変形性膝関節症患者に対する関節内多血小板血漿体注射の効果は生食と同等 [医学・医療への疑問]

そもそも、ほとんどの臨床ガイドラインでは、膝変形性関節症(膝OA)に対する多血小板血漿関節内注射(PRP)は、症状と関節構造の有効性に関する高品質のエビデンスがないため推奨していない。それにもかかわらず、膝OAへのPRPの使用は増加している。手術の効果もさることながら、整形外科医が行う保存的治療には確実に有効な方法がないことを承知の上で、患者の手前、ヒアルロン酸注射などと同様に何らかの処置をおこなう必要があるのだろう、が、、。

この研究の目的は、症候性およびX線撮影による、軽度から中等度の内側膝OA患者の症状と関節構造に対する関節内PRP注射の効果を検証すること。研究デザインは、無作為化プラシーボ対照二重盲検試験。

症候性内側膝OA(Kellgren and Lawrence grade 2 or 3)患者。オーストラリアのシドニーとメルボルン、2017年8月24日から2019年7月5日まで、フォローアップは2020年7月22日までに完了。

介入は、市販のPRP(n = 144)または生理食塩水(プラシーボ:n = 144)。主要な結果は、全体的な膝痛スコアの12か月の変化(ポイントスケール範囲;0-10、スコアが高いほど痛みが強い、臨床的に重要な最小差は1.8)、機能、生活の質、全体的な変化、および関節構造を評価。

無作為化された288人の患者(平均年齢61.9 [SD、6.5]歳; 169 [59%]女性)のうち、269人(93%)が試験を完了。両グループの140人の参加者(97%)が3回の注射すべてを受けた。 12か月後の膝痛の平均スコアは、PRP-2.1ポイント、プラシーボ注射-1.8ポイント(difference, −0.4 [95% CI, −0.9 to 0.2] points; P = 0.17)で、差は無し。

内側脛骨軟骨量の平均変化は、それぞれ-1.4%対-1.2% (difference, −0.2% [95% CI, −1.9% to 1.5%]; P = 0 .81)で、差は無し。

症候性の軽度から中等度の膝OA患者に対し、PRPの関節内注射の効果は生理食塩水と同等であり、効果は全く認められない。したがって、PRPの使用は推奨されない。私が病院に勤務していた頃から数えて半世紀近くが過ぎたが、膝OAの治療は全く進歩していない。整形外科医は、この事実を真摯に受け止めるべきだと思う。 

それにしても、痛みの減少が2ポイント程度とはおそまつ。さらに、軟骨と症状に関連性が無いことは周知のこと。評価することに意味があるとは考えられない。

PRPの効果については、先日投稿した、「足首の変形性関節症患者に対する多血小板血漿注射に効果は認められず;2021.10.27」でも同様であった。これが、整形外科における保存的治療効果の実体と言えるのではないか。拙著「膝痛の鍼治療」でも述べたが、病態の本質にもっと目を向けるべきだ。鍼灸師の立場で言わせてもらえば、鍼治療の方が効果は高い。

出典文献
Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Pain and Medial Tibial Cartilage Volume in Patients With Knee Osteoarthritis
The RESTORE Randomized Clinical Trial
Kim L. Bennell, L. Paterson, Ben R. Metcalf, BSc1, et al.
JAMA. 2021;326(20):2021-2030. doi:10.1001/jama.2021.19415