「偽性局在徴候」は責任病変の同定を困難にする [医学一般の話題]

“the false localizing sign ; 偽性局在兆候”は1904年にCollierによって提案された概念。従来より、神経学的兆候から予想される疾患局在と実際の病変部位が遠く離れている症例は知られていたが、その正確な機序は現在でも未解明。

偽性局在兆候は、神経学的検査の基礎となる古典的な臨床解剖学的パラダイムと矛盾しているため、誤診を引き起こす要因となる。これらの患者では、頚椎と腰椎の両方に異常な所見が見られる場合も多く、当初は腰椎の病変として診断され、不必要な外科的処置につながるなど適切な治療の妨げとなる。

実際は頚椎病変でありながら、初発症状として、腰痛、大腿および下腿の疼痛・シビレ、間欠性跛行などが認められた者は約5%に認められ、当初は腰椎疾患として誤診されていたと報告されている(1.)。また、C1-2レベルの頚部脊柱管の神経鞘腫によって右坐骨神経痛様の下肢痛を呈した症例の報告や、C4/5レベルの脊柱管狭窄症、広範の頸椎性脊椎症など(2.3.4.)、いずれの症例も最終的に、頚椎の手術や硬膜外ブロックなどによって症状が軽減している。

胸椎レベルでも、胸椎黄色靱帯骨化症における主訴の26%で背部痛や下肢痛を認めたと報告されている(5.)。

現時点で報告例は少ないものの、見過ごされている症例は少なからず存在するものと予想されることから、実際の頻度はもっと高い可能性がある。今後、神経学的検査によって責任病変を同定する上で、偽性局在徴候の存在を念頭に置くことが重要と思われる。

引用文献
1.
頚椎病変でありながら、腰椎病変と誤診された症例
本多文昭, 花北順哉, 髙橋敏行
脊椎脊髄, 28(3):179-184,2015

2
Sciatica caused by cervical and thoracic spinal cord compression.
Ito T1, Homma T, Uchiyama S.
Spine (Phila Pa 1976). 1999 Jun 15;24(12):1265-7.

3.
Cervical disc herniation causing localized ipsilateral popliteal pain.
Neo M1, Ido K, Sakamoto T, Matsushita M, Nakamura T.
J Orthop Sci. 2002;7(1):147-50.

4.
Cervical cord compression presenting with sciatica-like leg pain.
Chan CK1, Lee HY, Choi WC, Cho JY, Lee SH.
Eur Spine J. 2011 Jul;20 Suppl 2:S217-21. doi: 10.1007/s00586-010-1585-5. Epub 2010 Oct 13.

5.
Clinical analysis and prognositic study of ossified ligamentum flavum of the thoracic spine, J Neurosurg , 91(2uppl) : 231-226, 2001

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