PM2.5 とオゾンの相互作用によって死亡率がさらに増加する [環境問題]

世界レベルにおける、毎日の死亡率に対する微小粒子状物質 (PM2.5) とオゾン (O3) の潜在的な相互作用を調査した研究の結果、総死亡率、心血管死亡率、呼吸器死亡率に対する相乗効果が示唆された。

全ての大気汚染物質の中でも、微小粒子状物質 (PM2.5、空気力学的直径 ≤2.5μmの粒子状物質)とオゾン (O3) は健康への悪影響有しており、人間の死亡率の独立した危険因子として世界疾病負担調査に含まれている唯一の大気汚染物質です。

誤解の無いように念のため説明しますと、これは「成層圏におけるオゾン」の話ではありません。地上レベルのオゾンは大気汚染物質です。この国では、ほとんど話題にもなっていませんが、欧米では30年以上前から地上レベルのオゾン濃度の増加が危惧されていました。ヨーロッパでは、大気中への排出を制限するために基準値の見直しが行われていましたが、アメリカでは、ブッシュ大統領が基準値の改正案を企業活動の低下を理由に拒否しました。恐らく、日本政府の無策も同様の理由によるものと思われます。

オゾンによる悪影響は人体に対する健康被害のみならず、植物の生産量の減少が現実に起きており、それはCO2の増加による生産量の増加を相殺しており世界的に問題となっています。

私が、2011年時点で主にPMC(アメリカ国立医学中央図書館)で検索した、大気中のオゾン増加による死亡率の上昇や、マウスなどに対するオゾン暴露実験の文献数は1,500件を超えていました。

これまでにも、PM2.5および O3 と人間の健康への影響を報告した研究は豊富にありましたが、主に PM2.5 または O3について個別に扱ったものが多かったため、本研究では、肺の炎症、酸化ストレス、マクロファージ活性、および内皮機能を含む、PM2.5とO3 の複合効果を調査しています。

前置きが長くなりました。

この研究は、世界レベルでの毎日の死亡率に対するPM2.5とO3 の潜在的な相互作用による影響を調査することを目的としています。

19の国と地域、372都市において、1994 年から 2020 年までの毎日の死亡率データから関連するPM2.5とO3の相互作用を調査するために、共汚染物質への曝露と相乗効果指数(>1は汚染物質の複合効果が個別の効果よりも大きいことを示す)による層別分析が適用されました。

調査期間中、372 都市における全原因死亡者数は1,930 万人で、その内の530 万人の原因は心血管疾患、190 万人が呼吸器疾患でした。 PM2.5 が 10 μg/m3 増加した場合、およびO3 濃度の最低から最高の 4 分の1の総死亡リスク(ラグ 0 ~ 1 日)は、0.47%(95% 信頼区間 0.26% ~ 0.67%)から 1.25%(1.02% ~ 1.48%)の範囲。

また、O3 の 10 μg/m3 増加の場合、PM2.5 濃度の最低から最高の 4 分の 1 までの範囲は 0.04% (-0.09% ~ 0.16%) ~ 0.29% (0.18% ~ 0.39%) であり、層間で有意な差がありました ( 相互作用の P <0.001)。

総死亡率に関しては、PM2.5 と O3 の間に有意な相乗相互作用も確認され、相乗指数は 1.93 (95% 信頼区間 1.47 ~ 3.34) でした。 サブグループ分析では、3 つの死亡率エンドポイントすべてにおける PM2.5 と O3 の相互作用が、高緯度地域および寒い季節により顕著であることが示されました。

層別分析には、曝露固有の層における関連性の定量的比較を可能にする単純さと変数が少ないという利点があります。PM2.5 の 10 μg/m3 増加に伴う総死亡率の変化率は、低、中、高レベルの O3 曝露で 0.47%、0.70%、1.25% であり、明確なパターンを示しています。

オゾン(O3)は容易に第3分子を分離するため天然元素の中ではフッ素に次ぐ酸化力を有し、その酸化力は塩素の7倍であり、この酸化力によって呼吸器などを損傷します。殺菌力は空気中で塩素の1.65倍、水中では7倍であり、反応後は酸素分子や原子に分解するため二次汚染が無いことから、殺菌・脱臭目的に多方面で使用されています。しかしながら、人体への有害作用が無い程度の濃度では殺菌効果は認められません。また、飲料水や風呂水の殺菌目的で水中に通した場合でも、容易に空気中に放散するため空気中と大差がありません。さらに、水中で使用する場合、殺菌力を高めるために高濃度のオゾンが使用されるため危険性はむしろ高くなります。また、オゾンは比較的低濃度でも健康被害を及ぼすため、現在の職場における環境基準値は改正すべきです。さらに、空気清浄効果を謳った器具が、規制基準が無いために一般家庭や一部の病院の病室でも使用されており、医師でさえその危険性が認識されていないことに重大な問題があります。

PM2.5とO3の相互作用に起因する相互作用を理解することは、政府によって、これら2 つの重要な大気汚染物質を協調的に管理する戦略を開発するための科学的知識ベースを提供するはずです。

出典文献
Interactive effects of ambient fine particulate matter and ozone on daily mortality in 372 cities: two stage time series analysis
Cong Liu, Renjie Chen, Francesco Sera, Ana Maria, Yuming Guo, Shilu Tong, et al.
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2023-075203 (Published 04 October 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:e075203