雷雨によって急性呼吸器患者の救急搬送と院内心停止の発生率が増加した [環境問題]

雷雨喘息(thunderstorm asthma)は希な症状で、日本ではほとんど聞かれないが、花粉のようなアレルゲンと雷雨が重なるとハイリスクの人々に重症の喘息などを起こすことが海外では報告されている。

オーストラリアのビクトリア州メルボルン市周辺では、発生した雷雨(2016年11月21日)によって雷雨喘息が多発する緊急事態に遭遇した。今回の患者数は非常に多く、約1万3000人が医療機関を受診し、その内の3000人以上が呼吸器症状を訴えていた。

午後6時から深夜までの救急要請は予想の2.5倍、急性呼吸器疾患のための救急医療出勤が432%増加し、病院への緊急輸送は17%増加。院内心停止の発生率は 82%(67% ~ 99%)増加し、病院前死者は 41%(29% ~ 55%) 増加したと報告されている。

雨によって穀物が膨張して破裂し、細かい呼吸粒子となって細気管支まで侵入してアレルゲンとなり喘息発作を誘発すると考えられているが、検証されているわけではない。

気象因子として、気温、湿度、気圧などと喘息患者の症状との関連性を調べた研究は数多い。気象因子の絶対値と他の環境因子(大気汚染浮遊粒子濃度など)と喘息の相関関係を重回帰分析によって調べている文献が多いが、結果は相反する内容となっている。例えば、気温については相反する結果が得られており、他の気象因子についても明確な関連性は認められていない。一方、NOx,SO2,黒煙などの大気汚染浮遊物や,花粉などのアレルゲンが喘息の悪化と関連しているとする報告はある。イギリスでは、落雷によって、救急処置を要する喘息患者が多発したという報告が多く見られる。この要因として、雷が発生する時の気象条件が草花粉の地上付近での濃度を上げていることが一因と考えられている。

しかし。

個人的には、雷の空中放電によって生じた、窒素酸化物による気道への直接的な作用が大きいのではないかと推測するのだが、この文献ではそのような指摘は記されていない。

雷による空中放電のエネルギーで、大気中の窒素が酸素と反応して二酸化窒素などの窒素酸化物が生成され、さらに酸素によって硝酸へと酸化される。

大気中の亜硝酸による生体影響は懸念されているものの報告例は少なく、規制の対象とはなっていない。一方、二酸化窒素は、疫学調査で喘息に影響するとされ、1970年代に規制されている(但し、二酸化窒素測定法では亜硝酸も二酸化窒素として測定されるため、疫学調査による喘息影響が二酸化窒素と亜硝酸のどちらに起因するものかは不明。)

窒素は大気の約78.08%を占めるが、非常に安定しているためそのままでは利用できない。地球生態系では、不活性の窒素ガスを反応性の高い窒素化合物に変換するプロセスが2つがある。その1つは、マメ科植物の根粒菌による窒素固定で、年間1.8億トン。もう1つは、雷の放電による窒素固定で、年間0.4億トンと言われている。

発作の予防として。

喘息予防薬を服用している患者では11月21日の喘息発作の増加は21.3%であったのに対し、拡張剤のみを服用した患者では103.1%増加した。また、単独服用患者の緊急医療サービスの累積需要(incident rate ratio 9.39) は、喘息予防薬を服用している患者(incident rate ratio 1.68)の5倍以上であった。日頃の、抗炎症治療が重要となる。

出典文献
Stormy weather: a retrospective analysis of demand for emergency medical services during epidemic thunderstorm asthma
Emily Andrew, Ziad Nehme, Stephen Bernard, et .al.,
BMJ 2017; 359 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j5636 (Published 13 December 2017)
Cite this as: BMJ 2017;359:j5636

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