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先天性心疾患の心肺バイパス手術中に酸素供給器に送達される一酸化窒素の効果 [医学一般の話題]


先天性心疾患に対する、心肺バイパス手術を受けた2歳未満の小児を対象とした国際無作為化臨床試験の結果、心肺バイパス回路に送達された一酸化窒素を受けた患者と一酸化窒素を含まない標準ケア心肺バイパスを受けた患者との間に、人工呼吸器無しの日数に有意差はなかった。心肺バイパスの開始から48時間以内の低心拍出量症候群または術後の体外生命維持の発生率、28日以内の死亡、またはこの転帰の個々の複合要素においても群間で有意な差はなかった。

無作為化された1371人の患者のうち、1364人(99.5%)が試験を完了した。人工呼吸器のない日数は、一酸化窒素群と標準治療群の間で有意差はなく、中央値はそれぞれ26.6日(IQR、24.4〜27.4)対26.4日(IQR、24.0〜27.2)で、絶対差は−0.01日(95%CI、−0.25〜0.22;P = 0.92)。

一酸化窒素群の22.5%および標準治療群の20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外サポートを必要とするか28日目までに死亡した。調整オッズ比は1.12(95%CI、0.85〜1.47)で、他の二次的転帰は、群間で有意差はなかった。

結論として、これらの知見により、心臓手術中に心肺バイパス酸素供給器に送達される一酸化窒素の使用は支持されないと記されている。

しかし、一部の報告において、心肺バイパス酸素供給器のガス流入に添加された一酸化窒素は、術後のトロポニンレベルを低下させ、低心拍出量症候群を減少させ、幼児の侵襲的機械的換気の期間を短縮する可能性があることが示唆されている(1.2.)ため、一部のユニットでは、高品位の証拠がないにもかかわらず、心肺バイパス中の一酸化窒素の使用を標準治療として導入している。

但し、成人においては、冠状動脈バイパス移植を受けた60人の患者を対象とした試験によって、心肺バイパスに40ppmで送達された一酸化窒素に無作為化された患者における術後心臓酵素および昇圧スコアが低いことが報告(3.)されている。弁置換手術を受けた244人の患者を登録した別の試験では、標準治療と一酸化窒素を心肺バイパスに80ppm送達した併用治療では、急性腎障害の発生率が低いことが報告(4.)されている。

アメリカでは、先天性心疾患は約100人に1人が罹患しており、2021年に発表された推定値では、今年は4万人の子供が先天性心疾患で生まれると示唆されている。これらの子供たちの年間入院費用は56億ドルを超えると予想され、また、多くの生存者が身体的、発達的、または認知的な問題を有することが確認されている。

心肺バイパス手術を受けている小児の25〜40%が低心拍出量症候群を引き起こす。この症候群は、心臓が患者の器官の灌流要件を満たすことができないことを特徴とする。

出典文献
Effect of Nitric Oxide via Cardiopulmonary Bypass on Ventilator-Free Days in Young Children Undergoing Congenital Heart Disease Surgery
The NITRIC Randomized Clinical Trial
Luregn J. Schlapbach, Kristen S. Gibbons, Stephen B. Horton, et al.
JAMA. Published online June 27, 2022. doi:10.1001/jama.2022.9376

二次文献
1.
James C, Millar J, Horton S, Brizard C, Molesworth C, Butt W. Nitric oxide administration during paediatric cardiopulmonary bypass.  Intensive Care Med. 2016;42(11):1744-1752.PubMedGoogle ScholarCrossref
2.
Checchia PA, Bronicki RA, Muenzer JT, et al. Nitric oxide delivery during cardiopulmonary bypass reduces postoperative morbidity in children: a randomized trial.  J Thorac Cardiovasc Surg. 2013;146(3):530-536.PubMedGoogle ScholarCrossref

3.
Kamenshchikov NO, Mandel IA, Podoksenov YK, et al. Nitric oxide provides myocardial protection when added to the cardiopulmonary bypass circuit during cardiac surgery: randomized trial.  J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;157(6):2328-2336.e1.PubMedGoogle ScholarCrossref

4.
Lei C, Berra L, Rezoagli E, et al. Nitric oxide decreases acute kidney injury and stage 3 chronic kidney disease after cardiac surgery.  Am J Respir Crit Care Med. 2018;198(10):1279-1287.PubMedGoogle ScholarCrossref

10秒間の片足立ちの成否が中高年の生存を予測すると報告 [医学一般の話題]

10秒間の片足立ち(10秒OLS)を正常に完了する能力は全原因死亡率と独立して関連付けられ、年齢、性別、その他の人体測定および臨床を超えて予後情報を示すと報告されている。

10秒OLSデータは、2008年から2020年までの51〜75歳の1702人(男性68%)で評価された。ログランクおよびCoxモデリングを使用し、10秒OLSテストの可(YES)または不可(NO)で生存曲線と死亡リスクを比較。

片足スタンスバランス評価
参加者は平らな台の上裸足で立ち、非支持足の背側部分を支持側の下腿の後ろに配置する。肘を伸ばして腕は自然に体の近くに置き、視線は2mの距離にある目の高さのポイントに固定するように指示された。参加者はこの姿勢を10秒間保持すりことを求められ、最大3回の試行が許可された。

NO群の割合は、51〜55歳で4.7%、56〜60歳で8.1%、61〜65歳で17.8%、66〜70歳で36.8%。 71〜75歳の年齢層では、参加者の半数以上(53.6%)で、全体では20.4%がNOと分類された。

追跡期間中央値(IQR)7年(4.16–9.41)の間に123人の参加者(7.2%)が死亡した。死因は、癌(32%)、心血管系疾患(30%)、呼吸器系疾患(9%)およびCOVID-19合併症(7%)。NO群の死亡率はYES群よりも高く(17.5%vs 4.6%; p <0.001)、NO群では17.5%で生存曲線は悪化した(ログランク検定= 85.6; p <0.001)。10秒OLSのYES群は4.6%、追跡期間中央値(IQR)7(4.16–9.41)絶対差は12.9%。主要な死因の分布に有意差はなかった。

尚、転倒についての記載は見られず、転倒リスクも明示されていない。

参加者のプロファイルは、冠状動脈疾患、高血圧、脂質異常症、肥満の割合が高い参加者はいなかったが、最も顕著な違いとして、糖尿病はYES群12.6%と比較してNO群で37.9%と3倍であった(p <0.001)。

このテストは13年間の臨床経験において参加者から高い評価を受けているとのこと。非常に安全で、適用するのに1分または2分未満しか必要としないため簡単に組み込むことができる。中高年の定期健康診断の一部として10秒OLSを含めることには潜在的な利点があると述べられている。

しかし。

10秒OLS不可の群が死亡リスクのハザード比が倍近くになったとしても、その数値にどの様な意味があり、改善策はあるのであろうか。また、介入として、10秒OLSテストを繰り返し行うことがバランストレーニングになるのか。実際に、転倒リスクが減少するのかについて、今後の調査が必要であると思う。その上で、バランスの改善が転倒リスクを軽減し、さらに、運動機能を含めた患者個人の基礎疾患に対しても好影響を与えて死亡リスクを減少させ得るのかを検証すべきである。仮に、評価結果に実質的な利益が無いのであれば、単なる評価のための評価にに過ぎず、自己満足となる、と、思うのですが。

ついでに言えば。私は60歳台の後半であるが、閉眼ならいざ知らず、開眼したままの片足立ちであるこのテストは非常に簡単であり、分単位でも可能である。参加者のプロファイルでは参加者は健康であったようであるが、NOが多すぎるように思われる。むしろ、脳疾患や何らかの事情によって運動機能に相当の問題があると考えられるのだが。

出典文献
Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals FREE
Claudio Gil Araujo, Christina Grüne de Souza e Silva, Jari Antero Laukkanen, et al.
Br J Sports Med 2022; DOI: 10.1136/bjsports-2021-105360.

大気汚染は自己免疫疾患のリスクも高くする [医学一般の話題]

大気汚染による害は肺と心臓だけではなく、タバコの煙や産業排水に含まれるこの種の小さな粒子状物質への曝露は関節リウマチなどの自己免疫疾患の増加と関連していると報告されている。

PM 10のレベルが定期的に30μg/m3か超える地域ではこれよりも低い地域と比べ、7種の自己免疫疾患の有病率が12%高かったと、ヴェローナ大学のGiovanni Adami医師、PhDによって報告されている。同様に、PM2.5のレベルが長期間にわたって平均20μg/m3であった地域でも13%高かった。

また、慢性被爆による線量反応関係は、10μg/m3増分毎に自己免疫疾患のリスクが7%高くなた。

大気汚染に関する先行研究は、喘息や慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患を中心としてきましたが、多くの研究によって、心血管へのリスクも発見されています。無論、喘息は自己免疫疾患でもあります。

ドイツのミュンヘン大学の、Schulze-Koops医学博士は、クリストファー・コロンブスに責任があるとの冗談を言いました。氏は、コロンブスが西半球の探検からタバコを持ち帰り、大陸全体の喫煙への執着を引き起こすまで、関節リウマチはヨーロッパでは知られていなかったと述べた。

但し、関節リウマチは高い相関性を示し、全身性硬化症とIBDも関連したが、他のいくつかは汚染曝露と相関しておらず、疾患によって違いが見られる。

また、この研究の統計分析には、年齢、ステロイド治療、併存疾患、診断を提供する医師の専門性など、多くの補助因子の調整が含まれている。

さらに、肺への粒子状物質の曝露が他の身体系における自己免疫反応を引き起こすことが示唆されている。この関係性が真に因果関係を反映しているのであれば非常に興味深く、その経路を明らかにするための研究が期待される。

出典文献
Air Pollution and Illness: It's Not Just the Lungs and Heart Anymore
— Expanding range of conditions caused or aggravated by fine particulates
by John Gever, Contributing Writer, MedPage Today June 1, 2022

Primary Source
European Alliance of Associations for Rheumatology
Source Reference: Adami G, et al "Association between long-term exposure to air pollution and immune-mediated diseases: a population-based cohort study" EULAR 2022; Abstract OP0071.

血小板由来成長因子受容体β経路の活性化が脊髄損傷後の線維性瘢痕形成を誘導する [医学一般の話題]

脊髄損傷(SCI)後、過剰に沈着した線維性瘢痕によって軸索再生が阻害される。この線維性瘢痕形成は、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)β経路の活性化によって直接誘導される、また、PDGFRβ経路を特異的に遮断するSU16fによって、線維性瘢痕形成を阻害して脊髄損傷後の軸索再生および自発運動機能回復を促進すると報告されている。

急性期の炎症反応と慢性期の瘢痕組織形成からなる抑制性微小環境が、脊髄損傷後の軸索再生を妨げる主な理由であると考えられている。これまでの研究は、SCI後のアストロサイトによって形成されるアストロサイト瘢痕に焦点を当てていたため、線維芽細胞によって形成される線維性瘢痕についての理解は少ない。

多数の研究により、PDGF/PDGFR経路がアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の重要な機能的メディエーターであることが示されているが、SCIでははほとんど知られていない。

本研究では、PDGFBとPDGFDが高度に発現してSCI後のPDGFRβに隣接して分布していることを発見した。PDGFRβは、脳損傷モデルにおいて周皮細胞、アストロサイト、NG2細胞および内皮細胞において発現していることが報告されている。しかし、PDGFRβは脳内の周皮細胞の生存、増殖および移動を調節し、それによって血管新生および血液脳関門(BBB)の修復および維持に関与している。損傷した脊髄においては、PDGFRβはすべての線維性瘢痕形成線維芽細胞に発現しており線維芽細胞の最大95%を占め、PDGFRβがSCI後の線維芽細胞に特異的に発現していることを示している。しかしながら、リガンドPDGFBおよびPDGFDの時空間分布およびSCI後に線維性瘢痕を形成する線維芽細胞に対するPDGFRβ経路の活性化の影響については不明。

緻密に連続した線維性/アストロサイト性瘢痕境界は、SCI後の抑制性微小環境の重要な要素となっている。瘢痕の物理的障壁は再生された軸索が損傷したコアを通過するのを直接妨げ、軸索先端は線維性瘢痕に接触した後に収縮球を形成してSCI後の軸索再生を失敗させる。したがって、連続した瘢痕境界の中断は軸索再生に寄与する。

本研究では、PDGFBとPDGFDが高度に発現してSCI後のPDGFRβに隣接して分布していることを発見した。これは、PDGFBまたはPDGFDがPDGFRβを活性化してSCI後の線維性瘢痕の形成に関与する可能性があることを示唆している。

血管周囲線維芽細胞はSCI後に血管を離れて移動し、フィブロネクチン、ラミニンおよびコラーゲンを含む線維性細胞外マトリックス(ECM)を沈着させる。最終的に、アストロサイトーシス瘢痕内に線維性瘢痕を形成して軸索再生を妨げる(1.2.3.)。

線維性瘢痕形成の適度な阻害は、過剰に沈着した線維性瘢痕の有害作用を防止して軸索再生および自発運動機能回復に寄与すると考えられるが、SCI後の線維性瘢痕形成の分子機構は不明。

本研究では、PDGFDの発現はSCI後のPDGFBよりも早く起こり、PDGFBは主にアストロサイトから分泌され、PDGFDは主にマクロファージ/ミクログリアおよび線維芽細胞によって分泌されることが示されている。

さらに、外因性PDGFBまたはPDGFDのin situ注射は損傷していない脊髄の線維化につながる可能性があるが、PDGFRβ経路の遮断は線維性瘢痕領域を減少させて線維性/アストロサイト性瘢痕形成を遮断し、炎症を抑制し、SCI後の軸索再生および自発運動機能の回復を促進する。

さらに本研究では、PDGFRβ経路に対する強力かつ選択的阻害剤である、SU16fによる遮断によってSCI後の線維性瘢痕形成に対するPDGFRβ経路の効果を確認した。結果は、SU16fが線維芽細胞の増殖を有意に抑制してSCI後の線維性瘢痕を減少させることが示された。

したがって、PDGFRβ経路がSCI後の線維性瘢痕形成を媒介するという直接的な証拠が得られ、さらに、PDGFRβ経路はSCI後の治療標的となることが期待される。

臓器の慢性疾患の本体は臓器中の細胞にあるのではなく、細胞間のマトリックスにおける線維化であるのと同様に、脊髄損傷後の線維性瘢痕形成もまた、フィブロネクチン、ラミニンおよびコラーゲンを含む線維性細胞外マトリックス(ECM)の沈着による線維化であることは興味深い。

出典文献
SU16f inhibits fibrotic scar formation and facilitates axon regeneration and locomotor function recovery after spinal cord injury by blocking the PDGFRβ pathway
Ziyu Li, Shuisheng Yu, Yanchang Liu, Xuyang Hu, Yiteng Li, et al.
Journal of Neuroinflammation volume 19, Article number: 95 (2022)

1.
A pericyte origin of spinal cord scar tissue. Göritz C, Dias D, Tomilin N, Barbacid M, Shupliakov O, Frisén J. Science. 2011;333:238–42.

2
Perivascular fibroblasts form the fibrotic scar after contusive spinal cord injury.
Soderblom C, Luo X, Blumenthal E, Bray E, Lyapichev K, Ramos J, et al. J Neurosci. 2013;33:13882–7.

3.
Reducing pericyte-derived scarring promotes recovery after spinal cord injury. Dias D, Kim H, Holl D, Werne Solnestam B, Lundeberg J, Carlén M, et al. Cell. 2018;173:153-165.e22.

covid-19による中等度低酸素血症患者に対する腹臥位は効果なかった [医学一般の話題]

腹臥位が、covid-19で入院した非重症患者の死亡または呼吸不全のリスクを低減できるかを調査した多施設共同実用的無作為化試験の結果、効果は認められず試験は早期に中止された。

2020年2月に、covid-19および重度の低酸素血症の患者へのポジショニングが呼吸不全および死亡のリスクを減らす可能性があるという報告がされました。以前に、当ブログでも紹介しました。しかし、初期のデータは逸話的な報告と小さなケースシリーズに基づいていました。

本研究は、2020年5月から2021年5月までに、カナダとアメリカにおける15の病院において実施。適格性について評価された570人の患者のうち、257人が無作為化され、248人が分析に含まれました。

最初の72時間に腹臥位になっていた時間の中央値は、介入群で合計6(1.5-12.8)時間で、標準治療群では0(0-2)時間。一次転帰のリスクは介入群18イベント(14%)、標準治療群17イベント(14%)で同様。(オッズ比0.92、95%信頼区間0.44から1.92)。 72時間後の酸素飽和度と吸気酸素濃度の比率の変化は、腹臥位と標準治療にランダム化された患者でも同様。

covid-19で入院した低酸素血症の非重症患者において、腹臥位を高めるための多面的な介入は転帰を改善しませんでした。但し、信頼区間が広いため利益または有害性を完全に排除できないことや、ポジショニングの時間が自己申告であったためリコールバイアスのリスクがあり、その結果、過大評価または過小評価されている可能性などがあります。

2021年12月の時点で、世界中で500万人以上がcovid-19(新型コロナ感染症)で死亡しました。死亡の最も強い危険因子は、高齢、併存疾患、および症状の重症度で、低酸素血症の存在です。重度の低酸素血症のない患者は、通常、病棟で鼻プロングまたはフェイスマスクを介して酸素を補給して治療されます。しかし、そのような患者の約20%は、機械的人工呼吸を必要とする呼吸不全に進行します。

出典文献
Prone positioning of patients with moderate hypoxaemia due to covid-19: multicentre pragmatic randomised trial (COVID-PRONE)
Michael Fralick, Michael Colacci, Laveena Munshi, et al.
BMJ 2022; 376 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2021-068585 (Published 23 March 2022)
Cite this as: BMJ 2022;376:e068585

高度免疫グロブリンはCOVID-19入院患者への有効性が認められず [医学一般の話題]

COVID-19(新型コロナ感染症)から回復したドナーに由来する、過免疫静脈免疫グロブリン(hIVIG)を使用する受動免疫療法は、SARS-CoV-2(ウイルス名)などの感染に対する特異的療法ですが、ランダム化臨床試験による所見は限られている。

無作為化二重盲検プラシーボ対照第3相試験の結果、レムデシビルおよび他の標準治療に加えてhIVIGの単回注入は、プラシーボ(生理食塩水)とレムデシビルおよび標準治療と比較して、無作為化後7日目において良好な臨床転帰を示さなかった。

2020年10月8日から2021年2月10日までの期間に、発症後12日以内で急性終末臓器不全のないCOVID-19入院患者を対象とし、レムデシビル(禁忌ではない場合)あるいは他の標準治療に加えてhIVIGを投与する群、および同量の生理食塩水を投与するプラシーボ群に1対1の割合で割り付けた(n = 301 hIVIG、n = 292プラシーボ)。フォローアップは28日間。

有効性の主要評価項目は7日目における患者の臨床状態で、呼吸状態および肺外合併症を考慮した7段階(症状なしまたはわずか~死亡まで)の順序尺度にて評価した。また、安全性の主要評価項目は、7日目までの死亡、重篤な有害事象(臓器不全、重篤な感染症を含む)、およびGrade3/4の有害事象の複合とし、28日目はGrade3/4の有害事象を除く7日目の病態。有効性および安全性の主要評価項目は、症状持続期間、抗スパイク中和抗体の有無、およびその他のベースライン因子。解析は、修正intention-to-treat(mITT)法による。

参加者の38%が4 L / min以上の酸素補給または高流量酸素のいずれかを受け、96%がレムデシビルを投与され、49%が無作為化前にレムデシビルを開始し、56%がコルチコステロイドを投与され、61%が無作為化前に少なくとも予防用量のヘパリンを投与されていた。

プラシーボと比較して、hIVIGグループは7日目で調整されたORは1.06 (95% CI 0.77-1.45; p = 0.72)で差は無し。7日目の複合安全性の結果の割合も、hIVIG(24%)グループとプラシーボグループ(25%)で同様(OR 0.98, 95% CI 0.66-1.46; p = 0.91)。

発症時の症状の持続期間によって内因性中和抗体の存在は異なり、6日未満で27%、10〜12日間では67%。

ベースラインで中和抗体陰性の患者では、hIVIGグループの患者の22.7%およびプラシーボグループの34.3%が、複合安全性の結果に含まれる少なくとも1つのイベントを経験した(OR 0.51、0.29 – 0.90 ; pinteraction = 0.001)。

この研究でhIVIGの有効性が示されなかったことは、抗体療法がすでに免疫応答を開始している患者に利益をもたらさない可能性を示し、進行性COVID-19の他の特性がhIVIGの有用性に影響を与える可能性がある。また、一部の患者ではCOVID-19の炎症が進行した可能性があり、体液性免疫反応を増強することが有用ではない可能性がある。

事前に指定された仮説に反し、最も早く治療された患者または入室時に内因性中和抗体を持たない患者における7日目の利益の証拠は認められなかった。症状発現から6日以内に治療を受けた患者(参加者の23%)では、hIVIGによる良好な転帰のオッズはプラシーボよりも低く、相対オッズは0.74。中和抗体陰性の患者の48%のうち、良好な結果の相対オッズ(hIVIG対プラシーボ)は0.99であり、試験開始時に中和抗体陽性の患者と差は認められず、全身性炎症のベースライン測定による治療効果に差はなかった。

エントリー時のC反応性タンパク質によるサブグループ分析では、7日目の通常の結果または7日目と28日目に評価された複合安全性の結果のいずれも治療効果に差異は認められなかった。

hIVIGの注入が一部の患者に害をもたらした可能性がある。7日目または28日目で複合安全性の結果に全体的な違いはなかったが、エントリー時に抗体陽性を中和していた患者の間で安全性イベントのリスク増加が観察され、安全性イベントの相対オッズは2.21だった。7日目-28日目までの安全性イベントを考慮した場合には違いは見られず、抗体陰性の参加者を中和するための7日目と28日目の両方で、複合安全性結果のリスクはプラシーボグループと比較してhIVIGで低かった。

個人的意見として、抗体療法がすでに免疫応答を開始している患者に利益をもたらさないことは、むしろ当然のことではないだろうか。さらに、新型コロナワクチンの複数回におよぶ接種が本当に有効であるか疑問。

出典文献
Hyperimmune immunoglobulin for hospitalised patients with COVID-19 (ITAC): a double-blind, placebo-controlled, phase 3, randomised trial.
The ITAC (INSIGHT 013) Study Group †
Journal Lancet (London, England). 2022 02 05;399(10324);530-540. pii: S0140-6736(22)00101-5.
Published:January 27, 2022DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)00101-5
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早産児の呼吸窮迫症候群に対する界面活性剤投与に優位性はなかった [医学一般の話題]

呼吸窮迫症候群の早産児へのカテーテルを介した界面活性剤投与は、死亡または気管支肺異形成の発症を有意に低下させなかったと、報告されている。

この研究は、世界中の33の高等教育レベルの新生児集中治療室で実施。臨床医と転帰評価者を盲検化したランダム化臨床試験。 登録は2011年12月16日から2020年3月26日まで、フォローアップは2020年12月2日に完了。

対象は、持続的気道陽圧法(CPAP)でサポートされ、出生後6時間以内に0.30以上の吸気酸素濃度を必要とする在胎週数25〜28週の早産児485人。

介入は、低侵襲界面活性剤療法(MIST)グループ(n = 241)は、細いカテーテルを介して外因性界面活性剤(200 mg / kgのporactantアルファ)を投与、対照グループ(n = 244)は偽療。 その後、指定された挿管基準が満たされない限り、CPAPは両グループで継続。
主な結果は、月経後36週齢で評価された死亡、または生理学的気管支肺異形成(BPD)の複合。

485人の乳児(妊娠年齢の中央値、27.3週、女児241人[49.7%)は、すべてフォローアップを完了。死亡またはBPDは、MIST群105人(43.6%)と対照群121人(49.6%)(リスク差[RD]、-6.3%[95%CI、-14.2%〜1.6%])、相対リスク[RR]、0.87[95%CI、0.74~1.03](P= 0 .10)。36週前の死亡発生率はグループ間で有意差無し(MIST;24[10.0%]、対照;19[7.8%];RD, 2.1% [95% CI, -3.6% から 7.8%] ;RR、 1.27 [95% CI, 0.63へ 2.57];P = .51)。

36週後の生存者のBPDの発生率は、MISTグループ(81/217[37.3%]、対象グループ102/225[45.3%])で低かったRD, −7.8% [95% CI, −14.9% to −0.7%]; RR, 0.83 [95% CI, 0.70 to 0.98]; P = 0 .03) 。

重篤な有害事象は、MIST群の乳児の10.3%、対照群の11.1%で発生。気管支肺異形成(BPD)発生率はMISTグループで若干低いものの、死亡発生率に差は無し。

呼吸窮迫症候群(RDS)は肺サーファクタント(界面活性物質:肺胞内の表面張力を下げて、羊水が充満していた肺胞を膨らませる)の欠乏が原因で発生する。典型的には在胎37週未満出生の新生児に起こり、未熟性が高いほど欠乏の程度も高くなる。サーファクタントが欠乏すると,肺胞が閉鎖するかまたは開かず、肺はびまん性の無気肺状態となって炎症および肺水腫を引き起こす。

この報告は意外でした。

人工サーファクタント(界面活性物質:肺胞内の表面張力を下げて、羊水が充満していた肺胞を膨らませる)の開発によって、岩手医科大学小児科の藤原哲朗教授とカロリンスカ研究所のベングト・ロバートソン教授に、1995年度のキングファイサル国際医学賞が授与されています。アメリカでは、1959年当時、毎年約1万人が新生児呼吸窮迫症候群で死亡していましたが、1996年度には、人工サーファクタントによって1400人まで減少しました。さらにその後、出産の12時間以上前にステロイドホルモンを母胎に注射する方法を組み合わせることで肺の成長が加速され、500g以下でも生存可能になったと記憶しています。

しかし、この研究の動機として、重要呼吸窮迫症候群の早産児に対するカテーテル(低侵襲界面活性剤療法[MIST])を介した界面活性剤投与の利点は不確実であると記されています。

出典文献
Effect of Minimally Invasive Surfactant Therapy vs Sham Treatment on Death or Bronchopulmonary Dysplasia in Preterm Infants With Respiratory Distress Syndrome
The OPTIMIST-A Randomized Clinical Trial
Peter A. Dargaville, Omar F. Kamlin, Francesca Orsini, et al.
JAMA. 2021;326(24):2478-2487. doi:10.1001/jama.2021.21892

頚部痛への姿勢補正衣服と運動の効果比較 [医学一般の話題]

女性の非特異的な頚部痛に対し、運動と姿勢補正衣服(PosturePlusForce)の効果を比較した研究の結果、両群において、adherenceが60%を超える被験者の痛みが有意に改善した。尚、背側後弯症(> 45°)の参加者では、PosturePlusForceは運動よりも痛みの大幅な軽減を示した(P = 0.019)。

さらに、PosturePlusForceの着用群は運動群よりも鎮痛剤の使用は少量であった(P = 0.007)。コンプライアンスは両方の介入で> 50%であり、快適さは季節によって異なった。

参加者は、頚部痛(視覚的アナログ尺度で3以上)を有する32人の女性医療専門家で、運動か、PosturePlusForceを着用するかのいずれかに割り当てられた。介入間のクロスオーバーは、3か月のウォッシュアウト期間によって分離された。

主な結果には、痛みの強さと姿勢が含まれ、二次的結果は、頚部痛に関連する障害、心理的要因、身体活動、治療の全体的な知覚効果、および衣服の快適さで構成されていた。また、治療コンプライアンス、薬物使用、および有害事象も記録された。

尚、この文献の要約には、介入後のVASの値が記されていないので、痛みがどの程度改善したかは不明。また、長期的な効果についても不明。

出典文献
A Comparative Study of a Novel Postural Garment Versus Exercise for Women with Nonspecific Cervical Pain A Randomized Cross-over Trial
Avellanet, Merce , Boada-Pladellorens, Anna Esther , Dorca, Aleix et al.
SPINE: November 15, 2021 - Volume 46 - Issue 22 - p 1517-1524
doi: 10.1097/BRS.0000000000004123

Level of Evidence: 1

院内心停止患者の自発循環回復に対するバソプレシンおよびメチルプレドニゾロンの効果 [医学一般の話題]

院内心停止中に投与された、バソプレッシンとメチルプレドニゾロンが自発循環の回復を改善するかを調査した研究で、プラシーボと比較して、自発循環回復への効果が示されたが長期生存への有益性についての疑問が残された。

本研究は、デンマークにおける10病院で実施された、多施設共同ランダム化二重盲検プラシーボ対照試験。 2018年10月15日から2021年1月21日までの間に合計512人の院内心停止の成人患者を対象として実施。追跡調査は90日間(2021年4月21日まで)。

介入は、バソプレッシンとメチルプレドニゾロン(n = 245)またはプラシーボ(n = 267)にランダム化して投与。バソプレッシン(20 IU)とメチルプレドニゾロン(40 mg)の初回投与、または対応するプラシーボはエピネフリンの初回投与後に投与。エピネフリンを追加投与するたびに、バソプレッシンまたは対応するプラシーボを追加投与し、最大4回投与。

主要転帰は自発循環の回復。二次転帰には、30日での生存と良好な神経学的転帰が含まれた(Cerebral Performance Categoryスコア1または2)。

バソプレシンおよびメチルプレドニゾロン群の患者237人中100人(42%)、およびプラシーボ群の患者264人中86人(33%)が自発循環の回復を達成(リスク比1.30 [95%CI、1.03-1.63];リスク差、9.6%[95%CI、1.1%-18.0%]; P =0.03)。

30日で、介入群の患者23人(9.7%)とプラシーボ群の患者31人(12%)が生存していた(リスク比、0.83 [95%CI、0.50-1.37];リスク差:-2.0%[95 %CI、-7.5%〜3.5%]; P = 0.48)。 30日目に介入群の患者18人(7.6%)とプラシーボ群の患者20人(7.6%)が良好な神経学的転帰を示した(リスク比、1.00 [95%CI、0.55-1.83];リスク差、0.0 %[95%CI、-4.7%〜4.9%]; P> 0.99)。自然循環が回復した患者では、介入群で77人(77%)、プラシーボ群で63人(73%)に高血糖が発生し、高ナトリウム血症は、介入群と​​プラシーボ群で、それぞれ28人(28%)と27人(31%)が発生。

以前の試験では、院内心停止中に投与されたバソプレッシンとメチルプレドニゾロンが転帰を改善する可能性があることが示唆されていた。しかし。

院内心停止の患者では、バソプレッシンとメチルプレドニゾロンの投与は、プラシーボと比較して、自発循環の回復の可能性を増加させたが、この治療が長期生存に有益か有害かは不明。

出典文献
Effect of Vasopressin and Methylprednisolone vs Placebo on Return of Spontaneous Circulation in Patients With In-Hospital Cardiac Arrest. A Randomized Clinical Trial
Lars W. Andersen, Dan Isbye, Jesper Kjærgaard, et al.
JAMA. 2021;326(16):1586-1594. doi:10.1001/jama.2021.16628

全身性IL-6が尿路感染症マウスモデルにおけるせん妄の病因に寄与する [医学一般の話題]

全身性IL-6が、尿路感染症(UTI)のマウスモデルにおける、せん妄の病因に寄与すると報告されている。UTIは世界中で年間推定1億5000万人が罹患している。せん妄は、UTI患者の約3分の1で回復を複雑にし、精神運動性興奮、不注意、短期記憶障害など、前頭葉と海馬の機能障害を反映する一連の症状を特徴としている。

この研究は、UTIのマウスモデルにおいて、全身性IL-6が機能的および構造的せん妄様表現型を媒介するという最初の証拠を提供し、UTI誘発性せん妄を改善するためにIL-6シグナル伝達経路を調節することの有効性を示唆している。

C57 / BL6マウスは、(1)非UTIコントロール、(2)UTI、および(3)UTI +抗IL-6抗体のいずれかにランダム化された。 UTIは、1×108大腸菌の経尿道的接種によって誘発された。前頭葉および海馬を介した行動は機能テストを使用して評価。対応する構造変化は、免疫組織化学およびウエスタンブロットによるニューロン切断カスパーゼ-3(CC3)の定量化を介して評価。脳および血漿中のIL-6は、免疫組織化学、ELISA、およびRT-PCRを使用して評価。

非UTI対照マウスと比較して、UTIマウスは、治療中、前頭および海馬を介した行動の有意に大きな障害、特にオープンフィールドでの接触走性(thigmotaxis)の増加(p <0.05)およびY迷路での自発的交代の減少(p <0.01)を示した。

全身性抗IL-6を用いたUTIマウスの治療によって、これらの機能障害は完全に逆転した。
これらの行動障害は、前頭葉および海馬のニューロンCC3の変化と相関し、UTIマウスでは非UTIコントロールと比較して前頭葉および海馬のCC3が有意に増加した(p <0.0001)。 全身性抗IL-6抗体による治療後、UTI誘発性CC3ニューロン変化は完全に逆転した(p <0.0001)。

血漿IL-6は非UTIコントロールと比較してUTIマウスで有意に上昇し(p <0.01)、血漿IL-6と前頭CC3(r2 = 0.5087 / p = 0.0028)、および前頭IL-6とCC3の間にも正の有意な相関が認められた(r2 = 0.2653、p <0.0001)。

しかし、マウスモデルと人のせん妄を同様のものとする根拠は如何なるものか。疑問は残る。

出典文献
Interleukin-6 mediates delirium-like phenotypes in a murine model of urinary tract infection
Mohammad Harun Rashid, Nicklaus A. Sparrow, Faizan Anwar, et al.
Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 247 (2021)

後部腰椎手術による外科的損傷は多裂筋線維束の受動的剛性を増加させる [医学一般の話題]

外科的損傷は、多裂筋線維束の細胞外マトリックス中のコラーゲン含有量を増加させて動的剛性を増加させたと報告されている。

後部脊椎手術は、組織学的および画像研究によれば、傍脊椎の筋肉組織に損傷を与えるがこれらの変化の生体力学的影響は不明。本研究では、動物モデルを使用して後方脊椎手術後の傍脊椎筋の生体力学的特性の変化を調査している。

12匹のSprague-Dawleyラットを、偽グループと外科的損傷(SI)グループに均等に分配。偽グループは、皮膚および腰背筋膜を正中線で切開。 SIグループは、通常の手順に従って、傍脊柱筋を椎骨から切り離した。術後13週間、L1、L3、およびL5レベルでの多裂筋および最長筋を右側で採取。各検体から、3本の線維と3〜6本の線維の束(細胞外マトリックスに包まれた約10〜20本の線維)を機械的にテストして受動弾性率を測定。各検体のコラーゲン含有量および脂肪浸潤を免疫蛍光染色によって組織学的に検査。ノンパラメトリック統計手法により、有意水準は1.25%とした。

合計220本の線維と279本の線維束をテスト。多裂筋と最長筋線維および最長筋束の弾性率はSIグループと偽グループの間で有意差は認められなかった。但し、多裂筋線維束の弾性率は、偽グループと比較してSIグループで有意に大きかった(SI median 82 kPa, range 23–284; sham median 38 kPa, range 23–50, P = 0.0004)。

SIグループの多裂筋線維束の弾性率は脊髄レベル間で統計的に異ならなかった(P = 0.023)。組織学的には、多裂筋のコラーゲンI沈着のみが、SIグループで有意に大きかった(中央値20.8%対偽5.8%、P <0.0001)。

外科的損傷は多裂筋線維束の受動的剛性を増加させる。その原因として、細胞外マトリックス中のコラーゲン含有量の増加が考えられ、これらの変化は術後の脊椎へ影響を与える可能性があると述べられている。しかし、この研究結果だけでは良く分からない。因みに、評価は“Level of Evidence: N/A”と、低い。

出典文献
The Effect of Posterior Lumbar Spinal Surgery on Biomechanical Properties of Rat Paraspinal Muscles 13 Weeks After Surgery
Yamamoto, Shun ; Malakoutian, Masoud, Theret, Marine, et al.
SPINE: November 01, 2021 - Volume 46 - Issue 21 - p E1125-E1135
doi: 10.1097/BRS.0000000000004036

足首の変形性関節症患者に対する多血小板血漿注射に効果は認められず [医学一般の話題]

足首の変形性関節症(脛骨関節腔の狭小化)患者に対してオランダの6つの施設で実施された、多施設ブロックランダム化二重盲検プラシーボ対照臨床試験の結果、多血小板血漿(PRP)注射の効果は認められなかった。

成人の約3.4%が足首(脛骨距骨関節)の変形性関節症を患っており、若い患者では、膝や股関節の変形性関節症よりも一般的とのこと。効果的な非外科的介入はほとんど無いが、多血小板血漿(PRP)注射が行われている。

対象となった患者は、視覚的アナログ尺度(範囲、0〜100)で40を超える痛みを伴う100名(平均年齢56歳; 女性45名 [45%])。登録は2018年8月24日に開始され、フォローアップは2020年12月3日に完了。

介入は、PRP(n = 48)またはプラシーボ(生理食塩水; n = 52)のいずれかにランダムに割り当てられ(1:1)、超音波ガイド下関節内注射を2回受けた。

ベースライン値と比較して、American Orthopedic Foot and Ankle Societyの平均スコアはPRPグループ10ポイント(63から73ポイント[95%CI、6-14]; P <0.001)、プラシーボグループ11ポイント改善(64から75ポイント[95%CI、7-15]; P <0.001)。 26週間にわたる調整されたグループ間の差は-1([95%CI、–6から3]; P = 0.56)。

プラシーボ群で,介入とは無関係な、1件の重篤な有害事象が報告され、これとは別に、 PRP群で13件、プラシーボ群で8件の有害事象が認められた。

したがって、結論として、足首の変形性関節症に対するPRP注射の使用は支持できないと記されている。

多血小板血漿(PRP)注射は、変形性膝関節症に対しては有効性の証拠が散見されるようです。私は足首の変形性関節症と思われる患者に未だ出会ったことが無いので、何も意見は述べられませんが、膝OA患者以上に多いとする記述には疑問を感じます(日本との違い?)。

出典文献
Effect of Platelet-Rich Plasma Injections vs Placebo on Ankle Symptoms and Function in Patients With Ankle Osteoarthritis,  A Randomized Clinical Trial
Liam D. A. Paget, Gustaaf Reurink, Robert-Jan de Vos, et al.
JAMA. 2021;326(16):1595-1605. doi:10.1001/jama.2021.16602

院外心停止の昏睡状態に対する中等度対軽度の治療的低体温の効果に差は無し [医学一般の話題]

軽度の低体温(34℃)と比較して、中等度の低体温(31℃)が院外心停止による昏睡状態の生存者の臨床転帰を改善するか否かを調査した研究結果では、180日における死亡率および神経学的転帰不良を減少させなかったと報告されている。

院外心停止における昏睡状態は高い死亡率と重度の神経学的損傷を生じる。現在のガイドラインでは、32℃から36℃で24時間の目標温度管理を推奨しているが、小規模の研究ではより低い体温をターゲットにすることの利点が示唆されていた。

本研究は、カナダ、オンタリオ州東部の三次心臓ケアセンターで実施された、単一施設、二重盲検、ランダム化、臨床優越試験。 2013年8月4日から2020年3月20日までの間に合計389人の院外心停止患者が登録され、最終フォローアップは2020年10月15日。

介入患者は、24時間、31℃(n = 193)または34℃(n = 196)の目標体温とする温度管理にランダムに割り当てられた。

主な結果は、180日における全原因による死亡または神経学的転帰の不良。神経学的転帰は、障害評価尺度を使用して評価され、神経学的転帰不良は5より大きいスコアとして定義(範囲、0〜29、29が最悪の転帰[植物状態])。副次的結果は、180日での死亡率や集中治療室での滞在期間などの19項目について評価。

一次分析に含まれた367人の患者(平均年齢61歳, 女性69人[19%])のうち、366人(99.7%)が試験を完了。主要転帰は、31℃群の89/184人の患者(48.4%)、および34℃群の83/183人の患者(45.4%)で発生(リスク差、3.0%[95%CI、7.2%-13.2 %];相対リスク、1.07 [95%CI、0.86-1.33]; P = 0.56)。

二次的結果の19項目うち、18は統計的有意差は無し。 180日での死亡率は、31℃と34℃の目標温度で、それぞれ43.5%と41.0%(P = 0.63)。集中治療室での滞在期間の中央値は、31℃グループの方が長かった(10日対7日; P = 0.004)。 31℃群と34℃群の有害事象のうち、深部静脈血栓症は11.4%対10.9%で発生し、下大静脈の血栓はそれぞれ3.8%と7.7%で発生。

尚、“Abstract”のみ読んでいるため、二次的結果の19項目の内容については不明。

出典文献
Effect of Moderate vs Mild Therapeutic Hypothermia on Mortality and Neurologic Outcomes in Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest
The CAPITAL CHILL Randomized Clinical Trial
Michel Le May, Christina Osborne, Juan Russo, et al.
JAMA. 2021;326(15):1494-1503. doi:10.1001/jama.2021.15703

自閉症スペクトラム障害への鼻腔内オキシトシン治療に効果無しと報告 [医学一般の話題]

実験的研究と小規模な臨床試験では、鼻腔内オキシトシンによる治療が自閉症スペクトラム障害のある人の社会的障害を軽減する可能性があることが示唆されていたが、プラシーボ対照第2相試験の結果有意差を示せなかった。

本研究は、自閉症スペクトラム障害の3〜17歳の小児および青年を対象にした、鼻腔内オキシトシン療法のプラシーボ対照第2相試験(24週間)。参加者は、年齢と言語の流暢さに応じて層別化。1:1の比率でランダムに割り当てられ、オキシトシンまたはプラシーボを鼻腔内投与された。1日あたりの総目標用量は48国際単位。

評価は、13項目を含む異常行動チェックリスト修正社会的引きこもりサブスケール(ABC-mSW)のベースラインからの最小二乗平均変化(スコアは0から39の範囲で、スコアが高いほど社会的相互作用が少ない)。二次的転帰には、社会的機能の2つの追加の測定値とIQの省略された測定値が含まれていた。

スクリーニングを受けた355人の子供と青年のうち、290人を登録。146人がオキシトシングループ、144人がプラシーボグループに割り当てられ、それぞれ139人と138人の参加者が、ベースラインと少なくとも1つのベースライン後のABC-mSW評価の両方を完了した。

ABC-mSWスコア(主要転帰)のベースラインからの最小二乗平均変化は、オキシトシン群-3.7、プラシーボ群-3.5(最小二乗平均差、-0.2; 95%信頼区間、-1.5から1.0; P = 0.61)で差は無し。二次転帰も試験群間で差は無し。有害事象の発生率と重症度は、2グループで類似。

自閉症スペクトラム障害の子供と青年を対象とした鼻腔内オキシトシン療法は、このプラシーボ対照試験では、24週間における、社会的または認知的機能の測定値のベースラインからの最小二乗平均変化にグループ間に有意差は認められなかった。

国内の研究では、山末英典教授(浜松医科大学精神医学講座)を責任研究者として、国立大学法人名古屋大学(岡田俊准教授)、福井大学(小坂浩隆教授)、金沢大学(棟居俊夫前特任教授)らと連携して実施した、多施設の医師主導臨床試験(Japanese Oxytocin Independent Trial: JOIN-T)の結果、一定の有効性が報告されている。

この研究結果では、視線計測で評価した客観的な社会性の改善効果や常同行動と限定的興味に対するオキシトシンの投与効果が認められた。しかし、主要評価項目である対人場面の振る舞いから評価した対人コミュニケーションの障害についてはオキシトシン投与前後で有意に軽減したものの、プラシーボ投与群でも同様に軽減し差は認められなかった。総合すると、オキシトシンによる自閉スペクトラム症の主な症状の改善は期待されるものの、対人場面に現れるコミュニケーション障害そのものに対する有効性を示す上では検討すべき点があると記されている。

出典文献
Intranasal Oxytocin in Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder
Linmarie Sikich, Alexander Kolevzon, Bryan H. King, Christopher J. McDougle, et al.
N Engl J Med 2021; 385:1462-1473 DOI: 10.1056/NEJMoa2103583

オキシトシンは脳から分泌されるホルモンで、女性での乳汁分泌促進や子宮平滑筋収縮作用が知られており、ヨーロッパでは、経鼻スプレー製剤が認可されて授乳促進の目的で使用されている。一方、日本では注射剤のみが認可されており、陣痛誘発・分娩促進などに保険適用となっている。このオキシトシンは、授乳促進や子宮平滑筋収縮作用の他に、脳の中でも作用していることが指摘されている。動物では、親子の絆を形成する上でオキシトシンの働きが重要だと知られており、人でも、健常な成人男性への経鼻スプレーを用いたオキシトシンの投与によって、他者と有益な信頼関係を形成して協力しやすくなること、表情から感情を読み取りやすくなることなどが報告されている。

Covid-19へのBNT162b2 mRNAワクチン接種後の心筋炎発生率 [医学一般の話題]

新型コロナウイルス病Covid-19)に対する、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの接種と心筋炎の発症との関連を調べた大規模調査の結果、ワクチンを少なくとも1回接種した者10万人あたりの推定発生率は2.13例(95%信頼区間[CI]、1.56〜2.70)。

心筋炎の発生率が最も高かったのは(100,000人あたり10.69例、95%CI、6.93〜14.46)、16〜29歳の男性患者。

調査は、イスラエル最大の医療機関(HCO)であるClalit Health Servicesのデータベースで、BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer–BioNTech)を少なくとも1回接種した患者の心筋炎の診断を検索したもの。

心筋炎の症例の76%が軽度、22%が中等度。 1例は心原性ショックに関連していた。心筋炎発症後83日の追跡期間中央値の後、1人の患者が再入院し、1人が退院後に原因不明で死亡。入院中に心エコー検査で心室機能障害を残した14人の患者のうち、10人は退院時にまだそのような機能障害を有し、これらの患者のうちの5人はその後の検査で心機能は正常となった。

CDCは、ワクチン有害事象報告システムのデータに基づいて、Covid-19ワクチン接種後の心筋炎の発生率を、全体で10万人あたり0.48例、18〜29歳のワクチン接種者では10万人あたり1.2例であると推定している。これらの推定値は本研究よりも低いものとなっているが、症例を特定するために使用されたさまざまな方法(CDCへの受動的報告とHCOの電子健康記録)が影響している可能性が考えられる。

米軍のCovid-19ワクチン接種キャンペーンの報告では、男性軍人10万人あたり8.2例の心筋炎(合計23例)が発生しており、これは本研究におけるすべての年齢の男性の約2倍の推定値となっている。軍事研究の研究者は、男性の17%(すべての症例が軽度または軽度から中等度の範囲)で左心室機能障害を特定している。

ワクチン接種後の心筋炎の発生率を他の研究と直接比較することはできないが、いずれも極端な違いは見受けられない。また、発生率は高くはない。

出典文献
Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization
Guy Witberg, Noam Barda, Sara Hoss, Ilan Richter, Maya Wiessman, et al.
DOI: 10.1056/NEJMoa2110737

末梢神経損傷後の交感神経のアドレナリン作動性緊張の喪失はIGN-γを介したリンパ節拡張を引き起こす [医学一般の話題]

末梢神経損傷のモデルとして、坐骨神経と大腿神経を股関節レベルで外科的に切断すると大量の膝窩リンパ節(popLN)拡張が誘発された。これは、LNへの直接的な神経支配の喪失が、神経損傷後のLNの拡張に寄与する炎症誘発性の環境を引き起こすことを示している。

軸索切断の2週間後に細胞性がピークに達し、偽手術を行った反対側は全く影響を受けなかった。一方、大腿神経の切断だけでは、popLNの細胞性にほとんど影響しなかった。また、フェノールの局所適用による一時的な神経ブロックを介する坐骨神経機能の化学的切除によってもこの効果を再現することができる。

LNは神経支配が豊富な組織であり、交感神経と感覚神経の入力を受けている。最近のデータは、感覚神経サブセットの活性化がLNにさまざまな影響を引き起こす可能性があることを示している。 対照的に、傷害後の場合のような、LN機能に対する除神経の影響の詳細な分析が不足しており、局所神経緊張の役割、特にLN機能に対する交感神経入力と感覚神経入力の寄与はほとんどわかっていない。

これまでは神経再生反応に焦点が当てられ、リンパ節機能に対する神経支配の喪失の影響は不明だった。 本研究において、popLNが坐骨神経から直接神経入力を受け、坐骨神経の除神経がリンパ節の拡張を引き起こすことが示唆された。交感神経のアドレナリン作動性緊張の喪失は、LNの拡大に関与するLN CD8T細胞でIFN-γの発現を誘導する。

手術によって誘発されたIFN-γの発現と拡大は、β2アドレナリン受容体アゴニストによって救済できるが、感覚神経アゴニストによっては救済できない。 これらのデータは、リンパ節機能に対する直接的なアドレナリン作動性入力の喪失による炎症誘発性効果を支配するメカニズムを示している。

リンパ節の拡張は、末梢神経損傷に対する単なる炎症反応ではなかった。これは、大腿神経軸索切断後にも発生するワーラー変性として知られるプロセス。除神経が局所循環に潜在的な影響を与えるか否かを調査したところ、脚の表面血流は手術によって変化しなかった。さらに、排出中のpopLNにおけるリンパ液の蓄積は神経損傷側と無傷側の間で変化がなく、表現型が局所血流またはリンパ浸透の全体的な変化によって引き起こされたのではないことを示している。また、popLNの遠心性リンパ管からリンパを排出する鼠径LNが過細胞性を示さなかったことを示すデータによってさらに強化された。すなわち、これらのデータは、popLNへの直接的な坐骨神経支配の喪失がリンパ節の拡張を引き起こすことを示している。

IFN-γは、狼瘡の発症などの自己免疫に関連している。 IFN-γ受容体(IFN-γR)の遺伝的破壊は、狼瘡になりやすいマウスにおける自己抗体の発症と腎臓病を予防する。さらに、IFN-γまたはIFN-γRに対する抗体治療はこれらのマウスの腎疾患を予防できる。

神経系では、IFN-γRの喪失が、末梢神経系の自己免疫疾患であるヒトギランバレー症候群の動物モデルである、実験的自己免疫性神経炎の自己免疫表現型を低下させる可能性が示されている。

実験的自己免疫性神経炎は主にラットで調査されており、末梢神経系でCD4T細胞を介した脱髄を引き起こすアジュバントと組み合わせた末梢ミエリン抗原で誘発される可能性がある。坐骨神経の除神経後に観察される反応と関連するサイトカインプロファイルは、この疾患モデルに似ている。さらに、ギランバレー症候群の患者のSNSへの損傷の証拠がある。

したがって、交感神経緊張の欠如によって誘発されるIFN-γの発現は、末梢神経に対する自己免疫の重要な要因である。自己免疫におけるIFN-γの役割のメカニズムは完全には明らかではないが、狼瘡では、LNIFN-γの発現はT濾胞ヘルパー細胞細胞の生成、GC形成、および自己抗体と高ガンマグロブリン血症の産生に関連している。

これらの一連のイベントは、強化されたGCB細胞形成と自己抗体生成の観察結果と一致し、LNへの直接的交感神経入力の喪失と末梢神経への自己免疫との間の機械的なリンクを提供する。

出典文献
Loss of direct adrenergic innervation after peripheral nerve injury causes lymph node expansion through IFN-γ 
Chien-Sin Chen, Jasmin Weber, Stephan Jonas Holtkamp, et al.
J Exp Med (2021) 218 (8): e20202377. https://doi.org/10.1084/jem.20202377

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新型コロナの症候性感染発生率比はワクチン非接種者では31.9倍 [医学一般の話題]

イスラエルのテルアビブにある三次医療センターで実施された単一施設の後ろ向きコホート研究の結果、症候性SARS-CoV-2感染の発生率比(IRR)は、予防接種を受けた者および非接種者で、それぞれ10万人日あたり4.7(8人)対149.8(38人)、調整済みIRRは0.03 [95%CI、0.01-0.06] )であり、非接種者では約31.9倍高い。

また、無症候性のSARS-CoV-2感染の発生率では、それぞれ10万人日あたり11.3(19人)対67.0(17人)、調整済みIRRは0.14 [95%CI、0.07-0.31] )で、非接種者は約6倍高くなった。

2020年12月20日から2021年2月25日までの期間における、鼻咽頭スワブによる定期的なスクリーニングを受けている医療従事者のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)テストによって確認された症候性および無症候性のSARS-CoV-2感染に関するデータ。

このコホートは合計6710人の医療従事者(平均[SD]年齢、44.3 [12.5]歳、4465 [66.5%]女性)を対象に、中央値63日間追跡。この内、5953人の医療従事者(88.7%)がBNT162b2ワクチンを少なくとも1回接種し、5517人(82.2%)が2回接種。一方、非接種者は少なく、757人(11.3%)。

一次転帰の調整済みIRRは、症候性感染で0.03、無症候性感染で0.14であり、それぞれ97%と86%の推定ワクチン有効性(1-IRR)に対応する。

ワクチン非接種と比較して、BNT162b2ワクチンの接種は、2回目から7日以上後に症候性および無症候性のSARS-CoV-2感染の発生率を有意に減少させた。

ワクチン接種状況と症候性SARS-CoV-2感染との関連は、第3相無作為化臨床試験で報告された95%の有効性と、イスラエルでの全国的なワクチン接種キャンペーンの研究で観察されたリスク比0.06に類似している。

但し、単一施設における後ろ向きコホート研究であることから、因果関係の推定や所見の一般化は制限される。また、回帰分析および傾向スコアの調整で考慮されなかった、他の交絡因子が存在する可能性も考えられる。たとえば、予防接種の推奨事項の順守と一般的な健康状態および行動との関連、および健康なワクチン接種者のバイアスを排除できないなど。

とは言え、イスラエルでは、感染者が激減しワクチンは確かに効いた。しかし、最近また増加傾向となっており、“いたちごっこ”に思える。それでもいずれ、SARS-CoV-2も自然に衰退してパンデミックは終息するだろう。例え、それが自然な経過であったとしても、人類がワクチンによって勝利したと宣言するのだろう。

出典文献
Association Between Vaccination With BNT162b2 and Incidence of Symptomatic and Asymptomatic SARS-CoV-2 Infections Among Health Care Workers
Yoel Angel, Avishay Spitzer, Oryan Henig, et al.
JAMA. 2021;325(24):2457-2465. doi:10.1001/jama.2021.7152

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炎症性腸疾患の年配男性はCOVID-19感染後に静脈血栓塞栓症リスクが高くなる [医学一般の話題]

退役軍人のケースクロスオーバー研究で、炎症性腸疾患(IBD)の年配の男性は、COVID-19に感染した後、静脈血栓塞栓症(VTE)を発症する可能性が8倍高くなった(OR 8.15、95%CI 4.34-15.30、P <0.001)と報告されている。

この研究の参加者は428人で、平均年齢は69歳、ほぼ全員が男性で、約80%が白人。54%が潰瘍性大腸炎、46%がクローン病と診断された。 患者の半数は5-アミノサリチル酸を服用していた。

参加者の13.6%がCOVID-19に感染し、これらのうちの21人がVTEを経験する前の30日以内にウイルスに感染していた。 さらに、IBD患者の5.1%がCOVID-19感染のために入院した。

パンデミック以前のある小規模な研究では、IBD患者は一般集団と比較してVTEを発症するリスクが2〜3倍高いことが示唆されてた。また、他の研究では、活動性IBDを呈する入院していない患者のVTEのリスクは16倍高いことが示されている。メタアナリシスデータによって、VTEが入院中の患者の死亡リスクの上昇にも関連していることが示唆されている(RR 1.31、95%CI 0.99-1.74、P = 0.06)。

しかし、慢性抗凝固薬を服用している患者に限定した場合、このグループではCOVID-19とVTEの間に有意な関連性はなかった。(OR 0.63、95%CI 0.08-5.15、P = 0.66)

著者らは、COVID-19感染前に抗凝固薬を服用していなかった患者のVTEリスクが14倍高いことを発見した(OR 14.31、95%CI 6.90-29.66、P <0.001)。

COVID-19などの感染症の患者では、感染過程によって引き起こされる内皮機能障害がトロンビン産生を増加させ、線維素溶解を終息させて凝固亢進状態を促進する。

参加者の間で最も一般的な疾患は、高血圧(58%)、糖尿病(31%)、および不整脈(20%)で、患者の31%は慢性的に抗凝固剤を使用していた。

COVID-19に感染したのは参加者の13.6%。 これらのうち、21人がVTEを経験する前の30日以内にウイルスに感染していた。 さらに、入院したIBD患者の5.1%がCOVID-19に感染した。

COVID-19(SARS-CoV-2)に感染したIBD患者はVTEのリスクが大幅に高く、一方、抗凝固剤による予防的恩恵を受けられる。

引用文献
COVID Led to Higher Clot Risk in Veterans With IBD
— Patients already on anticoagulation saw no increased VTE risk
by Zaina Hamza, Staff Writer, MedPage Today June 17, 2021

Primary Source:
Mahmud N, et al "Risk of venous thromboembolism among inflammatory bowel disease patients who contract SARS-CoV-2" 2021 Gastroenterology 2021; DOI: 10.1053/j.gastro.2021.06.012.

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COVID-19遺伝子はヒトDNAに統合できるかという論争 [医学一般の話題]

COVID-19(ウイルス名SARS-CoV-2)がそのRNAの一部をヒトゲノムに挿入できるかどうかについて、議論が起きている。

論争の発端は、2020年12月、MITのホワイトヘッド生物医学研究所の創設メンバーであるルドルフイエーニッシュ医学博士と同僚がbioRxivに関するプレプリントにおいて、SARS-CoV-2RNAが逆転写されてヒトに組み込まれる可能性があることを示唆したこと。

批判的な人たちは、研究がワクチンに影響を及ぼさないと著者が強調したとしても、COVID-19ワクチンに対する、抗ワクチンコミュニティによって研究が誤解される可能性があるという懸念を抱いている。

この考えに反対するプレプリントの1つは、査読付きのJournal ofVirologyに掲載された。パデュー大学、ミシガン大学、およびNIHの研究者グループは、これらのウイルス-ヒトキメラ転写物はRNAシーケンシング中に作成された実験室の人工物であると主張している。「新しいデータは、統計的異常またはテクノロジーに固有のノイズの結果である可能性がある、非常に低い頻度のイベントを示している」と、著者もMedPageTodayに電子メールで伝えている。現在の分析は、多くの人が提起した根本的な問題に実際には対処しておらず、COVID-19へのウイルス統合を結論付けるには不十分だとしている。

研究では、統合されたウイルス配列が、長鎖散在核要素-1(LINE-1)に特徴的な遺伝的要素に隣接していることを発見している。ヒトゲノムの約17%がこれらのLINE-1エレメントをコードしており、これらは、進化の過程でヒト遺伝子に潜入した古代ウイルスの残骸である。

利己的要素とも呼ばれるLINE-1要素は、活性化されるとヒトゲノムの周りを飛び回り、逆転写酵素を生成する可能性がある。

HIVのようなレトロウイルスとは異なり、SARS-CoV-2は、DNAへの転写を助ける逆転写酵素を持っていないが、Jaenischによれば、これらのLINE-1要素がその役割を果たしている可能性がある。これらの結果は、統合のメカニズムがこれらのLINE-1要素に関係していることの証拠を提供していると述べている。

ウイルスの統合は、C型肝炎、インフルエンザ、はしかなどの他の多くのウイルス感染症で説明されており、ヒトパピローマウイルスと同様に発癌におけるその役割について調査されている。この研究は、コロナウイルスがヒトゲノムに組み込まれることを示した最初の研究となる可能性がある。

RNAウイルスからの遺伝子情報の一部が逆転写されてヒト遺伝子に組み込まれる可能性は十分に考えられることであり、一般的な風邪や他のウイルスによる感染の際にも起こりうると考えることの方が自然だ。それは、感染性ウイルスが通常は増殖できないにもかかわらず、一部の人々が最初の感染から回復した数か月後にSARS-CoV-2RNAの検査で陽性となる理由を説明できる。

それ以前に、これらの論争は無益に思われる。科学において、議論は無用だ。研究者の権威の優劣などで決定されることではなく、実験で検証し、実証するのが科学だ。

そもそも、ヒトのゲノムDNAの約半分は感染したウイルス由来と考えられている。つまり、ヒトの設計図の半分はウイルスということ。

インフルエンザやエイズなどのRNAウイルスに感染すると、自己を守る生体防御機構が働いて異物を排除しようとする。一方、ウイルス は細胞へ感染せずには増殖することはできないため、自身が増殖するのに適した環境を作り、宿主を利用して自身を複製する。このようなウイルスと宿主細胞とのせめぎ合いの過程で、ヒトは多様なウイルスRNAをうまく選別してDNAに変換してゲノムに蓄積させてきた。

また、高等脊椎動物のみがもつ、ウイルス感染から自身を守る新しい生体防御機構として、マイクロRNAがシステマティックな遺伝子発現のネットワークを制御してウイルス感染から自身を守っている。マイクロRNAはヒトでは2,000種以上発見されているが、バクテリアには存在しない。ヒトには、未知の多くの仕組みがある。

出典文献
Can COVID-19 Genes Integrate Into Human DNA?
— Debate rages over whether SARS-CoV-2 can insert bits of its RNA into the human genome
by Veronica Hackethal, MD, MSc, Enterprise & Investigative Writer,
MedPage Today May 17, 2021

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整形外科手術後の認知機能障害はCX3CR1の上昇が関与する [医学一般の話題]

手術後の痛みは一般的な現象であり、術後の認知機能障害(POCD)の発症と密接に関連している。POCDの病因はまだ不明ではあるが、1つの主要な病態生理学的メカニズムとして、手術によって引き起こされる持続性の痛みと全身性炎症がPOCDの発症の重要な要因として示唆されている。

手術による持続性の痛みは全身性の炎症性メディエーターを誘発する可能性があり、これらの要因はマイクログリアを活性化し、認知機能障害に関連するサイトカインや他の炎症性メディエーターの放出を誘発する。

フラクタルカイン(CX3CL1)とその受容体であるCX3Cケモカイン受容体1(CX3CR1)は、痛みと炎症のシグナル伝達経路において重要な役割を果たすことが知られている。

この研究では、CX3CR1が一時的に上昇すると、手術後に持続的な痛みと、IL-6、IL-1β、TNF-αなどの炎症誘発性サイトカインの発現が増加し、その結果、星状細胞の活性化とGABA発現が増加して最終的に認知機能障害が生じることを明らかにした。

さらに、中和抗体の注射によってCX3CR1シグナル伝達を阻害すると、TF手術後に発生する持続性の痛みを阻害して炎症誘発性サイトカインの増加を抑制し、認知障害も改善した。また、CX3CR1シグナル伝達の阻害は、基礎CBV、星状細胞の活性化、およびGABAレベルを回復した。

CX3CR1は、POCDの発症を予防するための治療戦略の重要なターゲットとなる可能性がある。

フラクタルカイン(CX3CL1)は、活性化血管内皮細胞上に発現する細胞膜結合型ケモカイン。その受容体CX3CR1は、NK細胞やcytotoxic effector T細胞(TCE)などの細胞傷害性リンパ球と成熟マクロファージや粘膜樹状細胞などの病原体や異常な細胞の排除に深く関わる免疫細胞に発現している。最近の臨床病態やマウス疾患モデルでの研究から、フラクタルカインは関節リウマチや粥状動脈硬化症などの慢性炎症疾患にも深く関与していることが示唆されている。

追伸
昔、術後の認知機能の低下は脳の広範囲に生じるmicro embolismによると、整形外科医から聞いたことがある。骨の手術では、骨を切る際にどうしても脂肪の粒子が飛ぶことになり、その結果、脳の末梢の細い血管を塞栓する。末梢の細い血管であるため手足の麻痺を起こすほどではないが、認知機能を低下させる。どちらの考えが正しいのかは判りませんが。

出典文献
Orthopedic surgery-induced cognitive dysfunction is mediated by CX3CL1/R1 signaling
Inja Cho, Jeong Min Kim, Eun Jung Kim, et al,
Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 93 (2021)

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一過性脳虚血発作および急性虚血性脳卒中患者の治療目安と転帰 [医学一般の話題]

急性梗塞の画像証拠を伴う限局性脳虚血によって引き起こされる、突然の神経学的機能不全を急性虚血性脳卒中(AIS)。神経学的欠損を伴うが、急性梗塞を伴わない虚血性エピソードは一過性脳虚血発作(TIA)と定義されている。

急性脳卒中は米国における死因の第5位で、患者は年間約800,000人。TIA患者の推定7.5%から17.4%が、その後3か月以内に脳卒中を起こす。

重度の頸動脈狭窄または心房細動がない場合、発症から24時間以内にアスピリンとクロピジグレルによる二重抗血小板療法を受け、その後、アスピリンとクロピジグレルを3週間併用後抗血小板療法を1回行うと、脳卒中のリスクは7.8%から5.2%に低下する(ハザード比0.66 [95%CI、0.56-0.77])。

症候性頸動脈狭窄症の患者は、頸動脈血行再建術と単一の抗血小板療法を受ける必要があり、心房細動の患者は抗凝固療法を受ける必要がある。

AISによって日常生活に支障を呈した患者が、その後機能的に独立している可能性は、静脈内組換え組織プラスミノーゲン活性化剤(IV rtPA)による静脈内アルテプラーゼは39%改善し、プラシーボでは26% (odds ratio [OR], 1.6 [95% CI, 1.1-2.6])。

前循環大血管閉塞の患者は、6時間以内に機械的血栓摘出術で治療した場合、内科療法のみの場合と比較して機能的に独立している可能性は46.0%vs 26.5%と高くなる(OR, 2.49 [95% CI, 1.76-3.53])。

脳磁気共鳴拡散またはコンピューター断層撮影灌流イメージングで虚血組織と梗塞組織の比率が大きい場合は、症状の発症後6〜24時間以内に治療するとスコアは約5倍高くなる(modified Rankin Scale score 0-2: 53% vs 18%; OR, 4.92 [95% CI, 2.87-8.44])。

要約すると
発症から24時間以内に治療を開始して3週間継続することで、高リスクのTIAおよび軽度の脳卒中を有する患者における脳卒中リスクを軽減できる。症状が重篤の場合、症状発症から4.5時間以内の血栓溶解および機械的血栓切除によって、24時間後の機能的転帰を改善できる。

出典文献
Diagnosis and Management of Transient Ischemic Attack and Acute Ischemic Stroke
A Review
Scott J. Mendelson, PhD, MD1; Shyam Prabhakaran, MD, MS1,2
JAMA. 2021;325(11):1088-1098. doi:10.1001/jama.2020.26867

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ケトン体による脳代謝の促進および腎保護作用 [医学一般の話題]

ケトン体とは、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの総称で、絶食、低炭水化物食の摂取、激しい運動時など、体内のブドウ糖が枯渇する状態の時にブドウ糖に代わるエネルギー源として肝臓で産生される。

ケトン体の血中濃度が高くなると血液や体液が酸性になってケトアシドーシスになる(アシドーシスとは酸血症のこと)。特に、1型糖尿病患者さんのように、インスリンが不足した状態では脂肪の代謝が亢進して血中にケトン体が蓄積してアシドーシスとなる。それ故、ケトン体はケトアシドーシスを引き起こす物質として悪玉と思われ易い。

しかし、グルコースが不足した状態では、ケトン体は脳にとって重要なエネルギー源となる。ケト原性の食事、ケト原性中鎖脂肪酸の摂取や外因性ケトンは脳の代謝を促進するため、脳のグルコース代謝の悪化を特徴とする、脳における神経変性疾患を改善する可能性がある。

ケトン体の神経保護的役割を調べた脳イメージング研究において、ケトン体が脳エネルギー代謝を高め、アルツハイマー病やパーキンソン病患者の機能を緩やかに改善することがが示されている。

さらに、β-ヒドロキシ酪酸にはエネルギー源としての作用以外に酸化反応や炎症反応を抑制する作用があることが明らかとなり、心臓や脳など、様々な臓器に対する保護作用が報告されている。

腎虚血再灌流モデルマウスの腎臓では、細胞増殖に関わるFOXO3というタンパクの発現が低下し、その下流にあるパイロトーシスに関わるCaspase-1、IL-1β、IL-18の発現が上昇してパイロトーシスが亢進する。しかし、β-ヒドロキシ酪酸を投与したマウスの腎臓ではFOXO3の発現が上昇し、Caspase-1、IL-1β、IL-18の発現が低下してパイロトーシスが抑制されて腎臓機能や腎組織所見の改善が認められた。

β-ヒドロキシ酪酸がFOXO3の発現を上昇させるメカニズムにはヒストンのアセチル化が関係している。遺伝情報をコードするDNAを包んでいるヒストンがアセチル化されると、遺伝子の発現が促進されてDNAの転写が活性化する。一方、腎虚血再灌流モデルマウスの腎臓では、ヒストン脱アセチル化酵素によってアセチル基が除去され、その結果、ヒストンとDNAの結合が強固になって遺伝子の発現が抑制される。しかし、β-ヒドロキシ酪酸を投与したマウスの腎臓ではヒストンのアセチル化が亢進する。

β-ヒドロキシ酪酸は、ヒストン脱アセチル化酵素を抑制する作用を有し、ヒストンのアセチル化によるFOXO3の発現を上昇させてパイロトーシス抑制作用を発揮し、腎臓に対して保護的に作用する。
パイロトーシス:
細胞の死には、プログラム化されていない死である「ネクローシス」と、プログラム化された死の「アポトーシス」と「パイロトーシス」の3種類がある。パイロトーシスでは死の過程でIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインを放出することで周囲の細胞に危険を知らせると同時に、炎症を惹起する。

引用文献
Effects of Ketone Bodies on Brain Metabolism and Function in Neurodegenerative Diseases.
Nicole Jacqueline Jensen, Helena Zander Wodschow, Malin Nilsson, Jørgen Rungby
Int. J. Mol. Sci. 2020, 21(22), 8767; https://doi.org/10.3390/ijms21228767

β-hydroxybutyrate attenuates renal ischemia-reperfusion injury through its anti-pyroptotic effects.
Tajima T, Yoshifuji A, Matsui A, Itoh T, et al,
Kidney International. 2019 May;95(5):1120-1137.

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ミスフォールドタンパク質が虚血性脳卒中誘発神経炎症および脳損傷を悪化させる [医学一般の話題]

マウスにおける、虚血/再灌流(I/R)誘発脳損傷に続くミスフォールドCryABR120Gタンパク質が、マウスの神経炎症および脳損傷を悪化させることが示唆されている。さらに、マウスと一次神経細胞培養の両方において、CryABR120Gタンパク質毒性を媒介するエキソソームの役割も確認された。

本研究の結果、CryABR120GマウスをNtg(非トランスジェニック)マウスと比較した場合、梗塞体積の劇的な増加、脳機能回復の遅延、およびI/R後の脳における神経炎症とタンパク質凝集の増強が示された。さらに、CryABR120Gマウスの脳から分離されたタンパク質凝集体の質量分析により、脳内に変異型CryABR120Gタンパク質が存在することが確認された。

CryABR120Gマウスの血液から単離されたエクソソームをWTマウスに静脈内投与すると、WTマウスのI/R誘発性脳損傷が悪化した。 さらに、CryABR120Gマウスエクソソームを初代神経細胞培養物とインキュベートすると、顕著なタンパク質凝集が誘導された。CryABR120G凝集体の種子を細胞培養に形質導入すると、正常なCryABタンパク質が劇的に凝集して大きな凝集体を形成し、細胞内でのCryABR120Gのミスフォールドの自己増殖が示唆された。

虚血性脳卒中は、脳動脈の閉塞によって引き起こされ、神経の喪失および機能不全に関連付けられる。脳虚血と再灌流(I/R)に続いて、ミトコンドリア機能不全、グルタミン酸誘発性興奮毒性および神経炎症が起こり、酸化ストレス、タンパク質損傷、および凝集につながる。プロテオスタシスは、I/Rに続く神経損傷および機能回復において重要な役割を果たす。

多くの神経疾患はミスフォールドタンパク質を含み、これが疾患進行のための自己伝播剤として機能する。この病原性タンパク質のプリオン様の性質は、レビー体、αシヌクレイン、タウ、βアミロイド、変異ハンチンチン、および他の様々な神経変性疾患関連タンパク質の病理に見られる。しかし、タンパク質凝集体は、心臓、腎臓、および膵臓などの末梢器官にも見られる。

プリオン様現象が末梢組織から脳に伝播し、脳の機能的または病理学的変化やI/R誘発脳損傷の悪化につながるかどうかは不明であった。また、虚血性脳卒中病態生理および回復に影響を及ぼす決定因子は十分には理解されていない。これらの問題に対し、この研究では、デスミン関連心筋症を引き起こす心筋細胞において、ミスセンス(R120G)変異型αB-結晶(CryABR120G)を選択的に発現するトランスジェニックマウスの脳を調べた。

結論として、I/Rに続いて、ミスフォールドされたCryABR120Gタンパク質がマウスの神経炎症および脳損傷を悪化させることが実証された。さらに、マウスと一次神経細胞培養の両方において、CryABR120Gタンパク質毒性を媒介するエキソソームの役割も実証された。重要なことに、ミスフォールドCryABR120Gタンパク質凝集体が正常なCryABタンパク質をミスフォールドタンパク質に誘導し、細胞培養中に大きなタンパク質凝集体を形成する可能性があるという証拠が示唆された。これらの結果は、末梢のミスフォールドタンパク質が脳機能を破壊し、I/R誘発脳損傷を悪化させることを示唆している。

プロテオームの完全性を維持することは、細胞の生存と正常な機能に不可欠。しかし、遺伝子変異、ストレス状態、または代謝異常のためにタンパク質がミスフォールド(誤って折り畳まれる)される場合が多い。哺乳類細胞は、タンパク質ホメオスタシス、またはプロテオスタシスを維持するため:に、分子シャペロン、ユビキチンプロテアソーム系とオートファジーリソソーム系の3つの主要なメカニズムを進化させた。これらの細胞監視メカニズムは、ミスフォールドされたタンパク質を検出して修復したり排除する。しかし、タンパク質の品質管理の障害は、多くの神経変性疾患、代謝障害、心筋症、肝臓疾患、全身性アミロイドーシスを含む、タンパク質立体構造障害として知られている多数の壊滅的なヒト疾患に関連するプロテオ毒性を引き起こす。

出典文献
Peripherally misfolded proteins exacerbate ischemic stroke-induced neuroinflammation and brain injury
Yanying Liu, Kalpana Subedi, Aravind Baride, Svetlana Romanova, Eduardo Callegari, et al,
Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 29 (2021)
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頸動脈洞神経の電気刺激は炎症を軽減して内毒素血症性ショックから保護する [医学一般の話題]

マウスの頸動脈洞神経への電気刺激は炎症を軽減し、骨髄性免疫細胞の糖質コルチコイド受容体に作用するコルチコステロンの増加を介して、リポ多糖によって誘発される内毒素血症性ショックから保護する。これらの結果は、免疫性炎症性疾患の治療アプローチとしての根拠を示すとともに、治療戦略となる可能性がある。

頸動脈洞神経の電気刺激が、麻酔および非麻酔意識マウスの両方でリポ多糖誘発腫瘍壊死因子産生を阻害した。頸動脈洞神経電気刺激の抗炎症効果は非常に強力であり、意識的なマウスを内毒素症のショック誘発死から保護した。

この作用は迷走抗炎症反射のメカニズムとは対照的に、自律神経系を通じたシグナル伝達に依存しない。頸動脈洞神経電気刺激によるリポ多糖誘発腫瘍壊死因子産生の阻害は、副腎の外科的除去によって、グルココルチコイド受容体アンタゴニストミフェプリストンによる治療、または骨髄細胞におけるグルココルチド遺伝子の遺伝的不活性化によって消失する。また、頸動脈洞神経の電気刺激は、視床下部室傍核の自発的放電活動を増加させ、コルチコステロンの産生を増強する。

炎症は、病原体、損傷した細胞、刺激物などの有害な刺激に対する体組織の複雑な生物学的反応の一部であり、免疫細胞の動員と炎症誘発性サイトカイン(腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン(IL)-1α、IL-1β、IL-6、IL-12)などの可溶性分子の産生が含まれる。これらのサイトカインは、最終的に特異的な表面受容体を介してシグナル伝達することによって、免疫および非免疫細胞タイプの両方に作用する。炎症は保護メカニズムであるが、炎症促進部位は組織損傷を引き起こして有害に作用する。これは、グラム陰性菌による血流感染によって誘発される、重度の全身性炎症反応に起因するエンドトキシンショック中に発生する。したがって、いくつかの神経ホルモン抗炎症経路が同定されたことは驚くべきことではなく、視床下部下垂体副腎(HPA)軸および迷走抗炎症反射の活性化の、少なくとも2つの神経ホルモン抗炎症経路が示されている。

HPAは、視床下部の室傍核(PVN)を活性化し、最終的には下垂体前葉へのコルチゾール放出ホルモン(CRH)の放出を活性化する心理的ストレスを含むいくつかの刺激によって活性化される。CRHは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の血中への放出を誘発して副腎皮質による糖質コルチコイドの産生を刺激する。 糖質コルチコイドは強力な抗炎症分子であり、その効果は、体内のほぼすべての細胞、特に自然免疫細胞によって発現される糖質コルチコイド受容体(GR)によるシグナル伝達を介して媒介される。

免疫細胞による炎症促進性サイトカイン産生の阻害は、HPA軸が活性化されるとグルココルチコイドによって媒介される。一方、迷走抗炎症反射はニコチン性ACh受容体(nAChR)上のアセチルコリン(ACh)の結合に依存する。迷走性抗炎症反射は主に迷走神経、セリアック神経節でのシナプス、脾臓に投影する交感神経線維によるノルエピネフリンの放出を伴う。ノルエピネフリンはCD4+T細胞の表面でβ2アドレナリン受容体(AR)に結合し、最終的にはnAChR依存機構を介して脾臓マクロファージによるAChの放出および炎症促進性サイトカイン産生の阻害を誘発する。近年、迷走神経の電気活性化を介して、この炎症性反射を治療に変換する取り組みが行われている。

さらにこの研究では、CSN電気刺激による炎症の軽減が、致死的LPS注射による内毒素性ショックのモデルに対して生理学的利益をもたらすかを調べた。その結果、意識的なCSN刺激が骨髄細胞におけるGRシグナル伝達を通じてLPS誘導TNF産生を減衰させることが実証された。また、CSN刺激がマウスの生存率を有意に増加させた。この生存率の強化は、免疫細胞のリクルートおよび活性化に重要な役割を果たすTNF、IL-6、IL-12およびIL-1βなどの炎症性サイトカインの産生減少に起因する可能性が高い。IL-12はナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、IL-1βおよびIL-6の両方が発熱活性を誘導する。TNFは、内皮細胞間の密着した結合の緩みを促進し、その結果、体液損失および多臓器不全を生じる。内毒症ショックは免疫系の調節不全の代表であり、CSN刺激がそれに対して保護効果を有することを示唆している。

しかし?

非常に興味深い研究であるが、マウスに対する実験であることから人への効果は不明。さらに、頸動脈洞神経の電気刺激も迷走神経の電気刺激も、その効果が持続するとは思われない。電気刺激による応答も、ホルモンの分泌もいずれ減弱すると予想される。したがって、膠原病などの自己免疫疾患に対して、一時的には症状を緩和したとしてもとても治癒できるとは考えにくい。

出典文献
Electrostimulation of the carotid sinus nerve in mice attenuates inflammation via glucocorticoid receptor on myeloid immune cells
Aidan Falvey, Fabrice Duprat, Thomas Simon, et al,
Journal of Neuroinflammation volume 17, Article number: 368 (2020)

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高心血管リスクを有する患者へのΩ3脂肪酸の投与は心血管イベントを減少させない [医学一般の話題]

無作為化臨床試験の結果、アテローム原性脂質異常血症および高心血管リスクを有する患者に対するEPA および DHA (オメガ 3 CA)の投与は、トウモロコシ油の使用と比較して、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠状動脈再血管化、または不安定狭心症の入院の複合終点などに有意な効果を示さなかった。

尚、この試験は、オメガ 3 CA 対トウモロコシ油比較器の臨床的利益が低いことにより、中間分析に基づいて早期に停止された。

以前の観察研究では、オメガ3脂肪酸の摂取と心血管イベントと、エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)の循環濃度が心血管リスクと逆相関することを示すものもあった。また、EPAおよびDHAサプリメントの1 g /dで心血管の利益を示す報告もあった。しかし、何れも、その後のより大きな試験ではこれらの知見は確認できなかった。

スタチンで治療されたアテローム性脂質異常症の証拠がある高リスク患者に対し、4gのオメガ3脂肪酸を投与した最近の研究では、臨床的利益の可能性が低く、オメガ3 CA治療群において心房細動の発生率が高いなど、リスクの証拠があったため早期に中止されている(1.2)。

つまり、世間の認識とは違い、EPAとDHAが心血管リスクを減少させるかどうかは不明。

出典文献
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk
The STRENGTH Randomized Clinical Trial
Stephen J. Nicholls, Michael Lincoff, Michelle Garcia, RN, et al,
JAMA. Published online November 15, 2020. doi:10.1001/jama.2020.22258

1.
Kastelein JJ, Maki KC, Susekov A, et al. Omega-3 free fatty acids for the treatment of severe hypertriglyceridemia: the EpanoVa fOr Lowering Very high triglyceridEs (EVOLVE) trial.  J Clin Lipidol. 2014;8(1):94-106. doi:10.1016/j.jacl.2013.10.003

2.
Maki KC, Orloff DG, Nicholls SJ, et al. A highly bioavailable omega-3 free fatty acid formulation improves the cardiovascular risk profile in high-risk, statin-treated patients with residual hypertriglyceridemia (the ESPRIT trial).  Clin Ther. 2013;35(9):1400-11.e1, 3. doi:10.1016/j.clinthera.2013.07.420

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