健康な高齢者の高HDL- C レベルは骨折リスクを増加させる [善玉・悪玉概念の否定]

一般的に善玉コレステロールと言われている、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL- C)ですが、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが報告されています。

HDL-Cレベルの上昇は骨粗鬆症と関連しています。 前臨床研究では、HDL-C が骨芽細胞の数と機能を低下させることによって骨密度を低下させることが報告されています。但し、これらの調査結果の臨床的意義は不明です。

このコホート研究は、Aspirin in Reduceing Events in the Elderly (ASPREE) 臨床試験および ASPREE-Fracture サブスタディからのデータの事後分析。

ASPREEは、アスピリンの二重盲検無作為化プラシーボ対照一次予防試験。参加者は、2010 年から 2014年までに募集。参加者は、明らかな心血管疾患、認知症、身体障害、および生命を制限する慢性疾患のないコミュニティベースの高齢者(70歳以上のオーストラリア人16703人、65歳以上の米国参加者2411人)で構成。 ASPREE-Fracture サブスタディでは、オーストラリアの参加者から無作為化後に報告された骨折に関するデータを収集し、Cox 回帰分析によってハザード比 (HR)を計算。この研究のデータ分析は、2022 年 4 月から 8 月にかけて実施。

ベースラインで血漿 HDL-C 測定を行った 16262 人の参加者 (8945 人の女性参加者 [55%] および 7319 人の男性 [45%]) のうち、1659 人が4.0 年 (0.02 ~ 7.0 年) の中央値 (IQR) で少なくとも 1 回の骨折を経験。完全に調整されたモデルでは、HDL-C レベルが 1 SD 増加するごとに、骨折のリスクが 14% 増加(HR, 1.14; 95% CI, 1.08-1.20)。HDL-C レベルをカテゴリ別に分析すると、最も高い五分位の個人は骨折のリスクが 33% 増加。

これらの分析が性別で層別化された場合、結果は同様のままでした。 感度分析と層別分析は、(1) 最小限の外傷骨折、(2) 骨粗鬆症薬を非服用者、(3) 非喫煙者、非飲酒者を含むように分析した場合にもこれらの関連性が持続した。(4) 1 日 30 分未満外の歩行、中等度ないし激しい身体活動に参加していないと報告し、(5) スタチンの使用者では、HDL-C レベルと骨折の間に関連性は観察されなかった。

結論として、高レベルの HDL-C が骨折リスクの増加と関連することが示唆された。

今回の調査結果は、高 HDL-C レベルに関する別の潜在的な懸念と、血漿 HDL-C レベルを大幅に上昇させる薬物による副作用の可能性を浮き彫りにしていると、著者らは記しています。


これらの所見の病態生理学的説明を決定するには、さらなる研究が必要ですが、最近のいくつかの研究でも、高レベルHDLコレステロールの有害性が報告されています(引用文献)。

HDL-Cが原因特異的心疾患(CVD)死亡率に及ぼす影響を調べた研究の結果、高レベルでは、冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と有意に関連しました。

研究は、40-89歳の43,407人の参加者を対象とする、9つの日本人コホートの分析。参加者をHDL-Cレベルで5群に分類。最高レベルをHDL-C≥2.33mmol/ L以上(≧ 90mg / dL)とし、コホート層別Cox比例ハザードモデルによって、全死因死亡および原因別死亡を1.04~1.55mmol/L(40~59mg/dL)の群と比較して、各群の調整ハザード比を推定。

アテローム性CVDによる死亡リスクのハザード比は2.37(hazard ratio = 2.37, 95% confidence interval: 1.37-4.09 for total)で、2.37倍。

12.1年の追跡期間中に、全死因死亡が4,995人、CVDによる死亡が1,280人確認されています。

Association of extremely high levels of high-density lipoprotein cholesterol with cardiovascular mortality in a pooled analysis of 9 cohort studies including 43,407 individuals: The EPOCH-JAPAN study.
Aya Hirata, Daisuke Sugiyama, Makoto Watanabe, Akiko Tamakoshi, et al.,
Journal of clinical lipidology. 2018 Feb 08; pii: S1933-2874(18)30034-5.

ホルモンの変化、特にエストラジオールの減少は、更年期移行(MT)中のHDLの質を潜在的に損なう可能性のある危険因子の蓄積に影響する。女性が閉経期に移行するにつれて、HDL-Cレベルの上昇は独立してより大きな頸動脈内膜厚(cIMT)進行と関連することが報告されており、期待される心臓保護効果を示さない可能性があります。

ncrease HDL-C Level over The Menopausal Transition is Associated with Greater Atherosclerotic Progression
Samar R. El Khoudary, Lin Wang, Ms,a Maria M. Brooks, Rebecca C. Thurston, et al.,
J Clin Lipidol. 2016 Jul-Aug; 10(4): 962–969.
Published online 2016 Apr 26. doi: 10.1016/j.jacl.2016.04.008

また、高HDL-Cレベルが、進行性腎機能障害を有するループス腎炎(Lupus nephritis、LN)患者において、末期腎疾患(ESRD)リスクの増加と関連していることも報告されています。同時に、低HDL-CレベルもLN患者の全死因死亡のリスク増加と関連しました。

Effect of low and high HDL-C levels on the prognosis of lupus nephritis patients: a prospective cohort study
Peiran Yin, Ying Zhou, Bin Li, Lingyao Hong, et al.,
Lipids Health Dis. 2017; 16: 232.
Published online 2017 Dec 6. doi: 10.1186/s12944-017-0622-3

この他にも、老年性痴呆症の人はHDLコレステロールが高く、乳癌のリスクも高い。

「悪玉・善玉コレステロール」という、単純な分類には意味がなく、認識を改める必要がある(尚、上記引用文献は当ブログで紹介)。

出典文献
Association of Plasma High-Density Lipoprotein Cholesterol Level With Risk of Fractures in Healthy Older Adults,
Sultana Monira Hussain et al,
JAMA Cardiology (2023). DOI: 10.1001/jamacardio.2022.5124