膝OA痛の大半が筋筋膜起源とする報告(TKAsは本当に必要か) [膝OA]

膝OA痛の起源は何かについて、少々考えたい。参考になる文献として、全膝関節形成術( total knee arthroplasty :TKA)の待機中の患者を対象にした調査がある(2012)。膝周囲における活動的なトリガーポイントを検査し、そのトリガーポイントにブピバカインを注射して8週目まで効果を評価したもの。

測定は、タイムアップ・アンド・ゴーテスト(Timed Up and Go test)、短期疼痛インベントリー (Brief Pain Inventory:BPI)、疫学研究センターうつ病スケール、状態 - 形質不安インベントリとShort-Form McGill Painアンケート。

筋筋膜トリガーポイントはすべての参加者で同定され、腓腹筋内側頭部が92%、内側広筋に67%認められた。

ほぼ全ての参加者が、BPI測定において、介入直後の疼痛強度の軽減を報告した。トリガーポイントへの注射後20分で、注射前と比較して疼痛強度は有意に低下した(P <0.001)。疼痛強度は、参加者の92%(22/24)が100mmスケールで20mm以上減少した。

トリガーポイントは、最も一般的には腓腹筋の頭部にあり、介入直後に痛みの急激な減少と機能の改善が観察され、その効果は8週間の調査期間にわたって持続した。

現在、欧米を中心にTKAが増加している。カナダのJoint Replacement Registry 2009 Annual Reportでは、過去10年間に実施されたTKAs数が300%増加し、中でも、45〜54歳までが顕著であったと報告されている(1.)。

膝OA痛は機能と相関しないことや、放射線学的変化が臨床的疼痛と相関しないことも示されている。関節損傷が疼痛強度または障害を予測しないことを考慮すると、多くの患者がTKAを不必要に受けている可能性がある。

膝関節の損傷部位そのものを切除するため、人工膝関節全置換術は究極の治療法と受け止められている。しかし、術後の遺残性疼痛が10~34%に存在すると報告されており、その痛みが術後のリハビリの弊害になっている。これでは手術の意味があるのか疑問と言わざるを得ない。

人工膝関節全置換術後の疼痛管理において、関節内浸潤麻酔と大腿神経ブロックを組み合わせることが術後の疼痛の軽減と早期リハビリを可能にするとする報告もある。それでは逆に、手術以前に未だ方法があるのではないかと思う。

また、最近の研究では、関節鏡手術が中等度膝OA患者に対して治療価値が無いことが実証されている(2.3.)。

本研究では、OA膝痛の患者の痛みの主要原因として、腓腹筋内側頭および内側広筋(大腿四頭筋)が特定されている。階段の昇降時の足関節の底屈および伸展などの運動が、これらの骨格筋を支配する神経系の痛覚過敏によって膝関節領域において感知される痛みを引き起こし、患者がその痛みを関節自体を起源とみなすことは十分に考えられる。また、末梢神経だけではなく、中枢感作がOA膝痛に寄与するという証拠もある(4.5.)。

OA患者が求める臨床サービスは鎮痛である。しかし、従来の鎮痛薬による治療にもかかわらず、OA患者の大半は痛みを経験し続けている。従って、疼痛経路のより深い理解は未だ得られていないと言える。

因みに、私の治療ポイントにも共通する部位がある。しかし、私は、「トリガーメカニズム」ではなく、「Myofascial Neuronal Disorder:筋・筋膜性神経障害」と、勝手に呼称した概念を提唱している。

出典文献
Myofascial pain in patients waitlisted for total knee arthroplasty
Richard Henry, Catherine M Cahill, Gavin Wood, Jennifer Hroch, Rosemary Wilson, et al.,
Pain Res Manag. 2012 Sep-Oct; 17(5): 321–327.

1. Arendt-Nielsen L, Nie H, Laursen MB, et al. Sensitization in patients with painful knee osteoarthritis. Pain. 2010;149:573–81. [PubMed]

2. Hubbard DR., Jr Chronic and recurrent muscle pain: Pathophysiology and treatment, and review of pharmacologic studies. J Musculoskelet Pain. 1996;4:123–43.

3. Kirkley A, Birmingham TB, Litchfield RB, et al. A randomized trial of arthroscopic surgery for osteoarthritis of the knee. N Engl J Med. 2008;359:1097–107. [PubMed]

4. Bajaj P, Bajaj P, Graven-Nielsen T, Arendt-Nielsen L. Osteoarthritis and its association with muscle hyperalgesia: An experimental controlled study. Pain. 2001;93:107–14. [PubMed]

5. Hoheisel U, Unger T, Mense S. Sensitization of rat dorsal horn neurons by NGF-induced subthreshold potentials and low-frequency activation. A study employing intracellular recordings in vivo. Brain Res. 2007;1169:34–43. [PubMed]


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