鍼治療は反復性片頭痛の予防に有効と報告されているが [鍼灸関連研究報告から]

マニュアル鍼治療は、前兆(閃輝暗点)のない反復性片頭痛の予防において、偽(sham)鍼治療や通常治療に比べて片頭痛の発現日数や発作回数を抑制したと報告されている(中国・華中科技大学のShabei Xu氏ら)。

この報告は鍼灸師としては歓迎すべきだが、個人的には大いに不満がある。

第一点として、この種の医学研究では毎度のことだが、結論として、「予防薬の使用に消極的な患者や予防薬が効果がない場合の治療として、将来のガイドラインで考慮すべきである。」と述べられている。

効果があるとしながら、その対象として「従来の治療に抵抗する症例に鍼でもやってみれば」と、言っているのだ。おまえ達がお手上げの患者に対して鍼治療に効果があったのならば、その優位性は明らかであり、優れた治療法として素直に認めるべきだ。

昔から、このやり方なのだ。医学的治療で効果がなかった患者を対象にして鍼治療を試み、明確な効果が認められないと、鍼治療には効果が無いと結論づける。極めて「unfair」なのである。同じ土俵の上で比較
してこそ、その効果や治療法の優越性が明白となる。

第二点は、教科書に示された経穴の位置に、触診による反応など何も確かめることもなく、おまけに、刺激の加え方などの手技も考慮することなく単純に刺している。これこそが、従来の鍼治療における医学研究に見られる重大な欠陥である。何も考えず、教科書に記された経穴に刺してこれを伝統的鍼治療と呼び、研究手法が「randomised」であればそれだけで質の高い研究として評価される。しかし、これでは根本的に鍼治療になってはいない。

さらに、極めて個人的な意見を言うと。私は、ほとんどの場合、「教科書的な経穴」を治療には用いないし、そのような固定された特定のポイントの存在は否定している。

経穴は教科書的な固定されたポイントではなく、それは、特に何らかの不調がある時に反応が出現し易い領域であり、この部位の病的状態がさらに不調を助長すると同時に、この部位の異常を緩和することで臓器の変調も軽減できるような、特異な“regio”または“area”と呼ぶべき存在である。さらに言えば、このような特異な領域は経絡理論とは無縁で、医学的に予想できる部位である。この意味においても、経絡理論は無用であり全くのナンセンスと言える(詳細は、私のブログの記事を参照されたい)。

尚、私は、片頭痛の治療穴としてこの文献に記された経穴のほとんどを使用していない。経絡理論とは全く異なる、独自の部位(regio)を触診によって確認し使用している。

一応、報告内容を簡単に記すと。
 
研究デザインは、“randomised, controlled clinical trial”で、対象となった患者は150人(平均年齢36.5歳, SD 11.4, 女性123人;82%)。介入は、 真の鍼治療ポイント(20)プラス通常のケアとマニュアル鍼治療, 非経穴部位への偽鍼治療プラス通常のケア, および単独で通常のケアの3群に分類して8週間実施。

平均片頭痛の減少は、13~16週において、マニュアル鍼治療群で3.5 (SD 2.5) 偽鍼治療群では2.4 (3.4) (adjusted difference −1.4, 95% confidence interval −2.4 to −0.3; P=0.005)。

同様に、17 ~20週では、3.9 (3.0)versus 2.2 (3.2)(adjusted difference −2.1, −2.9 to −1.2; P<0.001)。

発作回数の減少は、2.3 (1.7)versus 1.6 (2.5)(adjusted difference −1.0, −1.5 to −0.5; P<0.001)。

何れも、重篤な有害事象は報告されていない。

しかし、統計的には有意とは言え、臨床的に意義がある差と言えるものではない。私の臨床経験と比較して、随分と効果が低いように思われる。やはり、治療法に大きな問題があると言いたい。

出典文献
Manual acupuncture versus sham acupuncture and usual care for prophylaxis of episodic migraine without aura: multicentre, randomised clinical trial
Shabei Xu, Lingling Yu, Xiang Luo, et al.,
BMJ 2020; 368 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m697 (Published 25 March 2020)

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