中性脂肪が高い高齢者ほど認知症リスクが低い [医学一般の話題]

中性脂肪レベルが高い高齢者ほど、アルツハイマー病のリスクが低いことが示唆されています。この研究では地域在住の高齢者を対象として、中性脂肪と認知症との関連を調査。

調査は、前向き縦断研究で、登録時に認知症や以前の心血管イベントのない65歳以上の成人を対象としたASPREEランダム化試験のデータを使用。

主要アウトカムは認知症の発症。その他には、複合的認知および領域固有の認知(全体的な認知、記憶、言語および実行機能、精神運動速度)の変化が含まれていた。 ベースラインの中性脂肪と認知症リスクとの関連性は、関連する危険因子を調整した Cox 比例ハザード モデルを使用して推定し、線形混合モデルを使用して認知変化を調査。

分析は、APOE-ε4 キャリア状態をさらに調整した利用可能な APOE-ε4 遺伝データを持つ参加者のサブコホートと、同様の選択基準が適用された外部コホート (UK Biobank)で繰り返された。

この研究の対象は、18,294人のASPREE参加者と68,200人のイギリスバイオバンク参加者が含まれた(平均年齢:75.1歳と女性66.9歳:56.3%と52.7%、 [IQR]トリグリセリド中央値:106[80-142]mg/dlと139[101- 193]mg/dl)。

追跡期間中央値6.4年と12.5年で、それぞれ823人および2,778人が認知症を発症。 ASPREEコホート全体において、トリグリセリド値が高いほど認知症リスクが低いことが示された(HR with doubling of TG: 0.82, 95% CI 0.72-0.94).。

所見は、APOE-ε4 遺伝データを持つ参加者のサブコホート (n=13,976) と UK Biobank コホートでも同様(HR was 0.82 and 0.83, respectively, all p≤0.01)。トリグリセリドが高いほど、時間の経過に伴う全体的、複合的な認知、および記憶の低下が遅いことにも関連(p≤0.05)。

より高いトリグリセリドレベルは認知症の発症を防ぐ、全体的な健康状態およびライフスタイル行動の改善を反映している可能性があります。 今後の研究では、血漿トリグリセリドの全循環プール内の特定の成分が認知機能の向上を促進する可能性があるかどうかを調査することで、新しい予防戦略の開発に繋がることが期待されます。

出典文献
Association Between Triglycerides and Risk of Dementia in Community-Dwelling Older Adults: A Prospective Cohort Study.
Zhen Zhou, Joanne Ryan, Andrew M Tonkin, Sophia Zoungas, Lacaze, et al.
Neurology,
First published October 25, 2023, DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000207923

VCは新型コロナウイルス感染症に効果なくむしろ悪化させる [薬とサプリメントの問題]

大規模で調和のとれた多国籍ランダム化臨床試験の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者にVitamin C (ビタミンC:VC, 正しくは、バイタミンC)を投与しても、臓器サポートなしの日数や入院生存率は改善しなかった。 それどころか、VCが重症患者と重症でない患者の両方の転帰を悪化させる高い事後確率(臓器サポートなしの日数で90%以上、病院生存で75%以上)が示された。これらの効果は、事前定義されたサブグループ全体および感度分析において一貫していた。

本研究は、COVID-19の入院患者に対し、VCの投与が患者の転帰を改善するかを判断するために実施された。

2 つの前向きに調和されたランダム化臨床試験では、2020 年 7 月 23 日から 2022 年 7 月 15 日までに、集中治療室で臓器サポートを受けている重症患者 (90 施設) と重症ではない患者 (40 施設) が登録された。

患者は、96 時間にわたって 6 時間ごとにV C を静脈内投与する群と対照群(プラシーボまたはV C なし)に無作為に割り付けられた(最大 16 回の投与)。

主要アウトカムと尺度は、21日目までの集中治療室で生存し、呼吸器および心血管器官のサポートを受けていない日数として定義される臓器サポートなしの日数と、退院までの生存を組み合わせたもの。

この試験では、重症患者1,568名(VCC群1,037名、対照群531名、年齢中央値60歳[IQR、50~70歳]、35.9%が女性)とそうでない患者1,022名に関する主要転帰データが得られた。重症者(VC群456人、対照群566人、年齢中央値62歳[IQR、51~72歳]、39.6%が女性)。

重症患者の場合、臓器サポートが不要な日数の中央値は、VC群では7日(IQR:−1〜17日)であったのに対し、対照群では10日(IQR、−1〜17日)(調整済み比例OR:0.88 [95% 信頼区間 {CrI}、0.73 ~ 1.06])。有効性の事後確率は 8.6%、有害性は91.4% 、無益99.9%。
重篤な病気ではなかった患者の場合、臓器サポートが不要な日数の中央値は、VC群では22日(IQR、18~22日)であったのに対し、対照群では22日(IQR、21~22日)(調整比例OR)、0.80 [95% CrI、0.60 ~ 1.01])。有効性の事後確率は 2.9%、有害性は97.1% 、無益性は99.9% 以上。

重症患者のうち、退院までの生存率はVC群で61.9%(642/1037人)、対照群で64.6%(343/531人)(調整後OR、0.92 [95% CrI、0.73~1.17])、有効性の事後確率は 17.8% 。

重症ではなかった患者の場合、退院までの生存率はVC群で85.1%(388/456)だったのに対し、対照群では86.6%(490/566)(調整後OR、0.86 [95% CrI、0.61~1.17])、有効性の事後確率は 17.8% 。

2020年から2022年までに実施されたこの試験の募集は、REMAP-CAP試験の無益さと有害性の統計的トリガーに達したため、2022年7月に停止された。

COVID-19のパンデミックの当初、WHOは軽率にもVCの使用を強調しました。潜在的な免疫調節剤として、VCはCOVID-19の特徴である酸化ストレスと微小血管血栓症を軽減するため、死亡率を低下できる可能性があると考えられました。

2017年の単一施設研究では、V C、ヒドロコルチゾン、チアミンの投与により敗血症による死亡率が大幅に減少したことが示されましたが、最終的には敗血症患者にVC を投与しても何の効果もないことが示されました。 しかし、これらの試験の結果が広く知られる前のパンデミックが始まった頃に、COVID-19患者の血中VCが低かったことから、治療法としてのVCへの関心が高まったのですが、今回の研究の結果は期待を覆すものでした。

出典文献
Intravenous Vitamin C for Patients Hospitalized With COVID-19
Two Harmonized Randomized Clinical Trials
The LOVIT-COVID Investigators, on behalf of the Canadian Critical Care Trials Group, and the REMAP-CAP Investigators
JAMA. Published online October 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.21407

医療従事者の燃え尽き症候群やメンタルヘルス不良が増加とCDCが発表 [医療クライシス]

医療従事者は、2018年から2022年にかけてメンタルヘルス不良の日が増加し、燃え尽き症候群の感情が高まったと報告されています。これらの問題は、経営陣を信頼し、上司の支援を受けていた人々の間ではそれほど一般的ではなかったことが、CDCの調査で判明しました。

医療従事者は他の人をケアしますが、今苦しんでいるのは医療従事者自身であり、私たちは行動を起こさなければなりません、と、CDCの首席医療責任者であるデボラ・ホーリー医師、MPHは記者団との電話で述べました。

一般社会調査「ワークライフの質」モジュールのデータを基に、2018年(医療従事者226人を含む回答者1,443人)と2022年(医療従事者325人を含む回答者1,952人)のアメリカ成人労働者の自己申告によるメンタルヘルス症状を比較。 医療従事者が報告した労働条件に対する認識と、不安、うつ病、燃え尽き症候群との関連性についてロジスティック回帰分析によって評価。

2018年から2022年にかけて、医療従事者は過去30日間にメンタルヘルス不良が1.2日増加したと報告(3.3日から4.5日へ)。 燃え尽き症候群を頻繁に感じると報告した割合 が11.6% から 19.0%に増加。 2022 年、医療従事者は、経営陣への信頼 (オッズ比 [OR] = 0.40)、監督者の助けがある(OR = 0.26)、仕事を完了するのに十分な時間がある (OR = 0.33)場合、燃え尽き症候群になる確率が減少。職場での嫌がらせは、不安(OR = 5.01)、うつ病(OR = 3.38)、燃え尽き症候群(OR = 5.83)の確率増加と関連。

アメリカの医療従事者の間では、2019年から2020年の間に業務関連の傷害や疾病の発生率が 249% 増加しました。パンデミックにより、スタッフ不足、患者の多忙、物資不足、疲労、悲しみにより、既存のリスクと仕事量の増大、さらに、患者や同僚などからのハラスメントによって健康状態が悪化しました。

一方、前向きな労働条件は、燃え尽き症候群の減少とメンタルヘルスの改善に関連していました。 CDC の国立労働安全衛生研究所は、医療従事者の雇用主に医療従事者のメンタルヘルスを改善するためのリソースを提供する全国キャンペーン「Impact Wellbeing」を展開しました。

2022 年には、報告されている医療従事者によるハラスメントの蔓延は 2 倍以上に増加し、別の仕事を探す意向がほぼ50%増加しました。 否定的な労働条件は、抑うつ症状の有病率の高さ、健康状態悪化の自己評価、および離職意向と関連しています。 したがって、アメリカ公衆衛生協会と国際労働機関は、公衆衛生としてディーセント・ワーク(安全と社会的保護、公正な収入、成長、発展、生産性の機会を提供する仕事など) を推進しています。

この報告書は、医療従事者の精神的健康状態の悪化の一因となった修正可能な労働条件を特定し、雇用主に対する予防措置を提案しています。これまでの研究で、組織の側面を変える仕事上のストレス介入(例えば、管理者の社会的サポートの増加)は、二次的介入(例えば、ストレス要因のスクリーニング)や三次的介入(例えば、個人のストレス管理)よりも効果的であることが判明しているとのこと。管理者の介入に関する最近のレビューでは、メンタルヘルスの意識と、労働者をサポートし安全文化を改善する方法について管理者をトレーニングすることで、労働者のストレスを軽減し、幸福度を向上させることが期待できると示唆されています

因みに、回答者が自分の労働条件をどのように認識しているかを評価するために、次の質問をしました。

経営陣を信頼しているか
職場でハラスメントを受けたか
仕事を完了するのに十分な時間があったか
労働条件が生産性を支えているか
上司が役に立ったか

新型コロナ感染によるパンデミックの際には、医療従事者の負担は相当なものであったと推察されます。しかし、医師であれば、自身のメンタル面のコントロールは一般の人よりもできて当然にも思われます。少々酷な意見かも知れませんが、信頼できる経営陣と上司の支援があれば、燃え尽き症候群の減少とメンタルヘルスが改善するというのは、医師としては情けない様に思うのですが。

因みに、アメリカとは対照的に、パンデミック初期の2020年初頭にノルウェーで行われた人口ベースの横断研究では、医療従事者の不安やうつ病のレベルが他の従事者に比べて低いことが報告されています。

もう20年ほど前になりますが、私が今でも覚えていることは近くにある棒医大の入学試験での光景です。何と、両親がつきそって試験を受けに来ていました。さらに、両親はそのまま外で昼まで待って一緒に昼食を食べていたのです。無論、帰りも親子仲良く一緒です。この様に自立できていない稚拙な人間が6年後には「先生」と呼ばれ、看護師を従えて医療に従事するのかと思うと情けなくなりましたが、この文献の報告にも通じるものを感じます。

出典文献
Morbidity and Mortality Weekly Report
Health worker-perceived working conditions and symptoms of poor mental health -- Quality of Worklife Survey, United States,
Jeannie A. S. Nigam, R. Michael Barker, Thomas R. Cunningham, et al.
2018–2022" MMWR 2023; DOI: 10.15585/mmwr.mm7244e1.

石灰性腱板障害へのコルチコステロイド注射による洗浄に効果は無かった [医学一般の話題]

肩の石灰性腱板障害患者において、コルチコステロイド注射による超音波ガイド下洗浄やコルチコステロイド注射による偽洗浄は、偽治療と比較して利点が認められなかった。

この研究の主な発見は、4ヶ月および24ヶ月の追跡調査の結果、石灰性腱板障害の治療において、洗浄+ステロイドも偽洗浄+ステロイドも偽治療よりも優れていなかったということである。 積極的な治療による利益が得られず、さらに、追跡調査期間 4 ~ 24 か月の間に補足治療を必要とした患者が多数いることによって裏付けられた。

この研究の結果は既存の文献とは対照的であり、石灰性腱板障害の治療手段としての超音波ガイド下洗浄の効果に疑問を投げかけた。

ここ数年、ステロイド注射と併用した超音波ガイド下洗浄の人気が高まり、多くの整形外科医、放射線科医、理学療法士にとって好まれる方法となっている。この治療は、周囲の炎症と沈着物自体の両方を対象とする外来での処置であるという利点がある。いくつかのコホート研究では、この技術による良好な結果が報告されているが、適切な対照群を用いた研究は不足している。偽群または無治療群と比較せず、プラシーボ効果は不明で、報告された改善が治療自体によるものであるか、疾患の自然経過によるものであるか不明。、

本研究は、石灰性腱障害患者に対するステロイド注射による超音波ガイド下洗浄の真の効果を評価するために計画された。

研究の対象者は、少なくとも3か月間持続する肩の石灰性腱板障害を持つ成人220名。

介入は、超音波ガイド下沈着物洗浄とトリアムシノロンアセトニド20mg および 1% リドカイン塩酸塩 9 mL の肩峰下注射 (洗浄 + ステロイド)。 偽洗浄と20 mgのトリアムシノロンアセトニドおよび9mLの1%リドカイン塩酸塩の肩峰下注射(偽洗浄+ステロイド)。 または、偽洗浄と10 mL の1% リドカイン塩酸塩の肩峰下注射 (偽)。 すべての患者は、4つの自宅エクササイズからなる理学療法を受けた。

主要なアウトカムは、4か月の追跡調査における、オックスフォード ショルダー スコア (OSS) の 48 ポイント スケール (0=最悪、48=最高)の結果。 二次アウトカムには、腕、肩、手の障害に関する質問票(QuickDASH)と、最大 24 か月までの痛みの強度の測定値、およびベースラインにおける堆積物のサイズと、持続または消失の影響。

218 人 (99%) の参加者からのデータが一次分析に含まれ、4 か月後の OSS に関するグループ間に差は認められなかった。洗浄 + ステロイド vs 偽 0.2 (95% confidence interval −2.3 to 2.8; P = 1.0)。 偽洗浄+ステロイド対偽2.0 (−0.5 to 4.6; P = 0.35)。洗浄+ステロイド 対 偽洗浄+ステロイド−1.8 (−4.3 to 0.7; P = 0.47)。 4カ月後、治療効果が不十分だった143人の患者が追加治療を受けた。 24 か月の時点で、どの研究手順も偽より優れたものはなかった。尚、重篤な有害事象は報告されなかった。

石灰性腱板障害は、肩の激しい痛みを伴う疾患であり、腱板部分におけるカルシウムヒドロキシアパタイト結晶の沈着を特徴としている。 無症候性肩では最大 7.8%、症候性肩では最大 42.5% の有病率が報告されている。現在の理論によれば、痛みは沈着物周囲の腱の炎症、腱内圧の上昇、または、肩峰下沈着物の衝突が考えられているが、正確な原因は不明。 過剰使用、局所虚血、腱細胞化生、幹細胞の誤分化、遺伝的素因など、さまざまな理論が提案されている。

疾患の経過は周期的であり、このサイクルは長さと症状の強さが異なる4つの段階 (形成期、休止期、吸収期、修復期)で構成されている。多くの場合、数か月後に沈着物が自然吸収され、痛みが軽減する。しかし、個々の経過は予測不可能であり、経過が遅れることも珍しくない。症状が現れる期間が限られていることが多いことを考慮すると、主な治療アプローチは、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、鎮痛薬、および理学療法を主として手術は行わないことが推奨される。

3 つの研究グループの全てにおいて見られた、4 か月時点の主要アウトカムスコアの統計的に有意な改善は、症状の自然経過、平均値への回帰、および医師と患者の関係を含むプラシーボ効果によって説明される可能性が最も高い。偽を超える治療効果は、2週間後と6週間後の早期追跡調査でのみ発生し、ステロイド投与を受けた両グループで認められた。研究者らは、この初期の効果は沈着物の洗浄によってではなく、コルチコステロイド注射によって引き起こされたものと推測している。4 か月後と最長 24 か月の追跡調査までに、両群でさらなる改善が見られ、治療スイッチャーを使用して分析した場合も、治療を続けた患者について個別に分析した場合も、偽治療による改善を超えることはなかった。

この研究から、症状の自然な経過がより重要な役割を果たした可能性があることを整形外科医は真摯に受け止めるべきである。

出典文献
Ultrasound guided lavage with corticosteroid injection versus sham lavage with and without corticosteroid injection for calcific tendinopathy of shoulder: randomised double blinded multi-arm study
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-076447 (Published 11 October 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:e076447
Stefan Moosmayer, Ole Marius Ekeberg, Hanna Björnsson Hallgren, Ingar Heier, et al.

1つのスポーツに特化した子供たちは怪我や燃え尽き症候群のリスクが高い [医学一般の話題]

全米アスレティックトレーナーズ協会(NATA)が主催したディスカッションで、専門家のパネリストらは、幼い頃から1つのスポーツに特化すると、怪我や燃え尽き症候群など、子どもの健康に長期にわたる悪影響をもたらす可能性があると述べました。

早期から専門化をせず、幼少期に複数のスポーツをプレイすることは、ほとんどのスポーツにおいて成績の向上と怪我のリスクの低下につながることが研究で示されています。これは昔から言われていたことです。その昔、東ドイツやソ連では、幼少期には運動神経の向上を目的とする遊びを中心とした複合的な運動をさせていました。幼少期から特定の種目に特化することはせず、筋力強化を目的とする訓練もしませんでした。

子供たちが特定のスポーツのスキルを身につける前に総合的な運動能力の基礎を構築することが重要で、その結果、様々なスポーツのスキルをより簡単に習得できるようになります。さらに、筋や骨への負担をかけないことで、未だ完成前の関節(関節の骨が完成するのは15歳)を保護して傷害のない健全な成長が得られます。

特に、小学生に勝利を目的とする試合をさせることは危険な行為であり、子供の将来を潰す可能性があります。例えば、サッカーにおけるシュートは脊椎分離症を引き起こすため、小学生にさせるべきではありません。

子供たちを危険なスポーツから守ることを目的とした参加制限に関する具体的な推奨事項が医療従事者の間で認識されていないため、これらの基準を維持することが困難になる可能性があると指摘されています。全米小児看護実践者協会を含むいくつかの専門組織のメンバーを調査したところ、子どもがスポーツに参加するための年間最大月数の推奨事項を知っていた看護師はわずか17.9%だったとのことです。

引用文献
Kids Specializing in One Sport More at Risk for Injury and Burnout, Experts Say
— Expert panelists want to increase awareness among healthcare providers
by Michael DePeau-Wilson, Enterprise & Investigative Writer, MedPage Today October 20, 2023

Social Mediaは子供の脳に深刻な悪影響を与える [医学一般の話題]

Social Mediaを頻繁にチェックする子供たちは、仲間からのフィードバックに過敏になり、ポジティブな電子的強化を渇望して画面に映る不承認を恐れ、喜びから恐怖に揺れ動いて病的な心理状態に陥る可能性がある。

機能的MRIの結果、Social Mediaを常習的に利用する人々は、Snapchatなどのプラットフォームにあまり注意を払わない人々と比べて脳活動が大きく異なることが示された。観察された違いは、扁桃体(感情を調節する大脳辺縁系の一部)、背外側前頭前皮質(注意の集中や意思決定などの実行機能に関連)、島皮質(感覚処理、自己認識、 社会的行動の感情的誘導)、および腹側線条体(脳の報酬系の一部)など、広範囲に及んでいた。

TikTokは、10代の脳にとって最も懸念される犯罪者かもしれない。 TikTokは、特定の感受性の高い十代の若者における心因性の疑似トゥレット症候群の一因となる可能性さえある。 トゥレット症候群は、不随意の異常な動き (運動チック) と不随意の言葉の爆発を特徴とする神経障害。

2021年、いくつかの名門小児病院の医師らは、精神的に脆弱な10代の少女の間でトゥレット病の感染が蔓延していることを確認した。 医師らは当初当惑していたが、調査の結果、ミュンヒハウゼン型の関連性が明らかになった。罹患した十代の若者のトゥレット病とTikTokの一気見(特にハッシュタグ#Tourettesが付いた動画で、数十億回視聴された)との間に高い関連性が見られた。

十代の若者たちがインスタグラムのフィードを見ると、脳内の報酬システムが活性化したと報告された。電子機器は、渇望や欲望に関係する脳内化学物質であるドーパミンの放出を刺激する可能性があります。 それは、砂糖ハイのような状態。また、夜間に電子メディアを使用する十代の若者は睡眠障害やうつ病の症状のリスクが高いと報告されている。

Facebookに依存している28人の若者(平均年齢20歳)の研究では、Social Mediaの使用に関して衝動的で自制心ができないとされ、MRI検査では、感情と記憶の形成に関与する領域である扁桃体の灰白質量の減少(萎縮)が明らかなった。

スマートフォン中毒は島皮質(心理的葛藤の際に活動する領域)と下側頭葉皮質(パターン、顔、物体の認識に関与する領域)の脳萎縮と関連していることが確認された。スマートフォン中毒は、共感、衝動制御、感情、意思決定に関連する領域である前帯状皮質の萎縮と脳活動の低下の両方と相関していた。

週に20時間以上ビデオゲームをプレイした十代の子供たちの脳のMRIスキャンによれば、薬物やアルコール中毒の人々の脳スキャンと類似していた。研究者たちは、過剰なスクリーン時間によって引き起こされる脳の変化は解剖学的なものであり、単なる心理的なものではなく、細胞レベルで起こっていると結論付けている。

動物実験は、特に新しい内容を学習する能力を損なうという点で、10代の脳が電子中毒の有害な影響を特に受けやすいという証拠を裏付けており、ペースの速い媒体に曝露された青年マウスは、曝露されていない若いマウスに比べて迷路の移動方法を学習するのに3倍の時間を要した。

良いニュースとしては、損傷が永続的ではない可能性があるということで、スクリーンタイムを減らすとこれらの症状の一部が軽減される場合もあうとのこと。ペンシルベニア大学の研究者らは、大学生の電子中毒によって引き起こされる心理的変化を調査したところ、わずか 3 週間、画面を見る時間を1日あたり30 分未満に制限した学生は孤独感や憂うつ感が少なくなったと報告されている。

追伸
「Social Media」をカタカナ表記しなかったのは、日本人のほとんどが「メディア」と言っていますが、これは間違いで、カタカナで書けば「ミーディア」だからです。しかし、その様に記しても意味が伝わるかどうかいつも迷っているため、英字表記にしました。

出典文献
I'm a Neurosurgeon. Social Media May Change Your Kid's Brain.
— TikTok and Instagram are among the worst
by Marc Arginteanu, MD October 21, 2023

FDAは老眼用の塩酸ピロカルピン点眼液を承認 [薬とサプリメントの問題]

FDAは、老眼の成人向け点眼液である塩酸ピロカルピン(Qlosi)を承認しました。この承認により、必要に応じて、1 日 2 回までの使用が許可されます。 オラシス関係者は、この治療法が2024年前半に利用可能になると予想しています(アメリカの話ですが)。

Qlosiの承認は、600人以上の患者を対象とした第III相プラシーボ対照NEAR-1およびNEAR-2の臨床試験によるもの。この試験では、遠方視力が 1ライン以上低下することなく、遠方矯正近用視力が少なくとも 3ライン向上するという主要評価項目を達成しました。会社は、Qlosiは臨床試験で有効性、安全性、忍容性の最適なバランスを実証したと述べています。

最も一般的な治療関連有害事象(TRAE)は、頭痛(6.8%)と点滴注入部位の痛み(5.8%)でした。積極的治療にランダムに割り付けられた患者のうち、1.3%が中等度のTRAEを報告し、他のすべての有害事象は軽度でした。

老視患者はそれぞれ異なる視覚的要求を持っており、日常生活機能に影響を受けます。ミネアポリスにあるミネソタ・アイ・コンサルタントのリチャード・リンドストローム医師は、これらの患者集団に対して、新たな治療カテゴリーが出現することはエキサイティングであり、これにより眼科専門家は老眼の過程を通じてより多くの選択肢を得ることができると述べています。

長期的な効果は未だ不明ですが、老眼鏡やコンタクトレンズからの解放を求めている患者さんにとって、別の新しい治療法が提供されることになります。

出典文献
Eye Drops for Presbyopia Win FDA Approval
— Pilocarpine hydrochloride solution improved distance-corrected vision in two phase III trials
by Charles Bankhead, Senior Editor, MedPage Today October 18, 2023

関節形成術における感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加は無効 [医学一般の話題]

関節形成術において、手術部位の感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加はプラシ-ボより優れておらず、膝の手術では手術部位の感染が増加した。

研究デザインは、多施設二重盲検優越性プラシーボ対照試験。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の定着が確認されていない成人患者を対象として、セファゾリンにバンコマイシン1.5gを加えた群または生理食塩水を加えたプラシーボ群に無作為に割り付けて調査。主要アウトカムは、手術後90日以内の手術部位の感染。

合計4,239人の患者から4,113人を対象として、“the modified intention-to-treat population:治療意図分析”によって解析。その内訳は、膝関節形成術 2,233 人、股関節形成術1,850 人、肩関節形成術30 人。バンコマイシン群の患者 2,044 人中 91 人(4.5%)が手術部位感染を発症し、プラシーボ群では2,069人中72人(3.5%)。プラシーボ群に対する相対リスクは1.28(relative risk, 1.28; 95% confidence interval [CI], 0.94 to 1.73; P = 0.11)で、有意差は無し。

膝関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で1,109人中63人(5.7%)、プラシーボ群では1,124人中42人(3.7%)で、相対リスクは 1.52(relative risk, 1.52; 95% CI, 1.04 to 2.23)(p値は不明)。

股関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で 920 人中 28 人 (3.0%)、プラシーボ群では930 人中29人(3.1%)で、相対リスクは0.98 (relative risk, 0.98; 95% CI, 0.59 to 1.63)(p値は不明)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生し、2010人中24人(1.2%)と2030人中11人(0.5%)で過敏反応が発生。 それぞれ、2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)で急性腎障害が発生(相対リスク、2.20; 95% CI、1.08~4.49)(相対リスク、0.57; 95 % CI、0.39 ~ 0.83)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生。同様に、2010人中24人(1.2%)と、2030人中11人(0.5%)が過敏反応(relative risk, 2.20; 95% CI, 1.08 to 4.49)。2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)が急性腎障害を発症(relative risk, 0.57; 95% CI, 0.39 to 0.83).

セファゾリンによるベータラクタム予防薬にバンコマイシンを追加しても、主に膝や股関節の関節形成術を受ける患者の手術部位の感染予防には役立たないことが示された。

より多くの抗生物質を投与すれば、より感染症を防ぐことができると考えるのは一見論理的と考えがちです。しかし、手術時に皮膚にMRSAが存在していなかった場合、全員にバンコマイシンを投与する意味が無いことが明確となりました。セファゾリンは感染症を予防するものであり、バンコマイシンを使用しても追加の利点はありません。

膝と股関節の手術はどちらもアメリカでは一般的であり、術後の高い感染症罹患率と死亡の原因となっています。現在の抗生物質ガイドラインでは、手術時にセファゾリンなどの第1世代または第2世代のセファロスポリン系抗菌剤を推奨しています。 しかし、この抗生物質はMRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌感染症の症例を予防できない可能性があるため、バンコマイシンのような糖ペプチド抗菌剤を追加することでより広範囲の予防を提供できると考えられていますが、このアプローチの利点はまだ明確とはなっていません。

補足:
“intention-to-treat;治療意図分析”とは、前向き無作為化研究の結果を分析する方法であり、無作為化された全ての参加者が統計分析に含まれ、実際に受けた治療に関係なく、最初に割り当てられたグループに従って分析される。この方法により、介入の有効性に関して公平な結論を引き出すことができると言われている。

尚、この研究はオーストラリア国民健康医学研究評議会によって資金提供されています。オーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録番号 ACTRN12618000642280。

出典文献
Trial of Vancomycin and Cefazolin as Surgical Prophylaxis in Arthroplasty
List of authors.
Trisha N. Peel, Sarah Astbury, Sarah Astbury, B.Nurs., Allen C. Cheng, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1488-1498
DOI: 10.1056/NEJMoa2301401

周産期心筋症に関する20年間の集団研究 [医学一般の話題]

1998年から2017年までに、スコットランドで検証された周産期心筋症(PPCM)を対象とした遡及的観察的集団レベル研究の結果、発生率は 4,950件の出産に1件でした。 PPCM を患う 225 人の女性のうち、肥満、妊娠高血圧症候群、多胎妊娠がこの症状の発症と関連していることが判明しました。

PPCMを患う女性の8%が死亡し、75%が何らかの原因で少なくとも1回は再入院した。PPCM 患者の女性の死亡率約 12 倍、再入院率は約3倍でした。 全死因死、機械的循環補助、または心臓移植の複合が14%で発生。LVの回復は 76%で、回復した人の13%は初期回復にもかかわらず LV 収縮機能の低下を続けました。 PPCM を持つ女性から生まれた子供の死亡率は、対照から生まれた子供の死亡率の約 5 倍であり、中央値 8.8 年間で心血管疾患の発生率は約3 倍でした。

母子ともに、見かけの回復だけではなく、長期的な追跡調査を考慮する必要があるようです。

「難病情報センター」によれば。

1. 概要
周産期心筋症とは、心疾患の既往のなかった女性が、妊娠・産褥期に心不全を発症し、拡張型心筋症に類似した病態を示す特異な心筋症であり、WHOの心筋症の定義と分類では、二次性心筋症に分類されている。最重症例は致死的であり、欧米では妊産褥婦間接死亡原因の上位にある疾患と認識されている。

2. 疫学
新規発症例約50症例/年、慢性化症例を含めるとおそらく500~1,000人

3. 原因
未だ原因不明である。病態が拡張型心筋症に類似していることから、診断基準の項で述べたように、妊娠・出産の心負荷により潜在して いた拡張型心筋症が顕在化したものや心筋炎であるという説もあるが、アメリカNIHのwork shop groupにおいても、特発性拡張型心筋症や心筋炎の発症率よりも高率で妊産褥婦に発症することから、妊娠自体が発症に関与している別な病態と結論付けら れている。2007年に、異型プロラクチンが発症に関与しているとの報告が出され、注目されている。

4. 症状
発症時は急性心不全症状(呼吸困難、咳、浮腫、全身倦怠感、動悸、ショック、意識障害など)を呈する。急性期治療後、約半数は、心 機能が回復して無症状となる。残りの半数においては心機能低下が残存して、その心機能の低下度に応じた慢性心不全症状(労作時息切れ、浮腫、動悸など)の 訴えを認める。

出典文献
A 20-year population study of peripartum cardiomyopathy
Alice M Jackson, Mark Macartney, Katriona Brooksbank, Carolyn Brown, et al.
European Heart Journal, ehad626, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehad626

心房細動を伴う末期心不全に対するキャスターアブレーションの効果 [医学一般の話題]

心房細動と末期心不全の患者に対する、キャスターアブレーションとガイドラインに基づいた薬物療法の組み合わせは、死亡率、左心室補助装置の植え込み、または緊急心臓移植の組み合わせの可能性が低いことに関連していた。

研究は、心臓移植の評価のために紹介された症候性心房細動および末期心不全の患者を対象とした、ドイツにおける単施設非盲検試験。

患者は、キャスターアブレーションとガイドラインに基づいた薬物療法を受けるか、薬物療法のみを受けるように割り当てられた。 主要評価項目は、何らかの原因による死亡、左心室補助装置の埋め込み、または緊急心臓移植の組み合わせ。

キャスターアブレーションは、アブレーショングループでは患者 97 人中 81 人 (84%)、薬物療法グループでは患者 97 人中 16 人 (16%) に実施された。追跡期間中央値18.0ヶ月(四分位範囲14.6~22.6)後、アブレーション群では8人(8%)、薬物療法群では29人(30%)に主要評価項目イベントが発生した(hazard ratio, 0.24; 95% confidence interval [CI], 0.11 to 0.52; P<0.001)。

何らかの原因による死亡は、アブレーション群では6人 (6%)、薬物療法群では19人 (20%) (ハザード比、0.29; 95% CI、0.12 ~ 0.72)(hazard ratio, 0.29; 95% CI, 0.12 to 0.72).。

手術関連の合併症は、アブレーション群3 名、薬物療法群 1 名に発生。

薬物療法にキャスターアブレーションを組み合わせることの有効性が確認されましたが、この試験は、無作為化が完了してから 1年後に、データおよび安全性監視委員会によって有効性を理由に中止されました(効果が確認された事が理由でしょうか。それとも他にも理由があるのでしょうか?。

尚、このブログでは、一般的にこの国の医師達が呼んでいる「カテーテル」ではなく、正しく、「キャスター」と敢えて記しています。「カテーテル」と言う言葉は存在しません。ポルトガル語ですと「Kateter:カテーテ」と、「ル」が聞こえそうですが、英語で記しているのですから、英語で統一すべきです。因みに、ドイツ語では、「Katheter:カテイター」です。この国では、優秀なはずの医師もデタラメ言葉を平気で使っています?。

出典文献
Catheter Ablation in End-Stage Heart Failure with Atrial Fibrillation
List of authors.
Christian Sohns, Henrik Fox, Nassir F. Marrouche, Harry J.G.M. Crijns, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1380-1389
DOI: 10.1056/NEJMoa2306037

心筋梗塞関連ショックに対する体外生命維持療法に効果はあるか [医学一般の話題]

体外生命維持装置(ECLS)は、死亡率への影響に関する証拠が不足しているにもかかわらず、梗塞関連心原性ショックの治療に使用されることが増えています。

本研究では、心原性ショックを合併し、早期の血行再建が計画された急性心筋梗塞患者において、30日間の追跡調査の結果、ECLS療法を受けた患者と薬物療法のみを受けた患者の死亡率に差は無く、さらに、ECLS療法は出血患者が多かった。

この多施設共同試験では、早期ECLSと通常の治療を加えた治療(ECLS群)または通常の治療のみ(対照群)を受ける群に無作為に割り付けた。主要アウトカムは、30日時点における全原因による死亡で、出血、脳卒中、および末梢血管合併症が含まれた。

合計420人の患者が無作為化され、その内の417人が最終解析に含まれた。 30日時点における全原因死亡はECLS群で209人中100人(47.8%)、対照群では患者208人中102人(49.0%)で発生(relative risk, 0.98; 95% confidence interval [CI], 0.80 to 1.19; P= 0.81) 。

機械換気の継続期間の中央値は、ECLS グループで 7 日 (四分位範囲、4 ~ 12)、対照グループで 5 日 (四分位範囲、3 ~ 9) (中央値差、1 日、95% CI、0 ~ 2) )。

中等度または重度の出血からなる安全性転帰は、ECLS 群の患者で 23.4%、対照群では 9.6% で発生 (相対リスク、2.44、95% CI、1.50 ~ 3.95)。末梢血管の合併症は、それぞれ11.0%と3.8%に発生した(相対リスク、2.86、95%CI、1.31~6.25)。

結論として、心原性ショックを合併し、早期の血行再建が計画された急性心筋梗塞患者に対するECLS療法は薬物療法のみと比較して効果に差はなかった。

それにしても、ほぼ半数が死亡することを改善できないものか。

出典文献
Extracorporeal Life Support in Infarct-Related Cardiogenic Shock
List of authors.
Holger Thiele, Uwe Zeymer, Ibrahim Akin, Michael Behnes, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1286-1297, DOI: 10.1056/NEJMoa2307227

RA患者はBMI の増加ごとにX 線検査によるRauスコアが減少する [医学一般の話題]

インフリキシマブ(レミケード:体重調整療法)で治療された関節リウマチ(RA)患者では、長期にわたる肥満指数(BMI)の増加は、疾患活動性スコア (DAS28-esr)の増加やX線撮影による進行の速さ(Rauスコア)とは関連しませんでした。

DAS28-ESR評価のために、1997年から2020年までにインフリキシマブを受け、平均4.5年間追跡された412人のRA患者の記録を分析しました。 このグループは平均 6.4回 (範囲 2 ~ 27) の検査を受け、その間に BMI および DAS28-ESR値が記録されました。 X線撮影による進行は、平均4.4年間に平均6.0回(範囲2~20)の検査を受けた187人の患者からなる別のセットで評価されました。 両方のコホートはスイスの関節リウマチ患者登録から抽出されたものです。

どちらのコホートも、そのメンバーは典型的な関節リウマチ患者であり、ほとんどが40 代と50代の女性でした。 疾患活動性を追跡したコホートでは、最初の評価時の平均DAS28-ESRスコアは約4.0、BMIは平均25でした。

びらん性関節損傷を定量化するいわゆる“ Rau スコア”は、平均 4.4 年間追跡した 187 人の RA 患者のコホートにおいて BMI の増加と負の相関があり、BMI が 1 ポイント増加するごとに 平均Rauスコアは-1.05に相関し、減少しました。

実際、スイスのチューリッヒ大学のテリーザ・ブルカード博士とその同僚は、BMIが上昇している人のびらんはそれほど深刻ではなかったと述べています。

この結果は驚くべきことではなく、これまでの研究では、標準体重の患者と比較して過体重および肥満の患者ではX線による進行が遅いことがわかっています。 しかし、DAS28 などの疾患活動性の定量的測定では、通常、BMI が高いほど悪化するように見えます。

しかし、これらの研究のほとんどは横断的なものであり、単一の時点で患者を調査しています。 Burkardらは、時間の経過に伴う体重変化が同様のパターンを示すかどうかを確認しています。

この研究の限界としては、管理記録に依存していることや対象患者数が少ないこと。また、分析対象がインフリキシマブ治療患者に限定されていることから、一般化できるか問題があります。研究者らは、体重と関節リウマチの経過および治療反応との関係をさらに調査するために、今後はより大きなコホートで研究を行うよう求めています。

出典文献
Rheumatoid arthritis
Original research
Longitudinal associations between body mass index and changes in disease activity and radiographic progression in rheumatoid arthritis patients treated with infliximab
Theresa Burkard, Enriqueta Vallejo-Yagüe, et al.
http://orcid.org/0000-0002-4315-9009Kim Lauper3, http://orcid.org/0000-0002-1210-4347Axel Finckh3, http://orcid.org/0000-0002-3276-9581

引用文献
Surprising Link Between Weight Gain and RA Activity
— Hint: it's not the worsening you probably expected
by John Gever, Contributing Writer, MedPage Today October 9, 2023

PM2.5 とオゾンの相互作用によって死亡率がさらに増加する [環境問題]

世界レベルにおける、毎日の死亡率に対する微小粒子状物質 (PM2.5) とオゾン (O3) の潜在的な相互作用を調査した研究の結果、総死亡率、心血管死亡率、呼吸器死亡率に対する相乗効果が示唆された。

全ての大気汚染物質の中でも、微小粒子状物質 (PM2.5、空気力学的直径 ≤2.5μmの粒子状物質)とオゾン (O3) は健康への悪影響有しており、人間の死亡率の独立した危険因子として世界疾病負担調査に含まれている唯一の大気汚染物質です。

誤解の無いように念のため説明しますと、これは「成層圏におけるオゾン」の話ではありません。地上レベルのオゾンは大気汚染物質です。この国では、ほとんど話題にもなっていませんが、欧米では30年以上前から地上レベルのオゾン濃度の増加が危惧されていました。ヨーロッパでは、大気中への排出を制限するために基準値の見直しが行われていましたが、アメリカでは、ブッシュ大統領が基準値の改正案を企業活動の低下を理由に拒否しました。恐らく、日本政府の無策も同様の理由によるものと思われます。

オゾンによる悪影響は人体に対する健康被害のみならず、植物の生産量の減少が現実に起きており、それはCO2の増加による生産量の増加を相殺しており世界的に問題となっています。

私が、2011年時点で主にPMC(アメリカ国立医学中央図書館)で検索した、大気中のオゾン増加による死亡率の上昇や、マウスなどに対するオゾン暴露実験の文献数は1,500件を超えていました。

これまでにも、PM2.5および O3 と人間の健康への影響を報告した研究は豊富にありましたが、主に PM2.5 または O3について個別に扱ったものが多かったため、本研究では、肺の炎症、酸化ストレス、マクロファージ活性、および内皮機能を含む、PM2.5とO3 の複合効果を調査しています。

前置きが長くなりました。

この研究は、世界レベルでの毎日の死亡率に対するPM2.5とO3 の潜在的な相互作用による影響を調査することを目的としています。

19の国と地域、372都市において、1994 年から 2020 年までの毎日の死亡率データから関連するPM2.5とO3の相互作用を調査するために、共汚染物質への曝露と相乗効果指数(>1は汚染物質の複合効果が個別の効果よりも大きいことを示す)による層別分析が適用されました。

調査期間中、372 都市における全原因死亡者数は1,930 万人で、その内の530 万人の原因は心血管疾患、190 万人が呼吸器疾患でした。 PM2.5 が 10 μg/m3 増加した場合、およびO3 濃度の最低から最高の 4 分の1の総死亡リスク(ラグ 0 ~ 1 日)は、0.47%(95% 信頼区間 0.26% ~ 0.67%)から 1.25%(1.02% ~ 1.48%)の範囲。

また、O3 の 10 μg/m3 増加の場合、PM2.5 濃度の最低から最高の 4 分の 1 までの範囲は 0.04% (-0.09% ~ 0.16%) ~ 0.29% (0.18% ~ 0.39%) であり、層間で有意な差がありました ( 相互作用の P <0.001)。

総死亡率に関しては、PM2.5 と O3 の間に有意な相乗相互作用も確認され、相乗指数は 1.93 (95% 信頼区間 1.47 ~ 3.34) でした。 サブグループ分析では、3 つの死亡率エンドポイントすべてにおける PM2.5 と O3 の相互作用が、高緯度地域および寒い季節により顕著であることが示されました。

層別分析には、曝露固有の層における関連性の定量的比較を可能にする単純さと変数が少ないという利点があります。PM2.5 の 10 μg/m3 増加に伴う総死亡率の変化率は、低、中、高レベルの O3 曝露で 0.47%、0.70%、1.25% であり、明確なパターンを示しています。

オゾン(O3)は容易に第3分子を分離するため天然元素の中ではフッ素に次ぐ酸化力を有し、その酸化力は塩素の7倍であり、この酸化力によって呼吸器などを損傷します。殺菌力は空気中で塩素の1.65倍、水中では7倍であり、反応後は酸素分子や原子に分解するため二次汚染が無いことから、殺菌・脱臭目的に多方面で使用されています。しかしながら、人体への有害作用が無い程度の濃度では殺菌効果は認められません。また、飲料水や風呂水の殺菌目的で水中に通した場合でも、容易に空気中に放散するため空気中と大差がありません。さらに、水中で使用する場合、殺菌力を高めるために高濃度のオゾンが使用されるため危険性はむしろ高くなります。また、オゾンは比較的低濃度でも健康被害を及ぼすため、現在の職場における環境基準値は改正すべきです。さらに、空気清浄効果を謳った器具が、規制基準が無いために一般家庭や一部の病院の病室でも使用されており、医師でさえその危険性が認識されていないことに重大な問題があります。

PM2.5とO3の相互作用に起因する相互作用を理解することは、政府によって、これら2 つの重要な大気汚染物質を協調的に管理する戦略を開発するための科学的知識ベースを提供するはずです。

出典文献
Interactive effects of ambient fine particulate matter and ozone on daily mortality in 372 cities: two stage time series analysis
Cong Liu, Renjie Chen, Francesco Sera, Ana Maria, Yuming Guo, Shilu Tong, et al.
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-075203 (Published 04 October 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:e075203

HDL-C の低および高レベルの両方がわずかに認知症リスク上昇と関連? [医学一般の話題]

高密度および低密度リポタンパク質コレステロール (HDL-C、LDL-C)と認知症発症との関連性を調査した結果、HDL-Cの低および高レベルの両方がわずかに認知症リスクの上昇と関連したと報告されています。

55歳以上のカイザー・パーマネンテ北カリフォルニア医療計画会員を対象に、2002年から2007年の間に健康行動調査を実施。調査完了後2年以内にコレステロールを測定。EHR の ICD9 または ICD10 コードに基づく認知症 (アルツハイマー病関連認知症 [ADRD]、アルツハイマー病、血管性認知症、および/または非特異的認知症)の発症について分析。

研究は、調査データと電子健康記録(EHR)データを使用したコホートにおける、17年間にわたる追跡調査。参加者は184,367 人 [調査時の平均年齢 69.5 歳、平均 HDL-C=53.7 mg/dL (SD = 15.0)、LDL-C=108 mg/dL (SD = 30.6)]。

しかし、最低の五分位の HDL-C ハザード比(HR)は 1.07 (95% CI: 1.03-1.11)で、最高の五分位の HDL-CではHRは1.15(95%CI:1.11-1.20)であり、リスクの差はわずか7%と15%に過ぎません。統計的に有意であったとしても、この結果に意義があるとは思えません。一方、LDL-Cとの関連性はほとんど認めれませんでした。

大規模なコホート研究と胸をはっていますが、この研究結果に意味があるのでしょうか。

“Abstract”だけ読んでいますので詳細は不明ですが、認知症をタイプ別に分析したとは記されていません。アルツハイマー型とレビー小体型、および血管性認知症を分けずに十把一絡げに分析したのであれば意味を成さないと言えます。特に、血管性認知症ではコレステロール値の影響もあり得るでしょうし、、。

出典文献
Low- and High-Density Lipoprotein Cholesterol and Dementia Risk Over 17 Years of Follow-up Among Members of a Large Health Care Plan
Erin L Ferguson, Scott C Zimmerman, Chen Jiang, et al.
First published October 4, 2023, DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000207876