気管支拡張剤の吸入療法は肺機能が保たれている喫煙者の呼吸器症状を軽減しない [医学・医療への疑問]

喫煙歴のある多くの人は、スパイロメトリーによる評価で障害がないにもかかわらず、臨床的に重大な呼吸器症状を示します。これらの患者は、しばしば慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の薬で治療されますがこの治療法を裏付ける証拠はありません。

対象者として、少なくとも10 pack-yearsの喫煙歴があり、COPD アセスメントスコアが少なくとも 10 以上 (スコアの範囲は 0 から 40, スコアが高いほど症状が悪化)の人を無作為に割り当てた。また、スパイロメトリーでの肺機能の維持 (1 秒間の努力呼気量 [FEV1] と、努力肺活量 [FVC] の比 ≥0.70 および 気管支拡張薬使用後のFVCが予測値の70%以上とした。介入は、インダカテロール (27.5 μg) とグリコピロレート ( 15.6 μg) またはプラシーボを 1 日 2 回、12 週間投与。

主要アウトカムは、セントジョージ呼吸器アンケート (SGRQ)スコア (スコアの範囲は 0 から 100 で、スコアが高いほど健康状態が悪いことを示す) が少なくとも 4 ポイント減少 (すなわち、改善) すること (長時間作用型吸入気管支拡張剤、グルココルチコイド、または抗生物質で治療された下気道症状の増加として定義されます)。また、この期間において症状が悪化しないことを条件とした(長時間作用型吸入気管支拡張薬、グルココルチコイド、または抗生物質で治療された下気道症状の増加として定義)。

合計 535 人の参加者が無作為化され、修正された参加者 471 人において、治療群の227 人中 128 人(56.4%)、プラシーボ群の 244 人中 144 人(59.0%)が、SGRQ スコアが少なくとも 4 ポイント減少。 (差、-2.6 パーセント ポイント; 95% 信頼区間 [CI]、-11.6 ~ 6.3; 調整オッズ比、0.91; 95% CI、0.60 ~ 1.37; P=0.65)。

予測 FEV1 の割合の平均変化は、治療群で 2.48 パーセント ポイント (95% CI、1.49 ~ 3.47)、プラシーボ群で -0.09 パーセント ポイント (95% CI、-1.06 ~ 0.89) であり、吸気容量の差は、治療群で 0.12L (95% CI、0.07 ~ 0.18)、プラシーボ群で 0.02 L (95% CI、-0.03 ~ 0.08)。 重篤な有害事象が治療群で4 件発生し、プラシーボ群で11 件発生。

結論として、呼吸器症状のある喫煙者において、スパイロメトリーによる評価で肺機能が保たれている人に対して気管支拡張剤の吸入療法は症状を軽減しない。

そもそも、スパイロメトリーで肺機能の維持が確認されている人に対して、気管支拡張剤を処方する意味が全く理解できない。しかも証拠が何もないまま漫然と治療されていたことに恐怖すら感じる。これが、医学の現状なのだろう。

追伸
私のブログでは「プラシーボ」と表記しているため、疑問を感じている人も多いかと思われるので、ひと言。この国では、世間一般はともかくとして、医師でさえ、また、機械訳においても「プラセボ」と記されている。しかし、「プラセボ」という言葉は存在しないのであって、「プラシーボ」が正しい。

出典文献
Bronchodilators in Tobacco-Exposed Persons with Symptoms and Preserved Lung Function
List of authors.
MeiLan K. Han, Wen Ye, Di Wang, M.S., Emily White, et al.
N Engl J Med 2022; 387:1173-1184 DOI: 10.1056/NEJMoa2204752