ヘリコバクター・ピロリが産生する外膜小胞は神経細胞損傷を引き起こす [医学一般の話題]

ヘリコバクターピロリ(Hp)は世界人口の50%に感染しており、特に、発展途上国でより一般的です。小児期に感染し、抗生物質治療をしない場合には一生胃に残ります。この慢性感染症のほとんどは無症候性ですが、時折、重度の胃炎および十二指腸の病状を引き起こして胃癌の発症を助長します。

また、最近の研究では、Hp感染と神経変性疾患を含むいくつかの胃外病状との間に直接的な関係が存在することが示されています(1.2.3.)。症例対照研究では、HPとアルツハイマー病およびパーキンソン病の重症度との関係性が明らかになっています(4.5.)。

細菌またはそれらが産生するナノサイズの外膜小胞(OMV)が脳に到達し、ニューロン/星状細胞に影響を与えるかは不明でした。本研究では、マウスへの全身(尾静脈注射)および経口投与後、HP OMVが脳にアクセスし、星状細胞を反応性へと変化させて神経損傷を促進することが確認されました。

また、アストロサイトに対するOMVの効果はインビトロでも確認され、NF-κB依存性であることが示されました。本研究は、HpOMVがニューロンと星状細胞など、胃外の疾患を引き起こすことを明らかにした最初の報告であると著者らは述べています。

OMVは、直径20〜450 nmの球形の二層膜由来のナノサイズの小胞で、正常な成長の一部として分泌されますが、この侵襲性の低い細菌の病原性を増幅する要因として機能する可能性があります。


NF-κB(核内因子κB、nuclear factor-kappa B)はタンパク質複合体であり、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、動物のほとんど全ての細胞に発現している。NF-κBはストレスやサイトカイン、紫外線などの刺激により活性化され、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなど多くの生理現象に関与している。NF-κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められる。さらにNF-κBはサイトメガロウイルス (CMV) やヒト免疫不全ウイルス (HIV) の増殖にも関与している。


インターフェロンγ(IFN γ)は、II型インターフェロンとして知られるサイトカインで、抗原や炎症のトリガー後に、種々の免疫細胞(ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、エフェクターリンパ球T細胞等)によって産生され、細菌、ウイルス、原虫感染症に対する免疫機構に関連して炎症反応に関与する。

出典文献
Helicobacter pylori outer membrane vesicles induce astrocyte reactivity through nuclear factor-κappa B activation and cause neuronal damage in vivo in a murine model
Esteban Palacios, Lorena Lobos-González, Simón Guerrero, Marcelo J. Kogan, et al.
Journal of Neuroinflammation volume 20, Article number: 66 (2023)

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