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経口ホルモン避妊薬の使用は生殖年齢女性の卵巣癌発症リスクを減少させる [薬とサプリメントの問題]

デンマークにおける全国的コホート研究の結果、複合ホルモン避妊薬の使用によって卵巣癌の発症を21% 防止したと報告されている。

調査は、1995-2014年。2140万人年の結果、1249人が卵巣癌を発症。

ホルモン避妊薬の非ユーザーと比較した卵巣癌のリスクは、現在または最近の使用で相対リスク 0.58 (95% confidence interval 0.49 to 0.68)、以前の任意の使用では 0.77 (0.66 to 0.91)。

現在または最近のユーザー間の相対リスクは持続時間の増加に伴って減少 (from 0.82 (0.59 to 1.12) with ≤1 year use to 0.26 (0.16 to 0.43) with >10 years’ use; P<0.001 for trend)し、10年以上の使用では74%減少。

ホルモン避妊に関連付けられたリスクの減少は、卵巣癌のほぼすべてのタイプで見られた。

2012年度において、世界全体では推定 238, 719 人が新規に卵巣癌と診断され、151, 917人が死亡。5年生存率30 - 40%。

出典文献
Association between contemporary hormonal contraception and ovarian cancer in women of reproductive age in Denmark: prospective, nationwide cohort study
Lisa Iversen, Shona Fielding, Øjvind Lidegaard, et al.,
BMJ 2018; 362 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k3609 (Published 26 September 2018)
Cite this as: BMJ 2018;362:k3609

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ドライアイにオメガ3脂肪酸は効果無し [薬とサプリメントの問題]

ドライアイは、眼の不快感および視覚障害を特徴とする疾患で、生活の質を低下させる。多くの臨床医は、n-3脂肪酸(オメガ3脂肪酸)のサプリメントを推奨しているようだ。

しかし、OSDIスコアの平均変化に活性サプリメント群とプラシーボ群で有意差はなかった。さらに、結膜染色スコア、および角膜染色スコアも、ベースラインに比べて有意な変化は認められなかった。

この試験は、27臨床施設における多施設二重盲検臨床試験。923名のドライアイ患者から、適格した349名を無作為に、プラシーボ群(オリーブオイル)と、活性サプリメント群EPA2000mg、DHA1000mgに分けて毎日服用させ、1年間観察したもの。

主要転帰は、眼球表面疾患指数(OSDI;スコア0〜100、スコアが高いほど症状の重症度が高い)のベースラインからの平均変化(6および12ヶ月)。二次転帰は、結膜染色スコア(0〜6の範囲)、および角膜染色スコア(0〜15の範囲)の眼球当たりの平均変化。眼球表面のより深刻な損傷を示す高いスコア、ならびに涙液分裂時間(涙液膜の瞬きと隙間との間の秒数)およびシルマー試験(下まぶたに置かれた紙片の濡れの長さ:より低い値はより重度の徴候を示す)の結果で評価。

OSDIスコアの平均変化は、活性サプリメント群 −13.9ポイント、プラシーボ群−12.5ポイントで有意差は無かった。欠損データの補完後変化の平均差-1.9点(95% confidence interval [CI], −5.0 to 1.1; P=0.21)で、有意差無し。.

二次転帰も、ベースラインから12ヶ月の平均変化は、結膜染色スコアの変化の平均差は0.0ポイント(mean difference in change, 0.0 points; 95% CI, −0.2 to 0.1)。角膜染色スコアは0.1ポイント(0.1 point; 95% CI, −0.2 to 0.4)、涙液分裂時間0.2秒(95% CI, −0.1 to 0.5)、Schirmer’s test 0.0 mm(95% CI, −0.8 to 0.9)で、何れも有意差無し。

12ヶ月時点で、赤血球中のn-3脂肪酸のレベルから、活性サプリメント群における治療への遵守率は85.2%であった。有害事象の割合も2群で同様。

出典文献
n−3 Fatty Acid Supplementation for the Treatment of Dry Eye Disease
N Engl J Med 2018; 378:1681-1690
DOI: 10.1056/NEJMoa1709691

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ジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤は炎症性腸疾患のリスク増加に関連する [薬とサプリメントの問題]

2型糖尿病治療薬である、ジペプチジルペプチダーゼ-4インヒビター(DPP-4阻害剤)の使用は、炎症性腸疾患のリスクの全体的な75%の増加と関連していた。

552 413 person yearsのフォローアップにおいて、208件の炎症性腸疾患事象が発生(100,000人年あたり原発罹患率は37.7%;95% confidence interval 32.7 to 43.1)。DPP-4阻害剤による炎症性腸疾患のリスク増加は100,000人年あたり53.4 v 34.5で、hazard ratio 1.75(95% confidence interval 1.22 to 2.49)。

ハザード比は、使用期間が長くなるにつれて徐々に増加し、3〜4年後にピーク(hazard ratio 2.90, 1.31 to 6.41)となり、4年以上使用した後に減少した(1.45, 0.44 to 4.76)。

DPP-4阻害剤(日本ではテネリア錠:田辺三菱)は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を分解する酵素であるDPP-4の働きを選択的に阻害する薬剤。インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することで血糖降下作用を発揮する。

2型糖尿病治療における、DPP-4阻害剤の使用は、10年前に導入されて以来増加している。しかし、 DPP-4は血清中に存在して多くの細胞機能に関連する。また、免疫応答に関与するものを含む様々な細胞の表面に発現しているため、その阻害によって予期しない作用が現れる可能性がある。糖尿病の専門医は、「良い薬です。」と言うが、、、。

この研究に見る、炎症性腸疾患のような自己免疫状態におけるDPP-4の影響は十分に理解されていない。

炎症性腸疾患のマウスモデルに関する研究では、DPP-4阻害剤による治療によって疾患活性が低下することが示唆されている。一方、臨床データでは、炎症性腸疾患を有する患者の血清DPP-4濃度が、健常対照者よりも低いことが報告されている(1.2.3.)

出典文献
Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and incidence of inflammatory bowel disease among patients with type 2 diabetes: population based cohort study
Devin Abrahami, Antonios Douros, Hui Yin, et al.,
BMJ 2018; 360 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k872 (Published 21 March 2018)

1.
Magro DO, Kotze PG, Martinez CAR, et al
Changes in serum levels of lipopolysaccharides and CD26 in patients with Crohn’s disease.
Intest Res2017;15:352-7. doi:10.5217/ir.2017.15.3.352 pmid:28670232

2.
Moran GW, O’Neill C, Padfield P, McLaughlin JT
Dipeptidyl peptidase-4 expression is reduced in Crohn’s disease. Regul Pept2012;177:40-5. doi:10.1016/j.regpep.2012.04.006 pmid:22561447

3.
Hildebrandt M, Rose M, Rüter J, et al.,
.Dipeptidyl peptidase IV (DP IV, CD26) in patients with inflammatory bowel disease. Scand J Gastroenterol2001;36:1067-72. doi:10.1080/003655201750422675 pmid:11589380

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喘息患者の吸入ステロイド使用による肺炎リスクの増加 [薬とサプリメントの問題]

喘息患者における吸入コルチステロイド(inhaled corticosteroid ;ICS)の使用は、肺炎による入院リスクを83%増加させ、1日500 μg 以上の高用量では96%増加した。

対象者は、12から25歳(平均年齢24.2歳、男性34.9%)の喘息患者152,412名。1990から2007までの期間フォロー(平均4.8年)。

最近の ICS使用者と非使用者とを比較した(於ICU)肺炎のリスク比(RR)は1.83(95% CI 1.57-2.14)、超過リスクは2.03/1,000/年(RD 1.44; 95% CI 1.03-1.85)。

低用量使用RR 1.60(95% CI 1.06-2.45)、中等量RR 1.53; 95% CI 1.12-2.08)、高用量RR 1.96; 95% CI 1.64-2.34)。

また、ブデソニド(budesonide)では、RR 2.67(95% CI 2.05-3.49)で約2.7倍、フルチカゾン(fluticasone)は、RR 1.93(95% CI 1.58-2.36)で約2倍。

引用文献
Pneumonia risk in asthma patients using inhaled corticosteroids: a quasi-cohort study.
Qian CJ, et al.
Br J Clin Pharm 2017, April 20; DOI: 10.1111/bcp.13295.

ブデソニド(Budesonide商品名パルミコート)は糖質コルチコイドであり、気管支喘息にステロイドとして用いられる。ステロイド吸入薬の中では最も安全性が高く、妊婦にも用いることができる。
フルチカゾン (fluticasone) は、プロピオン酸フルチカゾンを成分とする吸入剤(商品名フルタイド)であり、気管支拡張剤サルメテロールキシナホ酸塩との配合剤(商品名アドエア)などが販売されている。フルチカゾンは、日本アレルギー学会による喘息予防・管理ガイドライン (2006) では、日常管理薬としてステップ2(軽症持続型喘息)以上の第一選択薬として推奨されている。

喘息の病態は複雑であり、肺炎のリスクが高くても、ステロイドを全く使用しないという訳にはいかない。一方、気管支拡張剤は継続して使用した場合にはさらに有害となる。

尚、吸入コルチコステロイドの使用は、COPD患者の肺炎による入院のリスク因子でもある。

例えば、「Chest」の検索では。
COPD患者で、ICSsユーザー103,386名のコホートにおける調査では、4.9年のフォロー中に14,020 名が重度の肺炎を発症した (incidence rate, 2.8/100/y)。しかし、ICSsの中止によって、37% 減少した(rate ratio [RR], 0.63; 95% CI, 0.60-0.66)。

リスク軽減は、最初の月が20%、中止後4カ月目では50%減少した。

リスク低減は、フルチカゾンの中止で特に大きく、RR 0.58(95% ci, 0.54-0.61) 42%減少し 、ブデソニドでは、RR 0.87(95% ci, 0.78-0.97)。

Discontinuation of Inhaled Corticosteroids in COPD and the Risk Reduction of Pneumonia
Samy Suissa, PhD; Janie Coulombe, MSc; Pierre Ernst, MD
Chest. 2015;148(5):1177-1183. doi:10.1378/chest.15-0627

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抗IL-1薬(Anakinra)は慢性疲労症候群には効果無し [薬とサプリメントの問題]

慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome ;CFS)の分子メカニズムとして、免疫サイトカインの亢進と炎症性サイトカインによる炎症が関与している。

CFSに対する、炎症性サイトカインのインターロイキン 1 (IL-1)を抑制する、Anakinra(アナキンラ:商品名Kineret)の効果はプラシーボと同等だった。

研究デザインは、無作為化プラシーボ対照試験(オランダの大学病院)。2014年7月から2016年5月まで。対象者は、機能障害を伴う重度の疲労を訴える18〜59歳の女性50名。

介入群 (n = 25)には、皮下に anakinra 100mg/日、4 週間。治療後20週間フォローアップ。

主要転帰は、“Checklist Individual Strength subscale(CIS)- fatigue score”にて評価。二次転帰は、障害のレベル、物理的・社会的機能、心理的苦痛、および4, 24週における痛みの重症度。

CIS疲労スコアが健康な人のレベルに達したのは、anakinra 8% (2 of 25)、プラシーボ20% (5 of 25)。4週間およびフォローアップ中における平均差は 1.5 points (95% CI, −4.1 to 7.2 points)。また、二次転帰にも差は無し。

尚、anakinra群は局所の副作用が68% (17 of 25)に見られ、一方、プラシーボは4% (1 of 25)。.

有意差は無いものの、むしろ劣っていると言える。但し、サンプルサイズが小さいことことや、対象患者が女性のみであることから一般化はできない。

リウマチ炎症の2大要因である、TNFに対するエンブレル、インフリキシマと、IL-1に対するAnakinra(商品名Kineret)は、これまでの抗リウマチ薬以上の効果を挙げている。しかし、CFSに対しては有効ではなかった。

CFS患者の脳では、複数の部位に神経炎症が認められている。さらに、前帯状回や前頭前野のアセチルカルニチン代謝の低下や、前帯状回のセラトニントランスポーターの密度低下、モノアミン神経系の変化、およびグルコース取り込みの低下などが起きている。また、前頭葉が萎縮しており、体積の減少と疲労重症度は有意に相関している。

自律神経機能では、心拍変動解析や指尖加速度脈波の周波数解析によって、副交感神経機能低下と交感神経優位が判明している。心拍変動解析では、低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)を年齢・性別のデータベースと比較して判定に使用されている。

「抗疲労・癒やしビジネス市場」は、2020年度には、国内だけでも年間12兆円になると予測されている。しかし、疲労は複雑で難しい病態であり、「疲労感」を緩和することと、「疲労本体」を回復させることは別の問題である。

例えば、カフェインは、一時的に脳を興奮させるだけで疲労本体には悪影響をおよぼす。同様に、にんにくや朝鮮人参なども興奮させるものである。これらは、軽い疲労感に対しては多少効果的とも言えるが、、。

鍼治療においても、漠然と疲労のみを訴える者や、逆に、重度の疲労を訴える患者については、その病態の判断も治療も難しい。

Cytokine Inhibition in Patients With Chronic Fatigue Syndrome: A Randomized Trial
Megan E. Roerink, Sebastian J.H. Bredie, Michael Heijnen; Charles A. Dinarello, et al.,
Ann Intern Med. 2017;166(8):557-564. DOI: 10.7326/M16-2391

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CPT-11 誘発性腸神経細胞損失と反応性神経膠症に肥満細胞が関与する [薬とサプリメントの問題]

イリノテカン( CPT-11 )誘発腸粘膜炎における、マクロファージ活性化、腸溶性神経膠症、および腸内神経細胞 (ens)の損失に肥満細胞(mast cells) が関与することが示唆されている。

CPT-11はトポイソメラーゼⅠ阻害剤であり、日本で開発された、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドの誘導体。ヤクルトは「カンプト」、第一三共からは「トポテシン」の商品名で製造販売されている。

これらの薬品は、肺、胃、子宮頸部、卵巣、大腸癌などを治療するために使用されているが、患者の25% が腸粘膜炎を誘発し、重症例では致死的な下痢を起こす。

この文献は、CPT-11誘発腸粘膜炎におけるマスト細胞の役割を研究したもの。
マウスを、コントロールと前処置を含む4群に分け、CPT-11(60mg/kg, i.p.)を1日1回4日間投与し、5日目に安楽死させて検査。

CPT-11は、グリア線維性酸性蛋白質(GFAP)、S100β遺伝子、およびS100β蛋白質の発現を増加し、HuC/D蛋白質の発現を減少させた。

肥満細胞の活性化は、GFAPとS100βの発現を増加し、グリア細胞のプロ炎症性メディエーターの放出を通じて、CPT-11誘発腸粘膜炎に関連する病態生理学的プロセスに大きく作用する。

CPT-11が3つの小腸セグメントにおいて、マクロファージを活性化することが実証されている。また、マクロファージの活性化は、十二指腸と空腸の肥満細胞メディエーターに関連付けられていることが示唆されている。炎症性マクロファージの蓄積は、動物や炎症性腸疾患の患者の大腸で検出されており、病気の重症度と進行にリンクされている[1]。

肥満細胞は、腸内神経細胞、迷走神経神経線維、脊髄感覚神経の近くに局在し、神経免疫相互作用の重要な要素であることが示唆されている [2]。ニューロンの一次培養では、トリプターゼ、マスト細胞プロテアーゼ、プロテアーゼ活性化受容体2(PAR-2)の活性化を介して神経死につながることが示されている [3]。

さらに、ヒスタミン、脂質メディエーター、サイトカイン、および接着分子は、腸神経系ネットワーク上のパラクリン経路を介して肥満細胞機能 [4] を規制する。

これらのメカニズムは、神経障害に起因する腸の機能不全に影響を与える可能性があり、腸粘膜炎に対する鍼治療の参考にもなると思われる。

出典文献
The involvement of mast cells in the irinotecan-induced enteric neurons loss and reactive gliosis
Ludmila T. Nogueira, Deiziane V. S. Costa, Antoniella S. Gomes, et al.,
Journal of Neuroinflammation201714:79 DOI: 10.1186/s12974-017-0854-1

参考文献
[1]Isidro RA, Appleyard CB. Colonic macrophage polarization in homeostasis, inflammation, and cancer. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2016;311:G59–73.

[2]Van Nassauw L, Adriaensen D, Timmermans JP. The bidirectional communication between neurons and mast cells within the gastrointestinal tract. Auton Neurosci. 2007;133:91–103.

[3]Sand E, Themner-Persson A, Ekblad E. Mast cells reduce survival of myenteric neurons in culture. Neuropharmacology. 2009;56:522–30.

[4]Jacob C, Yang PC, Darmoul D, Amadesi S, Saito T, Cottrell GS, Coelho AM, Singh P, Grady EF, Perdue M, Bunnett NW. Mast cell tryptase controls paracellular permeability of the intestine. Role of protease-activated receptor 2 and beta-arrestins. J Biol Chem. 2005;280:31936–48.

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糖尿病性末梢神経障害による痛み・QOLに対する薬物療法効果の評価 [薬とサプリメントの問題]

糖尿病性末梢神経障害 (DPN) による痛みや生活の質(QOL)におよぼす薬理学的治療の影響の体系的評価。 PubMed、Cochrane Database, Embaseのシステマティックレビューを検索して評価(現在の FDA 承認医薬品について調査)。

各薬剤の、神経障害関連痛に対する鎮痛効果強度をプラシーボと比較(沈痛効果の強度の証拠;strength of evidence , SOE)。

結果
・セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤のuloxetine・ venlafaxine;適度のSOE
・抗けいれん薬のpregabalin・oxcarbazepine ;低SOE
・三環系抗うつ薬, 非定型オピオイド, ボツリヌス毒素;低 SOE

QOLへの効果に関しては、全ての研究が6ヶ月以内と短期間であることに加え、悪影響によって、中途脱落者が 9%以上存在したため判断できていない。

出典文献
Pharmacotherapy for diabetic peripheral neuropathy pain and quality of life
A systematic review.
Julie M. Waldfogel, Suzanne Amato Nesbit, Sydney M. Dy, Ritu Sharma, BSc, Allen Zhang, BS, et.al.,
Neurology 2017; DOI: 10.1212/WNL.0000000000003882.

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エイトピック皮膚炎に対するサイトカイン阻害剤 dupilumabの効果 [薬とサプリメントの問題]

中等度または重度エイトピック皮膚炎 (AD) 患者に対する、サイトカイン阻害剤 dupilumabの効果が無作為化試験によって示唆されている。

中等度または重度AD 患者の約 40%が、治療後16 週間において完全ないしほぼ完全緩解。また、ほとんどの患者で効果は52 週間持続。湿疹面積と重症度指数 (EASI)は、患者の 3 分の 2で少なくとも75%改善。

同様の結果は、 6 歳~17歳の子供を含むフェーズ II 試験で、EASI スコアがベースラインから12 週間で76% 減少したと報告されている。

2014年7月22日、Sanofi社とRegeneron社は中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者を対象とした dupilumabの第IIb相試験の結果、いずれの用量においても用量依存的に主要評価項目を改善したとするプレスリリースを発表。この研究結果から、IL-4/IL-13経路がアレルギー疾患の根本的役割を担っている可能性が示唆された。

つまり、dupilumabはエイトピック皮膚炎の発症に重要な役割を果たすIL-4およびIL-13のシグナル伝達を阻害する、完全ヒトモノクロナール抗体。IL-4/IL-13のシグナル伝達を阻害することが、エイトピック性疾患に対する新しい治療法となる可能性が示された。

エイトピック皮膚炎は、現在、全世界の成人の1~3%が罹患していると言われている慢性炎症性疾患。アメリカにおいて、700~800万人の成人患者中約160万人が中等症および重症であり、コントロール不良な状態にあると言われている。

dupilumabは、免疫療法におけるファーストインクラスの薬剤であり、米国食品医薬品局(FDA)からエイトピック皮膚炎に対する画期的治療薬(Breakthrough Therapy)の指定を受けている(2014年11月)。

ほぼ完全緩解以上の40%は数値としては高くはないが、コントロール不良の中等症以上が対象であることを考慮すればその意義は大きく、患者さんにとっては朗報となる。但し、免疫は複雑であり簡単に解決するとは思いがたい。さらに、長期的なフォローが必要。

私は、エイトピック皮膚炎に対して、「Flick Method」と名付けた刺法を行っている。一定の効果があることは確かで、拙著「絞扼性神経障害の鍼治療:カテゴリー;出版のお知らせを参照」の中で解説している。しかし、症例数が少なく、重症例に対する有効性など、未だ、不明な点も多い。免疫システムの異常に関わる疾患に対して、鍼刺激によって確実に有効なアプローチができるのか、自信は無いが考えてはいる。

因みに、「atopic dermatitis」のatopicは「エイトピック」であり、「アトピー」という言葉は無い。この国では、医師のような優秀な人たちでさえデタラメ言葉を平然と使っていることが理解できない。

出典
Blauvelt A, et al.,
Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids: A 1-year, randomized, placebo-controlled phase III trial (CHRONOS).
American Academy of Dermatology 2017. annual meeting.

MedPage Today, March 06, 2017,
Dramatic Responses to Biologic in Atopic Dermatitis.
- High marks for dual cytokine inhibitor in adults, children by Charles Bankhead -

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強化抗結核治療は結核性髄膜炎患者の生存率を改善しない [薬とサプリメントの問題]

結核性髄膜炎は、グルココルチコイドによる初期の抗結核治療と補助療法によって生存率は改善するものの、患者の1/3近くが死亡します。この研究は、強化抗結核治療によって患者の生存率が改善するかを検証したものですが、結果は、通常の治療と比べ優位性はありませんでした。

この調査は、ベトナムのホーチミン市にある、ファムゴックサッチ結核・肺疾患病院と熱帯病病院の2センターにて実施。
(ファムゴックサッチ病院は、重度の結核を含む感染性疾患患者の三次救急センターです。)

研究デザインは、無作為化二重盲検プラシーボ対照試験。対象者は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染、およびHIV非感を含む、成人結核性髄膜炎の患者817名(2011年4月18日~2014年6月18日,標準的抗結核治療+プラシーボ409名、強化治療408名)

全ての患者への標準治療として、イソニアジドisoniazid (5 mg/kilogram/day; 最大300 mg/day)、リファンピンrifampin (10 mg/kilogram/day)、ピラジナビドpyrazinamide (25 mg/kilogram/day; 最大, 2 g/day)、およびエタンブトールethambutol (20 mg/ kilogram/day; 最大1.2 g/day)を3ヶ月投与。さらに6ヶ月間、リファンピンとイソニアジドを同量投与。

強化治療は、9ヶ月間の標準治療に加え、最初の8 週間にリファンピン(5 mg/kilogram/day, 合計15 mg/kilogram/dayを達成)と、レボフロキサシンlevofloxacin (20 mg/kilogram/day)で構成。

以前に結核の治療を受けた患者はまた、最初の3ヶ月間にストレプトマイシン(20 mg/ kilogram/day; 最大 1 g /day)の投与と、補助療法として、デキサメタゾンを6~8 週間受けました。

主要転帰は、無作為化後9ヶ月の死亡で、二次転帰は、死亡までの期間、および9ヶ月時点での神経学的障害を含む重篤な有害事象。神経学的イベントは、小脳症状、単神経麻痺、片麻痺、対麻痺、および四肢まひ、または、2日間以上2点以上のグラスゴー昏睡スコアの減少。

フォローアップの9ヶ月間に、強化治療群113名、標準治療群114名が死亡。両群に差は無し (hazard ratio, 0.94; 95% confidence interval [CI], 0.73 to 1.22; P=0.66) 。また、全体およびサブグループのいずれも、強化治療群に優位性は認められませんでした。
(治療群とHIV感染状況による全体の生存率のカプラン・マイヤー曲線は、原著Figure2を参照。)

コックス回帰分析による生存率不良の予測因子は、重度の神経学的徴候と医学研究会審議基準の等級(Medical Research Council criteria;MRC grade)。グレード 2 対1ではリスクは2.4倍( hazard ratio ; 2.41; 95% CI, 1.70 to 3.42)。グレード 3 対1では6.3倍( hazard ratio ;6.31; 95% CI, 4.36 to 9.12)。

HIV感染は2.5倍(hazard ratio, 2.53; 95% CI, 1.90 to 3.36)。多剤耐性またはリファンピン耐性感染症、および未知の薬剤耐性感染は4.7倍(hazard ratio, 4.72; 95% CI 2.41 to 9.24)。 (イソニアジドまたはリファンピン耐性が無い場合はHR; 1.76; 95% CI, 1.27 to 2.45)

HIV 感染患者で高CD4 細胞数は、100 cells per cubic millimeteあたりHR, 0.62; 95% CI, 0.44 to 0.87)のリスク増加に関連。

多剤耐性またはリファンピン耐性感染症、および未知の薬剤耐性感染では、ハザード比が4.7倍になっています。

現段階では、かろうじて、抗生物質を使った抗菌剤治療は個人レベルで見ますと救いになってはいます。しかし、使えば使うほど、耐性菌は増加します。多剤耐性菌は突然変異によって偶然に現れた訳ではありません(確率的にも不可能)。

抗生物質に対向するための不活化酵素も、その遺伝子やそれを持っているRプラスミドも、元々自然界には存在していたのです。抗菌剤が大量に使用されたことで、危機に直面した細菌はこれらのプラスミドを選択し、さらに、トランスポゾンによる遺伝子の変異と、接合などによる伝達手段によって他の細菌へと拡散します。その結果、耐性菌は爆発的に増殖します。

抗菌剤はもはや、魔法の弾丸ではないのです。

出典文献
A. Dorothee Heemskerk, Nguyen D. Bang, Nguyen T.H. Mai, et al.,
Intensified Antituberculosis Therapy in Adults with Tuberculous Meningitis
N Engl J Med 2016; 374:124-134January 14, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1507062

1型糖尿病へのメトホルミンの追加は血糖を改善しない [薬とサプリメントの問題]

1型糖尿病で肥満の青年を対象に、インスリンへのメトホルミンを追加した治療の有効性と安全性を評価した研究の結果、血糖値は改善しませんでした。

研究デザインは、二重盲検プラシーボ対照無作為化臨床試験。26の小児内分泌クリニックにおいて、13週フォローアップ。参加者は140名の青年。年齢12.1 ~19.6歳, 平均年齢15.3歳 [SD 1.7], 1型糖尿病歴7.0年 (3.3)。毎日の総インスリン1.1(0.2)U / kg、平均HbA1c 8.8%(0.7%)。

メトホルミン群71名(≦2000 mg/d)、プラシーボ群69名。

メインアウトカムは、ベースラインから26週間後のHbA1cの変化。セカンダリアウトカムは、インスリン使用量、BMI、腹囲、体組成、血圧、脂質の変化。

13週後の HbA1cの変化は、メトホルミン群-0.2%、プラシーボ群0.1%(平均差-0.3% [95% CI, -0.6% to 0.0%]; P=0.02)と、メトホルミン群が若干優れていました。しかし、26週後における変化は、両群とも0.2% (平均差, 0% [95% CI, ?0.3% to 0.3%]; P=0.92)で、全く差は認められませんでした。

また、26週間のフォローアップで、ベースラインと比較した、体重1kg当たり合計1日のインスリン使用量の減少は、メトホルミン群で23% (16)、プラシーボ群では1% (1)でした(平均差21% [95% CI, 11% to 32%]; P=0.003)。

BMI z scoreでは、メトホルミン群は24% (17)、プラシーボ群7% (5)(平均差, 17% [95% CI, 5% to 29%]; P=0.01)。

インスリン使用量とBMI に関してはメトホルミンの追加は有効でしたが、胃腸の有害事象が多くなりました (平均差, 36% [95% CI, 19% to 51%]; P<0.001)。

結論として、1型糖尿病で肥満の青年に対し、血糖改善を目的としたメトホルミンの処方は推奨されない。

しかし、疑問です。

メトホルミン(商品名:メトグルコ)はビグアナイド系の薬で、インスリン抵抗性を改善するものです。また、ビグアナイド系薬は、肝臓に作用して糖新生を抑制するとともに、筋肉への糖の取り込みを促進させます。これらの作用によって、血糖値を下げることに貢献します。

つまり、インスリン分泌は正常であるが、インスリンが効きにくい状態である、インスリン抵抗性を改善させるための薬です。しかしながら、1型糖尿病は自己免疫疾患であり、インスリンの分泌そのものが少ない状態にあります。メトホルミンを追加することに意味があるとは思えません。

出典文献
Ingrid M. Libman, Kellee M. Miller, Linda A. DiMeglio, Kathleen E. Bethin, et al.,
Effect of Metformin Added to Insulin on Glycemic Control Among Overweight/Obese Adolescents With Type 1 Diabetes. A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2015;314(21):2241-2250. doi:10.1001/jama.2015.16174.

低濃度アトロピンによって低副作用の近視抑制効果が得られる [薬とサプリメントの問題]

5年間のフォローアップで、0.01%濃度のアトロピン点眼薬は高濃度と同等の近視の進行抑制効果が得られ、尚かつ、副作用が少なく効果的であったと報告されています。

研究デザインは、無作為化二重盲検臨床試験。合計400名の子供を対象に、アトロピン0.5%、0.1%、または0.01%を 2:2:1の比率で無作為に割り付けて1日1回、両眼に点眼。メインアウトカムは、5年間の等価球面度数と軸方向の長さの変化。

子どもたちは12ヶ月間アトロピンを投与された(phase 1)後、24ヶ月間薬剤は停止され(phase 2)、その間に近視が進行した子供(≧-0.50 diopters [D] 少なくとも 1眼)は0.01%のアトロピン点眼を24ヶ月 受けました(phase 3)

2年後、3グループは、ベースラインの平均-4.7Dと比較して、同程度を維持しました(
0.5%:-4.6D, 0.1%:-4.8D, 0.01%:-4.9D.)。

フェーズ3では、0.01%群は近視の進行抑制が持続し、5年間の終了時点では、0.01%群は (-1.38±0.98 D; 0.75±0.48 mm) 0.1% (-1.83±1.16 D, P = 0.003; 0.85±0.53 mm, P = 0.144) 、および 0.5% (-1.98±1.10 D, P < 0.001; 0.87±0.49 mm, P = 0.075)と比較して、近視の進行が抑制されました。また、アトロピン0.01%は、最小限の瞳孔拡張(0.8 mm)と調節機能の損失を最小限に抑え(2-3 D)、高用量よりも視力低下を低減しました。

アトロピン (Atropine) は、ヒヨスチアミン(Hyoscyamine)のラセミ体で分子量 289.37 のアルカロイドです。主にナス科の植物に含まれます。抗コリン作用を有する薬物であり、ムスカリン性アセチルコリン受容体を阻害して副交感神経を抑制するため、胃腸管の運動抑制、心拍数の増大作用があります。

有機リン剤中毒の治療にも用いられ、サリンやVXガスなどの神経ガスへの曝露に対しても使用されます。

アトロピンには散瞳(瞳孔を開く)作用があり、この強力なピント調節麻痺作用は眼の検査に使われていましたが、今は検査器械の進歩で使われません。近視の進行を抑制する効果は昔から知られていましたが、この散瞳作用のため、副作用の強さから近視予防には使えないと考えられてきたのです。しかし最近になって、100倍に薄めても効果が変わらないことが示され、近視予防として研究され始めました。

出典文献
Audrey Chia , Qing-Shu Lu , Donald Tan ,
Five-Year Clinical Trial on Atropine for the Treatment of Myopia 2
Myopia Control with Atropine 0.01% Eyedrops
American Academy of Ophthalmology, Manuscript no. 2014-1001.
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.ophtha.2015.07.004

PPIは抗血栓剤+NSAIDs服用の心筋梗塞後患者の胃腸出血リスクを減少させる [薬とサプリメントの問題]

抗血栓薬および非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用する患者の胃腸出血リスクを低減するために、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の併用が推奨されています。しかし、心筋梗塞後の患者ではその効果は明らかではありませんでしたが、デンマークにおける全国調査の結果、PPIの同時使用によって出血リスクが減少したと報告されています。

診断および入院データは、デンマーク国立患者レジストリから登録。疾病分類はICD-10(国際疾病分類、第10回改訂)を使用。生命状態についての情報は、デンマーク統計局の市民登録システムを使用。薬品の調剤は国立処方レジストリ、および分類は医療用医薬品のAnatomical Therapeutic Chemical (ATC)システムによって、すべての薬剤の処方に関する情報を収集。

対象者は、1997年から2011年までに、30歳以上の初回急性心筋梗塞患者で抗血栓剤を受け、発作から30日間生存していた患者。

患者の合計は128,751名(平均年齢 67.4歳)。82,955名 (64.4%)が単独または複数の抗血栓剤による治療を受け、退院後35,233名 (42.5%)が1 つまたは複数のNSAID、37,711名 (45.5%)がPPI、10,613名(12.8%)がNSAID+PPI を処方されていました。

初回の心筋梗塞後、PPIの処方比率は、1997年の15% から2010年には37%に増加。NSAIDsDの投与比率は2002 年にピークの20 %に達し、NSAIDs とPPI の併用比率は 10%以下から2010年には30%以上に増加しました。

3229名が胃腸出血イベントを発症し、その内の282名(8.7%)は致命的でした。327名はNSAIDs治療中に発症。全体的な粗発生率は 0.8 events/100人/年(95% confidence interval 0.7 to 0.8)。NSAIDsのみは2.1events /100人/年(1.8 to 2.4)。PPI併用では1.8events/100人/年 (1.4 to 2.4) 。

多変量調整後、抗血栓およびNSAID治療のそれぞれとPPIの同時使用は、PPI無しの治療と比較して消化管出血のハザード比0.72(hazard ratio 0.72, 95% confidence interval 0.54 to 0.95)で、28%の減少に関連しました。

抗血栓薬2剤およびNSAIDsと、PPIの同時投与の消化管出血発症率は2.5events/100人/年 (1.3 to 4.8)であったのに対し、 PPI無しでは5.2 events/100人/年(3.9 to 6.8)と高く、ハザード比は 0.41 (hazard ratio 0.41, 0.20 to 0.84)で、PPI併用によって59%減少しました。

PPIの薬剤の種類によって発症率は異なっています。また、COX 2 阻害剤との組み合わせも見られましたが、症例数が少ないので省略しました。

結論として、抗血栓薬を服用後の心筋梗塞患者のコホートにおいて、NSAIDsまたはPPIの種類にかかわらず、PPIの併用はNSAID治療に伴う消化管出血のリスクを減少させることが示唆されました。心筋梗塞後の患者でNSAIDsの使用が避けられない場合には、同時にPPIの処方を検討する必要があると言えます。但し、観察研究であることと、非無作為化試験であることがこの研究の限界と言えます。

NSAIDsの作用機序は、周知のように、プロスタグランジンの産生を抑制することで痛みの発症をブロックします。しかし一方、プロスタグランジンは粘膜の再生を促進しますので、胃の粘膜のように絶えず再生を繰り返している組織では、NSAIDsの服用によって粘膜が再生されず出血を起こします。

因みに、痛み止めは飲まずに、座薬を使用すれば胃に負担がかからないと勘違いしている方が多いようですが、直腸の粘膜から吸収され血液を介して胃にも到達しますので、害は全く同じです。

出典文献
Anne-Marie Schjerning Olsen, Jesper Lindhardsen, Gunnar H Gislason, et al.,
Impact of proton pump inhibitor treatment on gastrointestinal bleeding associated with non-steroidal anti-inflammatory drug use among post-myocardial infarction patients taking antithrombotics: nationwide study.
BMJ 2015; 351 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h5096 (Published 19 October 2015)
Cite this as: BMJ 2015;351:h5096

シクロスポリン投与は心筋梗塞患者の臨床転帰を改善しなかった [薬とサプリメントの問題]

急性前部ST上昇心筋梗塞(STEMI)で、12時間以内に経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention ;PCI)を受けた患者に対する、PCI前の静脈内シクロスポリンの投与は1年後の不利な左室リモデリングを防止できなかったと報告されています。

STEMでPCIを受ける患者970名を対象とした、多施設二重盲検、無作為化試験。

シクロスポリン投与群(n=395)は、体重1kg当たり2.5mmgを静脈内投与。主要転帰は、全原因死亡、心不全による初回入院、心不全による再入院、1年間における左室リモデリング。不利な左心室リモデリングは、15%以上の増加と左心室拡張末期容積の増加と定義。

クレアチンキナーゼおよび心電図データ(ST上昇の程度)において、シクロスポリン群233 / 395 (59.0%)と対照群230 / 396 (58.1%)に差はありませんでした。また、心エコーデータ(データ不足多)でも、左心室駆出率、左心室拡張末期または収縮末期時点の容積で両群間の有意差無し。

主要転帰イベントの発生は、シクロスポリン群では233/395例(59.0%)で発生、対照群は230/396(58.1%)で全く差は無し(odds ratio in the cyclosporine group, 1.04; 95% confidence interval [CI], 0.78 to 1.39; P=0.77)。

全原因死亡は、シクロスポリン群で7.1%、対照群は6.6% (odds ratio, 1.09; 95% CI, 0.63 to 1.90; P=0.76)で、有意差は無いものの、シクロスポリン群が5%多い。

1年で初回心不全の悪化または心不全による再入院は、シクロスポリン群22.8%と対照群22.7%(odds ratio, 1.01; 95% CI, 0.72 to 1.41; P=0.97)で、差は無し。

左心室リモデリングは、シクロスポリン群42.8%、対照群40.7%(odds ratio, 1.09; 95% CI, 0.82 to 1.46; P=0.53)で、発生に差は無し。

また、1年間における心原性ショック、再発性心筋梗塞、不安定狭心症、脳卒中、急性腎不全を含む、他の全ての2次臨床転帰の発生率も両群で同等でした。

最近、シクロスポリンが再灌流傷害を減衰させて、心筋梗塞サイズを低減できたとする報告が散見されます(*)。しかし、この研究においては、シクロスポリンの投与によて臨床転帰が改善されるか、また、左室リモデリングを防止できるかを検証しましたが、効果は確認されませんでした。

出典文献
Thien-Tri Cung, Olivier Morel, Guillaume Cayla, et al.,
Cyclosporine in Acute Myocardial Infarction.
N Engl J Med, August 30, 2015 | T.-T. Cung and Others
(DOI: 10.1056/NEJMoa1505489)

シクロスポリンについて

シクロスポリンは11個のアミノ酸からなるポリペプチドで、、主としてヘルパーT細胞によるIL-2などのサイトカイン産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。シクロスポリンは強力な免疫抑制作用を有するため、腎移植をはじめとする臓器移植における拒否反応防止薬として広く使用されています。また、Bechet病、再生不良性貧血、ネフローゼなど、様々な自己免疫疾患に対しても処方されています。

しかしながら、その体内動態は、個人差だけではなく個体内においても大きく変動します。同時に、安全な有効濃度域が狭いため、腎障害や肝障害などの副作用を起こすことく、十分な免疫抑制効果を得ることは容易ではありません。使用に際しては、血中濃度モニタリングが必須ですが確実な定量方法が確立されていません。

虚血再灌流障害(Ischemia Reperfusion Injury:; I-RI )とは

先ず、虚血による組織への酸素供給の低下によってATPが減少します。また、Na/KATPポンプ障害によって水とNaが細胞中に流入し、細胞および細胞内小器官が膨化してミトコンドリア膜やライソゾーム膜の破壊が起こります。その後、酸素化された血液による再灌流による傷害はさらに重篤です。

虚血によって増加したヒポキサンチンに、再灌流によって供給された分子状酸素(O2)にキサンチン酸化酵素が作用し、スーパーオキサイドアニオン、ハイドロキシラジカル、過酸化水素などの活性酸素種が生成されて細胞が傷害されます。また同時に、細胞膜の構成成分であるリン脂質からも脂肪過酸化物が産生されることで細胞傷害が助長されます。

さらに、I-RIの病態には、フリーラジカルだけではなく、炎症性サイトカインなど様々なメディエーターが関与していることが明らかになっています。中でも、好中球と血管内皮細胞の相互作用が注目されています。

I-RIIの治療として、アロプリノール、グルタチオン(glutathione)、葉酸、アスコルビン酸(Vitamin C)、α-トコフェロール(Vitamin E)、β‐carotene、アプロチニン、Ca-チャネルブロッカー、プロテアーゼインヒビター、SOD(superoxide dismutase)などが試みられていますが、サイトカインや接着因子などのメディエーターへのアプローチも課題と言えます。

* 報告例

急性心筋梗塞における再灌流傷害の治療にシクロスポリンが有効であったとする報告。

Piot C, Croisille P, Staat P, Thibault H, et al.,
Effect of cyclosporine on reperfusion injury in acute myocardial infarction.
N Engl J Med. 2008 Jul 31;359(5):473-81. doi: 10.1056/NEJMoa071142.

フランスUniversite Claude Bernard LyonのOvizeらは、28名の急性期再灌流治療におけるシクロスオリンtouyo 患者の中期フォローアップデータを報告しています。

結論として、シクロスポリン投与によって5日~6ヶ月後の梗塞サイズが縮小し、左室リモデリングの増悪が認められなかった記されています。

シクロスポリン群と対照群に虚血時間、駆出分画のサイズは同等。クレアチンキナーゼのリリースにおいて、シクロスポリン群は対照群に比べて有意 (P = 0.04)。梗塞組織の絶対的な質量において、シクロスポリン群は中央値 37 g、対照群では46 gであり、有意(P = 0.04)と述べていますが、僅か、9gの差に過ぎません。

脂質低下薬の使用は急性記憶障害リスク増加に関連する [薬とサプリメントの問題]

スタチンの曝露は非ユーザーと比較して、暴露後最初の30日間における急性記憶喪失発症リスクを4.4倍高くすると報告されています。

健康改善ネットワークのデータベースを使用して設定(1987年1月13日~2013年12月16日)。研究デザインは、後ろ向きコホート研究。

スタチン使用者と、コントロールとして任意の脂質低下薬(LLDs)使用者、および全ての非使用者の26,484名を含む、計482,543名を比較。

急性記憶喪失を発症した患者、68,028名についてのクロスオーバースタディー。分析は、2013年7月7日から2015年1月15日まで。

任意のLLDs非使用者と比較した、スタチン暴露後最初の30日間の急性記憶喪失リスクの調整オッズ比は4.40(fully adjusted, 4.40; 3.01-6.41)でした。

スタチンと任意のLLDs使用者では、調整オッズ比に差はありませんでした(fully adjusted, 1.03; 0.63-1.66)。

しかし、任意のLLDsと非使用者をマッチングさせた比較では、調整オッズ比は3.60 (adjusted, 3.60; 1.34-9.70)で、3.6倍でした。

つまり、スタチンに限らず脂質低下薬(LLDs)の全てにおいて、その使用は急性記憶喪失発症リスクを高くすると言えます。無論、後ろ向き研究であるため、因果関係は論じられませんが。

出典文献
Brian L. Strom, Rita Schinnar, Jason Karlawish, Sean Hennessy, Valerie Teal, Warren B. Bilker,
Statin Therapy and Risk of Acute Memory Impairment ONLINE FIRST
JAMA Intern Med. Published online June 08, 2015. doi:10.1001/jamainternmed.2015.2092

複合経口避妊薬は静脈血栓塞栓症リスクを高くすると報告 [薬とサプリメントの問題]

複合経口避妊薬に関連する静脈血栓塞栓症のリスクは、任意の薬品で約3倍で、第2世代よりも新しい製剤で高かったと報告されています。

イギリスの臨床実践研究データリンク (CPRD; 618 プラクティス) と QResearch プライマリ ・ ケア データベース (722プラクティス) を使用した、症例対照研究。

参加者は、静脈血栓塞栓症と診断(2001-2013)された15 - 49 歳までの女性。年齢などを、最大 5 つのコントロールと一致。

メインアウトカムは、経口避妊薬使用による静脈血栓塞栓症発症リスクのオッズ比。喫煙状況、アルコール消費量、人種、BMI、および合併症を調整。

経口避妊薬の前年度非使用と比較した、静脈血栓塞栓症発症の調整オッズ比は 2.97(95% confidence interval 2.78 to 3.17)。

薬品別では、desogestrel (4.28, 3.66 to 5.01)、 gestodene (3.64, 3.00 to 4.43)、 drospirenone (4.12, 3.43 to 4.96)、および cyproterone (4.27, 3.57 to 5.11)。シプロテロンは約4倍でした。

また、第2世代の避妊薬である、levonorgestrel (2.38, 2.18 to 2.59) and norethisterone (2.56, 2.15 to 3.06), and for norgestimate (2.53, 2.17 to 2.96)と、新しい避妊薬でより高い傾向が見られました。

静脈血栓塞栓症の余分な症例数(/年/10,000)は、levonorgestrel (6, 95% confidence interval 5 to 7) and norgestimate (6, 5 to 8), and highest for desogestrel (14, 11 to 17) and cyproterone (14, 11 to 17)と、desogestrelとcyproteroneで最高でした。

出典文献
Yana Vinogradova, et al.,
Use of combined oral contraceptives and risk of venous thromboembolism: nested case-control studies using the QResearch and CPRD databases
BMJ 2015; 350 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h2135 (Published 26 May 2015)
Cite this as: BMJ 2015;350:h2135

SGLT2阻害剤でケトアシドーシス発症の危険性を警告 [薬とサプリメントの問題]

FDAは、2型糖尿病治療薬である、ナトリウム - グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤の3タイプ2薬〔 canagliflozin (Invokana), dapagliflozin (Farxiga), and empagliflozin (Jardiance)〕が、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を起こす危険性があると警告しています。

FDAによれば、2013年3月から2014年6月までにDKA20例が報告されているとのことです。DKA症状は呼吸困難、吐き気、嘔吐、腹痛、錯乱で、異常な疲労感や眠気も起きます。

これらの患者のほとんどが高アニオン(陰イオン)ギャップ代謝性アシドーシスでした。潜在的なDKA誘発因子として、感染症などの急性疾患、尿路性敗血症、外傷、カロリーや水分摂取量などの減少によるインスリン投与量の減少があったと述べられています。また、低インスリン血症以外の潜在的な要因として、血液量減少、急性腎障害、低酸素血症、およびアルコール摂取も含まれます。しかし症例の半数は、何のトリガー要因もありませんでした。

一方、最近の研究で、2型糖尿病患者24例において、ダパグリフロジン(dapagliflozin)がβ細胞機能とインスリン感受性を改善し、DKAは見られなかったする報告もあります(Carolina Solis-Herrera, MD, University of Texas Health Science Center)。

腎臓における、糖の再吸収の約90%が近位尿細管に存在するSGLT2によって行われていると言われています。そのため、SGLT2を阻害すれば糖の再吸収が抑制され、尿から排泄される糖を増やすことができます。血液中へと移行する糖が減少することで血糖値が下がります。

SGLT2阻害剤は、近位尿細管における糖の再吸収に関与する輸送体であるSGLT2の作用を阻害して糖の血液中への移行を減少させ、血糖値を下げるタイプの薬品です。この薬品によってDKAが起きた、そのメカニズムは良く解りません。

DKAの病態は、末梢組織におけるブドウ糖取り込みの低下による、血糖の極度の上昇が基本です。その結果、浸透圧利尿が生じて脱水となります。一方、エネルギー捻出のために脂肪細胞が分解されて遊離脂肪酸が放出され、肝臓におけるケトン体産生が促進されて血液のpHが酸性に傾きアシドーシスになります。

補足

「アニオン」とは陰イオンのことです。因みに、世間で言われている、「マイナスイオン」という言葉はありません。ついでに、陽イオンは「カチオン」と言います。念のため。

出典
MedPageToday
Three Diabetes Drugs Linked to Ketoacidosis, FDA Warns
-FDA targets SGLT2 inhibitors canagliflozin, dapagliflozin, and empagliflozin.-

糖尿病治療薬メトホルミンは非喫煙者では肺癌リスクを低減すると報告 [薬とサプリメントの問題]

肺に腫瘍を発生するよう遺伝子操作したマウスの実験では、メトホルミンの経口投与、または注射投与で、腫瘍量が、経口投与で34%低下、注射投与で73%低下したとの報告もあります。また、膵臓癌のリスク低減や不妊症にも効果があるとも言われています。

しかし、メトホルミンの使用による肺癌リスク低減効果に関する観察研究には、一貫性がありませんでした。

この47,351名を対象にしたレトロスペクティブ研究の結果では、メトフォルミンの投与期間や投与量などによる一貫した関連性は認められませんでした。

対象は、40歳以上no糖尿病患者47,351名(1994年~1996年の投与健康関連調査)。1997年1月1日から2012年6月30日までフォロー。この期間の、428,557人年中747名が肺癌と診断。

非喫煙者では、メトフォルミンの使用でハザード比(HR)は0.57(95% confidence interval ;CI, 0.33-0.99)、さらに、長期間の使用ではHR, 0.48(95% CI, 0.21-1.09)で、52%減少。

しかし、小細胞癌のリスクではHR, 1.82(95% CI, 0.85-3.91)で、82%増加しました。

あくまでも、後ろ向きの観察研究ですので、前向きの研究による検証が必要です。

Sakoda L, et al.
Metformin use and lung cancer risk in patients with diabetes,
Cancer Preven Res, 2015; DOI: 10.1158/1940-6207.CAPR-14-0291.

メトホルミンはII型糖尿病の第一選択治療薬として処方され、同時に、肺、大腸、および乳癌などを低減する可能性についての研究から多くの注目を受けていますが、癌に対する効果は複雑です。

1つの考えとしては、肥満、高インスリン血症マウスでは、メトフォルミンはインスリン感受性を増加させることで、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を介してmTOR阻害し、細胞増殖および生存の下流経路を阻害することにより、肺の腫瘍増殖を抑制するというものがあります。

非糖尿病マウスは、タバコの発癌物質4-(メチルnitrosamino)-1-(3-ピリジル)が、メトホルミン投与によって減少するとも言われています。

一方、メトフォルミンはインスリン感受性を変えないとする報告もあります。

メトフォルミンは、ミトコンドリアのglycerophosphate dehydrogenase (mGPD) を阻害して、糖新生を抑制するが、インスリン感受性は改善しないとする報告です。

Ferrannini E.,
The target of metformin in type 2 diabetes,
N Engl J Med. 2014 Oct 16 ; 371(16):1547 - 8. doi: 10.1056/NEJMcibr1409796.

Madiraju AK et al.,
Metformin suppresses gluconeogenesis by inhibiting mitochondrial glycerophosphate dehydrogenase,
Nature. 2014 Jun 26 ; 510(7506):542 - 6.

尚、不妊症への効果については、詳しくは調べていませんが。

不妊の原因として多嚢胞性卵巣症候群があり、その患者さんの中に非インスリン依存性の糖尿病を有する患者さんがいるのですが、これらの患者さんにメトフォルミンを投与すると排卵障害が改善されるとする報告があるようです。

抗マラリア薬の多彩な効果とは [薬とサプリメントの問題]

全身性エリテマトーデス(SLE)は、糖尿病リスク増加と関連していますが、抗マラリア薬であるハイドロキシクロロキン(Hydroxychloroquine;HCQ)を投与した場合には、非投与群と比べ、糖尿病リスクのハザード比(HR)は 0.26 (95% CI 0.18, 0.37)で、74%減少しました。

この報告は、台湾国民健康保険研究データベースを用いて行った。全国的集団ベースのコホート研究。SLE患者を、HCQ群6795名(累積投与量≧129g)、HCQ非投与群1833名に分け、平均 5.6年間フォローアップ。

HCQには、さらに驚くべき効果があります。

SLEなどの膠原病に使用される免疫抑制薬では、感染症のリスクが高くなります。抗炎症薬である、プレドニゾン療法による肺合併症リスクのオッズ比は4倍以上高くなります(OR 4.41、95%CI 1.06~18.36)。しかし、抗マラリア薬療法では94%減少(OR 0.06、95%CI 0.02~0.18)したことが報告されています(Nature Reviews Rheumatology 6, 10-11 January 2010)。

さらに興味深いことに、重大な感染症を発症した患者では、プレドニゾロン用量の中央値は1日7.5mg で、用量が1日あたり10mg増加するごとに感染症リスクは11倍増加しました。

抗マラリア薬で治療した 患者では、主な感染症のリスクが抗マラリア薬で治療しなかった患者に比べて16分の1に減少しています。

古い薬である、抗マラリア薬のSLEに対する有用な効果について、その作用機序などの詳細は解明されていません。現在、SLE患者のうち抗 マラリア薬で治療されているのは40~50%に過ぎません。

HCQは、免疫調節作用と抗感染作用を併せもつという画期的な効果に加え、SLEの病因に対する新たな知見をもたらす革新的な存在であると言えます。

因みに、本研究結果である、糖尿病リスクの減少は、1型糖尿病が自己免疫疾患であること、および2型糖尿病も炎症性疾患ですので、HCQの抗炎症作用からみて予想されることではあります。。

出典文献
Chen Y-M, et al.
Hydroxychloroquine reduces risk of incident diabetes mellitus in lupus patients in a dose-dependent manner: a population-based cohort study
Rheumatology 2015; DOI: 10.1093/rheumatology/keu451.

バンコマイシン投与濃度は黄色ブドウ球菌菌血症死亡リスクに影響しない [薬とサプリメントの問題]

黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)は世界的な問題です。バンコマイシンによる最小発育阻止濃度(MIC)、および死亡率との関連性は不明でしたが、38件の研究、8291のSABエピソードを対象にしたメタアナリシス研究の結果、死亡リスクに統計学的な有意差は認められませんでした。

データソースは、PubMed、EMBASE、コクラン・ライブラリ。全体の死亡率は26.1%。

濃度別の推定死亡率は、高バンコマイシンMIC(≧1.5mg / L, n=2740)で26.8%。一方、低バンコマイシン (<1.5 mg/L, n=5551)は25.8% でした。調整リスク差 [RD]は1.6% [95% CI, 2.3% to 5.6%]; P=0.43)。

最高品質の研究では、高バンコマイシン (n=2318)は26.2% 、低バンコマイシン(n=4168)では27.8%、(RD, 0.9% [95% CI, ?2.9% to 4.6%]; P=0.65)

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(n=7232)のみでは、高バンコマイシン(n=2384)は27.6% 、低バンコマイシン (n=4848)では27.4%(adjusted RD, 1.6% [95% CI, -2.3% to 5.5%]; P=0.41)。

投与濃度の違いによって、死亡率に差はありませんでした。

出典文献
Andre C. Kalil, Trevor C. Van Schooneveld, et al.
A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA. 2014;312(15):1552-1564. doi:10.1001/jama.2014.6364.

ビタミンD欠乏は小児性エリテマトーデスのアトルバスタチン治療に悪影響する [薬とサプリメントの問題]

小児性エリテマトーデスにおける、アテローム性動脈硬化症に対するアトルバスタチンの予防効果(APPLE)に、低ビタミンD(VD)レベルが悪影響し、進行速度に対する効果の決定要因となることが報告されています。

ベースラインの血清25ハイドロキシバイタミンD〔25(OH)D〕濃度を測定し、欠乏症とCIMT進行との相互作用を混合効果の縦方向モデルによって評価。

アトルバスタチン治療とプラシーボを無作為に割り付け、欠乏症は、血清25(OH)D <20 ng / mLとし、全身性エリテマトーデス病変数( SLE Disease Activity Index ;SLEDAI)、 疾患に関連する損傷スコア (全身ループス国際協力診療所/アメリカ大学のリウマチ損傷インデックスSystemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index ;SDI)、 および心血管系を評価。調査は3年間。

全体的に、ベースラインで61/201名 (30%)が VD欠乏症で、139名(69%)がVD不足 (25(OH)D <30ng/mL)し、12名(6%)は10ng/mL以下で重度の欠乏症。

CIMTの3年間の進行における、ベースラインのVD欠乏症とアトルバスタチン治療の間に有意な相互作用効果がありました(Figure 1)

アトルバスタチン群では,総コレステロール、LDLおよび高感度CRPがベースラインから減少。 SLEDAIとSDIのベースラインからの変化は、群間で差は認められず、2年間で、VD欠乏症とLDL、SLEDAIまたはSDIの変化におけるアトルバスタチンへの応答の相互作用の証拠は認められませんでした。

結論として、血清 25 (OH) D が≧20 ng/mLでは、プラシーボと比べ、アトルバスタチン治療によって頸動脈の複数のセグメントでCIMT の進行が減少しました。V D 補充療法はSLE の CVD予防において、アトルバスタチンへの応答を高めることが示唆されたと述べられています。

但し、SLEDAIに有意な差が得られなかったことから、全身性エリテマトーデス(SLE)の病変そのものには影響しないと言えます。

出典文献
Robinson AB, et al.
Vitamin B status is a determinant of atorvastatin effect on carotid medial thickening progression rate in children with lupus: an Atherosclerosis Prevention in Pediatric Lupus Erythematosus (APPLE) substudy
Lupus Science and Med 2014; DOI: 10.1136/lupus-2014-000037.

アセトアミノフェン(パラセタモール)は急性腰痛に効果無しと報告 [薬とサプリメントの問題]

オーストラリアのシドニーにおける235のプライマリケアセンターにおいて実施された、多施設、二重盲検、無作為化プラシーボランダム化対照試験の結果、急性腰痛に対するパラセタモールの効果はプラシーボと同様であり効果は無かったと報告されています。

パラセタモール(アセトアミノフェンの一般名。アメリカではタイレノール、旧大英帝国圏ではパラセタモール。一般名の違いは、化合物名“para-acetylaminophenol”の省略の仕方の違いによります。

イギリスやオーストラリアでは急性腰痛治療薬として推奨されていますが、エビデンスは不十分でした。

参加者は標準群550名(分析550名)、必要に応じ処方された群549名(分析546名)、およびプラシ-ボ群553名(分析547名)に無作為に割り付けて実施。

標準群のパラセタモール投与は4週間までで、1日3回、1日あたり3990mg。応必要群では1日あたり最大4000 mgを投与。

標準群の回復までの中央値は17日 (95% CI 14-19)、応必要群では17日 (15-20)と、全く変わらず、プラシーボ群でも16日 (14-20)でいずれも同等でした。
(regular vs placebo hazard ratio 0.99, 95% CI 0.87-1.14; as-needed vs placebo 1.05, 0.92-1.19; regular vs as-needed 1.05, 0.92-1.20)(adjusted p = 0.79)。

ベースライン時の平均疼痛強度スコアは6.3( a scale of 1 to 10)で、痛みの発症歴期間は10日。

治療1週の平均疼痛強度は、標準群3.7、応必要群3.8、およびプラシーボ群3.6でした。2週目では、治療群は同様に2.6、プラシーボ群は2.5。4週目では、スコアはそれぞれ1.7、1.8、および1.7でした。

障害スコアは 0~24、機能スケールは 0~10で評価(いずれも数値が高いほど、障害および機能も高くなる)。

ベースライン時の平均障害スコアは12.7で、機能スコアは3.6でした。

障害スコアも同様に、それぞれ、1週の7.7、8、8.3から、4週で3.2、3.5、3.3、3ヶ月で、2.4、2.6、2.4と、減少は全ての群で同程度でした。

機能スコアも、1週の6.2、6.1、6.2から、3ヶ月では全てが全く同様に8.7に増加。

有害事象も、標準群99 [18.5%]、応必要群 99 [18.7%]、プラシーボ群 98 [18.5%]と同等でした。

パラセタモールも、アメリカで一般的に使用されているタイレノールも、中身はアセトアミノフェンです。消炎効果はほとんど無く、鎮痛効果も弱い薬品です。また、過剰に摂取した場合には肝障害を引き起こします。小児や成人でアセトアミノフェンしか飲めない人に対する投与は理解できるのですが、推奨されている理由が解りません。

出典文献
Williams C, et al.
Efficacy of paracetamol for acute low-back pain: a double-blind, randomized controlled trial Lancet 2014; DOI: 10.1016/S0140-6736(14)60805-9.

ヒアルロン酸合成酵素阻害剤がSEB誘発性肺損傷治療に有効となる可能性 [薬とサプリメントの問題]

ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)などの細菌スーパー抗原に曝露されることで、急性肺損傷(ALI)・急性呼吸窮迫症候群( ARDS)の誘導に繋がりますが、現在までに有効な治療法は存在しません。

炎症性応答の調節において、細胞外マトリックスが大きな役割を果たすことが明確になっています。その細胞外マトリックス成分であるヒアルロン酸 (HA) は、ブドウ球菌エンテロトキシン Bへの曝露による、肺損傷/急性呼吸窮迫症候群の発症に関与することが示唆されています。

ヒアルロン酸合成酵素阻害剤である、4 - メチルウンベリフェロン(4-MU)の有効性を調べた細胞レベルの研究で、SEBで活性化された免疫細胞を4-MUとともに培養すると、増殖の低下、サイトカイン産生減少、およびアポトーシスの増加が見られ、SEB誘発性肺損傷からの肺の保護効果が認められました。

出典文献
Robert J. McKallip, Harriet F. Hagele, and Olga N. Uchakina
Treatment with the Hyaluronic Acid Synthesis Inhibitor 4-Methylumbelliferone Suppresses SEB-Induced Lung Inflammation
Toxins (Basel). Oct 2013; 5(10): 1814?1826.

SEB曝露マウス肺では、可溶性ヒアルロン酸レベルが大幅に増加します。同様に、内皮細胞/脾臓細胞の共培養で、SEB曝露によって水溶性レベルのヒアルロン酸、細胞増殖およびサイトカイン産生が、脾細胞や内皮細胞のみと比較して大幅に増加することも報告されています。

出典文献
Uchakina ON, Castillejo CM, Bridges CC, McKallip RJ.
The role of hyaluronic acid in SEB-induced acute lung inflammation.
Clin Immunol. 2013 Jan;146(1):56-69. doi: 10.1016/j.clim.2012.11.002. Epub 2012 Nov 14.

消炎鎮痛剤と複数の降圧利尿剤併用は短期的には急性腎障害リスクを高める [薬とサプリメントの問題]

 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体(ARB)拮抗薬と利尿薬に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を加えた、3剤併用療法の組み合わせが急性腎障害のリスク増加と関連していたと報告されています。このリスク増加は、治療開始時に最大となりました。降圧薬は心血管治療に使用しますが、鎮痛剤(NSAID)と同時に使用する場合には警戒する必要があります。

 研究デザインは、コホート内症例対照分析を使用した後ろ向きコホート研究。参加者は降圧薬治療のユーザー487,372名。メインアウトカムは、NSAIDと降圧薬の2剤、3剤併用療法に伴う急性腎障害のRate ratios。平均5.9(SD 3.4)年間の追跡の結果、急性腎障害2,215例(発生率incidence rate 7/10,000 person years)。

 NSAIDとACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬のいずれかによる、2剤併用は急性腎障害の増加率に関連付けられませんでした。

 これとは対照的に、3剤併用療法の組み合わせは急性腎障害の増加と関連していました(rate ratio 1.31, 95% confidence interval 1.12 to 1.53)。二次分析では、最も高いリスクは、使用の最初の30日間で観察されました (rate ratio 1.82, 1.35 to 2.46)。

 但し、このリスク増加は90日以後には認められませんでした(このメカニズムは不明です)。

Lapi F, et al.
Concurrent use of diuretics, angiotensin-converting enzyme inhibitors, and angiotensin receptor blockers with non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of acute kidney injury: nested case-control study
BMJ 2013; DOI: 10.1136/bmj.e8525.

 ACE阻害薬は高血圧治療薬として繁用されますが、同時に、心臓や腎臓などの保護作用もあります。アンジオテンシンIIは腎糸球体の輸入・輸出細動脈の両方を収縮させますが、輸出細動脈の方を収縮させる作用がより強いので、ACE阻害薬を投与することにより輸出細動脈の方がより拡張して糸球体内圧の上昇が抑えられる結果、腎障害の進行を抑えます。また、アンジオテンシンIIは、「成長因子」のひとつであるTGFβ(transforming growth factor β:トランスフォーミング成長因子)やPDGF(platelet derived growth factor:血小板由来増殖因子)などの産生を刺激します。その結果、腎糸球体のメサンギウム細胞の過剰増殖や糸球体の硬化をもたらすといわれており、ACE阻害薬は、これらの作用を抑制することが示唆されています。

 薬理学は難しいのですが、それぞれの薬剤は異なるメカニズムを介して腎機能に影響を与える可能性が考えられます。ACE阻害薬/ARB拮抗薬は、輸出細動脈血管拡張に起因する糸球体濾過率の減少を引き起こし、NSAIDは、プロスタサイクリン合成を阻害して腎求心性細動脈収縮を引き起こします。

 また、全身性強皮症(硬化症)における腎危機(腎クリーゼ)はこの病気の最も致命的な合併症ですが、ACE阻害薬の末梢血管拡張作用がこの疾患に有効なため降圧剤として使われます。しかし、重度の腎機能低下がある場合には、ACE阻害薬を服用していた患者は非服用者と比較して1年で2倍の死亡率になったと報告されています(本ブログ「ACE阻害薬で全身性強皮症の死亡率が倍増2012.11.24」)。

 アスピリンやインドメタシンのような非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal antiinflammatory drug, NSAID)は、COX活性を阻害することにより炎症惹起性PGs産生を抑え抗炎症作用を発揮します。プロスタグランジン(Prostaglandins; PGs;PGD2, PGE2, PGF2a, PGI2)はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase; COX)の働きにより合成される生理活性物質で、炎症の代表的なメディエーターですが、同時に、胃粘膜の再生を促進する物質でもあります(さらに言えば、急性期を過ぎますと、逆に鎮痛方向に作用します)。

 cox-2阻害薬はcox-2酵素阻害による疼痛緩和作用に優れている一方で、血管の収縮および凝血(clotting)を防止する酵素を阻害することにより、心筋梗塞および脳卒中のリスク増大させます。この副作用によって市場から回収されたVioxxのみならず、一般的に使用されているセレコキシブやイブプロフェンをはじめ、あらゆるNSAID(cox-2阻害薬)に同じ問題があります。しかしその一方では、COX-2阻害剤の血管新生阻害作用と抗腫瘍活性によって癌の発症や死亡リスクを減少させる効果もあります。

Elliott M. Antman, Joel S. Bennett, et al.
Use of Nonsteroidal Antiinflammatory Drugs
An Update for Clinicians A Scientific Statement From the American Heart Association
Circulation. 2007;115:1634-1642; originally published online February 26, 2007;


ACE阻害薬で全身性強皮症の死亡率が倍増 [薬とサプリメントの問題]

全身性強皮症(硬化症)における腎危機(腎クリーゼ)はこの病気の最も致命的な合併症ですが、治療薬の1つである、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を服用していた患者は非服用者と比較して、1年で2倍の死亡率になったと報告されています。

未調整の解析では、ACE阻害薬を使用していた患者は非利用者に比べて、12ヶ月後の死亡率のハザード比は1.56 (CI 0.70 to3.47)でしたが、プレドニゾン用量のベースライン調整後はHR 2.42( 95% CI 1.02 to 5.75, P=0.046)と、倍以上に高くなりました(アメリカリウマチ学会の年次総会で報告; Marie Hudson, MD, of McGill University in Montreal, and colleagues.)。

また、ACE阻害薬を服用している患者は、その後、透析を必要とする可能性が2倍になったとする、別の報告もあります。

腎クリーゼは突然の高血圧を引き起こすとともに、急性腎不全、心不全となり難治性です。腎臓の症状が早期に出現するほど予後は不良であり、急性腎不全は急速に進行して数ヶ月以内に死に至ります。

著者は、ACE阻害薬は腎危機のリスクが最大であるときは慎重に使用すべきであると述べています。

ACE阻害薬は降圧剤の1つであり、末梢の血管を拡張するため本症の治療薬として使用されています。この研究報告は以外でした。

研究の限界として、観測の選択バイアスや、残留交絡の可能性を含んでいます。

Hudson M, et al.
Does the use of angiotensin converting enzyme inhibitors prior to scleroderma renal crisis affect prognosis? results of the International Scleroderma Renal Crisis Survey
American College of Rheumatology(ACR) 2012;abstract 728.

筋痛に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の効果ほぼ無し [薬とサプリメントの問題]

 健康なボランティア64名を対象に、100階建てのビル(300 ~400m)から降りるテストを行い、負荷後 12 ~26時間で経口セレコキシブ200 mg を1日2回投与した群と、プラシ-ボを比較。セレコキシブで、ふくらはぎおよび大腿筋痛は12% ~13%減少。テスト3日後のピーク減少は2.7 for celecoxib vs 2.0 for placebo(P-value not reported)。

 強力な非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である、ケトプロフェンの効果を調査したところ、疼痛軽快までの期間は延長しました。痛みの総量は、運動後1週間の痛みの重症度の曲線下面積(AUC)によって定量化。疼痛スコア(AUC)は、ケトプロフェン 462 (standard deviation 160) vsプラシーボ 376 (SD 159)でした (P=0.02) 。

 最も重要な、疼痛軽快までの時間は、122時間 vs 105時間 (P=0.005)で、プラシーボの方が早く治っています。

 別のグループによる研究では、ケトプロフェンは、セレコキシブと比較して、扁摘後の疼痛時間を延長させることが示されました (Otolaryngol Head Neck Surg 2005; 132: 287-294)。

 また、ウルトラマラソンランナーにおける調査では、イブプロフェン服用でサイトカイン値は増加しました(Brain Behav Immun 2005; 9: 398-403)。

 非ステロイド性抗炎症薬は、痛みと炎症状態の治療法として有効ではありますが、運動誘発性筋痛におけるベネフィットについてはさらなる検証が必要です。

Rother M, et al.
Is the inflammatory reaction an essential part of recovery after muscle injury?
EULAR 2012; Abstract FRI0457.

 「筋肉痛」、「筋・筋膜性疼痛」、などと言われる筋痛や、「腓返り」などは、その病態やメカニズムは未だ完全には解明されていません。運動後の「遅発性筋痛」を確実に軽減させる、あるいは早期に軽減させる確かな方法もありません。研究が進展しないのは、医師は、業績にならない研究はあまりしたがらないからです。(ついでに一言付け加えたいのは、医療関係者は「筋肉」と言ってほしくありません。「筋」が正しい。)

 「腓返り」の場合、痙攣している最中であれば(殷門穴の外側)鍼で即座に止まります。昔、オリンピックのマラソン中に、ロシアの女性ランナーが「腓返り」を起こしました。彼女はゼッケンを止めていた安全ピンを外し、直ちにこの大腿後側に刺し、その直後には、何事も無かった様に走り出しました。その数年後でしたか(?)、整形外科医が子供の「腓返り」がひどくて困り、診察室から私を呼んだこともありました。医師には手の打ちようがなかったのです。

 但し、長時間痙攣が続いた後に痛みが残ってしまった患者では、通常、どの様な治療をしても直ちに疼痛が軽減することは無く、軽快までには数日から1週間程要します(中には、治療直後に軽減することも有)。

 文献を調べても、明確な有効性が認められた治療法はありませんし、質の高い研究はあまり見あたりません。

 長くなって恐縮ですが、ついでにもう少し雑談につき合ってください。

 「里吉病」についてです。昔の筋病理学関連のテキストには、「全身腓返り病」と記されていた病気です。当時の記述では、痙攣が全身に及び、最終的には死亡するとありました。極めてまれな疾患で、未だお目にかかったことはないのですが、若干疑わしい症例に出会うことがあります。

 「里吉病」は、1963年に、第1回の汎米神経学会で里吉氏(国立精神・神経センター名誉総長)が、特別講演で発表したのが最初の報告です。また、1978年に、進行性筋痙攣、脱毛、下痢症候群を呈する一群をまとめ(15例)、「A syndrome of progressive muscle spasms, alopecia and diarrrhea」として発表されています。

 筋痙攣は初期には腓腹筋に起こり易く、数年以内に上部へと進行し、顔面筋、呼吸筋を除く全身の筋が痙攣します。痙攣は、数日ないし、1週間程度断続(クリーゼ)して生じます。痙攣は、強い随意的収縮や神経刺激で誘発されます。脱毛は本症に必発で全身に及びます。下痢症状は、1日に5~10回程度の水様便です。小児期の発症で痙攣が強い場合には、関節さえも変形します。

 後天性全身性自己免疫疾患とも考えられていますが、未だ、原因は不明です。但し、昔に比べますと、治療によって症状が安定あるいは改善し、日常生活を送ることが可能となる症例は増えているようです。

 当院の例では、夜間睡眠中に突然、強い疼痛性の痙攣が、波が押し寄せる様に断続的に繰り返し起きる方がいます。痙攣を起こしている筋よりも上位の筋の圧痛部位を探り、指圧してもらうことで大概は一端治まりますが、直後にまた痙攣が起きてこれを何度も繰り返します。この方の場合には、これが全身にまで拡大する様子は無く、強い痙攣にもかかわらず後には全く痛みは残りませんし、日中は異常ありません。下痢はし易いのですが長期間続くことは無く、脱毛も見られません。その後の様子などから判断して、痙攣の起き方は異常なのですが「里吉病」とは考えられません。この他にも、神経学的に診断はつかないものの、神経内科的に「怪しい症状」をもつ方は時々見かけます。

 「里吉病」と似た痙攣性の原因不明の病気には、「Stiff- person 症候群」や、「Isaacs症候群」などがありますが、未だ、出会ったことはありません。

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