TKA後の慢性術後疼痛の発症に関連する炎症性バイオマーカーの探索? [医学・医療への疑問]

膝関節全置換術 (TKA) は変形性膝関節症 (OA) の最終段階の治療法ですが、それらの患者の約 20%が慢性的な術後疼痛を経験します。その原因として、炎症性バイオマーカーが、TKA後の慢性術後疼痛の発症に潜在的に関連している可能性があると示されています。しかし、この研究に意味があるとは思えません。

この研究の目的は
(1) OA 患者と健常対照被験者における炎症性バイオマーカーの術前血清レベルを評価する。
(2) 患者のサブグループにおける炎症性バイオマーカー プロファイルの術前の違いを調査する。
(3) 術後の患者のサブグループを比較する。

研究者らは、TKA後に残る膝痛の原因として、炎症誘発性サイトカイン、ケモカイン、成長因子の上昇であるとの仮説を立てている。これらの分子を包括的に分析すれば、術後疼痛を発症しやすい患者を特定できる可能性があり、患者の疼痛管理を調整するのに役立つと考えた。つまり、標的を絞った予防治療の研究と開発を目的として、TKA後に慢性術後疼痛を発症するリスクがある患者を特定するために、術前ツールを特定する必要があると述べている。

TKA手術前および手術後12か月後に患者が報告した臨床疼痛スコアに関連付けることにより、変形性膝関節症患者と痛みのない健康な対照被験者を比較した血清炎症マーカーの差異を評価した。

結果として、変形性膝関節症患者と健常対照被験者の間で12のマーカーが大幅に変化しており、CASP-8、AXIN1、IL6が最も大きな差異を示していることが判明した。

現在の探索的研究では、CD244、STAMPB、CASP-8、および CD40)の4つの炎症マーカーがOAの痛みにとって重要であり、TKA後の痛みに関連している可能性がある。

著者らは、「TKA手術前および手術後12か月後に評価された患者が報告した、臨床疼痛スコアに関連付けることにより、変形性膝関節症患者と痛みのない健康な対照被験者の血清炎症マーカーの差異を評価した最初の研究である。」と、誇らしげに述べている。

しかし、私には無意味な研究に思える。正に、「本末転倒」と言える。

変形性とは言え、炎症が関与していることは周知の常識である。「術後疼痛を発症しやすい患者を特定できる可能性があり、患者の疼痛管理を調整するのに役立つ」と述べているが役に立つはずはない。

何故ならば、あらゆる保存的治療を試みても痛みが軽減しなかった故にTKAを行ったのである。そのTKAによっても軽減されなかった20%の患者を術前に特定したところで、別の効果的手段があるはずも無い。万一、その様な方法があるのであれば、その効果はTKA以上であるはずであり、TKAなど必要は無いことになる。その様な方法がないからこそ、TKAは「最終段階の治療法」と位置づけられている訳で、あまりにも矛盾しているのである。

出典文献
Inflammatory biomarkers in patients with painful knee osteoarthritis: exploring the potential link to chronic postoperative pain after total knee arthroplasty—a secondary analysis
Giordano, Roccoa,b; Ghafouri, Bijarc; Arendt-Nielsen, Larsa,d,e,f; Petersen, Kristian Kjær-Staala,d,*
Author Information
PAIN 165(2):p 337-346, February 2024. | DOI: 10.1097/j.pain.0000000000003042