MRI画像への過信 [腰痛関連]
MRIによる画像診断が、腰背部痛患者のアウトカムを改善しないとする研究報告は、これまでにも示されています。
この研究では、MRIが腰髄神経根障害患者への硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)使用の意思決定に与える影響を検討しています。
第1群はMRI結果をブラインド化し、第2群はMRI所見をレビューして治療を決定するように分類した、多施設ランダム化研究。
1ヶ月後では、下肢痛スコアは2群がやや低下(mean scores, 3.6 vs 4.4 P = .12)しましたが、3ヶ月後は全く差はありませんでした。
陽性効果比率は3ヶ月時点でほぼ同等程度(第1群 35.4% vs 第2群 40.7% )でした。
第1群では全ての患者がESIを受け、第2群は6.8%がESIを受けていません。
著者は、MRIは腰髄症性神経根障害へのステロイド硬膜外投与に影響しないと、結論付けています。
Steven P. Cohen et. al.
Effect of MRI on Treatment Results or Decision Making in Patients With Lumbosacral Radiculopathy Referred for Epidural Steroid Injections
A Multicenter, Randomized Controlled Trial
Arch Intern Med. Published online December 12, 2011. doi:10.1001/archinternmed.2011.593
今では、MRIやCTなどの画像診断装置の進歩で、ヘルニアの画像もくっきりと映し出されます。この様なものを見せられますと、「黄門様の印籠」の様に、「ハハー、恐れ入りました」と、納得させられます。
しかしながら、この「ヘルニア」が腰痛の原因かどうかは、実際のところ確証はありません。(こんなことを言って、理解してもらえるでしょうか。)
MRIの所見が腰・下肢痛の治療に対して大した影響を与えないことは、一般の方(医師も多くは同じ?)にとって以外かも知れません。しかしながら、寧ろ、当然の結果とも言えます。
その根拠を少し説明します。
少々古い文献ですが、「The Journal of Bone and Joint Surgery 1990.」に、MRIについての研究が掲載されています。
この研究は、過去および現在において、全く「腰・下肢痛および、足のシビレ」などの症状の無い、67名(20-80歳、平均42歳)のボランティアを対象にMRIで検査したものです。
その結果、ヘルニアが見つかったのは、20-39歳(N=35):21%, 40-59歳(N=18):22%, 60-80歳(N=14):36%でした。また、60-80歳では、57%に異常な所見が発見されています。
繰り返しますが、全員に、全く腰痛などの訴えはありません。症例数が少ないことに若干問題はありますが、それを差し引いても重要な報告です。
つまり、60歳以上の方なら、36%に「ヘルニア」は有るということです。しかも無症状です。
では、腰痛が有り、MRIの検査をしたとします。「ヘルニアが有るぞ!これが腰痛を起こしているのだ!」と、断定できるでしょうか。見つかったヘルニアそのものは、症状とは全くの無関係の可能性もあり得ます。
これと同じ様な経験を、病院勤務時代に見ました。CTの画像では、脊椎管が全て真っ白で何らかの骨性病変で埋め尽くされている筈なのに、神経麻痺などの異常が認められない患者さんでした。
画像はあくまでも画像であって、それ以上のことが分かる訳ではありません。これは、私の臨床経験からも言えることです。
その患者さんは、腰椎椎間板ヘルニアと思われる症状が有り、急速に下肢の麻痺が進行していたため、病院を紹介しました。この方は手術を勧められ、直ぐに入院する様言われました。しかし、本人は手術を望まず、MRIのコピーを持参して再び来院し、私の治療を希望しました。横から見たMRI画像では、L4/5で大きくヘルニアによって脊髄(正確には脊髄はL1/2まで)が圧迫され、他にも2カ所で軽度に圧迫されていました。
しかし、数回の治療で腰痛は軽減し、2週間ほどで、足関節の背屈も回復して足先が持ち上がる様になりました。
通常、麻痺が急速に進行して、膀胱直腸障害が現れる様な場合でない限り、腰椎椎間板ヘルニア手術の緊急的な適応性は有りません(マクロファージによって貪食されて消失するケースなど)。
さらに、この方のように、足の麻痺が短期間に生じ、尚かつ、MRIの画像でもはっきりとヘルニアが見つかっても症状が改善する事実から、その病状の本体がヘルニアそのものにあるのではないことは明白です。
これらの事実は、MRI検査を過信し過ぎることへの警鐘と言えます。また同時に、実際には分からないことの方が多いことを認めて謙虚であるべきことを示唆しています。
追伸(2017.8.24.)
画像診断は進歩しており、MR spectroscopy.T2 mapping . T1ρ mappingなどでは、椎間板性腰痛との相関が認められています。椎間板の組成を計測できることや、有痛性の椎間板ではproteoglycan, collagen, lactateの比率が有意に異なるため、腰痛のバイオマーカーとなる可能性もあります。
引用文献
Scott D. Boden, M.D. et al.
Abnormal Magnetic-Resonance Scans of the Lumbar Spine in Asyptomatic Subjects.
The Journal of Bone and Joint Surgery, 1990, VOL, 72-A, NO.3, MARCH:403-408.
この研究では、MRIが腰髄神経根障害患者への硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)使用の意思決定に与える影響を検討しています。
第1群はMRI結果をブラインド化し、第2群はMRI所見をレビューして治療を決定するように分類した、多施設ランダム化研究。
1ヶ月後では、下肢痛スコアは2群がやや低下(mean scores, 3.6 vs 4.4 P = .12)しましたが、3ヶ月後は全く差はありませんでした。
陽性効果比率は3ヶ月時点でほぼ同等程度(第1群 35.4% vs 第2群 40.7% )でした。
第1群では全ての患者がESIを受け、第2群は6.8%がESIを受けていません。
著者は、MRIは腰髄症性神経根障害へのステロイド硬膜外投与に影響しないと、結論付けています。
Steven P. Cohen et. al.
Effect of MRI on Treatment Results or Decision Making in Patients With Lumbosacral Radiculopathy Referred for Epidural Steroid Injections
A Multicenter, Randomized Controlled Trial
Arch Intern Med. Published online December 12, 2011. doi:10.1001/archinternmed.2011.593
今では、MRIやCTなどの画像診断装置の進歩で、ヘルニアの画像もくっきりと映し出されます。この様なものを見せられますと、「黄門様の印籠」の様に、「ハハー、恐れ入りました」と、納得させられます。
しかしながら、この「ヘルニア」が腰痛の原因かどうかは、実際のところ確証はありません。(こんなことを言って、理解してもらえるでしょうか。)
MRIの所見が腰・下肢痛の治療に対して大した影響を与えないことは、一般の方(医師も多くは同じ?)にとって以外かも知れません。しかしながら、寧ろ、当然の結果とも言えます。
その根拠を少し説明します。
少々古い文献ですが、「The Journal of Bone and Joint Surgery 1990.」に、MRIについての研究が掲載されています。
この研究は、過去および現在において、全く「腰・下肢痛および、足のシビレ」などの症状の無い、67名(20-80歳、平均42歳)のボランティアを対象にMRIで検査したものです。
その結果、ヘルニアが見つかったのは、20-39歳(N=35):21%, 40-59歳(N=18):22%, 60-80歳(N=14):36%でした。また、60-80歳では、57%に異常な所見が発見されています。
繰り返しますが、全員に、全く腰痛などの訴えはありません。症例数が少ないことに若干問題はありますが、それを差し引いても重要な報告です。
つまり、60歳以上の方なら、36%に「ヘルニア」は有るということです。しかも無症状です。
では、腰痛が有り、MRIの検査をしたとします。「ヘルニアが有るぞ!これが腰痛を起こしているのだ!」と、断定できるでしょうか。見つかったヘルニアそのものは、症状とは全くの無関係の可能性もあり得ます。
これと同じ様な経験を、病院勤務時代に見ました。CTの画像では、脊椎管が全て真っ白で何らかの骨性病変で埋め尽くされている筈なのに、神経麻痺などの異常が認められない患者さんでした。
画像はあくまでも画像であって、それ以上のことが分かる訳ではありません。これは、私の臨床経験からも言えることです。
その患者さんは、腰椎椎間板ヘルニアと思われる症状が有り、急速に下肢の麻痺が進行していたため、病院を紹介しました。この方は手術を勧められ、直ぐに入院する様言われました。しかし、本人は手術を望まず、MRIのコピーを持参して再び来院し、私の治療を希望しました。横から見たMRI画像では、L4/5で大きくヘルニアによって脊髄(正確には脊髄はL1/2まで)が圧迫され、他にも2カ所で軽度に圧迫されていました。
しかし、数回の治療で腰痛は軽減し、2週間ほどで、足関節の背屈も回復して足先が持ち上がる様になりました。
通常、麻痺が急速に進行して、膀胱直腸障害が現れる様な場合でない限り、腰椎椎間板ヘルニア手術の緊急的な適応性は有りません(マクロファージによって貪食されて消失するケースなど)。
さらに、この方のように、足の麻痺が短期間に生じ、尚かつ、MRIの画像でもはっきりとヘルニアが見つかっても症状が改善する事実から、その病状の本体がヘルニアそのものにあるのではないことは明白です。
これらの事実は、MRI検査を過信し過ぎることへの警鐘と言えます。また同時に、実際には分からないことの方が多いことを認めて謙虚であるべきことを示唆しています。
追伸(2017.8.24.)
画像診断は進歩しており、MR spectroscopy.T2 mapping . T1ρ mappingなどでは、椎間板性腰痛との相関が認められています。椎間板の組成を計測できることや、有痛性の椎間板ではproteoglycan, collagen, lactateの比率が有意に異なるため、腰痛のバイオマーカーとなる可能性もあります。
引用文献
Scott D. Boden, M.D. et al.
Abnormal Magnetic-Resonance Scans of the Lumbar Spine in Asyptomatic Subjects.
The Journal of Bone and Joint Surgery, 1990, VOL, 72-A, NO.3, MARCH:403-408.
2011-12-13 13:51
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0