急性脳卒中治療薬効果の幻想 [医療クライシス]

急性脳卒中に対する有効な治療法は限られている。これまでに、治療薬の開発に何十億ドルもの費用が投入されてきたが、ヒトに対する効果は一切示されていない。虚血性脳卒中の血栓を溶かして血流を再開させる薬も、神経細胞の機能回復には効果がない。現在、脳卒中研究の「核の冬」と呼ばれているとか。

例えば、アストラゼネカが開発した、フリーラジカルトラップ剤「NXY-059」は象徴的だ。585匹の動物(ラット)実験による有効性と、その後の1700人以上に対する試験ではわずかに脳障害が軽減された。この結果を受けて、急性脳卒中患者3306人を登録し、脳卒中症状発症後6時間以内に72時間の静脈内NXY-059投与またはプラシーボによる無作為化二重盲検試験を行い、アルテプラーゼ関連の頭蓋内出血を減少させるという仮説を検証した(Shuaib A, Lees KR, 他2007)。

その結果、有害事象率、無症候性出血の頻度、変更ランキンスケールスコアの分布、および神経学的・日常生活の尺度に関するスコア(二次的終点)のいずれにも有効性の証拠はなく、開発は失敗に終わった(ClinicalTrials.gov番号、NCT00061022 [ClinicalTrials.gov])。

最近では、“Negative (Not Neutral) Trials;ネガティブ(非中立的)研究”の危険性が指摘されており、臨床試験論文におけるSPIN(印象操作)が問題視されている(Philip M. Bath, Jason P. Appleton,2019)。

PubMedに収録された全研究論文(2006年)におけるネガティブ試験72報を精査した研究から、アブストラクトの「結論」の37.5%、本文の「結論」の29.2%、「考察」の43.1%にSPINが見つかった。

ネガティブ研究によるリスクを削減するために、以前の介入による有害性の理由を考察することが重要となる。神経保護薬、抗凝固薬、抗炎症薬、フリーラジカル消去薬、抗出血薬、および血管作用薬などの臨床試験(RCT)。他の薬剤は血栓溶解効率を低下させるか、精神神経毒性または心臓毒性を示し、脳内出血への血小板輸血は危険だった。再灌流治療はできるだけ早く行う必要があるが、理学療法と血管抑制薬で見られるように、他の戦略の非常に早い時期の介入は危険である可能性が高い。

引用文献

NXY-059 for the treatment of acute ischemic stroke.
Shuaib A, Lees KR, Lyden P, et al.,
N Engl J Med. 2007 Aug 9;357(6):562-71.
Wasiewski WW, Emeribe U; SAINT II Trial Investigators.

The Hazard of Negative (Not Neutral) Trials on Treatment of Acute Stroke
A Review
Philip M. Bath, Jason P. Appleton, Timothy England,
JAMA Neurol. Published online December 2, 2019. doi:10.1001/jamaneurol.2019.4107

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