高血圧における代謝異常と鍼治療効果 [鍼治療を考える]

高血圧症は代謝異常を伴う疾患であると言われており、血漿オレイン酸(OA)およびミオイノシトール(MI)は潜在的な高血圧バイオマーカーであり、鍼治療によって降圧効果とともにこれらの数値が改善したと報告されている(Mingxiao Yang, et al.,2016)。

高血圧患者と健康な被験者の血漿より、47種の化合物について、MRM-MS(Multiple Reaction Monitoring-Mass Spectrometry)を使用して検出し、バイオマーカーを調査。さらに、鍼治療による降圧効果と、そのバイオマーカーの変化を調査。

47種の代謝産物または化合物
L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-(+)- 乳酸、L-バリン、L-ロイシン、L-プロリン、ベタイン、パルミチン酸、ステアリン酸、グリシン、(±)オレイン酸、エイコサン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ガラクトース、スクロース、ソルビトール、ミオイノシトール、フルクトース、セロビオース、尿素、イソロイシン、β-シトステロール、β-シトステロール、L-トリプトファン、アラニン、クエン酸、アゼライン酸、アスパラギン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、ピメリン酸、L-セリン、ヒポキサンチン、D-ホモセリン、尿酸、トリメチラルアミンオキシド、ペンタン二酸、アラントイン、リノール酸、シトルリン、オキサロ酢酸およびソルボースα-ケトグルタル酸。

鍼治療の主穴は、太衝(Taichong-LR3)と人迎(Renying-ST9)。その他任意の経穴として、太谿(Taixi-KI3)、内関(Neiguan-PC6)、足三里(Zusanli-ST36)、曲池(Quchi-LI11)。30分間の治療を週3回、6週間行っている。

鍼治療は、血圧を24時間低下させて概日リズムを改善し、OAおよびMIの異常を正常化させた。鍼治療後、ALT、BUNのレベルは有意に低下した(P <0.05)。他のパラメータに関しては、鍼治療前と鍼後の比較で有意差は認められなかった。

鍼治療によって、血圧のリズムのMensor、Amplitude、およびAcrophaseが変化。BPリズムのmensor±SE(標準誤差)は、145.61±0.95mmHg(収縮期)および84.86±0.65mmHg(拡張期)から138.50±1.03mmHgおよび82.10±0.62mmHgに有意に低下した。

但し、ベースラインから治療後24時間の血圧の推定変化の95%CIは、10mmHg以下であった(SBP前対後:SBP:2.41〜6.63mmHg; DBP:0.85〜3.87mmHg)。

現時点で、これらの代謝物が鍼治療の抗圧効果にどのように関与しているかは不明。鍼治療の血糖降下作用については遊離脂肪酸(FFA)の減少に起因すると示唆されている(1.2)。また、鍼治療が非アルコール性脂肪肝疾患のラットのFFAを減少させ、それによって脂質生成と肝脂肪蓄積を減少させることが示されている(3.)。したがって、FFA代謝の調節は、鍼治療の高血圧治療効果の重要な要因として推測される。

軽度の大脳動脈閉塞において、鍼治療はアンジオテンシンIIの発現増加を抑制し、その受容体媒介ホスファチジルイノシトールシグナル経路に影響を与える。結果的に、血管収縮を減少させて虚血領域への血液供給を改善する。

イノシトール3リン酸シグナル伝達経路は、鍼治療の調節効果に関わる主要な細胞内メッセンジャー分子経路の1つであり、鍼治療の血圧におよぼす重要な効果である。

治療穴として、別の報告を見ると。
自発的高血圧ラット (SHR) モデルに対する、血圧 (BP) および尿代謝産物への手技鍼 (MA) の効果を調査した研究報告がある。人迎(ST9)への刺鍼のみで、α-ケトグルタル酸、N-アセチルグルタミン酸、およびベタインを含む尿代謝産物が増加し、収縮期および拡張期血圧, 平均動脈圧と心拍数が鍼治療後に有意に減少した(4.)。

出典文献
A Targeted Metabolomics MRM-MS Study on Identifying Potential Hypertension Biomarkers in Human Plasma and Evaluating Acupuncture Effects
Mingxiao Yang, Zheng Yu, Shufang Deng, Xiaomin Chen, Liang Chen, et al.,
Sci Rep. 2016; 6: 25871.
Published online 2016 May 16. doi: 10.1038/srep25871

1.
Hypoglycemic effects and mechanisms of electroacupuncture on insulin resistance. Yin, J. et al.Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 307, R332–R339 (2014).

2.
Electroacupuncture improves glucose tolerance through cholinergic nerve and nitric oxide synthase effects in rats. Lin, R. T. et al.,Neurosci. Lett. 494, 114–118, 10.1016/j.neulet.2011.02.071 (2011).

3.
Impact of electro-acupuncture on lipid metalolism in rats with non-alcoholic fatty liver disease. Zhu, L. L., Wei, W. M., Zeng, Z. H. & Zhuo, L. S. Sichuan Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 43, 847–850 (2012).

4.
Effects of acupuncture on the urinary metabolome of spontaneously hypertensive rats. Ying Wang, Yang Li, Liang Zhou, Lin Guo, http://dx.doi.org/10.1136/acupmed-2016-011170

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