ミトコンドリア鉄キレート剤はマウスのCOPDを改善する [医学一般の話題]

鉄をサプリメントや輸血によって多量に摂取しますと、鉄には積極的な排出機構が存在しないため、二価鉄(Fe2+)が過剰に蓄積されます。Fe2+はその高い反応性によって、種々の酵素の活性中心として機能しているため、鉄は生物にとって必須の金属となっています。

しかし一方、その反応性によってフリーラジカルの産生を促進して細胞を傷害します。その結果、多くの臓器の疾患発症や増悪に関与します(以前にこのブログでも紹介)。

この著者らは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の感受性遺伝子としての鉄応答性エレメント結合タンパク質2(IRP2)を同定し、COPDを有する個体の肺においてIRP2が増加することを確認しています。

また、IRP2は、ミトコンドリア鉄負荷とミトコンドリア機能障害、および実験的COPD発症を促すシトクロムcオキシダーゼ(COX)のレベルを増加させました。

COXが低下したシトクロムc酸化酵素の合成を欠損したマウスでは、タバコ煙(CS)から保護されたのに対し、ミトコンドリアの高鉄負荷を有するフラタキシン欠損マウスでは、気道粘液線毛様体 クリアランス(mucociliary clearance ; MCC)の減損とベースラインでの高い肺の炎症が示されました。

今回、IRP2を欠損したマウスでは、実験的なCOPDの誘発がタバコの煙(CS)から保護されることが示されました。

ミトコンドリア鉄キレート剤または低鉄食によって、CS誘発性COPDから保護されました。ミトコンドリア鉄キレート剤はCOPDを有するマウスにおける、CS誘発肺炎症とCS-関連肺損傷を軽減すると述べられています。

鉄キレート剤による治療は、 輸血に起因する鉄過剰症に対する唯一有効な薬物治療法です。体内や組織内の鉄と結合し、尿中や糞便中への鉄の排泄を促進させます。

COPDは、発症した場合には治す方法はありませんので、少しでも軽減できれば、患者さんにとって朗報となります。

因みに、タバコ煙とCOPDの関係性について、疫学的には証明されていますが、タバコ煙によってCOPDを発症できたとする病理学的実験は、私の記憶の範囲ではないと思われます。最近の報告は見ていませんが。

出典文献
Suzanne M Cloonan, Kimberly Glass, Maria E Laucho-Contreras, et al.,
Mitochondrial iron chelation ameliorates cigarette smoke?induced bronchitis and emphysema in mice.
Nature Medicine (2016) doi:10.1038/nm.4021

補足
IRP2はmRNA結合タンパク質であり、鉄の欠乏条件においてフェリチンやフェロポーチン、またはAlas2(aminolevulinic acid synthase 2)のmRNAの5’側非翻訳領域に結合して翻訳の開始を阻害し、トランスフェリン受容体1のmRNAの3’側非翻訳領域に結合してその分解を防ぎます。これらの作用によって、IRP2は鉄の欠乏条件においてフェリチン(鉄の貯蔵を行う)やフェロポーチン(鉄の排出を行う)、およびAlas2(鉄の利用を行う)の発現量を低下させ、トランスフェリン受容体1(鉄の取り込みを行う)の発現量を増加させることで細胞質の鉄プールのサイズを大きくします。

引用文献
The FBXL5-IRP2 axis is integral to control of iron metabolism in vivo.
Toshiro Moroishi, Masaaki Nishiyama, Yukiko Takeda, Kazuhiro Iwai, Keiichi I. Nakayama
Cell Metabolism, 14, 339-351 (2011)
諸石寿朗・中山敬一(九州大学生体防御医学研究所 分子医科学分野)
“FBXL5-IRP2系は生体における鉄代謝の制御に不可欠である2011. 9. 16.”
email:諸石寿朗
DOI: 10.7875/first.author.2011.144


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