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三叉神経刺激は脳灌流障害治療の切り札となるか [鍼治療の臨床]

脳血流(CBF)は通常、脳灌流圧(CPP)と脳血管抵抗(CVR)によって決定されます。 さらに、CVR 自体は血管拡張の程度、抵抗、血液粘度に依存します。 脳は主に血管径と全身動脈圧の変化に依存して CBF を維持していますが、病的状態ではこれらの正常な恒常性維持機構が損なわれています。

したがって、血管拡張または平均動脈圧(MAP)を上昇させてCPPを改善し、CBFを高めることによって虚血性疾患の予防および、リスクのある組織を温存して神経回復に寄与することができます。 しかし、これまでに提案された脳灌流を改善するための薬理学的戦略は成功しておらず(Brott and Bogousslavsky、2000; Prabhakaran et al.、2015; Lawton and Vates、2017; Anghinah et al.、2018)、そのほとんどはわずかな利益さえ示せていません。つまり現状では、薬物治療は破綻しています。

そこで注目されたのが、三叉神経への刺激です。CBFの神経因性制御と三叉神経を介した自己調節は、脳血管拡張の誘発、脳の自己調節の回復、および脳灌流の改善に利用できる可能性があるとして特に期待されています。

三叉神経は最大の脳神経であり、橋から生じ、三叉神経節で 3 つの枝 (眼神経、上顎神経、下顎神経)に分岐して顔面、硬膜、および頭蓋内血管の大部分を支配しています (Kumada et al., 1977; DeGiorgio, et al., 2011)。

さらに、経皮的な操作のために簡単にアクセスできるポイントを備えています。 また、脳幹の血管運動中枢、特に吻側延髄外側部(RVLM)に直接接続しています(Kumada et al., 1977; Goadsby et al., 1996; DeGiorgio et al., 2011)。

この様な期待から、灌流障害の状況下において、恒常性を回復するために電気刺激(TNS)を介して三叉神経を利用することについての有望な初期報告があります(Salar et al., 1992; Atalay et al., 2002; Shiflett et al., 2015; Chiluwal et al. 2017; )。

つまり、薬物療法では改善しないと認識したのです(遅すぎる)。但し、私個人としましては電気刺激には反対の立場ですが、、。

三叉神経による脳血流制御のメカニズムとして。

(1) 逆行性経路: 三叉神経の感覚枝は顔の大部分に広がり、その刺激によって三叉神経節に由来する経路が活性化され、神経伝達物質の逆行性放出、血管拡張、CBFの増加が引き起こされます(Goadsby et al., 1988; Mense, 2010; Goto et al., 2017)。 非常に強力な血管拡張薬であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP) は、おそらくこの血管拡張作用を駆動する神経伝達物質であると考えられています (Edvinsson et al., 1987)。三叉神経節におけるCGRP濃度が高いことを考えると、CGRPは神経節内で産生され、その後脳血管周囲の自由神経終末に輸送されて血管拡張を引き起こし、CVR を低下させてCBFを増加させると考えられます (Messlinger, 2018)。

(2) 三叉神経副交感神経経路: 三叉神経からの求心性感覚神経の刺激により、顔面神経およびSPG との相互作用を介して脳血管系の副交感神経血管拡張が引き起こされます。
三叉神経が広範囲に広がっていることを考えると、他の脳神経と交差して重なり合うことは驚くべきことではありません。これにより、三叉神経の刺激がこれらの交差する脳神経を交差刺激できる可能性があります。 そのような神経の1つは顔面神経であり、その枝は蝶口蓋神経節(SPG)で三叉神経と交差し、場合によっては脳幹と交差します(Tubbs et al., 2005; Nturibi and Bordoni, 2020)。また、一部の脳血管に分布しています。

三叉神経からの求心性感覚神経の刺激は、顔面神経および SPG との相互作用を介して脳血管系の副交感神経血管拡張を引き起こします (Lambert et al., 1984)。 免疫組織化学的研究は、CGRPを含む感覚ニューロンがSPGに存在することを実証していますが(Csati et al., 2012)、副交感神経線維はアセチルコリンを含む血管作動性分子を放出することがわかっています(Ebersberger et al., 2006)。

このように、顔面神経の刺激と SPG の活性化が脳血管疾患を保護する可能性があります (San-Juan et al., 2019)。

(3) 中枢経路: RVLM の活性化は脳血管拡張を引き起こすだけでなく、MAP の増加を誘導し、CBF の増加につながります。
三叉神経の眼部(V1)は、額の皮膚だけでなく、大部分の脳血管や硬膜の神経を支配しています。 三叉神経の眼枝に由来する鼻毛様神経には中大脳動脈(MCA)に対する主要な血管拡張性神経支配が含まれています(鈴木ら、1989年; 保坂ら、2016年)。その刺激により、PACAP、サブスタンスP、CGRPなどの自由神経終末由来の血管作動性神経ペプチドが放出されます(Atalayら、2002年;Gürelikら、2004年;Ayajikiら、2005年)。 明らかに、V1 の刺激は、上で議論した 3 つのメカニズムすべての活性化により CBF の増加を誘導します。

興味深いことに、上矢状洞に沿った硬膜の刺激は CBF の上昇につながり、これは三叉神経節のみが刺激された場合よりも相対的に増加します (Goadsby および Duckworth、1987)。 さらに、実験的外傷性脳損傷の設定では、三叉神経の眼部の鼻毛枝の刺激によりCBFと脳組織の酸素化の両方が増加する可能性があり(Chiluwal et al., 2017)、SAH後のTNSはその効果を保持することが実証されています。重要なことは、CBFの増加と血管拡張の所見がヒトで予備的に観察されており、V1領域の疼痛刺激による血管径の増加(Mayら、2001年)と眼窩上神経の電気鍼治療によるCBFの増加(Suzukiら)2020)。 CBFの増加が実験的病理学的モデルで証明されており、CBFの増加が健康なヒトでも観察されていることを考慮すると、V1の刺激が有望な治療標的であると考えられます。

上顎部 (V2)は中顔面および上口唇上の皮膚を支配し、髄後角および RVLM への突出を維持します (Panneton and Gan、2020)。 CBFの変化における三叉神経の上顎部門の役割を扱った論文はほとんどありませんが、以前の研究で、てんかんの状況におけるV2刺激の臨床的有用性が実証されています(DeGiorgio et.al.2003, 2006, 2009, Pop et al.2011; Gil-López et al. 2020)。 リーらは(2019)、上顎神経の眼窩下枝の刺激が、中枢性血液量減少の状況において脳灌流の改善につながることを実証しました。 この動物モデルでは、眼窩下神経の刺激により MAP と CBF が増加して脳組織の酸素化が向上しました。 さらに、後の実験(Li et al., 2021)では、観察されたCBFの増加は血管拡張を介して媒介され、脳CGRPレベルの増加と関連していることが示されました。

三叉神経節 頭蓋底に位置する三叉神経節(ガッセル神経節)は、三叉神経のすべての枝から感覚入力を受け取り、その後多数の脳幹核に投射します(Kumada et al., 1977; DeGiorgio et al., 2011)。 実験モデルにおける三叉神経節の直接刺激は、CBFの増加と全身血圧の低下につながることがわかっています(Lang and Zimmer, 1974; Goadsby and Duckworth, 1987; Salar et al., 1992; Goadsby et al., 1997)。 神経節を刺激すると、CVR と頸動脈流の周波数依存的な減少が観察されていますが、上矢状洞の刺激は脳循環内の抵抗の減少をもたらし、頸動脈流への影響は無視できます (Goadsby et al., 1997)。神経節の刺激がCBFの増加と血圧の低下をもたらしたことを考えると、CBFの上昇の要因は血圧の上昇ではなく脳血管拡張である可能性が高いと言えます。

但し、三叉神経の 3 つの枝すべてが同じ神経節に影響を与えますが、刺激に対して同じ効果が生じるわけではありません。

三叉神経刺激の潜在的な効果、脳灌流の調節におけるその役割、さまざまな刺激標的の感受性、そしてこれらの効果が実際に有意に脳を保護するかどうかについて、さらに多くの研究が必要であることは明らかです。

これまでの多くの研究で、TNS による CBF の制御が実証されており、さまざまな脳灌流障害に対する CBF の潜在的な適用可能性についての将来の研究を構築するための基本的な枠組みが提供されています。 三叉神経の刺激は、正常な状態と病的な状態の両方で脳灌流に明らかに重大な影響を与えます。 しかし、灌流障害を改善するための具体的なアプローチは不明です。 臨床応用するためには、様々な障害に即した適切な刺激部位や刺激法の選択など、各疾患状態に対してどのようなパラメータが最適であるかを確立することが重要です。

さらに言えば、上述したような都合の良い反応はいずれも短時間の効果であり、刺激を続けた場合に継続する保証はありません。途中で反応が低下するか、期待する効果とは違う反応が起きることも考えられます。

医師が三叉神経刺激に注目するのは、先述したように、もはや薬物療法で改善させることは期待できないためです。三叉神経は手の届くところに分布しており、安全で効果的に刺激できるだからです。それは同時に、鍼灸師にとっても有望な手段であると言えます。

ほとんどの臓器疾患に言えることですが、薬物治療を駆使しても根本的に回復させることは不可能であり、対症療法を行うか臓器の負担を軽減しているに過ぎません。この現実を医師は真摯に受け止めるべきであると思います。

尚、このレビューには記されていませんが、三叉神経は皮膚知覚だけではなく咀嚼筋も支配しています。私は、側頭筋や咬筋などへの刺激によってレビー小体型認知症患者の歩容が改善し、表情も良くなることを経験しています。さらに、パーキンソン病やその他の脳疾患に対する治療効果も期待されます。

出典文献
Trigeminal Nerve Control of Cerebral Blood Flow: A Brief Review
Timothy G. White, Keren Powell, Kevin A. Shah, Henry H. Woo, et al.
Front Neurosci. 2021; 15: 649910.
Published online 2021 Apr 13. doi: 10.3389/fnins.2021.649910

小児感染症の“重篤なサイン”は役に立つ [鍼治療の臨床]

小児の重症感染症を診る際に、診断的価値のある“臨床症状:red flag”を検討した報告があります。4種類のred flag以外にも、“両親の心配”や”臨床家の直感”もred flagとして挙げられており、興味深いところです。
  
*red flag sign

1) チアノーゼ  : (陽性尤度比range 2.66—52.20)
2) 頻呼吸    : rapid breathing (1.26—9.78)
3) 末梢循環不全 : poor peripheral perfusion (2.39—38.80)
4) 点状発疹   : petechial rash (6.18—83.70)

(陽性尤度および陰性尤度を計算して、尤度5.0以上をred flags、、尤度0.2未満を除外サインとしての陰性尤度としています。)

*親の心配 : Parental concern (陽性尤度比 14.40, 95% CI 9.30—22.10)
*臨床医の直感 : clinician instinct (陽性尤度比 23.50, 95 % CI 16.80—32.70)

発熱40度以上は単独では重篤なサインとは言えないが、重篤な感染症の可能性を排除し、他の症状と組み合わせることによって有効。

例: 肺炎の場合、子供に息切れが無く、両親から見て心配が少なければ尤度は低い(陰性尤度比 0·07, 95% CI 0.01—0.46)。

*Yale Observation Scaleは、重症感染症としての確定には価値は少なく (陰性尤度比 range 1.10—6.70)し、除外価値も少ない (陰性尤度比 range 0.16—0.97)。

チアノーゼは大人の肺炎でも重症のサインですし、その他の疾患の際にも重要な徴候となっています。末梢循環不全の症状においてもチアノーゼは重要な症状の1つですので、重複している様にも感じられます。末梢循環不全の症状を整理しますと。

・血圧下降、
・安静時の心拍数が速い
・冷や汗
・四肢末端のチアノーゼ、
・皮膚冷感・蒼白、
・脈拍微弱、
・尿量減少(乏尿)、
・意識障害などを生じる。

注意: 原因となる疾患によって、他の症状も現れます。

1)~4)の症状は、一般的な成人も含めて重篤なサインとして記憶しておくと役に立ちます。

*この記事は、以前に書いていたもう1つのブログから移したものです(2010-02-06 13:39:27 )。

出典文献
Diagnostic value of clinical features at presentation to identify serious infection in children in developed countries: a systematic review
Ann Van den Bruel , Tanya Haj-Hassan,Matthew Thompson, Prof Frank Buntinx, Prof David Mant,
The Lancet, Early Online Publication, 3 February 2010
DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)62000-6

デクエルバイン病(手首周辺の痛み)の話 [鍼治療の臨床]

 母指周辺に生ずる痛みの原因として、筋、腱、腱鞘に起因する疾患は頻度が高く鍼灸の臨床においても頻繁に遭遇します。これらの疾患の1つに、de Quervain 狭窄性腱鞘炎(デクエルバイン病)があります。1895年にde Quervainによって報告された本症は、日常の臨床で頻繁に遭遇する疾患です。
 
 本症は、橈骨茎状突起部の第一背側コンパートメントにおける、長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の摩擦により生じた機械的炎症です。この両腱の間に隔壁(The intracompartmental septum)が存在する場合があり、この隔壁が危険因子になることが報告されています。この隔壁は本症患者の42%~ 91%に認められ、一般的な死体解剖における 20%~40%の存在に比べて明らかに多くなっています。また、隔壁が存在する場合には保存的治療で治りにくいことも報告されており、超音波検査はこの隔壁を検出する有効な方法です。
 
 一方、X線検査は、本症に対してルーチンに行われることはありませんが、橈骨遠位端には茎状突起にspikesや骨減少症などが見られることが報告されています。但し、これらの異常は治療結果には影響しないとされています。

症状と周辺の疾患について

 本症の症状は手首橈側(親指側)付近の痛みで、橈骨茎状突起部に腫脹と圧痛がみられます。橈骨茎状突起部では、橈骨茎状突起炎(enthesopathy)でも同様の症状がみられますし、このすぐ尺側の、第2背側コンパートメントには、短母指および長母指伸筋腱鞘炎が起きますが、本症との併発例もみられます。また、手の関節より4cm程近位にはIntersection syndromeがあります(図示)。その他にも、母指およびその周辺には母指のバネ指、ガングリオン、橈骨遠位端巨細胞腫、母指CM関節症、橈骨神経浅枝の絞扼性神経障害(絞扼性神経障害の鍼灸治療で説明済)などの疾患があります。

 局所の触診を丁寧に行い、運動器疾患の診察法を基本通りに行えば鑑別に苦慮することは少ないと言えます。本稿では、デクエルバイン病を中心にして診断法と治療法を説明し、周辺に痛みを起こす疾患として、橈骨茎状突起炎・Intersection syndrome・短母指および長母指伸筋腱鞘炎の症状と鑑別法も簡単に説明します。

診察について

 運動器疾患における診断の基本は、第1に、疼痛発生の過程を的確に聴取する。第2に、触診によって圧痛部位を確認する。第3に、自動・他動運動や抵抗下の自動運動による疼痛の誘発を確認することです。但し、一般的に腱鞘炎は中年女性に多いのですが、この場合には指の使いすぎなどの誘因が無いことが特徴ですし、妊娠などでも発症し易くなります。
 
 診断の決め手は「圧痛」と「Finkelsteinテスト」で、手術患者95例における陽性率はそれぞれ100%と99%(麻生ら)でした。圧痛は、橈骨茎状突起部の長母指外転筋腱と短母指伸筋腱上にあります。橈骨茎状突起炎(enthesopathy)でも同様の症状がみられますが、Finkelsteinテストは陰性であるため、鑑別できます。
 
 長母指外転筋腱と短母指伸筋腱のどちらが炎症を起こしているかを調べるテストがあります。それぞれの筋の働きを考えれば分かることですが、長母指外転筋は母指の外転を、短母指伸筋は伸展動作に働きますので、それぞれの動作を行えば疼痛が誘発される訳です。これは、“岩原-野末の徴候”と呼ばれるテストに応用されており、手関節を最大掌屈位にして行います。陽性率は75%と言われていますが、私の経験では、このテストが臨床に役立ったような印象はありません。僅か数ミリの範囲ですが、ほとんどの場合、処置は2本の腱のそれぞれに行う必要があるからです。尚、この局所への処置がずれていますと効果はありません。

 私は以前、自分の指を使って、抵抗下に母指の外転と伸展をして長母指外転筋腱と短母指伸筋腱を触診しましたがうまく判別できず、その理由が分からないままおりました。最近になって、超音波画像にて、隔壁が無い場合には2本あるはずの腱が1本の塊となって描出されるものが報告されています。私の場合がこのケースであると考えられますが、隔壁が無い人の全てが1本なのか、また、実際に腱が1本なのかも不明です。

 何れにせよ、私の経験の範囲では、正確な局所への処置で著効が得られています。
 
診断の要点と鑑別法

・デクエルバイン病

圧痛:橈骨茎状突起部で長母指外転筋腱と短母指伸筋腱上
Finkelsteinテスト:陽性(母指を軽く握り込ませ、手関節の他動的尺屈にて痛みを誘発)
筋の状態:長母指外転筋と短母指伸筋に緊張、硬結有
鑑別:橈骨神経支配領域の皮膚知覚の確認( 橈骨神経浅枝の絞扼障害の鑑別)  

・橈骨茎状突起炎

 本症は、腕橈骨筋の付着部症(enthesopathy)です。
圧痛:橈骨茎状突起基部外側、腕橈骨筋付着部、母指伸筋腱の掌側
Finkelsteinテスト:陰性

・Intersection syndrome

 軋音性腱周囲炎の1つです。長母指外転筋および短母指伸筋の筋腹と長・短橈側手根伸筋が、交差する部位で機械的摩擦によって炎症を起こしたものです。地方によっては「そらで」あるいは「こうで」などと呼ばれています。手作業を誘因として発症し、手の関節や母指の動作で痛み、「ギシギシ」とした軋轢音を感じます。
圧痛および疼痛部位:手の関節より約4cm近位の筋腹と腱の交差部位
Finkelsteinテスト:陰性

・短母指および長母指伸筋腱鞘炎

 第2背側コンパートメントにおける、短母指および長母指伸筋腱の狭窄性腱鞘炎。
圧痛および疼痛:デクエルバイン病の部位の尺側に疼痛、
疼痛のテスト:Finkelsteinテストは陰性、抵抗下の手関節の背屈(伸展)で疼痛誘発

鍼灸治療法について

 治療は、それぞれの腱鞘炎の発症に関与している筋の緊張を緩和することと、炎症局所への処置が中心となります。
 筋への施鍼は該当する経穴もしくは運動点に対して行いますが、原則的に置鍼はせず、散鍼します。尚、該当する筋線維の確認は、刺鍼した状態でそれぞれの指などを伸展させて鍼の動きを見れば確認できます。圧痛部へは「刺絡および抜罐法」を行います。この処置の正確な作用機序は不明ですが、コンパート内の圧の軽減や、何らかの抗炎症効果が考えられます。施術直後に誘発テストを行い、疼痛の軽減を確認します。効果が不十分であれば、ポイントがずれているか、炎症範囲が広いことが考えられますので、再度、圧痛点を確認して同様の処置を行います。私の治療法では通常数回の治療で軽快します。これは、腱鞘炎一般に言えることですが、炎症部位が同時に複数存在するか、広範囲におよぶもの、または手術後に癒着している場合などはその程度によって異なります。

注意)

 炎症局所への置鍼、または温熱療法や電気刺激は治癒を遅らせるだけではなく、多くは悪化させますので禁忌です。これらの治療はほとんどの整形外科や鍼灸院で行っていますが、炎症局部への置鍼、電気・温熱刺激は火に油を注ぐ行為と同じであり、理学療法の常識からみても本来あり得ないことです。長期間の通院で軽快しない患者さんのケース(私のブログへの質問の多く)がこれに相当します。また、局所へのステロイド注射は、抗炎症効果は強いのですが繰り返し行いますと腱そのものを弱くします。

 尚、引用文献は省略しました。
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肩関節周囲炎は棘上・棘下筋のenthesopathyが圧倒的に多い [鍼治療の臨床]

 私は、棘上筋および棘下筋の付着部症(enthesopathy)が、肩関節周囲炎(五十肩)の原因疾患の中で最も多いと考えています。enthesopathy の提唱者であるNiepelも、肩関節周囲炎における大結節付着部および、三角筋の肩峰付着部のennthesopathyの重要性を指摘しています。前田らは、肩関節周囲炎の内62.2%がenthesopathyであると報告しています。
 
 また、私が考案した、付着部症(enthesopathy)への基本的刺法(ET鍼)によって、安定した治療効果が得られることも根拠の1つになっています。 

 肩関節周囲炎は、多くの人が知っているありふれた疾患ですが、その割には、全ての患者さんが満足の得られる様な確実な治療法は以外にありません。整形外科等でも、石灰沈着性腱板炎の様に注射が著効を示す場合を除けば、自然治癒まかせの印象があります。私も、開業後10年程は試行錯誤を重ねていました。

 その要因として、五十肩(肩関節周囲炎)は複数の疾患の総称であること,原因が明確でない場合も多い,症状の程度も個人差が大きいなどが考えられます。原因疾患としては、肩峰下滑液包炎・腱板炎・上腕二頭筋腱腱鞘炎・石灰沈着性腱版炎・烏口突起炎・付着部症・絞扼性神経障害や第2肩関節の通過障害・関節拘縮としては、烏口上腕靱帯や肩峰下滑液包の癒着もあります。

 私も、開業当時は滑液包炎や絞扼性神経障害(腋下神経)などを想定して治療を行っていましたが、確実な効果は得られませんでした。また、私見ですが、滑液包炎の急性期では局所の腫脹が強いのですが、自発痛の割には運動制限は少なく、ADLの支障はあまりないとの印象をもっています。また、烏口突起炎も運動制限はあまりないと思われます。第2肩関節の障害は、関節拘縮の明確な患者さんを除けば、ほとんど関与していない様に思われます。

 整形外科の歴史でも、肩関節周囲炎に至るまでには、この疾患は100以上の病名で呼ばれてきました。因みに、五十肩という名称は本来は医学用語ではありません。知られている範囲では、最も古い文献は江戸時代の『俚言集覧』という雑学書に記述されています。

 私は、肩峰下滑液包炎や腱板炎が多いとする従来の説に疑問を抱いていました。この頃既に、私が考案した“ET鍼”によって、オスグッド病やテニス肘に対して高い治療効果が得られていました。その後、肩関節周囲炎の患者さんも、大結節における棘上筋および棘下筋付着部の炎症が中心であると判断し、ET鍼を行うようになりました。現在は本症に対して、明確で安定した成績が得られています。一般の鍼灸書による、肩関節周辺の経穴への刺激では明確な効果は得られません。
 
棘上筋・棘下筋のenthesopathyの診断と刺法

1)診断法(棘上筋・棘下筋)
 
棘上筋
supraspinatus test: 患者は、前腕回外位(手掌が上向き)で、肩関節90度屈曲位置から挙上するよう力を入れ、試験者がこれに抵抗を加えて、痛みの誘発を診る(このtestは、上腕二頭筋腱鞘炎の診断法であるSpeed testと共通していることに注意)。
 肩関節90度外転位で、他動的に上腕を外旋すると痛みを誘発する。逆に、内旋に抵抗を加えると痛みを誘発する。
 圧痛は、上腕骨大結節上部前面を中心にし、時に小結節にも有。

棘下筋
infraspinatus test: 同様に、回内位での挙上に抵抗を加えて痛みの誘発を診る。その他も、棘上筋の逆パターンになります。圧痛は、私の観察では、大結節の隆起の中心よりも、後縁に現れます。
  
注意)上記の鑑別法は従来の考えとは逆になっています。私の方法は、望月らによる、腱版停止部の解剖知見を参考にしています。
 簡単に説明しますと、従来の認識とは異なり、棘上筋の停止部が大結節上面に占める割合は少なく、大半を占める厚い腱性部は前方の1/3に位置します。また、小結節にも付着する場合もあります。これらの付着部と筋の走行より、その作用点は、上腕骨の長軸方向に一致する回旋軸よりも前方になります。従って、いずれの姿位においても内旋運動が主作用であると推測されます。
 棘下筋の腱性部も従来の認識とは異なり、大結節上部の上面前方部から中面にかけて広範囲に停止しています。

 この知見は重要で、従来、腱板断列は棘上筋を重視していましたが、寧ろ棘下筋の損傷が多いものと予想され、腱版損傷の患者を診療する際には注意が必要です。

治療法
 刺法は、以前に紹介した、enthesopathyに対する“ET鍼”を行います。刺入ポイントは、大まかな目安として、棘上筋では、肩峰の前方の角から末梢に2横指の部位の圧痛点(棘上筋点)に取穴します。(上腕二頭筋腱鞘炎が合併している場合もあります)
 棘下筋では、肩峰先端の前方と後方の角を底辺とする正三角形の頂点付近で圧痛点(棘下筋点)を探り、取穴します。(ここは大結節隆起の後縁付近に当たりますが、あくまでも目安であることと、坐位と背臥位では骨頭位置は変化することも考慮する必要があります。 

 この他には、小円筋の付着部症も見られます。この場合には、上記の誘発テストは陰性です。extension, horizontal adduction で痛み、圧痛点は棘下筋付着部のやや下にあります。

図 棘上筋・棘下筋・小円筋の走行と付着部および刺入ポイント
(右肩を、坐位の状態で側方向から、三角筋を透視する様に描いた模式図です)
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追伸
本症は、最近出版した「附着部障害の鍼治療 ;2016年8月」にも記されています。詳しくは、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

引用文献
1) Niepel GA, et al : Enthesopathy. Clin Rheum Dis 5: 857-872, 1979
2) 前田徹 他:肩関節における退行変性に対する考察.臨床整外 26: 675-681, 1991
3) 望月智之 他:腱版停止部の新しい解剖知見.整・災外 50: 1061-1068, 2007
4) Sharkei NA et al : The entire rotator cuff contributes to elevation of the arm. J Orthop Res 12: 699-708,1994
5) Zilber S et al : Infraspinatus delamination dose not affect supraspinatus tear repair . Clin Orthop 458: 63-69, 2007

絞扼性神経障害の多重発症 [鍼治療の臨床]

 胸郭出口症候群、筋皮神経およびStruthers’ Arcadeによる尺骨神経の多重障害と思われた症例について。

 絞扼性神経障害(Entrapment neuropathy)は、鍼灸の臨床においても頻繁に遭遇する疾患です。また、これらの患者さんの中には、単一の神経が重複して絞扼される重複性絞扼性神経障害(Double crush syndromeまたは Double lesion neuropathy)が少なからず存在します。
 Double crush syndrome はUptonら1(1973)によって提唱された概念で、単一の神経の1点でsubclinicalな絞扼があり、その末梢にさらなる軽度の絞扼が加重した場合には、軸索流の障害が増して神経の易損性を生じ臨床症状を呈するというものです。
 この仮説は、根本らによるイヌの坐骨神経を用いた実験でも証明されており、彼らはcrushという表現は適切ではないとして double lesion neuropathyという名称を提唱しています。
 
 今回は、胸郭出口症候群に烏口腕筋貫通部での筋皮神経の絞扼と、Struthers’ arcadeによる尺骨神経の絞扼 が合併したと思われた症例について述べます。
 これまでの筋皮神経麻痺の報告例は、外傷か手術時の損傷によるものが多く、絞扼性神経障害による症例は少ないようです。
 Struthers’ arcadeによる尺骨神経麻痺は、尺骨神経溝における遅発性の尺骨神経麻痺に対する神経の前方移行術の際に、この腱弓が存在する場合にはこの部位で新たな絞扼が起こる可能性があると、Spinnerによって指摘されています。特発性の本症は、投擲競技のスポーツ選手などの報告例が散見される程度です。
 この症例のように、複数の神経が明確なかたちで急性発症した症例の報告は記憶にはありません。神経伝導速度の測定や筋電図などの検査を行うことはできませんので確定診断はできませんでしたが、愁訴と知覚障害の分布.諸テストの結果と治療結果を総合して、可能性は高いものと考え鍼灸の専門誌に(医道の日本誌65; 86-91.2006)報告したものです。

Struthers’ Arcadeによる尺骨神経の絞扼性神経障害とは

 Struthers’ arcade(腱弓)はStruthers(1854)によって初めて報告されたものです。その後、Kane,Kaplan,Spinnerらは剖検にて20肢中14肢(70%)に存在を認めたと報告しています。この腱弓(図1)は上腕骨遠位部の深層筋膜が肥厚したものと、上腕三頭筋内側頭の浅層筋線維および内側上腕靱帯の付着部とにより構成されています。 従来この腱弓の臨床的意義は、尺骨神経溝における遅発性尺骨神経麻痺に対する前方移行術の際、この腱弓が存在する場合にはこの部位での新たな絞扼障害が起こる可能性があると、Spinnerによって指摘されたことにあります。しかしながら、臨床的には投擲競技のスポーツ選手や、重量物を抱えて支えるか挙上する作業を行う人などに、この腱弓の裏面を通過する尺骨神経の絞扼障害が散見されます。
 症状は、肘・前腕内側の疼痛としびれ感を訴え、時に上腕内側にも疼痛が及びます。上腕骨内側上果より約8㎝近位の上腕二頭筋・上腕筋の後側で腱弓部に圧痛とTinel’s signを認めます。知覚障害は、内側前腕皮神経支配域以下の支配域に生じます。経験上、軽症例が多いのですが、最近では、突然に掌側骨間筋の運動麻痺を起こして来院した症例も経験しています。

筋皮神経の絞扼性神経障害とは

 筋皮神経は腕神経叢の外側神経束より起こり、烏口腕筋へ分枝しこれを支配した後、本幹は烏口腕筋を貫通(図1)します。その後、上腕二頭筋と上腕筋へ分枝した後、後外側前腕皮神経となり前腕外側の皮膚知覚を支配します。
 筋皮神経麻痺の報告例はその多くが外傷か手術時の損傷によるもので、絞扼性障害は極めて少なく、これまでに筆者が知り得た報告例は9例(報告時点).のみです。しかしながら、頻度は少ないものの、重量物の支持・挙上などの動作や、スポーツ選手の投球動作,ボート漕ぎなどを誘因として発症した軽症例が散見されます。

絞扼性神経障害(entrapment neuropathy)の基本的鍼治療法(先述)

1.絞扼に関与する筋群の緊張緩和を目的とする刺鍼
2.entrapment point(絞扼点)への刺鍼(emancipate method)
 
 特発性と思われる絞扼性神経障害の患者のほとんどに、絞扼に関与する筋群の過緊張や硬結を認めます。神経が筋を貫通する部位や筋の縁での絞扼であれば、この筋の過緊張は直接的に誘因となります。また、fibrous bandやosseofibrous bandでの絞扼であっても、神経に接して通過する筋・腱の過緊張がtunnel内部のうっ血による内圧の亢進,神経と筋・腱とのglidingや伸延性を制限して、間接的に誘因となることが推測されます。したがって、これらの筋群の緊張緩和処置は、軽症例に対しては即効的であり根治的な治療法とも言えます。
 entrapment point(絞扼点)に対する処置として、私が行っている刺法は、刺入後鍼先に抵抗を感じた時点で小刻みに捻鍼し、筋などの索状物の絡みつく抵抗を感じたならばこれを緩めずに速やかに小振幅に引き上げる手技である(EM)。また、fibrous bandやosseofibrous band部位に対しては深く刺さず浅刺して、抜鍼後抜罐法を併用します。
 運動麻痺の筋や知覚障害を起こしている部位への刺鍼は積極的には行っていません。現時点では、神経回復を促進する直接的な効果はないと考え、原因に対する治療を中心としています。また、運動麻痺筋に対する低周波電気刺激については賛否両論ありますが、私は否定的立場であり行ってはいません。
鍼治療による著効例は神経変性に至っていない段階で、神経束内の静脈環流障害を主因とする一種のminiature compartment syndromeと思われ、私の治療法は、総合的には除圧効果が中心と考えています。

症 例

患者 :73歳.女性.無職
家族歴・既往歴:特記すべきことなし。神経の易損性を引き起こす内科的疾患もない。
現病歴:2週間前より特に誘因もなく、前腕内側から手にかけてしびれ感が発症した。1週間程経過した頃、庭の草取りをした翌日に疼痛が出現し、痛みは上腕内側より前腕内・外側に及び、しびれ感も増悪した。また、肘関節の伸展で前腕尺側に痛みが誘発されるため完全には伸ばせない状態となった。夜間痛が強くたびたび覚醒するため熟睡できない。  箸をうまく使うことができないため、おにぎりやパン食にしている。
これまでに数カ所の医院を受診し、電気治療や温熱療法を受けたが効果がなく、昨日、傍内科(?)にて腕神経叢ブロックを受けたが効果なく、痛みが増悪したため当院を受診した。これまでの病院では、原因についての検査は全く行っておらず、昨日の医院でも、頚椎.上肢の診察はせず、血圧測定後直ちにブロックを行っている。したがってこれまでに原因・診断名は全く説明されていないとのことである。
現 症:Jacson’s compression test(-),Spurling’s test(-),Wright test(+),肩関節外転.50°で脈が消失するためAllen testは不可,水平外転にて上腕内側と指先に痛みが誘発されたが、これは、大胸筋および烏口腕筋の伸展が刺激となっているものと考えられた。Morley’s sign(+),Adson test(+),Halsted test(+)であった。斜角筋群に異常な過緊張と硬結を認め、大胸筋にも過緊張が認められた(図2)。知覚は橈骨・正中・尺骨神経の全ての領域で痛覚が7割程度に鈍磨していたが、4・5指の掌側でDIPjの末梢と、前腕前尺側および橈側の一部にhyperalgesiaを認めた。箸の操作にぎこちなさを感じるとのことで巧緻動作の障害も疑われたが、筋力には明確な低下は認められず、Cross finger test.Egawa徴候.Wartenberg徴候いずれも正常であった。上腕部の触診では、烏口腕筋を中心に上腕筋および上腕三頭筋内側頭上部に及ぶ異常な過緊張・硬結と圧痛を認めた。さらに、筋皮神経の烏口腕筋貫入部と思われる部位と、Struser’s腱弓の存在は周辺の緊張が強く判然とはしないものの、この付近には特に強い硬結.圧痛とTinel様徴候が認められた。肘関節の伸展による前腕尺側への痛みの誘発は、上腕筋の伸展がStruthers’ arcadeに対し何らかの刺激となっている可能性が考えられた。痛覚が過敏であった領域は筋皮神経の終末枝である前腕外側皮神経支配域と尺骨神経支配域であった。肘部管,手根管および橈骨管には異常は認められなかった。
以上の所見より、頚椎症による神経根症,肘部管症候群,手根管症候群,および橈骨管症候群は否定され、胸郭出口症候群に筋皮神経の絞扼性神経障害とStruser’s arcade付近での尺骨神経の絞扼性神経障害の多重発症が考えられた。
治療 :鍼治療は筋の硬結・過緊張の緩和を目的として、中斜角筋に対しては後天窓(私穴)へ散鍼,上腕筋へは硬結部へ散鍼,烏口腕筋およびStruthers’arcade付近のentrapment pointへはEM,.上腕筋・上腕三頭筋内側頭への散鍼,大胸筋へは中府と、小結節上の硬結部位への散鍼を行った。また、補助穴として督兪.天宗.承山.尺沢へ留鍼した。
 これらの治療法を基本として行ったところ、翌日、第2診の来院時にはしびれ感は消失し、痛みは5/10に軽減していた。痛みは第3診後消失したが、dullnessがあり、箸はまだ使いにくく、手を握った際に違和感が残るとのこと。第4診時点で前腕のhyperalgesiaは消失したが、違和感は1/10程度残っている。肩関節外転80°で脈は消失する。第7診後違和感は消失し、箸の使用に不便は感じられないとのこと。痛みおよびしびれ感も全くない。斜角筋と上腕内側にまだ若干の硬結・緊張は残るものの、ほぼ軽快と判断して定期的な治療は終了し、今後しばらくは注意して経過観察を行うよう説明した。また、今後は少しずつADLを広げるとともに、上腕のストレッチを行っていくことを指導した。
 一週間後、腰痛にて来院。上肢の状態は良好とのことだが、未だ怖いので家事は極力控えめにしているとのこと。斜角筋と大胸筋に軽度の緊張と圧痛を認めるが、Wright test,Adoson test,Morley’s signはいずれも陰性であった。上腕では、烏口腕筋を中心に上腕二頭筋後側に軽度の緊張と圧痛を認めたが、症状はないとのことであった。腰痛の治療にこれらの筋群への散鍼を加えた。以後、再発はない。

 重複性絞扼性神経障害は少なからず存在しますが、この患者さんは極めて稀なケースでした。無論、手術的に内部を確認した訳でもなく、神経伝導速度や筋電図の検査も行っていないため推測の域を出ないことは否めません。しかし、伊藤らは、本症の診断に最も有効なことはこの病態の存在を知ることであると指摘しています。
 これらの疾患は胸郭出口症候群.肘部管症候群および頚椎症による神経根症状として誤診されていることが予想され、実際は、認識されている以上に多く存在するものと思われます。
本症例は、胸郭出口症候群の中でも、斜角筋群の過緊張とMorley’s testの陽性Adoson testの陽性から斜角筋症候群が考えられますが、Wright testが強陽性であることから、烏口突起下で小胸筋と胸壁の間または肋鎖間隙における圧迫や、大胸筋の緊張も強いことから、大胸筋と上腕骨頭間での圧迫も考えられました。 
 胸郭出口症候群はその疾病としての名称は有名ですが、病因は複雑で病態も曖昧な点が多く、各種の誘発テストは正常者でも10~30%弱の陽性率18.19.があり、誘発テストのみでは確定はできません。したがって、あくまでも胸郭出口症候群の可能性は高いと推測し、他覚的に過緊張が認められた筋に対し治療しました。
 今回の症例は胸郭出口症候群に、筋皮神経とStruthers’ arcadeにおける尺骨神経の絞扼性神経障害が合併した多重発症と思われました。各々の絞扼部位での筋の過緊張を確認し、これらの筋群への刺鍼にて著効が得られたことより、病態に対する判断の正当性はあるものと考えています。但し、ある一カ所の絞扼によって神経が過敏になるなどの、何らかの反応によって他の部位の誘発テストが陽性になることもあり得ます。また、頚椎症性脊髄症や癌の脊椎転移の患者で、末梢神経へのブロックの有効例もあるため、治療的診断にも問題点.はあります。

 本症例は一般的には極めて稀な症例であり、私の病態判断が直ちに正当化されるかについては、意見は分かれると思われます。日常の診療においては、subclinicalか極軽症の絞扼性神経障害に、頚椎症や腰椎疾患が合併したものと思われる患者にしばしば遭遇します。このような患者さんは、誤診ないしは見過ごされていることも少なくありません。この患者さんも、数カ所の医療機関で原因についての診察・検査が全く行われておらず、医学的な情報も得られませんでした。このような状況は最近増加しており、医師の質の低下は危惧される問題です。
 我々鍼灸師には公的な意味での診断権はありませんが、治療に際しては正しい病態判断は必要不可欠です。医学的な病態判断に基づく、鍼灸師にとっての診断学が必要であると考えています。

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追伸

2015年3月に、「絞扼性神経障害の鍼治療」を出版しました。本書は市販はしておりませんが、個人的に販売しています。詳しくは、カテゴリの「出版のお知らせ」を見てください。

 引用文献
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伊藤恵康ら:スポーツ選手にみられるStruthers’ Arcadeによる尺骨神経のentrapment neuropathy,臨床スポーツ医学.14;795-798.1997.
Kane. E. et al.:Observations on the course of the ulnar nerve in the arm, Ann. Chir.27;487-496.1973.
Spiner.M. et al.:The relationship of the ulner nerve to the medial intermuscularseptum in the arm and its clinical significance.,Hand8;239-242.1976.
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Mastaglia FL:Musculocutaneous neuropathy after strenuous physical activity.Med J Aust145;153-154,1986.
矢吹省司ほか:筋皮神経のentrapment neuropathyの1手術例,整・災外33;525-528,1990.
管 俊光:大胸筋による胸郭出口症候群の1例,整外45;266-267,1994.
立石昭夫:胸郭出口症候群の診断と治療,日整会誌54;817-827,1980.
片岡泰文:胸郭出口症候群の病態,日整会誌68;357-366,1994.
貞廣哲郎ほか:上肢のentrapment neuropathyにおける胸郭出口症候群の問題点,整・災外29;1729-1735,1986.

絞扼性神経障害の針灸治療(emancipation method : EM) [鍼治療の臨床]

 私が考案した、絞扼性神経障害(entrapment neuropathy)に対する基本的治療手技を紹介し、具体例として、橈骨神経の絞扼性障害(radial tunnel syndrome)について説明します。
 
 絞扼性神経障害(entrapment neuropathy)は、Kopell ,Thompson(1963)らによって提唱された概念です。本症は、末梢神経が、靱帯や筋起始部の腱性構造物などにより形成された線維性または骨線維性のトンネル内で、圧迫など何らかの機械的刺激を受けて生じる限局性神経障害を総称したものです。
 
 末梢神経はその走行中に複数の箇所で結合織性固定をうけるため、これらの部位では神経自体の伸延性に乏しく、圧迫などの機械的刺激によって損傷を受けやすいことが知られています。このような部位は全身に多く存在するため、日常診療において比較的頻繁に見られる疾患です。
 通常は自然発生的な絞扼によるものを指しますが、外骨腫やガングリオンによる神経障害も、entrapment pointが発症因子となっているとの観点から広義には本症に含めています。また、本疾患を発生させる内因性の要因として、妊娠、出産、更年期障害を含めた内分泌異常、代謝性疾患、アルコールやシンナー中毒などがあります。

病態

 本症の神経障害(Seddon1943の分類)は、非変性型のneurapraxiaからWaller変性型障害(axonotmesis, neurotmesis)におよぶ移行型がみられます。また、neurapraxiaには3種類の障害があると言われています。第1は、絞輪部での阻害を伴う電解質の不均衡によるもの。第2は、神経上膜における静脈環流障害による神経束内の毛細血管での酸素欠乏状態。第3は、圧迫剪断力による神経線維の構造上の変化をもたらす機械的なもので、これには2つの基本的な超微細構造変化があります。第1の型は、絞輪間部分の部分的先細りを伴う髄鞘の球状変化であり、第2は、Ranvier傍絞輪部の重積嵌頓です。
 本症の成因としては、Fullerton, Lundborg, Ochoaに代表される、機械的圧迫を主因とする説と、SunderlandやGarvanによる、血行障害を主因とする説に分かれています。Garvanは、慢性の閉塞性障害での大径有髄神経線維の減少は繰り返し起こる阻血によるとしています。これに対し、Nearyは、subclinikal(症状が現れていない段階)な症例においてすでに髄鞘の形態的変化が生じていたことより、機械的変形が主因であると主張しています。 

一般的症状
 
 本症の症状は、絞扼された神経の支配領域の疼痛やしびれ感であり、疼痛部位は漠然として患者自身正確に指摘できない場合も多い。運動神経が障害された場合には症状の進行によっては運動麻痺が起こります。安静時痛や夜間痛も特徴です。絞扼部位によっては、特定の肢位や運動方向が症状と関連します。長期間症状が続いている者でも、途中に無症状の期間があり再発を繰り返すことがしばしばあります。
 同一の神経が複数の部位で絞扼される重複性絞扼性神経障害(Double lesion neuropathy:根本)もしばしば認められます。1973年、UptonとMcComasは手根管症候群や肘部管症候群の115例中85例(70%)に頸椎症性神経根症を合併していたと報告し、double crush hypothesisを提唱しました。1983年、根本は軽微な圧迫によってsubclinical neuropathyに陥っている神経幹は、圧迫部以遠の新たな圧迫に対し易損性であることを実験的に証明しました。原因としては、軸索流の障害により同一神経の遠位部ではさらに障害されやすくなると考えられています。臨床上、頚部神経根症.胸郭出口症候群およびGuyon管症候群との合併はまれではありません。私の経験でも、腰痛に梨状筋症候群や腓骨管症候群が合併する患者はsubclinicalな症例を含めるとかなり多いのではないかとの印象をもっております。

一般的所見

1)患者が訴える部位には通常圧痛はない
2)固有神経支配領野に知覚障害を認める
3)絞扼点に圧痛やTinel’s signを認める
4)運動神経では障害の程度により、運動障害を認める
5)外傷や手術後の瘢痕による障害でなければ、絞扼点は各神経によりほぼ一定している
6)特定の肢位や運動方向で痛みが誘発.増悪する(症候性でないことの証明)。
7)絞扼に関与する筋の緊張・硬結の存在

entrapment point(絞扼点)

1)筋・筋膜貫通部、
2)筋・腱の縁、腱弓(arcade of Frohse , Struther’s arcade など)
3)筋間の膜様構造物
4)fiblous band
5)osseofibrous tunnel
6)外骨腫、ガングリオン、種子骨(fabella)
1)その他(蛇行する血管や静脈瘤による圧迫、筋膜上・関節包・骨表面のどでの癒着

針治療法

★ 特発性の本症では、筋の異常な緊張spasmが直接・間接的に関与しているため、これらの筋の緊張緩和を基本目的とします。(1~5に共通).総腓骨神経の絞扼にfabellaが要因となっている場合でも、筋の緊張が間接的に刺激や圧迫に関与しているため、これらの筋への施鍼は有効です。
 運動麻痺の筋や知覚障害部位への施鍼によって、回復が促進されるかは現時点では不明です。
★entrapment pointへの施鍼(私が考案した方法、2~5に共通)
 本症への治療はこの刺法が中心となります。絞扼点を性格に求め、刺入により抵抗を感じた位置で小刻みに施捻し、筋などの索状物が巻き付く感覚を得た場合は緩めずに、そのまま速やかに小振幅に引き上げるものです。通常は垂直に刺しますが、Morton病ではentrapment pointである中足骨頭間へ施鍼する際、神経を避けるように垂直方向よりもやや内側か外側に針先を向け刺入してこの刺法を行います。
 絞扼部位・状態によっては、抜針後に刺絡抜罐法を併用することでより効果的な場合があります。但し、抜罐法は4.5.などの絞扼点が皮膚から浅い位置にある疾患で、一種のcompartment syndromeの状態にあるか、炎症を併発している場合に効果的と考えています。例として、足根管症候群の足根管部位や屈筋支帯.伸筋支帯下での絞扼に対する施針などです。
 6.7.の場合、基本的に針治療は無効ですが、先述したようにfabellaが存在していても治療効果は期待できます。鍼治療が無効かすぐに再発する場合はガングリオンなどの何らかの占拠性病変か器質的要因が強い状態が予想されます。針治療は、保存的治療の有効性の判断と同時に、診断的価値もあります。
 慢性絞扼性神経障害の実験モデルの研究では、発症の引き金は、神経-血液関門の破綻であり、完成した病態は一種の慢性的なminiature compartment syndromeであると言われています。鍼治療の作用機序は不明な点も多いのですが、私が行った針治療で多くの症例が著効を示したことより、これらの症例は、神経の障害の分類ではNeurapraxiaに相当しSanderlandの第1度障害と思われます。中でも、神経上膜における静脈環流障害が主因と考えられ、
 私の針治療法は、絞扼された神経周囲の環境に対する総合的な除圧効果による静脈環流障害の改善と、骨線維性のトンネル内や筋膜貫通部での神経のglidingの改善に寄与しているものと推測されます。

治療上の注意

 鍼灸院での本症のは軽症例が多く、診断と治療が正確であれば治療効果は高く早期に軽快します。しかしながら、中には重度の運動麻痺を起こした手根管症候群などの患者が来院することもあります。特に、運動麻痺がある場合は障害の程度を正しく診断して針治療の適否を判断することが求められます。痛みやしびれ感が速やかに軽快したならば、絞扼要因の軽減が期待でき筋力の回復を待ちます。Sunderlandによる1度損傷であれば数週以内に筋力は回復するはずであり、2度損傷(axonotmesis)では、筋位筋で2~4ヶ月を要します。この場合、Tinel’s signの抹消への伸展が神経再生の目安になります。神経再生の速度は1日1~4㎜です。この程度の障害までが保存的治療の限界と考えるべきです。経過観察を慎重に行い回復の徴候の有無により針治療の継続の是非を判断し、必要があれば専門医へ紹介し手術を勧めることも必要になります。
 実際には、同一神経幹内には種々の程度に変性した神経線維が混在しているため、分類が困難なこともあります。また、神経には吻合や分岐の破格も多く、典型的な麻痺症状を示さない不全型も多く存在することも留意すべきです。

橈骨神経の絞扼性神経障害(本幹.後骨間神経・Radial tunnel syndrome)

 本症は、Capener ,Somerville,Kopellらによって難治性テニス肘の原因として報告され、その後、Roles,MaudsleyらによってRadial tunnel syndromeとして報告されました。Wernerは肘外側痛の5%が本症であると報告しています。

解剖・原因 (図を参照))
 橈骨神経本幹の外側上腕筋間中隔貫通部、またはその手前のfibrous arch部でも起こります。腕橈関節裂隙付近で分岐した神経は、短橈側手根伸筋の線維性辺縁と回外筋入り口のarcade of Frohseや、この直前を横切る反回動静脈などによっても圧迫されます。また手術による報告では、橈骨小頭の直上で線維脂肪組織および関節包との癒着によるものもあります。

診断
 多くは肘外側の疼痛を訴えますが、前腕背側や手背.中指背側基部の痛みを主訴とする場合もあります。肘関節から4~5㎝遠位の橈骨神経上に圧痛があり、Tinel’s signを認めることで診断します。深枝では皮膚知覚支配域はないので知覚検査は使えません。(皮膚知覚はありませんが、橈骨手根関節より手根中手関節背側靱帯の知覚を支配するため、この付近の痛みを訴えることもあります)抵抗下の回外や手関節伸展で痛みが再現されます。運動麻痺は長・短母指伸筋.固有示指伸筋.総指伸筋.小指伸筋.尺側手根伸筋などに起こりますが、通常はまれです。
 Middle finger testは Roles(1972)らがradial tunnel syndromeのテストとして提唱しましたが、診断上の特異性はなく、Wernerも指摘しているようにテニス肘との相関性が高いと思われます。


 異常感覚性手有痛症(橈骨神経浅枝・cheiralgia paresthetica ・Wartenberg’s 病)
 本症は、橈骨神経浅枝(知覚枝)の単独障害で、1932年にWartenbergが提唱した疾患名です。


解剖・原因
 橈骨神経は上腕筋と腕橈骨筋の間を経て肘窩に達します。筋枝および関節枝を分枝した後深枝と浅枝に分岐します。浅枝は分岐後は腕橈骨筋に被われながら前腕外側を下行し、前腕中1/3と遠位1/3の境界付近で腕橈骨筋腱と長橈側手根伸筋腱の間を通って深筋膜を貫き皮下に出ます。その後、橈骨茎状突起のやや近位で2本に分かれ、手関節付近でさらに細かく分かれて手背および指背の近位に分布しこの部分の知覚を支配します。
 伸筋群の強い収縮や前腕の回内・回外.手関節の尺屈などの動作の繰り返しによって、深筋膜や腕橈骨筋腱により絞扼されます。

診断
 橈骨神経浅枝支配域内に限局した知覚障害とentrapment pointにTinel’s sign認めることで診断.前腕の回内で痛みやしびれは増強もしくは誘発されます。de Quervain氏病を鑑別します。本症でもFinkelstein’s testが陽性となる可能性があるので注意する必要があります。圧痛点の違いを正確に調べ、橈骨神経深枝および本幹の絞扼の有無も確認します。

鑑別すべき他の疾患

de Quervain狭窄性腱鞘炎
 1895年スイスのde Quervainにより報告されました。橈骨茎状突起部と伸筋支帯第1区画とで囲まれた、長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の摩擦により生じた機械的炎症です。
Finkelsteinテストは、本症に特有なもので、母指を握りこませ、手関節を他動的に尺屈させると疼痛が誘発されます。岩原-野末の徴候では、手関節最大屈曲において、自動的に母指最大外転(APL)と母指最大伸展(EPB)を行わせ疼痛の誘発を調べます。

Intersection syndrome
長母指外転筋と短母指伸筋の筋腹が長・短橈側手根伸筋腱と交差する部位(手関節より約4㎝近位)の軋音性腱周囲炎です。地方によっては「そらで」.「こうで」などと呼ばれています。

橈骨茎状突起炎
 腕橈骨筋の付着部炎で、Finkelsteinテストは陰性です。

 一般に、不定の疼痛やしびれ感などの愁訴は、その原因を中枢である頸椎や腰椎に求めやすいため、他の疾患と誤診されている患者さんも多く見かけます。この原因として、特定の有名な絞扼性神経障害を除けば、診断の際に本症を鑑別にあげないこと、また、X線などに頼り過ぎて局所の診察が不十分なことが考えられます。
 臨床的には、問題を引き起こす部位はほぼ決まっており、この疾患を念頭において診察することで診断は比較的容易です。また、手術を必要とするような重症例は少ないため、治療が適切であれば比較的に即効性が認められます。本稿は「全日本鍼灸学会東京地方会講演」の際の、配布用資料として作成した原稿の一部を示したものです。


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追伸

2015年3月22日に、「絞扼性神経障害の鍼治療」を出版しました。市販はしていませんが、個人的に販売しています。詳しくは、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

筋・腱の付着部症(enthesopathy)の鍼治療法 [鍼治療の臨床]

 筋や腱に関連する障害に「付着部症(enthesopathy)」があります。臨床においては、筋・腱の障害よりもむしろ、これらの組織の骨への付着部の障害が多く見られます。以下の文章は、私がenthesopathyに対する共通する治療法を考案し、2004年に鍼灸の専門誌に報告した際の原稿を、2006年に「全日本鍼灸学会東京地方会」での講演用配布資料として手直したものの一部です。少々古いことと、一般向けではありませんが、これに関連した疾患の鍼灸治療法も今後ブログに書いていこうと思い、準備として掲載することにしました。
 少々長いことと、聞き慣れない言葉が多いとは思いますが、興味ある方は読んで下さい。

Enthesopathy(付着部症)の鍼治療
 
  はじめに
 筋・腱に関わる障害の好発部位として、筋・腱の骨への付着部(Enthesis)がある。Enthesisのような組成や構造に違いのあるものの接点は、筋・腱そのものよりも損傷が生じやすいことは臨床的にも体験されることである。Enthesisを病変の起こりやすい場と考え、構造上の単位として捉え、1つの疾患概念として認識したものが enthesopathy1である。 
 Enthesisは各運動器の単位である関節の周辺で、腱や靱帯が骨膜や繊維軟骨を介して骨皮質に結合する場であり、組織的な特殊性に加えて、運動器関連組織の中でも最も多くの物理,化学的ストレスを受けるため、損傷を引き起こし易い部位である。enthesopathyは以前は疾患概念として十分に認識されていなかっただけで、全身のあらゆる部位に起こる疾患であり、多くの疾患が包括される。 enthesopathyは、その発生要因によって炎症性(enthesitis),外傷性(機械性),退行性などに分類される。これらの中でも、外傷性(機械性)enthesopathyは鍼灸院でも日常診療でよく遭遇する疾患が多く、筆者はこれらの疾患をenthesopathyの概念で捉えることによって、共通する能率的な治療法があるものと模索し試みてきた。その結果、これらの疾患に対し共通する基本的な鍼療法を構築できたので紹介し、若干の私見を述べたい。
 
 ⅠEnthesisとEnthesopathy
 1.Enthesis
 Enthesisはもともとギリシャ語で、英語ではinsertionと解され、整形外科領域では筋・腱・靱帯の骨への付着部を意味する言葉として使用されている。Niepelら2 はこの部位を解剖学的に1つの構造単位であると述べ(図-1)、七川3 は機能的,病理学的な単位として認識できるとしている。小島ら4 はEnthesisでは豊富な知覚性神経繊維が複雑な神経叢を形成しており、一般知覚のみならず靱帯の伸びを感受するような働きをし、アミン作動性交感神経線維やsubstanse P含有神経線維が神経網を形成し、前者は循環・コラーゲン代謝の調整および炎症の発症に関与し、後者は温痛覚刺激の感受および炎症の発現・増悪に関与すると述べ、Enthesopathyとの関連性について指摘している。
 また、腱・靱帯の付着部の周囲には、滑液包(burusa)や脂肪性結合組織が多く見られ,この脂肪性組織内には豊富な血管と神経組織があり症候性要因となっている。このように、腱・靱帯の付着部に隣接する滑液包とその壁を構成する組織全体をentthesis organとして捉える考えもある。
 2.Enthesopathy
 enthesopathyは前述したように、Enthesisに発生する加齢現象,障害および疾患の総称であり、頭蓋骨を含むほぼ全身の骨に発生し、種々の疾患が包括される(表-1)2。その発生要因によって炎症性,外傷性(機械性),退行性等に大別される。炎症性enthesopathy(enthesitis)には慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、Reiter症候群、クローン病、ベーチェット病等が含まれる。
 退行性enthesopathyでは、加齢に伴い、腱線維の変性や骨増殖によってenthesophyteを形成する。好発部位は、 踵骨,膝蓋骨上下極,腸骨稜,大腿骨転子部等である。
 enthesopathyは以前は付着部炎として訳されることが多かったが、厳密には病理組織像としての炎症性変化を伴うものばかりではなく、退行性変化や外傷性変化のよるものが多く、従って、炎症性変化に基づくものを付着部炎(enthesitis)とし、付着部症(enthesopathy)の一形態として捉えるべきと言われている。 
 外傷性(機械性)enthesopathyは、職業上の障害やスポーツ障害などによるものが多く、over useによるEnthesisへの過剰な負荷が誘因となると考えられている。その病理は主として、非石灰化線維軟骨層での亀裂.縦断列.微少外傷とその修復像が初期病変と考えられている。この外傷と修復のバランスが崩れることで症状が生じ、その後、肉芽形成.石灰化.骨化と器質的変化が進行する。さらに、enthesis organの構成要素である腱・靱帯深層にみられる種子状線維軟骨(sesamoid fibrocartilage)と、相対する骨膜性線維軟骨が繰り返し衝突することで両組織の表層に層状編成や脱落が生じ、結果的に滑液包炎を引き起こす。
  代表的な疾患では、テニス肘、ジャンパー膝 ,アキレス腱付着部炎等がある。また、靱帯裂離性の剥離骨折や成長期にみられる骨端症であるOsgood- Schlatter's disease (以下オスグッド病と表記)やSinding - Larsen - Johansson's disease等も臨床的には広義のenthesopathyに含まれる。

 Ⅱ Enthesopathy の鍼治療
 本稿では、外傷性および機械性enthesopathyを対象に紹介する。中でも、テニス肘を中心に、オスグッド病 ,アキレス腱付着部炎等の基本的な刺法を説明し、若干の考察を加える。また、鑑別上問題となる、橈骨神経のEntrapment Neuropathy(以後Radial Tunnel Syndromeと記す)の診察に於ける問題点と治療法についての私見も述べる。
 enthesopathyの鍼治療の目的は、過緊張状態にある筋群の緊張緩和によるEnthesisへの負荷の軽減と、同時に、Enthesis に対する直接的な刺鍼が重要であり、治療の中心となる。経験的には、関係する筋への散鍼のみでは著効は得られず、Enthesisに対する刺鍼ポイントの正確性が効果を左右することが分かっている。この刺法の作用機序は現段階では不明であるが、手術手技の作用機序と比較して若干の私見を後述する。

 具体的な刺法は、先ず、筋の緊張に沿って病変部である骨への付着部を求め圧痛点を検索する。次に、圧痛点より数㎜離した位置に取穴し、筋線維に対し直角方向に針先を向け斜刺する。抵抗を感じた時点で小刻みに強めに捻鍼し患部に得気を感じさせる(Et鍼と仮称)。この際、針先に線維が絡み付く抵抗を感じた場合は、緊張を緩めずにそのまま短い振幅で素早く抜鍼する(筋線維が切れる感覚を得る)。抜鍼後、筋のspasm が緩和され、各テストも陰性となれば治療効果は良好であるが、不十分であれば、刺入ポイントを変えて再度行う。但し、刺激が強いので2~3回を限度とすることが好ましい。軽症例では1~2診で軽快し、疼痛が強い症例でも日常動作への支障は早期に軽快する。スポーツによる障害でも、試合への復帰は3~7診程度で可能となる。
 
Ⅲ.疾患別刺鍼法

1.テニス肘
 テニス肘は現在一般的には上腕骨外上顆炎と同義として理解されることが多いが、発症病理に関して多くの著者が指摘5,6,7 しているように必ずしも単純ではない。外上顆炎は外上顆に付着する短橈側手根伸筋を中心とする伸筋群の過剰使用による外傷性機械的炎症であると理解されており、伸筋腱を中心にしてtendinitis, brusitis, periosteitis, epicondylitis等の病態を生じる。また、増殖した滑膜皺襞が関節内でimpinge されて関節炎様症状を発症する場合もあり、この他にも、肘関節周辺の様々な病態が含まれる。
 Bosworth8は橈骨頭が歪んだ円形をしているため、回転の際に輪状靱帯が橈骨頭と伸筋腱に挟まれてストレスを受け疼痛を発生すると述べている。筆者も、整形外科でテニス肘と診断され、上腕骨外側上顆への局注を行うも軽快しなかった患者で、橈骨頭に圧痛を認め同部へのEt鍼にて軽快した症例を複数経験している。短橈側手根伸筋は橈骨輪状靱帯にも付着しているため、橈骨頭周辺での障害も考慮すべきである。
 テニス肘の治療は、予め誘導法として、両側の足の三里または陽陵泉へ置鍼する。その後、前処置として、長,短橈側手根伸筋,総指伸筋へ散鍼し緊張を緩和する。筋腱症であればこの処置で十分であるが、本症に対しては効果は低く、筆者によるEt鍼が必要である(図-2)。まず、Middle finger test にて短橈側手根伸筋の緊張に沿ってその付着部の外上顆及び橈骨頭の圧痛部位を確認する。圧痛点に対し数㎜離した位置より斜めに刺入し、先述した方法にて施術する。抜鍼後、筋の緊張が緩和されたことを確認する。まだ残っている場合には、再度、刺入ポイントを確認して同様の処置を行う。以上の施術後、Middle finger test及び Mill's sign が陰性もしくは十分に軽減することを確認する。抵抗下に手関節を背屈させて疼痛がないか、軽減していれば治療目的は達成されたものと判断される。

Radial Tunnel Syndrome (橈骨神経深枝及び後骨間神経の絞扼性障害)
 肘外側の疼痛を引き起こす疾患でテニス肘と鑑別を要するのは橈骨神経の絞扼性神経障害である。古くは、Capener9 , Somerville10 , Kopellら11によって難治性テニス肘の原因として後骨間神経の絞扼性神経障害が報告され、その後、Roles, Maudsley12 らによって Radial Tunnel Syndrome として報告された。Werner13 は肘外側痛の5%が本症であると報告している。短橈側手根伸筋の線維性辺縁やarcade of Frohse で橈骨神経(後骨間神経)が圧迫されることが主な原因であり、症状や他覚的所見もテニス肘に共通するため注意が必要である。Roles らは鑑別法としてMiddle finger test を報告したが、短橈側手根伸筋に負荷をかけるテストであり、テニス肘でも同様に陽性となるため診断特異性はない。Werner13はMiddle finger test は寧ろ外側上顆の圧痛に相関すると報告しているが、筆者も同様の印象をもっている。
 本神経は運動枝とされ皮膚の知覚支配領野はないが、橈骨手根関節より手根中手関節背側靱帯の知覚を支配する14ので疼痛を引き起こす。疼痛は肘外側のみならず、前腕背側より手背に及ぶ患者もあり、夜間痛を主訴とする場合もある。他覚的には、肘関節から4~5㎝遠位の橈骨神経上(arcade of Frohse)に強い圧痛を認めることが重要である。但し、テニス肘や筋腱症でも短橈側手根伸筋の周辺に広範囲に圧痛を認めるので、上腕骨外側上顆及び橈骨頭に圧痛がないことが鑑別上重要である。
 本症の治療は、橈骨頭よりarcade of Frohseまでの間で、圧痛や Tinel sign 等によって entrapment point を検索し刺鍼する。その多くはarcade of Frohse の部位であり、橈骨頭より総指伸筋と長橈側手根伸筋間に沿って2横指の部位へ散鍼する。この部位は新穴の三里外に相当し、同時に arcade of Frohse にも一致する。テニス肘との合併例もよく見かけるとともに、刺鍼部位も共通し、 短橈側手根伸筋及び回外筋の緊張緩和としての効果も期待できる。予備穴として、曲池,温溜穴も適時使用する。テニス肘との合併例ではEt鍼を併用する。

2.オスグッド病
 オスグッド病は1903年にOsgood15 が大腿四頭筋の収縮力による脛骨粗面の部分的剥離を報告したものである。以来、多くの病因説が報告されてきたが、1976年Ogden16とSouthwick17は、発達中の脛骨結節の二次骨化中心の前方部分が膝蓋靱帯の牽引力によって部分的な剥離を起こし、この部分に仮骨が形成され硝子軟骨が被う病態であると述べた。これに対しRosenberg18らは、28例のオスグッド病患者の骨シンチグラフィー,CT,MRIによる研究で、膝蓋靱帯炎や滑液包炎など脛骨結節の周囲の軟部組織の炎症の方が、骨片の剥離よりも病因に関与していると報告している。また、ossicleが存在したままでも症状が回復することも論拠となっている。
 このように、オスグッド病はただちにenthesopathyとは言えないものの、膝蓋靱帯の張力によるossicleの形成と、脛骨とossicle間に介在する軟骨層内に生じている炎症性肉芽との共通性より、臨床的にはenthesopathyの範疇に入ると考えられている。また、筆者によるEt鍼にて著効が得られることからも、病態の共通性が推測される。

 本症に対するEt鍼は(図-3)、膝蓋靱帯の両側の辺縁と脛骨との接点を刺入点として、靱帯に対して直角方向に斜刺する。以下の操作は同様である。また、脛骨結節へのEt鍼のみでは直接大腿四頭筋のspasmは緩和できないため、大腿四頭筋の各motor pointに散鍼を加える。施術の際、膝関節は軽度屈曲して行う。
 
3.アキレス腱付着部症(Achills tendinopathy)
 アキレス腱は靱帯の中でも最も大きく強靱な靱帯であり、体重の8倍もの張力が作用すると言われている。しかしながら、腱鞘をもたずパラテノンと呼ばれる腱上膜で覆われている。さらに、踵骨付着部から2~6cm部分では血行に乏しい。これらの解剖学的特徴により、腱鞘(パラテノン)炎(tenosynovitis paratenonitis).アキレス腱周囲炎(peritendinitis).アキレス腱症(tendinosis).アキレス腱付着部症(inssertinal tendinosis).踵骨後部滑液包炎(retrocalcaneal bursitis)などの疾患がみられる。(図-4)
 アキレス腱付着部症の症状は、初期には主に運動時痛であり、進行すると安静時痛も訴える。瀰漫性または結節性の腫脹を認める。他動的に足関節を背屈することで痛みを誘発できる。踵骨後部滑液包炎では、付着部近位のやや内側に圧痛.腫脹を認めることで鑑別する。
 アキレス腱付着部症の治療は、腱付着部の内・外側で圧痛の強い方を刺針点としてET針を行う。腓腹筋.ヒラメ筋への散針は飛陽.築賓.上跟(私穴21:飛陽穴の斜内下1横指 ),附陽穴等を目標とする。
 この他に,踵骨隆起内側突起の足底筋膜付着部のenthesopathyがある。足底筋膜は足の縦のアーチの保持と荷重時の衝撃吸収に重要な帰納をもっているため、過大なストレスが集中する。ランニングやジャンプ動作が多いスポーツや長時間歩行する職業の人(警察官:policeman's heel)に多くみられる。踵部痛が主で、起床時の最初の一歩目の疼痛は特徴的であり、つま先立ちで増強する。但し、足根管症候群でも同様な症状であるため、足根管部のentrapment point と足底の知覚障害の有無で鑑別する。

4.ジャンパー膝(jumper's knee)
 オスグッド病に対し、膝蓋骨下極と膝蓋靱帯の接点、及び、大腿四頭筋と膝蓋骨上極との接点における障害が、ジャンパー膝19である。Sinding - Larsen - Johansen病は膝蓋骨下極の障害であり、ジャンパー膝の1つのタイプであると言われている20。ジャンプと着地やダッシュとストップなどの動作を繰り返すスポーツに多くみられ,膝関節伸展機構のover useによる障害である。大腿四頭筋の遠心性及び求心性収縮の繰り返しによる膝蓋権付着部の微小断裂が本態とされている。治療法はオスグット病に準ずる。
 
5.その他
 その他の付着部では、肩関節周囲炎の原因の一つである、上腕骨大結節の棘上筋・棘下筋付着部.大腿骨の大転子.尺側手根屈筋の豆状骨付着部などが当院では経験している。

Ⅳ 考 察
 Et鍼のヒントは、整形外科での、上腕骨外側上顆の血流改善を目的とした、decorticationとdrillingの術式22,23にあった。Et鍼による組織に対する作用機序は現段階では不明であるが、enthesis周辺の fibroblast やfibrosis及びangiofibroblastic hyperplasia等 に対し何らかの好刺激になっている可能性が考えられる。通常、炎症局所への施鍼は病変を悪化させる危険性があり賢明ではないが、本法によって治療後に悪化した症例は現段階ではなく、Et鍼の作用メカニズムによるものか、病態と病期が関与するものと思われるが、本手技の限界を含め現在のところ不明である。 
 テニス肘に対する手術法は鍼灸治療法を模索するうえで参考となるので、列挙すると。伸筋腱を覆う deep fasciaの筋膜切開(Spennser24 , Posch25 )や短橈側手根伸筋腱に手関節部位でZ延長術を行い、外上顆への負担を軽減させる方法(Garden26)がある。これに対し、短橈側手根伸筋腱,上腕骨付着部の切除,異常増殖滑膜,病的肉芽等の除去に、外上顆の血流改善を目的にdecortication と drillingを加える術式(Coonrad22 ,Nirschl23)が病変部に対してより直接的な方法と言える。これらの術式に対し、Bosworth8 は橈骨輪状靱帯を重視して短橈側手根伸筋腱と輪状靱帯を同時に切除する方法を提唱している。先述したように、筆者も橈骨頭の付着部も外上顆同様に重視して施術対象としている。
 手術後の病理学的所見では、短橈側手根伸筋外上顆付着部の慢性炎症所見が全例に見られ、変性変化の強い症例ではangiofibroblastic hyperplasiaの像が見られたと報告されている。
 一般的にテニス肘は保存的治療により軽快する場合が多いとされ、手術例は少なく全症例の3,3~8%と報告22されている。しかしながら、整形外科等での数ヶ月間に及ぶ治療で軽快せず当院を受診する患者も多く、鍼灸治療に於いても、従来の、肘周辺の経穴への刺鍼では早期に軽快するものは軽症例に限られており、治療に抵抗し長期に及ぶ者も多い。
 整形外科等での長期間に及ぶ治療で軽快せず、当院を受診したテニス肘の患者では、外側上顆への局注のみ行われ、橈骨頭の病変に対処していない場合が多い。また、適否を考慮せず温熱療法を漫然と続けていることが非常に多いことにも問題がある。温熱療法は効果がなく、炎症の強い症例では悪化させるか、治癒を遅らせることに留意すべきである。

  オスグッド病は小,中学生のスポーツ障害として多発する疾患である。発症頻度は多いものの、現在の整形外科領域でも目立った進歩もなく、「成長痛」などと説明され放置されることも少なくない疾患である。オスグッド病の患者は、Kujalaら27によると、平均3,2 ~ 7,3ヶ月でスポーツを再開できるとしている。筆者の経験では、Et鍼によって数回程度の治療で軽快しスポーツに復帰できることが多く、優れた方法と言える。
 オスグッド病の病態が、脛骨粗面の軟骨の損傷を主体とするものであれば、鍼灸治療の効果は期待できないものとなる。しかしながら、本法によって、ほとんどの患者が早期に回復する事実から、Rosenbergらの説も含め、enthesopathyと共通の病態が疼痛の原因ではないかと考えられる。
 
 アキレス腱付着部症の多くは、急に散歩やスポーツを始めるなどの馴れない動作で発症する場合が多く、発症起点はさ程ではないにもかかわらず、整形外科等での治療で軽快せず当院を受診する患者が多い。これらの患者はEt鍼にて速やかに軽快することからも、先述したように、温熱療法や局所への電気治療によって治癒が遅れるものと考えられる。
  
おわりに
 Et鍼はこれまでの経験より、外傷性及び機械性enthesopathyに対し効果的な方法と言えるが、病態の程度による限界点や治効機序が不明な点は今後の課題である。また、現在までのところ、炎症性enthesopathy(enthesitis)に対しては試みていないため、これらの疾患に対する有効性は不明である。
 外傷性及び機械性enthesopathy に対する針治療法として、テニス肘を中心にオスグッド病及びアキレス腱付着部症などを紹介し若干の考察を加えた。これらの疾患は従来良く知られたものであるが、enthesopathyの疾患概念で捉えることで病態解釈と鍼治療に新たな手段を与えるものであり、ET針は同様の病態による他の疾患に対しても共通の治療法として応用できるため、臨床的に有効な治療手技に成り得るものと期待する。

図1-図3.gif 

追伸
2016年8月27日に、「附着部障害の鍼治療-Clinical Acupuncture Therapeutics of Enthesopathy」を
出版しました。
本書には、上記原稿以後の新たな知見を加え、12種類のenthesopathyについて解説しています。市販はしていませんが、本ブログを通じて販売しています。詳しくは、カテゴリーの「出版のお知らせ」を見てください。


引用文献
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