心房性ナトリウム利尿ペプチドは細菌性リポ多糖誘発性炎症および認知機能障害を軽減する [臓器相関]

組換えヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(rhANP)による予防的投与および治療の組み合わせは、神経媒介性腸内微生物叢-脳軸を介して、マウスにおける細菌性リポ多糖(LPS)の腹腔内注射によって誘発される全身性炎症、海馬炎症および認知機能障害を軽減できたと報告されている。

認知改善効果のメカニズムは、腸内細菌叢の組成の調節と、横隔膜下迷走神経を介する海馬のTrkB / BDNFシグナル伝達を調節する能力と関連している可能性があると記されている。

LPS(5mg/kg)を、マウスの腹腔内に投与。組換えヒトANP(rhANP、1.0 mg/kg)をマウスに腹腔内投与した。rhANP1.0 mg/kgをLPS注射の24時間前および注射後24時間に静脈内注射。

LPS注射後24時間で、顕著な脾腫と血漿サイトカインの増加が誘導された。脾臓重量と血漿サイトカインのレベルの間には正の相関関係があった。また、LPSは海馬におけるイオン化カルシウム結合アダプター分子(iba)-1、サイトカインおよび誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)のタンパク質レベルを増加させた。

LPSは、埋もれた食べ物を食べる試験における待ち時間の増加と、Y迷路テストによる学習行動を妨げた。

rhANPによる予防および治療は、LPS誘発脾腫、海馬、および末梢炎症ならびに認知障害を逆転させた。さらに、内毒素血症マウスの糞便細菌を移植したPGFマウスにおいて、海馬ポリクローナルリン酸化チロシンキナーゼ受容体B(p-TrkB)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、および認知障害のタンパク質レベルの低下を軽減した。また、TrkB / BDNFシグナル伝達阻害剤ANA-12は、LPS誘発性認知障害に対するrhANPの改善効果を阻止した。

全身LPS誘発神経炎症が内毒素症由来認知障害の病態において重要な役割を果たしていることが示されている。腹腔内LPS注射は頭蓋内LPS注射よりも臨床的関連性が高いため、本研究では内毒素症の動物モデルとして選択された。薬理学的および分子的介入による神経炎症反応の効果的かつタイムリーな減衰は、内毒素症由来認知障害を改善する可能性がある。

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、心臓心房から主に分泌される心血管ホルモン。ANPは水・ナトリウムの利尿、血管の拡張、レニン・アルドステロンの分泌抑制、循環血漿量の減少など、生体の体液バランスならびに血圧調整に関与している。さらに、炎症誘発性メディエーター(TNF-α、IL-1、単球化学誘引物質タンパク質、一酸化窒素、シクロオキシゲナーゼ-2など)、接着分子(血管細胞接着分子、細胞間細胞接着分子-1、E-セレクチンなど)、LPSおよびTNF-α誘導を抑制する内皮細胞の透過性の増加、敗血症後の腸の損傷の軽減や、様々な疾患(心室肥大、心筋損傷、高血圧、腫瘍、急性肺障害、脳虚血/再灌流傷害、敗血症など)に対しても保護作用がある。但し、ANPが免疫応答/免疫細胞の活性化を調節する分子メカニズムは不明。

また、ANPの主要な受容体であるナトリウム利尿ペプチド受容体A(NPR-A)は、小腸上皮細胞で高度に発現していることが示されている(*Ren Q, et al.)。したがって、心臓から分泌される循環ANPは、小腸のNPR-Aに結合することにより、腸内細菌叢の障害を改善する可能性があると推測されるが、そのメカニズムは現在のところ不明。

心房から分泌される利尿ペプチドに対する受容体が小腸にも存在することや、多くの臓器の炎症を抑制するなど、その多機能には驚かされる。臓器の機能は多様で複雑だ。

出典文献
RhANP attenuates endotoxin-derived cognitive dysfunction through subdiaphragmatic vagus nerve-mediated gut microbiota–brain axis
Yuming Wu, Yujing Zhang, Bing Xie, Amro Abdelgawad, et al.
Journal of Neuroinflammation volume 18, Article number: 300 (2021)


Ren Q, Ma M, Yang C, Zhang JC, Yao W, Hashimoto K. BDNF-TrkB signaling in the nucleus accumbens shell of mice has key role in methamphetamine withdrawal symptoms. Transl Psychiatry. 2015;5:e666.