変形性膝関節症はいつ発症するのか [膝OA]

変形性膝関節症(膝OA)とは何か?。一般的な認識では、慢性の関節炎を伴う関節疾患であり、関節の構成要素の退行変性によって軟骨の破壊と骨・軟骨の増殖性変化をきたし、二次的に関節炎(滑膜炎)を発症する疾患。しかし、明確な定義や診断基準があるわけではない。

発症過程を時系列で知りたいのだが判然としない。文献を探しても、英語力の問題もあってか、それらしい研究がなかなか見つからない。少し前の文献だが、膝OA発症前から、MR画像によって前向きに追跡調査した報告(2015年)について紹介したい。

膝OAを発症していない中年の被験者を対象として、膝内側のMR画像上における、半月板内信号強度の自然経過を6年以上追跡した大規模コホートの縦断的研究。

参加者340名(45〜55歳)中、ベースラインで膝半月板に裂傷が見られた71名を除く、269名を被験者とした。

ベースラインのMR画像において、膝半月板に、線状の、組織学的病期分類システムに対応する等級の信号強度が26%存在した。この半月板内信号強度は経時的には解消されず、半月板裂傷に進行する傾向があった。線維性半月板内信号強度を呈する160膝のうち、48ヵ月間のフォローアップまでに19%(31膝)が同じセグメントで半月板裂傷を発症した。

組織学的には、内側半月板内のシグナル強度は、粘液変性のバンドまたは小胞形成およびコラーゲンバンドの分離の病巣を表し得る (1.2)。

ベースラインにおいて半月板内信号強度を伴わない被験者では、6年間のフォローアップ後に半月板裂傷が発症するのはわずか3%(11膝)であった。同じセグメントに半月板内信号強度が存在した場合には、時間の経過とともに半月板裂傷を発症するハザード比は18倍高くなった。

このように、半月板内シグナルが時間とともに解決する可能性は低く、内側の変性半月板裂傷の危険因子とみなされるべきであり、早期膝OA発症に重要な役割を果たす可能性があると述べられている。

重要なのは、このコホートの、ほとんどの半月板裂傷は、強い膝外傷によって引き起こされたものではなく、その裂傷の大部分は退行性であったことである。

これらの知見から、半月板の裂傷は、典型的には急性外傷事象の結果ではなく、むしろ遅発的な変性過程であるという証拠が提示された。半月板裂傷が発症したほとんどの被験者が、既に、ベースラインで半月板内信号強度を有していたので、変性による裂傷を発生するまでの正確な経緯は不明である。

退行性半月板裂傷は、X線撮影による膝関節症の有無にかかわらず、45歳以上の人に共通する(3.4.)。このような裂傷は、X線撮影に基づく変形性関節症を発症するリスクの増加と高い関連がある(5.6.)。したがって、筆者らは、半月板内信号強度が疾患が放射線学的に明らかになる以前に膝の変性プロセスを示すかもしれないという、仮説を提唱している。

但し、この調査は、半月板内信号強度が将来的に半月板裂傷に進展することを確認したものであり、この傾向を以て、膝OAのリスク要因とは言えない。

日本国内だけで、現在、患者数は1000万人と推定されている。私が病院を退職して開業してから30年以上経つが、膝OAの治療はほとんど変化なく、進歩していない。

出典文献
Natural History of Intrameniscal Signal Intensity on Knee MR Images: Six Years of Data from the Osteoarthritis Initiative
Jaanika Kumm, Frank W. Roemer, Ali Guermazi, Aleksandra Turkiewicz, Martin Englund,
Radiology. January 2016; 278(1): 164–171.
Published online 2015 Jul 14. doi: 10.1148/radiol.2015142905

追伸

以前にも、同様の報告(2015.7.30.:膝OA発症は滑膜炎・半月板損傷が先行する)を紹介している。これは、前述した一般的な認識とは違い、膝OA発症は滑膜炎が先行するとする意見。重複するが、参考までに簡単に述べる。

変形性膝関節症(膝OA)の病態において、その軟骨損傷は症状やリスク増加と関連しないことは以前より指摘されていること。軟骨における病理学的変化は、膝OAにおける開始事象であるとする一般的な概念は、これを支持する証拠は無い。実際、以前にこのブログで紹介した研究でも、初期の病原性プロセスとして半月板損傷、骨髄病変(BMLs)、および滑膜損傷が示唆されている。

この研究では、膝OA発症の48ヶ月前の355膝を対象にした、性別、年齢、および対照膝について1対1のマッチングによるケースコントロール研究で、MRIによる骨髄病変(BMLs)、半月板損傷、滑膜炎の検査結果を、条件付きロジスティック回帰分析によって評価したもの。

滲出性滑膜炎;HR1.81 [95% CI 1.18-2.78])
内側半月板損傷;HR 1.83 (95% CI 1.17-2.89) at P-2予測放射線OA発生率.
At P-1では。
内側 BMLs;HR 6.50(95% CI 2.27-18.62)でリスクは最高の6.5倍
滲出性滑膜炎;HR2.50 (95% CI 1.76-3.54)

膝OAの症状と病態および疾患の進行において、非軟骨性機能の役割を強調する結果となっている。軟骨はOAの痛みの原因になることはほとんどなく、これは、症状と放射線画像との不一致から従来より指摘されていたこと。

Frank W. Roemer1, C. Kent Kwoh, Michael J. Hannon, David J. Hunter, et al.
What Comes First- Multitissue Involvement Leading to Radiographic Osteoarthritis: Magnetic Resonance Imaging-Based Trajectory Analysis Over Four Years in the Osteoarthritis Initiative
American College of Rheumatology, 2015, Volume 67, Issue 8, pages 2085-2096,
Article first published online: 28 JUL 2015 DOI: 10.1002/art.39176

二次引用文献

1.
Stoller DW, , Martin C, , Crues JV, 3rd, , Kaplan L, , Mink JH. Meniscal tears: pathologic correlation with MR imaging. Radiology 1987;163(3):731–735. [PubMed]

2.
Hajek PC, , Gylys-Morin VM, , Baker LL, , Sartoris DJ, , Haghighi P, , Resnick D. The high signal intensity meniscus of the knee: magnetic resonance evaluation and in vivo correlation. Invest Radiol 1987;22(11):883–890. [PubMed]

3.
Guermazi A, , Niu J, , Hayashi D, , et al. . Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study). BMJ 2012;345:e5339. [PMC free article] [PubMed]

4.
Ding C, , Martel-Pelletier J, , Pelletier JP, , et al. . Meniscal tear as an osteoarthritis risk factor in a largely non-osteoarthritic cohort: a cross-sectional study. J Rheumatol 2007;34(4):776–784. [PubMed]

5.
Englund M, , Guermazi A, , Roemer FW, , et al. . Meniscal tear in knees without surgery and the development of radiographic osteoarthritis among middle-aged and elderly persons: The Multicenter Osteoarthritis Study. Arthritis Rheum 2009;60(3):831–839. [PMC free article] [PubMed]

6.
Englund M, , Felson DT, , Guermazi A, , et al. . Risk factors for medial meniscal pathology on knee MRI in older US adults: a multicentre prospective cohort study. Ann Rheum Dis 2011;70(10):1733–1739. [PMC free article] [PubMed]



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