コクランレビューが示したマスク効果への疑問 [医学一般の話題]

コクランレビューによれば、地域社会におけるマスク着用は非着用と比較して、インフルエンザ様疾患(ILI)/新型コロナ様疾患の転帰に全く影響しなかった。

オックスフォード大学のTom Jefferson氏らは、急性呼吸器ウイルスの拡散を阻止または軽減するための身体的介入の有効性を評価することを目的に、論文データベース(CENTRAL、PubMed、Embaseほか)および2022年10月に登録された2試験から、後方引用と前方引用によるシステマティックレビューを行った。

論文の選択基準として、呼吸器系のウイルス感染を防ぐための物理的介入(入国時スクリーニング、隔離/検疫、物理的距離、個人保護具、手指衛生、マスク、眼鏡、うがい)を調査したランダム化比較試験(RCT)およびクラスターに関するRCTを検討した。

RCT の総数は 78 件、新規試験のうち 6 件は COVID-19 のパンデミック中に実施された。

医療用/サージカルマスクとマスクなしを比較した12件(うち10件はクラスターRCT、医療従事者による2件と地域での10件)によると、地域社会におけるマスク着用は非着用と比較して、インフルエンザ様疾患(ILI)/新型コロナ様疾患の転帰にほとんどあるいはまったく差がなかった。試験9件(27万6,917例)のリスク比[RR]は0.95(95%信頼区間[CI]:0.84~1.09、証拠の確実性:中程度)だった。

N95/P2人工呼吸器の使用は、医療用/外科用マスクと比較して検査室で確認されたインフルエンザ感染の客観的でより正確な結果にほとんどまたは全く影響を与えません(RR 1.10、95%CI 0.90から1.34; 5つの試験、8407人の参加者; 中程度の確実性の証拠)。

4カ国1,009 人の医療従事者を対象とした大規模な研究で、医療用/外科用マスクは N95 人工呼吸器に劣っていないことが観察された。

手指衛生に関する試験19件(うち9件の5万2,105例)によると、手指衛生の介入はコントロール(介入なし)と比較して、急性呼吸器感染症の患者数は相対的に14%減少した(RR:0.86、95%CI:0.81~0.90、証拠の確実性:中程度)。この大規模な研究は、メタ分析に含めるのに十分なデータがあった。

ガウンと手袋、フェイスシールド、入国時スクリーニングに関するRCTは見つからなかった。

但し、試験における偏りのリスクが高く、結果の測定値にばらつきがあり、研究時の介入群におけるアドヒアランスが比較的低いため、マスクの効果については不確実性が残っており確固たる結論を導き出すことはできない、と述べている。

出典文献
Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses.
Tom Jefferson, Liz Dooley, et al.
The Cochrane database of systematic reviews. 2023 Jan 30;1(1);CD006207. pii: CD006207.

早期乳癌における乳房温存手術後の放射線照射の省略は有害性に影響しない [医学一般の話題]

低リスクの早期乳癌患者における乳房温存手術後の放射線療法の省略は局所再発発生率の増加と関連していたが、遠隔再発や全生存率に有害な影響は認められなかった。

対象は、ホルモン受容体陽性、リンパ節陰性、T1またはT2原発性乳癌(最大寸法≤2cmの腫瘍)を有する65歳以上の女性。合計1326人の女性が登録され、乳房温存手術および補助内分泌療法で治療された。658人が乳房全体の照射(40〜50Gy)を受け、668人が照射を受けないようランダムに割り当てられた。

主要エンドポイントは局所乳癌再発。局所再発、乳癌特異的生存期間、最初のイベントとしての遠隔再発、および全生存期間を評価。

追跡期間中央値は9.1年で、10年以内の局所乳癌再発の累積発生率は、非放射線療法群で9.5%(95%信頼区間[CI]、6.8〜12.3)、放射線療法群で0.9%(95%CI、0.1〜1.7)で、非放射線療法群では10倍高くなった(ハザード比、10.4;95%CI、4.1〜26.1;P<0.001)。

非放射線治療群では局所再発は多かったが、10年間の遠隔再発発生率は非放射線治療群で1.6%(95%CI,0.4〜2.8)、放射線治療群で3.0%(95%CI,1.4〜4.5)と、非放射線治療群の方が低かった。

10年時点での全生存率は、非放射線治療群で80.8%(95%CI、77.2〜84.3)であったのに対し、放射線治療群では80.7%(95%CI、76.9〜84.3)と両群でほぼ同程度であった。局所再発の発生率および乳癌特異的生存率も両群間で有意差はなかった。

出典文献
Breast-Conserving Surgery with or without Irradiation in Early Breast Cancer
List of authors.
Ian H. Kunkler, Linda J. Williams, Wilma J.L. Jack, David A. Cameron, et al.
N Engl J Med 2023; 388:585-594 DOI: 10.1056/NEJMoa2207586

慢性疼痛に対する抗うつ薬の有効性は示されなかった [医学一般の話題]

慢性疼痛状態に対する抗うつ薬の有効性、安全性、および忍容性に関する研究26件(156 件の独自の試験と 25,000 人を超える参加者を含む)におけるシステマティックレビューの結果、有効性に関する確実性の高いエビデンスを示したものはなかった。

4種の疼痛において、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の有効性を示す確実性が「中」のエビデンスが確認された

研究グループは、病態別の疼痛に対する抗うつ薬の有効性、安全性、忍容性に関する包括的な概要を提示する目的で、系統的レビューのデータを統合して要約。

成人の疼痛について、抗うつ薬とプラシーボを比較した系統的レビューを対象として、PubMed、Embase、PsycINFO、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどのデータベースを基に(創設から2022年6月20日までに登録された文献)検索した。

主要アウトカムは疼痛。疼痛の連続アウトカムは、0(痛みなし)~100(最悪の痛み)の尺度に変換され、平均差(95%信頼区間[CI])を求めた。2値アウトカムはリスク比が提示され、副次アウトカムは安全性と忍容性(有害事象による投与中止)であった。

得られた結果を、「有効」「有効でない」「結論に至らない」に分類した。エビデンスの確実性は、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)によって、推奨評価、発達、およびフレームワークの等級付けで評価した。

9件のレビューで、11の比較において、9種の疼痛に対していくつかの抗うつ薬がプラセボと比較して「有効」とのエビデンスが示された。その多くはSNRIの有効性を示すもので、6件のレビューで7種の疼痛に有効であった。

このうち確実性が「中」のエビデンスが得られたのは、いずれもSNRIの有効性が示されたのは、背部痛(平均差:-5.3、95%CI:-7.3~-3.3)、術後疼痛(多くが整形外科手術)(-7.3、-12.9~-1.7)、神経障害性疼痛(-6.8、-8.7~-4.8)、線維筋痛症(リスク比:1.4、95%CI:1.3~1.6)であった。

安全性および忍容性のデータのほとんどは不明確だった。SNRIは、化学療法による疼痛、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症の患者において有害事象のリスクを増加させたが、術後疼痛や緊張型頭痛ではそのようなことはなかった。

また、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症、機能性ディスペプシア、神経障害性疼痛、線維筋痛症のレビューでは、SNRIはプラセボより忍容性が低かった。

このシステマティックレビューの目的は、抗うつ薬の有効性について、疼痛状態のタイプの不均一性を考慮して各状態の有効性推定値を個別に評価することであった。

著者は、「これらの知見は、痛みに対して抗うつ薬を処方する際には、より微妙なアプローチが必要であることを示唆している」と述べている。

慢性疼痛は一般的で衰弱性があり、世界で約 5 人に 1 人が罹患しているとされている(?)。最も一般的には、腰痛などの筋骨格疾患であり、頭痛、口腔顔面痛、および内臓痛 (例: 腹部、骨盤、または性器)などがある。2021年の、国立衛生研究所による慢性原発性疼痛ガイドラインでは、抗うつ薬を除き、鎮痛剤の使用を明示的に推奨していない。

慢性疼痛は治療が困難であり、たとえば、最も一般的な非オピオイド薬治療であるパラセタモール (アセトアミノフェン) の有効性は不明です。非ステロイド性抗炎症薬は、有効性に対して、長期間使用した場合には深刻な有害事象が発生するリスクが高い。

このレビューの結果を見ても、抗うつ薬に明確な効果が認められなかった事実から、慢性疼痛の原因にうつ傾向が関与するという考えは否定されるべきだ。慢性疼痛を訴えている患者の脳における変化を理由として、脳に原因を求める拙速な考えには疑問を持つ。脳が信号を受けて痛み感覚が生まれ、それが長引けば何らかの変化も起きるだろう。しかし、そのことを持って、脳に原因があるとするのは本末転倒である。私には、原因を突き止められない故のごまかしに見える。真摯に原因を追及すべきであると言いたい。 

出典文献
Efficacy, safety, and tolerability of antidepressants for pain in adults: overview of systematic reviews
Giovanni E Ferreira, Christina Abdel-Shaheed, Martin Underwood, et al.
BMJ 2023; 380 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-072415 (Published 01 February 2023)

健康な高齢者の高HDL- C レベルは骨折リスクを増加させる [善玉・悪玉概念の否定]

一般的に善玉コレステロールと言われている、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL- C)ですが、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが報告されています。

HDL-Cレベルの上昇は骨粗鬆症と関連しています。 前臨床研究では、HDL-C が骨芽細胞の数と機能を低下させることによって骨密度を低下させることが報告されています。但し、これらの調査結果の臨床的意義は不明です。

このコホート研究は、Aspirin in Reduceing Events in the Elderly (ASPREE) 臨床試験および ASPREE-Fracture サブスタディからのデータの事後分析。

ASPREEは、アスピリンの二重盲検無作為化プラシーボ対照一次予防試験。参加者は、2010 年から 2014年までに募集。参加者は、明らかな心血管疾患、認知症、身体障害、および生命を制限する慢性疾患のないコミュニティベースの高齢者(70歳以上のオーストラリア人16703人、65歳以上の米国参加者2411人)で構成。 ASPREE-Fracture サブスタディでは、オーストラリアの参加者から無作為化後に報告された骨折に関するデータを収集し、Cox 回帰分析によってハザード比 (HR)を計算。この研究のデータ分析は、2022 年 4 月から 8 月にかけて実施。

ベースラインで血漿 HDL-C 測定を行った 16262 人の参加者 (8945 人の女性参加者 [55%] および 7319 人の男性 [45%]) のうち、1659 人が4.0 年 (0.02 ~ 7.0 年) の中央値 (IQR) で少なくとも 1 回の骨折を経験。完全に調整されたモデルでは、HDL-C レベルが 1 SD 増加するごとに、骨折のリスクが 14% 増加(HR, 1.14; 95% CI, 1.08-1.20)。HDL-C レベルをカテゴリ別に分析すると、最も高い五分位の個人は骨折のリスクが 33% 増加。

これらの分析が性別で層別化された場合、結果は同様のままでした。 感度分析と層別分析は、(1) 最小限の外傷骨折、(2) 骨粗鬆症薬を非服用者、(3) 非喫煙者、非飲酒者を含むように分析した場合にもこれらの関連性が持続した。(4) 1 日 30 分未満外の歩行、中等度ないし激しい身体活動に参加していないと報告し、(5) スタチンの使用者では、HDL-C レベルと骨折の間に関連性は観察されなかった。

結論として、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが示唆された。

今回の調査結果は、高 HDL-C レベルに関する別の潜在的な懸念と、血漿 HDL-C レベルを大幅に上昇させる薬物による副作用の可能性を浮き彫りにしていると、著者らは記しています。


これらの所見の病態生理学的説明を決定するには、さらなる研究が必要ですが、最近のいくつかの研究でも、高レベルHDLコレステロールの有害性が報告されています(引用文献)。

HDL-Cが原因特異的心疾患(CVD)死亡率に及ぼす影響を調べた研究の結果、高レベルでは、冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と有意に関連しました。

研究は、40-89歳の43,407人の参加者を対象とする、9つの日本人コホートの分析。参加者をHDL-Cレベルで5群に分類。最高レベルをHDL-C≥2.33mmol/ L以上(≧ 90mg / dL)とし、コホート層別Cox比例ハザードモデルによって、全死因死亡および原因別死亡を1.04~1.55mmol/L(40~59mg/dL)の群と比較して、各群の調整ハザード比を推定。

アテローム性CVDによる死亡リスクのハザード比は2.37(hazard ratio = 2.37, 95% confidence interval: 1.37-4.09 for total)で、2.37倍。

12.1年の追跡期間中に、全死因死亡が4,995人、CVDによる死亡が1,280人確認されています。

Association of extremely high levels of high-density lipoprotein cholesterol with cardiovascular mortality in a pooled analysis of 9 cohort studies including 43,407 individuals: The EPOCH-JAPAN study.
Aya Hirata, Daisuke Sugiyama, Makoto Watanabe, Akiko Tamakoshi, et al.,
Journal of clinical lipidology. 2018 Feb 08; pii: S1933-2874(18)30034-5.

ホルモンの変化、特にエストラジオールの減少は、更年期移行(MT)中のHDLの質を潜在的に損なう可能性のある危険因子の蓄積に影響する。女性が閉経期に移行するにつれて、HDL-Cレベルの上昇は独立してより大きな頸動脈内膜厚(cIMT)進行と関連することが報告されており、期待される心臓保護効果を示さない可能性があります。

ncrease HDL-C Level over The Menopausal Transition is Associated with Greater Atherosclerotic Progression
Samar R. El Khoudary, Lin Wang, Ms,a Maria M. Brooks, Rebecca C. Thurston, et al.,
J Clin Lipidol. 2016 Jul-Aug; 10(4): 962–969.
Published online 2016 Apr 26. doi: 10.1016/j.jacl.2016.04.008

また、高HDL-Cレベルが、進行性腎機能障害を有するループス腎炎(Lupus nephritis、LN)患者において、末期腎疾患(ESRD)リスクの増加と関連していることも報告されています。同時に、低HDL-CレベルもLN患者の全死因死亡のリスク増加と関連しました。

Effect of low and high HDL-C levels on the prognosis of lupus nephritis patients: a prospective cohort study
Peiran Yin, Ying Zhou, Bin Li, Lingyao Hong, et al.,
Lipids Health Dis. 2017; 16: 232.
Published online 2017 Dec 6. doi: 10.1186/s12944-017-0622-3

この他にも、老年性痴呆症の人はHDLコレステロールが高く、乳癌のリスクも高い。

「悪玉・善玉コレステロール」という、単純な分類には意味がなく、認識を改める必要がある(尚、上記引用文献は当ブログで紹介)。

出典文献
Association of Plasma High-Density Lipoprotein Cholesterol Level With Risk of Fractures in Healthy Older Adults,
Sultana Monira Hussain et al,
JAMA Cardiology (2023). DOI: 10.1001/jamacardio.2022.5124

手術中の過剰な酸素投与は腎臓、心筋、および肺損傷発生率の増加に関連する [生体にとって酸素とは]

手術中の超生理学的酸素投与が術後の腎臓、心臓、および肺損傷の低下と関連するかを調べた外科患者の大規模で多様なコホートにおいて、酸素曝露の増加は腎臓、心臓、および肺の有害な転帰に関連していたと報告されている。

今でも、エビデンスも不明なまま過剰な酸素が投与されていることや、今頃、このような研究が行われているのかと呆れてしまうのだが、、、。さらに、この雑誌は、世界四大医学雑誌の1つである「BMJ ; イギリス医師会雑誌」なのだ。

さらに呆れるのは、手術中の酸素投与を導くには、臓器損傷と患者中心の結果に対する小さいながらも臨床的に有意な影響を検出するための大規模な臨床試験が必要だと述べている。

デザインは、Multicenter Perioperative Outcomes Group のデータ レジストリに参加している全米の 42 の医療センターにおける観察コホート研究。対象は、2016 年 1 月から 2018 年 11 月の間に全身麻酔および気管内挿管による 120分以上の外科的処置を受けて入院した成人患者535, 085人の適格な患者のうちの、除外基準適用後の350,647人(年齢中央値 59 歳 四分位範囲 46-69 歳)で、3839 人の麻酔科医で構成されていた。

介入は、超生理学的酸素投与。ヘモグロビン酸素飽和度が 92% を超えていた数分間の空気中の吸入酸素 (21%) の割合の曲線下面積として定義。主要エンドポイントは、Kidney Disease Improving Global Outcomes 基準を使用して定義された急性腎障害、手術後 72 時間以内に血清トロポニンが 0.04 ng/mL を超える心筋障害、国際分類の病院退院診断コードを使用して定義された肺障害。

手術は、350, 647 人の患者のうち 24, 602 人 (7.1%) で、術前血清ヘモグロビンおよびクレアチニン濃度の中央値は、それぞれ 13.2 g/dL (四分位範囲 11.8 ~ 14.3 g/dL) および 0.86 mg/dL (0.71 ~ 1.03 mg/dL) 。

糖尿病は 350, 647 例中 45, 614 例 (13.0%)、高血圧は 350, 647 例中 148,370 例 (42.3%)、慢性腎臓病は350, 647 例中 29, 645 例 (8.5%)、末期腎疾患は 350,647 例中 6,091 例の患者 (1.7%)。 手術は、350, 647 人の患者のうち 24,602 人 (7.1%) 。 コホートの術前血清ヘモグロビンおよびクレアチニン濃度の中央値は、それぞれ 13.2g/dL (四分位範囲 11.8 ~ 14.3 g/dL) および 0.86 mg/dL (0.71 ~ 1.03 mg/dL) 。 手術時間の中央値は 205 分 (四分位範囲 158 ~ 279 分) で、350, 647 人の患者のうち 148, 388 人 (47.4%; 表 1) で少なくとも 1 回の低血圧のエピソードが認められた。

AKI は 297, 554 例中 19, 207 例 (6.5%)、320, 527 例中 8972 例 (2.8%)、肺損傷は 312 ,161 例中 13,789 例 (4.4%)、脳卒中は312,161 例中 3,298 例 (1.1%) で確認。

309,929 人の患者のうち 2,468 人 (0.8%) が手術後 30 日以内に死亡。 AKI、心筋損傷、肺損傷はそれぞれ、入院期間の延長と30日死亡率の増加に関連。

超生理学的酸素投与は、共変量として含まれるすべての要因とは無関係に術後 AKI発症と関連していた。AUCFIO2 の 75th centile の患者は、25th centileの患者よりも AKI のオッズが 26% 高かった (odds ratio 1.26, 95% confidence interval 1.22 to 1.30; fig 2, upper panel; P<0.001)。

超生理学的酸素投与は、肺損傷と関連していた。 AUCFIO2 の 75th centile の患者は、25th centileの患者よりも肺損傷のオッズが14% 高かった(odds ratio 1.14, 1.12 to 1.16; fig 2, lower panel; P<0.001)。

全身麻酔を受けている患者の 80% 以上がエビデンスも無いまま、正常な血中酸素レベルを維持するのに必要な量を超える酸素投与に曝されていると推定されている。術中における吸気酸素の割合 (FIO2) に関するベストプラクティス戦略が不明のままに。

手術中の低酸素血症の結果と高酸素血症の推定安全性により、酸素補給の投与が麻酔の基本的な構成要素となり、FIO2を高めることで手術中の患者に利点をもたらすと考えられてきた。その利点として、周術期の動脈および組織の酸素圧を高めることによる虚血性組織損傷の減少、手術部位感染のリスク低下、および吻合部位の治癒の改善などが含まれている。

しかし、これらの利点は酸素不足の状態に限られる。医師は、生物学の基本的な知識を忘れているのだろうか。

このような考えには、生体内部における酸素は「有毒物質」であるという認識が欠如している。我々は、呼吸によって酸素を取り込んで生きている「好気的生物」であるため、酸素が有毒物質と言われても信じがたいと思われる。古代の地球上には酸素は存在しておらず、嫌気的生物が繁栄していた。やがて、光合成植物の出現によって大気中に酸素が出現し数億年かけて増加した。嫌気的生物にとって、大気汚染物質である酸素の増加は正に危機的状態であった。しかし、生物はこの状況を逆手にとって、有害な酸素を除去すると同時にこれを利用して効率的にATPを作り出すシステムを作り出した。その方法はミトコンドリアとの共生であった。

しかし、体の内部の細胞は好気的になる以前の嫌気的なままであるため、酸素は猛毒であり、存在して良い部位と濃度は厳格に制御されている。酸素は、主にミトコンドリアに運ばれて内的呼吸の化学反応に使われる。酸素は、生物にとって「生きるための電池」と言えるATPを合成する化学反応の最終段階において、電子を受け取って処分する役目を担っている。

しかし、この酸素が生体内組織にとっては有害である事実は何も変わっていないことを認識すべきなのだ。過剰に投与すれば生体組織を損傷することは自明の理であろう。

医療の現場では、過剰な酸素療法の有害性が認識されず、ICUなどにおいても患者はhyperoxemic状態に長時間曝されている。
このブログの「酸素療法の妄想 [生体にとって酸素とは;2016-10-08 13:47 ]」に紹介。

出典文献
Oxygen administration during surgery and postoperative organ injury: observational cohort study
David R McIlroy, Matthew S Shotwell, Marcos G Lopez, Michelle T Vaughn, et al.
BMJ 2022; 379 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-070941 (Published 30 November 2022)
Cite this as: BMJ 2022;379:e070941