早期アルツハイマー病治療薬レカネマブの迅速承認への疑問 [薬とサプリメントの問題]

米食品医薬品局(FDA)は6日、日本の製薬大手エーザイと米製薬企業バイオジェンが共同開発した,早期アルツハイマー病治療薬の「レカネマブ:Lecanemab」を迅速承認したと発表した。

Lecanemabは早期アルツハイマー病において、可溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体プロトフィブリルに選択的に結合するヒトIgG1モノクロナール抗体。投与後、18ヵ月時点でプラシーボよりも脳内のアミロイド蓄積量を減少させ、認知および機能低下をわずかに抑制した。

しかしLecanemabは、参加者の 26.4%に注入関連の反応を引き起こし、12.6%が浮腫または滲出液を伴うアミロイド関連の画像異常を引き起こした。

対象は、早期アルツハイマー病 (アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症) の 50 歳から 90 歳。研究は、18 か月間の多施設二重盲検第 3 相試験。陽電子放出断層撮影(PET)によるアミロイドの証拠、または脳脊髄液検査によって評価。参加者は、レカネマブの静脈内投与(10 mg/体重1kg)を2週間ごと)、またはプラシーボに、1:1 の比率で無作為に割り当てられた。

主要評価項目
臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes:CDR-SB、範囲:0~18、高スコアほど障害が大きいことを示す)の合計スコアのベースラインから18ヵ月時までの変化。

主要副次評価項目
・PETにより評価した脳内アミロイド蓄積量
・アルツハイマー病評価尺度(Alzheimer's Disease Assessment Scale:ADAS)の14項目認知サブスケール(ADAS-cog14、範囲:0~90、高スコアほど障害が大きいことを示す)。
・Alzheimer's Disease Composite Score(ADCOMS、範囲:0~1.97、高スコアほど障害が大きいことを示す)。
・Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL、範囲:0~53、低スコアほど障害が大きいことを示す)の変化。

被験者数は合計1,795例で、lecanemab群898例、プラシーボ群897例。
CDR-SBスコアは18ヵ月時点で、ベースラインからの補正後最小二乗平均変化値がlecanemab群1.21、プラシーボ群1.66(群間差:-0.45、95%信頼区間[CI]:-0.67~-0.23、p<0.001)。

698例を対象に行ったサブスタディでは、プラシーボ群に比べlecanemab群で脳内アミロイド蓄積量の減少が大きかった(群間差:-59.1センチロイド、95%CI:-62.6~-55.6)。

その他で、ベースラインから18ヵ月時点までの平均変化に群間差が認められたのは、ADAS-Cog14スコア(0-90)(群間差:-1.44、95%CI:-2.77~-0.61、p<0.001)、ADCOMSスコア(0-1.97)(-0.050、-0.074~-0.027、p<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコア(0-53低スコアで障害大)(2.0、1.2~2.8、p<0.001)。

前述したように、lecanemab群では、インフュージョンリアクションが26.4%、画像上の脳内アミロイド関連の浮腫・浸出が12.6%に認められた。

従来より、Aβ可溶性プロトフィブリルに高い親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体である、可溶性および不溶性の凝集アミロイドベータ(Aβ)の蓄積が、アルツハイマー病の病理学的プロセスを開始または増強すると考えられてきたが、その根拠となった論文が捏造であったことが判明し一大騒動となっている。

認知機能低下の抑制効果は微小であり、有害事象と関連していた。 初期のアルツハイマー病におけるlecanemabの有効性と安全性の判断は時期尚早と言える。FDAは国家の威信にかけてアルツハイマー病薬を一刻も速く世に出したい、そんな意図が透けて見える。

出典文献
Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease
List of authors.
Christopher H. van Dyck, Chad J. Swanson, Paul Aisen, Randall J. Bateman, et al.
N Engl J Med 2023; 388:9-21 DOI: 10.1056/NEJMoa2212948