PPIは抗血栓剤+NSAIDs服用の心筋梗塞後患者の胃腸出血リスクを減少させる [薬とサプリメントの問題]

抗血栓薬および非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用する患者の胃腸出血リスクを低減するために、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の併用が推奨されています。しかし、心筋梗塞後の患者ではその効果は明らかではありませんでしたが、デンマークにおける全国調査の結果、PPIの同時使用によって出血リスクが減少したと報告されています。

診断および入院データは、デンマーク国立患者レジストリから登録。疾病分類はICD-10(国際疾病分類、第10回改訂)を使用。生命状態についての情報は、デンマーク統計局の市民登録システムを使用。薬品の調剤は国立処方レジストリ、および分類は医療用医薬品のAnatomical Therapeutic Chemical (ATC)システムによって、すべての薬剤の処方に関する情報を収集。

対象者は、1997年から2011年までに、30歳以上の初回急性心筋梗塞患者で抗血栓剤を受け、発作から30日間生存していた患者。

患者の合計は128,751名(平均年齢 67.4歳)。82,955名 (64.4%)が単独または複数の抗血栓剤による治療を受け、退院後35,233名 (42.5%)が1 つまたは複数のNSAID、37,711名 (45.5%)がPPI、10,613名(12.8%)がNSAID+PPI を処方されていました。

初回の心筋梗塞後、PPIの処方比率は、1997年の15% から2010年には37%に増加。NSAIDsDの投与比率は2002 年にピークの20 %に達し、NSAIDs とPPI の併用比率は 10%以下から2010年には30%以上に増加しました。

3229名が胃腸出血イベントを発症し、その内の282名(8.7%)は致命的でした。327名はNSAIDs治療中に発症。全体的な粗発生率は 0.8 events/100人/年(95% confidence interval 0.7 to 0.8)。NSAIDsのみは2.1events /100人/年(1.8 to 2.4)。PPI併用では1.8events/100人/年 (1.4 to 2.4) 。

多変量調整後、抗血栓およびNSAID治療のそれぞれとPPIの同時使用は、PPI無しの治療と比較して消化管出血のハザード比0.72(hazard ratio 0.72, 95% confidence interval 0.54 to 0.95)で、28%の減少に関連しました。

抗血栓薬2剤およびNSAIDsと、PPIの同時投与の消化管出血発症率は2.5events/100人/年 (1.3 to 4.8)であったのに対し、 PPI無しでは5.2 events/100人/年(3.9 to 6.8)と高く、ハザード比は 0.41 (hazard ratio 0.41, 0.20 to 0.84)で、PPI併用によって59%減少しました。

PPIの薬剤の種類によって発症率は異なっています。また、COX 2 阻害剤との組み合わせも見られましたが、症例数が少ないので省略しました。

結論として、抗血栓薬を服用後の心筋梗塞患者のコホートにおいて、NSAIDsまたはPPIの種類にかかわらず、PPIの併用はNSAID治療に伴う消化管出血のリスクを減少させることが示唆されました。心筋梗塞後の患者でNSAIDsの使用が避けられない場合には、同時にPPIの処方を検討する必要があると言えます。但し、観察研究であることと、非無作為化試験であることがこの研究の限界と言えます。

NSAIDsの作用機序は、周知のように、プロスタグランジンの産生を抑制することで痛みの発症をブロックします。しかし一方、プロスタグランジンは粘膜の再生を促進しますので、胃の粘膜のように絶えず再生を繰り返している組織では、NSAIDsの服用によって粘膜が再生されず出血を起こします。

因みに、痛み止めは飲まずに、座薬を使用すれば胃に負担がかからないと勘違いしている方が多いようですが、直腸の粘膜から吸収され血液を介して胃にも到達しますので、害は全く同じです。

出典文献
Anne-Marie Schjerning Olsen, Jesper Lindhardsen, Gunnar H Gislason, et al.,
Impact of proton pump inhibitor treatment on gastrointestinal bleeding associated with non-steroidal anti-inflammatory drug use among post-myocardial infarction patients taking antithrombotics: nationwide study.
BMJ 2015; 351 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h5096 (Published 19 October 2015)
Cite this as: BMJ 2015;351:h5096

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