の例外として、中国が開発した不活化全細胞または「不活化」ワクチンでは起こる可能性がある。このワクチンは、1960年代にADEを引き起こした、はしかとRSVワクチンで使用されたのと同じアジュバントであるミョウバンを使用しており、これらの不活化全細胞ワクチンは古いワクチンのようにADEを引き起こす可能性がある。

出典文献
Why ADE Hasn't Been a Problem With COVID Vaccines
— Even with new variants, it's unlikely antibody-dependent enhancement will be an issue
by Veronica Hackethal MD, MSc, Enterprise & Investigative Writer, MedPage Today March 16, 2021


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敗血症に対するHAT療法の効果とは [医学・医療への疑問]

最近、ヒドロコルチゾン・ビタミンC(アスコルビン酸)・ビタミンB1(チアミン)を同時投与するHAT療法が有望視されているらしい。

本研究は、敗血症誘発性呼吸器および/または心血管機能障害の成人患者を対象に実施された多施設共同、ランダム化二重盲検プラシーボ対照試験。

主要評価項目は、無作為化の日から最初の30日間の人工呼吸器と昇圧剤のない連続日数で、副次評価項目は30日死亡率。

人工呼吸器と昇圧剤のない日数は、介入群で中央値25日(IQR、0-29日)、プラシーボ群で中央値26日(IQR、0-28日)。差は-1日で、95%CI、-4〜2日; P = 0.85と有意差無し。30日間の死亡率も、介入群で22%、プラシーボ群で24%。

結論として、30日以内において、人工呼吸器および昇圧剤のない日数を有意に増加させることはなかった。さらに、試験は管理上の理由で早期に終了したため、臨床的に違いを検出することもできていない。

因みに、「Chest. 2020;158(1):164-173. doi:10.1016/j.chest.2020.02.049」の報告を見ると。

ブロックランダム化によって、プラシーボ群とHAT療法群(ヒドロコルチゾン50mg q6h, ビタミンC 1500mg q6h, ビタミンB1 200mg q12hを経静脈投与)に割り付けた。期間は最長4日間とし、呼吸不全などの原因で通常治療としてコルチコステロイドを投与することはオープンラベルで許可されていた。

主要評価項目は、HAT治療開始から昇圧剤終了までの時間と初日・4日目のSOFAスコアの変化。副次評価項目は、ICU死亡率、院内死亡率、輸液バランス、急性腎不全など。安全評価項目は血漿クレアチニン値、4日目の尿中シュウ酸塩など。

主要評価項目では、ショック離脱時間はHAT群 27+-22時間、プラシーボ群53+-38時間で、差は26時間(p <0.001)。プラシーボ群でステロイド投与があったためnonparametric rank ANCOVAで調整すると、ショック離脱時間は全体平均44時間、HAT群33時間、プラシーボ群54時間で、59%の有意な時間差があった (F1,84 = 28.6, P <0.001, adjusted R2 = 0.147)。SOFAスコアの変化はHAT群3 (1-6)、プラシーボ群2 (0-4)(F3,103 = 1.3, P = 0.27)と、有意差無し。

結論として、「アスコルビン酸、チアミン、ヒドロコルチゾンの組み合わせがショックの分解能にかかる時間を大幅に短縮したことを示唆している。」と記されている。ショック離脱までを21時間短縮したとのことだが、その要因がVCとVB1の併用によるものだろうか。さらに、臨床症状や死亡率に差は無い。このような結果を以て、HAT療法が有望と言うのだろうか。

出典文献
Effect of Vitamin C, Thiamine, and Hydrocortisone on Ventilator- and Vasopressor-Free Days in Patients With Sepsis
The VICTAS Randomized Clinical Trial
Jonathan E. Sevransky, Richard E. Rothman, David N. Hager, et al,
JAMA. 2021;325(8):742-750. doi:10.1001/jama.2020.24505

引用文献
Outcomes of Metabolic Resuscitation Using Ascorbic Acid, Thiamine, and Glucocorticoids in the Early Treatment of Sepsis.
Iglesias J, Vassallo AV, Patel VV, Sullivan JB, Cavanaugh J, Elbaga Y.
Chest. 2020;158(1):164-173. doi:10.1016/j.chest.2020.02.049

追伸

悪名高いビタミンC研究は不正なデータに依存する可能性があります。—統計家は、ポール・マリック医学博士が率いる研究のデータが偽造されたと主張しています。

最近、イースタンバージニア医科大学(EVMS)の職を辞した、ポール・マリック医学博士が率いる論文は2017年に出版されました。

これらのビタミンC研究は「悪名高い」ことで知られており、研究データは偽造されていると指摘されています。

ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸(ビタミンC)、チアミン(この手順はHATプロトコルと呼ばれていました)の単純なレジメンで敗血症による死を防ぐことができれば、多くの命を簡単に救うことができます。しかし、この効果は最初から懐疑的でした。いくつかの大規模で方法論的に堅牢な研究が続き、今日まで、少なくとも9つの無作為化試験(特にVITAMINS試験とVICTAS試験)のいずれも死亡率の同様の減少を示しておらず、さらに疑念が高まりました。

Infamous Vitamin C Study May Rely on Fraudulent Data
— Statistician alleges data in study led by Paul Marik, MD, were fabricated
by Kristina Fiore, Director of Enterprise & Investigative Reporting, MedPage Today March 25, 2022
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全膝関節形成術後の不良転帰が予測される患者に対するリハビリの効果とは [医学・医療への疑問]

全膝関節形成術後の予測不良転帰を有する患者を対象として、セラピスト主導の外来リハビリテーション(プログレッシブ目標指向の機能的リハビリテーションプロトコル、1対1の接触セッションで毎週変更)、または在宅運動のいずれかに分類して効果を比較したところ、両群に差は無かった。

参加者334名は、膝変形性関節症の術後6週間で、オックスフォード膝スコアに基づいて、全膝関節形成術後の予後不良リスクと定義(全体は4264名)。163名が、セラピストによる外来リハビリテーションに割り当てられ、171名は家庭運動ベースのプロトコルにそれぞれ無作為に割り当てられ、6週間、18セッションのリハビリテーションが実施された。

52週における、オックスフォード膝スコアのグループ間の差は1.91(95%信頼区間-0.18〜3.99)ポイントで、外来リハビリテーションアーム(P=0.07)を支持した。すべての時間ポイントデータを分析した場合、グループ間の差は2.25ポイント(0.61〜3.90、P=0.01)であった。平均疼痛では、グループ間に差異は認められなかった。

この研究の制限は、比較のための非治療群を含めなかったことが挙げられる。(著者も認めている)。

“Discussion”でも述べられているように、全膝関節形成術の1年後の患者転帰は、患者に適用される術後リハビリテーションの場所またはタイプの影響を受けないことがすでに明らかになっている。術後理学療法の有効性が低いにもかかわらず、個々の理学療法部門に特定のプロトコルが強く定着しており、さらに、リハビリテーションを提供するための最良の方法に関するコンセンサスは欠如している。

膝関節形成術後の回復は手術のでき如何で左右され、それは、術後のリハビリで変更できるものではない。患者に正しく伝えて状況を認識させ、理学療法士のレビューと家庭運動に基づくレジメンを通じてハンズオフリハビリテーションを提供するだけで十分である、という事実をこの研究結果が示している。

全膝関節形成術(人工関節全置換術)は膝の末期変形性関節症に対する一般的な治療法であり、英国では毎年100,000以上、米国では700,000以上に行われている。その内の、約20%が術後の結果に対する不満を訴えている(20~30%の患者に痛みが残る)。もし、手術を受ける前に患者に手術の動画を見せたとしたなら、果たして受けるだろうか。この手術を目の前で見た者としては、どんなに膝が痛かろうが受けようとは思わないが。

出典文献
Targeting rehabilitation to improve outcomes after total knee arthroplasty in patients at risk of poor outcomes: randomised controlled trial
BMJ 2020; 371 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3576 (Published 13 October 2020)
Cite this as: BMJ 2020;371:m3576
David F Hamilton, David J Beard, Karen L Barker, et al,

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