動物モデルの不都合な真実 [医療クライシス]

生物医学研究は基本的な病態生理学的メカニズムを探求し、新しい治療アプローチを評価し、新規の薬剤候補を特定して臨床試験を行う。マウスモデルの実験は、薬物候補を特定し、ヒトへの臨床試験の前段階として広く使用されてきた。しかし、これらの試みのほとんどは成功を示していない(1.-4.)。特に、炎症の分野における成功率は極めて低い。

そもそも、マウス臨床モデルが患者のヒト炎症性疾患をどの程度模倣しているかを、分子ベースで体系的に評価する研究は行われていない。ヒトにおいては、異なる病因による急性炎症ストレスが非常に類似したゲノム応答をもたらすが、対応するマウスモデルの応答はヒトの状態とは相関しない。

研究者や公的規制当局は、動物研究の結果がヒト疾患を反映していると仮定している。しかし、動物実験には基準がなく、極めて雑で、試験方法や評価に細心の注意が払われることもない。さらに、これら実験動物たちの、生命の尊厳に対する倫理観も欠如している。

マウスモデルにおける転写応答は、マウスとヒトの間の進化的距離、細胞組成の違い、ヒト疾患の複雑さ、マウスモデルの近親交配、単一の機械論的モデルの使用などが分子応答に見られる差異に寄与し得る。また、患者の臨床ケアに関連する事象は、マウスモデルで捕捉されないゲノム応答を変化させる可能性が高い。

何十億ドルもの研究費を投じて行われた、マウスを使用した数百件にのぼる脳卒中の治療薬はヒトでは効果は認められなかった。マウスに作成した脳卒中はヒトの脳卒中とは根本的に別物であり、マウスによる実験から学べることはない。

現代の生物医学研究は、マウスモデルの使用を基礎として構築されてきた。しかし、人間の病気を模倣するために開発されたマウスモデルの分子結果を、そのまま、人間に直接変換できるとする仮定はもはや成立しないことは明らか。

最近では、ヒトの臓器組織から作られた「臓器チップ」の有効性が証明されている。例えば、肝臓チップは肝臓移植が必要な患者にとっては現時点で役には立たないが、肝臓の代用として、肝機能を模倣して薬の効果を試験することができる。これらのシステムはヒトそのものの組織を使用するため、動物実験のような種差による影響を受けずに生体そっくりな条件で実験できる点が優れている。さらに、生物医学研究における動物実験の失敗率は92%に達し、大量の動物たちを無残に無駄に殺害する行為を回避できる。

製薬業界も医学界も、動物実験の科学的欠陥が立証されてもなおその不都合な真実を隠蔽し、無意味な実験を続けている。近い将来、真実が正当に受け入れられ、動物実験が一掃される日が来ることを切に願っている。

一方、この文献で興味深い点は、マウスモデルにおける相関の欠如とは対照的に、外傷と火傷の間の患者における非常に一貫したゲノム応答が観察されているとのこと。

異なる、基礎的な急性外傷を有する重症患者は同様な生理反応を有し、全身性炎症反応症候群(5.6.)として知られている状態にある。この症候群の根底にある分子機構は病因の開始に関係なく類似しており、薬物標的の追求の中心となる。

未だ実証はされていないが、ヒトにおける外傷、火傷、内毒素血症の間の非常に高い相関は、この仮説を強く支持しており、そのようなアプローチが可能であることを示唆している。

出典文献
Genomic responses in mouse models poorly mimic human inflammatory diseases
Junhee Seok, H. Shaw Warren, Alex G. Cuenca, Michael N. Mindrinos, et al.,
Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Feb 26; 110(9): 3507–3512.
Published online 2013 Feb 11. doi: 10.1073/pnas.1222878110

二次文献
1.
Pound P, Ebrahim S, Sandercock P, Bracken MB, Roberts I, Reviewing Animal Trials Systematically (RATS) Group (2004) Where is the evidence that animal research benefits humans? BMJ 328(7438):514–517..OpenUrlFREE Full TextGoogle Scholar

2.
Hackam DG, Redelmeier DA (2006) Translation of research evidence from animals to humans. JAMA 296(14):1731–1732..OpenUrlCrossRefPubMed

3.
van der Worp HB, et al. (2010) Can animal models of disease reliably inform human studies? PLoS Med 7(3):e1000245..OpenUrlCrossRefPubMedGoogle Scholar

4.
Rice J (2012) Animal models: Not close enough. Nature 484(7393):S9..OpenUrlCrossRef

5.
Bone RC (1991) Let’s agree on terminology: Definitions of sepsis. Crit Care Med 19(7):973–976..OpenUrlCrossRefPubMedGoogle Scholar

6
Rangel-Frausto MS, et al. (1995) The natural history of the systemic inflammatory response syndrome (SIRS). A prospective study. JAMA 273(2):117–123..OpenUrlCrossRefPubMedGoogle Scholar

コメント(0)