関節形成術における感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加は無効 [医学一般の話題]

関節形成術において、手術部位の感染予防を目的とするセファゾリンへのバンコマイシンの追加はプラシ-ボより優れておらず、膝の手術では手術部位の感染が増加した。

研究デザインは、多施設二重盲検優越性プラシーボ対照試験。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の定着が確認されていない成人患者を対象として、セファゾリンにバンコマイシン1.5gを加えた群または生理食塩水を加えたプラシーボ群に無作為に割り付けて調査。主要アウトカムは、手術後90日以内の手術部位の感染。

合計4,239人の患者から4,113人を対象として、“the modified intention-to-treat population:治療意図分析”によって解析。その内訳は、膝関節形成術 2,233 人、股関節形成術1,850 人、肩関節形成術30 人。バンコマイシン群の患者 2,044 人中 91 人(4.5%)が手術部位感染を発症し、プラシーボ群では2,069人中72人(3.5%)。プラシーボ群に対する相対リスクは1.28(relative risk, 1.28; 95% confidence interval [CI], 0.94 to 1.73; P = 0.11)で、有意差は無し。

膝関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で1,109人中63人(5.7%)、プラシーボ群では1,124人中42人(3.7%)で、相対リスクは 1.52(relative risk, 1.52; 95% CI, 1.04 to 2.23)(p値は不明)。

股関節形成術を受けた患者で手術部位感染を発症したのは、バンコマイシン群で 920 人中 28 人 (3.0%)、プラシーボ群では930 人中29人(3.1%)で、相対リスクは0.98 (relative risk, 0.98; 95% CI, 0.59 to 1.63)(p値は不明)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生し、2010人中24人(1.2%)と2030人中11人(0.5%)で過敏反応が発生。 それぞれ、2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)で急性腎障害が発生(相対リスク、2.20; 95% CI、1.08~4.49)(相対リスク、0.57; 95 % CI、0.39 ~ 0.83)。

有害事象はバンコマイシン群では2010人中35人(1.7%)、プラシーボ群では2030人中35人(1.7%)で発生。同様に、2010人中24人(1.2%)と、2030人中11人(0.5%)が過敏反応(relative risk, 2.20; 95% CI, 1.08 to 4.49)。2010人中42名(2.1%)と2030人中74名(3.6%)が急性腎障害を発症(relative risk, 0.57; 95% CI, 0.39 to 0.83).

セファゾリンによるベータラクタム予防薬にバンコマイシンを追加しても、主に膝や股関節の関節形成術を受ける患者の手術部位の感染予防には役立たないことが示された。

より多くの抗生物質を投与すれば、より感染症を防ぐことができると考えるのは一見論理的と考えがちです。しかし、手術時に皮膚にMRSAが存在していなかった場合、全員にバンコマイシンを投与する意味が無いことが明確となりました。セファゾリンは感染症を予防するものであり、バンコマイシンを使用しても追加の利点はありません。

膝と股関節の手術はどちらもアメリカでは一般的であり、術後の高い感染症罹患率と死亡の原因となっています。現在の抗生物質ガイドラインでは、手術時にセファゾリンなどの第1世代または第2世代のセファロスポリン系抗菌剤を推奨しています。 しかし、この抗生物質はMRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌感染症の症例を予防できない可能性があるため、バンコマイシンのような糖ペプチド抗菌剤を追加することでより広範囲の予防を提供できると考えられていますが、このアプローチの利点はまだ明確とはなっていません。

補足:
“intention-to-treat;治療意図分析”とは、前向き無作為化研究の結果を分析する方法であり、無作為化された全ての参加者が統計分析に含まれ、実際に受けた治療に関係なく、最初に割り当てられたグループに従って分析される。この方法により、介入の有効性に関して公平な結論を引き出すことができると言われている。

尚、この研究はオーストラリア国民健康医学研究評議会によって資金提供されています。オーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録番号 ACTRN12618000642280。

出典文献
Trial of Vancomycin and Cefazolin as Surgical Prophylaxis in Arthroplasty
List of authors.
Trisha N. Peel, Sarah Astbury, Sarah Astbury, B.Nurs., Allen C. Cheng, et al.
N Engl J Med 2023; 389:1488-1498
DOI: 10.1056/NEJMoa2301401