グルコサミンサプリメントの習慣的使用は心血管疾患のリスク低下に関連する [栄養の話題]

変形性関節症などによる、関節痛の患者に対するグルコサミンの有効性については、議論が続いている。一方、疫学的研究による新たな証拠によって、グルコサミンが心血管疾患 (CVD) を予防する可能性が示唆されている。

グルコサミンは、ほとんどのヨーロッパ諸国においては厳密に規制されており、処方箋が必要となっている。しかし、アメリカやオーストラリア、および日本などの他の国では栄養補助食品として人気があり、大人の約 20% が毎日消費している。

研究デザインは、イギリスバイオバンクにおける前向きコホート研究。参加者は、心疾患のない466, 039名について、グルコサミンが含まれる、サプリメント使用に関するアンケートを実施。2006年から2010年に登録され、2016年まで継続。メインアウトカムは、CVD 死、冠動脈心疾患、脳卒中などを評価。

フォローアップの中央値7年間に、10,204件のCVDイベントが発生。3,060名がCVD死亡、5,745件の冠動脈心疾患イベント、および3,263件の脳卒中イベントがあった。

年齢、性別、体格指数、人種、生活習慣、食事摂取、薬物使用、および他のサプリメント使用の調整後、グルコサミンの使用は総 CVDイベントの低リスク(15%低下)と有意に関連していた(hazard ratio 0.85, 95% confidence interval 0.80 to 0.90)

また、CVD 死 (0.78、0.70 ~ 0.87)、冠動脈心疾患 (0.82、0.76 〜 0.88)、および脳卒中 (0.91、0.83 〜 1.00)のいずれも低下した。

さらに興味深いのは、CVD発症におけるグルコサミン使用と喫煙の間に一貫した関連性が認められたこと。グルコサミンの使用によってCVDリスクは逆相関し、現在の喫煙者ではリスク低減は37%、これは、非喫煙者の12% 、および以前の喫煙者の 18%よりも有意に大きかった。

喫煙者は非喫煙者と比較して、より高い炎症レベルによってCVDリスクが高いことが想定されるため、抗炎症効果によってリスク低減が大きくなったものと推測され、グルコサミンの使用と喫煙の間の関係は説明できるものと考えられている。

出典文献
Association of habitual glucosamine use with risk of cardiovascular disease: prospective study in UK Biobank
Hao Ma, Xiang Li, Dianjianyi Sun, Tao Zhou, Sylvia H Ley, et al.,
BMJ 2019; 365 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l1628 (Published 14 May 2019)
Cite this as: BMJ 2019;365:l1628

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実験的壊死性腸炎は新生児脳の神経炎症を誘発する [医学一般の話題]

壊死性腸炎 (NEC) は、主に早産の新生児に影響を及ぼす消化管疾患であるが、同時に、脳の細胞集団の形態の重篤な変化と炎症反応に関連し、未熟児だけでは説明できない神経発達遅延を引き起こす。

NECは、脳の特定の領域におけるニューロン数、オリゴデンドロサイト、および神経前駆細胞数の減少と関連していた。 炎症誘発性サイトカインのレベル、ならびに活性化ミクログリアおよびアストロサイトの密度が脳内で増加し、腸内の炎症誘発性サイトカインの増加およびNEC損傷の重症度とそれぞれ正に相関した。

回腸と脳における IL-6 レベルは正に相関した [p = 0.02, r = 0.61 (95% CI 0.14 から 0.85)]。同様に、回腸および脳における Tnfαのレベルにも正の相関が見られた [p = 0.01, r = 0.66 (95% CI 0.17 〜 0.89)]。

本研究の結果、実験的NEC が新生児脳の構造を損ない、アポトーシスや ER ストレスを含む細胞状態の変化を誘発して脳の特定領域における密度を変化させることを示している。これらの変化は、炎症性サイトカインの活性化によって媒介される脳内の抗炎症反応中に起こっており、腸内における神経炎症の重症度に比例する。

巨視的なデータでは、NEC仔の脳はコントロールと比較して皮質の厚さが減少していた。皮質の厚さはニューロン数と相関し、正常な神経発達は小児期における皮質の厚さの漸進的増加に関連する。早産児において、長期認知障害は、灰色および白色の皮質体積の減少と関連している。観察された皮質の厚さの違いはミエリン沈着の障害に起因する。本研究で、中脳、海馬、皮質下領域に髄鞘形成障害を持つマウス仔は、行動研究によって認知機能障害が確認されている。

以前の、超低出生体重児に対して行われた人口ベースの観察研究では、NECの出生児は重度の頭部成長障害のリスクが3倍増加することが示されていた。

また、Niñoらによって、NECマウス仔はミクログリアの活性化を伴う髄鞘形成障害および認知機能障害を発症することが示されている。 しかしこれまで、異なる脳領域における脳細胞の集団の密度、および恒常性に対するNECの局所効果の詳細は特徴付けられておらず、神経発達遅延の病因は部分的にしか知られていなかった。

本研究では、NECの新生児マウスモデルを用いて、特定の脳領域における脳細胞集団に生じる巨視的および微視的変化を評価するとともに、NECに続発する腸損傷の重篤度について検討している。

出典文献
Experimental necrotizing enterocolitis induces neuroinflammation in the neonatal brain
George Biouss, Lina Antounians, Bo Li, Joshua S. O’Connell, Shogo Seo, et al.,
Journal of Neuroinflammation201916:97
https://doi.org/10.1186/s12974-019-1481-9

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職場の健康プログラムは社員の健康や医療費削減に効果なし [医学一般の話題]

最近では、雇用主は従業員の健康改善と医療費の削減のため、職場のウェルネスプログラムに投資しているものの、これまでに、その効果についての実験的な証拠はほとんどなかった。本研究による結果では、データには不完全なアウトカムがあり限定的ではあるが、運動や体重管理を積極的に行った以外には、臨床データ、欠勤率や仕事のパフォーマンスなどにも有意な効果は認められなかった。

アメリカ国内160ヵ所の職場を対象に、クラスター無作為化比較試験を実施。総被験者数は3万2,974例で、平均年齢38.6歳、女性45.9%。

雇用主によって提供される多要素職場健康プログラムを評価。このプログラムは、栄養、身体活動、ストレス低減、および登録栄養士による関連トピックに焦点を当てた8つのモジュールで構成されている。

試験対象の職場から、無作為に20ヵ所(4,037例)を抽出して介入群とし、各職場の登録栄養士が、栄養摂取、身体活動、ストレス解消や、その他の関連するトピックスについて8回の講義を行った。残りの140ヵ所の職場は対照群とし、何も行わなかった。

4 つの成果ドメインを評価。自己報告による健康と行動 (29 の成果) とスクリーニングによる健康の臨床対策 (10 の成果) を20の介入と、20の主要なコントロールサイトの間で比較。行政データによる医療支出と利用 (38 の成果) と雇用の成果 (3 つの成果) を20の介入と140のコントロールサイトの間で比較。

18ヵ月時点で、自己申告による健康関連アウトカムのうち、定期的に運動を行っていると回答した割合は、対照群61.9%に対し、介入群は69.8%と有意に高率(補正後群間差:8.3ポイント、95%信頼区間[CI]:3.9~12.8、p=0.03)。積極的に体重管理を行っている割合も、対照群54.7%に対して介入群が69.2%と高率(同:13.6ポイント、7.1~20.2、p=0.02)。

しかし、その他の自己申告による健康・行動に関する27項目(自己申告の健康、睡眠の質、食物選択など)、臨床検査測定値10項目(コレステロール、血圧、BMIなど)、医療・薬剤費や医療サービス利用状況の38項目、および雇用アウトカム3項目(欠勤率、就労期間、就労成果)については、いずれも効果は認められなかった。

今回の結果から言えることは、短期的であることに問題はあるものの、企業が行う健康を謳ったプログラムには相応の費用対効果は望めない。

詳しい事は知らないが、アメリカにおけるウエルネス制度は、従業員の“健康good healthと調和wellbeing”を維持・達成することを奨励する制度で、大企業では、健康リスク評価調査や運動/栄養・禁煙・ストレス管理を行う“wellness program”を保険でカバーしているところが多いとのこと。保険料率の低減や、フレックスプラン単位の付加といったインセンティブを用いたり、一方では、保険料の引上げやフレックス単位の削減といったペナルティを連携させている企業も多く、各種差別法を順守した制度の見直しも求められていると聞く。

出典文献
Effect of a Workplace Wellness Program on Employee Health and Economic Outcomes: A Randomized Clinical Trial
Zirui Song, Katherine Baicker,
JAMA. 2019; 321(15):1491-1501. doi: 10.1001/jama.2019.3307
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非喫煙者の間で肺癌罹患率が上昇 [医学一般の話題]

生涯にわたる非喫煙者の間で肺がんの罹患率が上昇していますが、医師の多くもこの事を認識していないとのこと。

王立医学協会誌では、イギリスの4つの公衆衛生当局者によって、「決して喫煙しない人の肺がん:隠れた病気」と題して、生涯の非喫煙者も肺癌の意識を高めるよう呼びかけている。

イギリスにおいて、毎年一度も喫煙したことのない約6000人が肺癌で死亡し、肺癌による死亡者全体の約 15% を占めている。非喫煙者の肺癌による死亡は、イギリスにおける癌関連死の第8位の原因であり、リンパ腫、白血病、卵巣癌、および子宮頸癌よりも死亡率が高い。これは、受動喫煙による交絡とは考えにくい。

最近の研究では、非喫煙者における肺癌は臨床的、病理学的、および生物学上の異なる特徴を有しており、非喫煙者の肺癌の大部分が小細胞肺癌に限定されている。

イギリスにおける、非喫煙者の肺癌の主な要因の推定値は、間接喫煙(〜15%)、職業性発癌物質の曝露(〜20.5%男性および4.3%女性)、屋外汚染(〜8%)、x-放射線の放射線(〜0.8%)とラドンの暴露(〜0.5%)。また、一度も喫煙したことのない女性は、生涯にわたり喫煙しない男性よりも肺がんの割合が高いと述べられている。

私は個人的に、大気中オゾン濃度の上昇、および職場環境中のオゾンへの暴露が要因として大きいと推測している(以前に紹介)。

出典文献
Lung cancer in never-smokers: a hidden disease
Bhopal A, et al
J Royal Soc Med 2019; DOI:10.1177/0141076819843654.
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