乳癌の転移は睡眠中に加速する [医学一般の話題]

癌の転移性の広がりは循環腫瘍細胞(CTC)の血行性播種によって達成される。一般的に、転移能のあるCTCの生成を指示する時間的ダイナミクスはほとんど特徴付けられておらず、CTCは成長中の腫瘍から絶えず脱落するか、機械的傷害の結果として脱落すると想定されている。しかし、乳癌患者とマウスモデルの両方において、そのほとんどの自発的な血管内イベントが睡眠中に発生するという、印象的で予想外のパターンが観察された。

さらに、休止期のCTCが転移しやすいのに対し、活動期の間に生成されたCTCは転移能力を欠いていること。また、CTCの単一細胞RNAシーケンス分析では、患者とマウスモデルの両方で、休止期にのみ有糸分裂遺伝子の顕著なアップレギュレーションが明らかになっている。

血液サンプルは、乳がん患者30人の身体安静期(午前4時)および活動期(午前10時)から収集。驚くことに、単一CTC、CTCクラスター、CTC-白血球クラスターなど、ほとんどのCTC(78.3%)が休息期の夜間に得られたサンプルで発見された。

マウスの休息期と活動期の2つの最も代表的な時点に焦点を当てたところ、CTCレベルはベースラインよりも最大88倍高い濃度で日中にピークに達した(マウスはヒトとは反対の概日リズムを持つ)。

Acetoたちの研究グループは、概日周期のさまざまな段階で、休息期と活動期のCTCを健康な腫瘍のないマウスに注射することによって、異なる概日リズム期に生成されたCTCが転移を成功させる能力が異なるかを調べた。その結果、休止期のCTCが活動期に得られるCTCと比較して「異常な転移形成能を示す」ことを見出した。さらに、これらのCTCは、活動性マウスよりも安静時マウスに注射すると腫瘍を形成する可能性が高かった。

この研究結果が乳癌以外の腫瘍に当てはまるか否かは未だ不明だが、CTC研究や、医療従事者が生検を行う時間を体系的に記録する必要性があること、および今後の癌治療に大きく影響することは明らか。

著者らは、癌転移のダイナミクスを完全に理解するために、継続的なin vivoモニタリングのための技術を含むCTCを研究するためのより包括的なアプローチが必要であることを示唆していると、述べている。

出典文献
The metastatic spread of breast cancer accelerates during sleep.
Zoi Diamantopoulou, Francesc Castro-Giner, Fabienne Dominique Schwab, et al.
Nature 2022; DOI: 10.1038/s41586-022-04875-y.

先天性心疾患の心肺バイパス手術中に酸素供給器に送達される一酸化窒素の効果 [医学一般の話題]


先天性心疾患に対する、心肺バイパス手術を受けた2歳未満の小児を対象とした国際無作為化臨床試験の結果、心肺バイパス回路に送達された一酸化窒素を受けた患者と一酸化窒素を含まない標準ケア心肺バイパスを受けた患者との間に、人工呼吸器無しの日数に有意差はなかった。心肺バイパスの開始から48時間以内の低心拍出量症候群または術後の体外生命維持の発生率、28日以内の死亡、またはこの転帰の個々の複合要素においても群間で有意な差はなかった。

無作為化された1371人の患者のうち、1364人(99.5%)が試験を完了した。人工呼吸器のない日数は、一酸化窒素群と標準治療群の間で有意差はなく、中央値はそれぞれ26.6日(IQR、24.4〜27.4)対26.4日(IQR、24.0〜27.2)で、絶対差は−0.01日(95%CI、−0.25〜0.22;P = 0.92)。

一酸化窒素群の22.5%および標準治療群の20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外サポートを必要とするか28日目までに死亡した。調整オッズ比は1.12(95%CI、0.85〜1.47)で、他の二次的転帰は、群間で有意差はなかった。

結論として、これらの知見により、心臓手術中に心肺バイパス酸素供給器に送達される一酸化窒素の使用は支持されないと記されている。

しかし、一部の報告において、心肺バイパス酸素供給器のガス流入に添加された一酸化窒素は、術後のトロポニンレベルを低下させ、低心拍出量症候群を減少させ、幼児の侵襲的機械的換気の期間を短縮する可能性があることが示唆されている(1.2.)ため、一部のユニットでは、高品位の証拠がないにもかかわらず、心肺バイパス中の一酸化窒素の使用を標準治療として導入している。

但し、成人においては、冠状動脈バイパス移植を受けた60人の患者を対象とした試験によって、心肺バイパスに40ppmで送達された一酸化窒素に無作為化された患者における術後心臓酵素および昇圧スコアが低いことが報告(3.)されている。弁置換手術を受けた244人の患者を登録した別の試験では、標準治療と一酸化窒素を心肺バイパスに80ppm送達した併用治療では、急性腎障害の発生率が低いことが報告(4.)されている。

アメリカでは、先天性心疾患は約100人に1人が罹患しており、2021年に発表された推定値では、今年は4万人の子供が先天性心疾患で生まれると示唆されている。これらの子供たちの年間入院費用は56億ドルを超えると予想され、また、多くの生存者が身体的、発達的、または認知的な問題を有することが確認されている。

心肺バイパス手術を受けている小児の25〜40%が低心拍出量症候群を引き起こす。この症候群は、心臓が患者の器官の灌流要件を満たすことができないことを特徴とする。

出典文献
Effect of Nitric Oxide via Cardiopulmonary Bypass on Ventilator-Free Days in Young Children Undergoing Congenital Heart Disease Surgery
The NITRIC Randomized Clinical Trial
Luregn J. Schlapbach, Kristen S. Gibbons, Stephen B. Horton, et al.
JAMA. Published online June 27, 2022. doi:10.1001/jama.2022.9376

二次文献
1.
James C, Millar J, Horton S, Brizard C, Molesworth C, Butt W. Nitric oxide administration during paediatric cardiopulmonary bypass.  Intensive Care Med. 2016;42(11):1744-1752.PubMedGoogle ScholarCrossref
2.
Checchia PA, Bronicki RA, Muenzer JT, et al. Nitric oxide delivery during cardiopulmonary bypass reduces postoperative morbidity in children: a randomized trial.  J Thorac Cardiovasc Surg. 2013;146(3):530-536.PubMedGoogle ScholarCrossref

3.
Kamenshchikov NO, Mandel IA, Podoksenov YK, et al. Nitric oxide provides myocardial protection when added to the cardiopulmonary bypass circuit during cardiac surgery: randomized trial.  J Thorac Cardiovasc Surg. 2019;157(6):2328-2336.e1.PubMedGoogle ScholarCrossref

4.
Lei C, Berra L, Rezoagli E, et al. Nitric oxide decreases acute kidney injury and stage 3 chronic kidney disease after cardiac surgery.  Am J Respir Crit Care Med. 2018;198(10):1279-1287.PubMedGoogle ScholarCrossref

10秒間の片足立ちの成否が中高年の生存を予測すると報告 [医学一般の話題]

10秒間の片足立ち(10秒OLS)を正常に完了する能力は全原因死亡率と独立して関連付けられ、年齢、性別、その他の人体測定および臨床を超えて予後情報を示すと報告されている。

10秒OLSデータは、2008年から2020年までの51〜75歳の1702人(男性68%)で評価された。ログランクおよびCoxモデリングを使用し、10秒OLSテストの可(YES)または不可(NO)で生存曲線と死亡リスクを比較。

片足スタンスバランス評価
参加者は平らな台の上裸足で立ち、非支持足の背側部分を支持側の下腿の後ろに配置する。肘を伸ばして腕は自然に体の近くに置き、視線は2mの距離にある目の高さのポイントに固定するように指示された。参加者はこの姿勢を10秒間保持すりことを求められ、最大3回の試行が許可された。

NO群の割合は、51〜55歳で4.7%、56〜60歳で8.1%、61〜65歳で17.8%、66〜70歳で36.8%。 71〜75歳の年齢層では、参加者の半数以上(53.6%)で、全体では20.4%がNOと分類された。

追跡期間中央値(IQR)7年(4.16–9.41)の間に123人の参加者(7.2%)が死亡した。死因は、癌(32%)、心血管系疾患(30%)、呼吸器系疾患(9%)およびCOVID-19合併症(7%)。NO群の死亡率はYES群よりも高く(17.5%vs 4.6%; p <0.001)、NO群では17.5%で生存曲線は悪化した(ログランク検定= 85.6; p <0.001)。10秒OLSのYES群は4.6%、追跡期間中央値(IQR)7(4.16–9.41)絶対差は12.9%。主要な死因の分布に有意差はなかった。

尚、転倒についての記載は見られず、転倒リスクも明示されていない。

参加者のプロファイルは、冠状動脈疾患、高血圧、脂質異常症、肥満の割合が高い参加者はいなかったが、最も顕著な違いとして、糖尿病はYES群12.6%と比較してNO群で37.9%と3倍であった(p <0.001)。

このテストは13年間の臨床経験において参加者から高い評価を受けているとのこと。非常に安全で、適用するのに1分または2分未満しか必要としないため簡単に組み込むことができる。中高年の定期健康診断の一部として10秒OLSを含めることには潜在的な利点があると述べられている。

しかし。

10秒OLS不可の群が死亡リスクのハザード比が倍近くになったとしても、その数値にどの様な意味があり、改善策はあるのであろうか。また、介入として、10秒OLSテストを繰り返し行うことがバランストレーニングになるのか。実際に、転倒リスクが減少するのかについて、今後の調査が必要であると思う。その上で、バランスの改善が転倒リスクを軽減し、さらに、運動機能を含めた患者個人の基礎疾患に対しても好影響を与えて死亡リスクを減少させ得るのかを検証すべきである。仮に、評価結果に実質的な利益が無いのであれば、単なる評価のための評価にに過ぎず、自己満足となる、と、思うのですが。

ついでに言えば。私は60歳台の後半であるが、閉眼ならいざ知らず、開眼したままの片足立ちであるこのテストは非常に簡単であり、分単位でも可能である。参加者のプロファイルでは参加者は健康であったようであるが、NOが多すぎるように思われる。むしろ、脳疾患や何らかの事情によって運動機能に相当の問題があると考えられるのだが。

出典文献
Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals FREE
Claudio Gil Araujo, Christina Grüne de Souza e Silva, Jari Antero Laukkanen, et al.
Br J Sports Med 2022; DOI: 10.1136/bjsports-2021-105360.

大気汚染は自己免疫疾患のリスクも高くする [医学一般の話題]

大気汚染による害は肺と心臓だけではなく、タバコの煙や産業排水に含まれるこの種の小さな粒子状物質への曝露は関節リウマチなどの自己免疫疾患の増加と関連していると報告されている。

PM 10のレベルが定期的に30μg/m3か超える地域ではこれよりも低い地域と比べ、7種の自己免疫疾患の有病率が12%高かったと、ヴェローナ大学のGiovanni Adami医師、PhDによって報告されている。同様に、PM2.5のレベルが長期間にわたって平均20μg/m3であった地域でも13%高かった。

また、慢性被爆による線量反応関係は、10μg/m3増分毎に自己免疫疾患のリスクが7%高くなた。

大気汚染に関する先行研究は、喘息や慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患を中心としてきましたが、多くの研究によって、心血管へのリスクも発見されています。無論、喘息は自己免疫疾患でもあります。

ドイツのミュンヘン大学の、Schulze-Koops医学博士は、クリストファー・コロンブスに責任があるとの冗談を言いました。氏は、コロンブスが西半球の探検からタバコを持ち帰り、大陸全体の喫煙への執着を引き起こすまで、関節リウマチはヨーロッパでは知られていなかったと述べた。

但し、関節リウマチは高い相関性を示し、全身性硬化症とIBDも関連したが、他のいくつかは汚染曝露と相関しておらず、疾患によって違いが見られる。

また、この研究の統計分析には、年齢、ステロイド治療、併存疾患、診断を提供する医師の専門性など、多くの補助因子の調整が含まれている。

さらに、肺への粒子状物質の曝露が他の身体系における自己免疫反応を引き起こすことが示唆されている。この関係性が真に因果関係を反映しているのであれば非常に興味深く、その経路を明らかにするための研究が期待される。

出典文献
Air Pollution and Illness: It's Not Just the Lungs and Heart Anymore
— Expanding range of conditions caused or aggravated by fine particulates
by John Gever, Contributing Writer, MedPage Today June 1, 2022

Primary Source
European Alliance of Associations for Rheumatology
Source Reference: Adami G, et al "Association between long-term exposure to air pollution and immune-mediated diseases: a population-based cohort study" EULAR 2022; Abstract OP0071.