地上レベルオゾンへの長期的暴露がCOPD、および糖尿病の死亡リスク増加に関連する [環境問題]

「地上レベルオゾンへの長期的暴露が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および糖尿病の死亡リスク増加に関連する」との、大規模な前向き研究によって報告されています。この記事は、一時ブログを休止していた時期に見つけた(MEDPAGE TODAY)ものを紹介したものです。

地上レベルオゾン濃度の増加や、ヒトおよびマウスを含めた動物への曝露実験によって、心疾患や呼吸器機能の低下と疾患の増悪を報告した研究報告は、以前に私が「PubMed C.」で検索した範囲でも300件以上が存在しました。しかし、オゾンとCOPDを直接関連づけて調査した研究は皆無でした。

私は、これらの中から適切な数値が示された30件ほどの文献について、「オゾン濃度×曝露時間を曝露量」とし、これらのデータを統合して呼吸機能の低下や死亡率との相関を解析しました。また、環境庁の地上レベルオゾン濃度の推移、タバコの喫煙率と消費量の推移、およびCOPDの死亡数の推移を解析しました。その結果、COPDの発症、増悪、および死亡数の増加因子はタバコ煙ではなく、地上レベルオゾンが最も関与していることを主張しました。

誤解の無いように念のため説明しますが、これは成層圏における「オゾンホール」の話ではありません。天空におけるオゾンの効用とは違い、対流圏それも地上レベルのオゾンは大気汚染物質です。私の、修士論文の担当教授も、オゾンは体に良いとの誤った昔の認識を持っておられたためなかなか納得はしてもらえませんでしたが。

以前より欧米では、地上レベルオゾン濃度の上昇による健康被害の拡大や、植物への影響による穀物生産量の低下が大きな問題になっていました。しかし、数年前、アメリカ大統領は、工業生産に影響するとして、規制値の変更を拒否しました。日本ではオゾンの悪影響が話題になることはほとんどありません。例えば、電気溶接の技師などは、放電によって発生するオゾンに曝露されており、長年の作業によって健康被害を受けることが危惧されます。

また、室内の空気を浄化するとのふれこみで売られている、オゾン発生器は危険です。それを、こともあろうことか、病院で患者がいる病室内で使用しているケースが多々見受けられます。室内でこれらのオゾン発生器を使用した場合には、現在の基準値さへ超える濃度になることが消費者センターの実験結果によって示されています。さらに言えば、我が国の労働衛生的許容濃度における0.1ppm未満では人体への影響は無いとする意見も間違いです。

念のため、オゾンは酸素が3つついた物質であり、反応後は酸素になるので殺菌剤としても安全なものです。但し、酸化力が強いため、直接吸い込みますと危険です。

曝露によって直接死亡するような濃度では特有の臭気があるため、危険は回避されること、また、過去に死亡事故も無いことから問題は無いと国は主張するのですが、臭いを検知できないごく低い濃度でも健康被害をおよぼすのです。

タバコの煙とは違い、低濃度の環境中オゾンを感覚的に認識して回避することは不可能なのです。健康な人でも知らぬ間に影響を受けており、喘息などの疾患がある患者ではその数倍の影響を受けます。

僅かずつの呼吸器機能の低下は、ほとんど認識できませんが、知らぬ間に被害を受けているのです。現時点でその汚染源の中心は中国ですが、国内においても発生していますが、経済が優先され国民の健康は等閑にされています。

この医療ニュースのタイトルと、元の文献を下に記しましたので、ご確認ください。

MEDPAGE TODAY
Data Suggest Increased Death Risk from Ground-Level Ozone Exposure
-Mortality from COPD and diabetes tied to air pollution

元文献
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Dec 17. [Epub ahead of print]
Long-Term Ozone Exposure and Mortality in a Large Prospective Study.
Turner MC, Jerrett M, Pope Iii CA, Krewski D, Gapstur , et al.,