抹消神経刺激による血管内皮細胞活性化で炎症を抑制 [鍼治療を考える]

 知覚神経刺激を介した血管内皮細胞機能の活性化によって、生体防御反応を制御して炎症反応を抑制できることが示されており、これらの報告は、鍼灸治療の更なる可能性を示すものと思われます。 

 生体防御反応の暴走は生体への侵襲反応となって過剰な炎症反応を引き起こします。敗血症はその典型例ですが、炎症には血管内皮細胞障害が関与しています。この血管内皮細胞が機械的刺激(ずり応力;シアストレス)や知覚神経刺激によって活性化されることが報告されています。中でも、知覚神経の刺激による作用は鍼灸治療によって抗炎症効果が期待できることや、作用機序の裏付けとしても重要です。

 従来、鍼灸刺激による免疫細胞増加に関する報告は多いのですが、免疫抑制効果の研究は少ないように思われます。鍼灸における、炎症性疾患や自己免疫疾患の治療を考えますと、抗炎症・抗免疫刺激法の確立は必須であると言えます。

 温痛覚やカプサイシンなどの、バニロイド化合物により刺激されるカプサイシン感受性知覚神経は温痛覚を感受する神経であり、多くの臓器の細動脈周囲、上皮組織直下、心筋や平滑筋細胞などに分布しており、その知覚神経表面にはバニロイド受容体-1(VR-1)が存在します。この受容体は、ブラジキニン、ロイコトリエン、ATP、熱刺激(43℃以上)、pH6未満、およびPGE2などにより、cAMP濃度の上昇によってセリンやスレオニンがリン酸化されて活性化されます。

 知覚神経の刺激により、脊髄後根神経細胞で産生されるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptid: CGRP)が神経末端から分泌されます。CGRPは、強力な血管拡張作用があるため、以前は炎症反応の増悪に寄与すると考えられていました。しかし、プロスタサイクリンやPGE2の産生を促進し、結果的に、NOやプロスタグランジンの作用により白血球の活性化を抑制して生体防御反応を制御すると報告されています。

 インスリン様成長因子-1(insulin-like grows factor-1 : IGF-1)は、細胞分裂を引き起こすインスリン様成長因子群の1つです。IGF-1は多くの細胞に存在し、インスリンの血糖降下作用の6%を有しますが、蛋白質や糖質の生成、細胞死(アポトーシス)の抑制作用、細胞の増殖・分化促進作用などがあります。前述した、CGRPやPGE2は、ラットの骨芽細胞のcAMP濃度を上昇させることで、IGF-1の産生を促進することが報告されています。

 この知見は、鍼灸刺激などの知覚神経刺激によって、CGRPが放出されてIGF-1産生が促進される可能性を示すものです。

 CGRPおよびIGF-1の投与によって、虚血再灌留による肝細胞のアポトーシスを抑制します。知覚神経刺激は血管内皮細胞の活性化を介してIGF-1産生を促進してアポトーシスを抑制することで、臓器障害を軽減できる可能性が示唆されたと言えます。

 ラットにエンドトキシンを投与することで惹起されるTNF産生亢進と敗血症性ショックも、知覚神経刺激で抑制されると報告されています。

 これらの事実は、知覚神経刺激を介した血管内皮細胞の変化によって、生体防御反応を制御して炎症反応を抑制することを意味しており、鍼灸治療の更なる可能性を示すものであり、今後の研究が期待されます。

・Okajima K, Harada N. Regulation of inflammatory responses by sensory neurons - Molecular mecchanism (s)and possible theraputic applications. Curr Med Chem 2006; 13: 2241-52.

・Vignery A. McCarthy TL. The neuropeptidecalcitonine-gene related peptide stimulates insulin-like growth factor 1 production by primary fetal rat osteoblast . Bone 1996 ; 18 : 331-5.

・Okajima K, Isobe H, Uchiba M, Harada N, Role of the sensory neuron in reductio of endotoxin-induced hypotension in rats. Crit Care Med 2005 ; 33: 847-54.

 この他には、マウスにおけるカラギーナン誘発腹膜炎に対して、三陰交穴への置鍼による抗炎症効果が確認され、この効果は副腎を介したIL-10の分泌促進によるものと報告されています。この報告については、後日、改めて紹介する予定です。

・Morgana Duarte da Silva, Giselle Guginski, Maria Fernanda de Paula Werner, et al.
Involvement of Interleukin-10 in the Anti-Inflammatory Effect of Sanyinjiao (SP6) Acupuncture in a Mouse Model of Peritonitis
Evid Based Complement Alternat Med. 2011; 2011: 217946.
Published online 2011 June 5. doi: 10.1093/ecam/neq036

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0