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「瘧疾」にみる黄帝内経の病理観(2) [黄帝内経の疾病観]

 「刺瘧篇 第36」では、六経・六臓腑に分類し、それぞれの病状を解説していますが、症状が経絡や臓器によって明確に分類されている訳ではなく、分類の根拠も記されてはいません。本稿では、(1)の続きとして、「瘧疾」についての「刺瘧篇」による分類を検証します。

 マラリアは原因となる原虫によって4種類に分類されますが、症状のみによって全ての原虫の種類を見分けることは不可能です。熱帯熱マラリアでは、原虫が寄生した赤血球が血管に付着することで毛細血管がつまって内出血を引き起こしますが、この付着が脳で起これば、昏睡やてんかんなどの脳マラリアが発症し、腎臓であれば、血管破壊にともなって血尿が出る黒水熱(コーラ状の尿)が発症します。妊婦の場合、胎盤で付着が起これば妊娠マラリアとなり、胎児および母胎が重篤になります。しかし、刺瘧篇の記述にはこのような症状の認識はなく、熱発作の周期性の違いによって明確に分類した訳でもありません。

 これらの12種類の瘧の症状の記述について、原文とその解釈を示して検証します。

足太陽之瘧:「令人腰痛頭重.寒従背起.先寒後熱.暍暍然.熱止汗出.難己.」
 腰痛、頭重を、足の太陽膀胱経の領域の症状であることで分類していますが、悪寒と熱発のタイプで経絡と結びつける根拠は示されていません。

足少陽之瘧:「令人身体亦.寒不甚.熱不甚.悪見人.見人心愓愓然.熱多.汗出甚.」
 倦怠感、悪寒、発熱は強くはないものの、発熱の期間は長く、汗が非常に多く出ると記されています。症状の継続期間は、熱帯熱マラリアで1~3週間、他のマラリアでは10日~4週間、時に数ヶ月~1年以上に及ぶこともあります。熱帯熱以外の本症について、基本的に良性であることを観察して述べたものと思われます。「愓愓然」は恐れる様子で、対人恐怖感と思われます。

足陽明之瘧:「令人先寒.洒淅洒淅.寒甚.久乃熱.熱去汗出.喜見日月光火気.乃快然.」 寒気が甚だしく長引けば発熱する。解熱とともに汗が出ると記されていますが、特に特徴的な症状とは言えません。日や月、火を喜び爽快となるについては不明です。

足太陰之瘧:「令人不楽.好太息.不嗜食.多寒熱汗出.病至則善嘔.嘔巳乃衰.」
 悪心・嘔吐など、消化器症状を病型として捉えています。「太息」は単語の意味では「ため息」ですが、その解釈には問題があるため、「肝瘧」の解説で述べます。

足少陰之瘧:「令人嘔吐甚.多寒熱.熱多寒少.欲閉戸牖而処.其病難巳.」
 「巳え難し」の記述から重症であると推測して、腎不全であると判断できます。「嘔吐が甚だしい」は尿毒症の症状であり、戸を閉めてこもりがちになるとは、尿毒症による精神神経症状であると推測されます。

足厥陰之瘧:「令人腰痛.少腹満.小便不利.加牖状.非?也.数便.意恐惧.気不足.腹中悒悒.」
 完全な尿閉ではないが、小便が出にくくすっきりとしない状態を記しています。急性腎不全では完全な無尿はまれで、尿量の減少が起こらない場合もあります。恐らく、乏尿期を観察したものと思われます。マラリア原虫が寄生した赤血球が腎臓に付着すれば、血管破壊によって血尿が出ますが、そのような記述はありません。

肺厥:「令人心寒.寒甚熱.熱間善驚.如有所見者.」
 発熱時の錯乱と考えられます。

心厥:「令人煩心甚.欲得清水.反寒多.不甚熱.」
 胸部苦悶感を「心の厥」として分類しています。

肝瘧:「令人色蒼蒼然.太息.其状若死者.」
 「蒼蒼然(真っ青)」は重度の貧血を示したものと推測されます。「太息」については、一般成書では文字の意味そのままに「ため息」と訳しています。「多紀元簡」の説では、『甲乙経』に「太息」の二字はなく、「如死者」から考えると不要の文字であると決めつけています。しかし、これは全くの誤りです。「其の状死せる者の若し」とあるように、マラリアで死にそうな重体患者の病状説明であり、無意味な「ため息」を記すことはあり得ません。重症者で、一見ため息を繰り返すような呼吸は「クスマウル呼吸」です。『黄帝内経』の臨床観察は実際的で優れています。さらに、「足厥陰之瘧」には尿閉も記されており、急性腎不全による尿毒症の状態と判断されます。

脾瘧:「令人寒.腹中痛.熱則腸中鳴.鳴己汗出.」
 消化器症状を「脾」の症状として分類したものです。

腎瘧:「令人洒洒然.腰脊痛宛転.大便難.目眴眴然.手足寒.」
 「目眴眴けんけん然」は重度の貧血によるめまい感と思われますが、腎の症状として分類した根拠は不明です。「洒洒そんそん然」はぞくぞくとした感じで寒気です。

胃瘧:「善飢而不能食.食而支満腹大.」
 消化器症状のみに注目した分類です。

 以上、「刺瘧篇 第36」に記された、経絡名6種と臓腑名6種を冠した12種類の「瘧疾」について解説しました。これらの分類はマラリアの症状の一部を切り取ったもので、病理学的に意味を持つものではありません。その病状には明確に分類できるような違いはなく、さらに、マラリアの症状の全てを的確に把握しているものでもありません。臨床的には、一部は対症療法としてはあり得ますが、効果についても疑問です。

 治療について一般成書の多くは、「治療上の経験則は、鍼灸の臨床上弁証論治の観点から優れたものである」と評価していますが、私には、とてもその様な内容には思われません。ほとんどは、症状に近接した経穴への瀉血を中心としたもので、発作の前に施術せよと指示されています。矛盾点は多いのですが、治療法についての批判は本稿の目的ではないことと、マラリアの治療経験が無いため差し控えるべきと考え省略しました。

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」に記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

「瘧疾」にみる黄帝内経の病理観(1)  [黄帝内経の疾病観]

 「瘧疾(ぎゃくしつ)は『素問』瘧論篇 第35および刺瘧篇 第36に記された疾病です。本症は、一般的にマラリア(おこり)を意味すると言われています。解説書では、マラリアの原因、病理、症状、および治法などについて詳細に論じているなどと記されています。しかしながら、果たしてそうでしょうか。

 従来の中医学および漢方書は、古代の病理観の記述をそのまま解説し、その認識を診療理論としています。医学も科学も未だ無い時代の、素朴で稚拙な考えを全く検証も批判もせずにです。私には、二千年以上昔に書かれた『黄帝内経』の無謬性を盲信する、正にオカルトにも似た不可解な認識に感じられます。

 本稿では、先ず(1)として、『素問』瘧論篇 第35における、「瘧疾」についての病症とその発現理由の記述を検証することで、『黄帝内経』編纂当時の疾病観の本質を紹介します。さらに後日、(2)として、刺瘧篇 第36の記述について解説する予定です。

 瘧論篇では、先ず、「黄帝問曰.夫痎瘧皆生於風.其畜作有時何也.…」と、黄帝が、急性の疾患を「風」によって生じるものと捉え、熱発作が周期性であることの理由を質問しています。このマラリアの熱発作と病因としての「風」の認識に、『黄帝内経』の稚拙さと、現代中医学の根本的欠陥が読みとれます。

「痎瘧」とは、2日に一度熱発作を起こす病症を意味します。これは、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、および卵形マラリアでは48時間毎に熱発作を起こすことから、1つの疾患として認識したものです。因みに、四日熱マラリアでは72時間です。

 「風」は、風論篇 第42に「風は百病の始である」と述べられているように、重要な病因として捉えられています。気象の変化が身体に様々な影響を与えることは周知の事実ですが、古人の「風」に対する認識は違います。風を気圧の勾配によって生じる空気の移動としてではなく、1つの何らかの物として認識しました。しかしそれは、科学的に言う「物質」ではありません。当時は未だ、空気も酸素も発見できてはおらず、「科学的な物質」の認識は存在していません。世界は、根元的物質として、木・火・土・金・水の5つによって成り立つとする、「陰陽五行説」の時代でした。

 このように、『黄帝内経』の記述を理解するには現代科学の常識を排除し、当時の自然科学のレベルで解釈すべきです。「風」は「突然やってくる何か」であり、これを突然発症する様々な病気の原因として捉えたのです。

 話を戻しますと、岐伯はその理由を答える前に症状の経過を述べています。「…瘧之始発也.先起於毫毛.伸欠乃作.寒慄鼓頷.」とは、悪寒戦慄です。あくびが何度も出るとは、恐らく、軽度の脳症の段階における、傾眠状態を指しているものと考えられます。続いて、「腰脊倶痛.寒去則内外皆熱.頭痛如破.渇欲冷飲.」と、記されています。「腰脊倶痛」の腰痛は、マラリアの症状である筋痛・関節痛の範疇であり、悪寒直後の熱発と渇き、および激しい頭痛も記されています。何れも、マラリアの3大症状の1つである高熱によるものです。但し、重症例の症状が記載されていないことに疑問は残ります。

 熱発作が周期性である理由について、「岐伯」が述べた記述を一部抜き書きしますと。

・「陰陽上下交争.虚実更作.陰陽相移也.…」陰陽が上下して争い、陰陽の虚実が相互に入れ替わると説明。

・「其気之舎深.内薄於陰.陽気独発.陰邪内著.陰与陽争不得出.是以間日而作也.」邪気は深く陰分にあるため、陰陽が抗争しても直ぐには出られず日を隔てて発作が起こる。

・「風気留其処.故常在.瘧気随経絡.沈以内薄.故衛気応之作.」風邪は侵入した部位に止まり、瘧邪は経絡に沿って循行し、衛気と合って初めて発作が起こる。

・「瘧気者.必更盛更虚.当気之所在也.病在陽.則熱而脈燥.在陰.則寒而脈静.極則陰陽倶衰.衛気相離.故病得休.…」瘧疾があると陰陽虚実が相互に入れ替わる。陽分にあると発熱し、陰分にあると冷えて静穏。極まれば、陰陽ともに衰え衛気離れて病気は休む。

・「邪気与衛気客於六府.而有時相失.不能相得.故休数日之作也.…」邪気と衛気が六府でうまく合えないことがあり、共に外に出られず数日休止する。 

 瘧論篇では、この後も症状の解説が延々と続きますが、その内容は全て、陰陽・虚実の争いや邪気と衛気が出会って熱発作が起こるなどであり、全く無意味ですので省略します。しかし、現代の中医学も、ほとん同様に病態を説明しているのです。

 その他の症状では、悪寒戦慄は陽明経の虚であるとし、太陽経(背中と頭部を巡る経絡)の気が虚すことで腰背や頭項が痛むと記されています。邪気が陽とともに外に出て陰と共に内に迫るので、陰陽内外で相互に迫るために毎日発作が生じるのだと説明しています。

 マラリアの熱発作は赤血球の破壊時に起こるもので、その周期性は赤血球に侵入したメロゾイトの増殖に要する時間によるものです。痛みは、熱発によって分泌された炎症物質によって生じます。

 当時としては、邪気や寒、陰陽・虚実など、見た目の自然現象から想像して考えた病因しか発想できず、このような単純なカテゴリーのみで分類して病態を説明する以外に手段が無かったのです。当時としてはやむを得ぬことでしたが、その後の歴史を通じて、疾病の原因や症状発現の病理学的究明は全く行われませんでした。さらに、『黄帝内経』以後の文献は、もっぱら古典に準拠した説明に終始し、医学的には衰退しました。

 今もなお、「風」などの古代の病因論を批判することなく、そのまま踏襲していることに何ら疑問を感じていないのが現代の中医学です。『黄帝内経』の真価を検証することなく崇め奉り、全く進歩していないのです。

 (2)へ続く。

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

「肝」の病症-中医学の問題点 ① [黄帝内経の疾病観]

 『「肝」にみる、内経の蔵象観-1.~4.』の中で、蔵象観の起源とその後の誤った発展過程について述べてきました。今回は、「肝」の病症観から、現代中医学における病証分類について、その問題点を考えてみます。

 先ず、「肝」の機能と病症についてのこれまでの記述を総括し、現代の中医学における「肝の病証」と比較します。

Ⅰ「肝」の具体的な機能

蔵血,生血気,思惟,主筋,主目
 (注:陰陽五行説の五臓の色体表による分類は古代における思想的分類であるため省略し、あくまでも具体的な機能に限定しています)

Ⅱ 病症観の起源となった疾患

「素問:大奇論篇」の“肝雍”の肝硬変・「素問:脈解篇」の“頽疝”のフィラリア症

Ⅰ.Ⅱ.によって形成されたと推測される「肝の病症観」

Ⅰ.血液を統括する機能の異常によって生じると認識した、筋,精神,目の病症 (その原点   は、肝硬変の病症から正常機能を想像したもの)

血 : 出血(鼻血、下血など)
筋 : 筋力低下・麻痺,痙攣,異常運動,筋・関節痛
精神: 精神障害,錯乱,せん妄,意識混濁,昏睡,精神的興奮
目 : 視力低下,めまい

Ⅱ.肝硬変・フィラリア症の、“症状”による認識

腹水,四肢・顔面の浮腫,陰嚢水腫(肝硬変・フィラリア症)
筋・関節痛(フィラリア症)
筋の萎縮,痙攣,異常運動,不随意運動(肝硬変)
精神障害,意識混濁,昏睡,精神的興奮,錯乱,せん妄(肝硬変)
各種の出血・出血傾向,下血(肝硬変)
排尿障害・尿閉(肝硬変・フィラリア症)  

 肝臓の生理・生化学的機能や病態を究明するための医学・技術がなかったため、もっぱら病症の分類と、当時の自然観・思想的解釈によって体系づけられました。その結果、Ⅰ.Ⅱ.に示した症状が、臓器本来の病態から離れ、これらの症状群そのものが「肝」の病態として認識されました。
 その後これらの症状が、病理学的には全く脈絡の無いまま「肝」の蔵象観・病症として一人歩きを始めることになります。近代以後、これらの症状のみを対象とした医学的解釈が行われたため、「肝」とは、肝臓を超越した多くの機能や病症を包括した概念であるなどとの誤謬が生じました。さらに、内経の記述には存在しない機能までが書き加えられています。

 Ⅰ.Ⅱ.を整理しますと。
 筋の異常(筋痛・痙攣・不随意運動・麻痺),精神障害(錯乱・興奮・せん妄意識混濁),出血(出血傾向・下血),組織液の異常(浮腫・腹水・水腫),排尿障害,目の異常(視力障害・めまい)    

 現代中医学による「肝の病証」はこれらを拡大解釈して、多くの病症を追加し拡張したものです。但し、排尿障害については、現在の中医学書では、「腎の病証」として扱われています。これは近代以後西洋医学の輸入によって、腎臓によって尿が生成されることを知ったためであると思われます。内経当時には、腎臓による尿の生成や輸尿管による膀胱との連絡も発見されていませんでした。体内の水分の移動などに関与するとする程度の認識であり、腎の尿に関する病症の記述は全くの現代医学の借用に過ぎません。(「腎」に関しては別の機会に述べます)    

現在の中医学にみる「肝の機能・病証」

1)「肝」の機能の勝手な追加

 最近の中医学書(1980年以後?)には、「肝」の生理機能として「疎泄機能」が記されています。疎は疎通、泄は発散・昇発であるとし、この機能が正常であれば、気血は調和し、経絡は通利し、臓腑・器官も正常に活動すると解説されています。さらに、脾・胃の機能にも影響し、胆汁の分泌・排泄にまで関わるなどと記されています。結果的に、この機能の異常として多くの病症が後付されています。しかしながら、内経にはこの様な記述も認識もありません。

2)肝の病証の弁証(診断)として記述された病症
                        
 肝血虚・肝陽上亢(肝陰虚)・肝風内動(肝風証)・肝気鬱結(肝欝証)・肝気横逆・肝気上逆・肝火証・肝火犯肺・肝寒証(寒帯肝脈)など、成書によって若干違いますがこの様な証候名によって分類されています。

3)病症の医学的解釈として掲げられた症状

 情緒障害・うつ・精神神経症・自律神経の失調・栄養障害・循環器障害・脳血管障害・内分泌系の障害・運動系の異常・視力障害・結膜炎・月経困難症・肝炎・胆のう炎・胆石・胃腸障害(胃十二指腸潰瘍、過敏性腸障害)・甲状腺腫・乳腺腫・高血圧・突発性難聴・呼吸困難・鼠径ヘルニアなどです。

 多くの証候名と、信じがたいほど多種におよぶ障害・疾患が書かれていますが、これらは何れも、追加された機能の異常や、上記Ⅰ.Ⅱ.の病症によって説明可能です(後述)。問題は、これらが内経の認識を踏まえた上の、健全な発展と言えるか否かです。
 例えば、膠原病は多臓器性の疾患であり、多くの複雑な症状が現れます。私が推測した「正経十二経脈の各経脈病候」の推測では、数種類の膠原病が含まれています。しかし、病症観の起源や形成過程を考慮しますと、これらの節操の無い拡大解釈には無理が有りすぎます。
 肝の病証に見る様に現代の中医学とは、この様なボタンの掛け違いに加えて現代医学を恣意的に都合良く拝借して形成した、極めて危うい理論体系です。
 この様に、矛盾に満ちた中医学ですが(私の仮説)、臨床経験から導き出された考えとして、「肝」は医学的な肝臓とは全く切り離した、別の機能的単位や病態の概念として成立する可能性はあり得るでしょうか。
 現代医学も発展過程にあります。その、行き過ぎた還元主義に対する批判や反省があることも事実です。しかし、その欠陥を補う考え方として、あるいは代替医療としての価値が中医学の体系にはあるでしょうか。私には、病態観の起源とその後の形成過程を考慮すると極めて疑問に思われます。
 
 肝臓は周知のように、体内における代謝の中心で多くの機能を持っており、その機能の障害が多くの病態に関与することも事実です。以外にも、その代謝異常が諸臓器に与える影響についての臓器相関の研究は未だ少ないとも言えます。将来に、全く異なった機能や、他の疾患との関連性が見いだされることもあり得ます。また、臨床経験から得た発想であるため、医学的に説明された機序と符合する現象の記述も散見されます。しかし、何度も述べていますが、内経は臨床的な病証観察には優れていますが、医学的には極めて稚拙なレベルであり、現代医学を超越した発想で病態を推測した訳ではなく、科学的に系統立てた理論ではないことを念頭に置くべきです。

 次回は、現代中医学書における「肝の病証」について、個々の証候について説明します。

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本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。


「是動病・所生病」とは何か-総括 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の各経脈の病候として分類された、「是動病・所生病」に記された病症を医学的に解釈して診断を試みました。その結果を(1.と重複しますが)示しますと、以下の様になります。

1.手の太陰肺経  = 肺炎(ほぼ確定)
 2.手の陽明大腸経 = 急性白血病(確定は難、可能性有)
 3.足の陽明胃経  = 全身性エリテマトーデス(確定は不可能、可能性は高)
 4.足の太陰脾経  = 結節性多発動脈炎(確定は困難、可能性有)
 5.手の少陰心経  = 心筋梗塞(ほぼ確実)
 6.手の太陽小腸経 = 流行性耳下腺炎(ほぼ確実)
 7.足の太陽膀胱経 = 黄疸出血性レプトスピラ症:別名ワイル病(確定可)
 8.足の少陰腎経  = 血栓性血小板減少性紫斑病(確定は困難、可能性高)
 9.手の厥陰心包経 = リウマチ熱(ほぼ確定)
 10.手の少陽三焦経  = 扁桃炎及び中耳炎の合併(ほぼ確定)
 11.足の少陽胆経   = 腺熱またはトキソプラズマ症の可能性も有(いずれの可能性高) 
 12足の厥陰肝経   = フィラリア症(確定可)
       *()内の評価は私の独断と偏見によるものです。

 病症の解釈がやや恣意的になる傾向が有ること、診察や検査による他覚的な情報が得られないことなど、2千年以上も昔の人間の観察による病症記述と分類のみで診断しているため、自ずとその精度には限界があります。
 この様な不確実性を考慮しても尚、十二経脈の全てがほぼ診断できたことは意味が有ると考えています。「是動病・所生病」として分類された病候は、長年の観察によって多くの病症を整理し、独立した単一の疾患単位として認識した可能性は高いと言えます。
 診断結果を簡単に見ますと、手の陽明大腸経の急性白血病、足の太陰脾経の結節性多発動脈炎、足の少陰腎経の血栓性血小板減少性紫斑病の3疾患は医学的に確定は困難ですが(可能性は高~有)、その他の診断については確実性は相当高いものと考えています。

 私の推測が正しければ、「内経」の症候論のパターン認識能力は相当高度であったと言えます。但し、疾病の原因や病態を究明する知識も術ない時代であったため、仮想的な経脈・臓器機能とを関連させた機能的複合体の病状として認識したものと推測されます。この考えは、その後の時代に「証」概念として発達しました。しかし、病態の捉え方としては機能対応的であったため、臨床上は一定の価値はありましたが、医学的進歩には弊害となりました。論理は思弁的で非科学的思想によるものであり、極めて閉鎖的となり2千年以上もの間ほとんど進歩しませんでした。

 では、病名による疾病分類とは異なる、経脈の異常としての分類は診断学的・臨床的に意味はあるのでしょうか。医学的論理とは別に、各経脈とこれらの疾患との症候論的関連性、および臨床的な価値・有効性が有るか否かを考えてみる必要性があります。

 分類された病症と経脈・臓器との関連性

 経脈と臓器の関連性についても問題はありますが、これは別の稿で説明します。先ず、診断した疾病と各経脈に冠された臓器との関係を検証します。
 私が診断した、経脈病候の疾病と臓器が関連するものは、肺経、心経のみです。心包経については心心臓の病態も含まれますが、「心包」は心膜を指すと考えることが妥当と思われるため、臓器の疾患として捉えるには無理があります。その他については、臓器の症状の一部が含まれているのみで、経脈名と各疾病は直接的には無関係です。
 即ち、経脈病候の「是動病・所生病」は、基本的には、経脈の走行領域に累計的に現れた症状を集約して関連付け、分類したものであり、これに肉眼レベルの観察による臓器機能の想像が多少加味された程度の認識であると考えられます。従って、各経脈への鍼治療がこれらの疾病に対して有効である可能性は低いと言わざるを得ません。実際にも、治療法として「内経」では、「不足しているものは補い、実しているものは寫せ」と記述しているのみです。また、疾病の分類も、感染症・寄生虫症(5種)、膠原病(3種)、血液・造血器疾患(2種)、循環器疾患(1種)と、法則性があるとは思われません。

 「是動病」と「所生病」の分類の意味

 歴代の中医学書は是動病・所生病の意義に対して種々の説明をしてきました。その主なものを挙げると、『難経』「二十二難」では、是動病を気の病,所生病を血の病,『十四経発揮和語鈔』では、是動病を経絡の病,所生病を臓腑の病,『霊枢集注』では、是動病は外因によるもの,所生病は内因によるもの、等です。
 現代の成書では、「是動病」は外なる経絡の変動より内の臓腑に影響して発症した症状。「所生病」は臓腑の病が外なる経脈に現れた病症とする説。「是動病」は経脈機能に異常を生じた場合の病症,「所生病」は本経の経気が異常な時の症状であり、基本的には同一であるとする説、等が一般的です。また、『素問・霊枢』より古い文献の『馬王堆漢墓帛書』の中の「陰陽十一脈灸経」では、是動病は症候を述べ、所産病として病名を列記しているとされています。現在一般的には、これらは、各経絡の類型的な病症を挙げたものとされ、実際にはこのように定型的に起こるものではなく標準的な病症を示したものと考えられ、病症判定の際の参考として利用されるにとどまっています。
 
 この稿の検討では、「是動病」と「所生病」を分類した法則は正確には見いだせませんでした。しかし、「是動病」には主症が多いこと、膀胱経の黄疸出血性レプトスピラ症では第1期症状が中心であることに注目しました。則ち、「是動病」は主症や初期症状を主とし、「所生病」は合併症,続発症を主として各々を分類した可能性があります。「是動病」は原因が外にあり、経絡の変動が先にあるとすると、四肢の病症が所生に多く記されている事実を説明できません。四肢の症状は臓腑の病状の反映として続発的なものと認識し「所生病」として分類したものではないかと推測しています。「是動病と所生病」は病状の変化を時系列によって分類した可能性も考えられます。

 中医学における疾病分類

 現在の中医学に於ける疾病分類は、臓腑経絡弁証や八綱弁証を主とする症候による分類であり、西洋医学の病名による診断とは異なり独特の診療思想を形成しています。多くの鍼灸師や漢方家は、この体系が古代に形成され現代に至るまで変わることなく継承されているものと錯覚しています。
 臓腑弁証の雛形は漢代に形成され、『難経』や『金匱要略』の中の「臓腑経絡先後病脈証」に見られます。しかし、痰飲・水腫等の病名も記載されており、病名による把握もされています。臓腑弁証を寒熱虚実に区分して系統的に論じた最初の文献は、六朝時代の著作とされる『中蔵経』です。八綱弁証では、“綱”と呼称されるようになったのは清代になってからです。
 これに対し、病名による病気認識の歴史はさらに古く、湖南省長沙の馬王堆前漢墓より出土した一連の出土医書(帛書)の中の、「五十二病方」に見られる。諸傷(外傷),傷痙(破傷風)に始まり、狂犬齧人(狂犬病),毒烏喙(トリカブト中毒),瘽(蠍による刺傷),蠱(つつが虫病,住血吸虫症)等52の病名と全てではないものの症状が記されています。蠍による刺傷は『千金要方』や『外台秘要』といった後世の経法書にも記載されています。
 さらに、隋の巣元方による病理学書『巣氏諸病源候論』には、多くの病名とその症状が記載されています。我国に於いても源順の『倭名類聚鈔』には、くちゆがむ(顔面神経麻痺),あへぎ(喘息),あしのけ(脚気),ちくそ(赤痢)等多くの病名や症状が記載されています。
 このように古代に於いても、単一の疾患として把握し易い病気は病名をつけて表現したものと思われます。十二経脈の病候は、各々の病状は詳しく観察され単一の疾患として認識しているものの、病名ではなく、臓腑経絡の異常として分類されました。この理由は、病気の実体を解明するための生理,病理学の発展がない時代に、病態観察の必要性から経絡概念と関連させて臓腑機能を仮想的に想像し、これらを一種の機能的複合体の変動として捉えた“病候”による分類が発展し、その後主流になったと推測できます。

 以上、長くなりましたが、これが「是動病・所生病」に関する私の考えです。

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本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。


「是動病・所生病」とは何か-5 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の病候

10.手の少陽三焦経

 三焦経の病候を述べる前に、先ず、「三焦」について少し説明します。この「三焦」についても、私の説と従来の考えとは全く異なっています。
 現代医学には「三焦」という臓器はありません。現在の針灸・中医学では、「三焦」とは、胸腹部全体を意味するものと考えられています。これは、上・中・下焦に分かれ、上焦は胸腔、中焦は横隔膜より臍まで、下焦は臍以下の腹腔内であると言われています。この考えは、後漢の時代に書かれた「難経:正しくは“黄帝八十一難経”」を基にしています。この記述を基にして、「三焦」には形態は無いとする考えが常識となっています。
 
 しかしながら、「内経」では一個の臓器として「三焦」を認識し、これを3部位に分けて、その機能と作用が及ぶ方向性を示しています。素問:霊蘭秘典論の「…三焦者.結涜之官.水道出焉…」,六節臓象論:の「…小腸三焦膀胱者倉廩之本…」の記述を素直に読めば、一個の形ある臓器として認識しているものと判断できます。

 形態と位置関係を知るうえで重要なのは、霊枢:営衛生会篇の記述です。「三焦」の中の上焦では、「…上焦…出於胃上口.竝咽以上.貫膈…走腋.循太陰…」と、上焦部分の位置と機能を示しています。 上焦は横隔膜の下で胃の上口に位置し、その気は食道に沿って隔膜を貫いて上がり肺に向かうと考えています。これは固有網嚢上部で横隔膜に接する部分を上焦と呼び、その作用として、「気」が向かう方向を示しています。その「気」は、下横隔動脈や左胃動脈からの食道枝を起点として、食道動脈より大動脈を上がり肺経(私の説による)に入ると考えています。
 中焦は、「…中焦…亦並胃中.出上焦後.此所受気.泌糟粕.蒸津液.化其精微.上注於肺脈.乃化而為血.…」と、網嚢前庭及び網嚢峡部を指しています。これは、腹腔動脈を起点として、食物の栄養(精微)を肺へ送るとする考えです。 また、肺に行って血に変化するとは、死体では動脈は収縮して虚血状態となっているため、肺静脈へと進んで初めて血液を確認できたことを基に、その機能を想像したものと考えられます。
 下焦は、「…下焦者.別迴腸.注於膀胱.而受入焉故水穀者…」と、腹膜の膀胱直腸窩付近と位置付けています。また、腹膜腔内の水の存在は認識しており、ここを水の通路と考えています。但し、内経では、膀胱には上に口が無いと記されており、輸尿管の存在や腎臓での尿の生成は認識できませんでした。尿とは、腹腔内を流れた水分が、腹膜を介して膀胱内に尿が染み出たものであると想像しています。
 これらの記述より、三焦は網嚢を中心とする腹膜腔であると判断しました。因みに、時代は後(明)になりますが、”針灸大成校釈”には、「三焦.為六腑之一.是月庄之囲最大之腑.…」と、「三焦は腹を囲む最大の腑」と記されており、明らかに腹膜を記述したものです。
 
 経脈のスタートとなる肺経は、その起点を中焦の腹腔動脈に位置付け、ここで食物の気を集め、さらに肺に行き空気の精を交えて、完全な状態として全身に輸送するものとして発想したものと考えられます。尚、詳しい説明は、“「経絡」の誤解”(10/11,19日投稿)の続きで述べます。

 手の少陽三焦経

是動病および[推測される医学的症候]
耳聾,渾々焞々・嗌腫れ,喉痺
 [難聴,耳鳴り・扁桃炎]

所生病および[推測される医学的症候]
 汗出で・目の鋭眥痛む・ 頬痛み,耳後,肩,臑,肘,臂の外が痛み,小指の次指用いられず
 [発熱,頭痛(扁桃炎)・中耳炎・頚部リンパ節腫脹・四肢関節痛]

 以上より、推測される疾患名は扁桃炎及び中耳炎の合併症。

扁桃炎と、中耳炎の合併症であると考えられます。頭痛や四肢の関節痛は扁桃炎に見られる症状であり、難聴,耳鳴りは中耳炎でも生じる症状です。

11.足の少陽胆経
 
是動病および[推測される医学的症候]
口苦・善く太息す・心脇痛みて転側する能わず・甚だしければ面は微尖を有すに似たり・体に膏沢なし・足の外反って熱す,是を陽厥と為す
 [ 筋痛・髄膜刺激兆候の片側性の神経兆候(顔面神経麻痺、偏視)・発熱]

所生病および[推測される医学的症候]
頭痛・頷痛・目の鋭眥痛む・ 欠盆の中腫れ痛み,腋下腫れ,馬刀(瘰癧)侠癭(頚を挟む瘤)・ 汗出で振寒し,瘧す・胸,脇,肋,髀,膝の外より脛,絶骨,外踝の前及び諸節みな 痛む,小趾の次の趾が用えない
[ 頭痛(髄膜刺激症状)・リンパ腺腫脹・悪寒,寒熱往来・全身の関節痛,筋痛 ]

 以上より、推測される疾患名は腺熱 (但し、トキソプラズマ症とも考えられ、鑑別は困難)

 本症は、発熱,全身のリンパ腺腫脹,ならびに多数の異型リンパ球の出現を伴う単核細胞の増加を3主要徴候とする急性熱性疾患です。他の類似の急性熱性疾患との鑑別は困難で、特に、後天性トキソプラズマ症との症候論的鑑別には無理があります。従って、腺熱に特定せず、考えられる疾患を例示することが無難ではあります。しかし、「馬刀侠癭」に注目すると、腺熱では頚部のリンパ腺腫脹が耳の後ろから側頚部にかけて累々と認められることが多く、この特徴が記述と一致することより本症を最有力候補として診断しました。

12.足の厥陰肝経

是動病および[推測される医学的症候]
腰痛んで俯仰すべ可らず・丈夫は遺疝(陰嚢腫大)し,婦人は少腹腫れる・甚だしければ嗌乾き・面塵き脱色す
 [腰痛・陰嚢水腫・リンパ節腫脹・発熱・?]

所生病および[推測される医学的症候]
胸満し・嘔逆し・飱泄し・ 狐疝し・遺溺し閉癃す
 [胸内苦悶感・嘔吐・下痢・鼡径部リンパ節腫脹・尿閉]

 以上より、推測される疾患名はフィラリア症

 陰嚢の丹毒様の腫脹,陰嚢水腫,鼡径部や股部のリンパ節腫脹,乳び尿,排尿困難,尿閉はフィラリア症の特徴であり、嗌乾きを高熱によると推測し、腰痛もみられることより可能性は高い。顔面の脱色,胸内苦悶感,消化器症状は直接的には不明です。

 以上、正経十二経脈の病候を、医学的に解釈し疾患名を診断しました。次回は、そもそも「是動病・所生病」とは何か、疾患分類、診断、治療において意味が有るのか否かについて、私の考えを述べたいと思います。

 次回、“「是動病・所生病」とは何か-総括”につずく。  

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。
          

「是動病・所生病」とは何か-4 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の各経脈病候

8.足の少陰腎経
 
 是動病および[ 推測される医学的症候]
 飢えるも食を欲さず・面漆柴の如く・咳唾すれば血有り,喝喝として喘す・坐して起たんと欲すれば,目こうこうとして見る所無き, 心は懸れるが如く,飢えたる状の如し, 気足らざれば善く恐れ,心愓愓として人が将に捕らえにくるが如し,是を骨厥と為す
[食欲不振・腎不全による顔色か紫斑による黒色・ 出血傾向・呼吸困難・ 立ちくらみ(貧血)・錯乱,譫妄]

 所生病および[推測される医学的症候]
 口熱し,舌乾き,咽腫れ,上気し,嗌乾き及び痛む ・ 煩心し心痛む・黄疸し・腸澼す・脊股内後廉痛み,痿厥し,嗜臥,足下熱痛す
 [発熱・のぼせ・口渇, 咽喉痛・胸痛・黄疸・下痢・疲労感・関節痛,筋肉痛]

 以上の結果より、推測される疾患名は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

 TTPは、肺を除く、抹消の細小動脈(特に脳、腎)が血小板によって閉塞することで発症します。TTPの古典的5大徴候は、溶血性貧血・血小板減少性紫斑病・発熱・精神神経症状・腎機能障害です。
 後天性TTPでは、疲労感、吐き気、筋痛が先行し、発熱,貧血,出血,精神神経症状として、意識障害,錯乱,麻痺,失語,痙攣,知覚障害,視力障害・頭痛・血尿・蛋白尿などが起きます。
 血小板の減少による出血傾向によって、些細な打撲程度で紫斑を生じます。また、ほぼ全ての患者に、点状・斑状の皮下出血斑が自然発生的に生じます。その他、鼻出血、歯肉出血、性器出血も見られます。
 記述された症候を検討しますと、先行する症状としての疲労感,筋痛、溶血性貧血によると推測される、黄疸,立ちくらみがあり、発熱症状・精神症状として、錯乱,譫妄、咳による出血、顔色の黒は紫斑によるものか、腎不全によるものかは不明ですが、何れも本症の症状です。但し、腎障害については明確な記載はありません。腎障害を示す症候ははっきりしませんが、そもそも腎臓には特徴的な症状は乏しく、また、内経当時には腎機能の認識は未だ無かったため、腎障害の症状を鑑別して分類することは困難であったと思われます。さらに、5大徴候とは言え、これらの症状が全て揃うことは稀であり、厳密に疾患名を特定することのみに固執することは危険でもあります。
 以上の結果、医学的確定診断は困難ですが、ほぼ本症の要件は満たされているものと判断しTTPの可能性が高いと結論しました。症候の解釈に恣意的側面があるとの批判はあるものと思われます。無論、古代の記述のみによる診断には自ずと限界があります。そのことを踏まえた上でも、これらの症状群を特定の疾患の症状として認識したものと判断しました。

9. 手の厥陰心包経

是動病および[推測される医学的症候]
手心熱し・腋腫れる・甚だしければ胸脇支満し,心中憺々として大いに動く・面赤く目黄ばむ・臂肘攣急し,喜笑して休まず
[発熱・リンパ節腫脹・ 胸痛,心悸亢進・発熱・黄疸・小舞踏病]

所生病および[推測される医学的症候]
 煩心し,心痛し・掌中熱す
[胸内苦悶感・胸痛・発熱]

 以上より、推測される疾患名はリウマチ熱。

 胸痛,心悸亢進等を心炎によるものと推測し、「臂肘攣急,喜笑して休まず」は、四肢,顔面の不随運動と判断して小舞踏病とすると、リウマチ熱の大症状の2つが揃います。多発性関節炎と思われる症状は記載されていませんが、小症状の内、発熱、感染症によるリンパ節腫脹と思われる記述があります。また、うっ血性心不全によると思われる、黄疸症状も記載されています。従って、リウマチ熱と判断しました。

 次回、10.手の少陽三焦経につずく。





「是動病・所生病」とは何か-3 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の病候の診断

 4.足の太陰脾経

是動病および[推測される医学的症候]
舌本強ばる・食すれば嘔し, 胃脘痛み,腹脹り,善く噫す, 後(大便)と気(放屁)とを得れば快然として衰うるが如く・身体は皆重し
[脳血管障害・ 嘔吐,上腹痛,膨満感,噯気, 大便,放屁にて軽快・易疲労感]

所生病および[推測される医学的症候]
 舌本痛み・体は動揺すること能わず・食下らず・煩心し,心下が急に痛む・溏し瘕泄し・水閉じ・黄疸し・ 臥すこと能わず,強いて立てば股膝の内腫れ,厥し,足の大指用いられず
[口腔内潰瘍・脳血管障害・嚥下困難,胸内苦悶,心窩部痛・水様性下痢・尿閉・黄疸・筋痛,関節炎,末梢神経炎]

 以上の症候群より、推測される疾患名は結節性多発動脈炎(“医道の日本誌”への報告では、以前の分類である“結節性動脈周囲炎”と診断)が考えられますが、確定は困難です。
 
 現在の診断基準では、組織所見(中・小動脈フィブリノイド壊死性血管炎の存在)と主要項目2項目(全部で10種)以上で“確実”とされ、2項目以上と血管造影所見(腹部大動脈分枝の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞)の存在、または、主要項目の「発熱」を含む6項目以上で、“疑い”となっています。組織所見・血管造影は不可能ですから、主要6項目が必要となります。
 医学的に解釈した症候を検討すると、舌が強ばる、体を動かせないことを脳血管疾患による運動障害、消化器症状を腸閉塞、胸部苦悶感、心窩部痛を胸膜炎、心膜炎・虚血性心疾患・心不全など、尿閉を腎不全によるもの、筋痛、関節炎で、一応6項目となります。
 但し、必須の症状と言える“発熱”の記述がないことには大きな問題があります。心膜炎・虚血性心疾患の判断も決め手に欠けていますが、仮に、心窩部痛と嚥下障害を食道潰瘍によるものとすると他の症状は説明できません。また、心膜炎でも嚥下障害は起きることがありますので、胸部の苦悶感と合わせ、心疾患であると判断しました。胸膜炎は、乾性では胸痛を初発としますが、浸出性の場合は、倦怠感はありますが、発熱、せきと、胸水を疑わせる記述もないため決め手には欠けます。
 従いまして、結節性多発動脈炎と確定するには無理があります。本症は、全身の諸臓器に分布する血管の炎症であるため、症状は極めて多彩です。臨床的にも、各症状の発症が極めて流動的で一定の形式がないため、これらの症状群を本症によるものと判断することは困難であったと思われます。それでも、繰り返し言いますが、これらの症状群を特定の疾患単位で認識している事実は重要です。逆に、これらの症状群を同時に充たす疾患を想定すると、本症である可能性が最も高いと思われるのです。

 5.手の少陰心経

是動病および[推測される医学的症候]
 嗌が乾く・心痛み・渇して飲まんと欲す是れを臂厥と為す
 [口渇(ショック)・胸部痛・ショックによる喝]

所生病および[推測される医学的症候]
 目黄となる・脇痛み,臑臂の内後廉が痛む, 厥し,掌中熱し痛む
 [黄疸(心不全による)・関連痛・発熱・関連痛]

 以上の症候群より、推測される疾患名は心筋梗塞

 心臓に由来する胸部痛と脇・上腕内側への関連痛があり、さらに、口渇,黄疸を心不全によるものと推測すると、心筋梗塞の可能性が最も高くなります。

 6.手の太陽小腸経
      
是動病および[推測される医学的症候]
 嗌(咽喉)痛み・頷(顎のつけ根)腫れ,顧みることができない・肩抜かれたるに似る,臑折れたるに似る
 [咽喉痛・耳下腺の腫脹・関節炎]

所生病および[推測される医学的症候]
 耳聾・頬腫れる・目黄ばむ・頚,頷,肩,臑,肘,臂の外後廉痛む
 [難聴・頬部腫脹・黄疸?・関節炎,多発性神経炎]

 以上の症候により、推測される疾患名は流行性耳下腺炎

 発熱の記述はありませんが、喉の痛みから感染症が疑われ、顎のつけ根や頬部の腫脹より本症が考えられます。関節炎,聴力障害,多発性神経炎,脊髄炎は頻度は少ないものの、本症の合併症状です。黄疸も頻度は少ないのですが、肝臓への侵襲も時に認められ生じます。

 7.足の太陽膀胱経

是動病および[推測される医学的症候]

 頭に衝いて痛む・目が抜けるに似る・項が抜けるが如く, 脊が痛む・腰が折れるに似る・髀曲げるに可ならず,膕結ぶが如く・踹裂けるが如く,踝厥なり
 [頭痛・項部痛・腰痛・四肢関節痛・腓腹筋痛]

所生病および[推測される医学的症候]
 痔・瘧・狂,癲疾す・頭,顖,項痛む・目黄ばみ・涙が出る・鼽血刀 ・項,背,腰,尻,膕,踹,脚皆痛み,小指用いられず
 [血便・発熱・意識障害・頭痛,項部痛・黄疸・鼻出血・項部痛,関節痛,筋痛]

 以上の症候より、推測される疾患名は黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)

 発熱,頭痛,腰痛,腓腹筋痛,四肢の関節痛,鼻出血,結膜充血(不明快)は、本症の第1期症状として全て相合します。特に、項部と腓腹筋の強い痛み,鼻出血は特徴的である。第2期症状としての、黄疸,意識障害,血便も記載されています。3主要徴候は、黄疸,出血及びタンパク尿ですが、尿検査は不可能であるためタンパク尿は確認できません。それでも、症状は全て一致していること。また、この他の症状として、悪心,嘔吐,腹痛,血痰,喀血,性器出血もあり、本症の特徴は網羅されているので確実性は高いと言えます。



「是動病・所生病」とは何か-2 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の各病候の診断

1.手の太陰肺経

是動病の病症及び、推測される[医学的症候]

 肺脹満・ 膨々として喘咳す(胸が張り,喘息し咳嗽す)・欠盆の中が痛み甚だしければ両手を交えて瞀(精神錯乱)す・これは臂厥(上肢の逆冷)なり・ 咳・上気喘(のぼせ)・渇煩心(渇して胸苦しい)・胸満・臑臂の内前廉(上腕内側,前腕前橈側*)痛み,厥し,掌中熱す
[胸部膨満感・呼吸困難・咳嗽・鎖骨上痛・意識混濁・チアノーゼ]

所生病の病症及び推測される[医学的症候]

 気盛にして余り有れば、肩背痛み,風寒汗出でて中風す・小便数にして欠す・ 気虚なれば、肩背痛み,寒え,少気以て息するに足らず ・ 溺色変ず
[咳・胸内苦悶感・上肢痛・発熱・肩背痛・寒熱往来・風邪・小便頻繁・あくび・寒気・呼吸困難・尿色の変化 ]

 以上より、推測される疾患名は肺炎。
 悪寒、発熱の急性発症で、咳・胸背痛・呼吸困難・さらに重症度の指標となる、チアノーゼや意識の混濁と思われる記述があることより、肺炎(細菌性?)であると思われます。喀痰の記述がないので、乾性の咳、呼吸困難を主症状として発症する“びまん性間質性肺炎”も考えられます。喘息も完全には否定できませんが、発熱があるので感染症が主体であると考えられます。また、内経以前の文献には既に、“喘息”の記述が存在しますのでほぼ間違い無いと思われます。

 2.手の陽明大腸経

是動病の病症及び、推測される[医学的症候]

 歯が痛む・頚が腫れる
[歯痛,(歯肉腫脹?)リンパ節腫脹]

所生病の病症及び、推測される[医学的症候]

 目黄ばむ・口が乾く・鼽(鼻塞)・血丑(鼻血)・喉痺す・肩,前臑(前腕橈側)痛,大指の次の指が痛くて用えない
 [黄疸(溶血性貧血?)・発熱による?・出血傾向・扁桃炎・四肢の関節痛]

 以上より、推測される疾患名は急性白血病(但し、確定は困難)
 歯痛や鼻血を他の症状とセットで認識している点に注目しました。これらの症状は、歯肉腫脹,出血傾向と判断し、リンパ節腫脹,扁桃炎,四肢の関節痛,腫脹が同時に認められ、尚かつ重篤な疾患であると推測し、白血病である可能性が高いと考えました。但し、血液検査ができない状況で、症状のみで診断することは無理があります。さらに、死の転帰については記述がないこと、また、本症は高熱と高度の貧血を以て発症しますので、黄疸を溶血性貧血によるとしても、口喝のみで発熱と断定することには無理があります。それでも、これらの症状を特定の疾患として重視して記述していることを考慮すると可能性は十分あると思われます。

 3.足の陽明胃経

是動病及び、推測される[医学的症候]

 洒々として振寒す・善く呻き(うめき)・数々欠す(あくび)・顔黒し・「 病至るときは人と火を悪み,木の声を聞くときは掦然として, 驚く,心動ぜんと欲し,独り戸を閉じ牖を塞いで処る,甚だしきときは高きに上って歌い,衣を棄てて走る 」・賁響し,腹脹す,是を骭厥という
[悪寒・尿毒症による?・「」内全体で、精神分裂様症状・胃腸障害]

所生病及び、推測される[医学的症候]

 狂瘧温淫・汗が出・口口咼・鼽(鼻塞)血丑(鼻血)・唇胗(口唇に瘡,口内炎)・ 頚腫,喉痺(扁桃炎)・大腹水腫・膝賸腫痛・循るに膺,乳,気街,股,伏兎,骭外廉,足跗上が痛む,中指が用えない・気が盛なれば,身の前が皆熱となる・胃に有余すれば,消穀にして善く飢え・尿色が黄なり・気不足すれば,身の前が皆寒慄し,胃中が寒なれば脹満す
 [高熱による意識障害・発熱・顔面神経麻痺・口腔,鼻咽頭潰瘍・リンパ腺腫脹,扁桃炎・胸水,腹水・ 関節炎・ 胸痛(胸膜炎)・多発性関節炎・発熱・胃腸症状・ビリルビン尿?・腹水]

 以上より、推測される疾患名は全身性エリテマトーデス(SLE)。但し、医学的確定は困難ですが、可能性は十分あると思われます。

 SLEは抗DNA抗体を中心とする、多彩な自己抗体(自己免疫異常)によるⅢ型アレルギー(免疫複合体)機序を主体とした病態を特徴とする疾患です。全身性の多臓器障害性の疾患であり、現代医学においても、診断のための絶対的指標は存在しません。
 診断特異性の高い臨床症状はないことに加え、「内経」編纂当時は各種臨床検査も当然不可能でしたので、SLEの症状として分類選別することは不可能であったと思われます。それでも敢えてこの様に推測したのは、記述された症状の全てが、1人の人間の症状として同時期に(時間幅はあっても)そろう疾病は他には考えられないからです。もし仮に、私の推測が正しいとすると、症候の分析能力は相当優れていたと言えます。
 記述の症状を、精神分裂様症状,鼻血,口内炎は口腔,鼻咽頭潰瘍、胸痛は胸膜炎、下肢の痛みは多発性関節炎によるものと推測すると、口腔内の潰瘍、関節炎、胸膜炎、神経学的病変(痙攣発作や精神障害)によって、SLEの診断基準の項目の内、4項目を満たすため診断できることになります。
 他の項目には、顔面紅斑、円盤状皮疹、光線過敏焦、腎病変(ループス腎炎)、血液学的異常(溶血性貧血または白血球減少)、免疫学的異常(LE細胞、抗2本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗カルジオリピン抗体など)がありますが、検査を必要とするものは無論不可能です。
 胸部痛を胸膜炎と推測した根拠は『素問』「脈解篇」の記述にあります。「脈解篇」はそもそも『太素』巻八の「経脈之一」の中の「経脈連環」「経脈病解」及び「陽明脈解」の三篇の内の「経脈病解」が「脈解篇」と題されて『素問』に収められたものと言われており、『霊枢』「経脈篇」中の各経脈の病症を病理学的に説明したものの母体と考えられています。この文中に「所謂胸痛少気者.水気在臓腑也.水者.陰気也.陰気在中.故胸痛少気也」と、胸水による呼吸困難,胸痛が記されていることによります。顔面の蝶形紅斑の記載がないことは疑問ですが、典型的な形での出現はむしろ少数であり症状の一部として認識できなかった可能性が考えられます。腹水,リンパ節腫脹もSLEの症状として報告されています。
 但し、これらの症状が全て,同時に発症する訳ではなく、現代医学に於いても最終的にSLEと診断されるまでには種々の診断名をつけられ、誤診される患者さんも多く存在します。症状のみで本症を推測することは決して簡単ではありません。私の判断が正しいとするならば、相当長期的な観察と高い洞察力を必要としたはずです。

 4.足の太陰脾経につずく

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。


「是動病・所生病」とは何か-1 [黄帝内経の疾病観]

 鍼灸学の「経絡」には、その各々に特徴的な“病候(病変、症状)”があり、これを「是動病・所生病」として記述しています。私は、「是動病・所生病」とは、単一の疾患を認識して分類したものであると考えています。従って、各経絡の病候は、その記述された病症を医学的に診断可能であると判断しました。

 未だ、医科学の無い時代であったため、病症を“臓腑経絡概念”という一種の機能的複合体の変動として捉えて分類したものと推測されます。歴史的には諸説あるものの、一般的には、「是動病」は経絡の病状、「所生病」は臓器の病状として分類したものと考えられていますが、基本的には明確な区別はされていません。一般的には、経絡の走行領域に散発的に現れた症状を書き記したものであり、分類された症状群には相互に関連性はないと考えられています。これまでの研究も、記述された病症の一部についての医学的解釈はありましたが、特定の疾患・症候群として体系的に詳しく検証したものはありませんでした。従って、臨床的に利用されることもほとんどありません。 

 現在、中医学に於ける疾病分類は西洋医学の様々な病名による診断ではなく、“臓腑経絡弁証”や“八綱弁証”といった症候による分類であり、独特の診療思想を形成しています。臓腑弁証の雛形は漢代に形成され、『難経』や『金匱要略』の中の「臓腑経絡先後病脈証」に見られます。しかしながら、この体系は中医学の形成期から現代に至るまで変わることなく継承されている訳ではありません。

 私はこれまでに、「経絡」解釈の誤謬とその手法の問題点にいて書いてきました。今回は、中医学の草創期の疾病分類について、「黄帝内経霊枢」の“経脈篇”に記された「是動病・所生病」を医学的に診断し、これまでの通説を否定した私の報告(是動病・所生病の医学的解釈による経脈病候の検討(1)医道の日本誌.2003.Vol.62 No.12.147-153. 同 (2) 2004. Vol.63.2. 97-101.)から簡単に述べます。

 私は、是動病・所生病は、現代医学のような病名こそありませんが、特定の疾病の症状として正しく認識して分類しているとの印象は以前からもっていました。この考えによって、「経脈篇」に記述された症状から診断を試みていますので、やや解釈が恣意的な側面もあります。また、2千年以上も前の記述のみで診断することは無謀でもあります。しかしながら、これまでの内経の検証作業の経験から、疾病のその症候のパターン認識は相当高度であり、観察力、分析力は現代医学にも匹敵するものがあったと考えています。

 私が診断した病名の中には、相当確率が高いと思われるものからやや無理があるものまで、確実性には程度の差がありますが、それはこの作業の限界として受け止めて下さい。それでも、『霊枢』「経脈篇」が書かれた時代の疾病観を再検討することは、中医学の草創期の病態認識とその後の鍼灸学の形成過程を知る上で重要であると考えています。

「是動病・所生病」の診断結果

 先ず、正経十二経脈の病候として記された、「是動病・所生病」について医学的に診断を試みた結果を示します。()内には、私自身の印象として、診断の確実性、問題点を簡単に書いています。

1.手の太陰肺経  = 肺炎(ほぼ確定)
2.手の陽明大腸経 = 急性白血病(確定困難)
3.足の陽明胃経  = 全身性エリテマトーデス(診断学的確定困難、可能性高)
4.足の太陰脾経  = 結節性多発動脈炎(2005年に、結節性動脈周囲炎より分類変更。確定困難)
5.手の少陰心経  = 心筋梗塞(ほぼ確定)
6.手の太陽小腸経 = 流行性耳下腺炎(ほぼ確定)
7.足の太陽膀胱経 = 黄疸出血性レプトスピラ症:別名ワイル病(ほぼ確定)
8.足の少陰腎経   = 血栓性血小板減少性紫斑病(可能性高)
9.手の厥陰心包経 = リウマチ熱(ほぼ確定)
10.手の少陽三焦経 = 扁桃炎及び中耳炎の合併(ほぼ確定)
11.足の少陽胆経  = 腺熱またはトキソプラズマ症の可能性も有(いずれかにほぼ確定) 
12.足の厥陰肝経   = フィラリア症(ほぼ確定)

  以上の結果を疾患の種類によって分類すると、以下のようになります。

 感染症・寄生虫症
肺炎(肺経),流行性耳下腺炎(小腸経),黄疸出血性レプトスピラ症(膀胱経),扁桃炎(三焦経),腺熱(胆経),フィラリア症(肝経)
 膠原病
  全身性エリテマトーデス(胃経),リウマチ熱(心包経),結節性多発動脈炎(脾経)
 血液・造血器疾患
  急性白血病(大腸経),血栓性血小板減少性紫斑病(腎経)
 循環器疾患
心筋梗塞(心経)

 一般的解釈では、「是動病・所生病」とは各経絡の走行経路に現れた散発的な症状を列挙したものとして認識されています。しかしそれは誤りで、経絡の走行とは無関係な症状も含まれています。さらに、私の診断が正しければ、そもそも経絡とも多くは無関係です。この説明は後で詳しく書きます。

 正経十二経脈(手の太陰肺経~足の厥陰肝経までの12種)の病候として分類された「是動病・所生病」に記された病症の現代医学的解釈と、診断は次回以後に書いていきます。

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

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