鍼治療は慢性萎縮性胃炎患者の血清差次的発現タンパク質を調節する [鍼灸関連研究報告から]

鍼治療は、慢性萎縮性胃炎(CAG)の発生と進行に相関する、アクチン結合タンパク質とNotchシグナル伝達経路関連タンパク質を調節して治療に寄与する可能性があると報告されている(2021.6.14.)。
*鍼刺激によるノッチシグナル(Notch signaling)への作用について、以前から文献を探しているが期待するような報告が見つからない。少し前の文献であることと、要約のみであるため、参考程度ではあるが紹介したい。

この報告は、CAG患者の血清中の差次的に発現するタンパク質(DEP)を特定し、CAGにおける鍼治療のメカニズムを調査している。

健康なボランティア(HC)8人、慢性非栄養性胃炎(NAG)患者8人、CAG患者8人、および鍼治療(CAG + ACU)を受けたCAG患者8人から末梢血清を収集した後、タンパク質の同定と定量のためにiTRAQ試薬で標識。二次元液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(2D-LC-MS / MS)。代表的なDEPはバイオインフォマティクスによって選択され、タンパク質は酵素免疫測定法(ELISA)によって検証。

816の非冗長タンパク質に対応する、合計4,448のユニークなペプチドが同定された。 HCグループと比較して、DEPがCAGおよびNAGグループからそれぞれ75および106識別された。CAGグループと比較して、NAGグループとCAG + ACUグループからそれぞれ110と66のDEPが特定された。

DEPは主にタンパク質結合とNotchシグナル伝達経路関連タンパク質に関与し、アップレギュレートされたタンパク質にはアクチン結合タンパク質(チモシンベータ-4、トロポミオシン-4、プロフィリン-1、トランスゲリン-2)が含まれ、一方、ダウンレギュレーションされたタンパク質にはNotch2とNotch3が含まれていた。鍼治療後、CAG患者におけるこれらのタンパク質の発現は健康な人々におけるそれと似通っていた。

前述した6つのタンパク質のレベルはELISAによって検証され、結果はiTRAQ分析の結果と同様であった。

出典文献
Acupuncture Regulates Serum Differentially Expressed Proteins in Patients with Chronic Atrophic Gastritis: A Quantitative iTRAQ Proteomics Study
Feng Li , Bai Yang , Yanan, et al.
Evidence-based Complementary and Alternative Medicine : eCAM
Publication date (Electronic): 14 June 2021
Publisher: Hindawi

Notchシグナルは、今から100年以上前(1913年)に、翅に切り込みが入った一匹の雌のショウジョウバエが発見された事が端緒となった。一見、非常にシンプルな隣接細胞間のコミュニケ-ション手段の1つであるNotchシグナル経路は、発生過程において様々な細胞種の分化を制御して、発生、再生などの生命現象や、先天疾患、代謝性疾患、癌などの疾患の発症や進行に関与することが示唆されている。鍼刺激によるNotchシグナルへの作用について、今後注目していきたい。