慢性疼痛に対する抗うつ薬の有効性は示されなかった [医学一般の話題]

慢性疼痛状態に対する抗うつ薬の有効性、安全性、および忍容性に関する研究26件(156 件の独自の試験と 25,000 人を超える参加者を含む)におけるシステマティックレビューの結果、有効性に関する確実性の高いエビデンスを示したものはなかった。

4種の疼痛において、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の有効性を示す確実性が「中」のエビデンスが確認された

研究グループは、病態別の疼痛に対する抗うつ薬の有効性、安全性、忍容性に関する包括的な概要を提示する目的で、系統的レビューのデータを統合して要約。

成人の疼痛について、抗うつ薬とプラシーボを比較した系統的レビューを対象として、PubMed、Embase、PsycINFO、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどのデータベースを基に(創設から2022年6月20日までに登録された文献)検索した。

主要アウトカムは疼痛。疼痛の連続アウトカムは、0(痛みなし)~100(最悪の痛み)の尺度に変換され、平均差(95%信頼区間[CI])を求めた。2値アウトカムはリスク比が提示され、副次アウトカムは安全性と忍容性(有害事象による投与中止)であった。

得られた結果を、「有効」「有効でない」「結論に至らない」に分類した。エビデンスの確実性は、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)によって、推奨評価、発達、およびフレームワークの等級付けで評価した。

9件のレビューで、11の比較において、9種の疼痛に対していくつかの抗うつ薬がプラセボと比較して「有効」とのエビデンスが示された。その多くはSNRIの有効性を示すもので、6件のレビューで7種の疼痛に有効であった。

このうち確実性が「中」のエビデンスが得られたのは、いずれもSNRIの有効性が示されたのは、背部痛(平均差:-5.3、95%CI:-7.3~-3.3)、術後疼痛(多くが整形外科手術)(-7.3、-12.9~-1.7)、神経障害性疼痛(-6.8、-8.7~-4.8)、線維筋痛症(リスク比:1.4、95%CI:1.3~1.6)であった。

安全性および忍容性のデータのほとんどは不明確だった。SNRIは、化学療法による疼痛、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症の患者において有害事象のリスクを増加させたが、術後疼痛や緊張型頭痛ではそのようなことはなかった。

また、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症、機能性ディスペプシア、神経障害性疼痛、線維筋痛症のレビューでは、SNRIはプラセボより忍容性が低かった。

このシステマティックレビューの目的は、抗うつ薬の有効性について、疼痛状態のタイプの不均一性を考慮して各状態の有効性推定値を個別に評価することであった。

著者は、「これらの知見は、痛みに対して抗うつ薬を処方する際には、より微妙なアプローチが必要であることを示唆している」と述べている。

慢性疼痛は一般的で衰弱性があり、世界で約 5 人に 1 人が罹患しているとされている(?)。最も一般的には、腰痛などの筋骨格疾患であり、頭痛、口腔顔面痛、および内臓痛 (例: 腹部、骨盤、または性器)などがある。2021年の、国立衛生研究所による慢性原発性疼痛ガイドラインでは、抗うつ薬を除き、鎮痛剤の使用を明示的に推奨していない。

慢性疼痛は治療が困難であり、たとえば、最も一般的な非オピオイド薬治療であるパラセタモール (アセトアミノフェン) の有効性は不明です。非ステロイド性抗炎症薬は、有効性に対して、長期間使用した場合には深刻な有害事象が発生するリスクが高い。

このレビューの結果を見ても、抗うつ薬に明確な効果が認められなかった事実から、慢性疼痛の原因にうつ傾向が関与するという考えは否定されるべきだ。慢性疼痛を訴えている患者の脳における変化を理由として、脳に原因を求める拙速な考えには疑問を持つ。脳が信号を受けて痛み感覚が生まれ、それが長引けば何らかの変化も起きるだろう。しかし、そのことを持って、脳に原因があるとするのは本末転倒である。私には、原因を突き止められない故のごまかしに見える。真摯に原因を追及すべきであると言いたい。 

出典文献
Efficacy, safety, and tolerability of antidepressants for pain in adults: overview of systematic reviews
Giovanni E Ferreira, Christina Abdel-Shaheed, Martin Underwood, et al.
BMJ 2023; 380 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-072415 (Published 01 February 2023)