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脊椎圧迫骨折後の不十分な骨癒合では半座位でも脊髄を圧迫する [腰痛関連]

 高齢者における、脊椎骨折後の不十分な骨癒合を有する患者のCTスキャンで、軸荷重(半座位)と同時に、非結合椎体の断片、後方椎体壁と根管突起の崩壊によって脊柱管浸食(spinal canal encroachment , SCE)を引き起こすことが確認されています。

 脊髄造影を用いたCT検査にて、脊椎骨折後の不十分な骨癒合を有する17名の患者(平均年齢77.4±8歳、62~91歳)を調査した前向きradiographicalトライアル。

 腹部CT-脊髄造影によって、半座位と仰臥位の両方で、Kyphotic角度、硬膜の圧縮、骨の断片による占領の比、および後方椎体の高さの比率を比較。

 骨の断片による占領の平均比率は、仰臥位(33.9±10.0%、P 0.001)に比べ半座位(47.9±9.2%)で有意に高かく、同様に、後方椎体の高さの比は半座位で(67.8 ± 10.8%) (P、0.001)、仰臥位(76.3±13.3%)と、半座位で椎体高の有意な損失を示しています。

 硬膜の圧縮率は、半座位(48.6 ± 13.3%)、仰臥位(33.3 ± 16.5%; P, 0.001)で、半座位で有意に潰れていました。

 要約を読んでいますので、骨折後の日数などは不明です。高齢者では、骨粗鬆症が基礎疾患にあるため、若い人の外傷による骨折とは違ってなかなか骨がつきません。いつ骨折したのかさえ不明な場合も少なくありません。骨折当初の処置が適切に行われなかったために、偽関節になるなどして骨癒合がさらに困難になります。

 以前に、某大学教授が考え方を根本的に変えることになった失敗談を書いていました。それは、変形性膝関節症で長い間歩けなかった患者の手術(人工膝関節置換術)後の話です。

 手術も無事終わり、医師は、この患者さんは再び歩けるものと確信していました。数日かけて、ティルトテーブルを使って徐々に起こしていき、その後、平行棒に捕まらせて立たせたそうです。しかしその直後、この老婆は床に崩れるように倒れてしまったそうです。脊椎を圧迫骨折してしまったのです。その後、この患者さんは寝たきりになったそうです。老人のリハビリにおける最終ゴールを、何処に設定するかの難しさがあります。歩くことだけがゴールではないのです。

Hayashi, Tetsuo , Maeda, Takeshi , Ueta, Takayoshi , et al.
Comparison of the Amounts of Canal Encroachment Between Semisitting and Supine Position of Computed Tomography-Myelography for Vertebral Fractures of the Elderly Involving the Posterior Vertebral Wall
Spine: 01 September 2012 - Volume 37 - Issue 19, 1203 - E1208
doi: 10.1097/BRS.0b013e31825e71a4

腰椎終板病変は一般的に存在するとの報告 [腰痛関連]

 腰椎終板病変は腰椎椎間板ヘルニアを引き起こすなど、腰痛の原因として重要ですが、死体解剖による、病変の有病率を調査した研究で45.6%に認められたと報告されています。

 136人(平均年齢、52歳)の死体から、1148椎体終板(L1-S1)の形態的特徴を調査。終板は椎体の上下2枚ありますが、髄核の上側に多くオッズ比odds ratio = 8.0( P < 0.001)でした。また、侵食や石灰化病変は下部腰椎領域で比較的多く見られ、終板病変の所見と年齢には関連性がありました。

 終板は約1mmの厚さの軟骨層で、椎体のring apophysisによって囲まれた部分を覆っており、上下2枚の終板は髄核を覆っています。この終板(椎体の下側)に上からの加重によって骨折が生ずるこで、髄核が免疫細胞に曝されて自己免疫反応を引き起こします。この炎症反応により髄核は劣化し、やがて、髄核が脱出する椎間板ヘルニアを生じることになります。もう1つ、脱出する条件として、線維輪の放射状亀裂の形成があります。

 ついでに言えば、終板は硝子軟骨と線維軟骨の両者からなりますが、通常、硝子軟骨は椎体側に見られ、線維軟骨は髄核側に見られます。高齢者では、終板はほとんどが完全に線維軟骨となってしまいます。これは、線維輪のコラーゲン線維が終板に入り込むことによて形成されます。

Wang, Yue , Videman, Tapio, et al.
Lumbar Vertebral Endplate Lesions: Prevalence, Classification, and Association With Age
Spine: 01 August 2012 - Volume 37 - Issue 17 - p 1432?1439
doi: 10.1097/BRS.0b013e31824dd20a

ベッドレストによる腰椎椎間板の回復は長期的には不利 [腰痛関連]

 「Berlin BedRest Study 2」による60日間のベッドレストを行った、24名の男性被験者について、腰椎椎間板ボリューム、前部および後部ディスクの高さ、ディスクの信号強度、椎間の長さ、前彎(矢状面)をMRIで撮影して測定。デザインは、前向き縦断的研究。

 ベッドレスト前と比較して180日後(N=22)では、ディスクボリュームの増加、ディスクの高さ、および椎間の長さは持続 (P ≦ 0.0004)。しかし、720日後では(N= 21)減少しました(P =0.018)。長期間でみますと、ベッドレストは椎間板に良くないようです。

 長期の安静は、 disuse and reloadingに伴う組織のmodeling や remodeling を理解する上で有用なモデルとなります。

Belavy, Daniel L. BPhty, Armbrecht, Gabriele et al.
Incomplete Recovery of Lumbar Intervertebral Discs 2 Years After 60-Day Bed Rest
Spine: 15 June 2012 - Volume 37 - Issue 14 - p 1245?1251 doi: 10.1097/BRS.0b013e3182354d84

MRI画像への過信 [腰痛関連]

 MRIによる画像診断が、腰背部痛患者のアウトカムを改善しないとする研究報告は、これまでにも示されています。

 この研究では、MRIが腰髄神経根障害患者への硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)使用の意思決定に与える影響を検討しています。

 第1群はMRI結果をブラインド化し、第2群はMRI所見をレビューして治療を決定するように分類した、多施設ランダム化研究。

 1ヶ月後では、下肢痛スコアは2群がやや低下(mean scores, 3.6 vs 4.4 P = .12)しましたが、3ヶ月後は全く差はありませんでした。

 陽性効果比率は3ヶ月時点でほぼ同等程度(第1群 35.4% vs 第2群 40.7% )でした。

 第1群では全ての患者がESIを受け、第2群は6.8%がESIを受けていません。

 著者は、MRIは腰髄症性神経根障害へのステロイド硬膜外投与に影響しないと、結論付けています。

Steven P. Cohen et. al.
Effect of MRI on Treatment Results or Decision Making in Patients With Lumbosacral Radiculopathy Referred for Epidural Steroid Injections
A Multicenter, Randomized Controlled Trial
Arch Intern Med. Published online December 12, 2011. doi:10.1001/archinternmed.2011.593

 今では、MRIやCTなどの画像診断装置の進歩で、ヘルニアの画像もくっきりと映し出されます。この様なものを見せられますと、「黄門様の印籠」の様に、「ハハー、恐れ入りました」と、納得させられます。

 しかしながら、この「ヘルニア」が腰痛の原因かどうかは、実際のところ確証はありません。(こんなことを言って、理解してもらえるでしょうか。)

 MRIの所見が腰・下肢痛の治療に対して大した影響を与えないことは、一般の方(医師も多くは同じ?)にとって以外かも知れません。しかしながら、寧ろ、当然の結果とも言えます。

 その根拠を少し説明します。

 少々古い文献ですが、「The Journal of Bone and Joint Surgery 1990.」に、MRIについての研究が掲載されています。  

 この研究は、過去および現在において、全く「腰・下肢痛および、足のシビレ」などの症状の無い、67名(20-80歳、平均42歳)のボランティアを対象にMRIで検査したものです。

 その結果、ヘルニアが見つかったのは、20-39歳(N=35):21%, 40-59歳(N=18):22%, 60-80歳(N=14):36%でした。また、60-80歳では、57%に異常な所見が発見されています。

 繰り返しますが、全員に、全く腰痛などの訴えはありません。症例数が少ないことに若干問題はありますが、それを差し引いても重要な報告です。

 つまり、60歳以上の方なら、36%に「ヘルニア」は有るということです。しかも無症状です。

 では、腰痛が有り、MRIの検査をしたとします。「ヘルニアが有るぞ!これが腰痛を起こしているのだ!」と、断定できるでしょうか。見つかったヘルニアそのものは、症状とは全くの無関係の可能性もあり得ます。

 これと同じ様な経験を、病院勤務時代に見ました。CTの画像では、脊椎管が全て真っ白で何らかの骨性病変で埋め尽くされている筈なのに、神経麻痺などの異常が認められない患者さんでした。

 画像はあくまでも画像であって、それ以上のことが分かる訳ではありません。これは、私の臨床経験からも言えることです。

 その患者さんは、腰椎椎間板ヘルニアと思われる症状が有り、急速に下肢の麻痺が進行していたため、病院を紹介しました。この方は手術を勧められ、直ぐに入院する様言われました。しかし、本人は手術を望まず、MRIのコピーを持参して再び来院し、私の治療を希望しました。横から見たMRI画像では、L4/5で大きくヘルニアによって脊髄(正確には脊髄はL1/2まで)が圧迫され、他にも2カ所で軽度に圧迫されていました。

 しかし、数回の治療で腰痛は軽減し、2週間ほどで、足関節の背屈も回復して足先が持ち上がる様になりました。

 通常、麻痺が急速に進行して、膀胱直腸障害が現れる様な場合でない限り、腰椎椎間板ヘルニア手術の緊急的な適応性は有りません(マクロファージによって貪食されて消失するケースなど)。

 さらに、この方のように、足の麻痺が短期間に生じ、尚かつ、MRIの画像でもはっきりとヘルニアが見つかっても症状が改善する事実から、その病状の本体がヘルニアそのものにあるのではないことは明白です。

これらの事実は、MRI検査を過信し過ぎることへの警鐘と言えます。また同時に、実際には分からないことの方が多いことを認めて謙虚であるべきことを示唆しています。

追伸(2017.8.24.)
画像診断は進歩しており、MR spectroscopy.T2 mapping . T1ρ mappingなどでは、椎間板性腰痛との相関が認められています。椎間板の組成を計測できることや、有痛性の椎間板ではproteoglycan, collagen, lactateの比率が有意に異なるため、腰痛のバイオマーカーとなる可能性もあります。

引用文献
Scott D. Boden, M.D. et al.
Abnormal Magnetic-Resonance Scans of the Lumbar Spine in Asyptomatic Subjects.
The Journal of Bone and Joint Surgery, 1990, VOL, 72-A, NO.3, MARCH:403-408.
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