整形外科手術後の認知機能障害はCX3CR1の上昇が関与する [医学一般の話題]

手術後の痛みは一般的な現象であり、術後の認知機能障害(POCD)の発症と密接に関連している。POCDの病因はまだ不明ではあるが、1つの主要な病態生理学的メカニズムとして、手術によって引き起こされる持続性の痛みと全身性炎症がPOCDの発症の重要な要因として示唆されている。

手術による持続性の痛みは全身性の炎症性メディエーターを誘発する可能性があり、これらの要因はマイクログリアを活性化し、認知機能障害に関連するサイトカインや他の炎症性メディエーターの放出を誘発する。

フラクタルカイン(CX3CL1)とその受容体であるCX3Cケモカイン受容体1(CX3CR1)は、痛みと炎症のシグナル伝達経路において重要な役割を果たすことが知られている。

この研究では、CX3CR1が一時的に上昇すると、手術後に持続的な痛みと、IL-6、IL-1β、TNF-αなどの炎症誘発性サイトカインの発現が増加し、その結果、星状細胞の活性化とGABA発現が増加して最終的に認知機能障害が生じることを明らかにした。

さらに、中和抗体の注射によってCX3CR1シグナル伝達を阻害すると、TF手術後に発生する持続性の痛みを阻害して炎症誘発性サイトカインの増加を抑制し、認知障害も改善した。また、CX3CR1シグナル伝達の阻害は、基礎CBV、星状細胞の活性化、およびGABAレベルを回復した。

CX3CR1は、POCDの発症を予防するための治療戦略の重要なターゲットとなる可能性がある。

フラクタルカイン(CX3CL1)は、活性化血管内皮細胞上に発現する細胞膜結合型ケモカイン。その受容体CX3CR1は、NK細胞やcytotoxic effector T細胞(TCE)などの細胞傷害性リンパ球と成熟マクロファージや粘膜樹状細胞などの病原体や異常な細胞の排除に深く関わる免疫細胞に発現している。最近の臨床病態やマウス疾患モデルでの研究から、フラクタルカインは関節リウマチや粥状動脈硬化症などの慢性炎症疾患にも深く関与していることが示唆されている。

追伸
昔、術後の認知機能の低下は脳の広範囲に生じるmicro embolismによると、整形外科医から聞いたことがある。骨の手術では、骨を切る際にどうしても脂肪の粒子が飛ぶことになり、その結果、脳の末梢の細い血管を塞栓する。末梢の細い血管であるため手足の麻痺を起こすほどではないが、認知機能を低下させる。どちらの考えが正しいのかは判りませんが。

出典文献
Orthopedic surgery-induced cognitive dysfunction is mediated by CX3CL1/R1 signaling
Inja Cho, Jeong Min Kim, Eun Jung Kim, et al,
Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 93 (2021)

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