心理的ストレスは海馬への骨髄由来単球浸潤を誘発して抑うつ様行動に寄与すると報告 [医学一般の話題]

心理的ストレスは、血液脳関門の破壊とは無関係に、海馬への骨髄由来単球浸潤に関連する抑うつ様行動を誘発すると報告されており、うつ病の新たな細胞機構を示している可能性がある。

心理的ストレスはうつ病や不安などの感情障害を引き起こす要因として重要であり、末梢免疫系と中枢神経系との双方向通信によって神経炎症を悪化させ、精神症状を促進することが示唆されている。

本研究では、慢性心理的ストレス(CPS)マウスモデルを作成し、抑うつ様行動の調節における役割を調査した。さらに、これらの末梢骨髄(BM)由来単球細胞の中央遊走が血液脳関門(BBB)の破壊に依存するかどうかも調査している。

その結果、CPSが末梢BM由来単球の海馬への遊走を誘導することを実証した。これらの単球は、脳に浸潤した後にミクログリア様細胞に分化する。一方、BM由来単球の海馬への浸潤を阻害すると抑うつ様行動変化が緩和された。さらに重要なことに、脳血管のタイトジャンクションタンパク質の発現およびその透過性がCPS下で変化しなかったことから、末梢BM由来細胞の中央遊走はBBB破壊と関連しないことが確認された。さらに、C-Cケモカイン受容体2(CCR2)アンタゴニスト(RS102895)による治療によって、BM由来単球の海馬への動員が抑制されて抑うつ様症状が緩和された。

実験は、合計136匹の雄C57BL/6Jマウスを4種類のコホートに分類し、CPSによって誘導されるBM由来細胞およびBBB破壊の中央遊走について、40匹のマウスを含む第1のコホート(コホート1)において調査した。BMTの4週間後、これらのマウスを2群に無作為に割り付けた。CPS群(n=20匹)を5日間連続して避けられない足ショックで処置した。一方、対照群(n=20匹)は足ショックを与えず同じ行動室に置いた2群のそれぞれにおいて、海馬にリクルートされたGFP細胞の定量に5匹、浸潤したミクログリア様細胞の鑑別特性の観察に3匹、濃縮された微細血管の遺伝子発現に4匹、単離された微細血管のオクルジンおよびZO-1免疫染色に5匹のマウスを用い、3匹のマウスをエバンスブルー色素によるBBB透過性の測定に使用した。

心理的ストレスとして、マウスは、マルチコンディショニングチャンバー内の帯電グリッド床上で、様々な強度および持続時間の避けられないフットショックストレスを受けた。5分間の適応段階の後、強度0.2mA、可変持続時間1~5秒、可変間隔1~15秒の断続的で避けられないフットショック360回をCPS群のマウスに5日間連続して60分間与えた。対照群のマウスを同じチャンバー内に65分間偽の暴露の後、元のケージに戻して放置した。

しかし、実験対象がマウスであることに根本的な問題があることや、物理的刺激である電気ショックを心理的ストレスと言うことには無理がある。また、慢性心理的ストレス(CPS)マウスモデルが、人における心理的ストレス状態と同様と言えるのか。さらに、測定用に分類して使用したマウスはそれぞれ数匹と少なく、これで正しい評価が得られるのかなど、疑問が残る。

大うつ病は多因子性の精神障害であり、抑うつ気分、無快感(興味と喜びの喪失)、認知機能障害、自殺傾向のエピソードを特徴とする。慢性的な身体的および心理的ストレスなどの刺激は、この精神疾患の発症に寄与する重要な要素と考えられている。うつ病患者の死後および神経画像研究では、前頭前野(PFC)、海馬、線条体、および扁桃体を含む様々な領域が関与していることが示されており、そのうち海馬は、宣言的記憶、空間学習、および神経栄養因子の産生などに関与している。

出典文献
Psychological stress induces depressive-like behavior associated with bone marrow-derived monocyte infiltration into the hippocampus independent of blood–brain barrier disruption
Huiling Hu, Xue Yang, Yuqing He,Chaohui Duan, Nannan Sun
Journal of Neuroinflammation volume 19, Article number: 208 (2022)