WHOが推奨する鉄介入に効果は無かった [医学・医療への疑問]

バングラデシュの乳児を対象としたランダム化二重盲検プラシーボ対照試験の結果、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を3か月間毎日補給しても、プラシーボと比較して、子どもの発達やその他の機能的転帰に影響は認められなかった。むしろ、鉄介入は下痢を引き起こすような感染リスクを高める可能性が見られた。
(オーストラリア国立健康医学研究カウンシルの資金提供, BRISCオーストラリアニュージーランド臨床試験レジストリ番号: ACTRN12617000660381.)

世界中の5歳未満の子供のうち、40%近くが貧血であり、そのほとんどが低中所得国に住んでいる。これらの地域では、幼児の貧血が深刻な公衆衛生上の問題として考えられている。WHOは、生後6〜23か月のすべての子供に、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末(他の微量栄養素を含む脂質カプセル化鉄のパケット)による補完食品の在宅強化を通じて鉄を摂取する(3か月間毎日補給)ことを推奨している。

幼児への予防的鉄介入の主な理論的根拠は、機能的健康の結果による子供の発達と成長に関する利益。この推定は、貧血を不適切な子供の認知発達に関連付けられる観察研究に基づいている。しかし、これまでの研究においても、鉄補給を評価するランダム化比較試験のメタアナリシスでは、機能的転帰に関して決定的なデータは明らかにされておらず、 鉄の介入はヘモグロビンレベルと鉄の貯蔵に持続的な改善をもたらしたが、短期的または中期的に発達、行動、または成長の結果を改善しなかった。

また、前述したように、鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を投与されている期間に、非貧血または非鉄欠乏の子供が下痢のために計画外の診療所を訪れるリスクの増加を示した。但し、事後分析であったためこれらの調査結果は決定的では無く、サブグループ間に有意差は認められなかった。

結論として、生後8か月の子供に鉄シロップまたは複数の微量栄養素粉末を3か月間毎日補給すると貧血の有病率は低下した。しかし、レジメンの完了直後または9か月後の認知発達やその他の機能的健康転帰は改善されなかった。

つまり、貧血の改善には意味が無い。正常値という単なる平均値で人を評価することの危険性が問われるべきだ。さらに言えば、そもそも、WHOなど存在することに意味があるのか疑問(かつて、天然痘の撲滅に成功したという業績だけはあるが)。

出典文献
Benefits and Risks of Iron Interventions in Infants in Rural Bangladesh
Sant-Rayn Pasricha, M. Imrul Hasan, Sabine Braat, Leila M. Larson, et al.
N Engl J Med 2021; 385:982-995 DOI: 10.1056/NEJMoa2034187