職場の健康プログラムは社員の健康や医療費削減に効果なし [医学一般の話題]

最近では、雇用主は従業員の健康改善と医療費の削減のため、職場のウェルネスプログラムに投資しているものの、これまでに、その効果についての実験的な証拠はほとんどなかった。本研究による結果では、データには不完全なアウトカムがあり限定的ではあるが、運動や体重管理を積極的に行った以外には、臨床データ、欠勤率や仕事のパフォーマンスなどにも有意な効果は認められなかった。

アメリカ国内160ヵ所の職場を対象に、クラスター無作為化比較試験を実施。総被験者数は3万2,974例で、平均年齢38.6歳、女性45.9%。

雇用主によって提供される多要素職場健康プログラムを評価。このプログラムは、栄養、身体活動、ストレス低減、および登録栄養士による関連トピックに焦点を当てた8つのモジュールで構成されている。

試験対象の職場から、無作為に20ヵ所(4,037例)を抽出して介入群とし、各職場の登録栄養士が、栄養摂取、身体活動、ストレス解消や、その他の関連するトピックスについて8回の講義を行った。残りの140ヵ所の職場は対照群とし、何も行わなかった。

4 つの成果ドメインを評価。自己報告による健康と行動 (29 の成果) とスクリーニングによる健康の臨床対策 (10 の成果) を20の介入と、20の主要なコントロールサイトの間で比較。行政データによる医療支出と利用 (38 の成果) と雇用の成果 (3 つの成果) を20の介入と140のコントロールサイトの間で比較。

18ヵ月時点で、自己申告による健康関連アウトカムのうち、定期的に運動を行っていると回答した割合は、対照群61.9%に対し、介入群は69.8%と有意に高率(補正後群間差:8.3ポイント、95%信頼区間[CI]:3.9~12.8、p=0.03)。積極的に体重管理を行っている割合も、対照群54.7%に対して介入群が69.2%と高率(同:13.6ポイント、7.1~20.2、p=0.02)。

しかし、その他の自己申告による健康・行動に関する27項目(自己申告の健康、睡眠の質、食物選択など)、臨床検査測定値10項目(コレステロール、血圧、BMIなど)、医療・薬剤費や医療サービス利用状況の38項目、および雇用アウトカム3項目(欠勤率、就労期間、就労成果)については、いずれも効果は認められなかった。

今回の結果から言えることは、短期的であることに問題はあるものの、企業が行う健康を謳ったプログラムには相応の費用対効果は望めない。

詳しい事は知らないが、アメリカにおけるウエルネス制度は、従業員の“健康good healthと調和wellbeing”を維持・達成することを奨励する制度で、大企業では、健康リスク評価調査や運動/栄養・禁煙・ストレス管理を行う“wellness program”を保険でカバーしているところが多いとのこと。保険料率の低減や、フレックスプラン単位の付加といったインセンティブを用いたり、一方では、保険料の引上げやフレックス単位の削減といったペナルティを連携させている企業も多く、各種差別法を順守した制度の見直しも求められていると聞く。

出典文献
Effect of a Workplace Wellness Program on Employee Health and Economic Outcomes: A Randomized Clinical Trial
Zirui Song, Katherine Baicker,
JAMA. 2019; 321(15):1491-1501. doi: 10.1001/jama.2019.3307
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